No.702176

ALO~妖精郷の黄昏~ 第31話 武装完全支配術

本郷 刃さん

第31話です。
カーディナルとの話しを終えたキリトたちは次の段階に行動を移す・・・。

どうぞ・・・。

2014-07-20 12:04:59 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:9400   閲覧ユーザー数:8700

 

 

第31話 武装完全支配術

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

話しを終えた俺とカーディナルはユージオたちが居ると思われる歴史の回廊へ向かった。

そこには階段に腰掛けて本を読むユージオと高い箇所にある本を取る脚立に座り本を読むエルドリエ、

そして壁に背を預けて本を読んでいるデュソルバートの3人が居た。

 

「3人とも、知りたい事は知れたか?」

「あ、キリト……なんだか都合よく物語を終わらせた、お伽噺を読んでいたみたいだ…」

「私は自分の記録を読ませてもらったのだが、どこか心が覚えている感じがしたよ…」

「我も同じだ。これがかつての我なのかとは信じきれぬが、何処か懐かしい気がした…」

 

どうやら各々が調べるべき事は終わったようだ。

過去のエルドリエとデュソルバートの情報があったのはおそらく彼らが央都セントリアを主に活動していたからこそだという。

そんな時、ユージオがどれくらいの時間が経ったのか聞いてきたが、生憎と俺も知らず、

代わりにカーディナルが2時間近く経過したことを教えてくれた。

 

「そういえば、貴女は一体…」

「彼女は過去にアドミニストレータと対立して追放されたもう1人の最高司祭だ。

 俺たちの協力者としてこちらの陣営に加わってくれることになった」

 

俺の説明によってカーディナルの正体を知った3人は驚愕に眼を見開いた。

特に騎士2人の驚き様は凄い…それも当然か、最高司祭がもう1人居たなど聞いたこともないだろうし。

だがデュソルバートはその驚きをすぐに納得の表情へと変えた。

それはおそらく、先程の彼女の言葉に実直なまでに応じた自分の行動を思い返したからだろう。

 

そろそろ話を進めるべきかと思い、俺はカーディナルから聞いた整合騎士誕生の手順を説明した。

アドミニストレータが記憶を抜き取り、『敬神(パイエティ)モジュール』と呼ばれる三角柱を埋め込まれる事を話した。

既に2人の三角柱は抜かれているため、あとは保管されていると思われる“記憶の欠片”を回収するだけだと伝えた。

 

それからこのあとの行動について話しをした。

まず、俺とユージオは3階にある武具庫に侵入し、俺の愛用している『黒剣』とユージオの『青薔薇の剣』を回収し、

他の整合騎士を攪乱・迎撃しつつ最上階を目指す。

エルドリエとデュソルバートには俺たちが戦う予定の残っている騎士の過去の情報を探ってもらい、

倒した際に確保して揺さぶりを掛けてもらい、同時にカーディナルの護衛も務めてもらうことになる。

また、2人には遊撃を担当してもらう事になるだろう。これが主な行動内容だ。

 

行動内容を決めたあと、俺とユージオはカーディナルから2本の短剣を渡された。

なんでも刺された者を深い眠りに誘う物らしく、これを使い1本でアリスを眠らせ、

もう1本でアドミニストレータを眠らせるということだ。

 

そして、カーディナルは俺たちにも《武装完全支配術》を会得する事を告げてきた。

『心意』こそこの世界の根源の理であり、それを得るだけならば武器が無くとも可能だという。

俺たちは全員で大図書室1階の丸部屋に戻ってくると、

温かいままの食事を別の場所に置いてから彼女が呼びだした椅子に座った。

空いているテーブルを凝視して俺はあの黒剣を完全にイメージした。

 

「ほぅ、完全に再現してみせたか……キリトは心意が強いようじゃな。ユージオもかなり形成できているな」

 

後ろに居る2人の整合騎士も感心しているようだ。

《武装完全支配術》を会得している彼らからすれば、そういう対象になるのかもしれない。

カーディナルの指示でもう1度卓上に愛剣の姿を思い描くように言われ、俺たちは術の会得を始めた。

 

 

