No.692574

提督は鋭利な矛である

KaedeMBFP02さん

支部の方にも放り投げた駄文です。ただ、少し文が違うかもしれません

2014-06-08 18:43:40 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:1211   閲覧ユーザー数:1188

彼は陽電子の渦の前にいた。その後ろで大天使たる彼女が泣いているのが分かる。なにしろ彼の右腕と左足はすでになく、満身創痍のなか、目の前の敵艦(確か彼女とは姉妹であったか)の陽電子砲を受けていたからだ。

一瞬で融けてしまうかと思ったが、なんとか受け止めることが出来た。これは彼の中のもう一つの意志のおかげだろうか。さすが「不可能を可能にする男」だ。しかし、長くは持たないだろう。だからその前に、一言伝えたいことがあった。彼女にそれを言おうとしたとき、シールドが完全に溶解された。彼は陽電子の渦にさらされ、真っ白な景色の中、意識も真っ白になっていった。

彼は満足していた。彼女が守れたのだから。そして後悔していた。もっと早く言えば良かったと。

ありがとう、の一言を。

 

 

・・・とく

 

呼ぶ声がする。

 

・・・ていとく

 

ていとく。私の事だろうか?

 

提督、起きてください。

 

ペシンと頭をはたかれた気がして、「彼女」の意識は覚醒した。

「ん・・・?あれ・・・?ここは?」と、「彼女」は一人ごちた。知っているはずなのに、どうも知らない場所のような気がする。

頭には鈍い痛みがあった。どうやらはたかれたのは本当のようだ。頭をさすっていると、

「提督ったら、榛名が起こさなかったらずっと寝てましたよ」と、声がする。

声のした方、自分の右を見てみると、一人の少女がいた。少々ムクれた表情をしているが、美少女の部類に入るだろう。自分の事を『ハルナ』と呼んでいたから、それが名前なのだろうか。

「ハルナ?ここはどこかしら?」と「彼女」は今浮かんだ疑問をそのまま口に出した。

「え?提督はお忘れになったのですか?寝ぼけちゃって」とハルナに変な顔をされた。知らないからしょうがないでしょ?と言うと、ホントに忘れちゃったんですか?しょうがないですね、と言いながらハルナと名乗る少女は教えてくれた。

それによると、ここは「クレチンジュフ」というところで、自分は艦娘(昔の戦艦がヒトガタになったものだそうだ)を多数率いる提督、つまりここの責任者だというのだ。

「もう1ヶ月以上経つのにお忘れになるなんて・・・」とハルナはあきれ顔になっている。そう言われてみればそういう記憶がある。最初は駆逐艦「五月雨」一人だけだったが、色々な出会いを重ね、大所帯になった。そして、今はこの目の前の少女、「榛名」を秘書艦にしているのだった。しかし、自分がどうしてここにいるのか、提督になる前の記憶はなかった。いや、あの夢がもしかしたら・・・

ふと物思いに耽る「彼女」に、「本当に大丈夫ですか?お疲れでしたらあとは榛名に任せてお休みください」と榛名が言う。

「大丈夫よ。ありがとう。休むのはもう少し書類を片付けてからにするわ」と「彼女」は答えて、机上の書類に取り掛かり始めた。

「榛名も手伝います」と榛名も近くの机で書類の処理を始めた。

そう、これがいつ通りの光景。

しかし今の「彼女」にはどうも「ズレ」を感じてしまうのだ。さっきの夢のせいだろうか。あの夢は妙に生々しかった。見たことがない光景のはずなのに、まるで実際経験したような・・・

「提督、手が止まってらっしゃいますよ」と、榛名が指摘する。夢の事を考えていて業務が疎かになったようだ。あわてて作業を再開する。

「本当に大丈夫ですか?やはりお休みになったほうが良いのではないでしょうか?」と榛名が心配そうな顔で見る。体調は問題ないが、確かにこのままでは作業に集中できそうにない。

「そうね。じゃ、お言葉に甘えて休もうかな」と「彼女」は席を立った。立った瞬間に古ぼけた戦闘機らしきものが目に入った。空母達の艦載機だろうか。いや、一抱えもある大きさからしてそれはまずあり得ない。

「これなに?」と榛名に問うと、

「その艦載機もどきですか?榛名も良く知らないんです。五月雨さんがいたころからずっとあるって聞きましたけど」と、答えが返ってきた。そういえば、自分がここにきてからずっとあったものだ。いつもは大して気に留めなかったが、あの夢のせいだろうか、ひどく気になってしまう。よく見ると、白に青と黄色がところどころあってあまり兵器には似つかわしくない。さらにじっと見つめていると、

