曹操は久々に暇になっていた。
三国同盟を結んだ後の政務、それと同時に起こった盗賊、黄巾党の残党等を討伐したり忙しい毎日を送る日々。
昼食を済ませ、近くにいた荀彧を色んな意味で可愛がり、すっかり夕暮れ時に。
月でも見て寝ようかと思い、城の屋上へ行くと…そこには先客がいた。
「げっ」
「ん?よっす」
「あら。来てたのね」
先客…リトが陽気に手を挙げていた。
約一名嫌そうな顔をしたが、二人はリトに近づく。
「月が綺麗だったんでさ。季節外れの月見してた」
「月見…、私の知らない言葉ね。それとその団子…一ついいかしら?」
「お止めください華琳様!男が食べている物を口にするなど、妊娠してしまいます!」
「相変わらずだな」
少々呆れながらもリトは手に持っていた団子を曹操に渡し、彼女は受けとる。
そしてリトが座っている城壁とは違う場所に座り、荀彧も同じく座った。
「月見は日本の…俺のいた国の風習みたいなもんだよ」
「風習ね。貴方の世界は色々なものがあるのね」
「全くです。意味のない行事や訳の分からない言葉、それにあんな露出が目立つ服があるなんて…」
「なんかおかしいか?」
「華琳様にお似合いすぎて最高じゃない!今すぐ死になさいよ!」
「無理」
どう言うこっちゃ、と団子を一つ頬張り月を眺めるリト。
すると不意に、曹操からの視線を感じた。
「どった?曹操?」
「なんでも?ただ、やっぱり似ていると思って…」
「劉弁に、か?」
少し間を置き、頷く曹操。
…それもそうだろう。魔神の仮面を取り、リトが素顔を曝した時に驚いたのは袁紹だけではない。
少なくとも曹操も驚いていたのだ。
いや、劉弁の顔を知ってる者なら誰だってそうだろう。
死んだ人間と瓜二つの顔が目の前にあれば、尚更。
「ま、俺だって激似だと思ったよ」
「そう。…そう言えば貴方、いつ劉協殿下に会われたの?」
「たしかに…まさか、脅して…!?」
「んなわけあるか、埋めるぞ。…ちょっと不法侵入しただけだよ」
『…ここか』
反董卓連合ができる前…劉弁がまだ生きていた頃。
リト…魔神は劉弁のいる部屋の窓に来ていた。
魔神がここにいる理由…それは大きく分けて二つ。
一つは劉弁を生かすこと…他の外史、そして歴史では劉弁は反董卓連合の前に毒殺されていた。
だからこそ助けようと、ここに来ている。
そしてもう一つ…三国同盟を結ばせる為の人質役にするように頼むためだ。
魔神は『壁をすり抜けられる程度の能力』で部屋に入る。
目に写ったのは、自分と同じ背丈程の男が少年と話している光景だった。
当然、二人は魔神が入って来たことに酷く驚く。
「「!?」」
『騒ぐな。貴様らに危害を加えるつもりはない』
男は少年を守るように前に立ち、魔神を見据える。
部屋の影もあって、顔が見えないがそうとう警戒しているようだ。
「…何者ですか、貴方は」
『魔の神、魔神だ』
「魔神…!?噂の…ッゴホ!」
『っ!?』
「兄上!」
口元を押さえ、その場に蹲る男…劉弁。
それを見て少年…劉協は心配そうに駆け寄った。
それだからだろう…月の光が彼らに当たり、顔が露になったのは。
『…っ!?その…顔は…』
「…?」
「ぐっ…ガッ…!」
魔神の目に写った劉協の顔…それは、魔神の…リトの遠縁の者、沢田綱吉と同じだった。
それだけではなく、口から血を垂らす劉弁の顔は…間違いなく自分と同じなのだ。
驚くなとは言えるはずもない。
「…兄上には指一本触れさせない!」
「よ…すんだ、協…」
『…危害は加えない、と言った筈だが?』
そう言い、魔神は仮面を外す。
二人は先程のリトと同じく驚き、言葉を失った。
そして、リトはすべての事を喋りだす。
―――――。
「そう、ですか…」
話終えた後の劉弁の一言がそれだった。
驚いてもあり、納得している所もある。
一方の劉協は少し疑い気味だったが。
「さっきも言ったように、あんたには一回死んだように世間に見せかけてもらう。知り合いに仮死状態にする薬を作れる奴がいる。そいつに頼めば…」
「…平沢殿、ありがたい話ですが、お断りさせてもらいます」
「…理由を聞きたいんだが?」
劉弁は少し微笑みながら、劉協の頭を撫でる。
劉協は嬉しそうでもあり、悲しそうでもあった。
「先程ご覧になった通り、私は重い病を患っています。それも、不治の病です」
「それなら華陀に治してもらえばいい。あいつは神医って呼ばれてるから…」
「いえ、おそらく看てもらうにしても私は、助かりません。自分の事は、私自身がよく知っています」
