story07 変化
私達Fチームと西住達Aチームは戦車を置いて裏山を降り、倉庫があるグラウンドへと戻ってくる。
走行不能になった戦車は後で自動車部の人たちが回収するとの事で、先に撃破された他のチームは既にグラウンドに集まっていた。
「みんなグッジョブ、ベリーナイスよ!」
と、倉庫前に集まって私達の前に立つ超野教官がベタ褒めする
「初陣でここまで動かせば上出来よ!特にAチームとFチームはさすがだわ!」
「え・・・?」
「・・・・・・」
「Aチームは最初こそ二両から奇襲にあったけど、砲撃を受けないようにジグザグに走ったのは中々だったわ。
視界が狭い戦車でスラローム走行は結構難しいのよ」
確かに戦車でジグザグ走行は難しいと言ったら難しい。
「Fチームも奇襲に遭っちゃったけど、冷静に対処して二両を立て続けに撃破したのはさすがだわ。
しかも後退しながらスラノーム走行だなんて、熟練者でも中々出来ないのよ」
それをやってのけた早瀬は凄いとしか言いようが無いか。それとも土壇場での動きだったのか・・・
「最後はAチームと相打ちになっちゃったけど、もし履帯が切れなかったらFチームが勝ってもおかしくはなかったわね」
「・・・・・・」
「それに、戦車道で引き分けなんて中々無いわよ。これは教え甲斐がありそうわね」
と、少し嬉しそうに表情に笑みを浮かべる。
「今日の事を生かし、日々操縦訓練や砲撃訓練に励むように。今日分かったと思うけど、走って撃つ、が基本よ?
ちょくちょく指導に来るつもりだけど、分からない事があったらいつでもメールしてね」
「それでは、一同、礼!!」
『ありがとうございました!!』と、礼をして今日の授業は終わった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「如月さん」
「?」
解散となってそれぞれが向かう場所に向かっていると、如月は蝶野教官に呼び止められる。
「ちょっと聞きたい事があるけど、いいかしら?」
「は、はい。別に構いません」
如月は蝶野教官に向き直る。
「・・・・あんまりこういう事を聞くのは、よく無いんだけど」
と、聞きづらそうな様子を見せて、蝶野教官は如月に問う。
「二年前・・・・・・中学生の全国大会の決勝戦で、ある事故が起きたのよ。事故に巻き込まれた五人のうち、一人が瀕死の重傷を負った」
「・・・・・・っ」
「その時の子って・・・・もしかして・・・・如月さんの事、なのかしら?」
「・・・・・」
如月は少し反応を見せると、少し沈黙するも、「・・・・はい」と返事を返す。
「そう・・・・。当時私はあの試合で審判長をやっていたのよ。もちろん、あの時の事は、鮮明に覚えているわ」
その時の事を思い出したのか、少し表情に影が差す。
「でも、凄いわね。見るに耐えない状態だったのに、傷痕は残ってしまったけど、ここまで回復しているんだから」
「ここまで回復するのに、苦労はしました」
「そうよね。でも、どうして今また戦車道を?あんな事があったのに」
普通なら、あれだけの事があったのなら戦車道を受けようとはしないはず。
「私にとっては戦車道は人生の一部みたいなものです。戦車道をなくしてしまえば、私は私で無くなる」
「・・・・・」
「少し、おかしいですか?」
「あ、そうじゃのないのよ。似たような事を言っていた人が居たから、思い出していたのよ」
蝶野教官は苦笑いを浮かべる。
「そうなんですか」
戦車道を極める人たちは沢山居るだろう。
「あなたにとってはあまり思い出したくない出来事だったでしょうけど、答えてくれてありがとうね」
「大丈夫です。あの時の事は、あまり気にしていないので」
如月はそう言うと、頭を下げて蝶野教官の元を立ち去った。
「・・・・・」
蝶野教官は歩いていく如月の後ろ姿を、見つめていた。
(これも、何かの縁なのかしらね)
今は亡き友の後ろ姿と、彼女の後ろ姿が重なる。
(ほんと、そっくりね)
微笑みをうかべ、蝶野教官は10式戦車へと戻っていく。
――――――――――――――――――――
「・・・・・・」
それから学園内にある合宿所の大浴場にてそれぞれ汗を流していた。
大浴場には西住達が湯に浸かっており、早瀬に鈴野、坂本も湯に浸かっている。
私はシャワールームで汗を流している。
(これほどの高揚感。やはり戦車道はいいな。もやもやしていた気持ちが晴れる)
今日の練習試合を振り返り、今後の事を考える。
(まぁ、特に問題がなければ何とかなるはず・・・)
