No.702023

ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』

piguzam]さん

遥かなる旅路!!さらばと(ry

2014-07-19 19:43:10 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5845   閲覧ユーザー数:5031

 

 

前書き

 

 

これにて無印編、完結。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ。ご苦労様、相馬君。少しは身体を休められたかな?」

 

「只今戻りました、エイミィさん。充分身体は休めましたよ」

 

現在、俺は家に居ながら次元空間に駐屯している管理局の次元航行船であるアースラの会話を盗み聞きしていた。

俺の感覚として耳に直接届く声。

それは相馬と向こうの知り合いらしい女の人との会話を拾っている。

 

「用意した部屋はそのままにしてあるから、そこで引き続き、出動に備えていてね」

 

「はい。ところでクロノはどうしたんですか?まだ何時もみたいに突っかかってこないから……」

 

「あはは……クロノ君なら、これから合流するよ。今は艦長と打ち合わせ中」

 

どうやら相馬とそのクロノって奴は中々に刺激的な出会いを果たしたらしい。

しかも何やら目の敵にされてるのか。何をやったんだかなぁ。

俺の耳に届くエイミィって女の人の声は少しばかり苦笑い気味になってる。

まぁ、今の所その辺についてはどうでも良い事だ。

俺は何も言わずに相馬が雑談を終えて動き出すまでゆっくりと待つ。

そのままで居ると、話を終えた二人は挨拶をして別れ、相馬は一つの個室に入る。

 

「……ふぅ……もう大丈夫だぞ?クロノも態々部屋までは押しかけて来ないだろうからな」

 

相馬は二つあるベットの片方に腰掛けながらそう言って、懐から『携帯電話』を取り出して枕元に置く。

一応部屋の中を注意して見るが、監視カメラも無いみたいだし大丈夫だな。

 

『おう。それじゃ、いっちょやりますか……相馬、繋いでくれ』

 

「あぁ。分かった」

 

異空間の筈なのに、普通に電話で喋る(・・・・・・・・)俺の言葉に、相馬は普通に反応を返す。

これは勿論昨日の段階で、俺が『今使っているスタンド』の事を少しだけ相馬に話してあるからだ。

相馬はスピーカーから響く俺の声に従い、鞄から充電器を取り出して携帯をコンセントに繋ぐ。

偶然にも、ミッドチルダのコンセントは同じ差込口らしい。

異世界の雰囲気まるで無いな。

そして、コンセントから繋がった携帯の中に潜んでいた俺のスタンドが、コンセントを通じてアースラの中へと侵入する。

そう、電気と同化するスタンド能力、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』だ。

電気を操り、電気と同化する人型のパキケファロサウルスを思わせる姿をしたスタンド。

驚く事にコイツは電気があるならどこにでも移動可能であり、普段はコンセントや電線の中を移動する。

しかも他の物体すらも電気と同化させて電線の中に引っ張り込むこともできてしまう。

更に特性として、遠隔操作型のスタンドだが電気を吸収すればするほど強くなるという、パラメーターが変化する性質を持ってる。

特にスピードは電気と同化している関係上光速に近いスピードを持ち、スター・プラチナのような時間を止めるスタンドでもない限り追いつけないほどである。

これだけスペックが凄いのは電力をエネルギーとして消費し続けているからであって、逆に電気の無い様な場所では無力に近い。

まぁ山や川とか、電気の無い場所でも無い限り、かなり心強いスタンドだ。

遠隔操作型にも関わらず、条件次第で近距離パワー型並のパワーを発揮できるスタンドってのが『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の感想だな。

 

「昨日貰った大容量のミニSDも既に差し込んである……後はそっち次第だ」

 

『任せとけ。電気の中はお得意のスタンドだからな』

 

「そうか……念には念を入れて、俺はここで待機してる。存分にやってくれ」

 

『あぁ。了解』

 

返事を返すと、相馬は鞄から雑誌を取り出してベットに腰掛けて雑誌を読み始める。

ベットに寝転んで本を読みつつ、携帯はベットの枕元に置いた状態だから、何かあっても問題無いだろう。

さあて、俺は俺で仕事をしますかねっと。

意識をアースラのネットワーク内に潜り込ませたチリ・ペッパーに集中して、俺は電脳の海を観察する。

現在、レッド・ホット・チリ・ペッパーが潜り込んでるのはアースラのコントロールからネットワークに至る全てが集合した場所だ。

目では認識出来ない空間だから、電脳世界とでも言うのか?

まぁその世界に入りながら、俺はアースラのデータバンクにハッキングを掛ける。

って言っても外からファイヤーウォールを破るなんて強引な手口じゃない。

電気と同化して電気信号として入り込むから、余程の事が無いと気付かれ無い。

プレシアさんから事前に聞いてたが、魔導世界の舟の動力は魔力炉で生み出した魔力エネルギーで動いてるらしい。

しかし舟内部の電気やネットワークを形成してるのは魔力炉から変換装置を通して生み出された電力であり、俺達の地球と同じ電力だそうだ。

それならチリ・ペッパーが内部に入り込むのは問題無かった。

さすがに全部が魔力で形成されてたら、俺には手も足も出せなかったけどよ。

 

(ともあれ、無事に入れた事だし、まずは情報収集からいくか……)

 

まず今回の事件に関する現時点での報告は……おーおー、テスタロッサが如何に逃げおおせたのかが書いてあるな。

その時の状況も明確に書かれちゃいるが……これは駄目だろう。

報告書には乱入したクロノ・ハラオウン執務官の管理局宣言、及び警告を無視したとあった。

でもこれって、管理局だっていう明確な証を示して無いのに通じるのだろうか?

口頭で、しかも異世界に居るってのに、それを信じる奴等がどれだけ居るってんだよ。

奴等の言う管理外世界で管理局の名を口にすればそれだけで管理局員扱いか?

もしかしたら流れてきた違法な魔導師かもしれねえのに、口先だけで信じる事は不可能だ。

オマケに、管理外世界での行動に際しては、此方の身分が分かる警察手帳の様なモノを掲示する様に、と必須事項に書かれてるじゃねえか。

とりあえずこの報告書を丸々コピーしてSDにポンっと……これで良し。

次は、アースラが管理局の本局とかと繋がってるネットワークへ侵入する。

これを抑えて制御すれば、ネットで繋がった本局側の見られたくないデータベースへのアクセスもさっくさく。

本局に情報として蓄積されてるデータベースへ潜り込めた俺は、テスタロッサの出生に関する情報。

即ち『プロジェクト・F』のデータを根こそぎ制御下に置いていく。

更に、そのプロジェクトに関した細かな情報。

その辺りは全て、相馬の携帯に差し込まれたミニSDへと流しこんで、オリジナルは全て削除しておく。

これでデータベースからは、テスタロッサが出生で突つかれる事は無いだろ。

そして、アリシアちゃんが死ぬきっかけとなった次元エネルギー駆動装置「ヒュードラ」の暴走事故の詳細。

これに関しては……御丁寧に当時の実験関係者にしか見えない様に設定されてやがる。

しかチリ・ペッパーにはそんなの関係無いので、普通に中身を閲覧出来る。

御丁寧に名前入りの手記まであったので閲覧するが……これ、間違い無くプレシアさんは被害者だろ。

功を焦った当時の管理局上層部からの安全基準をほぼ無視した命令の結果、一人の人命が失われている。

それがアリシアちゃんが死ぬ原因となったヒュードラ事件だ。

でもまぁ、この事件が在ってアリシアちゃんが命を落とさなきゃ、テスタロッサは生まれて無いんだから……何とも皮肉の効いたジョークだぜ。

前任者の杜撰な管理と、差し迫るスケジュール、上層部からの無理な命令。

当時の経歴と実力がズバ抜けて優秀だったプレシアさんだったからこそ、無茶が出来たって思える過密スケジュール。

だが結局、効率のみを重視し安全性を度外視した本部の人間による進行は、結果として駆動炉の大爆発という惨事を引き起こす。

最終的に責任は当時の担当主任とされていたプレシアさんにおっ被せて、自分達はその無謀な研究を止めようと努力していたと報告すれば、一気に昇進へと繋がるって訳だ。

 