だから、と言って目を瞑る。
後悔の念…そして深い悲しみが溢れる。
「王朝が衰退し、皇帝になっても変えられなかった私は、せめて報いを受けたいのです」
「毒を飲んで死ぬのではありません。私は自らの手で協に…劉協に皇帝の座を譲るのです」
「この子を、弟を頼みます。そして、この国を…」
「そう、やっぱり病を…」
「知ってたのか?」
「薄々とね。前からお体が弱かったから」
リトの話を聞き、目を瞑る曹操。
そして黙って聞いていた荀彧。
リトはただじっと、空を見ていた。
「笑ってもいいぞ?世界救うとか言う男がさ、人一人助けられなかったんだ」
「笑わないわよ。でも、劉弁殿下だけじゃないんでしょ?救えなかったのは」
「…まあな」
嫌になる…苦い顔をしてリトはそう思う。
知っているのに救えず、手が届くのに救えず、助けられるのに救えず。
リトが旅をしてきた中ではそんなことの繰り返しだ。
その度に自分が嫌になる…もっと言えば、歪みを修正することができる存在が今のところ自分だけなのが腹ただしい。
かといって、やらせたくは無いのだが。
「貴方は背負いすぎているのよ」
「よく言われる」
「人ができることなんて限られてるわ」
「一応俺、魔神だぜ?」
笑うリト…だが、それは作っていると言う事は誰にでも分かる。
曹操は反論しようとするが、その前に荀彧が口を挟んだ。
「…きっと、許してくれるわよ」
「桂花?」
「荀彧…どした、急に?」
「だって…劉弁様はあんたに劉協様を任されたんでしょ?だったら、劉弁様との約束、守ってるじゃない」
きょとんと…ついそんな表情をするリト。
そして週秒遅れ、声を押し殺しながら笑った。
「くっ…クク…ハハハ…、荀彧がそれを言うか」
「何よ、なんか文句あるわけ!?全自動孕ませ男」
「誰がだ。…感謝してるんだよ。お陰で気が楽になった。ありがとう」
「ふんっ、だったら今すぐ飛び降りなさいよブ男」
「しても死なないけどな。てか男友達いないだろ、お前」
「はぁ?必要な訳無いじゃない!あんな…」
「ああ分かった、はいはい」
これから言われることを予想し、止めるリト。
どうせ罵倒するんだよな、と思い笑う。
そんな彼の横で、曹操は意地悪な笑みを浮かべた。
「平沢、私の真名は華琳よ」
「か、華琳様!?」
「…どった?急に」
「あら?個人的に私は貴方を認めているのよ?だったら真名を預けてもおかしくないわ」
「いけません、華琳様!男に真名を預けるなど…妊娠してしまいます!」
「お前それしか言わないのかよ」
テンプレ…と言わんばかりの騒ぎにリトは眉間を押さえる。
その横では、曹操…華琳がニヤリ、と笑っていた。
「あら桂花…私が真名を預けたのに、貴方はしないのかしら?」
「えっ…う…」
「残念だわ、私の桂花が主に従わないなんて」
(…究極の選択、か?)
華琳に従うか、男に真名を預けるか…ある意味究極の選択をしている。
荀彧は脂汗をだらだらと流しながら、リトの正面に向き合った。
「…これは華琳様の為…私の意思じゃない…男なんかに…」
「おーい」
「………桂花よ。呼びたきゃ勝手に呼びなさい」
「ふふ、いい子ね。ご褒美に…私の部屋で待ってなさい」
「はい、華琳様♪」
先程とは一変し、荀彧…桂花は幸せそうに屋上から去った。
なにこの豹変ぶり…と言いたげなリトは、残り少ない団子の一つを食べる。
そして、リトの隣の城壁に華琳がもたれ掛かった。
「…一つ、聞いてもいいかしら?」
「いいぞ?どうせ面白い答えは返ってこないけど」
また何か自分の世界の事を聞かれると思ったリトは平然と団子を食べる。
次々に無くなる団子…最後の一個を取ろうとした…が 、
「貴方は…嘘をついてるんじゃないの?」
…華琳がこんなことを言わなければできていただろう。
一瞬、リトの伸ばす手が止まり、表情が強ばる。
だがリトは団子を手で転がし、さっぱりと分からないと言った雰囲気を作り出す。
「嘘、って言われても何のことだか」
「とぼけないで。…貴方がこの世界の事を救おうとしているのは分かるわ。でも…それにしては、言ってないことが多い」
淡々と的確に指摘する華琳。
その雰囲気は先程とはまるで違う…まさに、覇王のような雰囲気だ。
それでいて、覇気のようなものまで滲み出ている。
「何故一年後にしなければいけないのか。何故怪人を相手にしなければないのか。何故…凪達に仮面ライダーの力を与えたのか」
「……………」
「他にも細かいことはたくさんあるけど…聞いたい?」
