No.694411

戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第15幕

立津てとさん

2週間ほど間が空いてしまいましたねすいません、たちつてとです
織田と同盟を組むことの先を色々構想(妄想)していたらいつのまにか目の前のことを忘れてしまっていました

たまに結構間が空いたり、かと思ったらすぐに続きを投稿したりと更新速度はまちまちなこの作品ですが、どうか暖かい目で見守ってやってくださると幸いです

続きを表示

2014-06-16 02:09:23 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2186   閲覧ユーザー数:1893

 第15幕 対面

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼 岐阜城

 

謁見の間には織田信長をはじめ、織田家の諸将。そして、新田剣丞の姿があった。

 

「久遠さま、越後より長尾景虎、以下2名がいらっしゃいました」

「来たか。通せ」

 

小姓が襖に手をかける。

それを確認した丹羽秀長こと麦穂が高らかに言う。

 

「越後国主、関東管領長尾美空景虎どのの御成り!」

 

仰々しく放たれた言葉と共に襖が開く。

堂々と入って来たのは、落ち着いた雰囲気を出す女性と仮面の男を傍らに従えた長尾景虎だった。

 

((ッ!!))

 

秋子を除いた2人は上段に座る新田剣丞を見て、目を見開いた。

 

(マジで俺だ・・・)

(本当に剣丞だわ・・・)

 

驚きを悟られないように、美空は早速挨拶をする。

 

「長尾家棟梁、長尾美空景虎よ。はじめまして、織田三郎どの」

「うむ。織田家当主、織田上総介久遠信長だ。遠路はるばる苦労であった。座ってくれ」

 

指定された席に座る美空。剣丞と秋子はその後ろに座った。

 

久遠は前置きはいいと言わんばかりに口火を切った。

 

「書状は拝見した。織田、松平、浅井に長尾が加わり4国が同盟するという案は面白い」

 

そこで炎を宿す瞳が美空を射抜く。

 

「確かにこの同盟によって、我ら織田家は武田という後顧の憂いを絶ち畿内を臨むことができる。だが越後には何の得があるのだ?」

 

その問いに対して、美空は真っ直ぐ久遠の目を見返して答えた。

 

「ええ、得はあるわよ」

「ほう」

「まずは武田ね。ご存知の通り武田は我ら長尾家の不倶戴天の敵。その武田を牽制できるというだけでこの同盟は十分意義のあるものだわ」

 

それに、と美空が続ける。

 

「そこの男の事も気になるしね」

「剣丞が・・・?」

 

これは久遠も意外であったようで、目を丸くしていた。

 

「田楽狭間の天人の噂は越後まで届いているわ。そんな男がどのようなものか、見てみたかったのよ」

「・・・そうか」

 

久遠が目を閉じ、考え込む素振りを見せる。

今の発言で彼女にとって長尾勢はどう見えるようになったのか。

天人という権威に媚びる有象無象と同じように見られたか、それとも・・・

 

 

久遠の目が閉じられてから、数分が経った。

緊張の雰囲気が長尾にも織田にも漂う。

美空以外の人間の誰もが、久遠の答えを今か今かと待っていた。

 

「・・・・・・わかった」

「「「「「!!」」」」」

 

長い沈黙の末、久遠の口から出た言葉に誰もが注目をする。

 

「この同盟、受けよう」

 

その言葉に、この場にいた誰もが息を飲んだ。

この瞬間、織田と長尾という強国同士の同盟が締結されたのだ。

 

一番緊張がほぐれていると見えたのは秋子だった。

 

「はぁ~よかったぁ~・・・」

 

周りに聞こえないように呟く秋子。

口には出さないが、剣丞も同じ思いだった。

 

「既に浅井、松平からは2日前に承諾の旨を示す書状も来ている。4国同盟は形成されたも同然だ・・・だが」

 

弛緩した空気に再び久遠の凛とした声が通る。

 

「まだ我らはお前達を信用できる材料が無い」

「あらそう、じゃあ定番で人質かしら?」

 

人質はこの時代の同盟には珍しくないことだ。

相手を信用できない場合や釘を刺しておきたい場合によく用いられる手段で、婚姻による同盟も結局は姫を人質にとることになる。

 

