No.707408

「真・恋姫無双  君の隣に」 第30話

小次郎さん

一刀と相対し、紫苑は桔梗の言葉を思い出す。
力を得ようとする者には常に壁が立ちはだかる。

2014-08-09 21:27:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:16194   閲覧ユーザー数:10807

こうして相対しても、特に威厳も才気も感じられないわ。

「お初にお目にかかります。江陵を治めておりました黄漢升と申します。降伏をお認め頂き感謝いたします」

「北郷です。苦渋の決断を下され、民を慰撫して下さった事に感謝します」

腰の低いお方ね、それに優しい笑顔。

「いえ、派遣していただきました治安部隊は、民が安心して生活が出来ます環境を作って下さいました。私の力ではございません」

本当に素晴らしかったわ、力で抑えるのではなく民の意識を変えていくなんて。

一過性ではなくて継続していく、民が自ら行える治安の政。

「民に代わりお礼を申し上げます。そして私事ではございますが娘を救っていただけた事、返す事の出来ぬほどの御恩ですが、この身を持って力を尽くさせていただきます」

「貴女の事は耳にしております、大陸でも五指に入る弓の使い手とか」

「お耳汚しでございますが、必ずやお役に立ってみせますわ」

「・・・お力は是非お借りしたいと思っています。ですが、私は貴女を将として戦に出す気はありません」

どういう事?

「私の弓を信じていただけませんか?」

「違います、疑っている訳ではありません。ですが、私は幼き子を持つ母を戦に駆り出すことは絶対にやりません。力の有無など関係ないんです」

先程までとは違う。

強い、とても強い意志を感じるわ。

綺麗事と嘲る事は許されない、と私に思わせるほどに。

「真の王の器を持っている御仁じゃ」

益州に戻った桔梗の言葉。

多くの会話を交わした訳では無いでしょうに、桔梗、貴女が感じたことが私にも分かる。

そうなのね、この方は子供達の未来の為に戦ってらっしゃるのね。

私は臣下の礼と共に颶鵬を捧げる。

「御遣い様、私の真名、紫苑と共に私の分身であります愛弓颶鵬を捧げます。御身のお傍に仕える事をお許しください」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第30話

 

 

このところ領土内が落ち着かないわ。

理由は分かってる、袁紹が頻繁に小戦を仕掛けてくるからよ。

忌々しいけど有効な手よ、対応に追われて統治が滞うるし思い切った軍事行動にも出られない。

そして今朝届いた情報よ、先を越されたわ。

「華琳様、北海の孔融が袁紹に降りました。申し訳ありません、私の力が及ばないばかりに」

華琳様の軍師として情けない、何が王佐の才よ。

稟も同じね、苦虫を噛み潰すような表情で現状を整理してる。

「兵が多いので多方面の攻略が出来る強みですね。これで青州は完全に袁紹の支配下です」

更に秋蘭からも、

「先程、詠から報告が来た。陶謙も袁紹に降るつもりらしい」

くっ、もう少しで陥ちるのに。

どうして華琳様ではなく袁紹なのよ、比べ物にならないのに。

「私より麗羽の方が取り入りやすいと思ってるからね。その通りよ、無能な者はいらないわ」

これだから己の保身しか考えない男は、少しはあいつを見習ったらどうなのよ。

って何を考えてるのよ、一刀も男よ、同類よ。

「秋蘭、稟、貴女達は春蘭と共に霞達に合流して徐州を陥としてきなさい。麗羽の軍が来る前にね」

「お待ち下さい、それでは華琳様をお護りする者がいません。せめて私か姉者をお残し下さい」

「秋蘭の言うとおりです。他の将は袁紹への応戦で、華琳様のお傍には親衛隊と季衣しかいません。桂花も統治の為に一箇所に居るわけにはいきません」

その通りよ、何より優先するのは華琳様の安全。

華琳様は今は動けない、動けば袁紹が大軍で攻めてくる。

「華琳様、お願いでございます。何卒秋蘭の言をお聞きください。私がお傍にいられるなら必ずお護り致しますが、そのような訳にはいかないのです」

華琳様の覇道の為にしなければならない事が山程ある。

地盤の兗州をしっかり固めないと。

何卒、華琳様。

「貴女達の気持ちは有り難く貰うわ。だが変更はない、早急に出陣し徐州を私に献上しなさい」

華琳様!

