No.698279

妖世を歩む者 ~1章~ 1話

ray-Wさん

※本章より、基本三人称視点となります。

これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。

"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。

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2014-07-03 18:03:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:363   閲覧ユーザー数:363

1章 ~向き合う者~

 

1話「妖世」

 

どこまでも林が続いていた。

陽介はひたすら林を歩き続けてきたことを、少し後悔していた。

 

「何も見えてきませんねぇ」

 

空は微かに赤みを帯びて、太陽もだいぶ落ちていた。

明るいうちに林を出たかった陽介だが、進む先に光は見えない。

手に持っていた懐中電灯も、携帯と同様に壊れていた。

 

「野宿は流石に遠慮したいですが」

 

「お困りですかな、人間さん」

 

声は上から聞こえた。陽介は木を見上げ、声の主を探す。

 

――― スタッ

 

陽介が見つける前に、声の主は下へと降りてきた。

露出の目立つ薄手の着物、そしてその上に羽織を着た女性。

着物が隠しきれない大きな胸が見え、陽介は咄嗟に顔を背けようとして、

"それ"を見つけた。

 

「……耳?」

 

その女性の頭には黒い耳があった。時折ピクッと動いているようにも見える。

視線を少し下げてみると、そこにあった"猫目"と視線が合った。

 

「あまり初対面の女性をジロジロ見るもんじゃないニャ」

 

「あっ、す、すみません」

 

反射的に謝る陽介だが、ここでも1つ気になった。

 

(……ニャ?)

 

なりきりのコスプレだろうか。

しかしこの女性は木の上から飛び降りてきた。

なりきっているからといって、身軽過ぎるのではないだろうか。

陽介の頭が再び混乱しそうになると、

 

猫又(ねこまた)を、知っているかニャ?」

 

――― 知っている。

妖怪の中でもメジャーな方だろう。

老いた猫は猫又になり、尻尾が二股に割れる、という話は良く聞かれる。

 

この女性はその"猫又"のコスプレをしているということだろうか、と陽介は考える。

よく見れば女性の後ろに二股の尻尾が見え隠れしている。とてもリアルな動きだ。

 

「あたしはその"猫又"なんだニャ」

 

――― え?

 

何を言っているのかと思った。

『この女性はおかしい』、『そんなわけない』、普通の人であればおそらくそう思うだろう。

しかし、陽介は思い出した。

『お困りですかな、"人間"さん』

コスプレであってもそれくらいは言うだろう。

しかし、陽介にはその言葉がとても自然に聞こえた。

 

「本当に、…猫又、なんですか?」

 

完全に信じているわけではない。

しかし、陽介の目には"期待"が込められていた。

 

「本当ではあるけれど、なんだか思った反応と違うニャー」

 

「本物の、妖怪…」

 

陽介の鼓動が高鳴る。確証はなくとも、洋介にとってはすでにその女性は"妖怪"にしか見えなかった。

 

「本当にいたんですか、妖怪は」

 

「お前さんのいた世界じゃ知らないけど、ここじゃ普通ニャ」

 

「え?」

 

猫又が何と言ったのか、陽介は最初理解できなかった。

"お前さんのいた世界"

それはつまり、ここはそことは違う世界だということ。

 

「いったいここは、どこなんですか?」

 

「ここは、"((妖世|ようせ))"と呼ばれているニャ」


 
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