No.704726

【恋姫二次創作】死神の毒 左腕

『なるたる』を見てから書きました。
人間とは不思議っすねー
まだ見たことない人はなるたる見てみよう!!
ほのぼの系ギャグアニメだよ!!(大嘘)

2014-07-29 13:07:14 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1407   閲覧ユーザー数:1371

 世界など単純。

 たった水と土と生物と宇宙と。そんな足し算のように単純な世界では何度も何度も物語が生まれる。長編巨作から悲劇のミュージカル、あの子に苛められたとかあの子を好きになったとか。良くもまぁ、そんなちっぽけな頭で考え付く物だ。結局は考え方なのだ。考え方さえあればどんな者でもどんな物を如何様にでも変えることが出来る。

 

装「敵に最強の武将が居ても、それも考え方次第なのですよ」

 

 クスクス気味悪く笑う痩せこける男は、何時もと変わりなく陰湿そうだ。そんな男に教鞭を振るわれた少女はポケッと装を見る。指をピンと戦場へ向けると、目は薄く明いた。

 

装「もうまもなく、動くでしょうねぇ。ですが、それも考え次第で幾らでも変わるのです」

朱里「考え方ですか?」

装「えぇ、最強がやる気を出して武器を振るっても考え方次第で、良い方向に幾らでも動かせるのですよ」

 

 朱里は信じられるはずもない。最強と名高い呂布が戦場を跋扈すればその道筋には死体が転がるのみ。死という物をどう捉えたとしてもそれは結局死。良い方向などないだろう。

 

装「死を変えるのではなく、あの最強という大きすぎる看板に目を向けるのです」

 

 大げさに両手を広げ、戦場全体を包むように見据える。

 

装「あの看板、大きすぎるのですよ」

朱里「……」

装「分かりませんか?」

 

 朱里は帽子を押さえ、俯くようにコクンと首を縦に振る。天才諸葛亮、その智才は確かに歴史に名を残すのに十分すぎるほどの才。だが、装の陰湿な心理学には精通しておらず、当然この時代には心理学の書などない。心理はただただ経験でしか得られぬ物であり、本を読んで学んだ気なのならば、それはただの偽者であろう。文字などというちっぽけな物で感情を表すなど不可能だからだ。

 

装「最強呂布には一人の軍師が付いているとの事。……傍に最強が居れば僕でも慢心してしまうかもしれませんねぇ」

朱里「つまり、そこを叩くと」

装「白蓮殿と反正に任せたのは、その為ですよ」

 

 装は自分の馬に颯爽と跨ると、馬上より小さな朱里を見下ろす。

 

装「全体の指揮、任せましたよ」

朱里「せ、先生!!」

 

 朱里は呼び戻そうとするも、走っていく馬の背に乗る装の後姿が段々と小さくなっていくのを見ていた。当然戦場全体の把握はしており、いつでも将一人一人へと伝令を走らせられる。そんなことよりも、朱里は不思議がっていた。常に自分の前を歩く装が何故こんなことをするのか。

 呂布の軍師ともなれば敏腕であっても、能力の低下や慢心、呂布の神格化や自分の優越化のどれかは免れない。だが、そこを襲うと言うのはどうなのであろうか。軍師としては褒められるべき策だろう。しかし、朱里は少しずつ分かっていた。愛紗や鈴々、星は武に誇りを持っている。この戦、ただ単純に呂布と再戦したいという考えがあるだろう。明らかに彼女らの誇りを傷つけ波紋を呼ぶであろう行動。朱里はこの行動が怪しいとは思うものの、分かり安すぎるとも思った。まるで釣堀のように釣れるのが当たり前、引っかかるのが当たり前、わかるのが当たり前のように餌が大きい。警戒心を何処に向けて良いか分からない朱里はただただ立ち尽くすのみだった。

 

一刀「あれ、ソウは?」

桃香「ほらー!!ご主人様が私をからかうせいで気付かなかった!!」

一刀「いやいや、あれは桃香が」

桃香「また言う!!」

 

 後ろから聞こえてくる何時もの空気にとりあえず胸がヤキモキした。

 

朱里「お二人とももっとしっかりしてくだしゃい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反正「あら」

 

 味方軍中央を走る一人の男。私達を纏める装だった。とてもではないが白馬の王子様と言えるほどに華やかでない彼が通る道を開けるために通達をする。

 

反正「あの人の通る道を開ける様に伝えなさい。敵から見られないように、少し曲線を描いて直通で最前線まで繋げてやりなさい」

 

 人ごみを掻き分けて走る馬の方向を指差して言う。事前に知らされた呂布の軍師とやらを攻撃するのだろう。

 

伝令「わ、分かりましたっ!!」

 

 話しかけられたことで頬を染めた男の伝令は、走って伝えに行く。そんな背中を見て思わず溜息が出る。もう何度も女として生きた。それでもなお、男は抜けきらず、夜を共にするならば男よりも女の方が良い。

 そんなどうでもいい事を考えながら、今ぶつかっている統率のなっていない袁術軍を見据える。

 

反正「全軍、あまり進み過ぎないように。前線を荒らすように袁術軍を蹴散らしなさい」

 

 もうまもなく呂布が出てくるだろう。噂どおりの袁術ならば自軍の指揮など任せるとは思えない、そして自軍で手一杯であろう陳宮を引っ張り出す為に前線を攻撃する。攻撃されている以上放って置く訳にもいかない。