「「「御意」」」

 

「何だと、それで黙って引き下がったのか!華琳様の身に何かあったらどうするっ!私からお願いしてくる」

「駄目だ、姉者。あの目をした華琳様にはどんな言葉も届かない。姉者なら分かっているだろう」

そう、あの目。

華琳様の意思と王の冷徹さが融合した目。

誰にも心を許さない覇王の目。

「・・あの目をされているのか」

力の無い声で姉者が俯く、姉者が唯一、華琳様の事で元気が無くなる時。

「姉者、一刻も早く徐州を陥とそう。私達に出来る事はそれだけだ」

「・・分かった」

普段の生気溢れる姿は無い。

この様な姉者を兵に見せるわけにはいかない、元気を取り戻して貰うか。

「姉者、知っているか。北郷が劉表を倒したそうだ」

「い、いきなり、どうして北郷の事を話すんだ、秋蘭。関係ないだろう」

真っ赤になった姉者、もう何度も繰り返したのにこの反応。

ああ、姉者はかわいいなあ。

自分の身が傷つくのも厭わずに、命を救ってくれた北郷に姉者は恋心を持った。

北郷の名を出すと非常に分かりやすい反応をする。

「北郷は華琳様の敵だ。次に出会ったら必ず斬ってやる」

「そうだな、姉者」

「何故笑ってるんだ。往くぞ、秋蘭、全速で徐州に向かうぞ!」

 

 

お姉ちゃんが以前とは違う気がするのだ。

愛紗と雛里が殆んどの兵士を連れて并州に向かったから、平原の人達は凄く怖がってたのだ。

お姉ちゃんが繰り返し、絶対に戦にならないようにするから私に協力して欲しいと、平原の人達にお願いして頭を下げ続けたのだ。

ただお願いするだけじゃなくて、ちゃんと理由を話して民の不安を一つ一つ取り除いて。

最初は石を投げられたりしたけど、今ではたくさん協力してもらえてるのだ。

はじめに城や街中を凄く掃除して、鈴々達が平原に来てから一番綺麗になったのだ。

どうして掃除するのか聞いたら、袁紹を誤魔化す為でもあるけど、気持ちが落ち着く効果があるとの事なのだ。

鈴々も最初は面倒だったけど、綺麗になったのを見たら凄く嬉しくなったのだ。

「お姉ちゃん、いつまで粘るのだ?」

「朱里ちゃんと雛里ちゃんの計算だと、三ヶ月と言ってたから後二ヶ月だね」

袁紹はお姉ちゃんの誘導で他に攻め込んでるから、暫くは大丈夫と聞いてるのだ。

お姉ちゃんは何度も袁紹の所に行って御機嫌を取ってるのだ。

面白くないけど、勝てない戦をするのは嫌なので我慢するのだ。

「ここが空っぽなのがばれたら袁紹が攻め込んでくるのだ」

「袁紹さんには賊退治とか反抗している人達を討伐してるって、兵がいないのは言ってあるの。その方が袁紹さん以外の人が安心するし、本当の事も混じえた方が嘘もばれにくいから」

「でも、そのうち并州を攻めているのがばれるのだ」

「うん。情報操作もしてるけど、二ヶ月が限界って朱里ちゃんも言ってた」

「袁紹の性格だと、騙されたと分かったら一目散に攻めてくるのだ」

「平原は戦場にしないから、最初の予定通り開城するよ。後は街の人達にお願いしてる事を実行してもらえば幾許かの時間が稼げるよ。并州攻略中に袁紹さんに後ろから攻められるのだけは絶対駄目だから」

とても真面目な顔をしているのだ。

難しい事は鈴々には分からないけど、

「お姉ちゃん、変わったのだ」

「そうかな?」

「以前は何とかなるよってお気楽だったのだ。そんなに一杯考えてなかったのだ」

「はい、その通りです。ごめんなさい」

「ニャハハ、鈴々も頑張るのだ。お姉ちゃん、一緒に頑張ろうなのだー」

「うん、頑張ろー」

 