瞑想で集中力を底上げし、上がった集中力によって黒剣を一瞬でイメージし、細部まで想像、剣を完成させる。

カーディナルの言葉を聞き、剣に秘められた記憶、存在の本質に触れるまで深く潜るようにする。

 

到達したのは深い森、俺は冷たい土に根付いた杉の樹になっていた。

傍には木が生えておらず、円形の空間の中央に立ち尽くす様は……孤独。

周囲の木々と触れ合いたいと思い、枝を伸ばそうと根から地力を、葉から陽力を吸収して幹と枝を成長させる。

俺の鋭い葉が一番近い木の枝に触れようとした時、その木は一瞬で枯れて根元から倒れた。

周囲の木々も同様に葉が枯れ、枝が枯れ、幹が枯れ、倒れてゆく。

別の木々に届かないかと思い、同じことをするも新たな木々が新たに枯れ落ちてゆく。

枝を伸ばし触れようとすれば地力と陽力を吸収し、周囲の木々が枯れ落ちる。

諦めきれずに何度挑戦しようとも結果は同じ、諦めても大量の陽光と地力を吸収し続け、

周囲は永遠に枯れ落ちてゆく……故に、果てしなき孤独…。

 

「よし、そこまで」

 

不意の言葉に俺の意識は戻ってきた。

小さな手が卓上にある黒剣と青薔薇の剣に触れると2本は消滅し、カーディナルが“剣の記憶”を受け取ったと言った。

どうやらトランス状態になっていたようだ。ユージオは果ての山脈の最頂上、寒く寂しいところだったという。

 

それからカーディナルが羊皮紙を出現させ、そこに術式を浮かび上がらせた。

全てが神聖語(アルファベット)になっており、十行の25ワードから成っている。

確実に暗記しろとのことなので、ユージオは必至に暗記を始めた。

一方の俺は書かれているワードの少なさに安堵し、すぐさま暗記してその意味も理解する。

時間にして5分、残り25分間でやれることは多い。

 

「カーディナル。俺の持つ残りの剣の《武装完全支配術》も会得するから、協力してくれ」

「ま、まさかお主、もう暗記したというのか!?」

「あ、ありえない…」

「貴様、ホントに人間か…?」

「ブレないね、キリトは…」

 

俺の発言に驚愕するカーディナル、絶句するエルドリエ、若干引いているデュソルバート、呆れているユージオ。

みなそう言うが、俺からしてみればプログラムを暗記する方が難度が高いわけであり、

多寡が25ワードに苦戦するはずがないし、暗記する程度わけもない。

 

「ユージオ、まずは暗記して覚えるだけでいい。能力や意味を理解するのはそれからだ」

「了解。前に教えてもらった記憶術と暗記術を使えばいいんだよな?」

「そうだ。俺は前を行かせてもらうぞ」

「言ってな。追いついてみせるからさ」

「楽しみにしている」

 

俺たちは軽口を交わし、それぞれの行動に移った。

エルドリエとデュソルバートも他の騎士たちの情報を探るべく本を探し始め、カーディナルは俺の傍に付くことになった。

俺は再び、《武装完全支配術》の会得に動き出す。

 

 

 

 

『エリュシデータ』、SAOにおいてアインクラッド第50層のボスであったモンスターがドロップした黒き魔剣。

敢えてそれを目前に呼び出し、剣と意識の同一を行う。

 

到達したのは円形の闘技場のような空間、俺は六つ手の鬼神になっていた。

そこに武器を持ち鎧を纏った者たちが襲い掛かってきたが、それを全ての手で迎撃する。

平手で払い、潰し、拳で殴り、薙ぎ払い、叩き潰し、

両の平手を合わせて潰し、両の拳で合わせて潰し、六つの拳で同時に殴り潰す。

次第に敵は動かなくなり鎧が砕け散るも、新たな敵が現れて戦い続ける……孤独でありながら、鬼神のままに敵を倒し続ける…。

 

 

『ダークリパルサー』、SAOにおいて手に入れたインゴットから作られた白き剣。

召喚した剣に眼をやったあと、瞑想して同一を行う。

 

