No.697365

ALO~妖精郷の黄昏~ 第28話 禁忌を犯した者

本郷 刃さん

第28話です。
ライオスとウンベールの行動についにブチギレるキリト、その果ての結末とは?

どうぞ・・・。

2014-06-29 12:24:11 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:15834   閲覧ユーザー数:15148

 

第28話 禁忌を犯した者

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

ライオスとウンベールの共通部屋の前にやってきた俺とユージオ。

今回はユージオに主導してもらうつもりであるから、俺は傍観するつもりだ。

だが俺はユージオが奴らを言い負かすことができるとは思っていない。

 

そんな俺の考えも知らずに、ユージオは扉をノックして名乗りを上げた。

中に居たウンベールが扉を力強く開き、書状で伺いを立てなかった俺たちに怒鳴った。

それをライオスが窘め、俺たちを通すように言い、中へ足を踏み入れる。

茶を飲んだライオスは一息吐くと一度だけ俺に視線を送ってから、ユージオを見て用件を聞いた。

 

ユージオは昼にティーゼとロニエから聞いた話を2人に聞かせ、その真偽を問うた。

当然ながらウンベールは否定し、ライオスはそれを窘めながら、

それでも俺たちに挑発を含んだかのような言い様で否定する。

また、俺たちが聞いた話は直接フレニーカから聞き及んだものではなく、

さらに何をされたのかを詳しく聞いていないこともあり、のらりくらりと躱されている。

ユージオは確かに頭の回転も良くなり、俺のように良く考えることも長けているが、

それでも奴らが学院則違反をしないと信じてしまっている。

 

詳しい事情、卑しいと呼ばれるその行為、不確定な聞き取り、

それらが重なったことでコイツらにとっては身に覚えのない中傷となってしまう。

逆にこれ以上問い詰めるのも難しい。

付き合いきれないと言ったライオスは直接ウンベールに訊ねるも、ウンベールが楽しげに否定した。

 

曰く、自分はフレニーカに卑しい行為などしていない。

曰く、彼女は一言も嫌だとは言っていない、そう言った。

さらに、その言葉のあとに告げたものは俺の神経を逆撫でするものだ。

ユージオに敗北して以来、心を入れ替えて鍛練に励み、その影響で全身が痛くて仕方がない。

そのため、毎日の湯浴みの際にフレニーカに体を揉み解させ、

服が濡れないようにと下着姿になるように勧めている、と…。

確かに院則にはない、が…。

 

そんな言葉にユージオが怒りを抑えつけながらも問い質したが、ライオスはかつてのユージオの話を持ち出した。

ロッソ先輩の傍付きだった折、ユージオは鍛えられているか確認されるために上半身の服を脱ぐ事があった。

それに置き換えられて言われ、ロッソ先輩をも侮辱されたかに感じているユージオは、それでも怒りを抑えつけている。

 

さすがに限界が近いのか、フレニーカへの対応が改善されない場合は教官に調査を依頼すると告げ、

ライオスはご自由にと言い、ユージオは先に部屋を出た。

俺もそれに続こうとしたところで足を止めて振り返り、2人を見据える。

 

「今回はユージオに任せたから俺は一言だけで済ませよう…」

「なにかな、キリト修剣士?」

 

いままでの仕返しが出来たと思っているのか、ニヤニヤとしている2人。

そんな2人に俺は外に漏れないように、殺気を飛ばし、2人の表情が凍りついた。

 

「調子に乗ると痛い目に遭うぞ、劣等…」

 

そう吐き捨て、俺も部屋をあとにした。

 

 

奴らの部屋から離れたところで立ち尽くすユージオを見つけ、歩み寄って声を掛ける。

 

「落ち着いたか?」

「うん、なんとか……事前にキリトから注意されてなかったら危なかったかもしれない」

「俺も危なかったけどな…。はぁ、アイツらのせいで心労が絶えないぞ…」

 

お互いに息を吐き、自分たちの部屋へ足を進める。

 