――久し振りだな

「え?」「彼女」は思わず声に出した。目の前の戦闘機が話しかけた気がしたからだ。

「提督?」榛名がいつの間にか近くに来ていた。

「今、この戦闘機しゃべってなかった?」と「彼女」が聞くと、

「そんなまさか。燃料もないのに・・・それに、榛名たちみたいな艦娘じゃないんだからしゃべりませんよ」と榛名が答えた。

気のせいだろうか?もう一度戦闘機を見たが何も起こらない。

「やっぱり今日はお疲れみたいですね」と榛名は苦笑した。

これは早く休んだ方がいい。そう判断すると、あとはお願い、と榛名に言い残し、執務室を出た。

休む前にドックの様子を見ておこうかな。そう思いつくと、早速ドックに足を運んだ。確か、空母『蒼龍』と戦艦『金剛』が大怪我をして入渠しているはずだ。

ドックに入ると案の定2人がいた。

「あ、提督、お疲れ様です!」と蒼龍ははきはきした声で言い、

「テートクゥ~私に会いにきてくれたのですネ!」と金剛ははしゃぐ。

この鎮守府では、ドックと言っても風呂場に近い。艦娘が使うからには当然と言えば当然なのだが、軍艦が使う、という言い方にはそぐわない造りだ。もちろん装備は専用のドックが存在し、そこで修理を行う。

「彼女」は整備班長にあとどのくらいで直るか聞いてみた。赤髪をポニーテールにした整備班長の少女曰く、蒼龍はあと3時間、金剛はあと1時間半らしい。

「じゃ、今日はこれから何もないし、ゆっくり休んどきなさい。明日からはしっかり働いてもらうからね」と「彼女」は蒼龍と金剛に告げる。

「明日は私を旗艦にしてくださいネー!」と金剛は熱烈なラブコールを送る。よく見ると投げキッスまでしている。好いてくれるのは嬉しいが、「彼女」は女性である。女性同士でカップルになる趣味は「彼女」にはなかった。「彼女」は苦笑した。

「はい!明日からまたよろしくお願いします!」と蒼龍はやはりはきはきと答えた。彼女との付き合いはそれなりに長く、一時期秘書艦をやらせていたこともあったためか、空母の中では一番気安く話せる。「彼女」も笑みがこぼれる。

「じゃ、おやすみ」と「彼女」は言うとドックを出ようとして、足が止まる。「彼女」の左側に謎の扉を発見したためだ。今までこんな扉あっただろうか?とドアノブに手を伸ばそうとすると、

「あぁ~!だめだめそこは!」と整備班長があわてて制止にかかった。なぜ?と聞くと、

「あ、えっと・・・僕のプライベートルームだから!」と、整備班長は答えるが、その目は妙に泳いでいる。

嘘だな。と「彼女」は看破したが、整備班長は必死になって隠そうとしている。あまり深く突っ込まない方が良いと判断した彼女は、「分かったわ。入ったりしないから」と降参の意思を示す。整備班長も納得したらしく、「うん、おやすみ。またね」と笑顔で送り出してくれた。

「彼女」は寝室の扉の前に来た。ネームプレートには「ヤマト提督」と書いてあった。それが自分の名前。提督着任後、名前を書けと言われてとっさに書いたのがこの名前だった。なぜ、この名前にしたか、今でも分からない。どこか覚えがあるのだが・・・

榛名に心配されたこともあって、「彼女」ことヤマトはすぐに就寝することにした。軍服を脱ぎ、寝間着に着換える。そして、髪を梳るために鏡台の前に座った。

目の前にいる自分は女性だ。髪はセミロングに伸びていて、左側の一部を括っている。胸もそこそこあるし、どこからどう見ても普通の女性だ。若干顔が幼い気もするが。

しかし、今日は女性であることにどこか「ずれ」を感じる。この違和感はなんだろうか。

しかし、考えても仕方ない。寝れば違和感が消えるかもしれない、と結論付け、ヤマトはベッドに入った。

 

その日見た夢はまたひどくリアルな夢だった。

 

 

彼は戦っていた。あの赤い奴が憎かった。現在腹に収めている少年の友人があの赤い奴によって殺されたからだ。しかし、彼もまた、赤い奴の胸に収まっている少年の友人を殺したのだった。憎しみが憎しみを呼び、止まることを知らない。もはや戦争などではなく、獣の殺し合いになり変わった。

衝動のままに、彼はライフルからビームを乱射する。赤い奴は軽々と避けて接近し、サーベルで襲いかかろうとしてくる。彼は咄嗟にライフルを捨てると背中のサーベルを抜き、ビーム刃を出力させた。サーベルの刃が干渉しあい、スパークを産む。散ったスパークで装甲が焼けているのだが、彼には関係ない。憎しみが痛みを凌駕していた。

数瞬の鍔迫り合いの後、互いに離れ、また激突する。赤い奴の頭を斬りとばした。赤い奴は足のサーベルも使って予測しづらい攻撃を繰り出してきた。なんとか攻撃を読み、かわしていたが、ふとした瞬間に左腕を斬り飛ばされてしまった。彼が動揺した隙を突いて巨大なクローに変形した奴は彼をがっちりと咥えこんだ。

彼は戦慄した。ちょうど腹、少年を収めているところにビーム砲「スキュラ」の砲口があったからだ。赤い奴が今にもその魔砲を放とうとした瞬間、全身の装甲が赤からグレーに変わった。フェイスシフトダウン。バッテリー切れだ。魔砲は撃たれない。彼はその幸運を使うべく、体に力を込め、戒めを解こうとした。しかし。

赤い奴からパイロットが出てきた。いやな予感がする。

――道連れだ。

赤い奴が哂った気がした。赤い奴から閃光が漏れ出した。やはり自爆か。閃光はやがて大きくなり、奴と彼を包んでいった。

 