(プレシアさんの記憶を読んだ時に、少しは脚色されてるかと思ったが……こりゃ酷すぎるな……しかもその馬鹿野郎共は残らず昇進して優雅に暮らしてるだと?そりゃありえねえだろ)

 

表に出されたヒュードラ事件の報告書はでっちあげのオンパレード……中身がまるで違うじゃねえか。

オマケにコイツ等の個人データの深い所まで探れば……まぁ出てくるわ出てくるわ、やっちゃいけねえ汚職の山。

麻薬密売に精製、マネーロンダリングに管理外世界から誘拐してきた身寄りが無い未成年の女子の売買記録。

果てはその女の子達の扱い……慰み者や奴隷とムナ糞悪い項目ばっかだ。

更にコイツ等の汚職について調べてきた捜査官や執務官達の個人記録まで網羅してやがる。

その捜査官達の家族に行った仕打ち……男なら死、若い女なら陵辱するか、歳がいってたら始末のどちらか。

 

(人間が権力を持つと醜くなるってのは、何処の世界も共通か……だが、そろそろ年貢の収め時ってね)

 

俺はこのデータをお偉いさん達の悪事の証拠を全てミニSDにコピーして、このフォルダを削除出来ない様にロックを掛け、閲覧設定を甘くする。

ちょちょいと調べれば分かる様にしておけば、捜査も直ぐに手が伸びるぐらいの甘さだ。

これならプレシアさんが交渉のテーブルについた時に管理局が調べれば切り札になるだろう。

もしも土壇場でフォルダを消そうとしても、パスを書き換えた俺以外にロックは解除出来ないし、このフォルダを管理局のありとあらゆるデータベースにコピーしておけば、一つ消されたぐらいじゃ問題にもならねえ。

更に世間様には出していない他の管理局上層部がやらかした黒いデータも……こりゃまたかなり出てきたなぁ。

さすがにこの辺りまでカードを切っちゃ、プレシアさん達が消されかねないし、今回は見送るとすっか。

 

『相馬、終わったぜ』

 

「ん。分かった……どうだ?」

 

俺はチリ・ペッパーを携帯の中に戻してから、ベットに腰掛ける相馬に呼びかける。

すると相馬はコンセントから携帯を外してポケットに閉まってから小声で問いかけてきた。

 

『これだけ交渉材料があれば大丈夫だろ。俺みたいな奴でもそう思えるのに、科学者として有名なプレシアさんならどうなるか、想像したくないね』

 

「そうか……何にしても、お前のお陰でフェイト達は救われた……ありがとうな」

 

『礼なんかいらねえよ。全ては俺の平穏な生活の為だ』

 

嬉しそうに微笑みながらお礼を呟く相馬に、俺はそう返して――。

 

 

 

ビーッ!!ビーッ!!

 

 

 

『……おいおい、何だってんだ?』

 

突如、甲高くうるさいブザー音が鳴り響いた。

部屋の天井に設置されたランプが真っ赤に光りながら点滅を繰り返し、この音が只事じゃ無いことを告げる。

 

「これは緊急事態を知らせるアラートだ……つまり」

 

『お前の言ってた予想が当たったって訳だ……面倒な事だぜ……』

 

「あぁ。これはプランBに移行決定だな」

 

「(プシュン!!)相馬君ッ!!リ、リンディさんがブリッジに来てって……ッ!!」

 

と、相馬が喋り終えるかどうかのギリギリのタイミングで、焦った表情のなのはが部屋に入ってきた。

あんまりなタイミングだったからビビったぜ。

それは相馬も同じだったのか、少しきょどりながらなのはに視線を合わせる。

 

「あ、あぁ、なのは。分かったよ。兎に角ブリッジへ行こう」

 

「うんッ!!」

 

相馬の様子に突っ込む暇も無いのか、なのはは特に何も言わずに相馬と一緒にブリッジとやらに向かう。

多分船の構造的に言うなら、運転とかする場所の事だと思うんだが。

携帯の中でそう考えながら胸ポケットから少し出た携帯のカメラ部分を通して見ていると、二人はどこかの部屋に入った。

扉が開いた部屋は壁が全て窓で、外は次元の狭間が見える。

部屋の中央は大きく盛り上がって下を見下ろす形になり、ここが中央だってのが良く分かる。

そのデッキ部分にある椅子に緑髪の女性が座って、目の前に映るモニターの画面を見ていた。

場所的にこの人がこの船の艦長のリンディさんとかいう人なんだろう。

隣には俺達と同い年くらいの金髪の男が居るが、そっちは誰かは分からねえ。

彼女は目の前に映るモニターを見ているが、余り表情が良くない。

 

「何とも呆れた無茶をする子だわ……六つのジュエルシードを同時封印しようだなんて……」

 

「フェイトちゃんッ!!」

 

呟くリンディさんの後ろになのはと相馬が駆け寄ると、画面の映像が見えてきた。

一体何事なんだよ……って……おいおい冗談じゃねぇぞ。

モニターを見ると、海上にいくつもの竜巻と雷が荒れ狂っている映像が映し出されていた。

しかもその嵐の中でテスタロッサが必死にバルディッシュを振って襲い来る雷や打ち上がる竜巻を払っている。

つうかジュエルシード六つだと!?無謀過ぎんだろあの馬鹿ッ!!

相馬もここまで大事になるんなら先に言いやがれッ!!

 

「くそッ!!あぶねえ事ばっかやらかしやがってッ!!」

 

意識をチリ・ペッパーに集中しつつ、俺は部屋の窓へ駆け寄って窓を開ける。

空は生憎の曇り模様だが、あんなに荒れてはいない。

 

「スタープラチナッ!!」

 

ズギュウウウンッ!!

 

「ぐっ!?あ、頭が痛え……ッ!?ち……ッ!?ニ体同時操作も楽じゃねえな……ッ!!」

 

スタープラチナを呼び出した瞬間、ズキリと頭痛が奔り、俺は頭を抑えて愚痴を零す。

同時に違う事を考えながらスタンドを扱うには、並外れた精神力が必要なんだろう。

その代償が今も俺の頭を襲う頭痛だが、今は我慢する。

スタープラチナと視力を共有しながら海の方を睨み、視力を拡大させていく。

 

ジー、カチッ。カチッ。

 

隣町の海鳴を超えて、その先にある海沿いの公園を更に超えた場所。

海外へ向かう海を見渡すが、何処にも嵐なんてものは起きていない。

どうやら結界の中で戦ってるらしいな。

そうなると俺には干渉する事は出来ないが、少なくとも町に被害は出ないだろう。

安堵してスタープラチナを解除しつつチリ・ペッパーに意識を戻すと、なのはの焦った声が聞こえてくる。

 

「あ、あのッ!!私直ぐに現場に行きますッ!!行こ、相馬君ッ!!ユーノ君ッ!!」

 

「あぁ、分かった。ユーノ、転移を頼めるか?」

 

「うん。任せて。僕は攻撃魔法はからっきしだから、サポートに回るよ」

 

あっ、アレがジュエルシードを運んでたユーノなのか。

駆け出すなのはに続いて、相馬とユーノが扉へと向かうが――。

 

「その必要はないよ」

 

それに待ったを掛ける人物が一人居た。

その声に振り返った相馬の携帯を通じて見えたのは、黒い制服に身を包んだ一人の少年。

アレがあの報告書にあったクロノ・ハラオウンか。

しかしその必要が無いってのはどういう事だ?何か秘策でもあるんだろうか?