「それで、裏はありそうだったかい?」

「ウンベールはないと思うが、ライオスは間違いなく挑発していたな」

 

ウンベールがフレニーカにさせた行いをワザと放置し、注意に来た俺たちが言い過ぎた場合、

それを逸礼行為に認定して最大限の懲罰を科す可能性が高かったと伝える。

自分のせいかもしれないと言うユージオにはどのみちいつか起こったことだと言う。

俺たちが主席と次席である以上、奴らかそれ以外の俺たちを気に喰わない奴らの行動が遅かれ早かれあったはずだからな。

取り敢えず、教官に調査を依頼する書状は用意しておくことにし、部屋へと戻ってきた。

 

「キリト。試験も終わったことだから、明日からはまた稽古よろしく」

「任せろ。お前は強くなると俺は期待しているからな」

 

そう言葉を交わし、最後にアイツらに何かを言われても熱くなり過ぎないように注意し、一度寝室に戻った。

そこで俺は彼女を呼ぶ。

 

「シャーロット。念の為、アイツらを見張ってくれないか?」

「解りました。あのような者たちがなにをしても、止められるようにします」

「頼むよ」

 

窓を開き、彼女は夜闇に紛れてライオスとウンベールの部屋の監視に向かった。

 

 

 

 

昨日で散々笑ったからなのか、翌日である今日の授業ではライオスもウンベールも完全無視を貫いていた。

しかし、ユージオはともかく俺には恐怖を織り交ぜた警戒を露わにしているのは、当然だろう。

シャーロットからの報告で昨晩はフレニーカにはなにも強制しなかったことを聞くに、いまは落ち着いているようだ。

 

授業が終わり、借りていた本を返しに行った。

寮に戻る途中で午後4時を告げる鐘が鳴り、ロニエとティーゼによって部屋の掃除が始まったかなと考える。

部屋に戻ってみるとロニエが掃除をしており、俺に気付くと姿勢を正して挨拶をしたので、掃除の続きを促した。

しばらくして掃除が終わった。

 

「キリト主席上級修剣士殿、ご報告します! 本日の掃除、完了しました!」

「ああ、ご苦労様」

 

大人しい性格のロニエだが報告の時などはハキハキとしっかり声を出して答える娘だ。

その姿に微笑ましく思いながらも、昨日のことを伝えておく。

 

「ロニエ、椅子に掛けてくれ」

「い、いえ、立ったままで大丈夫です」

「ダメだ。女の子に立ったまま話をさせたなんて彼女に知られたら、俺が怒られる」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 

俺の言葉に微笑んだロニエは椅子に腰かけ、俺は自分のベッドに座った。

 

「さて、フレニーカの件だが……昨日ユージオと抗議しておいた。

 これ以上は騒ぎにしたくないと思うから逸脱した命令は出さないと思う。

 だが、謝罪を済ませるまでは注意しておくよう、フレニーカに言ってくれ」

「良かった…ありがとうございます、キリト先輩……あの、ですが注意とは…?」

 

抗議に行ったユージオと俺をあわよくば逸礼行為として嵌めようとしていたことを伝え、

その原因がやはり俺たちとの確執であったこと、フレニーカはそれに巻き込まれたことを伝えると同時に、

もしかしたらまた何かを言われるかもしれないことを言っておく。

 

「そうですか……分かりました、フレニーカにもそのように伝えておきます。

 あと、もしよろしければ私からもお話しを良いですか?」

「どうぞ」

 

ロニエの話はこうである。

 

ウンベールは何故フレニーカに酷いことをするのか、憎しみも恨みもないのに何故そんなことができるのか、

俺の言う貴族の誇りを持たない貴族が居ることも知っている、

上級貴族の中に私領地にいる女性を弄ぶ男が居ることも知っていると。

だけど自分は、絶対にそんな人とは結ばれないと言い、

将来子供ができた時にはそんなことをさせないようにするとも言った。

 