到達した場所は吹雪と氷の結晶に覆われた雪山の山頂、為っているのは結晶で出来た竜。

獰猛なそれは雪山の上空を飛び回り、山頂に数多ある結晶を増やすべく氷の息吹を放ち、一際大きな結晶が出来あがる。

その頂点に立ち、上空に氷の息吹を吐くことで幾多の結晶が降り注ぎ、

多くの結晶が出来上がる……孤独、そこは雪の竜の領域…。

 

 

『アシュラ』、SAOにおいてレアモンスターがドロップした鉄系のアイテムから作られた紅き刀。

呼び出したそれを卓上に置き、同一を行う。

 

到達した所は炎が吹きあがる溶岩地帯、俺は体が紅い鋼鉄に覆われた獅子と化している。

ふつふつと怒りが沸き起こり、怒りのままに雄叫びを上げれば、

その咆哮が轟き広がると辺りの溶岩が爆発し、炎が巻き起こった。

燃え上がる焔は辺りを焼き尽くし、その場に残るは紅き鋼鉄の獅子のみ……孤独、それは王者のみが知る…。

 

 

『ハテン』、SAOにおいてレアモンスターがドロップした水晶から作られた蒼き刀。

ユージオに貸していたが、再び手元に戻ったその刀との同一を開始する。

 

到達した地点は深き洞窟の奥にある水底、俺が同化しているその鮫は水晶を身に纏う。

こうなっていると殺意が湧き、獲物を狩りたいという衝動に駆られ、水中を駆け巡り、動く物をただただ破壊する。

その歯と鰭の切れ味に敵う者なく、無残に引き裂かれていく……孤独、そこは奥底の深い水域…。

 

 

『セイクリッドゲイン』、SAOにおいて1体しか存在し得ない、

シークレットモンスターである聖なる竜を打ち倒した事で手に入れた鉱石から作りだされた聖剣。

相も変らぬ神々しさが身に沁みながらも、意識を同一させていく。

 

到達した領域は飽くなき光に包まれた聖域、あまりにも力強く周囲を震え上がらせるこの身の聖竜。

圧倒的な力、他者を従える統一性、全てを慄かせる覇気、ただそこに在るだけで治める力を露わにしている。

その身から放たれた聖光の前にあらゆる者は滅せられる……孤独、覇を有する者こその魅力…。

 

 

『ダークネスペイン』、SAOにおいて1体しか存在し得ない、

シークレットモンスターである悪しき竜を打ち倒した事で手に入れた鉱石から作りだされた魔剣。

何処までも深い闇を持つその剣に己を重ねながらも、意識を同一させる。

 

到達した領域は底冷えの闇に呑まれた魔窟、あまりにも禍々しい妖気を纏わせるこの身の魔竜。

圧倒的な智、他者を喰らい尽くす魔性、全てを慄かせる狂気、ただそこに在るだけで滅びる力を露わにしている。

その身から放たれた暗闇の前にあらゆる者は跡形も無くす……孤独、悪ゆえにその呪から逃れられん…。

 

 

孤独、孤独、孤独、孤独、孤独、孤独、孤独、孤独、孤独、孤独………何処に在ろうとも、俺は、ただ1人…。

 

 

 

 

「そこまでじゃ! しっかりせい、キリト!」

「はっ……はぁ、はぁ…はぁ、はぁ…」

「ほれ、水を飲め」

 

カーディナルの怒鳴り声が耳に響き、トランス状態から戻った俺は凄まじい動悸に襲われた。

彼女が水の入ったコップを差し出したので受け取り、それを飲み干した。

深く呼吸を行うことでようやく落ち着いてきた……一体なにが…?

 

「連続で意識を同一させた事が理由だと思うが、お主から全ての剣の記憶を受け取った時じゃった。

 お主の体から光と闇が混ざり合ったオーラのようなものが溢れだした、すぐに声を掛けた事で霧散したようじゃが…」

「なら、もう問題無い……それが俺の本質というだけだ…」

「アレが、お主の本質じゃと…? いや、それならば納得もできようが……あれほどとは…」

 

この世界において物事の本質は重要なものであるため、俺のそれ(本質)はやはり彼女からしても驚くものなのだろう。

今回こういう事態に陥ったのはおそらくだが、

最も俺に近い剣である『セイクリッドゲイン』と『ダークネスペイン』と意識のリンクを行ったからだろう。

いやはや、どうなるか分かったものじゃないな。

 

