【 久秀……乱心 の件 】
〖 司隷 洛陽周辺 にて 〗
順慶「このままでは────持ちませんわ!」
順慶が……久秀の傍で喚き散らす。 そんな事は、とっくに分かっているわよ! 少しは黙って貰えないかしら?
本来なら勝てるのが……当然の戦! その事が慢心を生んだの? それとも、于吉が言っていた『何んとか』の修正力? とりあえず、この状況を何とかしなければ…………!!
袁兵「で、伝令──! 前衛部隊、全滅!! 中衛部隊も士気が著しく落ち、潰走は必須!! 後衛部隊を蹴散らしてでも……逃走しようとする気配が濃厚!! 何らかの処置を!!!」
………………そうなの。 久秀に刃向かうつもりなの? たかが…玩具の寄せ集め如き分際で………颯馬みたいに………颯馬みたいに!!!
あぁ~ぁ! ───つまんない。 久秀も、この世界に……すっかり毒されていたわね? 戦の勝敗で、必死に頭を悩ますなんて………。
………久秀と順慶の目的は何? 颯馬の奪還でしょう!? 大陸を制圧しても、于吉達が破壊してしまうのよ!? そんな泡の如く物、久秀は欲しくない!! 順慶も………多分同じ事を言うわね? ならば────!!
久秀「……順慶! 貴女、あの技は……まだ出来る?」
順慶「あの技? あぁ……『人手裏剣』ですか? もう数回でしたら、使用可能ですわよ。 あの邪魔なモノを蹴散らせるぐらいでしたら………」
久秀「……やはり……分かるのね? 『犬猿の仲』の貴女と……こんなに長く居る事なんてなかったけど……なかなか察しがいいじゃない!?」
順慶「『呉越同舟』『同床異夢』……貴女と私は宿敵に近いと言うか、私の方が遥かに被害者なんですのよ……! 颯馬をお連れするまでは、共同戦線を行うだけで………誰が貴女と同類ですか!!!」
順慶にしては、ムカつく事………ほざくじゃない!!
久秀「久秀も馴れ合いなんて……嫌いよ! 主人と飼い主の立場を弁えさせないと……。 貴女みたいに尽くすだけなんて………馬鹿っみたい!!」
順慶「久秀! 貴女────!!」
順慶が顔を真っ赤にさせ……怒り狂う!
だけど、そんな姿なんか……無視よ、無視!! ワザと流して冷静に対応。
久秀「……さて、無駄話はお終い! 私は『操』の術を仕掛けて……脱出を図る! そして……!! 貴女は技の準備まで……兵の鼓舞を頼むわ!!」
順慶「~~~~~分かりましたわよ!!!!」
これをやると、相手の怒る対象が無くなり、鬱憤が溜まるのよ? それを眺めるのが醍醐味だけど……そんな事してられないわ!!
何故なら、久秀の『目的』を果たさないと─────!!!
久秀「───いいこと? 兵が徒党を組んで回り始めたら、技を放ちなさい! 狙いは『官渡』方面よ! あそこなら、鳥巣に『荊砦』がある!
順慶──! 貴女は……先に無事な兵を連れて、鳥巣に向かいなさい!! ここに残すのなら、負傷兵……五万ぐらい居れば充分!! そして、伝令兵を送り出し兵を集めて───最終の決戦を行う準備を!!!」
順慶「!!! ────久秀、貴女は!?」
久秀「─────『董卓』に、永遠の別れを……告げてあげるの! この異世界に捕らわれる颯馬を……取り戻す為に────ねぇ!!!」
◆◇◆
【 月は見た! の件 】
〖 司隷 洛陽周辺 にて 〗
月「─────────!!」
詠「どうしたの!? 月!!」
何か……胸騒ぎが………!
この感覚、あの『久秀』さんに……襲われた感じと似てる。
狂気に彩られ……禍々しい氣を発揮していた女官。 天城様を『玩具』と仰りながら………寂しそうな目をしていた『天の御遣い』の御一人。
私は、詠ちゃんや禁裏兵の皆さんに……後を任せ後方に回り、目を閉じて気配を探ります。 わ、私だって……武人なんです!! 偶々、こんな弱々しい姿していますから、侮られる事が多いんですが………へぅ~~~!!
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーーー
あ、あれぇ? 後方に確かに黒い氣が発生しているけど………なんで? 黒い氣の中に『女の子』が……泣いてる? 顔を上げたけど、髪で目下が隠れていて表情が分からない。 だけど……両方の筋は……涙の跡なんだよね?
──! 私の存在に…気付いて、此方へ顔を向けた!
何か……叫んでいる!!
……叫んでるけど……聞こえないの!
声が───ここまで、聞き取れないのぉぉ!!
