第二十話「~復 讐~わたしたちのキズナ」
命ヶ原に現れたのは巨大な超常生命体だった。
モニターを覗く者達は全員、その光景に見入ってしまっていた。
その姿は大樹から羽の生えた恐竜が上半身を生やしているようにも見える。その付近に魔物の女王型が現れると、超常生命体はそれに枝状の触手を突き刺した。魔物は激痛に身悶え、暴れまわる。触手から蔦のような触手が生え、さらに魔物たちを拘束し自身の体躯に引き寄せていった。
魔物は断末魔を上げる。
『イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!』
次の瞬間魔物たちは彼女と融合し消えていった。
「見ろ! 根本からなんか出てるぞ!」
大樹型の超常生命体はその場から動かず、大樹根本付近から大量のグールを生み出していたのだ。
「迎撃だ!」
優大の叫びに神代拓海がいち早く動き出す。
「現時点を持って! あの超常生命体を超常生命体亜種1号と呼称する!」
滝下浩毅がアネットのコードネームを決めると、準備が出来た神代拓海は口を開く。
「我々警察は避難誘導に当たります」
「ガードチームも至急出動。避難を援護しろ。神代君。君にガードチームの指揮を任せたい」
神代拓海はブリーフィングルームを飛び出しながら「わかりました」と答えた。その後に須藤と数名のスーツを来た警官たちが無線に叫びながら飛び出していく。
一呼吸置いてガードチームは部屋を飛び出す。
「おっと斎藤待った」
「ぐえっ! 首に入った。何するんだよ!」
斎藤を捕まえた優大は「いいからここに少しいて。神代さんには俺が言っておくから」と、斎藤だけを捕まえてその場に残した。斎藤は首をかしげたままその場に残される。
斎藤だけが残されたことに、明樹保たちも首を傾げた。
「ソルジャーチーム、それとスミス財団の兵士の諸君は各個に散開して、グールと呼ばれる敵対生物を撃破してください」
「わかった。エドワード聞いたな?」
『すでに出動済みです』
烈達ソルジャーチームも部屋から飛び出していく。
「私のヒーローたちも出そう」
雨宮蒼太の言葉に全員が驚きの声を上げる。
スターダムヒーローがこの戦場に参加することは、リスクが大きすぎる。何よりファントムバグとの戦闘に特化した彼らでは、この異常な戦場に出てもやれることは少ない。企業的に考えれば非常にリスクが大きい。
例え娘が参加するとはいえ、あまりにも大きな犠牲が支払われる可能性の方が高いのだ。
その点を雨宮蒼太は踏まえてもなお、戦闘に参加すると意思表明をしているのだ。
「よいのですか?」
「まあ、こちらもビジネス的な思惑があって来たのだ。その話し合いの場を設けるための、これは前払いということと思っていただきたい」
雨宮蒼太の視線の先には、早乙女源一がいた。
滝下浩毅は小さく頷くと「避難する住人を援護して欲しい」とすぐに指示を出す。
『司令大変です! 敵の数が爆発的に増えております』
「何? モニターに回せ!」
そこにはダムに塞き止められた水が一気に流れ出したかのように、四方八方に飛び出すグールの姿が全面に映しだされた。
「動きが速い!」
エイダの指摘に明樹保達は、かつて戦った女王型のグールとの戦闘を思い出す。
彼女達が最初に遭遇したグール達は、物凄くゆっくりとした動きだった。だが、モニターに映っているグール達は、全力疾走で走っている。獲物を求めて生きた人肉を求めて走り続けていた。その集団が、逃げ遅れている集団を補足し、一気呵成に迫っていった。
「わ、私達も出ます!」
「ダメだ」
止めたのは滝下浩毅だ。彼は首を横に振る。
「待機だ。君たちに消耗されてはあれに太刀打ち出来る者がいなくなってしまう。空間湾曲領域と魔鎧の両方を持ち合わせていると見ていいだろう。その2つを破る武器をタスク・フォースは所持していない。どれほどの数が生み出されるかわからない事も踏まえれば、君たちを出すわけには行かないのだ。だから君たちを温存させてもらう」
彼は「辛いだろうが耐えてくれ」と付け加えた。
「でも……」
明樹保達はモニターの向こうで襲われる人を見てしまう。
「でも、ここで耐えるだけなんて……無理です!」
「それでも君たちを行かせるわけには――」
「滝下さん。俺達が倒れるなんてことはないですよ」
優大は手で「先に行け」と明樹保達に仕草で促した。
「ありがとう大ちゃん! ごめんなさい滝下さん!」
「待て! 待つんだ!」
「あ、ごめん白百合だけ残って」
明樹保達の背中に怒鳴るように言葉を投げるが、明樹保達は誰も踏みとどまらない。白百合は踏みとどまり、斎藤と一緒に待たされてしまう。2人はどうしたもんかと、所在無さげに立ち尽くしていた。
「なぜだ優大!」
「俺達は、貴方達大人を信じているからです」
「なっ?!――」
「倒せる兵器はないなら、作ればいいしのぅ」
早乙女源一はそう言うと「設備借りるぞー」と言って部屋を出て行った。
「俺達には、貴方達大人っていう強い味方がいる。だから負けないし、勝てる!」
「だが――」
「タッキー。あんたの負けだよ」
滝下浩毅は「新堀」とつぶやくと、しばらく考えこむ素振りを見せる。
実際には数秒の時間だったが、その場に残っていたものにとっては永遠のように長く感じられた。
彼が背負っているのは街の人々全員の命である。彼の判断の誤りがこの街の人を全滅させてしまうことに繋がってしまう恐れがあった。明樹保達という剣を失えば、タスク・フォースには為す術もないのだ。
それが痛いほどわかるからこそ、慎重に進めたいと考えた。たとえ、タスク・フォースや警察に犠牲が出ても、彼は確実な勝利を得ようとした。しかし――。
「保奈美? ……ああ……わかったよ」
その言葉小さく。金太郎には聞き取れなかった。
「いいだろう。だが、忘れるな。お前たちにこの街の命運がかかっているんだ」
「了解!」
そう言うと、優大は斎藤と白百合に視線を投げる。。
「ああ、それと早乙女、お前にバツとして、桜川君たちに届けさせる任を与える。それと、彼女たち全員にコードネームをつけさせるんだ」
「俺が?」
「お前のためでもあるんだ。このままあの6人の素性が割れるようなことがあれば、満宮間違いなくお前につっかかってくるぞ」
優大は「なるほど」と手を打った。改めて優大は斎藤と白百合に向き直る。
「頼みたいことがあるんだ」
勢い良く飛び出そうとした時だった。
『ごめん。その場で待機して』
大ちゃんの声に私達は勢いを削がれる。
もしかして説得失敗しちゃったのかな? どうしよう? これ以上は待てない。
暁美ちゃんが「このまま強引に行こう」と提案したが、すぐにそれは却下された。
「早乙女君が失敗するはず無いじゃないですか」
「大のことだから別のことでしょ?」
「そうかな?」
水青ちゃんと凪ちゃん自信満々な様子に鳴子ちゃんは不安そうだ。残念だけど、私も不安である。
「大丈夫よ。言ったら必ずやり遂げる。それがあなたの自慢の幼馴染でしょう?」
紫織さんが私の肩に手を置いて、安心させようとしてくれた。
それが嬉しくて私はつい笑ってしまう。
「あら? 何がおかしいのかしら?」
「だって、紫織さんがこんなことしてくれるなんて」
紫織さんは拗ねたように頬を膨らませて「私だってこういうことぐらいするわよ」と言った。
「悪い。待たせたな」
「もう来た」
大ちゃんは何度も「悪い」と言いながら、私達の元へ歩み寄る。手には大きなアタッシュケースが握られていた。
大ちゃんの背後で鈴木君が「俺は先に行っているぞ」と跳躍して消える。
その軌跡がなんだか羨ましく見えた。
「悪いな。2,3下準備をしたい」
そこで大ちゃんはアタッシュケースから、7色のバイザーを取り出して見せる。耳あてと口元にマイクみたいなモノがあった。
大ちゃんは「これをつけて」と言うと私達に手渡していく。扉がまた開く。扉の向こうには斎藤君と白百合さんが立っていた。白百合さんは「私の分があってよ」と大ちゃんに抗議している。
私達は自分たちのパーソナルカラーのバイザーをつけた。
「これは?」
エイダさんが質問する。
「これはタスク・フォースや警察のみんなと連絡するツール兼、明樹保達の素顔を隠すため」
「そんなの必要か?」
「俺も最初はそう思ったけど、タスク・フォースの面々と連絡取れるようにしておいて損はないだろう? 後俺個人的の問題にも絡んでくるし、正体バレしたらしたで面倒だろ?」
私の素性がバレた場合、大ちゃんに迷惑がかかることに気づいた。
「満宮が動く?」
大ちゃんは短く「うん」と首を立てに振る。
「後、2つくらいあるんだよな?」
暁美ちゃんはバイザーをつけてポーズを取りながら、疑問を口にした。
2,3って言ってたね。なんだろう?