「まぁお主が問題無いというのなら構わぬ……ほれ、残りの分を記憶するのじゃ」

 

カーディナルから羊皮紙を6枚受け取り、それらの詠唱の暗記も行う。

元々は別の世界(ゲーム)の剣であるため《武装完全支配術》の会得ができるか心配であったが、

成功したので安心したし、大きな成果にもなったことは確かだ。

俺は残りの猶予時間を使い、詠唱の暗記に取り掛かった。

 

 

それからユージオの暗記が終わり、俺が僅かに遅れる形で暗記を終え、俺もユージオも完璧に記憶する事が出来た。

記憶解放(リリース・リコレクション)》に関しては扱えることを前提に進むわけにはいかないため、

ユージオは使用を控える形で進むことになった。

俺たちは残しておいた食事を取り、ついに進むことになった。

 

「キリト、ユージオ……全てはお主たち次第じゃ、頼んだぞ」

「私たちも機会を窺って行動する、気を付けたまえ」

「なに、カーディナル殿のことは必ずや守ってみせる」

「任せておきな」

「そっちも気を付けて」

 

カーディナル、エルドリエ、デュソルバートの言葉に俺とユージオは答え、3階に続く廊下と扉を潜り抜けた。

さて、やってやろうじゃないか…。

 

 

「デュソルバート様、彼らはやり遂げてくれますよね…」

「その心配は無用だろう、騎士エルドリエ。彼らの力は我らでも推し量れるものではないだろうからな」

「そうじゃな……ではエルドリエ、デュソルバート。お主らの治療を行うぞ」

「治療、ですか…?」

「うむ。今のお主らはアドミニストレータによって術を施されているため、危険な状態にある。

 じゃが、いまのわしにはその術を払うことができる。それを行い、キリトたちへの援軍へ赴けるようにするのじゃ」

「「はっ!」」

 

 

3階に出た俺たちはカーディナルが教えてくれた道順の通りに進み、無事に武具庫に着いた。

エルドリエとデュソルバートから聞いていた通り、武具庫に衛兵は居なかったので手早く中に入り、

入り口付近に置いてあるだろうと予想した通りに『黒剣』と『青薔薇の剣』が置かれていた。

なんらかの術が掛けられていないかを確認し、安全であることを理解してからユージオに青薔薇の剣を渡した。

ついでに付近に置いてあった騎士服を拝借してそれを着込む、俺たちの服は破れていたから丁度良い。

無事に剣を取り戻したことでユージオは本来の力を発揮できるだろう。

俺も一時の間はこちらを使うようにしよう、残りの愛剣たちは奥の手にしておいた方がいい。

 

剣を取り戻した俺たちは敵がいないことを確認しつつ、先へと進む。

この階層に敵戦力がいないことは承知しているので上層に続く階段を即座に駆け抜ける。

体力を消費し過ぎないように適度な速さで階段を登る。

呼吸を乱して体力を減らすのは良くないと判断しているので俺たちは互いに沈黙したまま階段を登り、上層へと向かい続けた。

 

そしてある28階に着いた頃、俺とユージオは立ち止まった。

 

「次が29階だから、そろそろ休憩するか」

「賛成、というわけだから蒸し饅頭を1つくれないか?」

「おう。さっさと食べて、そろそろ《武装完全支配術》の確認を済ませるか」

 

階段の踊り場に座り込んでカーディナルから受け取っておいた蒸し饅頭を食べる。

さっさと食べ終えた俺たちは作戦会議というべく、

お互いに覚えた《武装完全支配術》の起句を除いた詠唱を行い、それぞれの技を確認した。

幸い俺たちの技は相性が悪くないので同時に使用しても邪魔になる事は無さそうだと分かった。

 

基本的な動きとしてはユージオが事前に詠唱を行い発動待ちで保持、敵の位置確認の後に術を発動。

俺が高速詠唱で発動し、一点に固まっていればそれで無効化完了というものだ。

これはあくまでも基本戦術であるため、外した場合は連携を行いつつ迎撃であるが…。

その時、俺は気配が近づくのを感じ、29階へと続く階段の方へ視線を向ける。

ユージオも警戒心を高めてそちらを注視する。剣の柄に手を置いて待っていると……2人の少女が頭を覗かせた。

 

