No.701437

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-07-17 13:00:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:638   閲覧ユーザー数:613

 

 

 story09 練習試合

 

 

 

 それからあっという間に土曜が過ぎて練習試合がある日曜日となる。

 

 如月が朝の五時に学校に来ると、既に早瀬達は五式を準備して待っており、如月が乗り込めば発進できる状態だった。

 

 少しして他のメンバーも全員揃い、戦車に乗って学校を発進する。

 

 ちなみに西住達は途中で冷泉を迎えに行き、Ⅳ号の主砲で空砲を放って起こしたらしい。

 ダイナミックな起こし方だな。さぞかし近所迷惑だっただろうに・・・・

 

 

 

 空が明るくなり始めた頃に、学園艦は在住である茨城県の大洗町の港に到着する。

 

「久しぶりの陸地ですね」

 

「あぁ」

 

 如月はキューポラハッチより身体を出して遠くに見える大洗町を見つめる。

 

 早瀬以外はハッチを開けて上半身を外に出して景色を眺めている。

 

「よくよく考えてみれば、昔は学校が陸にあったんですよね。今でもほんの一部は陸にあるらしいですけど」

 

 すると鈴野が口を開いて如月に問う。

 

「そうらしいな。まぁ、私は海の方が好きだがな」

 

「私もですね」

 

 

 

 それからして学園艦のタラップが下りて港と繋がると、Ⅳ号を先頭にそれぞれの戦車が続き、五式が最後尾を走る。

 

「練習試合が終わったら如月さんは何をしますか?七時まで自由時間らしいですし」

 

 咽喉マイクで車内にいる早瀬が喋り、既に頭に掛けているヘッドフォンから耳に伝わる。

 

「あぁ。ちょっと寄る所がある」

 

「寄る所・・・・ですか?」

 

「あぁ」

 

「それって―――――」

 

 と、早瀬が言おうとした瞬間、周囲が陰る。

 

「・・・・・・?」

 

 車内に居る早瀬以外はすぐに見上げると――――

 

 

 

「で、でかっ!?」

 

「あれが・・・・聖グロリアーナの学園艦」

 

 大洗女子学園の学園艦より倍近くの大きさを持つ聖グロリアーナ女学院の学園艦が寄港する。

 

「さすがはお嬢様学校だな。規模が違う」

 

 そう呟いていると、聖グロ(長いから省略)の学園艦のタラップが下り、学園艦より戦車が次々と出てくる。

 

 

 

 

 

 それからして下りた港で私達の戦車と聖グロの戦車が並ぶ。

 

「マチルダⅡにチャーチル、それにあの戦車は・・・・」

 

 マチルダⅡが四両にチャーチルが一両、そしてもう一両の戦車が並べられている。

 

 チャーチルに酷似した形状だが、チャーチルより角ばっており、砲塔の位置が若干前よりであり、一、二周り程小さい。

 

「『エクセルシアー重突撃戦車』だな」

 

「あの戦車って結構レアな戦車ですよね」

 

「あぁ。だが、前と後ろの装甲は100ミリを超えるから、戦車のウィークポイントである後部が固い。だが、その割には側面が38ミリと薄い」

 

「結構アンバランスですよね」

 

「でも、砲の威力はこちらの戦車にとっては脅威である事に変わりは無い」

 

「そうですね」

 

 

 

 

 そうして如月達は車長だけ降りて戦車の前に並ぶ。

 

 チャーチルからは金髪碧眼の女子が出てきて、エクセルシアーからも金髪巻き髪の碧眼で頭に白いレースが付いた青いカチューシャをつけた女子が出てくる。

 しかし同じ金髪碧眼でも、雰囲気が違うものだな。

 

 周囲より学園艦より降りて来た聖グロの生徒が「ダージリン様!!」とか「セシア様ー!!」とかを叫んでいる。

 

 

 

「聖グロリアーナ女学院の隊長のダージリンさんと副隊長のセシアさんですね」

 

「そうですわ」

 

「いかにも、ですわ」

 

 河島が聞くと、チャーチルとエクセルシアーから降りた女子二人が返事をする。

 

「本日は急な申し出に関わらず、試合を受けていただき、感謝する」

 

「構いません事よ。それにしても――――」

 

 と、大洗のある意味奇抜な戦車を見る。

 

「随分・・・・個性的な戦車達ですわね」

 

「なっ!」

 

 まぁ、そう言われても仕方が無い。派手なカラーリングの上に幟が立っていたり、宣伝感たっぷりのペイント。ピンクや金ぴか一色など、これで個性的ではないと言うやつの気が知れん。

 

「ですが御安心を。ライオンは兎を狩る時も全力を尽くすように、わたくしたちもどんな相手にも全力でお相手して差し上げますわ」

 

「ふーん」

 

 と、角谷会長が数歩前に出てダージリンの前に立つ。

 

「それじゃぁ、私達がトンビか鷹かを、見極めてもらいましょうかねー」

 

「・・・・・・」

 

 ダージリンは少し黙るも、「ふふ・・・」と静かに笑う。

 

「では、そうさせてもらいますわ」

 

 と、挑発的な笑みを浮かべてセシアが喋ると、その後にダージリンが続く。

 

「わたくしたちはサンダースやプラウダの様に下品な戦いはいたしませんの。騎士道精神でお互い頑張りましょう」

 

 

「それでは!大洗女子学園と聖グロリアーナ女学院の試合を始める!一同、礼!」

 

 審判の礼に私達と聖グロの生徒は頭を下げる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

「会長結構挑発していましたね」

 

「あぁ」

 

 それから大洗女子学園の開始地点までに移動して、試合開始を待つ。

 

「大丈夫なんでしょうか?」

 