 

「必要が無いっていうのはどういう意味だ、クロノ」

 

俺と同じ疑問を持った相馬がクロノに問い返すと、彼は普通にこう返事をした。

 

「言葉通りの意味さ。あんな無茶をすれば、直に彼女は力尽きる。その後で彼女とジュエルシードを保護すればいい」

 

「そんな……ッ!?」

 

「……」

 

クロノの言葉になのはは驚き、相馬は何も言わない。

ユーノはそんな表情を浮かべるなのはを複雑そうな表情で見ていた。

 

「仮に力尽きなかったとしても、力を使い果たした所で叩けば良いという事だ」

 

「でも……」

 

「今の内に捕獲の準備を」

 

「了解」

 

尚も食い下がろうとするなのはの言葉に耳も傾けずに、クロノは他の局員に捕獲の準備をさせる。

……敵に対しての手段としては上の上だろーな。

そうすれば味方の被害も減らせるし、尤もスマートにやれる手段だろう。

クロノの言葉に納得出来ない様子を見せるなのはに、更に続いて言葉が投げ掛けられる。

 

「私たちは常に『最善』の方法を取らないといけないの。残酷かもしれないけど、これが現実……」

 

それは、椅子に座ったまま呟くリンディさんの言葉だった。

その言葉を聞いて、なのはは目を瞑ってしまう。

……こう言っちゃ何だが、リンディさんの言う事は組織として正しい。

最小限の犠牲で最大限の成果を得る為に、そこに個人の感情や意見を入れてはならない。

それこそが組織って所に求められる部分だからな。

更に言えば、部下の命を預かるって立場でも無闇に命を危険に晒す訳にゃいかねえ。

あぁ、全くもって正しいだろうさ……でもよ――。

 

「ユーノ。転移の準備をしてくれ」

 

「うん、分かったよ」

 

「ッ!?相馬君?」

 

『俺達』地球に住む人間には、全くもって『納得できない最善』だ。

リンディさんの言葉の意味を噛み締めていた俺の耳に飛び込んだのは、相馬の言葉だった。

相馬は今のやりとりをまるで見ていなかったかの様に準備を進める。

 

「おい相馬ッ!!何をしているんだッ!?」

 

それに待ったをかけるクロノだが、相馬は平然とした表情を浮かべてた。

 

「何って、向こうに行く準備だが?」

 

「なっ!?キミは僕の話を聞いていなかったのかッ!?その必要は……」

 

「それはそっちの都合だろう?俺達の都合は勘定に入ってない」

 

「どういう事かしら、相馬君?」

 

声を荒らげて注意しようとするクロノの言葉を遮り、相馬は視線を向けつつそう返す。

相馬の言葉にクロノは口を閉ざし、リンディさんは厳しい目を向けて質問した。

ブリッジ中の視線が相馬へと集まる中、相馬は至って平然と言葉を続ける。

 

「確かにリンディさん達にとってはそれが『最善』かも知れません……けど、あの子が封印できずに力を使い果たしたらどうなる?空間結界が解除されたら、俺達の町が被害を被るんだぞ?そこはリンディさん達の言う『最善』の勘定に入ってるんですか?」

 

「「ッ!?」」

 

相馬の言葉に、リンディさんとクロノは目を見開いて言葉を失う。

そう、俺もさっきから納得出来なかったのは、ジュエルシードの被害を受けるのは何処だか分かってんのか?って事だ。

あの空間結界とやらを維持してるのがテスタロッサ一人なら、アイツが気絶するなり魔力切れに陥れば、その猛威は町に降り掛かる。

俺は住んでないにしても、相馬やなのは、そしてアリサ達が住んでる海鳴はいの一番に被害を受けちまう。

あれだけの規模の災害が町に降りかかれば、死人の一人やニ人じゃ済まねえし、ジュエルシードのパワーを考えれば俺の町も、いや日本も危ない。

だったら、結界が解除されてテスタロッサが力尽きてから両方を安全に確保する最善じゃなくて、何人かの局員を派遣して封印に協力して被害を減らすのが筋ってモンだろ。

仮にも次元世界の守護者を謳うってんなら、ロストロギアの暴走で世界に被害を出さない為の管理も管理局の仕事じゃねえか。

 

「俺達にとっての『最善』は、ジュエルシードを封印して俺達の住む町に被害を出さずにこの事件を終わらせる事です。なら、俺達はここで見ている事は出来ません。例えフェイトを助ける結果になっても、目の前の危険を取り除く事を優先させてもらいます」

 

「あなたは自分が何をしようとしているのか分かっているの?協力者とはいえ、そんな独断行動は見逃せません」

 

相馬の言葉で苦い顔をしていたリンディさんだが、それでも食い下がって強気な言葉を返す。

正直、職務と責任があるリンディさんの言葉も正しいし、相馬の言葉も正しいだろう。

その正しさの天秤の傾き具合は、そこに住んでるか住んでないかの違いってだけだ。

ただ、俺達みたいな地球に住む人間にとっちゃ管理局の『最善』より、俺達地球に住む人間の『最善』の方が重い。

 

「リンディさんこそお忘れですか?俺達はあくまで町を、家族を守りたいから協力してるだけであって、貴女達の指揮下には入っていない。この場面で貴女達に命令されるのは筋違いってものだ」

 

「……」

 

相馬の正論に言い返す事が出来ず、リンディさんは歯噛みする。

まぁ、ここで強攻策でもとろうもんなら、自分達の言葉を否定する事に繋がるからな。

先に手を打った相馬の勝ちってトコだろう。

そこでリンディさんとの会話を打ち切った相馬はユーノに視線を向ける。

ユーノは相馬と顔を合わせながら頷きを返し、相馬は次になのはへ視線を向けた。

 

「なのははどうする?決めるのはなのはだ」

 

「私も行くよッ!!フェイトちゃんともお話ししたい……それに、私は――私は、相馬君の役に立ちたいのッ!!」

 

なのはの覚悟が篭った叫び。

それを聞いた相馬は真剣な目付きでなのはを見つめていたが、直ぐに微笑みを浮かべる。

 

「……分かった。じゃあ、一緒に頑張ろう。ユーノも良いか?」

 

「うん。じゃあ、そろそろ行く――」

 

「待てッ!!」

 

しかしそんな三人に向けてクロノが言葉を掛ける。

その言葉に振り返ると、クロノとリンディさんが少し自嘲した表情で三人を見ていた。

 

「……確かに、君の言葉はその星に住む人として正しい……だが、僕等は態とそれを見逃していた訳じゃない。それだけは分かってくれ」

 

「まぁ、何を言っても今更だけどね……相馬君、なのはさんとユーノ君と一緒に現場に向かい、ジュエルシードの封印と彼女の保護をお願いします」

 