 

反正「あとは……如何にして呂布を出し抜いて陳宮を捕縛するか殺すか、ね。いや、殺したら呂布に殺されるかしら」

 

 反正はゆっくりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呂布の軍師、陳宮は焦っていた。自軍の味方である筈の袁術軍があまりにも馬鹿だったからだ。袁術軍が行った策は全て看破され、逆に利用されて混乱させられていた。いきなり現れた敵に何の準備もなく攻撃された袁術軍。呂布の隊を盾として使う考えだったのだろうが、その計画は水の泡となった。とはいえ、流石に袁術軍がやられてしまえば呂布軍も危うい。事実はそうであった。が、陳宮は呂布に対する絶対的な信頼と絶対的な安心により、敗北などと言う物は頭の何処にもなかった。故に前線しか攻撃をしない劉備軍に何も不審には思っていなかった。

 

陳宮「恋殿、準備できましたです」

呂布「ん。じゃあ、出る」

陳宮「はいです!!」

呂布「……ねね、待って」

 

 意気揚々と劉備軍とぶつかろうとした時、暗い顔の男が馬に乗ったまま前に立ちふさがった。此処は幾ら前線に近いとはいえ、ここは敵陣。装のマントは返り血に濡れていた。

 

装「ちょおっと待って頂いて宜しいですかねぇ?」

陳宮「何者なのです!!呂布殿の前で頭か高い!!」

 

 馬上の装を指差して怒鳴る陳宮。呂布は何も言わずに佇んでいた。装とこの二人は面識がないこともない。装は皇帝に教育を施し、董卓は皇帝に信頼されていた。廊下でほんの少しすれ違ったくらい。だが、呂布は感じていた。目の前の男が兵を殺して、返り血がそこまで付くほどに、殺せるような力があるようには見えないと。体つきは筋肉隆々などとは到底言えず、むしろ不健康なくらいだ。気も使っているようには見えない。

 

装「いやぁ、ちょっと御用がありましてねぇ」

陳宮「良いからさっさと馬上から降りるのです!!」

装「それは、できませんねぇっ」

 

 装はそういって微笑むと、手綱を握る左手とは逆の右手を下から振り上げる。シャッという不思議な音が響いた。兵たちはその光景を見るとざわめき、目を丸くする。

 

陳宮「恋殿!!」

呂布「下がって」

 

 陳宮の前にたった呂布。その手にもつ方天画戟の刃は線のように細い切り口が付けられていた。

 

装「一撃必殺をモットーに編み出したのですが、やはり随分と御強いようで」

 

 高速で太陽の光を一瞬反射し飛ぶ謎の物は装が手を引くとマントの中へと戻っていく。顔は全然涼しそうで一向に疲労が見えない。

 マントの中に謎の物が入ったのを好機と見た呂布は馬上目掛けて方天画戟を振るった。最強と呼ばれる呂布の攻撃は見るだけでも威力があることが分かる。

 

装「しかし、直線的な力は横からに弱いんですねぇ」

 

 今度は両手を振るう装。そこからは先ほどの物が一つずつ、計二つが方天画戟の左右から迫った。左側が柄を、右側が刃を、下から上へと回転し刃を呂布から見て右上へと押し上げる。

 あの呂布の攻撃を弾いたと、兵たちはその戦いに参加できずにいる。普通ならば押さえなければいけないが、あの優男から放たれる物が怖く、恐ろしい。人は知らない物が目前にあれば大抵恐れる。幽霊しかり宇宙人しかり、見てみれば恐れおののく。

 

呂布「でも、甘い」

装「えぁ?」

 

 天に向かった方天画戟の刃先は急に勢いを反対に変え、装の左肩へと刃を進めた。グシャッと潰れる様な音と共に馬上から赤黒い血が零れ落ちる。装の不健康な顔は歪み、目は激痛から必死に逃げるように周囲を震えながら見回す。もう少し、下に動かせば装の左腕は体から離れる。ボチャボチャと零れ落ちる血は大地を濡らしていく。

 しかし、装の口元は孤を描き、笑っていた。

 

装「甘いのは貴方でしょう。人とは思い込みが激しい生物でしてねぇ」

呂布「……?」

 

 何故笑うのか。この男は何故笑っているのか。此方を見て。此方を……見て……?

 呂布はハッとして後ろを振り向いた。

 そこには首元にかかる細い糸のような物を必死に取ろうとする陳宮がいた。

 

装「だぁれも、全ての物の先に何かが付いているだなんて言ってないでしょう?」

 

 呂布はそんな言葉既に聞こえていなかった。既に仕舞われた謎の飛行物体はマントの中に納まり、右手は陳宮の首に繋がる糸のような物を掴んでいた。

 

装「経験がちげぇんだよ。潜って来た修羅場の数がなぁ?」

 

 装はそういって笑うも、後悔をしていた。

 

『あぁ、多分、左腕治らねぇなぁ。もっと楽な方法もあったのかもしれねぇなぁ。いってぇ』

 

 波紋は広がる。ここを基準として、全土を巻き込む波紋が。いや、もっと昔、装という存在が誕生した瞬間から波紋は力を付け広がり続けていた。

 

 


 
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