私が顎に手を当てて考え込んでいると、大ちゃんは答えた。
「まずは、装置のテスト。最後に全員のコードネームを今決めるよ!」
暁美ちゃんと鳴子ちゃんは驚きの声を上げる。
「今ですか?」
「時間が無いけど」
「わかっている。だから、早めに済ませよう」
通信のテストは素早く終わったが、コードネームで私達は詰まった。
私は「魔法少女、桜色とかどうかな?」と提案したがすぐに却下される。
「桜色の魔法少女スペシャル」
「あき、さすがにそれはないわ」
「ないですね」
「ない」
「それは……」
「え? いい感じだと……」
紫織さん以外はダメだったようだ。
白百合さんは白いバイザーをぐるぐる回しながら眺めていた。斎藤君もそれを後ろから眺めて「かっこいいな」と漏らしている。
「俺は、漆黒の戦士でいい気もするけど」
通信越しに滝下さんがそれを拒絶した。
仲間として戦う以上はそれらしい名前にしてもらわないと、バツが悪いそうだ。
「オニキス……そうだわオニキスだわ!」
「え?」
「オニキス。それが貴方の名前よ」
エイダさんは嬉しそうに断言する。
あまりの力強い発言に、大ちゃんも私も、そしてみんなも唖然としていた。
「その心は?」
「貴方のお母さんが、エレメンタルコネクター……じゃない。魔法少女やっていた時に名乗った名前なの。そして、その魔石を受け継いだ貴方には、その名前を引き継ぐ義務があるわ」
大ちゃんは「義務ですか……」と呆れたように答えている。けど声は笑っていた。
「その名前。ありがたく引き継がせていただきます」
大ちゃんは力強くサムズアップすると「じゃあ俺は行くよ」と言う。勢いそのままに跳躍して戦場へと消えていった。
その背中を見送った私は、焦りから思考が真っ白になってしまう。
「なら、決まったわね。私達のコードネームも」
「え?」
紫織さんにみんなの視線が集まる。
「ええ、そうね」
エイダさんだけはそれに頷いた。
「オニキス。パワーストーンから取っているわ。だから私達もパワーストーンから決めればいい」
紫織さんは補足する。
「ぱわーすとーん? 名前知らねーぞ」
暁美ちゃんは「占いとか信じる奴が好きそう」とげんなりしていた。
鳴子ちゃんが「占いとか気にしないの?」と驚いている。
「任せて。桜に教わって大体は知っているわ」
エイダさんは喜んでいた。
「ローズクオーツ! 行きます!」
明樹保は桜色の光を輝かせ魔法少女へと姿を変える。
「アイオライト! 参ります」
水青は青色の輝きを纏い、魔法少女へとなった。
「ガーネット! 出るぜ」
暁美は燃えるような赤を爆ぜさせて、魔法少女となる。
「クロムダイオプサイト! 出るわ」
凪は緑の光を走らせ、魔法少女になった。
「カ、カーネリアン行きますー」
鳴子は煌々と輝く黄色をその身に輝かせると、魔法少女と変わる。
「アメジスト! 出ます!」
紫織は紫の光を灯らせると、魔法少女と変身した。
「アゼツライト! 行きますわよー」
白百合は光を纏えないが、その指に蒼穹の光を瞬かせる。
斎藤は背後で「タスク・フォースのガードの斎藤出ますぜー」と、脱力したように言う。
明樹保達が実際に足を止めた時間は数分であった。それでも彼女達には長く感じられたのか、コードネームが決まると全速力で戦場へ向けて駆け抜けていく。斎藤と白百合は警察とスミス財団、タスク・フォースのスタッフが設置した前線の仮設基地へと足早に向かう。
彼女達には別の役目があったのだ。
「大丈夫かな?」
「斎藤がいるし、なんとかなるだろう」
明樹保の不安を暁美が一蹴する。
「基礎訓練は一応やっているし、魔鎧も一応あるからちょっとやそっとじゃなんともならないわ」
エイダは続けて「大丈夫よ」と言う。
白百合が魔物になり、それを明樹保が浄化の力で救ったことは、皆も知っていた。彼女は魔物になった影響からか、魔鎧を纏えるようにはなっている。ただ、まだ安定して使える事は出来ず。今日の特訓でも01の面々と一緒に基礎訓練をしていたのだ。
「01の人曰く、単純なパワーならタスク・フォースのソルジャーを上回っているらしいしね」
凪の言葉に明樹保は小さく頷く。
「見てください。前方に避難している方々が!」
「後ろにはグールがいるみたいね」
水青は逃げる人たちの背後に水の壁を形成する。凪は風を纏い、一陣の風となってグールの元へ吹き抜けた。そして敵をそのまま薙ぎ払う。
轟音と断末魔が戦闘の開始を告げる。
逃げる人々は彼女達の姿を見て「魔法少女だ」と口々に叫んだ。彼女達はそれらを気に留めている余裕はなく、そのまま戦場へと飛び込んでいった。
逃げていた人々の視線の先には、色とりどりの輝きが瞬き、天を彩る。
有沢卓也は息を乱しながら、地面に膝をついた。
「さすがに……きついな」
「大丈夫ですか?」
彼は如月英梨の心配そうな顔に笑って答える。
「これくらいまだまだ」
力強く本人は言ったつもりだが疲労が足に来ており、足が震えている。そのせいで言葉に説得力がなく、周りにいた如月英梨などは、顔色を不安に染める。
天乃里大付属は広大な敷地と、ファントムバグ襲来に備えられた設備のため、学校外周部には高さ20メートルの外壁があった。そのため避難場所と指定されている。
アネットの襲撃が始まってからひっきりなしに人が雪崩込んでくるのだ。それのお陰で一部外壁を展開できずにいた。さらに、避難してくる人達と一緒にグールも学校へやってきてしまっているのだ。
そこで元ヒーロー教師たちが総出で、追い払って撃退などしていたが。徐々に押し込まれていた。
彼らは元ヒーローとはいえ、ファントムバグに特化したヒーローである。したがってグールや魔物との戦闘経験はほとんどない。
グールの不気味さと圧倒的な数に士気が落ちていた。すでにアネットが攻撃を開始してから3時間は経過している。日はすでに沈み空には星が瞬いていた。
「有沢先生! また来ました!」
「了解」
戦い続けている彼らだが、悪いことばかりではない。時折空に光る光線や稲妻など、「魔法少女が助けてくれた」などの言葉が彼らの折れそうな気持ちを支えていた。
実際グールの襲撃は減ってきており、それを実感しているからこそ。有沢卓也を含めて、多くの人達はパニックにならずに戦えていた。
有沢卓也は顔に青白い光の線が走る。
気合の掛け声を上げると、一気呵成になだれ込んで来たグールたちに拳の雨を降らせ、頭を確実に潰していく。
有沢卓也は人を模したその化物たちに攻撃するたびに嫌悪した。
人を模しているからこそ、人を殺しているような錯覚に陥り、気が狂いそうになるのだ。
人体を模しているため、戦いやすくある反面。罪悪感などの泥沼に足を取られそうになっていた。
それ故に奮う拳に迷いが乗る。
「しまった!」
有沢卓也の脇をすり抜け、グールが学校の敷地内に侵入してしまう。
すぐに追いかけようとしたが、彼の目の前にはまだグールが数体残っていた。
有沢卓也は舌打ちすると、素早く拳を叩き込んでいく。
急いで戻ろうと振り返ると、如月英梨がモップを振り回してグールを迎撃しようとしていた。
数は2体。とても一般人が相手に出来るような相手ではない。
彼女は気合の声を上げるとそのままモップを振り上げ、グールの頭頂部を叩き込んだ。
モップはいとも簡単に折れた。
「嘘!」
「如月先生逃げて!」
有沢卓也は走ろうとした時だ。一陣の風。それも黒い風が吹き抜けた。
鈍い音が2回ほど地面を打つ。
グールだったそれは霧散して消えた。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
黒いマント。黒いパワードスーツ。黒いバイザーを身に纏った女性がいた。長い髪をポニーテールにまとめているため、周囲を見渡す度に揺らしている。
有沢卓也は彼女を見て最初に脳裏に浮かんだのは「忍者」という言葉。
忍者の手には高周波ブレードが握られていることに有沢卓也は気づいた。
「高周波ブレード……貴方は企業の方ですか?」
女性は首を横に振り、耳に当てている機器に手で触れる。するとどこかへ連絡を撮り始めたようだ。
無線越しに男の人の声も若干ではあるが、有沢卓也にも届いていた。
そこからわかることは、かなりの数の市民を救助したということ。そしてその避難先をここにするということであった。
「すぐに応援が来ます。校庭を使わせてもらいます」
「わ、わかりました」
有沢卓也はすぐに如月英梨に、理事長の元へと伝えさせに向かわせる。
「……?! どうやらまだ来るようです。行けますか?」
有沢卓也が耳を澄ますと、嫌というほど聞いた唸り声が聞こえてきた。
声が重なり合い、大合唱のように夜空を震わせる。
「元ヒーローだ! 死んでもやる!」
彼女は「死なれても困る」と不敵に笑った。
校門の前に赤黒い肉壁が押し寄せる。先ほどまでと打って変わって、ゆっくりと歩んでいた。まるで「獲物を追い込んだ」と言わんばかりの余裕さを感じさせる。