キリトSide Out

 

 

 

 

ユージオSide

 

キリトが警戒したのに気付いて、僕も警戒心を高めて階段の方を見た。

出てきたのは2人の女の子で思わず驚いてしまったけれど、警戒は解かない。

言い様がない不安に駆られているからだ。

キリトに視線を向けると彼は手を動かして予め教えられていたサインというものを示してきた。

彼は握っていた手の内、指を4本立てた。

そのサインに驚いたけれどなんとか表情に出さないようにし、キリトに任せることにした。

 

薄い茶色の髪を2本のお下げに編んでいる気弱そう子と麦わら色の短い髪の勝気そうな子の内、

勝気そうな子が1歩を踏み出してから口を開いた。

 

「あの、あたし、じゃない……私、公理教会修道女見習いのフィゼルです」

「お、同じく…修道女見習いの、リネル、です…」

「ご丁寧にどうも。俺はキリトだ、こっちはユージオ」

「よろしくね」

 

自己紹介をしてきたことにまた少し驚いたけれど、キリトがあっさりと返答したから僕もなるべく笑顔を浮かべて言う。

だけど僕はキリトの示した指が4本から5本になったことに気付いて、内心というか冷や汗を流した。

 

「ダークテリトリーからの侵入者っていうのは、2人のことですか?」

「生憎、ダークテリトリーからの侵入者じゃないよ。

 禁忌目録を犯した以外は普通の人間だ……そういうキミらこそ、俺たちと話して怒られないのか?」

「今日は全修道士と修道女、見習いは私室から絶対に出ないように命令出てるの。

 だから侵入者を見に行っても誰にもバレる心配はないってことよ」

 

フィゼルの言葉になるほど、それなら罰を受けることもないかなと思う。

でも、同時にこの娘たちは手が甘いなとも思う。

 

「あの…ホントにダークテリトリーの魔物じゃないなら、近くでお顔を見せてもらってもいいですか?」

「その程度なら構わないよ」

 

リネルの質問にキリトは快く応えて、こちらに近づいてくる2人の少女に歩み寄っている。

僕は近づくキリトを見守ることにしていたけど、彼は2人と距離を縮めた瞬間に……、

 

――ドンッ!!

 

「「ごはっ!?」」

 

両手を拳にして強烈な一撃を2人の少女のお腹に叩き込んだ。

拳を叩き込まれたフィゼルとリネルの体は一瞬だけ宙に浮いて、

だけど即座にキリトが2人のお腹に再び掌底を行い、思いきり吹き飛ばした。

2人は階段の壁に激突し、口から血を吐いている。

普通なら彼の突然の行動に驚くところだけど、僕は当然の結果だと思った……なぜなら…、

 

「悪いけど、俺たちはオママゴトに付き合っている暇はないんだ……小さな整合騎士さん。

 いや、ここはちゃんとリネル・シンセシス・トゥエニエイト、フィゼル・シンセシス・トゥエニナインと呼んだ方が良いな」

「そん……な…」

「な、んで…」

 

そう、2人は敵でしかも整合騎士だからだ。

なぜ僕たちが…いや、なぜキリトが彼女たちを整合騎士だと判断できたかは、どうやら彼が直々に答えるみたいだね。

 

「何故、か……そうだな、まずはお前たちが自分たちは修道女じゃないと明かしたことだ。

 全修道士と修道女は自室から出てはならないという教会の命令に対し、

 反する行動を取れるはずがないにも関わらずお前たちは行動した。

 つまり、その命令の括りにいない整合騎士だと自分で言ったようなものだ。

 それに、お前たちの腰にある鞘、それは南方の『紅玉樫』製だな。

 それは『ルベリルの毒鋼』に触れても腐らない唯一の素材、

 ならその短剣はルベリルの毒鋼で出来ていると予想できる。どうだ、正解だろう?」

 

そんなキリトの言葉が図星だったのか、2人とも子供とは思えないほど忌々しそうな表情になった。

さっきまでの無邪気な顔と比べると一目瞭然だよ。

 