「キリト先輩。私は気が弱くて、先輩たちみたいに強いわけでもありません。

 ですが、強くなります! キリト先輩のように、自分の中の正義を貫けるように!」

「ロニエ…。それなら、指導は厳しくいくからな」

「はい!」

 

大人しくとも強く確かな意志を持つロニエ。

彼女もまた、誇りある立派な貴族騎士になれると俺は思い、彼女の将来が明るくあるように願った。

 

 

また1日が経過した今日、この日は嵐が訪れていた。

シャーロットは昨日の内に嵐が来ることを知っていたため、中間報告を行うために主の元へと戻っていった。

本来ならば今日の嵐が本格的に来る前に戻ってくる予定だったのだが、彼女は戻って来ていない。

おそらく、嵐が来ているから主に引きとめられたのかもしれない。

 

俺はユージオと共に部屋で剣の手入れを行っている。

俺はギガスシダーから生まれた剣を、ユージオは『青薔薇の剣』を手入れしている。

 

「あのさ、キリト。何時になったらその剣に銘を付けるんだい?」

「いつ、だろうな…? 剣や武器の銘っていうのは大切だから、強く感じた銘が浮かべばそれにするんだが…」

「そっか。キリトは剣士だから、そういうことに拘るんだよな…」

 

剣の銘について聞かれたが、ピンとくる名前が無いことを伝える。

すると、午後4時半を告げる鐘が鳴った。

しかし、本来4時には部屋の掃除に来るはずのロニエとティーゼが来ていない。

先程から感じ始めていた嫌な予感が明確になり始める。

すると、扉をノックする音が聞こえ、誰か訊ねると1人の少年初等練士であった。

 

「し、失礼いたします! キリト主席上級修剣士殿、アズリカ寮監がお呼びしております!」

「アズリカ先生が、態々俺を…?」

「は、はい…」

 

緊張気味な初等練士を安心させるために俺は嫌な予感を隠して笑みを浮かべる。

 

「すまん、ユージオ。そういうわけだから初等練士寮に行ってくる。

 ついでだからロニエとティーゼのことも聞いてくる」

「了解。いってらっしゃい」

 

ユージオに見送られ、俺は初等練士の少年を連れてアズリカ女史の居る初等練士寮へと急いで向かった。

腰に剣を据えたままに…。

 

 

大雨もあり、初等練士の少年の様子を気に掛けながら進んだことで10分近くを要したが初等練士寮に辿り着いた。

寮に入り、アズリカ女史の元へ歩み寄る。

 

「アズリカ先生。キリト主席上級修剣士をお連れいたしました」

「キリト修剣士、ただいま到着しました」

「キリト修剣士? どうして貴方がここに?」

 

えっ、と俺と隣に居る少年練士が疑問に首を傾げる。

 

「いえ、お呼び立てされたということで着たのですが…」

「私は貴方を呼び立ててはいませんが…」

 

呼んでいない?だがこの少年練士、確かルイといった平民の少年が嘘を吐いているようには見えない。

本人も戸惑っており、どういうこと知りたいという表情だ。

彼は嘘を吐いてはいない……ならば、嘘の情報を伝えるように言われたとすれば…!

 

「ルイ初等練士。俺に伝えるように言った生徒が居るんじゃないか?」

「は、はい。確かに居りますが、くれぐれも名前は出さないようにと言われ…」

「キミの安全は保証する。だから教えてくれ……俺に伝えるように言ったのは誰だ?」

「えっと、アンティノス上級修剣士殿、です…」

「っ、そうか……そういうことか…!」

 

全ての合点が言った。奴らの狙いは最初から俺とユージオではなくっ!

くそっ、俺が読み違えさせられるとは、何処かでこの世界の甘さを受けていたか!

