No.703534

真・恋姫†夢想~世界樹の史~第三章・枯れ木崩し編

alcaponさん

お久しぶりです。
仕事の都合上なかなか時間が割けないこともあり、こんなにもお待たせしてしまい大変申し訳ございません。
ようやく完成しましたので、何卒よろしくお願いします。

尚、紀霊の真名を募集したいと思います。

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2014-07-25 01:57:52 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:4040   閲覧ユーザー数:2877

第Ⅲ話『兄』

 

もはや戦とも呼べぬほど、圧倒的な追撃戦があった。

 

大の者は小の者を追い詰め、今まさに決着がつこうとしていた。

 

…はずだった。

 

 

雪蓮「ちょっと!いつまでくっついてるのよ!」

 

七乃「あらあら?まだ居たんですか~?」

 

雪蓮「居るに決まってるでしょ!

   ていうか本当に離れなさいってば!」

 

七乃「ん~、もうくっついちゃったから離れられないんですよね~。」

 

雪蓮「意味分かんないわよっ!

   一刀は私のなんだから…は・な・れ・な・さ・い!!」

 

七乃「い・や・で・す!!」

 

一刀を引っ張り合う二人を呆然と見つめる袁術軍の兵たち。

兵「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ。

『俺たちは敵将を捕らえたと思ったら、こっちの将が(2つの意味で)捕らわれていた』

な…何を言っているのかわからねぇと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…

頭がどうにかなりそうだった…空城の計だとか連環の計だとか、

そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」

 

砦の外を包囲する陣の中で、老臣の雷薄だけは戦況(?)を歯噛みするように睨みつけていた。

 

雷薄「(くっ…!ホンゴウなどという輩は放っておいて孫呉を攻め滅ぼすべきじゃというのに!!)」

 

兵「伝令です!」

 

雷薄「どうかしたか?」

 

兵「はっ!

  敵将を捕らえたとの知らせです!」

 

雷薄「そうか。

   将軍はもうお戻りか?」

 

兵「もう間もなく到着いたします!」

 

雷薄「うむ。下がってよいぞ。」

 

七乃「ただいま戻りました~。」

 

雷薄「将軍!では早速南陽を…。」

 

言いかけた雷薄の目の前には、右腕を張勲に左腕を孫策に抱かれた男が立っていた。

 

一刀「…。」

 

雷薄「…。」

 

一刀「…ども。」

 

雷薄「兄君様?!?!

   あああああああ貴方は死んだはずでは?!」

 

一刀「あれ、俺のこと知ってる人?」

 

七乃「え~とですね、こちらの雷薄様は、一刀様が当主代理をしていた時は地方で文官をなさっておりましたから、

   一刀様はちゃんとお会いしたことはないかと。」

 

雷薄「て、敵はホンゴウとういう者では?!」

 

一刀「あ~、そっか。

   あの時は体裁考えて袁一刀って名乗ってたね。」

 

雷薄「な、なんと…!」

 

一刀「そういうことだから。

   これからまた宜しくね、雷薄さん。」

 

雷薄「は、ははっ!勿体なきお言葉にございます!

   (ま、マズイぞ…!まさか死んだと思っていた兄君様が生きていたとは…!

    これでは我らの計画が…!)」

 

一刀「ところで…俺達はこれからどうすれば?」

 

七乃「一刀様は寿春に戻り、

   美羽様にもお顔をみせてあげてください。きっと喜びますから!」

 

雪蓮「ちょっと、私は?」

 

七乃「あらあら~?死んでなかったんですか~?」

 

雪蓮「生きてるわよ!!」

 

一刀「雪蓮もひとまずおいでよ。

   南陽には早馬をとばして無事とだけ伝えてさ。」

 

雪蓮「そうするわ。

   …じゃないとこの馬鹿女が何するかわからないもの。」

 

七乃「ちっ。」

 

一行は、寿春へ向かうことになった。

 

その時、南陽では…。

 

 

 

---南陽---

 

雪蓮が一刀を追い、兵達だけ戻ってきたことに大騒ぎとなっていた。

その兵を率いていた隊長代理の男。

 

齢は一刀と同じくらいの男性で、ひょろっとした外見にくせ毛の頭。

目元には深いクマが目立つ。

姓は魯、名は粛、字名を子敬。

 