「雛里、まだか?」

「も、もうそろそろです。糜竺さんと糜芳さんが朱里ちゃんの指示で敵を分散してる頃合いです」

此処で敵将を討ち取れれば、并州の中心である晋陽を陥とせます。

逆に逃せば非常に苦しい状況になってしまいます。 

「そうか。すまぬ、雛里。気が逸っているようだ」

肩の力を抜いてられる愛紗さんを見て、変わられたのを感じます。

桃香様が平原で時間を稼がれている状況で、何よりも急いで并州を攻略したいのは愛紗さんですのに。

桃香様と愛紗さんが仲直りされて、今度こそ私達は確かな絆を持てた気がします。

本当の意味で苦楽を共に出来るようになりました。

いえ、苦はないですね。

苦も皆で分かち合えば、きっと楽です。

桃香様を、そして間接的に愛紗さんを変えた御遣い様。

桃香様や朱里ちゃんから色々聞かせて貰ってるけど、私も会って沢山話してみたいな。

素敵な方なのは朱里ちゃんの話す様子を見れば分かるし。

虎牢関で御遣い様をお手伝いした理由は聞いたけど、御遣い様にいいところを見せたかったのもあったと思う。

でも、仕方ないよね。

御遣い様を差し引いても、目の前で歴史に残る大戦があって、何もしないで見ているだけなんて私だって耐えられない。

私も朱里ちゃんのような稀代の軍師と戦う事に、血が騒がなかったと言ったら嘘だし。

「雛里、来たぞっ!」

「あわわ、もう少しです。もう少し引きつけて・・・、今です、愛紗さんっ!」

「全軍、突撃っ!!」

 

 

な~んか雰囲気悪いよね~。

お姉ちゃん達、最近言い争いばっかりしてる。

その癖、シャオには勉強しろの一点張りなんだから、面白くな~い。

あれ?あそこにいるの明命じゃない、何してるのかしら。

「ねえ、明命、何してるの?」

「これは小蓮様。たいした事ではありませんよ、一刀様を日干ししてるだけなのです」

「一刀様って、その猫の形をした抱き枕とかいうのの事?」

「はい、そうなのです。こうやってお日様に当てておけば、フカフカして本物のお猫様をお抱きしているのと同じ幸せが得られるのです」

「一刀って、確か御遣いの真名じゃなかったかしら?」

「いけません、小蓮様。一刀様の真名を勝手にお呼びしては」

「シャオは枕の事を言ってるのよ、大体どうして御遣いと同じ名前を付けてるのよっ!」

紛らわしいのよ、シャオは悪くないわ。

「そ、それはその、一刀様から頂けた物ですので、感謝の心を忘れないようにと深い意味は無いのです。決してお優しい御心に惹かれたとか、虎牢関での御勇姿に見蕩れたとか、そのような事は無いのです」

完全に惚れてるじゃない。

お姉ちゃん達もそうだけど、御遣いに会った事のある皆が女らしくなってるのよ。

自覚は薄そうだけどシャオの目は誤魔化せないんだから。

「そ、それより、小蓮様、何か私に御用でしょうか?」

「別に~、お姉ちゃん達が言い争いばっかりしてるから居心地が悪いのよ、明命はどう思ってるの?」

「国にとって大事な事ですから、私が口を挟めることではありません。ですが既に周知の事になっていますので、喜ばしい事とは」

「だよね~」

シャオから見ると、お姉ちゃん達の態度というか、心の持ちようが入れ替わってるんだよね。

以前に比べて雪蓮お姉ちゃんの方が余裕が無いように見える。

「明命ちゃん、どこですか~?」

穏?

「はい、穏様。私は此処です」

「ここでしたか~。あら、小蓮様もいらっしゃったんですね。お勉強のお時間の筈ですが~」

「もう、今日は終わり、用があるのは明命でしょ」

「そうですね~。明命ちゃん、揚州の偵察に行って貰いたいんです~」

「分かりました。対象は何でしょうか?」

「同盟と政略結婚を申し込んできた、劉繇と厳白虎と王朗です~」

 

 

「美羽様、やっと一刀さんが戻ってきますよ」

「ホントか、七乃!もう三ヶ月も会ってないのじゃぞ。早く会いたいのじゃ」

「放ったらかしにされた分、一杯埋め合わせして貰うの」

「沙和、抜け駆けするんじゃないぞ」

凪ちゃんも言うようになったの。

報告書からは黄蓋さんと黄忠さんて新しい人もいるの。

「七乃ちゃん、黄蓋さんの事はどうするの?」

黄忠って人はともかく、黄蓋さんは孫家の宿将だった人、正直信用出来ないの。

「そうですね、監視は意味が無いでしょうね」

「黄蓋殿は達人だ、監視など一発で分かるだろう」

「でも目の届かない所に配置するのも危険なの」

三人で頭を抱えていたら、

「気持ちは分からんでもないが、一刀が心配なら護衛をつけたらどうじゃ?」

「普通ならそれで充分なんですが」

「並みの者では瞬殺されます」

「一番強い凪ちゃんでも敵わないの」

全くもう、どうして宰相はそんな厄介な人を受け入れるの。

真桜ちゃんは「大将に任せといたらええんとちゃう」って言ってたけど、心配なの。

「先ずは会ってみるのが大事じゃと思うぞ。思い込みは良くないのじゃ」

美羽ちゃんの意見が尤もなの~。


 
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