彼女のさっきまでとは違う言葉に、なのはは驚きながら「良いんですか?」と言葉を返す。

なのはの言葉に対してリンディさんは苦笑いを浮かべつつ口を開いた。

 

「私達だって管理外とは言っても、そんな風に軽く考えた事は一度も無いわ。それに一人であんな無茶をするあの娘の事は心配なのよ。ただ、組織はそれではやっていけない……嫌なものね」

 

リンディさんはそう言いながら悔しそうな顔をする……どうも、彼女達は他の管理局員とは違うっぽいな。

この人達はやっぱり、自分達の中の『正義の心』ってのをちゃんと持ってる。

権力に溺れ、プレシアさんを陥れたクソ以下の連中とは違う。

でも、自分達の正義と責任ある立場を照らし合わせて、その折り合いをつけた中でしか動けないってだけだ。

自分個人の感情で動く事で部下を悪戯に傷つけない様にしなくちゃいけねえってのが、この人達の足枷になってる。

まぁそれと同じかそれ以上、管理局には腐った連中が居るだろうから、俺はお近づきになる気は無いけど。

 

「生意気な事を言ってすいません、リンディさん」

 

「良いのよ。あなたはあの星に住む一人の人間として、真っ直ぐ正しい事を言ったのだから。その代わり、気をつけて下さい」

 

頭を下げて謝罪する相馬の言葉に、リンディさんは微笑みながら言葉を返す。

相馬も頭を上げて、リンディさんの言葉に頷いて返事した。

 

「僕は後詰に待機しておく。転送ポートを使ってくれ。あれを使えばユーノの魔力消費も少なくて済む」

 

「あ、ありがとうございますッ!!行こう、二人共ッ!!」

 

「ああッ!!」

 

「うんッ!!」

 

クロノにお礼を言いつつ、三人は部屋の隅に浮かび上がったゲートの様な場所に走る。

相馬は少しニ人から遅れて走り、携帯のミニSDを抜いて携帯と一緒のポケットに閉まう。

良し、ちゃんと俺が頼んでた事を忘れて無かったみてえだな。

俺は携帯から差し抜かれて同じポケットに収められたミニSDをチリ・ペッパーの手で掴み、ミニSDを電気と同化させて携帯の中に引き摺り込んでおく。

これで地球に戻れば、俺は相馬の携帯から電線に流れ込んで離脱する事が出来るな。

そうこう言ってる間に視界が光に包まれたかと思うと、あっと言う間に海沿いの公園に到着していた。

 

「僕は一度外から結界を強化するから、ニ人を先に結界の中に転移させるよッ!!ニ人共セットアップしてッ!!」

 

ユーノが民族的な衣装に着替えて魔法陣を展開しながらニ人に指示を出す。

相馬となのはは頷きながら懐から其々デバイスを取り出す。

なのはは赤い宝石を、相馬は台形の手形の様なモノにドクロの意匠が施されたものを。

さて、ここからは相馬達の出番だな……頑張れよ、相馬、なのは。

俺は相馬の携帯からチリ・ペッパーを直ぐ傍にあったトイレのコンセントから電線に忍び込ませる。

2人が結界の中に飛び込んだのを見届けてから電線を光速に近い速度で駆け巡り、コンセントから帰ったチリ・ペッパーからミニSDを受け取る。

さあて、急がねえとな。

俺は再びプレシアさん作の転移ポートを起動して時の庭園へと戻る。

今日は同じ所を行き来してばっかりだな。

そして、転移したのはあの扉の前だったので、俺はノックも無しに扉を開ける。

 

「お兄ちゃんッ!?フ、フェイトが大変なのッ!!」

 

扉を開けた俺に詰め寄って来たのは、幽霊の時に着ていたのと同じ水色のワンピースに身を包んだアリシアだった。

その奥ではモニターに厳しい視線を向けるプレシアさんの姿もある。

 

「あぁ。それを伝えに来たんだが、必要無かったみてえだな」

 

アリシアに言葉を返しながら部屋の奥へ進んで、プレシアさんの横に立つ。

モニターには管理局と同じく、必死で戦うテスタロッサの姿が写っていた。

今はさっき乱入したなのはと相馬の姿もある……っていうかテスタロッサ、相馬を見た瞬間顔を赤くしてねぇか?俺の見間違いか?

竜巻に翻弄されて苦しそうな表情を浮かべるテスタロッサの姿を、プレシアさんはギュウッと手を握って見ていた。

 

「加勢しねーんですか?」

 

「……したいけれど、まだアルフが結界に到着してないの。さすがにここからフェイトに呼び掛けて私の存在が明るみに出たりしたら、事態は収拾が付かなくなるわ……だから、アルフが来るまでは……耐えないと……」

 

「お母さん……」

 

俯いて手を握り締めるプレシアさんの手に、アリシアちゃんが心配そうに触れる。

プレシアさんはそれを見て表情を柔らかくすると、アリシアちゃんの頬に手を沿えた。

 

「心配しないで、アリシア……フェイトは必ず助けるわ……あの子は貴女の妹で……私の『娘』なのだから」

 

そう言って微笑むプレシアさんを見て、アリシアも嬉しそうに笑いながら頷く。

初対面の時からじゃ考えられねえ変わり様だな……良い方向に、だけど。

助けたいけど助けられない。

そのもどかしいジレンマにプレシアさんは唇を噛むが、今は耐えないとマズイらしい。

まぁ確かに、管理局との交渉のテーブルに着くには今正体を明かすのは駄目か。

この状況だと、ロストロギア強奪に手を貸したって形になっちまうからな。

 

『プレシアッ!!私だッ!!今結界の中に入ったッ!!』

 

と、スピーカーから待ちに待ったアルフからの連絡が入った瞬間、プレシアさんは会った頃のドギツイ服を身に纏って立ち上がる。

手には既に修理された杖が握られていて、何時でも魔法が放てるだろう。

 

「アルフッ!!正規の局員は居ないみたいだけど、その子達は管理局の協力者だから攻撃しない様にッ!!私が次元跳躍魔法でジュエルシードを全て封印するから、貴女は騒ぎに乗じてフェイトを連れ出しなさいッ!!」

 

『分かってるよッ!!そっちこそしくじんじゃな――』

 

『ハァッ!!』

 

と、ニ人の遣り取りの最中にテスタロッサに向かった雷を、相馬が斬月で叩き落とした。

風に靡くボロボロの真っ黒な着物袴姿で、出刃包丁の様な大剣を担ぐ相馬。

少しダークヒーローっぽいけど、テスタロッサはそんな相馬を見て……頬を桃色に染める。

 

 

 

……おい待て。

 

 

 

『あっ……あ、ありがとう……そ、それと……今まで何度も君が、助けてくれて……嬉しかった……』

 

『どっちも気にする事は無いさ。君が無事ならそれで良いよ』

 

『あ、あぅ……ッ!?……き、君じゃなくて……フェイトって……呼んでくれる?』

 

『ん?あぁ。よろしくな、フェイト。俺の事も相馬で良い』

 

『う、うん……ソウ、マ……ぁうぅ……ッ!?』

 

相馬の行動に驚きながらもお礼を言ったテスタロッサに、相馬は爽やかさMAXの微笑みで返す。

そんな相馬のイケメンスマイルに見つめられて、テスタロッサは顔を赤くしながらあうあう言ってた。

しかもお互いの名前を交換し、相馬の名を呼んだだけで照れっ照れになってるし。

……後ろの目が光ってるなのはのデバイスの照準がお前の脳天に向いてると思ったのは、俺の気の所為と考えた方が良いか?