 

「テートク!テートクゥ!起きてクダサーイ!」ひどく揺さ振られてヤマトの意識は覚醒した。さっき見た夢のせいだろうか、ひどく気分が重い。

「テートクぅ、大ジョブデスカー?」と揺さぶった少女、戦艦『金剛』が顔を覗き込んできた。

「ちょっとやな夢見たからかな、体が重いわ」とヤマトは答えた。

「Oh・・・それは大変デース。今日はここでゆっくり休んでてクダサーイ。後はこの金剛におまかせー!」と金剛はこぶしで胸をドンと叩く。そんな金剛の気づかいが嬉しくて、

「じゃ、今日は金剛に任せようかな。第1艦隊の旗艦、つまり秘書艦をお願いね」とヤマトは金剛に告げた。

「Yahooooo!久し振りの旗艦デース!んもういっぱい頑張っちゃうからネ!Thank you!」金剛はものすごく喜んでキスまでしてくれた。

「おはようございます提督」と榛名もこちらにあいさつに来た。

「Oh、榛名Good morning!今日はテートク、体のチョーシ悪いからお休みネ。今日は私が秘書艦デース!」と胸を張ってドヤ顔する金剛。

「金剛姉さまなら大丈夫ですね。私たち姉妹の中で一番提督の事を御存じですから」と榛名も納得しているようだ。しかしながら、金剛はかなり浮かれているようなので、

「久し振りなんだからこそ気を引き締めて掛かりなさいね」とヤマトは釘を刺しておく。

「大ジョブ大ジョーブ!それこそタイタニックに乗った気分でいてクダサーイ!」と金剛は自信満々に言うが、

「お姉さま、タイタニックって確か大事故起こして沈みませんでした?」と榛名の的確な突っ込みに「おふ!」と轟沈する金剛。そんなやり取りを見ていたヤマトの脳裏にある光景が浮かんできた。自分の足元で少年少女がはしゃぐ姿だ。どうしてこの光景が浮かんだのか分からない。見たことない光景のはずなのにひどく懐かしい気持ちになった。温かい気持ちに浸っていると、

「テートク、どうしたデスカ?テートクも私とハグしたいデスカー?」と言う金剛の声がヤマトを現実に引き戻す。

「ん?ちょっとね」とヤマトは曖昧な返事をする。どうもあの夢を見てから自分の中で何かが変わっていく気がする。理由はないがそういう確信だけはあった。

金剛には強敵が潜んでいる通称「第4の海域」を攻略するため、指揮をとってもらうことにした。出撃メンバーは以下の通りだ。

旗艦 :金剛

2番艦:榛名

3番艦:赤城

4番艦:蒼龍

5番艦:比叡

6番艦:霧島

この時のために訓練を重ねており、全員大規模な改修を行なった。制圧出来ないにしても、今後の戦略に必要な情報を無事持ち帰れるだろうという自信はヤマトにはある。もちろん、出撃メンバーの艦娘たちもだ。

「だけども、無理はしないで。誰か一人怪我したらすぐに撤退すること。それだけは忘れないでね」とヤマトは言い含める。

「No problemネ!みんなモサモサしてるからバッチグーネ!」と金剛は胸を張る。

「姉さま、それ言うなら『猛者』ですよ?」と榛名がすかさず訂正する。

「Oh、そうとも言いマース!」と金剛は絶対わかってなさそうな返答をよこす。これにはヤマトも榛名も苦笑するしかなかった。

「じゃ、金剛、あとは任せたわ」と託すと、「OK!張りきって行きますヨォ~!」ドタドタと部屋から出る金剛。やはりちょっと心配になって、ヤマトは、

「榛名、金剛のサポートお願いね。戦闘は臆病なくらいがちょうどいいけど、今の調子で行ったら金剛は突っ込んじゃうだろうから」と榛名にお願いをする。

「分かりました。榛名、見事姉さまのサポートをしてみせます!」と榛名は頼もしい返事をしてくれた。と、ここでヤマトは思いだす。

「榛名、そう言えば書類ってまだ残ってる?」そう、処理すべき書類がまだ大量に残っているはずだ。すると、

「大丈夫です、昨日、提督が退室なさってから那智さんが手伝ってくれました」と、これまたいい返事を榛名はしてくれた。

「ほんと!?そりゃ何より。でも、今日も書類が出てくるかもしれないから、その時は那智にお願いしてもらえる?」

「はい、では、那智さんに伝えますね。さ、提督、今日はお加減が悪いのですから、あとは榛名たちに任せてしばらくお休みください。今マルロクマルマル(6時)ですし」と、榛名が言うので、

「分かったわ。もうしばらく横になるわ」とヤマトはベッドに入る。

「では、榛名も出撃の準備を致しますので、失礼いたします」ぺこんと頭を下げて榛名は退室した。

ヤマトは言われたとおり、少しの間はベッドで横になっていたが、さっきの夢がちらついて寝れそうにない。

「仕方ない・・・ご飯食べに行くか・・・」と、重い頭を抱えて食堂へ向かいことになった。

「あら、提督。おはようございます。お体は大丈夫なんですか?」と食堂に入るなり空母『赤城』に聞かれた。

「まだ気分は良くないけど、眠れないし、いつかは食べなきゃいけないからね」とヤマトはカウンターからお盆を受け取ると席に着く。ふと、向かいの赤城を見た。相変わらずの大食漢、いや大食艦だ。