お願い! もっと大きい声でぇ!! 私に聞こえるようにぃぃ───!!
『タ・ス・ケ・テ! ヒ・サ・ヒ・デ・ヲ─── 』
─────────────!
「月ぇ─────!!」
へ、へぅ──────────!!!
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
詠「月ぇ!! 大丈夫!? 大丈夫なのぉ!!」
月「詠ちゃん!! どうしてぇ───!!!」
私は、あの子の言葉を……全部を聞き取れなかった事が……悔しくて……詠ちゃんに当たりました! 助けを求められたのに、応えてあげられなかった自分に、悔しくて…………。
だけど……詠ちゃんが、私を起こした理由……それは…………!
詠「月! ゴメン!! 今、大変な事が起きてるのよ!! 袁術軍の抵抗が急に無くなったと思えば………徐々に……部隊を編成して……走り出したの! こちらの包囲網の中を!!!」
月「─────────!!!」
◆◇◆
【 天の国の戦法 の件 】
〖 司隷 洛陽周辺 にて 〗
稟「………始まりましたか!」
風「…………これはー? なんでしょうね~?」
二人共、想定の範囲外の事が起こり………顔が険しくなる!!
稟「………袁術軍を想定して考えれば、囲いを撃ち破るのが第一の狙い!! 包囲網を強化する事は、被害を悪戯に増やす事になり、得策ではありません!! どこかしら、包囲を欠けさせねば……………」
風「ウムムム………! 包囲を行う場合、一方を解放すれば……敵がそこから退去しますー! そうすれば、敵に心理的な余裕を持たせつつ、追撃や伏兵を行えば敵は大打撃~!! ……欠囲の理を、孫子も述べてますもんねー?」
稟「そうです! ですが……今回、欠囲の陣を行えば………私達は負けていた! ─────風なら分かりますね? この理由が!?」
風「当然ですよぉ~! 風としても、包囲網で殲滅する方を押しますよー! 敵は……明らかに洛陽勢より倍する人数ですー! それを、孫子が言ってるから行う~と言うよな鵜呑み事をやれば、逆包囲されて……殲滅の憂き目にあちゃいますよー?」
稟「その通りです! 敵と戦闘を行う『接触面』を、可能な限り少なくして、敵を敵の中に封じ込める! この策なくては、勝てる見込みなど……到底ありません! ……あまりにも急な事態でしたので、準備が………」
風「しかし~、あの備えが気にかかるのですよぉ……! どこかで見聞した事が……! う~ん、うぅ……あ! あああぁぁ!! 謙信さんですよぉ! 謙信さんから聞き及んでいた……『車懸りの陣』ですよ!!!」
稟「────!!! それなら急ぎましょう! まず、欠囲に見せ掛けるため、蒲公英殿を翠殿の隊に合流! 月様の陣と翠殿、白蓮殿、程遠志、華雄殿の軍勢を洛陽側に近付け、洛陽、月様両方を御守りするのです!!」
風「伝令さん達! 今の事、急いで知らせて下さいー!」
伝令「はっ!!」ダッ!
風「ですが~、本当に……月様を攻めるんですかね~?
攻めるにしては、あまりにも時期を逃し過ぎているんです! あまりにも、兵を無駄に傷付き過ぎた感じなんですよね~!?
ここは、深入りして無駄に討ち取られるより、退却させて時期を改める方が…遥かに有利……と、風なら思うんですがー!?」
稟「ですが……他の備えでは無く『車懸りの陣』を、わざわざ使用する意味! 私には、乾坤一擲の一撃を目指しているように……思えるのです!」
風「───では、風達も月様に至急知らせに行かないとー!! 稟ちゃんの言う通りの考えなら──月様の陣に突入され、非常に危険ですよー!!!」
稟「────急ぎましょう!!」
◆◇◆
【 洛陽勢の危機 の件 】
〖 司隷 洛陽周辺 にて 〗
詠「えっ!? そんな──むちゃくちゃな!! 袁術兵の馬鹿達は───何を考えているのよ!!」
私の下に稟さん、月さんが息を切らしながら……報告してくれました! 私のところに……敵陣営が殺到するかもしれない……可能性が……あると!!
天城様の後に来られた……『上杉謙信』様!
天の国では『越後の龍』、『軍神』と二つ名があった戦上手だと伺った……端正で美麗な女性の方なんです! ……魅力では、負けちゃいます……ね。
『武田信玄』様や妹の『信廉』様なら、余裕に張り合えるのに………。
────え? あっ! ち、ちちち違うんですぅー!!! そんな話じゃなくてぇぇ!! 私の魅力が天城様に通じないとか、そんな愚痴じゃなくて!!!
へ、へぅ!! ごめんなさいぃ!! 今の話は──聞かないで下さいぃ!!!
……………………ゴホン!!