ふと、私は鏡に映る自分の姿を見る。
身体のスタイルは高校生としてはいい方で、モデルに匹敵するぐらいはあり、胸も結構でかい・・・・・・
(心なしか胸が更に大きくなっているような・・・
こんなの重くて邪魔なだけなのに・・・なぜにここまで大きくなったのか・・・)
ため息を付きながらも、身体に深く残っているものを見る。
「・・・・・」
酷い状態な左腕以外にも、左半身を中心に皮膚が抉れたような火傷の痕が身体にあり、他にもいくつか別の傷痕が残っている。
左目の上を覆う髪を退かすと、左目があったであろう場所に縦に深々と傷痕が刻まれており、傷痕周辺に若干火傷の痕がある。
(戦車道は他の武道と同じで絶対な安全は無い。
こんな傷を負うのも分かっていた事だ。後悔はしていない)
自らの身体を一瞥すると、シャワーを止めて曇りガラスの扉の上に掛けているバスタオルを手にして身体に巻きつけ、扉を開けて外に出る。
「あ・・・」
「・・・・・」
すると湯船より上がろうとしていた西住達とばったりと会う。
武部や五十鈴、秋山、後もう一人の女子生徒はバスタオルで覆っている箇所以外で出ている左腕や左脚の火傷の痕や左目の傷を見て驚きを隠せれず、少し気まずい空気になる。
「・・・・・」
しかし、西住は身体の傷を見て表情が暗くなる。
(まだ引きずっていたのか・・・あの時の事を・・・)
「・・・・・」
私は西住の近くに来ると右肩に手を置き「気にするな」と伝えて脱衣所に向かう。
「・・・・・」
武部は目をぱちくりとさせる。
「翔さんの身体に・・・あんなのがあったなんて」
「そういえば、常に左手に白い手袋を付けて、左目に眼帯を付けていましたが、傷を隠す為だったんですね」
五十鈴も少し驚きを隠せない様子だった。
「・・・・・」
「西住殿?」
呆然としている西住に秋山が呼ぶと、西住はハッとする。
「う、ううん。なんでもない」
西住は苦笑いに近い笑顔を浮かべる。
「・・・・・」
ドラム式洗濯機で洗った制服と下着を乾かしている間にドライヤーで長い髪を乾かしていき、髪を乾かしたと同時に制服と下着が乾き、それから下着を身に着けて、制服を着る。
それから眼帯のゴム紐を耳に引っ掛け、左目があった場所にある傷痕を覆うように眼帯を付ける。
(さすがに少し衝撃が強いようだったな。まぁあれほどの傷を見たら誰しもあぁなるか・・・)
色々と考えながら鞄を手にして脱衣所を後にする。
――――――――――――――――――――
次の日の戦車道の授業で、少し驚きの光景が広がっている。
倉庫前には自動車部と整備部によって整備が終わっている戦車たちが並べられているが、Ⅳ号と五式以外は昨日より大きく姿が変貌している。
八九式は車体や砲塔の側面に『バレー部復活!』と書かれ、車体のあちこちにバレーボールのイラストが描かれている。
Ⅲ突は赤や白、黄色、水色などのカラーリングが施され、四本ののぼりが立っている。
M3はピンク一色に塗られている。
38tは眩しいほどの金ぴかに塗られている。
「これで私達の戦車が分かるよ!」
「はい!」
「やっぱりピンクでしょ!」
「・・・・・・」
「・・・・カッコいいぜよ」
「まさに支配者の風格だな」
「私はアフリカ軍団仕様が良かったのだがな」
「いいね。この勢いでやっちゃおうか」
「え?何をですか?」
「では、連絡してまいります」
戸惑いを見せる小山をよそに、河島が一旦その場を離れる。
「う、うわぁ・・・・」
「これは・・・・」
「・・・・・・」
早瀬、坂本、鈴野はそんな八九式、Ⅲ突、M3、38tに少し戸惑っている。
「むぅ・・・・。私達も色塗り替えればよかったじゃーん!!」
武部が文句を叫んでいると――――
「あぁっ!!八九式が!Ⅲ突が!M3が!38tが何か別の物に!!」
秋山が頭を押さえて叫んでいる。
「あんまりですよね!西住殿!?」
西住にすがるように見るも、西住はくすくすと笑顔を見せる。
「に、西住殿?」
その様子に秋山と武部、五十鈴は戸惑う。
「戦車をこんな風にしちゃうなんて。前だったら考えられないけど、何だか楽しいね!戦車で楽しいって思ったの初めて!」
西住は戦車の前では見た事が無いほどの笑顔を見せる。
(戦車を見て楽しい、か)
腕を組んで如月は五式の転輪にもたれかかって西住を見る。
(こんな西住を見たのは・・・・久しぶりだな)
自然と如月の顔に笑みが浮かぶ。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。