「それにしても、いつもながら良く食べるわね・・・」ヤマトがある種の感嘆をしていると、

「空母は艦載機たちの操作に非常にエネルギーを必要とするのです」と赤城は答えた。

「え、弓矢引いたら終わりじゃないの?」とヤマトは興味をそそられる。

「当たり前です。撃った後も艦載機たちから送られてくる情報を処理するのに大変なんですから。だから出撃後は疲れてしまいますし、出撃前に食べておかないと持たないんです」と、箸の動きを止めることなく赤城は言う。

「なるほどね」と返事をしてふと周りを見ると、空母『加賀』がいた。「おはよう加賀」とヤマトは声をかける。加賀は、

「おはようございます、提督」といつもの冷静な声で返答する。彼女は今所属している空母達の中では新参者であり、感情が読めないので、みんなと仲良くなれるか、ヤマトはいつも気に掛けている。

「どう?こっちに来てから少し経つけど、ここは慣れた?」とヤマトは聴いてみた。すると、

「ええ。ここには赤城さんもいますし、また一航戦で戦えるかと思うと喜びもひとしおです」と答えた。無表情のように見えるが、ほんのり顔が上気している。「加賀さん、相部屋の私には隙だらけなんですよ」と赤城が話に入ってきた。「赤城さん、その話は止めてください」と加賀が制止に入るが、

「この前も演習が終わって部屋に戻ろうとしたら、戸口に弓が引っ掛かってですね、当たった拍子にのけぞって転んじゃったんですよ」と赤城は楽しそうに話す。加賀の顔は羞恥のためどんどん赤くなる。

「そっか~。よかった~」と思わずヤマトは口に出すと、

「何がいいのですか!?」と加賀がいつもの冷静さをかなぐり捨てて反応する。

「あはは、気に障ったならごめんね。だけどね、赤城だけとはいえそういう面を見せてくれるようになったのは私としては嬉しいのよ」とヤマトは優しい目で言う。

「嬉しい・・・?」予想外の言葉だったのか、加賀が反応に困っている。

「そうよ。出来れば私にも見せて欲しいんだけどねぇ」とヤマトが言葉重ねると、

「そういうわけにはいきません・・・気の緩みは敗北につながりますから」と加賀が言うと、

「気の緩み・・・そうよね、慢心は駄目よね・・・うん、駄目よね・・・」赤城のテンションが下がってしまった。「気の緩み」が彼女のトラウマスイッチを押してしまったようだ。何故トラウマかと言うと、彼女は「前世」において油断して轟沈してしまったかららしい。

「あ・・・違いますよ、赤城さんは緩めていいのです。私はまだ新参者ですから、きちんとしなきゃってことで、だから・・・」気付いた加賀はあたふたと言葉を尽くして赤城をフォローしようとする。あわてた彼女を見るのは初めてだったので、ヤマトは思わずクスリと笑ってしまった。

「何を笑っているんですか!?提督も早くなんとかしてください。でないと士気に関わりますよ!あの海域に出るんでしょ!?」と加賀が今にも噛みつかんとする目で睨んでくる。赤城が今日の出撃メンバーだったことを思い出したヤマトは

「赤城、大丈夫よ。慢心しちゃだめって知った今なら同じ失敗はしないと思うわ」と励ました。

「そうでしょうか?」赤城はまだスイッチがOFFにならないようだ。

「そうよ。それに、何かあってもみんな怒ったりしないわ。赤城が頑張ってるのはみんな知ってるんだから。もちろん、私もね」と言葉を重ねる。

「提督・・・はい!慢心せずに頑張ります!」ようやく赤城が立ち直ったようだ。一安心したヤマトは加賀に後を任せると、食事を続ける。ただでさえ気分がすぐれないのに、気を使ったためだろうか、ひどく疲れてしまった。箸の動きが鈍い。

「あらぁ、提督大丈夫ぅ?」と重巡『愛宕』が声をかける。

「アー・・・ちょっちだめかもぉ・・・食べなきゃいけないけど・・・」とヤマトが答えると、

「そうねぇ、無理しても駄目だしどうしようかしらねぇ」と愛宕もマイペースに心配してくれる。どこかゆったりとした雰囲気がある彼女だが、しっかり者なのである。

「あうぅ・・・」ヤマトはすでに限界のようだ。

「あらあらぁ、提督本当に駄目みたいねぇ。お部屋に戻ったほうがいいわよぉ?よかったら私が運んであげるからぁ」と愛宕が心配してくれる。

「うん・・・お願い・・・」ヤマトは好意に甘えることにした。

「よいしょっと・・・うふふ、提督意外と重~い」とヤマトを背負った愛宕が軽口をたたくと、

「そう・・・」いつもなら言い返すところが疲れていて言い返せない。

「あらぁ・・・早く運ばなくっちゃねぇ」と愛宕は普段のおっとりした動きから信じられない早さで寝室のベッドまで運んでくれた。

「早・・・」とヤマトがびっくりしている間もなくベッドに横たわる。

「さぁさぁ、ちゃんと寝て元気になってくださいねぇ」と愛宕が声を掛ける。

「うん・・・」とヤマトはそのまま眠ってしまった。

「うふふ、おやすみなさい」とケットを掛けてから愛宕は部屋を出た。

 