「そうなるな。できれば婚姻にしたいが、生憎と織田には独り身の男はおらなんだ」

「残念ね・・・ウチには早く貰ってもらわないと行き遅れちゃうのが1人いるんだけど」

 

隣で秋子がビクッと反応するのを感じて、剣丞は冷や汗をかいた。

 

「そこの天人さまは貰ってくれないのかしら?」

「ッ、剣丞は我の夫だ!」

 

美空が上段に座る新田剣丞に話を振ると、久遠は被せるようにムッとしていた。

 

「あら、そうだったの。でも側室でなら貰ってくれてもいいわよねぇ?」

「ど、どうなのだ剣丞」

「ええっ、俺に振る!?」

 

声も同じだ・・・と思いながら美空が待っていると、居た堪れなくなったのか戸惑いながらも答えた。

美空だけでなく、織田家の諸将もその答えに興味津々と言った感じだ。

 

「えーっと、やっぱ結婚って双方の合意が必要だし、今決める事じゃなくない?」

 

彼は逃げを選択したようだった。

心なしか織田側からホッとしたような息が漏れる。

 

(ふーん、今のが剣丞の考えなのね)

(いや、俺を見られてもこまるんだが)

 

確かに自分が今と同じ話を振られても同じ答えを返しただろうが、やはり自分とまったく同じだと思うといささか不思議だった。

 

「ええい!そこは我意外とは結婚せぬくらいは言わぬか!」

「えー、でも結菜も奥さんじゃん」

「あれはよいのだ!あれは!」

 

突如始まった夫婦喧嘩にどうしていいかわからなくなる長尾勢。

片や織田の将達はまた始まった・・・という顔でため息をついていた。

 

その空気に気付いたのか、2人は言い合いを止め、コホンと一息つく。

 

 「と、とにかく!婚姻による同盟ができないならば、跡継ぎを人質に・・・となるな」

「・・・・・・」

 

美空はそこで顔を伏せた。

長尾の跡取りといえば空だ。

普段から空を溺愛している美空を見ている剣丞や秋子にとって、彼女の葛藤は容易に予想できた。

 

「いいわよ。それでいきましょう」

 

美空がそう答えるのに、数秒とかからなかった。

 

(おいおい、決断早いな)

(御大将は聡明な方です。ここは私情より大局を優先させたのでしょう)

 

常に傍にいた故か、秋子は美空の出した答えに驚きはしていないようだった。

 

「長尾景勝・・・空をそちらに人質として差し出すわ」

 

一切の感情を押し殺した声に、久遠はうむと頷いた。

 

「それと、こちらからも条件――いえお願いがあるわ」

「・・・申してみよ」

 

美空はチラリと後ろに控える2人を見て言った。

 

「空はまだ子供。同盟国とはいえ故郷を離れるのに守役(もりやく)の1人もつけないのは酷な話だわ」

「うむ、さもありなん」

 

「だから護衛役としてこの男、新田七刀斎をつけるわ」

 

 

 

急な指名に一番驚いたのは、他ならぬ新田七刀斎だ。

思わず声をあげてしまいそうになり、仮面がなければマヌケ面を大勢の初対面の人間に晒していたことだろう。

 

「ほう、その男が」

 

新田という苗字に興味を示したのか、織田家の視線が一斉に向く。

 

「え、ええっと・・・」

「なにやってんのよ、立ちなさいよ!」

 

小声で注意され、おもむろに立ち上がる剣丞。

勿論、仮面に刀にマントとフル装備だ。

 

「・・・なんか、剣丞に似ておるな」

「ええー勘弁してよ。俺あんなヤバイ恰好しないって」

(聞こえてんぞ!)