彼は、玉座にて尋問を受けていた。

 

冥琳「…ではもう一度聞こう魯粛よ。

   なぜ貴様は北郷一刀と孫策を見捨て、兵どもを引き連れて戻ってきた。」

 

冥琳の額には、くっきりと青筋が浮かぶ。

幾多の人を恐れさせるソレも、この男は全く意に介さずに飄々と続ける。

 

魯粛「いや、ですからね…先程から何度も申しますように、

孫策様のご命令により戻って参った次第でございます。」

 

冥琳「ではどういった命令が下ったのだ?具体的に申せ。」

 

魯粛「『あんた暇そうだから兵まとめて帰っておいて!それじゃ!』と仰っておりました。」

 

祭「貴様はそれを受けたというか!主の為を思えば突っぱねるのが貴様の役目であろう!!」

 

冥琳「それに貴様は一介の文官のはずだが…なぜあの隊に同行している。」

 

魯粛「いや~、はははっ…無謀な突撃に思えたので…今度こそ死ねるかな~と思いまして。」

 

蓮華「…は?」

 

冥琳「巫山戯たことを。

   まじめに答えぬと首をはねるぞ!」

 

魯粛「あ、助かります~!」

 

男は爽やかにかつ待ってましたと言わんばかりに、着物をはだけ首を差し出す。

それを唖然と見つめる一同。

 

魯粛「ささっ!!なにをしておりますか!!

   もうひと思いに!ざっくりと!景気良くお願いしますよ皆様!!」

 

一同「「「(や、やりづらい・・・)」」」

 

 

 

 

 

 

Anotherview ~美羽~

 

 

中庭にある、池のそばの吹き抜けの小屋。

 

そこが妾のお気に入り。

 

昔はここで兄様の膝にのり、はちみつ水を飲むのが大好きだった。

 

まだ一人で座るには少しだけ大きい椅子。

 

少し脚が遊ぶけど、妾は気にせずそこへ座る。

 

手には水とはちみつ。

 

これまで何度作ってみても、兄様の味になってくれない。

 

今日こそはと妾は一口。

 

やっぱり違う。

 

庭を見渡せば、数人の侍女たちが行交います。

 

…いつも一緒にいてくれた七乃は今はいません。

 

美羽「…七乃のバーカ、なのじゃ。」

 

その時、後ろの藪がガサリとなりました---

 

 

Anotherview end

 

 

 

 

 

 

---汝南から東、

 

 

 

汝南近郊。

 

もうじき城に着くといった時に、火急の知らせが飛び込んできた。

 

留守を任された紀霊からである。

 

---汝南にて謀反あり。お嬢は隠したが長くは保たない。---

 

その知らせを聞いた時、七乃はへたり込み、顔からは既に血の気が引いていた。

 

呼吸の乱れた彼女を落ち着かせるように一刀が肩を抱く。

 

一刀「敵の数は?」

 

伝令「詳しくは不明ですが、二百人ほどかと思われます!」

 

一刀「率いているものは?」

 

伝令「家老の陳蘭様です!」

 

雷薄「っ?!

   (ば、バカな!まだ早すぎる!)」

 

一刀「(ん?雷薄さんどうしたんだろ?)

   ふむ…ならこっちの軍は城を迂回し、汝南北側に陣を構築。

   別働隊の極少数で今晩のうちに侵入…これでどう?」

 

雪蓮「私達は南にいるのに、わざわざ北側に陣を?」

 

一刀「うん。

   汝南の北には誰が居る?」

 

雪蓮「…あっ、なるほど。

   劉表に陶謙、劉岱…きな臭いのがいるわね。」

 

一刀「単独で二百の勢力…これじゃ袁家は落とせないさ。

   それに、きっと門はバッチリ閉まってるんじゃない?」

 

兵「そ、その通りです!

  現在城は抑えられ、城下の兵は一万ほどはおりますが袁術様の身を考え手が出せず…。」

 

一刀「と言う事は、援軍のアテがあるってことだ。」

 

雪蓮「それで北側に布陣するわけね。」

 

一刀「どうせ汝南からは出てこないから、初めから北向きに布陣。

   援軍や輜重隊が見えたら包囲殲滅。追撃は無し。」

 

雷薄「そ、そのように上手くいきますかな?」

 

一刀「大丈夫でしょ。

   こっちに裏切り者が居なければ、ね。」

 

雷薄「ビクッ?!