 

彼にとって砂漠も夜も初めてだった。彼は宇宙生まれだったからだ。砂漠に足を盗られ、思うように動けない。しかし、そんなことは敵は知ったことではない。4本足の奴らがこちらに迫ってくる。PS装甲があるため、致命傷には至らないが、早くなんとかしないとバッテリーが切れてしまう。彼も彼の腹にいる少年も焦っていた。ランチャーは駄目だったか。必殺の業火も当たらねば意味がない。焦りが極限にまで達した時、何かがはじけた気がした。

腹にいる少年が行動を開始した。

砂漠に合うように彼のセッティングを一瞬で完了させ、向かってくる4本足にとび蹴りを食らわせたのだ。彼は以前にも覚えがあった。動きが滑らかになったこの感覚。腹にいる少年には迷いがなく、目の前の敵をただ討つ感覚。彼は頼もしいと思う反面、恐れを抱いていたのだ。優しい少年が戦いに呑まれてゆくことに。

 

 

・・とく!

 

誰か呼んでいる。

 

・・・提督!

 

誰・・・?

 

「提督起きてください!」

「え・・・?」ヤマトは目覚めた。空母『飛龍』の慌てた顔が目に入る。

「どうしたの・・・?演習でドジったの?」最近飛龍を演習で鍛えており、そこでのミスかと思った。しかし、

「金剛さんたちがピンチなんです!」飛龍がよこしたのは悪い知らせだった。

「なんですって!?」ヤマトは体調の事も忘れて執務室に走る。

『ガガガ・・・テートク~』通信機から金剛の声がする。いつもの元気がない。

「どうしたの!?何があったのよ!」と問うヤマトに、

『ちょっと油断しちゃったデース・・・』と答える金剛に重ねて、

『提督、帰還中に敵の大群を発見しまして、金剛姉さまが突っ込んで行ったのです・・・』と戦艦『霧島』が答える。

『申し訳ございません、蒼龍さんが中破したので退却してたのですが、手ぶらじゃ帰れないと姉さまが・・・』榛名が申し訳なさそうに言う。

背後から『ひえ~』と戦艦『比叡』の叫び声も聞こえる。

「まったく・・・金剛、帰ってきたらお仕置きよ!」とヤマトは通信機に向かって叫ぶ。

『What!?』帰れるかどうかという状況で言われたのでさすがの金剛も理解できていない。

「だから、絶対帰ってきなさい・・・」とヤマトは命令(願い)を言った。

『・・・All right!』と金剛は答えて、通信を切った。

こういう時、提督である自分が呪わしい。人間である自分には艦娘のような力はない。

「私に力があればなぁ・・・」と無力な自分を責めるヤマト。その時、

――君には力があるんだろ?なら、出来ることをやれよ

と、聞いたことがない声が頭に響いた。しかし、自分に何が出来ると言うのだろうか?

何も無い、ただ、祈ることしか。そう結論付けた時、

「金剛ちゃん達がピンチだって!?」と整備班長が執務室に駆け込んできた。

「ええ、でも、私には・・・」とヤマトは力なく答える。が、

「いや、君なら出来る」と整備班長は告げる。「え?」ヤマトはその言葉を理解するのに時間が掛かった。

「君にはあの子たちを助ける力がある。君にその気があるなら僕に付いて来て」と整備班長は告げて、歩き出した。その言葉にすがるようにしてヤマトは付いて行った。

着いたのは、昨日整備班長に入るのを止められたあの部屋だった。

「ここって・・・」ヤマトが躊躇っていると、

「今は大丈夫さ。さ、入って」と整備班長が入室を勧める。

入ってみるとそこには、艦娘たちが使うような武装・武器が置いてあった。

「これはね。君のものなんだよ、”ストライク”」と、整備班長がヤマトに告げる。

「”ストライク”?私が?私はそんな名前じゃ・・・」

「いや、それが君の名前なんだ。君は、人間じゃないんだ」と整備班長は衝撃的なことをヤマトに告げた。

「私は人間じゃない!?じゃ、私は何!?」今だに信じられない。

「君はあの子たちと同じ存在さ。この世界に流れ着いたモビルスーツの魂。それが君の正体さ。もっとも、前の記憶を失ってるとは思ってなかったけど」

「うそ・・・」

「うそでもなんでも、今の君が昔の事を思い出そうが出すまいが関係ない。君はあの子たちを守りたいんでしょ?そして君はここに来た。なら、そう言うことさ」と整備班長はここで言葉を切り、ヤマトの言葉を待つ。ヤマトの答えはただ一つだ。

「やるわ。まだよく分からないけど、私にやれるというのなら、あの子たちを守れるというのなら、やるわ」

「わかった。じゃ、最終フィッティングを始めるから今すぐこれつけちゃって」と整備班長は置いてある武装をヤマトに渡した。ヤマトが身に付けた後、調整をしながら整備班長が説明してくれた。