っていうか相馬……テスタロッサと何時の間にそんな桃色吐息にラブコメる仲になった?

いや、まぁ俺は良いんだけどさ……。

 

「……まぁ、不慮の事故は仕方無いわね……一人くらい」

 

隣でさらっと物騒な事呟いてるお人の相手、頑張れや。

何ていうか、青筋が浮き上がったプレシアさんの顔は正直言って怖い。

そんな事を思っていると、雷がテスタロッサと相馬に集中して降り注いだ。

 

 

 

さすがにあれはヤバイ、と思っていた俺の隣りから――何やら「プッツーン」という何かが切れた音が鳴る。

 

 

 

「小汚いロストロギア風情が――誰の娘に手を出そうとしてるのかしらッ!!?」

 

娘の危機を一瞬で察知したプレシアさんが鬼もかくやって顔で叫びながら、杖でドンッと強く床を叩く。

すると巨大な魔方陣が現れ、中央にモニターと同じ場面が映しだされた。

オイ、この人プッツンしてんじゃねぇか。

 

「身の程を弁えなさいッ!!サンダーレイジッ!!O.D.J!!」

 

その詠唱と共に、魔方陣に映っているテスタロッサ達を囲む雷に向かって、空間……いや、次元を超えた落雷が襲い掛かる。

プレシアさんの魔力光と同じ紫色の極大なサイズを誇る落雷。

それがジュエルシードの生み出した雷とぶつかるも、相殺どころか雷が飲み込まれていくではないか。

ジュエルシード六個分を媒介にした雷を超えた、一人の魔導師が放つ雷……パネェな、おい。

モニターには、相馬とテスタロッサの驚きに満ちた顔が映し出されてる。

 

『これは……ッ!?次元跳躍魔法か……ッ!?なんて威力を……』

 

『……母さん……?』

 

ニ人が驚いてる間にも連続で降り注ぐ雷の群れ。

しかしその悉くを、プレシアさんの放つ数多の雷撃が苦も無く撃ち落とし、蹂躙する。

その範囲は一気に広がり、なのはやユーノに襲い掛かろうとしていた雷や竜巻をも消し飛ばした。

さしずめ、この荒ぶる天から降り注ぐ豪雷はプレシアさんの怒りと言えるだろう。

……こんなに強かったのか、この人は?

俺がモニターから目を離して驚いた表情でプレシアさんを見ると、彼女は微笑みながら口を開いた。

 

「貴方のお蔭よ、ジョジョ君……貴方が私の病を治してくれたから、私は全盛期の力を存分に振るえるの……貴方のお蔭で、私は娘を守れるのよ」

 

笑顔で優しい台詞言ってるのにモニターに映る豪雷の所為で台無しだよ。

俺に母親を思わせる優しい微笑みで答えながらも、プレシアさんの雷による蹂躙攻撃は止む事が無い。

もはやなのはとテスタロッサ、相馬が何をしなくとも勝手に守られてるって状況だ。

そんな中で、この攻撃を理解していたテスタロッサが、まるで花が咲いた様な輝かしい笑顔を浮かべた。

 

『母さんが……母さんが、私を……守ってくれた……ッ!!』

 

「ッ!?……えぇ。そうよフェイト……これからは、今までの分も……私が、貴女を守るわ……ッ!!」

 

今まで実の母から耐え難い仕打ちを受けながらも、真っ直ぐな愛情を向けていたテスタロッサ。

その愛情が報われたと喜ぶテスタロッサの顔を見て、プレシアさんは涙ぐみながらも言葉を発する。

それが例え今は届いていなくとも、言葉にする事に意味があるから。

 

『フェイトッ!!』

 

『ッ!?アルフッ!?どうして……ッ!?』

 

『説明は後でするからッ!!アンタ等も急いでココを離れなッ!!ドでかいのが来るよッ!!』

 

と、やっとの事で現れたアルフがフェイトを抱き寄せながら、あの場に居る全員に注意を促す。

ユーノとなのはは何が何やらって顔で狼狽えてたけど、相馬が直ぐに指示を出した事で、三人共ジュエルシードの場所から離れた。

 

「最後の仕上げよ……消えなさい」

 

それをモニターで確認したプレシアさんはもう一度床を杖でコンと軽く叩き――。

 

 

 

ズガァアアアアアアアアアアアンッ!!!!!

 

 

 

たったそれだけの動作で、モニターがホワイトアウトした。

 

 

 

「……冗談だろ?」

 

今までの雷なんか比べ物にならない程に巨大な『落雷』が、眩しさで目を逸らしていた隙にモニターを光で埋め尽くす。

最早フラッシュの所為で向こうの状況は見えないが、間違い無く超ド級の攻撃だ。

……これで科学者?確実に職を間違えてんだろ?

それとも母の愛の結果がこれって訳か?だとしたらプレシアさん無敵にも程があるって。

 

「モニターは見えないけど、確かな手応えがあったわ……アルフ、聞こえる?」

 

と、プレシアさんは魔法陣を消しながら、もう一枚モニターを呼び出して、そっちに話し掛ける。

最初はウンともスンとも返事が無かったが……。

 

『――ッ――タ――アンタッ!!あたし達まで消し炭にする気かッ!?危うくアタシの尻尾が黒焦げになるところだったぞッ!?』

 

直ぐに映像が繋がって、涙目で吼えるアルフの顔がドアップに映し出された。

お疲れさんだな、アルフ。

モニターの向こうでギャンギャン喚くアルフを目撃して、俺は同情を禁じえなかった。

 

「あら、それはごめんなさい。久々だったから調節が上手くいかなくて……それよりフェイトは?」

 

『ったく……アタシもフェイトも無事だよ。こっちを見失ってる間に転移して、あいつ等からも遠くに逃れた』

 

『母さんッ!!』

 

「あぁ、フェイト……無事だったのね……良かったわ」

 

と、泣くアルフの胸元に抱えられたテスタロッサがモニターに割り込んで言葉を発した。

テスタロッサを見てプレシアさんは嬉しそうな声を出すも、テスタロッサは直ぐに表情に影を刺す。

 

『ごめんなさい……ジュエルシード六個が、管理局に……い、今からでも、私が……ッ!!』

 

「いいえ。それはもう良いのフェイト。ジュエルシードの事は管理局に任せて、一度帰って来て」

 

『えっ……?わ、私が、遅すぎたからですか?だ、大丈夫ですッ!!今からアルフとニ人で挑めば……ッ!!』

 

「ち、違うのよフェイトッ!!違うのッ!?貴女にどうしても話さなきゃいけない事があるからそう言ってるのッ!!決して貴女が悪い訳じゃ無いわッ!!」

 

画面に映るテスタロッサは何を勘違いしたのか、酷く不安定な表情で画面を見ながらそんな事を言う。

それを見たプレシアさんは悲しそうに表情を歪めたまま違うと言い、時の庭園に戻る様に懇願する。

これ大丈夫か?何かテスタロッサが暴走しそうなんだけど……。

俺の頭に不安が過ぎるが、テスタロッサはプレシアさんの言葉を聞いて、一度動きを止めた。

 

『は、話、ですか?』

 

「そう。貴女にも、そして私にも大事な……家族の話し合いなの……兎に角、アルフと一緒に一度戻ってきてくれないかしら?」

 

『は、はいッ!!分かりましたッ!!す、直ぐに戻りま――』

 

『ちょ、ちょっと待ってフェイトッ!!今魔法を使ったら居場所がバレちゃうよッ!!せめて後2時間はしないと』

 