耳鳴りに似た音が唸り声を一瞬だけかき消す。有沢卓也の視線の端で高周波ブレードが血を求めて泣く。
「そろそろ本気を出してもいいんですよ?」
「温存も考慮したかったんだけど?」
「その必要はございませんよ」
彼女が言い終えると、夜空は唸り声でも、高周波ブレードの泣き声でもなく、エンジン音がその場の音を全て支配した。
「はっ! あれは……雨宮のヒーローか!」
航空機から和装式の鎧に似たパワードスーツを来た戦士が降下していく。
かつてオスプレイという航空機が日本を騒がせた。それに似た航空機の胴体部に、ローマ字でAMEMIYAと刻印されている。
オスプレイの兵員輸送能力には目を見張るものが有り、また技術革新により性能が向上した機体が、日本のヒーローの輸送には欠かせないモノとして普及していた。
エンジンの轟音に堰を切ったようにグールの濁流が有沢卓也たちを襲わんと迫る。
黒い一陣の風がその濁流をかき分けて、出鼻を挫く。グール達は密集して迫っていたため前列を崩されて、自ら自戒していく。
倒れたものに足を取られて転び。転んだものにつまずいて転がり。止まろうとして後ろから押されて潰された。
「今です! 炎神の有沢!」
「その名にふさわしい活躍を見せてご覧に入れましょう!」
青白い炎が走り、グールたちが固まっているところを穿つ。
唸り声は断末魔となり、グール達は一掃される。
「ふぅ……。さすがに疲れた」
「お疲れ様です」
上空には続々と航空機が集まってきていた。
「後、もうひと踏ん張りですか?」
「そうですね」
有沢卓也は苦笑いする。
明樹保達が戦端を開いてからしばらく経った。各所から飛び込んでくる情報を精査、伝達。
それらがもたらした事は、グールは命ヶ原から外へは積極的に出ようとしないということ。そのグールは人を捕食すると、1つ上位の魔物へと進化すること。頭を潰せば容易く倒せるということだった。
「司令。命ヶ原周辺は封鎖完了とのことです」
滝下浩毅は男性オペレータの報告に頷いた。
「外へ出る様子は無いとはいえ、こちらにまだ踏み込ませるな。ローズクオーツたちが倒れた時の事を想定して待機を指示してくれ」
滝下浩毅の指示にオペレータ達は「了解」と短く答える。すぐに指示を飛ばし行く。
『こちらオニキス。敵の魔法推定範囲がわかった』
オニキスの声が司令室に響く。司令室だけではなく、前線の仮設基地にもその声は届いており、全員が息を呑んで次の言葉を待った。
「どうだ?」
『推定500メートル。半径200は全部魔法攻撃出来る場所になっている。そこから伸びて300メートルくらい』
「直径1キロってことですか?」
「厄介だな。なんとか攻めこむことは出来そうか?」
『難しい。さっきも言ったけど、半径200メートル圏内全てが魔法顕現可能領域だから無理に突っ込むことが出来てもヒットアンドアウェイしか出来ないから、大技を叩きこむのも無理だね』
それに加えて無制限に出続けるグールたちである。攻めようとすれば守りが疎かになり、守りを意識すれば、攻撃が疎かになるという悪循環。
『こちら06ブルー! オートマシンと魔物が藤の里方面から大量に来た! 応援を求む!』
06の救援要請にマップを表示する。味方の勢力は青い点。敵対勢力は赤い点で表示されていた。
このマップ表示には白百合の力が大きく貢献されている。出撃する前にオニキスから空の魔石を託されていた。その魔法効力は索敵に特化しており、前線にまだ出せない彼女に打ってつけの役割だ。
前線基地で彼女は地図上に空の力で映しだした地図を照らし合わし、それを司令室にあるマップにも連動させて詳細な状況がわかっている。
赤い点が06の青い点を勢い良く囲んでいく。
囲まれないように動いているが、あまりの数にあっという間に囲まれてしまう。
「こんな時に! 04と05を急いで向かわせろ!」
『04レッド! こちらは動けません!』
『05レッド向かいます!』
04のいるエリアも赤い点が多く。下手に放棄すればグールは近くにある天乃里学校に雪崩れ込むのは必至だった。
滝下浩毅は舌打ちをする。
そこで彼はマップ全体を見渡す。どこもかしこも火の車状態だった。オニキス、グレートゴールデンドラゴンナイト、ローズクオーツの面々だけが赤い点を一掃していく。
『こちらローズクオーツです。私の砲撃行きます?』
「ダメだ。威力がありすぎる。ましてやその射線を地面に向ければめくり上がってしまう。今ソレをされると困る」
今の段階で大規模な破壊をされてしまうと、アウターヒーローであるローズクオーツたちの協力関係を結べなくなる可能性があった。少しでもここで彼女達にはヒーローらしい功績を上げてもらおうと、滝下浩毅は考えていたのだ。
『でも――』
『滝下さん。周囲の建物をぶっ壊してもいいですか?』
オニキスの通信に滝下浩毅は耳を傾けた。
「どうするつもりだ?」
『月の魔法を使います』
「効果は?」
『範囲内をランダムで魔法攻撃を降らす、大規模な殲滅魔法です。ただ、明樹保の光のように貫通力はないはずです。面での攻撃になります』
「はず?」
オニキスの通信越しに断末魔が司令室内を満たす。
『後で説明しようと思っていたんだけど、俺が覚醒させた魔石、あれ魔法の効力とか先代のオニキスの指輪がないと、さっぱりわからないんですよ』
ここに来て意外な情報に滝下浩毅は頭を抱えそうになった。
「だが、まあお前ならある程度ふっ飛ばしてもいいだろう。構わんやれ」
警察と公安の後ろ盾があるオニキスならば、ある程度大規模な破壊をもたらしても許されると彼は判断したのだ。
オニキスのこれまでの活躍を踏まえればある程度は目を瞑ってくれるだろう。と、好意的に考えるようにした。
「それでいいな? ローズクオーツ」
『はい』
彼女達を暴走させないためにも、オニキスの案を採用したのもある。彼女達は自分たちがやらなくてはならないと、強く思い込んでいる節があった。実際にその通りであるが、それでも彼らは彼女達にだけ押し付けることを良しとしない。
そもそも子供に矢面に立たせることは、彼ら大人にとって心苦しいものだ。例えタスク・フォースであってもそれは変わらない。自分たちが代われるものならと考えている。
「死ぬなよ……」
滝下浩毅のつぶやきは司令室にしか響かない。
黄金の輝きが空を覆い尽くす。それは超常生命体亜種1号を中心に巨大な満月を描いた。
満月は輝きを増していく。眼科に広がる街を煌々と照らす。闇を照らす輝きは、みるみる強くなる。
光がある一点まで輝きが増した時だった。
より強い黄金の光が地面に向かって閃く。それも1つや2つではない。無数に一直線に黄金の柱が超常生命体亜種1号を、グール達を、街を襲う。
アネットだったそれは、呻き声を街中に轟かせた。
建物や道路、家々が紙細工でできているのではないかと錯覚するほど、容易く破壊されていく。
砕け散った破片も撃ちぬかれ、巻き上がる砂埃も穿たれ、しばらくその光景は続いた。
「すごい……あれが大ちゃ……オニキスの月の力」
『周囲のグールの反応が大幅に消えましたわ』
アゼツライトの通信を受け、ローズクオーツ達は顔を見合わせて頷く。そして彼女達はアネットに向かって走りだした。
接敵できなくても少しでも前でグールの進行を止めるためである。
『エイダさんそっちはどうです?』
『こっちは大丈夫よ。神代たちも上手くやっているわ』
エイダは今、ローズクオーツたちとは別行動していた。戦闘が始まってしばらくして神代拓海、新堀金太郎の班が窮地に立たされたのだ。オニキスによって難を逃れたが、連絡係兼護衛としてエイダ自身が同行することを進言。そして今の形になっている。
クロムダイオプサイトは走りながら「来た」と仲間に警戒を促した。
「よっしゃあああああああああ!」
先にかけ出したのはガーネット。巨大な炎を纏い、そのまま走り抜ける。炎に触れた敵は燃えて灰になっていく。その後ろをローズクオーツ達は走り抜けていく。炎を逃れた敵が飛びかかってくるが、カーネリアンの雷、アイオライトの水、アメジストの糸により容易く迎撃されていく。
「そろそろアネットの攻撃圏内に入りますよ」
アイオライトの警告の直後に、濃緑色の蔓が空気を切り裂いて伸びてきた。カーネリアン意外は楽々に避ける。彼女だけはおっかなびっくりで動いているせいか、他のみんなよりギリギリで避けていた。
「あわわわ」
「しっかりして鳴子!」
「凪ちゃん私、今はカーネリアンだよ!」
クロムダイオプサイトに抱えられ、そのまま浮遊して蔓の雨を避けていく。カーネリアンは「ひゃあああ」と悲鳴をあげる。
「なっ! 皆さんでかいのが来ます!」
蔓が巨大な瓦礫を掴み投げ飛ばしてきた。
「私に任せなさい。そのまま走り抜けて!」
アメジストは紫の重力波を瓦礫に叩き込んだ。紫の球体の中で瓦礫は押しつぶされて消える。その下を明樹保達は走り抜ける。
「まだ遠い!」