「いいかい、君がつけてるアーマーにはPS装甲が付いてるんだ。ヘッドセットの右耳の部分を押すと色がつくはずだよ」「実弾は無傷で無効化してくれる。だけど、大砲76発食らうと駄目だからね。エネルギー消費と引き換えだから動けなくなるよ」「あと背中にはエールストライカーをつけておくね。飛行能力も僕がいじってアップさせてあるから飛べるはずだよ。ついでに追加パックも付けておくからね」

「エール・・・?」と彼女が理解しようとする間に背中にガチャンと重さを感じる。ブースターのようだ。これがエールストライカーらしい。

「戦い方は・・・体が覚えてるはずだよ。だけど、君がいつもあの子たちに言ってるように、無茶はしないようにね」と整備班長は忠告した。

「分かったわ」とヤマトは返答した。

ヤマトが銃と盾をつけている間に整備班長は重ねて言う。

「あとから援軍も送るから」

「援軍?」

「ま、楽しみにしててよ。さ、ここから出てね」と、整備班長はいつ間にかこしらえたカタパルトへ案内する。

どうしてだろう、私は知っている。夢ではなく、私の中で確実に覚えている。幾度も幾度もこの光景を見た。長いトンネルのようなところから躍り出る感覚を。私はなぜ覚えているんだろう?

そんなことを考えている間に体は勝手にカタパルトのペダルに足をセットしていた。

次の瞬間には出口まで案内灯が点き、彼女を促す。

「武運を祈ってるよ」と整備班長は告げる。

「ありがとう。エールストライク、出ます!」と彼女は実態がつかめない記憶のままに叫ぶとペダルが加速し、彼女を大気圏の海へと押し出した。

「待っててね、みんな・・・」翼を展開し、ブースターをふかすと、ヤマトは一直線に「第4の海域」を目指して消えていった。

ヤマトを送り出した後、

「僕も出たかったなぁ・・・」と整備班長がぽつりとつぶやく。すると、机の上にあるモニターが突如光ってメッセージを吐きだす。

『行けばいいじゃないか。フライトパックはあるんだろ?』

「8~、あれを使いたいんだよ僕はぁ~せっかく作ったんだしさぁ~」とモニターに向かって整備班長は愚痴る。

『あーあ、お前は大バカ者だよ』とモニターがメッセージを吐きだす。ため息の表情アイコンまでつけて。

「うっさいよ!?ま、彼女なら大丈夫か。”あの子”もいるしね」と彼女は気持ちに区切りをつけると、「さ、行くよ!僕の戦場はここなんだからね!」とドックの準備を始めた。

「く・・・!敵もモンキーって奴デース!」と金剛がわざと軽口をたたく。

「それを言うなら、『敵もさる者、ひっかく者』、ですよ?」と赤城が突っ込む。

「そうとも言いますネー」と金剛はいつものように返事をよこす。

戦況は芳しくない。比叡・霧島が大破、蒼龍・榛名が中破しており、無事なのが金剛と赤城だけである。一刻も早く退却したいのだが、敵は自分たちを囲んでおり、どこにも抜け出せる隙がない。

「どうします?このままじゃ消耗するだけですよ?」と赤城が金剛に話を振る。

「Huuuuuuuuuuuum・・・駆逐艦級がいたら赤城さんにお願いして沈めてもらうのデスガ・・・」

「まさか空母級と戦艦級とは思いませんでしたね・・・あれほど慢心しないと誓ったのに・・・」

「言いっこなしデス。元はと言えば私がBatだったヨ。テートクから言われたことを聞かなかったカラ・・・」とお互いに悔いる金剛と赤城。しかし、敵はそんな時間をゆっくり与えてくれない。

「姉さま危ない!」と榛名が金剛の前に躍り出る。「What?」と金剛が事態を認識する前に爆発が起こった。「榛名さん!」と蒼龍が叫ぶ。榛名は沈んでいなかった。敵の砲弾を耐えたのだ。もちろん直撃だから無傷では済まない。ボロボロな装備は更にボロボロになった。これでは、もう撃てない。

「榛名!Are you OK!?」と金剛は叫ぶ。「大丈夫です・・・榛名は、沈んだり・・・しません」という言葉もむなしく膝を折る榛名。そこに容赦なく敵の戦艦級が大砲を向ける。金剛は榛名をかばおうとした。しかし、距離が足りない。赤城も他の子たちを守るので手いっぱいだ。

「ハルナー!」金剛の目の前で敵の大砲が火を吹こうとした瞬間、

 

一筋の光が走った。

 

その緑色の光が戦艦級の主砲に当たると爆発が起こり、砲身はボロボロになった。

「榛名、大丈夫デスカ?」とこの隙に金剛は榛名を抱え、輪の中心に退がる。

「はい、榛名は・・・」と彼女も自分が助かったという事実に戸惑っているようだ。その時、

「大丈夫みんな!?」と声がした。彼女たちが慕っているあの声が。

「テートク!」そう、ヤマトが来たのだ。

「待たせたわね。救援に来たわよ」とヤマトが海面にまで下降して来た。

「提督、その装備は?」「Wow!very Cool!」「提督って人間ですよね?」と安心感からか艦娘達は口々に質問する。この分なら帰るまでは大丈夫だろう。その時、金剛の背後から主砲を構える戦艦級がいた。