 不安そうに坂本が呟く。

 

「挑発をするかしないでも、やる事に変わりは無い」

 

「そ、そうですね」

 

「それはそうですが・・・・」

 

「・・・・さて、向こうはどう出るか」

 

 

 

『用意はいいか、隊長、副隊長』

 

 と、Eチームの河島より通信が来る。

 

『は、はい!』

 

「あぁ」

 

『全ては貴様達に掛かっている。期待しているぞ』

 

『は、はい!』

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

『試合開始!!』

 

 そして開始の合図の照明弾が上がって破裂し、西住の『パンツァーフォー!!』と共に六両の戦車が走り出す。

 

 

「いよいよですね、如月さん」

 

「あぁ」

 

 

『あのー、西住隊長。それでどうするんでしたっけ?』

 

 と、無線で一年のDチームが西住に聞く。

 

 チーム内ではオープン回線にしているので、こちら側では通話は殆ど筒抜けになる。

 

『え?先ほど説明した通り、今回は殲滅戦ルールが適応されています。先にどちらかが全部やれたら負けになります』

 

『そうなんだ』

 

 

『まず我々AチームとFチームが偵察を行いますので、各チームは100メートルほど進んだ所で待機してください』

 

『分かりました!』

 

『はーい』

 

『御意!』

 

 と、無線でAチームと各チームとの通話がヘッドフォンに伝わる。

 

『何か作戦名は無いのー?』

 

『え?』

 

 角谷会長の無茶振りに西住は戸惑う。

 

『え、えぇと・・・・こそこそ作戦です!こそこそと相手の動きを見て、こそこそと攻撃します!』

 

 考えるの早いな・・・・

 

 

 

 

 その頃聖グロのダージリン達も「全車前進」の命令と共にスタート地点から発進し、チャーチルとエクセルシアーを中心に、両翼にマチルダⅡが四両隊列を組んで行進する。

 

 

 

 それからしてAチームとFチームは偵察位置に着いて双眼鏡で遠くの平地を綺麗な隊列を組んで走行する聖グロの戦車を見る。

 

 

「マチルダ四輌にチャーチル及びエクセルシアーを一輌ずつ確認」

 

「さすが、綺麗な隊列を組んでいますね」

 

 と、如月の左側にうつ伏せの秋山が同じく双眼鏡を覗いている。

 

「うん。あれだけ速度を合わせて隊列を乱さずに動けるなんて、凄い」

 

 秋山の反対側に居る西住も双眼鏡を覗いている。

 

「あぁ。さすがは強豪校と言われるだけはある」

 

 如月は双眼鏡を下ろして眼帯をしていない右目で西住を見る。

 

「こちらの徹甲弾だと、正面装甲は抜けませんね」

 

「マチルダは問題無いだろうが、他二輌は五式では少し厳しい所はある」

 

「・・・・そこは戦術と腕、かな?」

 

「はい!」

 

「うむ」

 

 如月達はすぐさま立ち上がると、西住と秋山は近くに待機している戦車に乗り込み、如月はその戦車の近くに待機している深緑色の大型の戦車をよじ登り、砲塔の天板にあるキューポラのハッチを開けて中に入る。

 

 

 ブロロロロロッ!!!

 

 

 と、如月が戦車に乗り込むと、近くで西住達の戦車のエンジンが唸る。

 

「そろそろですね」

 

「あぁ」

 

 如月は車長席に座ると、首元に咽喉マイクを取り付けて手を当てる。

 

「早瀬。エンジン始動。音は出来るだけ立てずに進め」

 

「はい!」

 

 操縦席に居る早瀬は右横の機器のイグニッションを入れると、ブロロロロッ!!と大きな音と共に如月達の乗る五式の車内に振動が伝わると、左のレバーを引いてアクセルを踏み、ゆっくりと右側の転輪と履帯が動き出し、その車体を左側の履帯を中心に方向転換する。

 近くでは同じく学園の戦車たちが動き出していた。

 

 

「坂本。副砲に徹甲弾を装填しろ」

 

「了解です!」

 

 如月は砲弾ラックより砲弾を取り出すと、砲弾を装弾機と呼ばれるトレーに乗せて砲尾のスイッチを押すと、砲弾は装弾機に動かされて戦車砲に装填される。

 車体左側にいる坂本は副砲の尾栓を開けて砲弾を砲弾ラックより取り出して副砲に装填し、尾栓を閉める。

 

「鈴野。砲撃準備だ」

 

「了解」

 

 私の左側に居る鈴野はいつでも砲撃が出来るようにスコープを覗き、砲身の上げ下げをするハンドルを掴む。

 

 

『各チームに通達します!』

 

 Aチームの西住より無線で通信が入る。

 

『今回の敵は、イギリスの歩兵戦車です!あれは装甲が厚く、100メートル以内に接近しないとこちらの砲撃は効きません!特に38tと八九式はもっと接近しないと通じるか通じないかの瀬戸際です。

 ですが向こうは、こちらに比べて足が遅いので、そこを突きます!

 作戦通り各チームは丘陵地を登り切る手前で待機!Aチームが囮となり、相手車両をおびき出します!』

 

『了解~!頑張ってね、隊長ー』

 

『こちら一年。わっかりました!』

 

「副隊長如月、了解」

 

 それぞれ無線で伝わって返事をすると、如月の乗る五式を含め、Ⅳ号以外は左の道に入る。

 

 

「・・・・・・」

 

 如月はキューポラハッチを開けて立ち上がり、上半身を外に出して崖の向こうを走っていくⅣ号を見る。

 

(西住・・・うまくやれよ)

 

 それからして車内に戻ってハッチを閉め、五式を所定の位置まで移動させるように指示を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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