No.702901

IS レギオン 第8話

駿河さん

感想どうぞ、

2014-07-22 20:49:17 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1171   閲覧ユーザー数:1156

そういうと、一夏はおもむろに椅子から立ち上がり、上着を脱ぎ始めた。

「一夏、何をする気...」

と千冬が注意しようと言葉を発するが、途中でその次の言葉を失った。そして、一夏の素肌を見た一同が声を失った。なぜなら、一夏の上半身全体が著しく変わっていたのだから。

 

 一夏の上半身はまるで、堅い甲殻のような身体つきになり、前部は、胸から臍まで周りに赤い物が楕円を描くようにあった。また、肋骨を囲むように鋭い爪の様な物があり、後部にも著しい変化があり、脊髄に沿ったすぐ外側から巨大な鎌のような物が生えており、さらに、両腕手が太く巨大な堅く鋭い物に変化していった。しかもその変化は、頭部にも及んでいった。頭頂部からこれまた鋭く湾曲した角が生え、毛髪が一本、一本が鋭利な棘の様なの物に変化し、頭部側面に肋骨と同じように囲むような鋭い爪の様な物が生え、鼻部の辺りに巨大な角がそそり立った。

 

 その一夏の著しい変化を間近で見た,医師、千冬、円谷家の茂、高嶺は、言葉を失った。それはそうだろう、今まで殆んど変わらなかった身近な人が突然変わったのだから。

 

 「これが、今の僕だよ。千冬姉ちゃん、茂叔父ちゃん、高嶺叔母ちゃん」

と変化前の一夏の声が周囲に響いたが、なぜかその声は悲しそうな声だった。

 

 暫く、茫然としていた周りが、不意に声を発した。

「これは一体なんだ」

と著しく狼狽えた千冬の声が沈黙を破った。

 

 ついに運命の歯車がその病身をゆっくりと速めながら進んでいく音がした。

「一夏、一体何があってこんな姿に...」

と千冬は、言葉を詰まらせながら一夏に尋ねた。

 

「千冬お姉ちゃん、ついさっき言ったばかりだと思うけど、千冬お姉ちゃんと別れた時に大きな窪みの真ん中くらいの所に大きな石が刺さっていて、そこから変わった生き物が出て来たんだ。その生き物が弱っていて、助けようと思って近寄って、触れた時に、その生き物が光りになって、自分に触れた瞬間に気が遠くなって、夢を見たんだ。その生き物は、色々な経験を僕に教えてくれて、頼みごとをしたんだ。「自分の代わりに種を飛ばしてくれって、その代わりに、暫く自分の力をあげよう」って言われて、僕は、「いいよ」っていったんだ。」

と一夏は、千冬の他にも周囲の大人たちにも聞こえるように言った。すると、それまで黙っていた茂と高嶺は、

「一夏(一(いっ)ちゃん)、お前は偉いなあ(偉いわねえ)」

と言いながら姿の変わった一夏を二人は抱きしめた。

 

「話の途中ですが、すみません」

と医師が言おうとするが、茂が、

「すまんが、先生。今は、そっとして欲しい。後で一夏の今後について話し合おう」

と言った。

 

 すると、一夏は思い出したよう、

「あ、そうだ、まだ言わないといけないことがあったんだ」

というと、皆を少し下がらせてから、腹部を撫でた。

 

 すると、腹部の赤い部分が発光し、そこから、およそ猫くらいの大きさの一夏が変化した後の特徴を残した、黒い身体と胴体中央に大きな1つの眼を持ち、その両端に小さい眼が2つずつ、計5つの眼を持つ生き物が多数現れ、一夏の周りを守るように陣形を作った。周囲を警戒するように、一匹、一匹の大きな目が盛んに動かし、頭部の鋭利な三本の角と四肢から延びる日本刀のような棘を前面に押し出し隙のないファランクス(密集陣形)を醸し出していた。

 

 「何なんだ、こいつ等は」

「大丈夫だよ。僕の友達だから」

と少し後ろに下がった千冬が言った後、一夏は、笑顔で解答した。

 「一夏、すまんがこいつ等を下がらせて欲しい」

と茂が言うと、一夏は、

「良いよ。みんな戻って」

と言うと小型の生き物は、一夏の赤い部分に戻っていった。

 

