1章 ~向き合う者~
5話「指針」
辿り着いたその村は、アトリの村で間違いなかった。
今陽介は、アトリの住んでいる家に招待されている。
「こんなものしかありませんが」
「あ、ありがとうございます」
陽介にお茶と茶菓子を持ってきたのは、かまいたちの"人妖"であるサクヤ。
同じイタチの妖怪であるアトリの叔母に当たるが、その容姿はアトリの姉と言っても通じるほどに若い。
アトリの両親が村の外へ出て行ってる間、サクヤがアトリの面倒を見ているという話である。
橙色の短い浴衣に深緑のマフラーをしたサクヤが、陽介の前に腰を下ろした。
「アトリを村まで連れて来ていただいて、ありがとうございます」
「いえっ、たまたま一緒になったというだけですので」
突然頭を下げられ、陽介は慌ててそう返した。
「でも、陽介さんに会わなければアトリは今も夜の林をさまよっていたでしょう」
今度は頭は下げず、サクヤは笑顔で告げた。
「だから、ありがとうございます、陽介さん」
そんな笑顔を向けられて、陽介は自分の顔が熱を持っているのが分かった。
サクヤは「あらあら」と楽しそうに、照れる陽介を見て微笑んでいた。
「着替えたよー!」
少し経つと、アトリが客間へやってきた。
汚れていた先ほどまでの服から着替えたらしい。
短めの青い浴衣に紫の帯。頭の後ろで2つに束ねた銀色の髪が、尻尾と一緒に揺れている。
元気なアトリに、それはとても似合っていた。
「ほら、アトリ。ちゃんとお礼を言わないと」
「うん。陽介さん、ここまで送ってくれて本当にありがとうございました!」
「いや、木の実も分けてもらったし、おあいこですよ」
「そっか」
そう言って、アトリはニコッと笑った。
サクヤの魅力的な笑顔とはまた違う、その明るい笑顔に、陽介も自然と笑顔になるのだった。
「そういえば、陽介さんはどこからいらしたんですか?見慣れない服装をしていらっしゃいますが」
「……実は ―――」
陽介は、自分が異世界から来たばかりだということを伝えた。
この世界については、とある猫又から聞いたということも。
「異世界から、ですか…」
サクヤは何か考え込んでいる。何か心当たりがあるのだろうか。
「異世界から来たんだぁ。凄いですねぇ」
アトリの方は目を輝かせて陽介を見ている。
前例があるとしても、やはり異世界の人間はかなり珍しいようだ。
「遠い北の大陸に異世界の人間がやってきた、という話を聞いたことがあります」
「本当ですか!?」
陽介は思わず声を荒げてしまった。しかし、まさか異世界の人間のいる場所まで分かるとは思っていなかったのだから無理もないだろう。
「あ、すみません」
「いえ、構いませんよ。ただ、かなり前の話なので、今その人がどうなっているかは…」
遠い土地での出来事なのだ。その後の情報がなくても当然である。
「その情報だけでもありがたいです」
「北へ、向かうんですか?」
「一応、そのつもりです」
すぐにとはいかないだろう。食料、飲み物、お金も財布の中にあるものは使えない。
何もない状況だが、指針が与えられた今なら頑張れると陽介は思った。
今度こそ妖怪に襲われるかもしれない。
でも、何もせずにずっとこのままではいられない。
なんとかして、元の世界へ帰る手段を探すのだ。
陽介がそんな決意をしていると、
「死んでしまいますよ?」
サクヤの一言が、陽介の決意を砕いた。
あとがきっぽいもの
どうも、ray-Wと申します。
序章からここまで読んでくださった方も、
なんとなく5話だけ読んでくださった方も、
ありがとうございます。
最初ということで、少し元ネタについて触れたいと思います。
私がイメージの参考にさせていただいたアプリ『秘録 妖怪大戦争』は、説明にあるとおり、既に閉鎖となっています。
ただ、実は私はそのアプリで遊んだことはなかったりします。
友人が絵が可愛いからとハマッていまして、見せてもらった絵に私もハマッた、といった感じですかね。
小説を書きたいと考えた時、その絵の妖怪達が出て来ると楽しくなりそうだな、と考えたのです。
ネットで小説を読む事はあっても書くのは初めてですので、表現・文脈・設定が稚拙だったり矛盾することも多いかと思います。
もし感想や誤字等の要修正箇所などありましたら、気軽に書き込んでください。
この『妖世を歩む者』を書いていく上で、少しでも成長し、読者の方々により楽しんでいただけるよう頑張りたいです。
では、今回はこの辺で失礼します。
プチがき)
アトリのモデルであるオボちゃんは、友人の好きな妖怪です。
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これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。
拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
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