「危ない!」とヤマトは咄嗟に前に躍り出て、シールドを掲げる。

そしてシールドに衝撃が走った瞬間、

彼女の「ズレ」がかちりとハマった。

次々と記憶が再生されてゆく。コロニーでの初陣、兄弟たちとの戦い、赤い機体との決闘、そして、大天使を守ったあの記憶。

盾を掲げたまま動かないヤマトに、

「テートク、どしたデスカ?」と金剛が声をかける。すると予想外の答えが返ってきた。

「提督?いえ、違うわ」

「でも、提督は提督ではないですか?」と赤城が訊く。

「たった今思い出したわ・・・私の型式番号はGAT-X105。コードネームは『ストライク』。私は、モビルスーツよ」

そう、かつてスペースコロニー『ヘリオポリス』で作られた5機の試作機の一体。その後戦艦「アークエンジェル」の守護者となり、数々の戦いをくぐりぬけてきた。彼女は、その機体そのものだったのだ。

「え・・・?提督は人間じゃなかったんですか!?」と比叡は「ひえー!」と驚きの声を発する。

「ま、話はあとよ!まずはこいつらを何とかしないとね!」とヤマト、いや、ストライクはライフルを後ろ越しに付け、背中から光の剣「ビームサーベル」を抜く。

「しかし、敵の攻撃には隙がありません・・・」と霧島が諫める。すると、

「まぁ、隙がなくても、当たっても、ダメージが通らなきゃ意味なんてないよね!」とストライクは事も無げに言う。

「しかし、直撃をくらっては!」と霧島は叫ぶが、

「PS装甲は伊達じゃあないのよ」とストライクは返答すると、シールドを外し、

「蒼龍はまだ動けるわね。これを持って比叡たちを守ってくれる?へこんじゃったけど少しはましでしょう」と蒼龍に託した。

「はい!まかせてください!」と蒼龍はボロボロにもかかわらず元気に答えてくれた。

「金剛は蒼龍の援護、赤城は・・・まだ艦載機のストックは?」とストライクが聞き、

「今少し」と赤城が答える。

「なら、私の援護を。艦載機で攪乱して頂戴」

「はい!」てきぱきといつものように指示が飛ぶ。やはり、私たちの提督なんだな、と赤城は今の状況をしばし忘れて微笑んだ。

「よし、んじゃあの戦艦級をやっちゃいましょうか!見てなさいよぉ~、子猫ちゃん達!」

「子猫ちゃん・・・?」今までの提督からは出てこなかった言葉に霧島は呆れた。

「では、行きます!」赤城が矢を番え、次々と放つ。艦載機に気を取られている隙をついてストライクは全速力で突っ込む。敵も接近に気付くがもう遅い。

「ふん!」ビームサーベルで戦艦級を一刀両断した瞬間、素早く離脱する。しばらくして爆発が起こり、抜け道が出来る。

「よし!金剛、蒼龍は榛名たちを連れて空いた所から離脱を!私は殿をやる!」とストライクは指示を飛ばす。

「テートク!」と心配そうに叫ぶ金剛に、

「大丈夫よ。無理しない程度にやるから。それにね、」

「それに?」

「そろそろ援軍が来るわ」ストライクのセンサーは感じ取っていた。「彼」の存在を。

「エングン?」

その時、キーンと甲高い音がして、一機の戦闘機が飛来した。

「・・・久し振りね、スカイグラスパー2号機」とつぶやくストライク。

『よっす!記憶が戻ったようだな!』と戦闘機『スカイグラスパー』から声がする。

「艦載機もどきがしゃべりましたよ!」と榛名はダメージを忘れて驚く。

『そりゃしゃべるさ。それよりもストライク、いいの持ってきたぜ~。今パージするから受け止めろよ!』

「おっと・・・」狙いを定めてスカイグラスパーから分離したものを受け取る。

それは、巨大な剣であった。ストライクの身の丈もあろうかという白銀の剣。名は「グランドスラム」。切れ味、耐久性ともに高ランクのものである。

「これは随分と懐かしいものを!」と驚くストライク。

『整備班長が用意したんだ。でかい剣はロマンだってな』

「なるほどね・・・ま、確かにその通りだわ」と言いながら、ゆっくりとグランドスラムを構えるストライク。その獣のような目に敵は一瞬怯んだように見えた。

「私とスカイグラスパーが突撃後、赤城も艦載機をありったけ出して離脱して」とストライクは指示を出した次の瞬間には敵陣に向かって突入する。

「どりゃあああああああああ!」巨大なグランドスラムを軽々と扱い敵を蹴散らすストライクを確認した後、赤城は指示通りにありったけの矢を放った後、すぐさま金剛たちに追い付かんと離脱を開始した。

「どうぞご無事を、提督」

 

 

「さて、ドックの準備は完了だ。ストライクたち上手くやってるかなぁ」

『まぁ、PS装甲あるから大丈夫だろう。・・・おっと、金剛達が戻ってきたようだな』

「あ、ほんとだ・・・!お帰りー!さぁさぁ、早く入っちゃって入っちゃって!」

 

 