『あ、あう……に、二時間したら行きますッ!!ご、ごめんなさいッ!!』

 

「良いのよフェイトッ!!貴女の所為じゃ無いわッ!!……楽しみに待ってるから、ね?」

 

『ッ!?はいッ!!』

 

プレシアさんの微笑んだ顔を見て、テスタロッサは嬉しそうに微笑む。

そこで通信を切ったが、プレシアさんの顔は余り優れない。

沈んだ様子で力なくソファに腰掛けたプレシアさんの傍に立つアリシアもだ。

 

「……私の……所為ね……あんなに、全てを自分の所為だなんて思う様になってしまったのは……」

 

「お母さん……」

 

「……まぁ、これから何とかしていくしか無いんじゃないですか?過去には戻れないんだし……」

 

悲壮観漂うプレシアさんの顔を見て、俺が言えたのはそれだけだった。

テスタロッサのあの性格は、確かに今日までのプレシアさんとの接し方で身に付いてしまったモノだ。

母さんは悪くない、悪いのは自分だという、常に自分を後回しにした考え方。

小さく幼い子供にとって、自分の親ってのは世界の中心に他ならない。

俺もそうやって育ってきたし、誰だってそうだろう。

まだ九歳という年齢で虐待を受けてきたテスタロッサがああいう性格になっても不思議じゃねえ。

でも、まだ間に合う筈だ。

 

「……大丈夫だよ、お母さん」

 

落ち込むプレシアさんに、アリシアは手を握りながら励ましを送る。

 

「お兄ちゃんの言う通りだよ。これから、いっぱいフェイトに優しくしよう?皆でピクニックに行ったり、お菓子作ったりして……これからは、幸せな思い出をいっぱい作ろう?ね?」

 

「アリシア……そう、ね……あの子には今までの分も……いっぱい幸せにしてあげなきゃ」

 

「うん。私も頑張るよ。なんたって私は、フェイトのお姉ちゃんだもん」

 

「ふふっ。そうね」

 

最愛の娘から励まされたプレシアさんは微笑みながらアリシアに答える。

彼女の答えを聞いたアリシアは嬉しそうにしながらプレシアさんに抱きついた。

プレシアさんもそんなアリシアを抱き返しつつ、俺に視線を送ってくる。

 

「……どれだけ時間がかかろうと、必ずあの子を幸せにするわ。それが、貴方から貰った人生最大のチャンスに報いる事になるのよね……本当にありがとう……ジョジョ君」

 

「礼なんて止めて下さい。最初は俺、プレシアさんをブチのめす為だけに、アルフの願いを聞いたんですから」

 

涙目でお礼を言われて、俺は視線を逸らしながら髪を掻く。

まさかここまで深く食い込むつもりなんて無かったんだけどなぁ……まぁ良いけどよ。

結局は自分で納得して首突っ込んだ訳だし、これで俺も清々しい気分になれるってなモンだぜ。

俺はポケットからミニSDを取り出して、プレシアさんに差し出す。

 

「約束してた、管理局の高官が今もやってたり、過去の捜査で判明しなかった違法研究や汚職のデータに証拠諸々と、プロジェクトFについての公開資料の全部です。これを司法取引の切り札にすれば、テスタロッサの罪とプレシアさんに掛けられた罪状も帳消しになるんじゃないっすか?」

 

「……確かに受け取ったわ……ありがとう……この中の何割かのデータを提供する代わりに、私達の自由を勝ち取る。幾つかのデータを手元に残しておけば、後々の切り札にもなるわね……でもジョジョ君。あなたどうやってこのデータを?」

 

「地球の近くに来ていた管理局の船に忍び込んで、管理局本局のデータベースにハッキングを掛けましたけど?」

 

軽い調子でそう返せば、聞いたプレシアさんは頬をヒクヒクさせてしまった。

よく見ればアリシアもだ。

 

「そ、そう……でもこれで、フェイトの出生についての不利なデータは公にならない。今回のジュエルシードの事件でフェイトが行った管理局に対する妨害の罪さえ帳消しに出来れば、後は申請を出して……」

 

「ん?申請?何のですか?」

 

「な、何でもないよお兄ちゃんッ!!あ、あはは……」

 

「そ、そうそうッ!!私達の今後の話の事よッ!!あ、貴方は別に気にしなくて大丈夫だからッ!!お、おほほ……」

 

「はぁ……」

 

何やら普通に、世間話って感覚で聞いてみたんだが、何故かアリシアちゃんまで一緒になって必死に言葉を返してきた。

一体何だってんだ?……まぁ、俺には関係無いならそれで良いけどよ。

とりあえずこれで、俺の住む地球に起こるであろう被害、そして地球の滅亡は防げたって訳だ。

それはつまり、俺の役割が終わった事に他ならない。

これからのテスタロッサ家の人達の命運は、この人達自身が自分で勝ち取るだろう。

俺は大きく伸びをしてから、今も愛想笑いを続ける二人に向かって口を開く。

 

「それじゃ、俺はこれで帰ります。後の事はプレシアさん次第ですんで」

 

そう言葉にすると、プレシアさんは真剣な表情で俺を見つめる。

 

「……本当に良いの?フェイトにこの事を話さなくて?」

 

「話す必要なんか全く無いですから」

 

「で、でも、お兄ちゃんのお陰で私はフェイトに会えるから……その事情くらいは、説明しても……」

 

「正直、面倒だからな……今回の事は、全部俺達だけの秘密でお願いします」

 

尚も食い下がるアリシアとプレシアさんに拒否の返答をしながら、俺は髪を掻いて面倒くさいって表情を浮かべる。

そう、俺は今回の事をテスタロッサを除く三人に固く口止めを頼んだ。

今回俺がこうまでしてテスタロッサ家に協力したのは、何度も言う様に地球を巻き込まれない為だ。

俺達の住む生活圏さえ無事に守られたらなら、別に俺のスタンドの存在を知る人間を増やす必要は無い。

 

「元々テスタロッサに会ったのは一度切り。別に感謝が欲しくてやったとかじゃ無いし……もう会う事も無いだろうから、態々言う必要も無いんで……」

 

そう答えると、プレシアさんは少し残念そうな顔をしながらも、「分かったわ」と言ってくれた。

逆にアリシアちゃんは悲しみを背負った顔でプレシアさんを見るが、プレシアさんは首を振るだけに留める。

 

「約束通り、貴方の事は秘密にするわ。転送ポートも向こうに着いたら壊して捨てて?管理局に見つかったら面倒になってしまうもの」

 

「えぇ、分かりました」

 

「……お、お兄ちゃん……あの……もう少し、お話し出来ない?」

 

プレシアさんの言葉に応えてから転移ポートを起動させようとする俺の目の前に、泣きそうな表情のアリシアが立っていた。

……まぁ、これでもうお別れだもんな。

何だかんだで、自分が死んでから生き返る切っ掛けを作った人間との別れは、少し不安になってるのかもしれない。

プレシアさん達は地球の人達じゃ無いから、もう俺が会う事は二度と無えだろう。

……最後くらいは、ちゃんとお別れの挨拶をしなきゃな。

そう考え、俺は二人に近づいて笑顔を浮かべる。

 

「アリシアちゃん。ここらがタイムリミットギリギリなんだ。管理局に見つかる訳にはいかねえし、俺には俺の生活があるからよ……もうこれでお別れしなくちゃいけねえ」

 

「……」

 