 

極力小声で話す努力はしたようだが、上段での会話を剣丞の耳はしっかり捕まえていた。

これもひとえに普段から「うわっ、怪しいやつ!」「おかーさーん、アレなーにー?」「今回の興行は随分派手だねぇ」などの言葉を人ごみから聞き分けては心で泣いていた日常のお蔭

 

と言えよう。

ただその聞き分け力は現実とモロに向き合わされる諸刃の剣でもある。

 

立ち上がったところでどうすればいいか分からない剣丞に、秋子からのフォローが入った。

 

(七刀斎さん、この前勉強した紹介時の礼法です)

(ああ、あれか・・・)

 

「ご紹介に預かりました。長尾家馬廻り組を務めさせていただいている、新田七刀斎です。以後お見知りおきを」

 

テンプレ文を言い終わったところで再び座る。

時間が開いていた時にやっていた礼法の勉強も、こういった場で活用できるとなれば無駄ではないのだなと剣丞は感じていた。

 

「デアルカ・・・よかろう、新田七刀斎の護衛を認める」

「助かるわ。じゃあ早速本国に帰って空をそちらに引き渡すから・・・10日ってところかしら」

「妥当だな。新田七刀斎はどうする?」

「七刀斎は美濃に留まり、空の出迎えをさせるわ」

 

承知した、と久遠が締め、これにて長尾と織田の同盟交渉は色良い結果に終わったのだった。

 

 

 

「今夜は同盟締結の宴をしようと予定しておりますので、長尾の御三方もご参加されますようお願いします」

 

話し合いが終わり、謁見の間から出た美空達3人に話しかけてきたのは、家老の丹羽長秀と名乗る女性だった。

通称麦穂というその女性は美空達を客間へと案内する途中に夜の予定を教え、去っていった。

よって今3人は客間で休んでいる状況だ。

 

「しっかし、美空が空ちゃんを人質として送るなんてビックリしたよ」

 

織田の剣丞もいた手前、剣丞は謁見の間で言えなかったことを今話していた」

 

「一応俺も元々空ちゃんの護衛役ってなってるから筋は通ってるけど、美空の護衛はどうするんだ?」

「別に、アンタがいなくたって問題ないわ」

「そうか?でも俺はともかく空ちゃんまでいなくなったら寂しいんじゃ――」

「うるさい」

 

ピシャリと言われ、剣丞は黙るしかなくなった。

 

「御大将?」

 

秋子もいつもとは違う美空の様子に気付いたのか、どうしたのかと目で尋ねる。

 

「・・・なんでもないわ。それより秋子は明日にでも越後に帰るんだからしっかり体を休めておきなさい」

「はい、それは承知していますけど・・・?」

 

どうしたのだろうかと剣丞と秋子で顔を見合わせる。

同盟交渉が終わってからというもの、美空のピリピリ度合いはいつにも増して鋭かった。

 

その雰囲気の中、客間を訪ねる人物がいたのはまさに助け舟と言えた。

 

「新田七刀斎どのはいるか?」

 

入って来たのは、先程謁見の間にも居た女性だった。

座っていた位置は麦穂と同じであることから、彼女も家老だと思われる。

 

「あ、いますけどー」

「貴方か。私は柴田権六壬月勝家と申す者。新田七刀斎どのにひとつ頼みがあって参った」

「頼み?」

 

チラッと横目で美空を見る。

 

「いーんじゃなーい?ここにいてもやること無いし」

「ありがたい。頼みと言うのは、我ら織田の武将と新田どのとで仕合をしてほしいのです」

「ええっ!織田の武将と・・・俺が!?」

「ふぅん、面白いじゃない」

 

 

急な頼みだったが、これには訳がある。

 

交渉の場の後、「あの七刀斎とかいうのスゴイ恰好だったねー」から始まり、「ふ、ふん!ボクの方が強いしー!」という言葉を皮切りに「おー和奏ちん手合せするの?頑張ってねー」

 

と煽られ、「貴様らもやってみろ三若ぁ!」と一喝され、「ええーじゃあ壬月さまもやってくださいよー」と返され、「ふむ、そうだな・・・せっかくだからやってみるか」と真面目に

 

受け止められ、「麦穂もやるか!」と巻き込まれ、あれよあれよと剣丞と戦う人数は5人となっていたのだ。

 

ちなみに、その場にいた織田の剣丞は飛び火を回避するために早々に謁見の間から出ていた。

 

 

という顛末を話すわけにもいかない壬月は、挑戦者代表として何も言わずにこうしてただ頭を下げに来ていたのだ。

 