「攻撃を避けながらってのが面倒だな」
『オニキス接敵』
ローズクオーツ達の耳に新しい情報が飛び込む。視線をアネットの方へ向けると、オニキスが接近して攻撃を叩き込んでいた。プリズムの輝きが瞬くが、空間が捩れるようにして、それらを防ぐ。
巨大な樹木がオニキスの足元より生え、オニキスを吹き飛ばす。彼は空中で態勢を立て直すと、着地と同時にアネットの周囲を走りながら回り続ける。彼が駆け抜けた後に蔓が勢い良く生え、地面をめくり上げていく。
「封印の力が届かない?!」
「それだけ空間湾曲領域が強いということでしょうか?」
「厄介ね」
「どどどどどうしよう」
「アイツの鼻っ面を殴りたいのにぃいいい!」
「私の砲撃なら届くかな?」
『余力を残してやってみて!』
エイダは『わかっていると思うけど、斜めに空に走るように撃ちなさいよ』と口を酸っぱくして言った。
「みんな少しの間お願い!」
ローズクオーツは言い終えると足を止め、両手を突き出した。桜色の巨大な光が一直線にアネットを襲う。
光に気づいたアネットは射線上に蔓と樹木の壁を顕現して、威力を殺そうと図った。だが威力は死なず、大木を、蔓を消滅させて突き進みアネットを襲う。
光の直撃と同時に空間が大きく歪む。しばらくは光を無効化するが、徐々に空間の捻れが小さくなっていき、光の押しとどめるモノは消失した。魔鎧も消え、アネットに直撃を与える。
アネットの咆哮が空気と地面を震わせた。
誰もが息を呑んで見守る。煙が立ち込め、アネットの姿を捉えることが出来ない。
『アゼツライト! 状況は?』
『待ってください! ……はっ! 皆さん逃げてください!』
オニキスの問いに、悲鳴にも似た叫び声が帰ってきた。
ローズクオーツ達は咄嗟にその場飛び退く。直後に大木が撓る鞭のように地面を叩いた。衝撃波だけで彼女達は周囲の建物に叩きつけられる。
あまりの威力にアスファルトの地面は、鈍器で抉られたかのように削り取られていた。
「くっ! 化物めが!」
ガーネットは誰よりも早く起き上がると、仲間たちを助け起こす。
濃緑の光が閃く。
巨大な炎の固まりが飛来してきていた。ガーネットは赤い炎を爆ぜさせると、それに真正面からぶつける。
濃緑の炎と赤い炎が激突。火の粉をまき散らし炎と炎はまるで意志が宿っているかのようにぶつかり合った。
「ガーネット!」
アイオライトが水で濃緑の炎の勢いそ削ぐ。青い水と赤い炎が濃緑の炎を霧散させる。
「司令室。火災旋風したいんだけど?」
クロムダイオプサイトはガーネットに視線を投げた。ガーネットは「あれか」とつぶやくと炎を両拳に顕現させる。
『敵に誘導は可能か?』
濃緑の蔓、濃緑の大木が矢継ぎ早に振り下ろされるが、黄色の雷と、紫の糸と重力により蹴散らされた。何本か抜けるが、藤色の輝きを纏うローズクオーツの掌底に爆ぜる。
「やってやれないことは――」
「ないな!」
少し不安の色を見せたクロムダイオプサイトの背中を押すように、ガーネットは力強く言い放つ。
「――みたい」
『みたい……か。……信じよう。やってくれ』
防壁を展開し終えた天乃里学校。ヒーロー、教師たちが息をついて安堵していたときだった。
空気がおどろおどろしく叫ぶ。
「なんだ?」
有沢卓也は不安に駆られ周囲を満たす。
あまりの不気味さに耳を抑える人も現れた。
彼の視線が駅の方へと向けられたところで止まる。
「嘘だろ……」
彼の眼前には火災旋風と言われる現象が起きていた。赤い炎の旋風が天高く上り、暴れまわっている。それが空気を不気味に震わせていた正体だった。
多くの人は世界の終わりを目の当たりにしたのかのように愕然とする。
「あれはなんだ?」
雨宮所属のヒーローたちは口々に、不気味な光景に意見を出し合いどうするべきか相談していた。
「問題ない。あれは仲間の攻撃だ」
黒いパワードスーツを来た女性はきっぱりと言い切る。
雨宮のヒーローたちも、有沢卓也も信じられないという顔となった。
「魔法少女だ」
誰かの呟き。それが誰かはわからない。だが、その言葉は瞬く間にその場にいる人に伝わった。
「魔法……少女……?」
有沢卓也のつぶやきに女性は小さく頷く。
「ここは貴方方に任せていいですか?」
「はい。貴方は?」
「私は仲間の元へ向かいます」
彼女の背後には火災旋風が轟々と唸っていた。
『除草剤とか効果があるんじゃないか? あれ樹だよな?』
『大樹と一体になっているということは、効く可能性はあるわ』
『なら超高濃度濃縮除草剤を用意しよう』
そのやり取りから早乙女源一は超濃縮除草剤を用意し、それをエイダ達に託した。
彼は今、タスク・フォースのラボで新兵器を開発している。整備班など、人員を総動員して開発しているため明日には完成する予定だ。
「用意がいいですね?」
『あれはファントムバグ達が生成する樹を除去するモノを、強化したものじゃ』
「というと?」
『普通の樹だと一滴で塵となるな』
滝下浩毅は口中で「後は魔法に効けば御の字……か」と画面を眺めたところだった。
火災旋風が空間の捻れとともに霧散する。
「空間湾曲領域再度回復!」
「魔鎧の方はどうなっている?」
『こちらアゼツライト。魔鎧も回復していますわ!』
『そんな? 明樹保の光の直撃を受けて魔鎧が瞬時に回復ですって?!!』
白百合の報告にエイダは信じられないと叫ぶ。
『こちらオニキス。超常生命体特有の異常なまでの回復力が関係しているのかもしれない』
滝下浩毅は「厄介な」と言い捨てると、各所の状況を報告させた。
『こちら01レッド。そろそろエネルギーがまずい。帰投出来るだけ持たない』
画面に表示されているタスク・フォースの面々のエネルギー残量は赤色に表示されている。
タスク・フォースのソルジャーチームの活動時間に限界が迫っていた。エネルギーが切れればパワードスーツはただ重いだけの棺桶となってしまう。
もちろん長期戦闘も考慮して、街中に緊急用のエネルギーパックが多数配備されている。
だが――。
「エネルギーパックの残量……もうありません! 基地にあるのを運び出すしかないです」
――マップに表示されているエネルギーパックがある場所は、どこもバツ印が出ていた。
「すぐに人員を構成。運び出させるんだ」
滝下浩毅は内心頭を抱えた。今基地にいる人員は全て新兵器開発に回っている。そこから人員を割いて、チームを編成させなくてはならない。つまり新兵器開発に遅れが出るということ。
おまけに人的損失も考慮しなくてはならなかった。
滝下浩毅が眉根を寄せていると――
『こんなこともあろうかと!』
――画面に雨宮蒼太が映し出される。彼は嬉々として笑っていた。
「なっ!? 社長? 今どちらに?」
『前線だ!』
雨宮蒼太の頭にはヘッドアップディスプレイが装着されており、背後には精密な機器が並んでいた。おまけに声と共にエンジンの轟音が司令室に届いている。
『時間も惜しいだろう! 手短にいくぞ。我々がタスク・フォースの回収を請け負う!』
「ですが」
『任せておきたまえ。それにな、滝下司令。私もたまには娘の前でかっこつけたいんだよ』
雨宮蒼太はそれだけ言うと、通信を切った。
「なっ……あの人は……」
滝下浩毅は諦めたように笑う。
「エネルギーパックはどうするつもりなのでしょう?」
「きっと雨宮の予備を使うのだろう。とはいえ、何があってもいいようにしておくべきだ。こちらの予備もいつでも運び出せる用意しておくぞ。特別私の指示が必要な場合はつなげてくれ」
滝下浩毅インカムをつけ、自ら倉庫に向かっていく。その後に男性オペレータがついていく。
女性オペレータはすぐに各地に指示を飛ばす。
「雨宮が回収に向かいました。一時撤退。繰り返します――」
私達は下水道の中を駆けずり回っていた。
暗く汚い道を走り回る。最初この案を考えたときは簡単に済むと思っていた。
だが実際にはそう簡単に行かず、息苦しいわ。グールは下水道にもいるわで辛いばかりであった。
「臭い!」
「そうね」
私の悲鳴を、金太郎は素っ気なく応対する。
「臭いわ!」
「エイダさん落ち着いてください」
拓海はなだめるように言っているが、彼の表情も険しかった。
あまり精神衛生上良いとはいえない光景がずっと続いているから、険しくなるのも無理は無い。
それでも酸素ボンベを背負いガスマスクをつけて、彼は私達についてきている。息も乱さず金太郎のペースについて走れるのは大したものだ。
下水道の中は酸素濃度が薄いらしい。タスク・フォースの装備や魔鎧を纏えない彼は、下水道に入るに辺りかなりの重武装を強いられていた。きっと体の中は汗まみれだろう。
そんな彼がいる手前、私が一番最初に不満を漏らすのは、筋違いなのかもしれない。だが、魔鎧は自らの身を守れても臭いまでは消せないのだ。
真空の中を活動できる魔鎧とはいえ、臭いに耐性がないのは何かの間違いであって欲しかった。
曲がり角の向こうから唸り声が響く。声からさっするに数は少ない。