「でもまぁ、なんだ……面倒くせー事ばっかだったけど……会えて良かったよ……アリシアちゃんの力になれて」

 

「……わ、私も……お兄ちゃんに会えて、嬉しかった……ッ!!」

 

俺の言葉を聞いてアリシアちゃんは涙ぐみ、プレシアさんは暖かい微笑みを浮かべていた。

それを聞いて、俺は笑みを浮かべたまま転送ポートを起動する。

こうやって、誰かの力になれて、誰かの笑顔が見れた……あぁ…………これで今夜も、寛いで熟睡出来るな。

少しづつ魔法陣が構築され始めた中で、俺は片手をシュタッと上げて、二人に別れの言葉を告げる。

 

「それじゃあな。しみったれたおばさん。長生きしろよ……そしてそのうるさいぐらい元気な娘よ、俺の事忘れるなよ?」

 

ニヤリと挑発的な笑みを浮かべながら、俺は別れの言葉を言う。

あんまりな言い方をする俺に、二人は怒る事もせずに笑顔で口を開く。

アリシアちゃんは目を一度拭って、プレシアさんは少しムッとしながらも優しく微笑みを浮かべる。

 

「また会おうねッ!!私の事が嫌いじゃなかったらだけどッ!!……ものぐさなお兄ちゃんッ!!」

 

目を拭ったのに、涙を零しながらも笑顔で舌を出すアリシアちゃん。

 

「忘れたくても、そんなキャラクターしてないわ、貴方は……元気でね?」

 

そして微笑みを浮かべたまま、憎まれ口を叩くプレシアさん。

 

その光景を最後に、俺は時の庭園を後にした。

最後に、仲良く肩を抱いて手を振る親子の姿を視界に収めて。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……行っちゃったね」

 

「そうね……」

 

笑顔を浮かべて地球へと帰っていった定明を見送ってから、アリシアがそう呟く。

プレシアは少し寂しそうな表情を浮かべる我が子に返事を返しながら、定明の事を思い浮かべる。

最初はアルフが連れてきた少し変わった少年程度にしか思っていなかった。

あの頃の正常な判断力を失った自分にとっては、路傍の石ころ程度の存在。

しかし彼は自分にとって、正しくジョーカーの役割を担っていたのかもしれない。

自分達魔法のある世界に生きる魔導師の絶対的な魔法の力を打ち破り、大魔導師のランクを持つ自分を打ち倒した。

それに始まり、自分の娘と言葉を交える機会を与えられ、自らに巣食う不治の病すらも片手間に治してしまう。

遂には長年の夢であった自らの娘の蘇生にすら成功し、これから自分と自分の家族を取り巻くであろう環境を整える手筈すらも用意してくれた。

これを神の奇跡と言わずに何と言えば良いのか、聡明なプレシアにも分からない。

唯一つ言えることは、自分達家族は、彼に多大な恩義を作ったという事。

ならば、一家の家長たる自分はその恩を返さねばならない。

その為にもまずは、目の前に立ち塞がる問題の全てを片付けなければ。

 

(彼が危険を冒して手に入れてくれた管理局側のデータと私が保存していたデータを照らし合わせれば、私に着せられた汚名は晴れる。アリシアの死亡を確認したのは私自身だったし、私の誤診で実際は仮死状態に近く奇跡的に目を覚ましたと誤魔化すしか無いでしょうね)

 

プレシアは寄りかかるアリシアの頭を撫でながら、自分が為すべき事を頭の中でシュミレートしていく。

大魔導師であり、魔法科学の第一人者としても天才的な頭脳を持つプレシアにかかれば、一度に並列して物事を複数行う事は造作も無い。

これをマルチタスクと言い、高位の魔導師ならばマルチタスクの習得は必要不可欠である。

 

(問題はフェイトの管理局に対する過失……これは私の過去の経験上、管理局を信用するべきものでは無いと教育したとしつつ、あの場で明確な管理局員の証拠が掲示されておらず、場所が管理外世界であった事を突いて減刑させる他無いかしら……最悪の場合、汚職データを渡す司法取引の形を引き出させる)

 

既に彼女の脳内では自分達の無罪を勝ち取る為の計算が成され、後は身内の問題に目を向ける事だけとなっている。

身内の問題、即ちフェイトの出生を告げ、自分が娘にしてきた仕打ちを謝罪して家族内の不和を取り除く事。

そしてフェイトの姉であるアリシアの秘密も話し、ここに家族の絆を培う事だ。

知らず知らずの内に、手に持ったSDカードをギュッと握っていた。

 

(ジョジョ君……貴方がくれたチャンス……決して無駄にはしないッ!!必ず自由を掴み取ってみせるわッ!!)

 

自らに最大のチャンスを作ってくれた少年に心の中で決意を表明しつつ、プレシアはSDカードの解析にかかる。

自分の娘が帰ってくる刻限まで、残った時間を無駄にしない様に……。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さて、今回の事件の全ての問題を片付けた俺こと城戸定明。

現在は地球に降り立って家に帰宅し、既に帰宅していた母ちゃんが作ってくれた夕食を食べる為に手洗い中である。

帰った俺を笑顔で迎えてくれた母ちゃんが言うには、ココ・ジャンボはもう水槽に入れてリビングに運んであるとの事だ。

俺の部屋じゃない理由は、母ちゃんも亀を見て和みたいらしいから。

 

「なにわともあれ、これで俺の平和は確立されたってなモンだ……いやー良かった良かった」

 

手を綺麗に洗って部屋着に着替えてから、俺はルンルン気分でリビングの扉を開ける。

そこには既にテーブルに着いた母ちゃんと父ちゃんの姿があった。

 

「お帰り、定明」

 

「おう。ただいま、父ちゃん」

 

「さぁさぁ~。今日の夕飯のおかずは豪華よ~♪お母さん特性のつみれに~、ハンバーグとサラダなので~す♪」

 

「「おぉ~ッ!?」」

 

笑顔でメニューを発表する母ちゃんにつられて、俺と父ちゃんは感嘆の声を上げる。

いや、マジで母ちゃんの飯は絶品なんだよなぁ。

何でも昔、どこかの五つ星レストランから働かないかとオファーがあったらしいが、蹴ったらしい。

理由は父ちゃんとゆったりラブラブな生活がしたいからとか。

 

「あっ、そうそう。今日お父さんと買い物に行く前に~、お隣のおばさんから美味しいケーキを貰ったの~♪それも出すからちょっと待ってね~」

 

「あぁ。お隣のおばさんか。またお礼に何か持っていかなくちゃな」

 

と、何かを思い出したかの様に手をポンと合わせた母ちゃんが、冷蔵庫から美味そうなケーキを持ってくる。

ちなみに隣のおばさんとは何者かって?簡単に言うならクレヨンが題名に付く幼稚園児アニメのお隣のおばさんと考えてくれ。

噂好きなのが偶に傷だけど、良い人なんだよなー。

この前も母ちゃんの帰りが遅くなった時に、態々他人丼作ってくれたし。

そしてルンルン気分の母ちゃんが持ってきたのは、長方形のチーズケーキだった。

 

「おぉ……ッ!?美味しそうだなぁ……あれ?母さん、切り分けないのかい?」

 

「あら?やだわ~、うっかりしちゃって」

 

「はははっ。そんなそそっかしい所も、母さんの魅力だよ」

 

「も~。お父さんったらぁ……包丁取ってくるわね~♪」

 

父ちゃんの自然な惚気を聞いてイヤンイヤンと身体をくねらせる母ちゃん。

息子の前でイチャつかないで欲しいぜ、お宅ら何歳だっての。

まぁ、これも平和の証かねぇ……。

暖かい家族の団欒を味わえるのが自分の頑張った結果だと思うと、俺は自然と笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――と、まぁ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムシャムシャバクバクッ!!