「受けなさいよ剣丞。宴の前のいい余興だわ」

「余興かよ・・・まぁ最近思い切り体を動かしてなかったから別にいいけど」

「本当ですか!ではすぐに場所を用意しますので、今しばらくお待ちください」

 

壬月もダメ元で言っていたのか、予想外だという感じで喜び急いで去っていった。

 

「七刀斎さん怖いもの知らずですねー、あの鬼柴田の挑戦を受けるとは」

「え、そんなヤバイ人だったんですか!?」

「ええ、織田はあの掛かれ柴谷に米五郎左・・・あっ、五郎左っていうのは麦穂さんのことですね。あと売り出し中の三若に最狂と名高い森一家と中々の武闘派揃いですよ」

 

秋子の言葉はまるで死刑宣告だった。

 

「おいおいマジかよ!そんな連中と戦ったら間違いなく死ぬぞ俺!」

「だから面白い余興だって言ったのよ」

「余興じゃねぇよ!下手したら死ぬぞ俺!」

「まぁそこは仕合ですし・・・織田家の皆さんも手加減してくれると思いますよ」

 

数分後、場所の準備が出来たとのことで3人は客間にしばしの別れを告げた。

 

 

 

 訓練所

 

普段兵士達が走ったり素振りをしたりしているであろう場所には、半径10mほどの土俵のような円が縄で作られ、周りには陣幕が貼られている。

篝火も焚かれ、まさに余興という様相だ。

 

戦う場所のすぐそばには簡易な折りたたみ椅子である床几(しょうぎ)が将の人数分置かれている。

美空達3人が来た頃には既に久遠をはじめとした織田の将が集まっていた。

勿論、久遠の隣にはあのフランチェスカ学園の制服を着たあんちくしょうが座っている。

 

「来たか、お主達はこっちだ」

 

久遠は手招きで美空と秋子を自分の隣の席へと誘導した。

 

「あれ、俺の席は?」

「新田七刀斎は仕合に出るのだろう?お主はあっちだ」

 

指がさされた方向を見てみると、先程謁見の間で見覚えのある面々がアップをしていた。

 

「どうやら織田の三若に丹羽どのと柴田どのだけのようですね」

「森とかいうのが居ないのが幸いだが・・・あとそれは『だけ』とか言わないような気がします」

 

秋子の耳打ちで相手はわかったが、出てくるのはため息だけだった。

 

「いいじゃない、あいつら全員ブチのめして武の長尾ってやつを見せてやりなさい」

「ほう、そこまで腕に覚えがあるのか・・・だが、我の将も負けんぞ」

 

君主の2人が闘争心をあらわにする。

だが戦う当事者である剣丞にとってはかなりのプレッシャーになっていた。

 

「くじ引きで決めた結果、お主との対戦順番はこのようになったぞ」

「なになに?・・・げっ」

 

久遠が指さした先には、どデカい紙に書かれた対戦表だった。

 

 

 

 第一試合

 

「えっと・・・よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」

 

剣丞の最初の相手。それは先程客間まで案内をしてくれた麦穂だった。

 

「なんか意外ですね、刀を振る人に思えないですが」

「ふふっ、よく言われます。では、いきますよ」

 

お互い獲物を抜き構える。

剣丞は様子見の為の刀を1本。

麦穂も愛刀と思われる刀を1本。

 

準備完了と判断した久遠は、開始の音頭を取るべく前に出た。

 

「各々準備はいいようだな・・・はじめ!」

 

 

声が響き、戦いの緊張感が高まる。

だが2人は始まったというのにも関わらず1歩も動いていなかった。

 

(さて、どうするか・・・)

 

向こうも打ち込んでくる様子は無い。

美空も見ている手前無様な負け方をしたら私刑が厳しいだろう。などと思っていると、麦穂の方から声がかかった。

 

「先に打ち込んで来ていいですよ」

「む、じゃあ行きますよ!」

 

譲られた先手を取る剣丞。

これが終わってもまだ4連戦のため、体力は残しておきたい。

一瞬で勝負を決めようと剣丞は強く踏み込み、かなりのスピードで麦穂に接近した。

 

「速い!」

 

外野である織田の剣丞からその言葉を貰うということは、自分は相当速いのだろう。

その勢いのまま、剣丞は一気に左斬り上げに刀を振った。

 

(捉えたッ!)