「加えて、俺たちにはお前たちの情報が筒抜けなんだ。

 名乗った時点である程度の察しはついたから、対策も練れたということもある」

 

今度は絶句した様子の2人。まさか自分たちの情報が全部漏れているだなんて、思わなかっただろうしね。

 

「それに、だ……表面は無邪気な子供と取り繕えても、殺意が駄々漏れなんだよ、お前ら。

 害の無い子供を装って近づき、相手が油断したところで狩る暗殺者、それがお前たちのやり方だな。

 だが、殺意も殺気も悪意も隠せないようじゃ、お前らに暗殺は不向きだな」

 

種明かしをしている途中までは余裕な感じだったけど、そこから一気に冷たい表情になるキリト。

2人に近づくと短剣を2本と懐にあった小瓶を幾つか奪った、じゃあアレは解毒剤かなと考える。

続いてキリトは短剣を鞘から抜くと2人の腕を僅かに斬りつける、強力な麻痺毒によって2人は瞬時に動かなくなった。

 

「キミ、女子供相手にも容赦ないな…」

「女子供でも敵ならば容赦はしない、それが戦いの理だ。ともあれ、個人的に思うところもあってな…」

 

キリトはそういうと幼き2人の整合騎士に視線を向けた……その瞳は、あまりにも冷たい。

 

「別にさ、暗殺自体を悪いとは言わない。戦い方の1つだし、俺の仲間の1人(クーハ)もその戦法を取るからな。

 たださ、コイツらの視線には相手を甚振ったり殺すことを楽しむものがあってな……それがムカつくわけだ」

 

なるほど、それでキミは怒っているわけか…こっちまで寒気がしてくるよ。

そんな僕の心境を知ってか知らずか、それでも関係無しに自分の剣を引き抜いている…殺さないよね?

 

「いいか、一度しか言わないから良く聴いておけよ……戦いを舐めるな、小娘共…!」

 

2人の首元に剣を突き立てて言ったキリト。

フィゼルもリネルも涙を流しながら動けない体で必死な様子を見せていることから、少なくとも反省はしているらしい。

直後、キリトが2人の首に手刀を入れ、2人は意識を失った。

 

「動けないくらいの攻撃を与えた上に麻痺毒、さらに意識まで刈り取るなんて、やりすぎじゃないかな…」

「この2人は子供でまだ引き返せる場所に居る、完全に堕ちてからじゃ遅い。

 だからいまの内に叩き込んでおかないといけないんだ、やられたらやり返される恐怖を…」

 

キリトは怒っているようで悲しんでいるみたいだ。

多分、子供のこの2人が暗殺なんていう技能を習得させられたこと、

そういうように差し向けた最高司祭に怒っているのかもしれない。

厳しすぎる彼女たちへの攻撃も、彼女たちを思ってのことなんだと理解できた。

 

「そろそろ行こう。フィゼルとリネルはアイツらが回収してくれるはずだし、俺たちは進もう」

「うん、僕たちはやるべきことをやりに行こう」

 

2人の少女を壁に寝かせ、僕とキリトは再び上の階層を目指して階段を駆け登る。

 

 

そして30分ほどの時間を掛けて階段を登ったところで50層に辿り着いた。

エルドリエから聞かされていた『霊光の大回廊』と呼ばれる回廊だ。

僕とキリトは頷きあったあとに回廊を進み、上層へと続く扉のある広間へと辿り着いた。

そこには薄紫色の輝く全身鎧を纏った騎士と白銀に輝く鎧を纏った4人の騎士がいた……整合騎士が、5人もいるのか!

 

「来たな、咎人共よ! 私は整合騎士第2位にして副騎士長を務める、ファナティオ・シンセシス・ツーである!

 我々はお前たちがこの回廊まで辿り着いたならば、手段を選ばず抹殺せよとの厳命を受けている!