「そういえば、一ちゃんが出会った生き物って名前はなんていうの?」

とあまり動揺していない高嶺が聞いた。

「ええっと、その生き物は、名前が無いから僕に名付けて欲しいって言ったから、僕は、その生き物に『レギオン』って名付けたよ」

「レギオン?」

「うん、前にお祖父ちゃんの家にあった聖書の一節に書いてあって、それを思い出したんだ」

 

 そういうと、一夏は、

「少し、疲れちゃったから寝るね」

と言って、変化を解くのと同時に前に倒れるようになったが、千冬が抱え込むように抱き留め、

「お休み、一夏」

と言って、優しく長くなった一夏の髪を撫でた。

眠った一夏がストレッチャーで個人用入院病棟に運ばれてから、茂碁千冬と高嶺にこう言った。

 「では、私は、先生とお話があるから先に病室の方に行ってなさい。高嶺、ついて行ってくれ」

「分かりましたよ。では、千冬ちゃん一緒に行きましょうね」

と言ってから優しく千冬の手を握り、診察室から出ていった。

 

「さてと、今回の件については、一切の他言無用で頼む。」

と茂は改まった口調でそう告げると、医師は、

「それは、個人的な意見ですか?それとも、命令ですか?」

と少し困惑しながら答えた。

「君とは、個人的にも長い付き合いなのだからわかるだろう」

とおどけながら言いながらも、その顔は、真剣そのものだった。

「分かりましたよ。では、暫くは、検査入院と言う事にしましょう」

と言うと医師の方が折れた。

 

 そして、次の日

 

 「ねえ、一ちゃん、千冬ちゃん。一緒に暮らさない?」

と朝方は役に目覚めた一夏と千冬に高嶺が聞いた。

「高嶺叔母様、なぜ、一緒に暮らそうと言うのですか?」

と千冬が聞くと高嶺は、優しそうな顔をしながら、

「なぜって、二人だけだと、色々と大変でしょう?それに、今少し何かしら物騒でしょう、それに、一緒に暮らしても、家名は変わらないように茂ちゃんが如何にかするって言ってたわよ」

と言うと、それを聞いていた千冬は、一夏に相談した。

「一夏は、どうしたいんだ?私は、一夏に判断を任せたい」

と言うと、一夏は、少し考えるように目を瞑った。一夏は、レギオンとの融合後、物事を少し考える様になっていった。

 

「千冬お姉ちゃん、僕は,茂叔父ちゃんと高嶺叔母ちゃんと一緒に暮らそうと思うんだけど、どうかな?それなら、千冬お姉ちゃんも、もう少し楽になると思うよ」

と言うと、千冬は涙を瞳に浮かべながら、

「一夏….」

と言うと、高嶺の顔を向きながら、

「よろしくお願いします。高嶺叔母ちゃん」

と言うと一夏と一緒に頭を下げた。

 

 すると、高嶺は、

「こちらこそ、よろしくお願いね」

と言って頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

  さて、織斑家と円谷家の運命がまじりあって進んでいこうとする中で、日本の西側でも、

家族がその運命を大きく変えようとしていた。

 一夏と千冬が円谷家と一緒になる時間から少し遡って、日本の西側のある一家に視点を変えてみたい。その一家は、古代から日本の指導者を陰から守る一族であった。その一族の後継者として古くから男子が選ばれていったが、もしもの時の為に、女子にもその権利を選ばせる為に訓練をさせていった。

 

 「只今より、更識家第16代当主選考試合を行う。両者前に」

「「はい」」

厳かな雰囲気を醸し出す更識家内の道場内で二人の姉妹が声を出し向かい合う。両者の目は真剣其の物であり、二人とも必ず勝ちにいくという空気が道場内に満ちていった。

 

 「では、試合形式は、一時間一本勝負。武器及び防具の使用及び装備数も無制限にする。それでも、勝負がつかない場合は、勝負が着くまで何回も試合する。勝敗は、降参は認めない.どちらかが手を地に着くまで試合を続行する事。では、始め!」

と言う審判の掛け声とともに両者は激突した。

「「はあっ」」

 

 姉妹のそれぞれの武器は、楯無は、「六尺棒」を持ち、簪は「柄の短く刃が広い薙刀」を持ち、それぞれの防具は、無く道場着のみと言う格好であった。しかもそれぞれの武器は、れっきとした本物の武器であった。そして、それぞれの後ろには、幾つかの武具が立て掛けてあった。

 

 暫く時間が進むと共に何万回の得物の激突音と火花が飛び散り、得物が傷み、刃こぼれを起こし、それだけでなく、両者の蹴りや拳も交じって戦いに花を添えていった。

 