「グールだな」
「あれくらいの数なら私が対処します。新堀さんはエネルギーの温存を」
金太郎は「悪い」と言うと、銃口を地面に向けた。
拓海は1人先行して曲がり角に曲がっていく。グールたちも彼の存在に気づいたのか、唸り声が激しくなった。
しばらくすると肉を打つ音と、何かが砕ける音。そしてグールの断末魔が曲がり角越しに聞こえてくる。
追いかけて曲がり角を曲がると、返り血1つ浴びてない拓海が、涼しい顔で立っていた。
「終わりました」
「あんたスキルデータ打っておいた方がいいよ」
拓海の強さは生身にしては過ぎたる強さだった。十数体のグールに囲まれても銃を引き抜かずに返り討ちにしたのは、幻でも見ているのかと我が目を疑った。
「いえ、自分はそういうのは考えてないので」
拓海は堅苦しく答える。金太郎はそんな彼の返答に気にしたふうでもなく「そうかい」と応じた。
「これで最後だな」
金太郎の視線の先を追う。そこには樹の根が下水道をぶち破り、地に深く食い込んでいた。
彼は手に握っていたアタッシュケースを開く。素早く機器を取り出し、樹の根にあてがっていく。
遠隔装置で起動する注入器だ。
念には念を入れて、8つの除草剤を同時に注入させる。さすがに1つや2つだとアネットが対処できる可能性があった。
超常生命体の超回復力など、自身の体を引きちぎるや、実は体内に本体がいるなど、色々と考慮した結果である。
「樹の根まで空間湾曲領域が展開されて無くてよかったぜ」
「あまりにも巨体過ぎるから、全てをカバーしきれていないのでしょう。ですが、今はそんなことはどうでもいいです」
金太郎は笑って「そうですね」と言うと機器の設置を終えた。
私は設置が終わったのを確認して明樹保達に念話を飛ばす。
『一度引いて、明日まで休みなさい』
『でもグール達はどうするの?』
それに関しては先ほど白百合からの連絡で「全ての生存者は街の外、または確実に安全な避難所に移動完了した」とあった。街に満ち溢れても命ヶ原の外にもヒーローたちが待機している。
タスク・フォースのソルジャーチームも引き始めている状況だ。こちらも一度引いて、態勢を立て直したほうが懸命だろう。
明樹保達は渋々『了解』と答えた。
超常生命体亜種1号は突如呻き声を上げる。その不吉な叫び声は隣の藤の里まで轟いていた。
「何?」
明樹保の視線の先には、苦しむアネットの姿。
グールの生成速度が目に見えて激減する。勢いもなくなり、よたよたと歩いてはちょっとした段差でも転ぶほど弱々しくなっていた。
『どうした?』
「こちらアメジスト。わからないわ。突然苦しみだして……」
『こちら00ゴールド。まだ作戦を実行に移していないぞ』
『こちらアゼツライト……なんか大きかった力が小さくなっているような……そんな風に見えます』
突然地鳴りが響き渡る。明樹保達は咄嗟にアネットから距離を大きくとった。
全力疾走で走りぬけ、振り返る。そこには自分たちの主を守るかのように、大木が地面を吹き飛ばし勢い良く顕現していた。
アネットを中心に200メートル全てが大木に覆われ、彼女を責めさせまいとその背丈を伸ばしていく。
『守りに入ったか……』
「なら一発撃てばいけるんじゃ?」
『ダメだローズクオーツ。下手に刺激すると向こうもなりふり構わず攻撃してくる可能性がある。いいね?』
「わかった……」
優大に諭された明樹保は、俯き加減に基地へと向かった。
基地に戻った明樹保達を待っていたのは、疲弊しきっていた烈たちだった。彼らは倉庫の地面に倒れ伏していたのだ。
声をかけようと明樹保は歩みよるが、烈の表情を見て断念。
「すごいですね」
「特に烈達は前線に出張っていたからな」
明樹保の背後に金太郎が立っていた。突然現れたように感じた明樹保は、飛び跳ねる。
そんな彼女に金太郎は「悪い悪い」と謝った。
タスク・フォースソルジャーチームが疲れを見せているのだ。警察、ガードチームの面々がどうなっているのかは想像に容易かった。
彼らは彼女達の様子を見て、皆一様に同じ反応を見せる。驚愕だ。誰よりも最前線で、長時間激しい戦闘をしていた明樹保達は、疲れた表情をまったく見せなかったのだ。
畏怖にも似た眼差しが彼女達に向けられていた。
そんな中、明樹保達の耳に「殉職」という言葉が入ってくる。
疲れた表情を見せた制服を来た警官が仲間に、話していた内容だった。
彼らの仲間たちがグールにやられたという。明樹保はその話に下唇を噛む。
どんなに強い力を持っていてもそれで守れないのでは意味が無いと考えていたのだ。
「あきちゃん。早くブリーフィングルームに向かおう」
「はい……でも」
明樹保はその場から動かず俯いていた。どうすることも出来ない無力感に彼女自身どうしていいのかわからないのだ。そこへ黒い影が彼女を抱え上げた。
オニキスである。
彼はそのまま有無を言わさず、明樹保を連れて行った。
「だ、大ちゃん?」
「悪いけど、時間を無駄にしたくないんだ。急ぐよ」
オニキスは努めて冷徹に言う。
ブリーフィングルームに来て、彼はようやく彼女を解放した。
「疲れているところ、すまないな」
「あ、いえ……」
部屋に入ると各々思い思いの場所に座る。全員が座り終えたのを確認して、滝下浩毅は口を開いた。
「何が原因かわからんが、敵の勢いが弱まった。今のうちに全員休息をとってもらう」
「心当たりは?」
金太郎の問いに、滝下浩毅は首を横に振る。そして部屋を見渡した。視線で「誰か心当たりは?」と問うが、皆の様子は彼と同じく心当たりがないと言った様子だ。
「可能性としては……龍脈絡みかな」
そんな中オニキスだけは推測を口にする。
「龍脈? そのようなものがこの街に走っているんですか?」
水青の言葉に全員が彼に視線が集まるが、彼は「走っていると言えば走っているらしい」と答えた。
「らしい……というのは?」
「大にしては、えらく歯切れが悪いじゃない」
「昔聞いた話で記憶が曖昧なんだ。龍脈には本流の他に枝流がある……だったかな。……血管のように大動脈みたいな流れと、毛細血管のように小さい流れね。その小さい流れがこっちのほうにあるっていう話をその昔聞いた気がするって程度」
話の途中で暁美が首を傾げているのに気づいた優大は、噛み砕いて説明する。
「それが本当だとして、どうやってそれが超常生命体亜種1号に悪影響を及ぼすんだ?」
金太郎が「流れを止めたんじゃないか?」と頭をかきながら言う。
「霊力関係のヒーローがなんかしてくれたんじゃないか? そこら辺の事情はタッキーの方が詳しいだろう?」
滝下浩毅は顎に手を当てて考えこむ。そして、時計が視界に入ると頭を振って思考を止めた。
「とにかくだ。何はともあれ、東南の風が我々に吹いてくれたわけだ。この機を逃すわけにはいかない。突然の襲撃に防戦一方になったが、明日反撃をするために、ここで打ち合わせをしておきたい」
滝下浩毅は警察から報告させる。神代拓海が立ち上がり、メモ書きを見ながら報告を始めた。
「まず、オニキスが言っていた通り、半径500メートルから先は植物による攻撃はできないです。炎の攻撃はさらに遠くまで届く模様ですが、最高射程はわかりません」
須藤直毅が立ち上がり、続けて報告を入れる。
「警察関係者から出た殉職者は今のところ12名です。まだまだ人的余裕はあります」
その言葉に明樹保は食って掛かろうとして、オニキスに手で遮られた。
明樹保は視線で抗議するが、オニキスはそれを無視する。
神代拓海はさらに続けた。
「幸いにも前回の戦闘の経験が役に立っています。グールは今回も同じタイプで、頭部の損傷を与えられれば絶命します。なので、機動隊と連携してグールと真正面からやりあえます」
「グールの組織的行動パターンもわかりました。彼らは最大30体で行動します。それ以上大きな集団になることはありません。ファントムバグに見られる集団行動を指揮する存在は確認できませんでした。ですので、全部を相手にしなくてはならないです。知能はさほど無いので高所に逃げれば、数が多くとも対処はできます」
次に報告を始めたのはスミス財団の私兵であるエドワードだ。
「つまるところ、グールは我々だけで充分ということだな」
明樹保達意外はその言葉に強く頷いた。
「ま、まさか皆さんだけ……で?」
鳴子は恐る恐る聞く。
「そうだ。明日は我々だけでグールを相手にする。君たちは高所を使ってアネットに接敵してくれ。オニキス君もだ」
オニキスは短く「了解」と答えた。
「そんな! 私達が倒せば確実です!」
「そこを我々に任せてもらいたいのだ」
明樹保の言葉に滝下浩毅は笑って答える。
「あのアネットを殺すには、魔鎧を消し飛ばし続けないとダメだ。そしてそれは俺達の魔法を全部ぶつけて、なんとかなるかならないかだと思う。となるとグールに魔力を消費なんかしてられないんだ」
オニキスの言葉に明樹保は食い下がる。
「大ちゃんの封印でなんとか出来ないの?