 

「アズリカ先生、ルイ初等練士を頼みます。必ず守ってください」

「キリト修剣士、何を言って、待ちなさい!」

 

俺は混乱している少年初等練士を先生に任せ、すぐさま全力で上級修剣士寮へと向かった。

その途中、黒い剣を抜き放って…。

 

 

 

 

全力で駆け抜けても5分近くを要し、ようやく辿り着いた上級修剣士寮。

俺は自分たちの部屋の隣の共同部屋、そこでライオスの自室である部屋を見て、一気に駆け出す。

場所は3階だが、2階ほどの高さにある木の枝に向かって飛び乗り、さらに跳躍して3階を越す。

 

その時、雷によって光が奔り、一瞬だが部屋の様子が窺えた。

 

縄で縛られ服を僅かに乱れさせ涙を流しながら奴のベッドに寝かせられているロニエとティーゼ、

左腕がなく縄で出血を抑えているウンベール、右眼を抑えて血を流し床に片膝を付いて苦しげな様子のユージオ、

そして剣を振り上げているライオス……全ての事象を理解した。

 

「ライオスゥゥゥゥゥッ!!!」

 

奴の名を叫び、俺の意識は鮮明ながらも完全な怒りに染め上げられた。

 

―――バリィィィィィンッ!!!

 

「「なっ!?」」

「キリ、ト…」

「「ひっ…」」

 

驚愕するライオスと重傷のウンベール、ユージオは意識を朦朧とさせながらも俺の名を呼び、

ロニエとティーゼは俺の溢れだす殺気に怯えたのか小さな悲鳴を上げた。

 

ドウヤラオレノシンユウトコウハイタチガセワニナッタミタイダナ(どうやら俺の親友と後輩たちが世話になったみたいだな)

「あ…よ、ようやくの、お出ましの、ようだな、キリト修剣士。

 だが遅かった、のだよ…そのものは、禁忌目録に背いた、大罪人だ!

 三等爵家長子で、あるこの私には、貴族裁決権により、この田舎者を、処刑する権利がある!」

 

空気が冷え切り、呼吸の難しさから奴の吐く戯言は途切れ途切れであるが、

それでも強がってほざくのは無駄なプライドの高さからか。

 

ソンナモノ、シッタコトカ。カッテニホザイテイロ、ゴブリンイカノクズ(そんなもの、知ったことか。勝手にほざいていろ、ゴブリン以下の屑)

「は、はは…! なるほど、田舎者同士、仲良く大逆を、犯してくれるとは…!これぞ、ステイシア神の導きか!」

 

装飾を施した剣を構え、体を震わせていることに気付かず、

ライオスはハイ・ノルキア流の奥義である《天山烈波(てんざんれっぱ)》を繰り出してきた。

俺は右手に持つ黒い剣で受け止める。微動だにしないその様を見て奴は驚くも、そのまま幾度も斬り掛かってくる。

俺はそれを全て剣で受け、その場を一歩たりとも動かずに防御しきる。

 

ドウシタレットウ? ソレデオワリカ?(どうした劣等? それで終わりか?)

「ま、だ、まだぁぁぁっ!」

 

俺の言葉に激昂したようで、再び《天山烈波》を繰り出してきた。

俺は冷たい思考のままに終わらせることを決める。

 

ナキサケベレットウ。コノセカイニカミハイナイ(泣き叫べ劣等。この世界に神はいない)

 

奴が接近した瞬間に剣ごと両腕を斬り落とした。

 

「ア、アアアアアァァァァァァァァァァッ!? う、腕ぇっ、私の腕がぁぁぁっ!? ち、血がぁぁぁっ!?」

 

泣き叫ぶライオス。

近くで縄を使い止血しているウンベールににじり寄り、

その縄で自分の止血をするように言い募るが、ウンベールも自分の命が惜しいようだ。

ロニエとティーゼはいまだ怯えているが、ユージオが2人の傍に居るから大丈夫だろう。

俺のような奴の近くに居ることは綺麗なままで居ることは難しいからな。

 

それにしても、だ……こんな見苦しい奴らが、ロニエとティーゼに、そしてフレニーカに心の傷を与えたのか。

ルイもこんな奴のせいで、利用されたのかと思うと、もう俺を止められる者はいない。

俺は剣を持ったまま2人に近づく。

先に気付いたウンベールは顔を青くさせて息苦しそうにし、振り向いて気付いたライオスは腰を抜かしたように倒れ込んだ。

 

「ゆ、ゆるし、て…くれ…」

「た、たの、む……わがやの、ざいさんを、やる…から…」

ユルサナイシ、ソンナモノモイラン(許さないし、そんなものもいらん)

 

ここにきて命乞い?