「其れまで、今から五分間の休憩を入る」

と言う審判の掛け声が、道場内に響いた。

 

 楯無、簪両名は、それぞれ顔や手、足など無数の傷や痣を作ったが、両者とも気力や体力は、まだまだ余力を残していた。そして、二人ともボロボロの得物を捨てて、新しい得物を持ち、道場の真ん中に向かい合い、試合を待った。

 

 「両者、第二試合始め!」

と掛け声と共に何万回目の得物の激突音を響かせた。刀奈と簪が休憩を挟み再び激突した。二人の手には、第一試合前とは異なった武器が握られていた。刀奈の方は、両手に鉄扇(てっせん)が握られており、簪の方も両手にそれぞれジャマダハルを握られていた。

 

 鉄扇とは、古来日本が発祥の武器であり、防御にも使え、攻撃にもその鋭利で切れ味のある弧の部分を持つのが特徴であり、携帯にも便利な武器である。一方のジャマダハルは、発祥はインドであり、二本の並行するバー(支え棒)とその間に渡らせた握り棒が特徴であり、突く、刺す、切るを自在に使い分ける事が出来きる武器である。

 

刀奈と簪は、それぞれの武器の特徴を最大限に生かしながら、ぶつかり合った。刀奈が鉄扇を横に薙ぎる様に攻撃すれば簪は、ジャマダハルを持つ両手を床に突き刺して後ろに下がりながら蹴りを刀奈に対して見舞おうとするが刀奈は、鉄扇を立てて防御し、片方で簪の首を目掛けて振う。

「あらあら,簪ちゃん良く避けたわね。お姉ちゃんびっくりしちゃった」

とおどけながらも次の手を仕掛けた。

「お姉ちゃんこそ、私の手の分かっているくせに」

とその手を難なく避けてジャマダハルを構えた。

 

 暫くすると、刀奈は鉄扇を広げ弧を描くように時間差を付けて投擲し、さらにその隙に脇に仕込んでいた、ダガーを数本同時に投擲した。簪は、ジャマダハルを床に突き刺し、床に敷いていた畳をあげて、鉄扇とダガーから身を守った。ドスッ、ガッと言う刺突音が響いた。それを見た、刀奈は、バック転しながら、後ろの武器掛けから、ブーメランを投擲し、畳を切り裂いた。ブーメランとは、元々は狩りの道具であり、戦いの為の武器でもある。史実でも、オーストラリアの先住民族とイギリスの植民地軍との小競り合いでも一部使用されたと書いてあった。切り裂かれた畳が床に転がったが簪の姿が無く、刀奈は、新たな武器である。脇差(わきざし)を手に持ち臨戦態勢を整えた。すると、畳が倒れた時に起きた埃の中から数本の矢が飛び出してきた。それは簪が、畳をあげた瞬間にジャマダハルから手を抜きとり、後方にある武器掛けから連弩(れんど)を持ち放った物だった。連弩は、連射できる弓であったが、射程が短いためにあまり表舞台には出て来なかった。

 

 しかしながら、この道場と言う限られた中では、その能力が最大限に生かされた。

「お姉ちゃん、そろそろ床に手をついたら?」

と簪は、怒涛の連弩による攻撃の後、刀奈に言った。すると

「まだまだ、時間もあるし、私もまだ元気よ。簪ちゃん」

と受け答えたが、簪の連弩による連続攻撃を脇差で弾き、身体全体で避けたがそれでも、少なからずの矢を身体のあちこちに受けたが連弩の欠点である威力不足が功を奏し、道着に刺さった程度であったが、その中でもいくつかの手傷や顔に対して浅い傷を付けた。

 

 刀奈も、負けじと腰に備えていた残ったダガーを簪に向けて時間差を付けて放った。刀奈が放ったダガーに不意を突かれた簪は、連弩の発射口にダガーが刺さり、時間差を付けたダガーが頬を掠り、また違うダガーは、左ももに突き刺さった。その時、簪は痛みに声を出そうとするが、グッと耐え左ももに刺さったダガーを引き抜いた、そして、下半身の道着の一部を引き裂いて、左ももに縛って止血した。

 

 「お姉ちゃん、よくもやったね」

「あら、お互い様でしょ」

と両者は、少し距離を取りながら、言い合った。

 

 「両者それまで!また5分間の休息を取らせる!」

と今まで、無言だった審判が時計を見て、声を高らかに叫んだ。

 

 


 
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