 

寸止めのために一瞬だけ速度を遅くする。

だがそれでも十分に速度のあった一撃は、あっけなく空を斬った。

 

「なっ、え!?」

「次はこちらからいきますよ」

 

間違いなく捉えたはずの攻撃を躱され、動揺する剣丞。

その隙を突いて麦穂は連続で剣丞に攻撃を加えた。

 

「クッ、正確な攻撃だ・・・だがこれなら予想できるッ!」

 

反撃の機を狙い、麦穂の腕目掛けて突きを繰り出す。

だがそれすらも麦穂は避けられる。

 

「まだまだ!」

 

麦穂の猛攻から一転、今度は剣丞が続けざまに攻撃を繰り出す番だった。

袈裟、突き、斬り上げ。フェイントや速攻を織り交ぜても、麦穂はそれをすべて避けて見せていた。

 

(なんだ!?動きが読まれてる・・・?)

 

剣丞の人並み外れた動体視力が避ける瞬間の麦穂の動きを捉える。

注視すると、あることに気付きはじめた。

 

(攻撃が行く前に避けられてる?)

 

どんな仕組みかはわからないが、麦穂はどうやら剣丞の動きを読んでいるようだった。

 

(このままじゃラチがあかない・・・どうする!)

『おい、体半分貸せ』

 

思考が停滞しかけた時、剣丞の脳内に流れ込んできたのは七刀斎の声だった。

 

(はぁ?)

『お前はこのまま踏み込みまくれ!両腕は俺に任せりゃいい』

 

その瞬間、剣丞は腕が自分の物でなくなるのを感じた。

 

「うおっ勝手に動く!」

『タイミングは俺の方で合わせてやる。とにかく近づけ!』

 

言われるがままに近づく。

すると、先程まで涼しい顔をしていた麦穂の顔に、驚きの色が見え隠れした。

 

麦穂のお家流によって読んでいた動きは、今まったく読めなくなっていた。

 

剣丞が縦に振ると考えれば、麦穂には剣丞の先の動きが縦に見える。

だが、七刀斎はそこで横に振るため、読んだ動きとまったく違う動きが出るのだ。

 

「くっ、中々やりますね・・・!」

 

麦穂の目に攻撃的な炎が灯る。おそらくは動きが読めないことで自分の真剣な腕前での勝負だと思ったのだろう。

 

『ビビんなよ、あいつより速く踏み込め!』

「おうっ!」

 

姿勢を低くして突っ込む。

 

「なら、これでどうですかッ!」

 

すると麦穂は今までにない速度で刀を横に薙いだ。

 

(ッ!)

 

通常なら反応できないであろう高速斬撃。

しかし剣丞にとって、どの攻撃も見えてしまえば避けるのは楽だった。

 

「避けた!?」

 

麦穂も予想外だったのだろう。

剣丞はその攻撃を見た後で、更に姿勢を低くして避けたのだから。

 

振り切った隙を見逃さず、瞬時に刀を振る。

麦穂が体勢を立て直そうとする時には、既に剣丞の刀の峰が彼女の腹部に触れていた。

 

「寸止めですか・・・参りました」

 

 

その言葉が発せられたとき、周りからあがったのは勝者への歓声ではなく、どよめきだった。

 

「麦穂さまが負けた!?」

「ええー、じゃあもう勝ち目無いじゃん!」

「いつぞやとは違い、今回は正々堂々やっての負けだな、剣丞よ」

「っちょ、俺見んなよ!」

 

動揺する織田家にひきかえ、美空は得意げな顔をしていた。

 

「ほえー!七刀斎さん勝っちゃいましたね!」

「ふん!当然よ」

「あ、でも御大将途中不安そうな顔してましたよ?」

「ちょっ、ううるさいわね!細かいことを気にしてると行き遅れるわよ!」

 

崩れ落ちる秋子。

そんな観客を尻目に、麦穂は退場し剣丞は残った。

 