その謙信様が、信玄様と四回目の対峙した時に……この『車懸りの備え』を行ったと聞いています!! それを……袁術が、いえ……司馬懿が使う……!
すると……この戦法を知ると言う事は……司馬懿……『松永久秀』……貴女ですよね? 私や詠ちゃん、長慶様を襲い……天城様を執拗に狙う……『天の御遣い』!
私は………貴女に負けません!! 華水お母様の銅鏡を前に誓ったのです! 『竹中半兵衛』様の御冥福を祈ると同時に『天城様を守ってみせる』と!!
─────私の命に代えてでも、守り抜いてみせます!!!
★☆☆
翠「……馬なら、回転で加速を付けるって分かるけど……歩兵がグルグル回って……そんなに凄いのかぁ!?」
蒲公英「……でも、全員…顔が無表情なんだよ? 変だよ! 絶対におかしいよ!!! 」
ーーーーー
白馬義従6「………てめぇら!! この戦、最大の激戦になるぞぉ!! 白馬義従として、白蓮様が恥ずかしくない死に様をさらせぇやあ!!」
白馬義従『ういっーーーーーーす!!』
白蓮「ば、馬鹿!! 勝手に決めるな! 私の部下達は…皆…優秀なんだ! 必ず──生きて帰ってくるんだぞぉ!!!」
ーーー
白馬義従4「お、俺……この戦い終わったら……白蓮様に求婚……」
白馬義従5「まてぇ!! 言うなぁ──!! それは『死亡ふらぐ』と言う名の死を招く呪い!! 北郷のお使いが…注意しろと言っていた呪詛だぜ!!!」
★★☆
華雄「……………………………」
程遠志「か、華雄様……!」
華雄「むっ? 華雄でいいぞ? お前も同格の将軍なんだろう?」
程遠志「い、いえっ! オイラは……元黄巾賊スッ! ……華雄様とは…出も戦歴も、月様にお仕えした年月も……遥かに及ばない奴なんスッよ? これで同格など言われたら恐れ多い『だが…ここに居る! 違うか?』──へっ?」
華雄「月様が許可し、あの颯馬が重用する! それだけで充分……同輩の資格ありだ!! 普通に喋っていいぞ? そんな喋りじゃ……肩が凝る!」コキコキ
程遠志「え、えーと、華雄将軍! す、すいませんッス! どうしても、こんな言葉使いになってしまって……!!
オイラ……! 猛将の華雄将軍にお聞きしたいッス!! ………か、華雄将軍は、この軍勢……こ、怖くないんでスかっ?
敵は、天城の兄貴と五分にやり合う知謀の御遣い、それとオイラのダチや仲間を惨殺した武の御遣い!! オイラのような奴を……仲間に迎えてくれた…優しい月様を……守れるかどうか……自信がねえッスよ!!!」
華雄「私はな………。 昔は……恥ずかしいぐらい…猪だったさ! 敵と見れば闇雲に突っかかり、その度に危機へ陥って……詠や霞に……何度怒鳴られた事か……!
天城達……天の御遣い達には……いろいろと教わったよ。 『後の先』『我慢』『慎重』……。 そんな中でも、一番大事だと思ったのは……『仲間を思いやる心』だな!」
程遠志「『仲間を思いやる心』スッか………?」
華雄「………お前も、『天城の背中』を見た事はあるか?」
程遠志「そりゃあ……あるッスよ…!」
華雄「そうか! ……それなら、アイツの背中を見る機会は、必ず決まっている事に気付いているか?」
程遠志「……………?」
華雄「アイツの背中は、必ず……仲間を救う為に、前へ出るから見えるんだ! 私達が尻込みする中……アイツ、天城だけは……先へ先へと進む! 仲間を救いたい! その一心のみでだぞ!」
程遠志「あぁ───!」
華雄「今──何時も先駆けるアイツが居ない。 アイツが居れば、間違いなく月様の前に立ちふさがり……敵から守ろうとするだろう! 自分より強い敵だろうとな……。
私も正直……怖いが、アイツの背中を見て学んだ身! アイツが居ない今、変わりに前へ出て行くつもりだ!! そして……月様を守る!!
程遠志! お前も……天城を兄貴と慕うなら、その学んだ心を示してみよ!」
程遠志「………ありがとうございます!! 華雄将軍!!! オイラも……捨て身の覚悟で……行ってみます!!」
華雄「……あぁ! だが……一つ言っておこうか。 本当に身体を捨てるなよ? 捨てると拾う方が嘆くハメになる! 特にアイツは…涙もろいから…」
◆◇◆
【 悲しき車懸りの狂陣 の件 】
〖 司隷 洛陽周辺 にて 〗
久秀「へえぇ──!! 久秀の意図を見抜くなんて……優秀よ、優秀!! そんな貴女達に久秀からの特大の『死』を贈ってあげるわ!!!