   (え、気付いてる?これ気付いてる?ホントに?いやでもまだ儂なにもしとらんぞ?

    ここは動くべき…いや駄目だ駄目だ!それこそ絶対気づかれる!すまぬ陳蘭よ…わ、儂は動けぬ!)」

 

一刀「さて…。」

 

そう言うと、一刀は雰囲気をガラリと変え、兵達の前に立った。

あまりにも極端な変化に雪蓮と雷薄は驚き、七乃は何故か誇らしげにそれを見ていた。

 

荷台に登り、兵を見渡す一刀。

 

一刀「みんな、聞いてくれ!」

 

場がざわめく。

 

一刀「俺は遠い昔、城に大事な人を置いてきた。」

 

七乃「・・・。」

 

一刀「だからその人を迎えに行かなければならない!

   そしてきっとそれは君たちも同じかと思う!」

 

深く頷く兵たち。

 

一刀「俺は必ずその人を救い出す!君らの家も、大切な人も、全て取り戻す!

   だから…剛健なる袁家の兵たちよ!今だけで構わない!また昔のように力を貸してくれ!」

 

いきなり頭を下げる一刀。

その懸命な姿に、誰もが目を奪われていた。

 

雪蓮「…(形としてはただの捕虜なのに、これだけの人間が完全に飲まれてる。

    これが王の器、か…自信なくすな~。)」

 

そして彼は顔を上げると、一転自身に満ち溢れた表情をしていた。

 

一刀「んでもって、勝ち馬に乗ろうぜ!

   精一杯欲張って、袁家の戦ってもんを見せてやろう!」

 

兵「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっっっ!!!」」」

 

七乃「(変わってないですね~…)」

 

雷薄「(勝てぬ…これは勝てぬよ…。)」

 

一刀「よし、じゃあさっき言った通り各隊は行動開始!

   雪蓮と七乃はこっちに付いて来て。雷薄さんは大軍の指揮をお願い。」

 

雪蓮「了解~♪」

七乃「はっ!」

雷薄「ぎ、御意に!

   (勝てぬと思ったら千載一遇の好機キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!待っておれ陳蘭すぐに…)」

 

一刀「あ~、雷薄さん。」

 

雷薄「はい?」

 

一刀「くれぐれも(無理しないように)宜しくね?」

 

雷薄「…は、ははっ!

   (いやこれバレてんじゃね?これバレてるよね?全然好機じゃないじゃん儂!めっちゃ試されてるじゃん儂!)」

 

一刀「(さっきから様子がおかしいから体調でも悪いのかと思ったけど…大丈夫かな?)」

 

 

 

 

 

---汝南---

 

城の中では、侍女など城で働く者たちまでも捕らえられ、一室に監禁されていた。

陳蘭に従わなかった兵もまた同様であった。

そんな中、優位に事を運んでいるはずの陳蘭は焦っていた。

 

標的の袁術が何処を探しても見つからないのである。

 

陳蘭「えぇい!何をぐずぐずしておるか!

   あのような小娘一人捕まえられんとは!」

 

紀霊「…。」

 

陳蘭「貴様…よもや奴をどこかに隠したか?」

 

紀霊「知らねぇよ。俺ぁあんたの味方だぜ?」

 

陳蘭「ふん、ならば早く見つけ出すのだ。

   金が欲しくば、の。」

 

薄暗い部屋の隅、寝台で隠された隠れ穴に少女は居た。

 

美羽「…うぅ…兄様…兄様っ…!」

 

そこで自らの体を抱きしめ、恐怖や寒さを懸命に押さえつけていた。

 

そんな中、闇に紛れて侵入した者達が居ることを、彼らは知らない。

 

 

 

 

---南陽---

 

雪蓮、そして一刀の無事を告げる早馬が届き、

一同は安堵すると同時に、精鋭を集め城には黄蓋と陸遜を残し寿春へと向かっていた。

 

魯粛もまた牢を出され、孫堅・孫権・孫尚香・周瑜たちに事情聴取のため同行する。

 

魯粛「あの~…。」

 

周瑜「どうかしたか?」

 

魯粛「処刑はどうなります?」

 

周瑜「ん?そんな予定はないが。」

 

魯粛「そ、そんな…!

