2章 ~鍛える者~
3話「風を斬る刀」
次の日から、陽介達の鍛錬は始まった。
まずは基礎体力がなければどうにもならない。
ということで、2人はサクヤの指導の下、筋トレに励んでいる。
陽介は剣道をしていたこともあり、筋トレは慣れたものである。
一方アトリはというと、
「きゅー」
元気一杯なアトリならば体力もあると思いきや、そうでもなかったようだ。
サクヤに与えられた項目をしっかりとこなしてはいるが、最後にはダウンしてしまっている。
陽介も慣れてはいるが、サクヤの課すハードな筋トレメニューに、ぐったりとした様子だ。
「まぁ、初日はこんなものでしょう」
サクヤの発言からするに、さらにメニューが過酷になっていくことは明らかである。
少し折れそうになる陽介だったが、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。
陽介は立ち上がり、サクヤへ一礼した。
それを見たサクヤは、感心したように問いかけた。
「礼儀正しいんですね、陽介さんは。どこかで教わったのですか?」
「剣道をやっていたので、その影響だと思います」
「…剣道…。それは、"剣術"と似たようなものなのでしょうか」
そのサクヤの言葉で、陽介は気づいてしまった。
ここでは"剣道"よりも、"剣術"が必要であるということ。
剣道とは決められたルールの中で行う競技だ。
基本的には防具があり、打ち込む場所も決められている。
一方で"剣術"とは、相手を"斬る"ものだ。
剣道の"打つ"に対して、剣術は"斬る"。
そしてさらに、陽介のいた世界の剣術と妖世の剣術は、きっと違う。
陽介のいた世界、その過去であるならば、妖世の剣術と近いものもあるだろう。
すなわちそれは、相手を"殺す"もの。
生きるか死ぬか、それがサクヤの言う"剣術"なのだ。
剣道とは何かということ、剣術の心得はないということ。
それを陽介から聞いたサクヤは、何かを決めたように口を開いた。
「たしかに陽介さんの言う"剣道"は、私の言う"剣術"とはかなり違うようです。しかし、"アレ"を使うことはできそうなので、安心しました」
サクヤの言う"アレ"。
この流れでそれがいったい何を指すのか、陽介には見当がついていた。
「ついて来てもらえますか」
陽介は、また1つこの世界で生きていくための
「これを」
薄暗い物置に、それはあった。
深緑の"柄"に、薄橙の"鞘"。サクヤの服に似た色のそれに、濃灰の"
サクヤが陽介に渡したのは、1本の刀であった。
「かまいたちの人妖である姉が、親からもらったものです」
「なっ、そんなに大切なもの、もらえません!」
「いいんです。家宝というわけではありませんし、姉には自分に合った武器がありましたから」
サクヤが再度差し出した刀を陽介は受け取った。
「…大切にします、必ず」
「大切にするより使ってあげてくださいね、その刀もきっとそれを望んでいます」
使わないに越したことはないが、と思った陽介だったが、それを口にはしなかった。。
そろそろアトリも目を覚ますだろうと、2人が物置を後にすると、ふと思い出したようにサクヤは言った。
「忘れていました。その刀は名を"
「風斬、ですか…」
つぶやいた陽介は、その手にある刀を見る。
この刀は、きっと陽介の大きな助けとなる。しかし、本当にそうなるかどうかは陽介の努力次第なのである。
「それじゃあ戻りましょう」
改めてアトリの元へと向かい始めたサクヤ。その後を追うように歩き出した陽介は、ふと足を止め、刀へ向かいつぶやいた。
「よろしく、"風斬"」
これからの旅、いや、まずはサクヤに与えられた課題を共にする相棒は、その鍔で光を反射し、力強く光っていた。
そしてもう1人の相棒はというと、
「すぅ……すぅ……うぅ、ここはどこ~?むにゃ」
まだ寝ていた。
夢の中でも迷子のようである。
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これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。
拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
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