兵達は五万! 大火傷や裂傷が激しい……死に体の兵ばかり集めたから、動きが些か鈍いのが残念……。 でも、この大軍勢で行けば……董卓や味方する将諸共……惨殺なんて簡単!! 颯馬が久秀を憎み姿が容易に浮かぶわ!
ア───ッハッハッハッハッハッハッ!!!」
狂気に飲み込まれそうになる久秀!
久秀「─────まだまだ……グッ…完全に飲み込まれるには……早い! 順慶!! 何をしているのよ!! サッサッと技を繰り出しなさい!!!」
狂気の快感に流されそうになりながら、必死に耐える久秀!! 今飲み込まれ出れば……順慶さえも敵と見做す(みなす)恐れがある!
ーーーーー
順慶「人手裏剣─────!!」
ギュルギュルギュルッ───!!
ドカッ──────ン!!
袁兵が大の字の状態で回転しながら……『火車』と化した荷車に衝突!!
見事に破壊しつつも、人手裏剣と化した者は……当然、火達磨となり別方向に飛んで行く!! 無論………命は無い!!
順慶「行きなさい! 目的地は『兗州 官渡!』」
ザザザザザザザザザザッ!!!
無傷に近い袁兵達は、包囲網を破り向かって行く!!
ーーーーー
久秀「遅いじゃないの……! 順慶……! 罰よ……後は、貴女に任せるわ!! 好きになさい!!!」
順慶の活躍を見た………久秀は………狂気に身を委ねた!!
ーーーーーーー
《 久秀 回想 》
今まで……数多くの……お気に入りの玩具を……作り出しては壊し、作り出して壊した。 子供が……新しい玩具を欲しがるのと同じ理屈で…………。
『顔は良いけど……つまらない!
『言うことは聞いても、面白みがない!』
『他者の玩具は久秀の物、久秀の物は久秀の物! 渡さなければ勝手に貰うし、欲しいっと言われても……あげないわよ!』
久秀の優れた政治手腕、言葉巧みな話術、見識高き美意識が……久秀の『我が儘』を冗長させてきた!
そんな考えに染まっていた久秀が……出会った一人の『おのこ』
何時ものように……調教を仕掛け…罵詈雑言を浴びせ…様子を見ていた玩具候補。 しかし、この『おのこ』は……他の『玩具』と違い……憎みべき対象の存在である久秀を……とある戦場で……命を懸けて救う!!
─────『天城颯馬』!
その時より芽生えた…久秀が初めて知る…『恋』なる感情! 惹かれる異性! 何が何でも傍に居て欲しいと思う『独占欲』!
しかし……颯馬を慕う者は、枚挙に遑(いとま)がない! しかも、相思相愛の明智光秀が、すでに傍で………微笑んでいる…………。
ーーーーーーー
久秀「颯馬は────この……久秀のモノなのよ!!! 誰にも、誰にも渡さない!!! 渡すものですか!!!! ア───ッハッハッハッハッ!!」
久秀の感情の高ぶると同時に、袁兵に掛けられ術が強くなる!
瀕死の重傷者が……手が壊れようが、足が千切れようが……動けるうちは包囲網内をクルクルと回る!! 左回転に……縦に陣列を何列も作り上げ、台風の如く董卓軍勢に近寄る!!
久秀「──なんでぇ……颯馬は久秀を見ないのぉ!? 颯馬の主は、この久秀……ただ一人のはずなのにぃぃ!! どうして従わないのぉ!!!
──────主………そう『董卓』!!! 貴女が居るからぁ! 貴女が居るから颯馬が………久秀を見ない!! 久秀の命令を聞かない!! 久秀を……………愛してくれないのよ!!!!」
─────久秀は、完全に狂気へと飲み込まれる!!!
持ち前の聡明さが影を潜め……ただ、憎き敵だけを狙う『獣』と化す!!
それに呼応する袁兵達!! 鈍重さも鳴りを潜める!!
精兵と変わらぬ働きをするようになってしまった!!
司馬懿………いや、松永久秀による『車懸りの狂陣』が、董卓……洛陽軍勢に襲いかかった!!!
ーーーーーーーーー
ーーーーーーー
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
前作がコミカル調でしたので……シリアス風に変更してみました。
う~ん、久秀がドンドン怖くなっていく………。
原作は……ここまで怖くないですからね?
一応……お気に入りのキャラなんですが………扱いが惨いというか……なんというか……。 順慶もそうなんですけど…………。
こんな作品ですが………また、よろしければ読んで下さい。
Tweet |
|
|
8
|
0
|
追加するフォルダを選択
義輝記の続編です。 よろしければ読んで下さい!