普段ならば冷めていくはずの俺の怒りは収まる気配を知らず、さらに増していくばかりに感じられる。

ロニエを、ティーゼを、フレニーカを傷つけ、ルイを利用し、ユージオも傷つけようとした。

最早、歯止めは効かず、俺はユージオに目配せをしてロニエとティーゼと共に共同部屋の方に移動させた。

 

メイドノミヤゲニオシエテヤル。オレガイママデニコロシタニンゲンノカズハ33ニンダ(冥土の土産に教えてやる。俺が今までに殺した人間の数は33人だ)

「ひ、人、ごろし…」

「ば、化物、め…」

ソノトオリダヨ。オレハヒトゴロシノバケモノダ(その通りだよ。俺は人殺しの化け物だ)

 

呆然とも絶句しながら放たれた言葉に笑みで応える。

 

オマエタチヲコロスコト、ソシテオマエタチガウマレルキッカケヲツクッタコトコソガ、オレノツミダ(お前たちを殺すこと、そしてお前たちが生まれるきっかけを作ったことこそが、俺の罪だ)

 

剣を振りかざし、そのまま2人の人間を斬り裂き、ライオスとウンベールは絶命した。

 

そこで気付いた…俺の鎖と枷が2年以上も前から外れていることに。

そして改めて気付かされた…俺の鎖と枷が愛する女性(明日奈)であるということに。

 

 

 

 

剣に付着した血を拭い、鞘に納めてからライオスだった者の部屋から出ると、

ソファに座り込んでロニエとティーゼを落ち着かせているユージオと目が合った。

 

「キリト…」

「始末したよ……すまなかったな、ユージオ。お前の手を汚させた。

 ロニエとティーゼも、怖い思いを、させてしまった…」

 

俺は3人に向かって頭を下げて謝罪した。心の何処かで俺はアイツらを甘く見ていたようだ。

禁忌目録という存在に安心し、大丈夫だろうと高を括ってしまっていたらしい。

鎖と枷(明日奈)が外れて感情の制御も効かないとは、滑稽だ…。

 

「ごめん、なさい…キリト先輩…。わたしのせいで、キリト先輩が…!」

「私も、ごめんなさい…。ユージオ先輩も、キリト先輩にも、迷惑を…!」

「2人のせいじゃない。僕の考えが、足りなかったから……ごめん、キリト。僕のせいで、キミまで…」

 

ロニエとティーゼは先程までの怯えを無くし、けれど申し訳なさで一杯らしく泣きながら謝ってきた。

ユージオも俺に殺しをさせてしまったことから、酷く落ち込んでいる。

その時、俺は視線を感じて天井の一角を見、次いでユージオもそちらを見て、驚く。

そこには『ステイシアの窓』に似ているが大きく、そして生白い肌にはまる硝子玉のような眼が浮かんでいた。

さらに口が現れ、何かを言葉を発そうとしている。

 

「ティーゼたちに聞かせるな」

 

直感的に彼女たちに聞かれるのは不味いと思い、ユージオにそう言い聞かせ、

俺はロニエを、ユージオはティーゼの頭を抱えた。

 

「シンギュラー・ユニット・ディテクティド。

 アイディー・トレーシング……………コーディネート・フィクスト。リポート・コンプリート」

 

その言葉をあとに眼は口を閉じ、消滅した。

 

直訳するならばシンギュラー・ユニット・ディテクティドは特異個体検出、アイディー・トレーシングはID複写、

コーディネート・フィクストは調整固定、リポート・コンプリートは報告完了である。

 

つまり、システムによって定められたルールを破った俺たちを感知したということだ。

これは、明日には整合騎士のご到着だな。

 