 

「ははっ、じゃあ定明。お母さんが来るまで待って……」

 

「ん?」

 

 

 

ここで綺麗に終わってたら良かったんだ。

 

 

 

何やら俺に声を掛けてきた父ちゃんが、空中のある一点を見て呆然とした表情を浮かべている。

まるで何か信じられないモノを見た様な表情だ。

……どうしたんだ、父ちゃんは?

突然そんな顔をする訳が分からず、俺は父ちゃんの視線を追っていき――。

 

 

 

『ガツガツガツッ!!ウンメェエエ~ッ!!』

 

『ムシャムシャッ!!ゲフゥ~』

 

『ウエェエ~~ンッ!!定明ィ~ッ!!NO,1トNO,7ダケズルイヨォオ~ッ!!定明カラモ分ケロッテ言ッテクレヨォオ~ッ!!』

 

 

 

思考が停止した。

 

 

 

父ちゃんの視線を追った先で見たモノは、母ちゃん特性のつみれ団子を勝手に貪り食っていたピストルズの姿だった。

恐らくスタンドの見えない父ちゃんの目には、空中に浮かんだつみれが齧られた様に消えていってるだろう。

あぁ、今日も母ちゃんのつみれは美味そうだなぁ……じゃねぇッ!!!

コ、コイツ等こともあろうに父ちゃんの前で勝手な行動しやがって……ッ!!?しかも俺のつみれじゃねえかッ!!

ここでやっと思考が回復した俺は、直ぐに台所に目を向ける。

母ちゃんは包丁を取り出そうと向こうを向いていたので、此方の様子は見えていない。

ならば――。

 

「……つ、つつ、つつつ、つみれがががが」

 

「当て身」

 

「浮い(ストーン)――う(グラ)」

 

今にも叫び出しそうだった父ちゃんの首裏に、ザ・ワールドで手刀をいれた。

ザ・ワールドの機械を超えた精密な動作で打ち込まれた手刀は綺麗に決まり、その一発で父ちゃんの意識は落ちる。

俺はその光景を見て大きく息を吐いて額の汗を拭う。

フ、ウゥ~ッ!!……間一髪だったぁ……ッ!?あそこで叫ばれちゃ面倒になるトコだっ――。

 

グシャッ。

 

『『『『『『アッ』』』』』』

 

「あ」

 

しかし、父ちゃんの頭の着地した場所を見て、ピストルズと一緒に声を上げてしまう。

その場所とは――。

 

「ふんふ~ん♪あら?……お父さん……私の愛情たっぷりの晩御飯より、ケーキの方が良いのぉ~~~ッ!?馬鹿~~~~ッ!!」

 

さっき母ちゃんがテーブルの真ん中に置いた、チーズケーキの上なんだもんなぁ。

しかもそれ見た母ちゃんが包丁持ったまま泣きながら外に出て行くし。

ガチャンッ!!という豪快な音と、静寂に包まれたリビングで取り残された俺。

目の前にはチーズケーキに顔突っ込んだ父ちゃん、空中に浮かぶ「やっちまったな」って表情のピストルズ。

 

『ア~ア~。定明ノ母チャン、怒ッテ出テ行ッチマッタ~』

 

『大変ダゼ~。母チャン泣イタラ長イモンナ~』

 

『ツウカ、ヤッテル行動ハ可愛イノニナァ~』

 

『ウェエ~ン。オ、俺ハリサリサ姉チャンノ方ガ良イヨォ~』

 

『アレデ子持チトカ詐欺ダゼェ~』

 

『ア~。リサリサ姉チャンモ綺麗ニナルダロウナァ~』

 

口々に好き勝手な事をぬかすピストルズ。

だ、誰の所為でこんなクソ面倒くせー事になってると思ってやがんだボケッ!!

一匹一匹しばき倒したいけど、それやったら自分にもダメージ返ってくるので、俺は溜息を吐いて怒りを納める。

あ~ったく……何でこんな事になるんだっての。

滅多な事が無い限りこんなアクシデントは起きないんだが、こういう場合は何時も隣りのおばさんの所に駆け込んでる。

仕方ない、俺が迎えに行くか……はぁ。

 

「おいピストルズ。お前等少しなら許すけど、あんまりバクバク食うんじゃねーぞ?良いな」

 

『『『『『『オーーーウッ!!気ヲ付ケテナーーッ!!』』』』』』

 

スタンド(傍に立つ者)なのに誰一人として一緒に来ようとしない現状に怒っても良いと思うんだ、俺は。

そんな事を考えつつリビングを後にするが――。

 

プルルルルルッ!!

 

「……今度は何だよッたく。(ガチャッ)はいもしもし。城戸です」

 

『おい定明、助けてくれッ!!何かついさっきプレシアさんからアースラに通信があって明日話し合う事になったんだけど、何故か俺に模擬戦挑んできて――』

 

「間違いです。うちは痴情のもつれの相談センターじゃありません」

 

『誰もそんな事言ってないよなッ!?な、なのはも何か黒い瘴気出してて怖いし、お前しか頼れる奴が居ないんだよッ!!も、もしも――』

 

ガチャッ。

 

問答無用で電話を切る。

……薄情と思われるだろうが一つ言わせて貰いたい。

アレもコレもソレも、全部テメェーが撒いた種じゃねーかッ!!

それぐらい自分で刈り取れってんだッ!!

足音荒く玄関を開けて、俺はお隣のおばさんの家に行く。

 

「うえぇ~~んッ!!きっと私の料理がまずいから、怒っちゃったんです~ッ!!」

 

「お、落ち着いて城戸さんッ!?抱きつくのは良いけど出来れば包丁放してッ!?は、刃先があたしの首にぃい~ッ!?」

 

「ちょっ!?と、取り上げろ、ハーヴェストッ!!」

 

そして、玄関先で泣きながらおばさんに抱き付く母ちゃんの姿を発見したんだが、危ない状態で焦った。

何せおばさんの首に手を回して抱き付いてるけど、包丁握りっぱなしだったんだから。

危うく突き刺さりそうになってた包丁をハーヴェストで母ちゃんの手から落として、あたかも滑り落ちた様に地面へと落とす。

包丁が母ちゃんの手元から落ちたのを見て安堵の息を吐く俺とおばさん。

何でこんなに疲れなくちゃいけねぇんだよ……俺が何したってんだ。

もう動くのも億劫になってきたけど、さすがにこのままにしておく訳にもいかず、俺は母ちゃんを説得して家に連れ帰った。

それで父ちゃんも起きていたらしく、泣きじゃくる母ちゃんを見て自分が悪いと思ったのか、直ぐに謝って二人は仲直りしてくれた。

その様子を見ながら、ヘブンズ・ドアーでさっき父ちゃんが見た光景の記憶を消してから、やっと夕飯にありつけた。

 

 

 

何だかんだで俺の周りは騒がしいけど……まぁ……こんな日常も、悪かないのかもな。

 

 

 

そんな、余りにも自分らしく無い事を考えながら、俺は湯気の立つ夕食にありつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?……なぁ、定明。父ちゃんのつみれ、知らないか?」

 

知りません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 

次回からは少し空白期をやりますので、魔法サイドの後日談は次に回します。

 

 

 


 
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