   せっかく一張羅の白無垢を着てきたのに!!」

 

孫堅「いやあんたなんてもんを一張羅にしてんのよ…。」

 

 

 

 

 

---汝南、北側の陣---

 

六万強の大軍は、整然と北に睨みをきかせていた。

その姿は、長年の間、迷家の愚兵と揶揄されていた姿とはまるで違っていた。

少数の斥候すらも容易に接近できず、

そのあまりの姿に「汝南、北に壁あり」と報告し引き返すのが精一杯だった。

 

???「待ち伏せ?」

 

斥候兵「はっ!かなりの大軍がこちらを向き隊列を整えております。」

 

???「私達は1万弱…無理ね。引き返しましょう。」

 

斥候兵「よろしいのですか?」

 

???「私が罰せられるだけであなた達が助かるならその方がいいわ。

    さあ、全軍退くわよ!」

 

一方その頃、城内では。

 

 

 

---汝南城内---

 

陳蘭は玉座にとっかりと腰を下ろし、

苛立ちを隠せずに片足を揺すっていた。

 

陳蘭「(使えぬ者どもめ…愚物にもほどがあるわい。

   袁術めの身柄を陶謙様に引き渡さねばならぬというのに!)」

 

紀霊「そんなにイライラしなさんなって。

   見つからねぇもんは仕方ねぇだろうがよ。」

 

陳蘭「貴様も真面目に探さぬか!」

 

紀霊「いや~、全くどこに居るのか検討もつかねぇわ。」

 

陳蘭「この愚物めが…!!」

 

たまらず拳を振り上げた時、一人の太った兵士が駆け込んできた。

 

兵「陳蘭の旦那ァ!」

 

陳蘭「なんじゃ!」

 

兵「袁術の部屋に隠れ穴を見つけだでさぁ!」

 

紀霊「っ…。」

 

陳蘭「なんじゃと?!

   …くっ…くっはっはっはっ…!ようやった!奴はその中に違いない!早う引き釣り出せい!」

 

兵「へ、へい!既に別の奴が探してますんで、すぐ見つかるかと!」

 

陳蘭「そうか!そ~うか!」

 

紀霊「…」

 

すっかり気分を良くし、扇で自らを仰ぐ陳蘭。

その姿を今にも殺さんと睨みつける紀霊。

 

陳蘭「ん?これ紀霊どうかしたか?」

 

紀霊「…なんでも無ぇよ。」

 

陳蘭「…ふん。」

 

しばらくすると、数名の兵士がしたばたと藻掻く袁術を抑えつけながら、

広間へと入ってきた。

 

美羽「離せ!離さぬか無礼者!!」

 

陳蘭「黙れ愚物が!!!」

 

そう言うと、袁術の頬をピシャリと扇で叩きつける。

痛みこそほとんど無いものの、状況が恐怖を煽る。

 

陳蘭「ふっふっふ…。そう、それでよい。

   これで漸く、貴様のような愚物に頭を下げる必要が無くなったのう。」

 

美羽「っ…。

   わ、妾をどうする気じゃ。」

 

陳蘭「なあに、殺しはせんよ。…言うことさえ聞けば、じゃがな。

   儂は陶謙様に貴様を差し出し、地位と金を手に入れる。貴様はもはやただの商品、というわけじゃ。」

 

美羽「陶謙、じゃと?」

 

陳蘭「そうじゃ。

   あのお方は小さき子が好きでのう。それはそれは可愛がってもらえるぞ?

   くくく、くっはっはっは!」

 

紀霊「…てめぇ」

陳蘭「おっとそうじゃった。

   兵ども、紀霊を殺せ。此奴は裏切り者じゃ。」

兵「はっ!」

 

陳蘭「バレてないとでも思ったか愚図め。」

 

紀霊「…上等だこの野郎。」

 

美羽「紀霊…!」

 

陳蘭「あぁ、言っておくが、貴様が反撃するごとに袁術の喉元へ少しずつ刃が刺さるぞ?」

 

紀霊「腐ってやがる。」

 

陳蘭「腐っておるのはこの国じゃよ。

   先代や兄君は大層ご立派な方だったのかもしれんが…この小娘はただのボンクラじゃ。

   この国もそう長くないわい。」

 

美羽「き、紀霊!はよう逃げるのじゃ!」

 