「…いや、いい」
手を挙げて降参のポーズをとるリト。
そして手を下げると、何秒か空を見上げて自分の中に止まっていた言葉を吐き出す。
「……流石かな?曹操なだけあるよ。華琳は」
「貴方の知る曹操がどうであれ、私は私よ。それで、話してくれる気になった?」
「絶を首筋に添えてたら誰だって頷くだろうな」
リトの言う通り、現在華琳は絶を首に添えている。
普通なら青ざめるだろうが、リトは表情を変えず、目を瞑る。
そして開いたとき…同時に口も開いた。
「――――――――――――――――――」
「……………」
「――――――――――」
「……っ…」
「――――――――――――――」
「…たしかに、面白い答えじゃないわね」
絶を下ろし、眉間に皺を寄せる華琳。
リトの言う、その内容に怒りを覚えている…と、同時に驚きもしていた。
そして華琳は、声を出さずにリトを威圧する。
「はぁ…。…貴方、バカじゃないの?納得できるところはあったけど、それで…」
「あまり騒ぐな、誰か来るぞ」
「……っ」
無意識だったのか、華琳は声量を上げていたらしい。
リトに注意される事で気付いたが、自分でも驚きだ。
「…貴方に期待していた私の方が馬鹿だったわ」
「期待されても困るんだけどな」
「で、それをやったとして…貴方は平気なの?」
「…本当は、深く係わるつもりじゃなかったんだけどな」
皿を置き、華琳と同じく城壁にもたれ掛かる。
その視線の先には何も無い。
強いて言えば星…でなければ、自分の記憶。
「後悔はきっと…いや、必ずする。しばらくは他の世界に行けなくなるほどな」
「だったら止めれば?」
「止めたらダメだろ。俺がここにいる意味が無くなる」
腕を組んでいる華琳を横目に、うっすらと笑うリト。
だがその笑顔に…何も感じられない。
空虚…だろうか。
「俺なんかどうだっていい。勝手に傷ついて、勝手にどっか行って、勝手に死ぬんだ。だったら俺はここで傷ついてもかまわない」
「大切なものだからこそ、俺は失いたくない。俺はそのためなら喜んで傷付こう」
「お前らがなんと言おうが俺は止めない。お前が俺の行動を裏切りと言うなら、俺はお前達の為に裏切ろう」
裏切りが何を意味しているのか、この場にいる者にしか分からない。
だがリトのその目に…覚悟と悲しみが写っていた。
正面から話しかけてくるリトに、思わず後ずさる華琳。
一瞬、恐怖に近い何かが感じられたが…華琳は言いたいことをいい、リトに背を向けた。
「…本当、馬鹿ね。これじゃああの子達に言う気も失せるわ」
「華琳…」
「他言無用よ。安心しなさい、貴方は気付かれずに裏切れるわ」
そう言ってその場を去る華琳。
リトはその背中を最後まで見送ると、最後の団子を口にして夜空を見上げた。
XXX「作者と!」
一刀「一刀の!」
X一「「後書きコーナー!」」
一刀「……なんか思ってたのと違う」
XXX「まーねー。ホントは桂花と友達になろう回にしようとしたんだけどさ」
一刀「最後シリアスにしたのか?」
XXX「けっこう重要だしね。でも今回見なくていいかも」
一刀「リトの顔だしの時の麗羽のリアクション納得」
XXX「顔そっくりさんと会うってなんか新鮮じゃない?劉協も顔面ツナだし」
一刀「そらそうだけどさ」
XXX「桂花の罵倒については作者の力不足何で勘弁してください」
一刀「俺の時は…もうちょっとキツかったからなぁ」
XXX「で、リトのセリフ一部伏せ字にしときました」
リト「あれか?ネタバレ?」
XXX「イエース。内容に関しては後でやるから大丈夫」
一刀「そういえば追加アンケートは?」
XXX「次回からスタートする。一応候補はコメントから取るし」
XXX「で、次回予告しよー」
一刀「今回コーナー短いな。手抜き?」
XXX「お前後で爆発。…いや、現在ストック作ってるんだけどさ」
一刀「うん」
XXX「…ちょっと叫びの表現とか危機感とか緊張感にかけてるかな、って思ってきた」
一刀「お前何書いてるんだよ!?」
XXX「それは言わない。強いて言えば、お前若干空気」
一刀「orz」
XXX「…次回、真・恋姫†無双 巡る外史 と仮面の魔神 四十九話 仮面編 いくらで買おう、です。一応戦闘回っす。…猫春蘭書くのってなんか楽しいっすね!!」
一刀「…軽くネタバレェェェェェ!!」
ΟωΟノシ再見
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仮面編
バカじゃないの