No.695760

ちゃんばら戦争猫の陣

小紋さん

ちゃんばらが終わった後の一幕。
師走君が書いてみたかっただけとは言えません←

登場するここのつ者
魚住涼

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2014-06-22 09:08:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:400   閲覧ユーザー数:389

ビリビリと穴の空いた障子、おおよそ10枚前後。

どうせ張り替えるなら他の物も纏めてやってしまおうという事で、忍社の一角は外された障子が多く運ばれている。

手分けして修繕、張替に勤しむここのつものたちプラスいつわりびと数名を遠巻きに見ながら、鹿ノ内冬馬はため息をついた。

 

(被害は障子だけでは無いんですよね……)

 

目の前に置かれた頭がとれて歯車や紐が覗くカラクリ――シカぽこぽこ君1号R(リターン)――は、いつわりびとの中でも武に秀でている企鵝と鴨野師走の一撃を見舞われたれっきとした被害者だ。

チャンバラ中は早く会場に復帰するべく動く程度に修理して稼働させていたが、これはもうバラして部品に戻した方がいいかもしれないと思うような有様である。

 

「やっぱり、最後の一撃が致命傷ですね……。鴨野くん、手加減という言葉を知らないのかな?」 

 

ぼやきつつ、ヒビの入った歯車をつまみ上げる。思えば彼はチャンバラの途中から雰囲気が変わっていたようにも思う。挑発的な言葉はともかく、終わりごろには無言で布刀を降り下ろすこともあった。ある意味で、彼の一撃が当たったのがカラクリで良かったかもしれない。

 

「俺が何を知らないって?」

 

声をかけられると同時にズシリと肩に一気に重さがかかる。ひっくり返りそうになるのを堪えると、すぐ上に鴨野師走の顔があった。

 

「皆が障子貼ってるのにサボるなんて、冬馬君って以外と不良なのかな?」

 

うりうりと額を押す指を軽くはたき落とし、冬馬は違いますと即答する。

 

「僕は一枚も破いてませんよ。そもそも僕のカラクリが人と障子を間違えるなんてあり得ないです」

「わー、凄い自信だね」

 

ぱちぱちと乾いた拍手を返され、冬馬はまた一つため息をつく。

 

「そういえば、これ何?ヒビ入っちゃってるね?」

 

抱きつかれた表紙に落としたのだろう。彼が拾い上げて眺めているのは先程まで冬馬の手にあった歯車だ。

 

「シカぽこぽこ君1号に使っていた歯車です。……良ければあげますよ?」

「え?良いの?」

「ヒビが入って、もう使えないので。……ある人の一撃がトドメだったようですね」

「へえ、じゃあこれは俺の戦利品かな♪もーらった♪」

 

はいどうぞとあしらうように返し、そこでふと思い出す。確か彼も障子を破っていなかっただろうか?

 

「鴨野くん、確か君は障子を破ってませんでしたか?それも2、3枚」

 

ぴたり、と彼の動きが止まる。一呼吸置いて、声が絞り出された。

 

「……冬馬君、障子紙を張ってくれるカラクリとかない?」

 

はい?と疑問符を口に出す。あれ見てよ、と指された方を見やる。

何時の間にあんな惨状が引き起こされていたのだろうか。

それは張り替えたばかりの障子に猫が何匹もダイブする光景だった。

 

「糊が水っぽくて粉足したらさ、それがマタタビ粉だったみたい」

 

乾いた声で師走が説明する間にも猫が集まってくる。あぁ、また一枚犠牲になった。

 

「涼ちゃ……涼さんが箒で掃き転がしてくれてるけど、これはもう糊を作り直してからの張り直しみたいでさ……俺疲れた」

 

「確かに……これは目を覆いたくなりますね」

 

猫は可愛い。猫が何匹もぎゅうぎゅうと集まる光景は状況が状況なら癒されるものだろう。状況が状況なら。

 

「でもきっと……今から絡繰りを作るのをならその間に張り替え終わると思いますよ?」

 

「えー、じゃあ冬馬君を戦力に数えていい?」

 

ねーえーっと肩をグラグラと揺らされてはカラクリの修理どころてはない。冬馬は暫く無言で耐えていたが、回数が20を越えたところで声をあげた。

 

「あーもう!わかりました!わかりましたから離してください!目が回ります!」 

 

工具の柄で手を叩くと存外呆気なく解放される。

しかし次の瞬間には担ぎ上げられ、不意に地面が遠ざかった冬馬は小さな悲鳴をあげた。

 

「戦力一名ゲットー!冬馬君って案外優しいね」 

「君に言われてもあまり嬉しくないのは何故でしょうね!?あと下ろしてください!自分で歩きます!」

「離したら逃げられそうじゃない?」 

「それは君くらいだとおもいますよ」 

 

軽口に軽口を返しているうち、結局障子近くまで運ばれてしまった。降ろされたちょうど足元を涼に掃き転がされた三毛猫が通り、素早く駆け寄った涼がもう一掃きを見舞う。

 

うにゃあ、と悲鳴をあげて参道を転がり降りていく猫、猫、猫。また近くに転がってきた酔っぱらい猫をさらに転がし、彼女は息も荒く箒を構え直した。

 

「御参詣、ありがとうございました!障子担当部隊の方々!被害はいかほどですか!」

 

華麗な箒捌きと普段と印象の違う鋭い声。まさに参謀と言わんばかりの涼の姿に、冬馬は障子張りの手伝いに呼ばれたのではなく障子張り戦争の援軍として呼ばれたのだと知った。

 

「こちら鶯花班!被害は3枚」

「寧子班は2枚にゃ!」

「企鵝班…全滅です」

 

涼と共に鶸も素早く指示を出す。途端にきびきびと動くここのつものの姿にいっそ感動を覚えながら、冬馬はこめかみに指を当てて唸った。

 

「やっぱり、障子張替カラクリは作った方がいいのかな?」

 

「え?」

 

首を傾げた涼に「なんでもないです」と返し、徴兵された冬馬は手始めにする寄ってくる猫を転がしていった。

 

 

張替が終わったのは、日が完全に沈む間際だった。

 

 


 
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