そんな中、隣のユージオを見てみれば顔を青褪めさせている。

無理もない、殺したのは俺といえど、禁忌目録に背いて人を傷つけたのだ。

その心持は俺では計り知れない。だから、俺はかつて自分自身が行き当った時を思い、言葉を掛けた。

 

「ユージオ、お前は人間だ。幾つも間違いを犯してはその意味を探して足掻き続ける人間だ」

 

そう言い終わると、意味を理解したのかユージオは左眼から涙を流し、ティーゼが彼の左頬にハンカチを当てた。

 

このあと、駆け付けた教官たちによって俺たちは連行され、修剣学院管理棟の地下懲罰房に入れられた。

目録に背いた罪人ということからなのかユージオの眼は治療されなかったため、

俺が夜通しで傷を塞ぐだけとなり、ユージオから夕方の経緯を聞き、俺たちは眠れぬ夜を過ごした。

 

 

午前9時を告げる鐘と同時に懲罰房の錠が回され、中にアズリカ女史が入ってきた。

 

「おはようございます、アズリカ先生」

「ユージオ修剣士と違い、貴方は何処でもいつも通りですね、キリト修剣士」

 

疲れた様子のユージオとは違い、俺はいつも通りにアズリカ女史に挨拶を掛ける。

まぁ、最後になるとは限らないからな。

 

「残念です、とても。今年度の学院代表剣士は貴方たち2人だと確信していたのですが」

「そのつもりだったんですけどね」

「僕も、そのはずだったんですけど…」

 

ようやく軽口を叩いたユージオ。いや、表情から察するに決心したということだな。

アズリカ先生は微笑を浮かべるとユージオに近づき、薄緑色の神聖力の結晶を取り出した。

彼の右眼に手をかざした。

 

「システム・コール。ジェネレート・ルミナス・エレメント………」

 

術式詠唱を高速で行い、全ての詠唱を完了するとユージオの右眼が戻っていた。

ユージオは先生に深々と頭を下げて礼を言った。

そして迎えが来ていることを告げ、躊躇いながらも俺たちに言葉を伝える。

 

「禁忌目録に背き、他者の天命を損じた咎により裁かれるでしょう。

 ですが忘れないで…禁忌目録、公理教会それ自体さえも、神ならぬ、えっ?」

 

右眼を顰めさせながら話す先生の口の前に俺とユージオは人差し指を出して話さないよう促した。

 

「痛みは辛いでしょう、先生」

「言わなくても大丈夫です。僕はもう、キリトから全てを聞きました」

「っ!? キリト修剣士、貴方は一体…」

 

驚愕する先生の顔を見て、あまりにも珍しい彼女の表情に俺たちは笑みを浮かべる。

 

「先生、また必ず会いに来ます。その時、きっとお話しします。先生が知りたいこと全て」

 

その言葉に再び驚きながらも、先生は微笑を浮かべた。

 

 

 

 

大修練場へ向かい、その前の広場に飛竜が居ることで俺たちは迎えがやはり整合騎士であることを理解した。

扉の前に着くとアズリカ先生が身を翻して去って行ったので、俺たちは深く頭を下げた。

大扉を開いて中に入り、背中を見せているマントを羽織った金髪の女性らしき人物の5メル(5m)ほど前に近づく。

 

「北セントリア帝立修剣学院所属、キリト主席上級修剣士です」

「同じく、北セントリア帝立修剣学院所属、ユージオ次席上級修剣士です」

 

2人して名乗り上げると、今度は前の女性から声が上がった。

 

「セントリア市域統括、公理教会整合騎士、アリス・シンセシス・サーティです」

「アリ、ス…」

 

やはりユージオは声だけで気付いたようで、俺は動いて彼女に触れようとする彼を押し留めた。

ハッとして動きを止め、ユージオはその場に佇む。そして騎士は振り返った。

癖の無い艶やか金髪、透明感のある真っ白い肌、少し切れ上がった両眼の深い青。

間違いなく、俺の記憶の中にあるアリスと同一人物だ。

 