「封印の力は直接あいつの核に打ち込めれば、一時的に能力がなくなるかもしれないけど、それを狙うよりかは、直接魔法をぶつけた方が確実だ」
「そんな……」
「んじゃあ、この俺がまだ残っている魔物を担当しよう」
黄金の輝きを惜しげも無く振りまく。それはグレートゴールデンドラゴンナイト。彼は自身に指を指し、胸を張って声高に宣言した。
「そうしてくれると助かる。魔物に関しては我々では時間がかかりすぎる」
「エイダさん、斎藤と白河には、俺達に仕掛けてくる魔法攻撃を迎撃してくれ」
エイダは柔らかく「任せて」と言う。
オニキスは「破壊の能力でも相手の魔法を破壊することができるから」と赤い指輪を斎藤に渡す。
「つまり私が攻撃を読み切り、彼がそれを全部迎撃する必要があるのですね」
オニキスは「ああ」と答える。
「え? でも、なんで俺?」
「魔力の素養あるんだろう?」
「あるけどよ……」
斎藤はうなだれるように背を丸めて「責任重大だ」と重圧に潰されそうになっていた。そんな彼を白百合は背中を擦って鼓舞する。
「なら決まったな」
滝下浩毅はもう一度繰り返すように説明した。
「まず魔法少女チームとオニキス、そして斎藤。君たちは全員グールとの戦闘を回避して、超常生命体亜種1号に接敵。これに魔法攻撃を叩き込んでくれ。我々はグールを対処する。魔物はスミス財団とグレートゴールデンドラゴンナイトが対応する。君たちが魔法攻撃を開始すると同時に、超高濃度濃縮除草剤を起動させる」
金太郎達が遠隔装置を見せつける。彼は態度で「いつでも起動できるぜ」と言っていた。
『さらにじゃ! 明樹保君達の攻撃が敵のコアに届かないことを考慮して、我々が今用意している試作型のフォトン・スナイパーライフルによる遠距離からの射撃。弾丸はプラズマエナジーを超収束――』
「あーはいはい。すごい威力のスナイパーライフルね」
オニキスは早乙女源一の話が長くなると察して、話を無理矢理切った。
「それの射撃は我々司令部に任せてもらいたい」
「おいおい。それじゃあタッキー怪我するぞ。物凄い威力なんだろう? 放射熱だってやばいはずだ。ただじゃ済まないぞ。俺が残る」
滝下浩毅は首を振ってその提案を却下する。
「いや、お前は念の為に戦場に向かっておいてくれ。怪我も火傷も覚悟の上だ」
彼はさらに金太郎に念を押す用に「いいな!」と凄んだ。
その後軽い打ち合わせをした後、作戦会議は終わった。
明樹保達は個室をあてがわれ、ゆっくり休むようにと厳命される。もちろん何か異変が起きればすぐに起こすことを彼らは約束したが、明樹保は釈然としない様子だった。
「なんか寝れない」
「で、なんで俺の部屋なんだよ」
優大にあてがわれた個室に全員集まっていた。最後に来たのは明樹保だ。さすがに個室では優大もジョンも人の姿に戻っていた。
「いいじゃねーか。このジョン・鈴木は不安なのだ!」
「自信満々に言うことじゃねーだろ」
「みんなも同じこと考えてたんだー」
「あの、明樹保さんたち。一応男子の部屋ですよ?」
全員満面の笑みで「信頼しているから」と言う。その言葉に優大は額に手を当てる。
「なんか怖くてね」
「寝ている間にすべて終わってしまうんじゃないかって」
「1人だと考えこんでしまって」
「いいじゃんゆう。美女に囲まれているぞ」
「自分で言うな」
最初は優大の個室にジョンと斉藤が現れたのだ。もちろん彼らも不安からである。3人で話が盛り上がっていると、凪、鳴子がやってきた。その後は紫織、暁美と白百合と水青、最後に明樹保である。
「私だけ1人だなんて」
「ごめんごめん。あきなら真っ先にいると思っててさ」
「今丁度呼びに行こうと思っていたところよ」
紫織は柔らかく笑う。そんな様子に優大は困ったように笑う。
「まあ、こうして集まってだらだら喋りながら、だらだら寝るのがいいかもな」
「わーい。ありがとう!」
「寝る時ぐらいは個室に戻ってくれよ?」
一同拒絶。優大は「どうやって寝るんだ」と、抗議するが。結局女子が全員ベッドの上で雑魚寝。男子は地べたで寝るということで落ち着いた。もちろん優大以外はだが。
「なんでだよ」
「いいじゃねーか」
「なんか楽しくなってきた」
「お前ら呑気でいいな」
優大は半目して、ジョンと斉藤を眺めた。女子も女子で修学旅行的なノリで盛り上がり始めている。ので、優大は「やれやれ」とつぶやいて諦めた。
「戦いが終わったらみんなでこういうことしたいなー」
明樹保の何気ない一言に、全員が沸き立つ。
「いいなぁそれ!」
「佐藤も混ぜてやってくださいよ」
ジョンと斉藤は楽しそうに煽る。
「家族全員参加してもらいたいなー。迷惑かけたし」
暁美の言葉に水青は頷き続けた。
「では私の父にお願いしてみますね。皆さん家族をお連れしてどこかへ泊まりに行きましょう」
水青は楽しそうにプランを練る。
「ところで全員ってどこからどこまで?」
凪の疑問に水青は「全員です」と笑う。
「おいおい水青。それってまさか……」
「はい。文字通り、この戦闘に関わっている皆様です。大丈夫です、雨宮に金銭的余裕はあります」
「わあ……凄い……」
鳴子は夢見るように顔をほころばせる。
「お姉さまと親睦を深めるチャンス!」
「わあ! 擦り寄るな!」
「ちょっと騒がないで。一応ここに大人が来たら散らされるわよ?」
「少しくらいいじゃんかよ。頭でっかち!」
「なんですって、この不良」
「さらに騒いでやるもんねー」
そこで扉が開く。全員が身構えていると、新堀金太郎が立っていた。彼は「ほらよ」と言うと、お菓子と飲み物を大量に部屋に置く。
「んじゃ」
扉が閉まると、静まり返る部屋。
「これで騒げってことか!」
ジョンがお菓子を中央へと運ぶ。
「盛り上がるのはいいが、騒ぐな」
優大は呆れるように、お菓子を開けると口に運んだ。それを皮切りに全員はお菓子をつまみながら、ジュースを飲み。会話に花を咲かせる。
翌朝。フォトン・スナイパーライフルの完成が彼らの作戦の開始の合図となった。
それをもって明樹保達は即座に変身、アネットに向かって全力疾走で向かっているところだ。
道中グール達を見かけてはそれを無視してアネットまで後600メートルというところまでやってきたが、ローズクオーツの足が突然止まってしまう。
「あき、どうした?」
すぐにガーネットが駆け寄る。
「本当にこれでいいのかな?」
「それは……良くないかもしれないけど、それがあたし達の役目だろう?」
「そうです。私達が早くアネットを倒せばいいことです」
「私達にこの街の命運がかかっているわ」
「私達の役割を果たそう?」
オニキスはそんな彼女達の様子を眺めるだけだった。アメジストが何かを促したが、首を横に振ってそれを拒んだ。
「私達ならみんな救える! だからグールだってここで倒しておくべきだよ!」
「やれやれ」
オニキスは言葉を残して先に進んだ。
彼は何を求められていて、何を成さねばならないのかわかっているからこそ、明樹保達を置いて先に進む。
「あ、ちょっと! もう……」
エイダはしばらく考える素振りを見せた後、明樹保に語りかけた。
「ねえ、明樹保。貴方は強くて優しいから、みんなのことも考えてしまうのはわかるわ。でも、滝下達のこともわかってあげて」
「なんで? だってそれじゃあ――」
「お願い聞いて。あの人達は貴方達子供を、最前線に送り出さなくちゃならない。そんな辛いことをしているのよ」
そこで明樹保達は四白眼となる。
「貴方達は強い。強すぎるからその事を見落としがちになっちゃう。タスク・フォースだからとか、警察だからとかじゃないの。大人だから、大人は子供を守るものだから。だから、貴方達子供を最前線に送り出すことに、非常に心を痛めているの。だから危険な場所だとわかっていても、自分たちの命が危ういとわかっていも、子供である貴方達だけにしておけないのよ」
彼らは同じ場所に立てないことを歯がゆく思っていた。子供を送り出すことしか出来ず、自分たちが出来るのは精々露払い程度。大人たちの立場なんてのは、それこそ考えるまでもない。
「そうね。私達その事をわかっていなかったわね」
紫織は静かに言い、先にオニキスを追いかけていく。
「そういうのって言ってもらわないとわかんないっつうの」
「ウルサイですわよ。わかったならさっさと行く」
斎藤は「へいへい」と答えると、白百合を抱えておっかなびっくり追いかけていった。
「私……今やらなくちゃいけないことをやる」
「役目だからってことでわかったつもりでいたわ」
「私もです。慢心しておりました」
「そうね。そういうの忘れちゃダメだね」
「私達まだ子供だもんね……」
「私が貴方達をそうさせてしまったの。頼りきってしまったから貴方達は強くなってしまった。ただそれだけ。でも、今はその強さにとらわれないで」
明樹保達は強く頷くと、オニキス達の後を全力疾走で追いかける。その軌跡は一切のブレがなく。ただまっすぐに、駆け抜けていった。
遠くの方で色とりどりの輝きが閃く。太陽の光より眩しく感じるそれを確認して、金太郎は遠隔装置を起動させる。
「ぽちっとにゃ」
周りの警官達は迫るグールを迎撃していく。
「頭を狙え! 時間も弾も無駄になるぞ! 相手の動きはゆっくりだ!」
須藤直毅は声を枯らしながら叫んだ。
「そちらはどうです?」
涼しい顔で神代拓海は金太郎に尋ねた。だが彼は間髪入れずにグールの頭部に拳を叩きこむ。
