No.700990

妖世を歩む者 ~2章~ 3話

ray-Wさん

これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。

拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。

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2014-07-15 15:42:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:421   閲覧ユーザー数:421

2章 ~鍛える者~

 

3話「風を斬る刀」

 

次の日から、陽介達の鍛錬は始まった。

まずは基礎体力がなければどうにもならない。

ということで、2人はサクヤの指導の下、筋トレに励んでいる。

陽介は剣道をしていたこともあり、筋トレは慣れたものである。

一方アトリはというと、

 

「きゅー」

 

元気一杯なアトリならば体力もあると思いきや、そうでもなかったようだ。

サクヤに与えられた項目をしっかりとこなしてはいるが、最後にはダウンしてしまっている。

 

陽介も慣れてはいるが、サクヤの課すハードな筋トレメニューに、ぐったりとした様子だ。

 

「まぁ、初日はこんなものでしょう」

 

サクヤの発言からするに、さらにメニューが過酷になっていくことは明らかである。

少し折れそうになる陽介だったが、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。

 

陽介は立ち上がり、サクヤへ一礼した。

それを見たサクヤは、感心したように問いかけた。

 

「礼儀正しいんですね、陽介さんは。どこかで教わったのですか?」

 

「剣道をやっていたので、その影響だと思います」

 

「…剣道…。それは、"剣術"と似たようなものなのでしょうか」

 

そのサクヤの言葉で、陽介は気づいてしまった。

ここでは"剣道"よりも、"剣術"が必要であるということ。

剣道とは決められたルールの中で行う競技だ。

基本的には防具があり、打ち込む場所も決められている。

 

一方で"剣術"とは、相手を"斬る"ものだ。

剣道の"打つ"に対して、剣術は"斬る"。

 

そしてさらに、陽介のいた世界の剣術と妖世の剣術は、きっと違う。

陽介のいた世界、その過去であるならば、妖世の剣術と近いものもあるだろう。

 

すなわちそれは、相手を"殺す"もの。

生きるか死ぬか、それがサクヤの言う"剣術"なのだ。

 

剣道とは何かということ、剣術の心得はないということ。

それを陽介から聞いたサクヤは、何かを決めたように口を開いた。

 

「たしかに陽介さんの言う"剣道"は、私の言う"剣術"とはかなり違うようです。しかし、"アレ"を使うことはできそうなので、安心しました」

 

サクヤの言う"アレ"。

この流れでそれがいったい何を指すのか、陽介には見当がついていた。

 

「ついて来てもらえますか」

 

陽介は、また1つこの世界で生きていくための(すべ)を手にすることになる。

 

「これを」

 

薄暗い物置に、それはあった。

深緑の"柄"に、薄橙の"鞘"。サクヤの服に似た色のそれに、濃灰の"(つば)"。

サクヤが陽介に渡したのは、1本の刀であった。

 

「かまいたちの人妖である姉が、親からもらったものです」

 

「なっ、そんなに大切なもの、もらえません!」

 

「いいんです。家宝というわけではありませんし、姉には自分に合った武器がありましたから」

 

サクヤが再度差し出した刀を陽介は受け取った。

 

「…大切にします、必ず」

 

「大切にするより使ってあげてくださいね、その刀もきっとそれを望んでいます」

 

使わないに越したことはないが、と思った陽介だったが、それを口にはしなかった。。

そろそろアトリも目を覚ますだろうと、2人が物置を後にすると、ふと思い出したようにサクヤは言った。

 

「忘れていました。その刀は名を"風斬(かぜきり)"といいます。なんともかまいたちの刀らしい名前ですよね」

 

「風斬、ですか…」

 

つぶやいた陽介は、その手にある刀を見る。

この刀は、きっと陽介の大きな助けとなる。しかし、本当にそうなるかどうかは陽介の努力次第なのである。

 

「それじゃあ戻りましょう」

 

改めてアトリの元へと向かい始めたサクヤ。その後を追うように歩き出した陽介は、ふと足を止め、刀へ向かいつぶやいた。

 

「よろしく、"風斬"」

 

これからの旅、いや、まずはサクヤに与えられた課題を共にする相棒は、その鍔で光を反射し、力強く光っていた。

 

そしてもう1人の相棒はというと、

 

「すぅ……すぅ……うぅ、ここはどこ~?むにゃ」

 

まだ寝ていた。

夢の中でも迷子のようである。


 
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