 

 

 ここからはあまりにもあっけなかったのでダイジェストでお送りしよう。

 

 

 第2試合

 

剣丞の前に立ちふさがったのは槍を構えた少女だった。

 

「織田家の槍捌きにその人ありと云われし前田又左衛門犬子利家!いざ参るーだわん!」

 

秋子いわく、織田家内では槍の又左と言われる程の槍の使い手らしい前田利家こと犬子。

口上に違わないその槍の腕前は確かに誰もが頷くものだった。

 

だが、

 

「民安★ROCK、5thアルバム『HOME』!!」

「好評発売中だわーーーーーーーーーーーーん!!!」

 

まだ若さ故か、安定しない戦い方は剣丞に隙を見せる形となり、早々に倒されてしまっていた。

 

 

 第3試合

 

運が良いのか、相手が良いのか思いのほか順調に勝ちを進めている剣丞。

次の相手はホワホワとして、どこか猫のような雰囲気を漂わせる少女だった。

 

「君も三若ってやつか」

「そうだよー、滝川雛一益。よろしくねー仮面のお兄さん」

 

先の犬子といい、三若はその名の通り相当若い3人のことを言っているらしい。

先程チラッと見えた赤毛の少女もまた三若であろうと予測できた。

 

「犬子がああもあっさりやられちゃったくらいだから、雛も気を付けないとねー。甲賀の里出身として」

「甲賀?じゃあやっぱ忍者なのか?」

「そうだよー、水のように優しく、花のように劇しいんだよー」

 

言い終わるや否や、雛は剣丞の目の前から姿を消した。

 

「消えた!?」

 

次の瞬間、やってきたのは背中への殺気だ。

剣丞は振り向かず、前へ跳ぶことでその攻撃を回避した。

 

「あららー避けちゃうか」

「今の・・・氣か?」

 

無意識に目で捉えていた雛の動きだったが、動きは見えないまでもその軌跡だけは見えていた。

 

「ありゃりゃ、一発で見抜かれちゃった。剣丞君と同じだね~」

(まぁ、そりゃぁな・・・)

「じゃあ次はもっと速く行くよ~」

 

再び雛の姿が消える。

だが今度は、誰もが見失っていた雛の姿を剣丞はしっかりと追っていた。

 

(裏をかいて正面からか、相手の武器は脇差・・・ならッ!)

 

同じ脇差で相手をするまで、と判断した剣丞は、目の前に峰打ちを繰り出した。

 

 

次の瞬間、その場には繰り出したままの姿勢の剣丞と、 その目の前に倒れ込む雛の姿があった。

 

「蜜のように零れて、徒のように・・・散りゆ、く・・・ガクッ」

「ふぅ・・・勝った」

 

3試合目もとんとん拍子で駒を進めた剣丞は、疲労の色は無いという感じであった。

 

「やったじゃないですか七刀斎さん!織田家売り出し中の三若を2人も倒すなんて!」

「そうね」

 

興奮のボルテージをあげる秋子とは裏腹に、美空はやれやれといったようにため息をついていた。

 

 

「まったく・・・まともな仕合をしたのは麦穂だけか」

「剣丞さんと戦った時は皆もうちょっと長引いてたんですけどね」

 

仕合を終えた麦穂は久遠の脇で残りを観戦していた。

 

「まぁ次はずる賢い剣丞でも勝てなかった、あの壬月だからな。長尾の新田に一泡吹かせられるかもしれぬ」

「ずる賢いって・・・三若には普通に勝ったじゃんかよー」

 

なら麦穂の時は?と聞かれると織田の剣丞は、吹けていない口笛を吹いてそっぽを向いていた。

 

 

 

 第4試合

 

「ま、マジかー・・・」

「よろしくな、さっきは頼みごとを聞いてもらう故礼を尽くしたが、今は遠慮なくいかせてもらうぞ」

 

巨大な斧を持った壬月の瞳がが剣丞を射抜く。

 

その圧倒的な気迫と隙のない立ち居振る舞いに、剣丞は今度こそ「俺死んだ」と心の中で呟くしかなかった。

 

 

 


 
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