「そりゃぁ!」とストライクが敵空母級を一刀両断する。大爆発が起こって反応がまた一つ消えた。

「だいぶ減ってきたわね・・・」と周りを見渡してつぶやくと、

『いんじゃないか?もうあいつらも帰還したころだ』とスカイグラスパーが帰還を促す

「そうね、そろそろ離脱しますか!」

ストライクとスカイグラスパーは素早く離脱を開始した。敵も消耗していて追うに追えない状態であった。

撃っても撃っても避けられ、当たっても当たっても向かってくるのだ。体は無事でも弾薬はとっくに尽きていた。

ストライクたちは余裕で帰投した。敵もしばらくその場にいたが、無駄だと悟るとすぐに姿を消した。

一方鎮守府では出撃メンバーが全員帰還しており、無傷であった赤城と金剛以外は入渠することになった。

「それにしても、テートクが人間じゃないって言うのはとんでもないSurpriseネ。ハンチョーは知ってたデスカー?」と金剛は訊くと、

「そうだよ。彼女を拾ったのは僕だし」と整備班長は答えた。

「え、そうだったんですか?」と赤城は驚く。

「うん。僕が来た少し後だったかなぁ。いやぁ、ここで会えるなんて思わなかったよ」としみじみとした整備班長の言葉に、

「フム?その言い方、ハンチョーもここの人じゃないのデスカ?」と金剛は気付く。

「うん、何でか知らないけど、僕もこっちに来たんだよね・・・まさか僕の『宇宙一の悪運』が知れ渡ったかな?」ドヤ顔する整備班長に、

『んなわけないだろうが。それにお前は戦うのは駄目っつってたじゃないか』とピポッという音とともに近くに置いてあったモニターのメッセージが突っ込みを入れる。

「Wow!ハンチョーに的確な突っ込み・・・こ奴は何者デスカー?」と金剛は驚き、整備班長に問う。

「あ、しまい忘れてた・・・ま、いいや。その子はね、『8』って言うんだ。疑似人格を持ったコンピュータで、僕の親友さ」

『そう、私は8。よろしく』と8がメッセージを出す。

「ハチさん、私は金剛デース。Nice to meet you」と金剛は何の問題もなく受け入れた。

「私は赤城と申します・・・で、班長、疑似人格とはなんですか?」と、赤城は質問した。「疑似人格」というのは赤城は聞いたことがない言葉だからだ。

「そうだねぇ・・・まぁ、君たちに近いけどイコールじゃない存在かなー・・・機械にあらかじめ簡単に感情とかの情報を入れておいて、対話が出来るようにした感じかな。うーん、言葉にすると難しいねぇ」と整備班長は考えながら答える。

『ま、私の事はしゃべるトランクとでも考えてくれ』と8がメッセージを出す。

「分かりました。ではそういうことで」と、赤城は追求するのをやめた。

『お、ストライクとスカイグラスパーの反応だ』と8がメッセージを出す。

「お、帰ってきたかぁ!」と整備班長は掛け出す。

「私たちも行きましょうか」

「OK!Let’s Go!」と赤城と金剛も後を追った。

 

 

ここは闇に閉ざされた空間。その奥深くには炎が灯り、玉座がしつられていた。

その玉座の前には先ほどストライクたちに蹴散らされた敵戦艦達が震えながら控えていた。

玉座の主を心底恐れているからだ。

「ふぅん・・・そうなの・・・そんなに強かったの?」と玉座の「主」は言う。敵どもはぶんぶんと縦に首を振った。

「まさか、私たちの他にモビルスーツがいるなんてねぇ・・・でも、一体ならそこまで脅威にならないんじゃないかしら?」と「主」は傍らにいる少女に言う。

「そうかもしれません。しかし、気に留めるべきでしょう。もしかしたら、他にもいるのかもしれません。我々のような存在が」と参謀格の少女は答える。

「あなたはほんと心配性ね。サイコフレームを持った私が負けるわけがないでしょう?」と「主」は言うが、

「しかし、貴方は同じサイコフレームを持った獣にやられた、と聞きましたが?」と参謀格が「痛いところ」を突いたので、

「あなたこそ、格下の相手に深手を負ったらしいじゃないの」と切り返す。

「そうでした・・・だからこそ、今度は油断せず、この世界を少しずつわれらのものに改変していこうとしているのですよ、『赤い彗星の再来』」と、参謀格は素直に認めつつ、当てつけるように「主」、『赤い彗星の再来』に言う。

「ふん、いい度胸だわ・・・目的を果たした後は貴方とケリをつけないとね」と『赤い彗星の再来』は睨む。

「私は今の地位で十分です。貴方に逆らおうとは思いません」と慇懃無礼に参謀格は言う。そこがどうしても気に入らず、「フンッ」と『赤い彗星の再来』は鼻を鳴らした。そして、

「あなたたちはいつまでいるのかしら?さっさとそのモビルスーツを倒す算段でも考えなさい」と敵どもに告げる。その目は底知れぬほどの闇に包まれていた。

ヒッ、と小さく叫んで控えていた敵どもは玉座の前から素早く去った。

「それにしても、まさかガンダムなんてねぇ・・・面白くなってきたわ」と辺りが静かになったところで『赤い彗星の再来』がつぶやいた。

「御意・・・」と参謀格が応じた。

この世界に、ゆっくりと闇が広がろうとしていた。


 
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