紀霊「お嬢よぉ、馬鹿言っちゃいけねぇ。

   ここで逃げたら笑い者じゃねぇか。」

 

陳蘭「くっくっく。どこまでも救いようのない馬鹿じゃ。

   ほれ、兵ども。じっくりと痛ぶって殺せ。」

 

兵「「「はっ!」」」

 

数人の兵に取り囲まれる紀霊。

普段の状況なら物の数ではないが、手を出せないこの状況では一方的だった。

 

拳や蹴りが体にめり込み、棍棒が骨を軋ませる。

 

美羽「…ひっ…く…き、紀霊ぇ…紀霊ぇ!」

 

鈍い音をたて幾度も殴りつけられる紀霊。

 

髪を掴まれ、その姿を見せつけられる少女は、涙を流しただ彼の名を呼んでいた。

それしか出来ない自分への苛立ち、力のない自分の弱さ。

そんな自分のために満身創痍になりながらも決して膝をつかずにただ耐える紀霊。

 

陳蘭「くくくっ、しぶとい男じゃ。」

 

紀霊「…効がねぇなぁ…ぢっとも効かねぇよ、雑魚どもが…」

 

既に顔は原型を留めていなかった。

その体も、腕は折れ、至る所に血が滲んでいる。

脇腹も何本か折れたのか、呼吸すらも満足に出来なくなっていた。

 

陳蘭「…ふむ。

   おぉ、そうじゃ!隠れ穴を見つけたお主に褒美を与えておらんかったのう。」

 

兵「お、オラですかい?」

 

陳蘭「そうじゃそうじゃ。

   ん~、何が良いかのう…。」

 

そう言うと、陳蘭は少女の身を卑下た目で見下ろす。

 

陳蘭「よし決めたぞ。

   この小娘を好きにして良いぞ。処女さえ散らさねば、の。」

 

兵「!!」

 

陳蘭「気に入らんか?」

 

兵「い、いえ!滅相もありませんでさぁ!」

 

陳蘭「ほっほ…良い良い。味見という奴じゃ。くっくっく。」

 

美羽「ひっ…!」

紀霊「でめぇ!

   …ぐはっ」

 

掴みかかろうとするも、棍棒で背を殴られ膝をついた。

起き上がることも許されず、頭へ腹へ殴打が続く。

 

血相を変えた兵士は少女へ手を伸ばし、

乱暴な手つきで服を剥ごうとする。

 

美羽「や、やめ…!」

 

紀霊「や゛め…ごほっごほっ…やめ゛ろ゛!!

   お嬢に゛でを出ずな!!」

 

地に這いながら、兵士を睨みつける紀霊だが、

その頭を兵士は踏みつけた。

 

兵「うるさい!!

  オイラは女日照りなんだ…ふ、ぐふふふ…さぁお嬢さん、大丈夫だよ~…。」

 

兵士の脂ぎった目が、美羽を捉える。

 

その足元には、折れてだらりとした腕を懸命に伸ばし、美羽に這い寄ろうとする紀霊が居た。

 

 

 

---1年前、彼は全てを失った。

 

幼少の頃から生まれ育った山奥の村は、賊によって滅ぼされ家も畑も…何もかもを焼かれた。

炎は情け容赦なく家族、友を包み込む。

 

傷だらけの体に、酷い火傷痕。

それでも彼は生きていた。いや、生きてしまった。

 

「たす…けて…兄ちゃん…」

 

炎に包まれる家。

背を斬られ、息も絶え絶えに地に伏す妹。

 

「…!!……!!」

煤で彼の喉は焼け、声すらあげられない。

 

…生きながらに焼かれていく妹を見ながら、彼は気を失った。

 

 

目が覚めると、彼は見知らぬ部屋に居た。

真っ白な布団。窓辺には小さな花が陽光に照らされ風に揺られている。

 

「おぉ!目が覚めたのじゃな!」

 

鈴を鳴らしたような声。

 

「七乃~!七乃!」

 

「はい~!どうかしましたか~お嬢様~?」

 

「大男が目を覚ましたのじゃ!」

 

少し喧しいやりとり。

 

小さな少女が領主と聞くと、彼は怒りをぶちまけた。

何故村を救えなかったのかと。

 

その小さな領主はこう言った。

 

「ごめんなさい、なのじゃ」

 