砕ける音と果物が潰れるような音がグールの頭から響いた。霧散する前にグールの亡骸を掴んで振り回し、相手の進行を邪魔する。消える手前で投げつけて転ばせた。
転んだグールは警官達が頭部に銃弾を撃ちこんでいく。
「んーっと、反応してるのかな?」
金太郎の言葉に、その場にいる者達は不安に駆られる。が、すぐに効果が現れた。
超常生命体亜種1号は、今までに聞いたことがない。断末魔にも似た声を爆ぜさせる。
「効果は抜群だってね。そっちの首尾は?」
『エネルギー充填中だ。設置に時間がかかってしまった』
通信越しの滝下浩毅の声は少し緊張している。息が荒いのだ。
金太郎は「やれやれ」とわざと優大の真似をして、大仰にアクションした。
そこへ彼らにとってトラウマになるような唸り声が空気を震わせる。
「おっと、俺もお仕事しますか。そっちは任せたよ」
『いや、待て金太郎。お前たちは――』
「え?」
その報告に金太郎は声を上げた。
オニキスは全員が揃うことを信じていたのか、大木の壁の前で悠然と待ち構えていた。
明樹保達がやってくると振り向くこと無く「いくよ」と言うと同時に、封印の魔法を発動させる。眼前に放つと、壁のように生えていた大木は粉々に消失した。
「始めるよ」
オニキスの言葉にローズクオーツ達は頷き答えると、そのまま一気に走り抜ける。道中大木がその行く手を阻み、蔓が攻撃してくるが、アゼツライトの指示の下、斎藤とエイダはローズクオーツ達をそれらから守りぬいた。
彼女達はアネットの100メートル手前で、アネットと対峙する。
「いくよみんな!」
ローズクオーツの言葉に全員が首肯した。
全員が全力の魔法を発動させる。気合の雄叫びが空気に木霊する。
桜色の輝きが一閃。雲ひとつ無い青空に一筋の線を描く。
ローズクオーツの光の魔法は周囲の大木すらも消失させた。他の者達は彼女より一歩下がった地点から魔法を放つ。光の魔法の影響の大きさが伺える。自身らの魔鎧が消失する危険性があったのだろう。
「カーネリアンあんまり離れないで。アネットの攻撃が来るわ!」
しかし下手に離れすぎると、アネットからの攻撃にさらされる可能性があった。
カーネリアンの近くの地面を突き破り、蔓が槍のように鋭く一閃する。寸でのところで斎藤がそれを破壊した。
光の魔法のお陰で地面からの不意打ちは免れていたのだ。つまり離れすぎると、問答無用で地面から生えてくる蔓に串刺しにされる可能性があった。
突如アネットが苦悶の咆哮を上げる。
「除草剤を使ったのか」
オニキスの言葉に樹の根元に視線を投げると、恐ろしい勢いで枯れていくのが目に入った。
「このまま行けばいけます!」
「しっかし、魔鎧の回復が速くないか?!」
水青の鼓舞に暁美は不安を零す。
「大丈夫よ」
「こっちは全員いるもん!」
凪と鳴子が後押しする。
「負けられない。負けられないの!」
「これ以上大切な人を失いたくないから!」
紫織は叫び、明樹保は直の指輪も輝かせた。
「いっけぇええええええええええええええええ!!」
アネットの咆哮と明樹保達の絶叫が交差する。
「みんな飛ばしすぎ! 魔力の消費が少し早いわ!」
エイダは注意を促す。だが彼女も内心それを理解していた。あまりにもアネットの魔鎧の回復が早いのだ。
エイダは「これが超常生命体の力」と言いながら、優大を眺める。彼は今持っている桜の漆黒の指輪を全力で放っていた。
月はあまりにも範囲攻撃が広すぎるのと、味方への誤爆から使用していない。封印も敵の攻撃を封じることしかできない。必然的に闇の力を内包している漆黒の指輪を使用せざる得ない状況となっていた。
そこでエイダはあることに気づく。
「オニキス! 月は直上にしか設置できないの?」
「え? ああ、そうか!」
言われて彼はすぐに黄金の輝きを閃かせる。
前面に広がったそれは、エイダ達の予想外の効果を示した。
「え? ええ?!」
月の輝きがローズクオーツ達を包んだのだ。全員に黄金の光が波紋のように伝わっていく。
それと同時に魔法の威力が増大した。
「そうか! 増幅は俺以外にも効果があるのか」
彼は何度も頷くと、黄金の輝きも強めていく。
アネットの魔鎧の回復が間に合わなくなっていく。
「これで行ける!」
エイダが確信してつぶやく。
「まだ粘っているな!」
金太郎は目の前に迫るグールを素早く撃ち抜いていく。
「ええ。このまま我々も援護に回りましょう」
神代拓海は残った敵を素早く片付けた。スーツ姿であることを忘れてしまう軽快な動きに、金太郎は「ヒーローじゃないのが不思議だよ」と漏らした。
なにせ彼はパワードスーツを着て全力疾走している金太郎に、平然とした顔で息ひとつ乱さずついてきているのだ。ちなみに他の警官たちは車に乗って後ろからついてきている状態だ。
「鍛えていますから」
「いやいやいやいや」
神代拓海は「鍛えればこれくらいできますよ」と微笑みながら、倒れた電柱を全力疾走しながら拾い上げて、前方にいた魔物達をそれで薙ぎ払う。振り払われた電柱は途中で砕け散り、破片をまき散らす。
「嘘だろ……」
「ええ、まさか電柱が砕けるほどの防御力とは」
金太郎は「そっちじゃねぇ!」と叫びながら、まだ息のある狼の魔物の頭部を撃ち抜いた。
「しっかしマジで総力戦だな」
『上手いことやっただろう?』
金太郎の言葉に滝下浩毅は得意気に答える。
「どんな交渉術を使ったんだ?」
『簡単なことだ。ここで負けたら被害が他の街にも行くかもしれない。ので、早期に対応されたほうがいい。と、お役所達に納得させたまでだ』
「これを機会に、担当地区外のローカルヒーローの援護が可能になるといいですね」
『なんとしても足がかりとするさ』
滝下浩毅は力強く誓う。スピーカー越しに、フォトン・スナイパーライフルの不調を知らせるオペレータの声が矢継ぎ早に飛んでくる。それに対して滝下浩毅は『一発撃てればいい』と叫ぶように応答していた。
それに対してオペレータは「爆発するかもしれないんですよ」と応じている。
その言葉を聞いた一同はお腹の中の内蔵が溢れるような錯覚に襲われた。
「まあ、備えあれば憂いなしの武器だしな。使えないままが一番いいな」
『でもないです!』
アゼツライトの今にも泣きそうな通信に、一同は顔を白くする。
「何があった?」
神代拓海が代表して、問い返す。彼は努めて冷静に優しく聞くことを意識していた。
『敵の魔鎧を消し飛ばしても、ローズクオーツ達の魔力が持たないのかもしれないのですわ!』
『まずいっす! グールがまだいやがる! 白百合下がれ!』
斎藤の叫びにアゼツライトは悲鳴にも似た声を上げた。
「くっそ! タッキー爆発しても撃てよ!」
『わかっている! そっちも早く合流しろ!』
「わかってらぁ!」
事態が悪化したと察した神代拓海は、速度を上げて一足先に抜けだす。一気に駆け抜けていく。彼は振り向くと「先に行きます」と、相変わらず涼しい顔のままで突っ走っていた。
「だから! なんでなんも能力もない人間があんな速さで走れるんだよ!」
金太郎はムキになって追いかける。
目の前の巨大な敵が蠢くと、枯れ果てた樹の根元からグールが大量に這い出てきた。
「まだこんな数が?!」
エイダは即座に若草色の針を疾駆させる。寸分狂いなくグールの頭部を撃ちぬく。最初は敵を足止めするが数が多すぎて、次第に押され始める。
「くそったれ!」
叫ぶ斎藤はフォトン・ライフルを乱れ撃ち、エイダを援護した。それでもグールが這い出る勢いは収まらない。唯一の救いは昨日のような俊敏さが無いことだけだ。
エイダの攻撃を抜けた敵が、通信をしていたアゼツライトに迫った。
「――白百合下がれ!」
グールはアゼツライトに接敵するが、斎藤がそれを阻止する。
オニキスに借りた赤い破壊の力を発揮して迫るグール達を拳打で粉々に打ち砕く。アゼツライトはすぐに態勢を立て直し、同じくオニキスに借りた蒼穹の空の能力で戦場を見通す。
「周囲に魔力反応! 来ますわ!」
「ちぃ! エイダさん!」
斎藤とエイダは回りながら、迫る蔓を、大木を破壊する。その間にもグール達はまっすぐにローズクオーツ達に迫っていく。
一本大木が抜ける。
「しまった! 逃げて!」
一直線にカーネリアンに向かう大木。
それに気づいたカーネリアンも顔を青くするが、真紅の輝きが大木を爆ぜさせる。
「え?」
オニキスは面当てに当たる口の部分から赤黒い牙を剥いて咆哮する。
「しゃらくせぇえええええええええええええ!」
灰色の鋼。真紅の爆発。水色の氷が周りの大木を薙ぎ払っていく。
それらは先の戦いで敵から奪った魔石。それを彼は使ったのだ。
「オニキスの魔力が!」
「俺は魔力が切れても戦える! 大丈夫です!」
「まだ来ますわ!」
周囲の木々の根本からもグール達は這い出てくる。それらは自分たちの主を守るため、目の前にいる獲物で腹を満たすため、敵に向かってゆったりと歩んでいく。
突如濃緑の炎がアネットの口中から溢れる。それはまっすぐ明樹保達を襲う。
オニキスは視線を後方に流し、何かに気づく。
攻撃を喰らうことを覚悟で目をつむった明樹保たちだったが、それはいつまでも経ってもこなかった。
「待たせたな! このグレートゴールデンドラゴンナイト様が来たからには――」
「はいはい。いいから周りの敵もぶっ潰すよ」
そこに現れたのは彼らの仲間。グレートゴールデンドラゴンナイトと烈達だった。