「ユージオ、間違いないか?」

「うん。間違いなく、アリスだよ…」

 

小さな声で訊ねるとユージオは確かな声で返答してきた。

 

「ついてきなさい」

 

頷き、俺たちは前を歩くアリスの後に続いた。

飛竜の前に戻ると、彼女は両手に拘束具を1つずつ持ち俺たちに告げた。

 

「主席上級修剣士キリト、次席上級修剣士ユージオ。

 そなたらを禁忌条項抵触の咎により捕縛、連行し、審問の後に処刑します」

 

俺たちは大人しく拘束具に巻かれ、身動きが出来なくなった。

飛竜の両脚にある留め具に鎖を固定し、繋がれてしまった。

くそ、明日奈を縛ることは多々あったが、ALOの屈辱のようなことが再び起こるとは…!

(作者:ツッコむところそこ!?)

 

その時、後方から足音が聞こえ、そちらを向くとロニエとティーゼがよろめきながらも懸命に掛けてきた。

俺の黒い剣とユージオの『青薔薇の剣』を2人で1本ずつ持ちながら向かってくるが、

2人とも手から血を流しているのがわかる。

 

「ロニエ…」

「ティーゼ…」

 

2人の名前を呼ぶとなんとか笑みを浮かべながら、アリスの元まで歩み寄り嘆願した。

俺たちに剣を返してあげてほしい、と。聞き入れたアリスは剣を預かり、俺たちと1分間話すことを許可した。

 

「ごめんなさい、キリト先輩…! こんな、こんなことに、なるなんて…」

「ロニエ、昨日のことは思い出すだけでも辛いと思う。

 それでも、辛い思いを抱えながらでも、人は進むことができる。

 俺は必ず戻る、大切な人が待っているからな」

「わたし、必ず、少しずつでも、前に進みます! だから、戻ってこられたら、彼女さんに合わせてください」

「あぁ、必ず」

「これ、お弁当です。お腹がすいたら、お二人で食べてくださいね…」

「ありがとう」

 

そう言ってロニエは包みを縛られている俺の手に握らせてくれた。

隣ではユージオもティーゼと話しており、彼女の表情も少し明るくなっている。

 

「時間です。離れなさい」

 

アリスの言葉で2人は離れ、飛竜が立ち上がって助走を開始した。

ロニエもティーゼも走って追いかけてくるが、やがて石畳に躓いて転んでしまう。

飛竜は飛び上がり、地上から離れた。

 

その時、俺は確かに見た……初等練士寮の前に立つアズリカ先生とルイ初等練士、

他平民出の初等練士たちが立ち、さらに高等練士寮前には初等練士時代に同じ部屋で過ごしたり、

平民出であった高等練士たちが立ち、俺たちを見送ったことに…。

 

「必ず、またここに来るから……いってくる」

 

そう呟き、俺たちは公理教会セントラル・カセドラルへと連行された。

 

キリトSide Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

はい、というわけでして・・・本作ではライオスもウンベールもキリトが殺しました。

 

彼らによって齎された溜まりに溜まったストレスの解放、アスナという枷がいないこともあり、もう怒り爆発です。

 

一応ですが、自分たちの研究で生まれてしまった悲劇でもあるのでキリトはけじめをつけたともいえます。

 

あとキリトがカタカナモード喋っている時のセリフはあるゲーム作品のキャラから肖っていたりしますw

 

それとルイ君はオリキャラですが今回限りのキャラです。

 

そして以前まで『リア』という名前にしていた彼女ですが、原作通りに『シャーロット』という名前に訂正しました。

 

そのかわり半オリキャラ状態ということで蜘蛛ではなく少女の姿ですが・・・万人受けしますしw

 

ちなみにシャーロットはまだキリトの元にきていません、後で合流しますので。

 

さて、次回からセントラル・カセドラルでの話になります。

 

しかもいきなり整合騎士戦です・・・二連続でw

 

ではまた次回をお楽しみに・・・。

 

 

 

 


 
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