涙ぐみながら頭を下げる姿に驚く。

 

怒りのやり場を失った男は、あの時あげられなかった叫びを上げ、人目を憚らずに涙する。

 

それから何日経っただろうか。

傷が言えるまでの間、色々なことを聞かされた。

 

…話の結びはいつもこうだった。

 

「きっと兄様なら…」

 

それを聞くたびにズキンと響く胸。

いつからか、その小さな領主を亡き妹と重ねてしまっていた。

それは意識するともうダメだった。

傷が癒えるごとに、その思いはどんどん膨らんでいく。

 

そして時が過ぎ、玉座の間にて彼は跪く。

 

「お嬢、俺ぁあんたの兄貴が帰ってくるまで、兄貴の代わりにあんたを守る。」

 

「で、でも兄様は…」

 

「うるせぇ!兄貴ってのはな、妹が泣いてたらすっ飛んでくるもんだ。」

 

こうして、彼は臣下となる。

人並み外れた頑丈な体躯を活かし、半年と経たずに近衛隊長まで上り詰めたのだった。

 

 

 

 

兵士「うっひっひ…はぁはぁ…すぐ終わるからね~…ひひひっ」

美羽「ひっ」

紀霊「やめ…!」

 

バタンと音を立て、広間の扉が開いた。

 

誰もがそちらに目を向ける。

そこには白い服を着た青年が立っていた。

 

美羽「…!!」

 

一刀「…」

 

美羽「あに…さま?」

 

陳蘭「そ、そんな馬鹿な…!!貴様は」

一刀「死んだはず。って?」

 

一歩、また一歩と歩み寄る

 

陳蘭「ひっ…う、動くな!!!動くとこの娘を…!」

 

その時、一刀はチラリと紀霊に目を向ける。

紀霊「(…やれやれ、人使いの荒ぇこって。

    やるよ、やりゃぁ良いんだろ。

    脚も腕も折れてっけど…首が動けば上等!!)」

 

紀霊は力を振り絞り、這いずりながら陳蘭に詰め寄る。

気付いた時には、陳蘭の脚の腱は噛み千切られていた。

激痛に気を失いそうになる陳蘭の目前には、真っ白な鬼が迫っていた。

 

陳蘭「ひぃっ…!!」

 

繰り出される槍は空を切り、兵の視界は反転した。

鬼はまるで濁流のように人を飲み込んでいった。

逃げようとするも---

 

雪蓮「あら、どこに行くのかしら?」

 

一閃。

後門の虎が牙を向く。

 

残る一人の兵士。

コツ、コツ、と音を立て、鬼は歩を進める。

 

兵士「く、来るなぁ!!!来るな来るな来るなぁあああ!!!」

 

腰から短剣を抜き、抱えた袁術に突きつけた。

 

鬼は笑う。

 

兵士「へっ?」

 

瞬間、短剣を持つ右腕は切り落とされていた。

 

七乃「お嬢様に手を出すな下郎。」

 

素早く詰め寄り、鬼は右腕を突き立てた。

既に切り落とされた右腕でガードするも、そこにはもう何もない。

鬼の拳は、容易に男の顎を砕いていた。

 

一刀「ふぅ」

 

と息をつく。

だらりとした男の腕から、美羽が投げ出されていた。

 

そのまま一刀の胸に収まる。

 

美羽「あ、あにさま?」

 

恐る恐る一刀の頬へ手を伸ばす美羽。

 

一刀「あぁ、ただいま美羽。遅くなってすまない。」

 

ぴとっと手が頬に触れたると、まるで河が決壊したように涙があふれた。

一刀の服をぎゅっと握り、顔をうずめて泣きじゃくる。

 

 

 

 

Another VIEW ~美羽~

 

 

怖い。

 

…悔しい。

 

こんな男たちに良いようにされて、

ずっと兄様の代わりに妾を守ってくれた紀霊があんな目にあって…

 

きっとこれは妾への罰。

 

めそめそして、七乃や紀霊に甘えてばかり。

妾がもっと頑張っていたら、こんな謀反は起きなかったはず。

 

もう…だめなの?

 

兵士「うっひっひ…はぁはぁ…すぐ終わるからね~…ひひひっ」

美羽「ひっ」

 

男の手が妾の胸元に伸びる。

 

怖い…!