「烈君? どうしてここに?」
「今は08レッド! OKローズクオーツ?」
烈の言葉に明樹保は頷く。
「外にいたヒーローたちが街中にいるグールを相手にしてくれることになった」
オニキスは「てことは、あいつらも来ているのか」と小さくつぶやく。
一陣の風とともに神代拓海が駆け抜ける。徒手空拳で敵と大木を薙ぎ払う。銃を引き抜くと、一瞬でリボルバーの弾倉を空にさせた。
乾いた破裂音が数度ほぼ同時に鳴り響くと、頭部を撃ちぬかれたグール達は力なく、地面に倒れ伏す。
「なんで、この俺たちだけじゃなく、命ヶ原の戦力総動員だぜ!」
視線を背後に向けると、そこには警察、タスク・フォース、スミス財団、雨宮のヒーローたちが到着すると同時に攻撃を開始していた。
「待たせたな! いや、ヒーロー的には最高のタイミングか?」
「いや、そうでもないです」
オニキスの冷たい言葉に金太郎は頭を抱える。
「そこは少しはデレてよ! ――別に嬉しくないんだからねっ!――みたいな! ってうわっとっと!」
金太郎は喋っていると、蔓が彼の足元を貫いた。
ローズクオーツ達に迫っていたグール達は大人たちが、友人達が蹴散らしていく。
「アイオライトに攻撃が!」
アゼツライトの言葉にいち早く反応したのは、黒いパワードスーツ着た女性だった。
迫る蔓は、高周波ブレードにより斬り裂かれ、力なく地面に落ち霧散する。
「彩音さん?」
女性は無言で頷き、自身の守るべき主のために剣を奮う。迫る障害を排除していく。
クロムダイオプサイトは「まるで忍者ね」と評した。後ろでガーネットは「ニンニン」と笑いながら言う。
「もう! せっかく攻勢に転じれるんだから真面目にしなさいよ不良!」
「それとこれとは関係ないだろう! 頭でっかちの生徒会長!」
アメジストとガーネットは顔を見合わせて笑った。そんな様子にカーネリアンも笑う。
「みんないくよ!」
ローズクオーツの言葉に全員が思い思いの言葉で答えた。
「主、義手の具合はどうでしょうか?」
ルワークは「悪くない」と言いながら、人差し指から順に指を折り曲げていく。
前腕に埋め込まれていた魔石は銀色に輝いていた。
「ただの魔力増幅としか役に立ちそうにないです。申し訳ございません。私の技術力が足りないばかりで、主にご不便をかけてしまうとは」
言葉の最後の方はいつもの様に泣きながらである。そんな様子に哀川奈々はホッとしたように胸を撫で下ろす。
「で、どういう状況だ?」
「我が説明しよう」
オリバーはルワークの前へ一歩歩み出る。
「簡単に言うと目論見は外れた」
「ほぅ……やはり強いな。仲間にできなかったのが惜しい」
オリバーは苦笑いする。言葉とは裏腹に自身の主は、機会があればまた彼女らを引き込む気でいることがわかったのだ。
「多少の混乱と、損害は与えられたと見ていいが、大きな損害には至っておらぬ」
「それどころか、ここ藤の里他のローカルヒーロー達との連携に出ております」
志郎がオリバーの話しを奪い、早口で報告していく。
「そして一番の大誤算が、雨宮のヒーローです。企業のヒーローが助けに動くとは……」
志郎は歯を剥きだして、悔しそうに地団駄を踏む。
「我の責任ですな」
「いや、仕方がない。アネットの独断が大きい。それに間を置かずに攻撃出来たことを良かったと思うべきだろう」
「いえ、それだけではありません」
いつの間にかいつもの様子に戻っていた志郎は不敵に笑う。
「彼らを倒す作戦を考えました。上手く行けば捕縛することも可能でしょう」
アネットは悪足掻きに濃緑の炎を何度も吐き出すが、それらは黄金の炎に全てかき消された。
「はっはぁん! てめぇの炎なんて23号に比べれば鼻くそだぜ!!!!」
グレートゴールデンドラゴンナイトは吠えるように言うと、勢いそのままに黄金の旋風を敵に叩き込んだ。それも一息に3度も。
周りにいたグール達は掃討され、タスク・フォースの面々はフォトン・ランチャーを構えていた。それに倣い、スミス財団もフォトン・ライフルを構える。雨宮のヒーローたちも遅れて構えた。
「カウントは私が取ります」
崎森彩音は対戦車ライフルを彷彿とさせるフォトン・ライフルを構えて言う。
手の空いた警察も、射撃を開始する。
グレートゴールデンドラゴンナイトの黄金の旋風以外の攻撃は、魔法と比べれば弱い。だが、それらは決して無駄ではない。徐々にそれらが積み重ねられ、魔鎧が、空間湾曲領域が減衰していく。
「敵の魔鎧回復速度減少! いけるわ!」
エイダは叫ぶ。
「届けぇぇええええええええええええええええええええええええええ!!」
明樹保は、水青は、暁美は、凪は、鳴子は、紫織は、白百合は叫ぶ。
彼女達の脳裏には2人の人物が過っていた。須藤直と桜木保奈美。
乾いた破裂音が、オレンジの光弾が、黄金の炎が、色とりどりの魔法がアネットの魔鎧を、空間湾曲領域を消し飛ばした。
「やった! え? 嘘?! 魔力が切れた!」
明樹保達は全員魔力が切れ、変身が解けてしまう。
「イーッヒッッヒッヒッッヒッヒ! どうやらお前たちの負けのようだわさ!」
濃緑の輝きが光り、アネットは自身の大樹の体を修復していく。
明樹保達の眼前に大樹の龍が聳え立つ。龍は勝利を確信して、犬歯を剥いて見せた。
それを見上げる彼女達の顔は青い。
「あ……」
「大丈夫だよ」
オニキスは柔らかく、彼女達に言う。
『タッキー今だ!』
通信越しの金太郎の声に、滝下浩毅は心中で「もう狙いはつけている」とこぼした。
タスク・フォースの整備兵たち全員で、フォトン・スナイパーライフルを押さえつけ、滝下浩毅がそれの照準と、引き金を担当している。
ここにいる全員は武器が爆発するかもしれないことを重々承知していた。
武器が爆発して死ぬかもしれない。そのことを聞いた滝下浩毅は微笑みながら「やっと私達も命をかける戦場を得たな」と言った。
その表情は誇らしげだ。
「保奈美……どうか私に力を貸してくれ」
本人は心の中でつぶやいたつもりだったが、その言葉は周りにいる者達にはっきりと聞こえていた。
照準の先には、超常生命体の胸部にあるコア。そこは弱点である。
濃緑の輝きを纏うと、一瞬だけ動きが止まった。その瞬間を滝下浩毅は見逃さなかった。
引き金を引くと、オレンジの光弾が一直線にコアに走る。
「ぐあ!」
あまりの衝撃に押さえつけていたスタッフも、滝下浩毅でさえも吹き飛ばされた。
「当たれぇえええええええええええええええええ!!」
滝下浩毅は叫ぶ。直後に爆炎が彼らを覆う。
滝下浩毅達が放ったオレンジの軌跡はまっすぐに、音を超え走る。
ただまっすぐに、一切のブレもなく。
オレンジの光弾はアネットの胸部を撃ち抜いた。
激痛にアネットは悶え苦しみ、咆哮を上げる。
そして濃緑の炎の爆発が周囲を吹き飛ばした。
煙が晴れる。そこには龍の大樹はなく、老婆がポツンと立っていた。彼女は大きな亀裂の入った球体を投げ捨てる。
アネットの眼前には、爆発に巻き込まれ地面に横たわっている者達がいた。
「イーッヒッッヒッヒッッヒッヒ! まだ……終わって……ないだわさ。お前……たちを殺す……までは! 殺すまで! イーッヒッッヒッヒッッヒッヒ!」
アネットはよたよたと明樹保達に歩んでいく。
「させない!」
明樹保は両手を構えて攻撃を繰りだそうとするが、自身の姿が魔法少女ではないことを思い出した。
「そうだ! 変身が解けて……」
彼女は驚き動揺する。周りを見ると全員変身が解けていた。そしてタスク・フォースも警官も、誰もが地面に倒れて呻いている。
「あ……ああ……」
「イーッヒッッヒッヒッッヒッヒ! その顔! その絶望した顔! それが見たかったんだよ! イーッヒッッヒッヒッッヒッヒ!」
「やれやれ……」
オニキスがアネットの前に立ちふさがる。
「お前は漆黒の戦士! あの時の傷のお礼をさせてもらおうか!」
「アネット……!」
オニキスは牙を剥く。
魔力は切れていても、超常生命体としての力が使えないわけではない。漆黒の戦士は赤きマフラーを風になびかせる。
漆黒の炎が爆ぜると、黒く長い棒を顕現させた。その先からは黒い炎で三日月を象る。
それは巨大な鎌となった。
それを眺めていた者達は「死神」という言葉を彷彿とする。
憎悪の感情そのままに、死神はアネットに向かって駆け出す。
「漆黒の戦士ぃいいいい!」
魔鎧も何もないアネットは濃緑の炎を吐き出すのがやっとだった。
濃緑の炎は漆黒の一閃で火の粉となって散る。
「あひ……!」
漆黒の大鎌が振り上げ――
乾いた破裂音が響いた。
――そのまま止まる。
「あ? ひ? 撃たれ……た?」
アネットは自身の腹部に手を当てる。真っ赤に染まった両手を見て玉のような汗を吹き出す。
オニキスの背後で銃を構える男がいた。その銃口から白煙が漏れる。
「娘の仇だ」
須藤直毅はそう言うと、アネットに向かって弾が切れるまで発砲し続けた。
最後に発砲された弾丸は、アネットの脳天を撃ち抜く。彼女はそのまま地面に倒れ伏した。
「終わったよ……直……」
須藤直毅の頬に一筋の涙が伝う。
~続く~
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魔法少女達の連携
そして復讐
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