 我が神器『天穿剣』と私が手塩に掛けて育て上げた『四旋剣』たちで以て討ち果たしてくれよう!」

 

副騎士長のファナティオは天穿剣と呼んだ細剣を掲げ、他の四旋剣と呼ばれた4人の騎士たちもそれぞれ大剣を構えた。

 

「いいぜ、相手が5人だろうが関係無い……俺たちが勝つ。剣士キリト、参る!」

「ここからが正念場なのかもね……剣士ユージオ、行くぞ!」

 

キリトは黒剣を、僕は青薔薇の剣を構え、5人の整合騎士に向けて駆け出した。

 

ユージオSide Out

 

 

 

 

No Side

 

「っ……こ、こ…は…?」

「リ、ネル…?」

「フィゼ、ル…も、おきて……うっ」

 

幼き2人の整合騎士が目を覚ました。彼女らは先程にキリトによって痛い目に遭わされ、いまも全身に痛みがあった。

しかし、声が出ることを考えるに麻痺毒は消えているようだ。

けれど2人は困惑している……何故、解けることのない麻痺毒が解けているのか、

それにこの薄暗い部屋は何処なのか、そもそも自分たちはどうして縛られているのか、疑問は尽きない。

 

その時、彼女たちの居る部屋に灯りが差し込み、人が入ってきた。

 

「あ、あなたは…」

「騎士、エルドリエ…」

「どうやら目が覚めたようだね。少女が縛られているというのは私の気分としても良くないものだけど、

 キミ達が敵である以上はそのままで居てもらうよ」

 

エルドリエの“敵”という言葉に2人は戦慄した。

彼女たちは仲間とは思っていないが、少なくとも同じ騎士たちを味方であるとは思っている。

しかし、そんな2人の考えは甘く、いま目の前に居る男は敵だと言い切ったのだ。

 

そう、ここはカーディナルの居る大図書室の一角であり、

キリトたち側についたエルドリエは彼女らの監視を任されているのだ。

 

「裏切り、ですか…」

「裏切ったわけではないよ……ただ、真に倒すべき者が分かり、その者の下で行動するキミたちが敵なだけさ。

 こちらとしてはキミたちに害を為すつもりはないから安心してくれて構わない。

 キミたちとて、キリトに手痛い目に遭わされた以上、もうあんなことはごめんだろう?」

 

リネルとフィゼルはエルドリエの言葉に驚愕したうえで、

自分たちの正体を見破ってさらにあそこまで痛めつけられたことに恐怖を覚えているようだ。

 

彼女たちは殺し合う天職を与えられ、その度に傷を癒されてきたが、あれ程までの痛みと恐怖は体験したことがないのだ。

自分たちを見下ろす彼の青年の瞳は暗く冷たく、それだけで射殺されるかと感じた、そう彼女たちは思っている。

最終的には生きていたものの、激痛を味わい、麻痺毒を受け、

死の恐怖を経験した少女たちは二度とキリトには逆らわないと心に誓った。

 

その様を見ていたエルドリエは不憫だと思いながら、自業自得だと思った。

彼から見ても彼女たちの性質は好きになれたものではないのだから。

これで大人しくなってくれるのならば御の字だろうと彼は考えている。

 

「まぁここでは神聖術を使うこともできず、

 キミたちの縄も決して破壊できないようになっているから、大人しく体を休めておくといい」

「「はい…」」

 

彼の忠告を素直に受け、2人とも大人しくしておくことを決めた。

ふと、彼女たちは思い至った、敗北して行方知れずになったエルドリエがここにいるとするなら、

もう1人の騎士であるデュソルバートはどこにいるのかと…。

 

「あの、貴方がここに居るということは…」

「騎士デュソルバートは何処に…」

「あぁ、デュソルバート様なら……戦場(・・・)に向かったよ」

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

まずは前回のあとがきで整合騎士戦になると言いながらならなかったことの謝罪を、すいませんです。

 

一応、フィゼルとリネルの2人と会ってキリトさんが一方的にぶん殴ったという展開になりはしまししたが・・・。

 

まぁカーディナルに疑似管理者権限を譲渡したことで整合騎士たちの情報は筒抜けですw

 

あくまでも騎士たちの現状とか程度ですが、エルドリエとデュソルバートのお陰で戦法だけでなく、

《武装完全支配術》も把握していますがね。

 

さて、次回こそ整合騎士戦です・・・しかも豪華2本立ての!

 

1戦目はVSファナティオ&四旋剣、2戦目はVSアリスと一気に行きます。

 

それではまた・・・。

 

 

 

 


 
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