 

美羽「(…助けて!兄様!!)」

紀霊「やめ…!」

 

バタン

 

扉が強く開いた。

 

現れたのは白い服の人。

 

…よくしっているひと。ずっとあいたかったひと。

 

紀霊『うるせぇ!兄貴ってのはな、妹が泣いてたらすっ飛んでくるもんだ。』

 

本当だったのじゃ…。

こんな事ならもっと泣いておけば良かったなんて思ってしまう。

 

兄様の顔に手を伸ばす。

もし幻だったらと、確かめたくて。

…触れた。

暖かい。

 

もう、涙が止まらない。

 

一刀「あぁ、ただいま美羽。遅くなってすまない。」

 

おかえりなさい、兄様。

 

 

Another VIEW end

 

 

 

 

七乃「…これからが大変ですね。」

 

一刀の隣に歩み寄ると、そう呟く。

 

一刀「まぁ、なんとかするさ。」

 

軍の再編、領内の統治、陶謙ら諸外国への対応。

やる事は山積みだった。

 

七乃「それより…いつの間にそんな強くなたんですか~?」

 

一刀「…賽の河原で修行してきたって事にしておいて。」

 

七乃「??」

 

紀霊「…すまねぇ、ちっと手を貸してくれ。」

 

一刀「わわっ!ごめん、そうだった!

   七乃、水と手ぬぐい持ってきて!雪蓮は囚われてるひとを開放してあげて!」

 

七乃「は、はいっ!」

雪蓮「しょうがないわねぇ。」

 

こうして、寿春で起こった内乱は幕を閉じた。

首謀者の陳蘭は斬首。だが、陶謙に関する情報をついぞ吐くことは無かった。

 

 

 

 

 

---北海---

 

薄暗い牢の中。

荒い息遣いが聞こえる。

 

???「はぁ…はぁ…」

 

天井から吊られた荒縄に手を縛られ、だらりと力なく吊られる者。

その体には夥しいムチの痕から血が滲んでいた。

 

陶謙「反省したかな?」

 

???「…っ」

 

陶謙「困るんだよねぇ…勝手なことされちゃ。僕の命令は絶対なんだからさぁ」

 

???「申し訳…ございません。」

 

陶謙「身寄りの無かった君を兵に引き立てて、その恩を仇で返しちゃうなんて…それも、一度や二度じゃないだろう?」

 

ムチを振る男。

 

???「ぐぁああああっ…はあっ…はぁ…!」

 

陶謙「フフフ…痛いかい?

   僕はねぇ、も~っと痛いんだよ?あのお人形さんが手に入らなかったんだから。

   可愛い可愛い僕のお人形。初めて見た時から、あれは僕のものにするって決めてるんだ~♪」

 

???「はぁ…はぁ…っ」

 

陶謙「次はないからね。

   今度は全身の皮を剥ぐ。醜い家畜め。」

 

そう言うと、男は牢を出て行った。

吊られる者はそこで気を失った。

 

 

 

 

---汝南---

 

多少の混乱はあれど、平穏を取り戻した汝南。

飛び出していった孫策を連れ戻すため、玉座の間には孫堅たちが訪れていた。

そして、その玉座の間では、何故か雪蓮が正座させられていた。

 

美蓮「…」

冥琳「…」

蓮華「…」

 

雪蓮「…ご、ごめんなさい。」

 

冥琳「ゴメンで済むか!!だいたいお前は」

雪蓮「わ、悪かったって言ってるじゃない!」

冥琳「いいや、今日という今日は許さん!」

 

二人の言い合いが続くも、そこで予想外の笑い声が零れた。

 

美蓮「ふふっ」

 

冥琳「美蓮様!」

 

美蓮「ご、ごめんごめん。

   やっぱりアンタは私の子ね。」

 

雪蓮「??」

 

何のことかわからず、首を傾げる雪蓮。

 

美蓮「私も、昔あんたらの父親のもとにあんな風に駆けつけたことがあったのよ。

   この歳で寡婦になってたまるか!ってね。ふふっ」

 

雪蓮「かあ様…。」

 

美蓮「良い、雪蓮?

   アンタは一刀がとても大事だから飛び出した、そうね?」

 

雪蓮「え、えぇ…まぁそうね///」

 

一刀「あ、あはは…」

七乃「むぅ…」

 

美蓮「なら覚えておきなさい。

   あなたの為に飛び出す人も居るってことをね。」

 

雪蓮「はい…。」

 

その時、素っ頓狂な声が響いた。

 

魯粛「あ…あ…あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

美羽「な、なんじゃなんじゃ?!」

 

魯粛は窓の外の広間を指さす。

そこには先日処刑が行われた際の斬首台があった。

 

一刀「あ~…ごめんなさい。まだ片付けてなか…ってちょっと何してんの??!!」

 

あろうことか外へ飛び出し、斬首台へと登る男。

服をはだけ、どこから出したのか浄めの水を首にかけ、頭を首当ての部分に載せる。

そのままこちらを見やると、元気よくこう叫んだ。

 

魯粛「準備出来ましたーーー!!お願いしまーす!!」

一刀「何をだー?!」

魯粛「死にたーい!!斬首お願ーい!!」

一刀「いやいやいやいや!『お姉さーん!お冷お願ーい!』みたいに言うなよ!ちょっと、ほんとに降りなってば!」

魯粛「嫌だ嫌だ!!せっかくうってつけの台を見つけたんだ!!」

一刀「そりゃうってつけだよ!そのための台なんだから!」

 

 

七乃「変わった方ですね…」

 

美羽「兄様も、忙しい人なのじゃ…ふふふっ♪」

 

 

 

 

 

 

拠点Part 『肩を並べて』 七乃

 

 

城内のお嬢様のお部屋。

中庭を見渡す縁側に腰掛け、一刀様と美羽様、そして私は一緒に月を眺めていた。

 

お嬢様は一刀様の膝を枕にし、寝息をたてている。

 

七乃「お嬢様…可愛い♪」

 

一刀「ははっ、そうだな。いつまでたっても子供なんだから。」

 

あの煙たい月も、迫り来る軍隊も、今はありません。

 

七乃「ねぇ…一刀様。」

 

一刀「なんだい?」

 

七乃「別れの時のこと、覚えてますか?」

 

一刀「…あぁ。」

 

 

   七乃『そ、そんな…

      それはあんまりです!!貴方を…愛する人を置いて行くなんて…!!』

 

   一刀『愛していたよ。俺も。』

 

思い出されるあの時の会話。

 

七乃「私の気持ちは…あの時と変わっていませんから。」

 

一刀「…そっか。」

 

七乃「…私は大人、貴方も大人。

   私があれから5つ年を重ねたけれど、貴方は昔と変わらない。

   ほら、追いつきました。」

 

ずっと大事に仕舞っておいたこの気持ち。

いつか渡したくて、でもずっと渡せなくて、それなのに諦めきれなくて。

 

一刀「…。」

 

七乃「私は一刀様を…」

一刀「待った。」

 

七乃「…えっ?」

 

想いを言葉に乗せようとした時、一刀様がそれを遮りました。

 

…そっか、気持ちが変わらなかったのは私だけ、だったんですね。

キンと冷えた血が頭から体中に流れます。

 

仕方ない…よね。だって、もう昔のことだもの。

こんな青臭い恋心なんて…。

 

そう思ってはいるものの、なんでだろう。

涙が止まらない。

 

七乃「…私、もう行きますね。

   おやすみなさいっ!」

 

逃げようとする私の腕を、一刀様が掴みました。

 

七乃「離して下さいっ!私は…!私は…!」

 

一刀「ごめん。また君に言わせちゃった。」

 

七乃「えっ?」

 

ぐいっと引き寄せられ、一刀様の顔がすぐそばにありました。

 

一刀「俺は七乃を愛してる。全部思い出した。」

 

唇に暖かな感触。

 

触れ合ったのはきっと一瞬。

 

一刀「綺麗になったね。あの頃よりずっと。」

 

もう一度。

 

七乃「…一刀様…。」

 

あともう一回だけ。

 

七乃「愛しています。」

 

…もう離れません。

 

 

 

 

今回もお読み頂き、誠にありがとうございます。

自分でも、まさかここまで時間が空かないと思っていませんでした・・・。

おまたせしてしまって本当に申し訳ないです。

 

そして、更新待ってますとコメントしてくれていた方々。

かなり励みになっていました…!ありがとうございます!

 

次の御話では、あの変態三人娘が登場です。

 

 


 
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