No.691076

蓬莱学園の迷宮『第一話・旧図書館整頓隊55分隊』1/6

さん

N90蓬莱学園の冒険!の二次です。TRPG版あたりを元にしてます。

2014-06-02 12:01:57 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:765   閲覧ユーザー数:765

 

序章

 

21世紀の半ば、一冊の本がオークションに現れた。

『旧図書館整頓日誌』という本で、私立蓬莱学園・図書委員会編纂による物だ。

 

ただ、日誌とはあるが正確な年号の記載はなく、記録としては曖昧で信憑性に欠ける。

 

これから語られる物語は、この無味乾燥な『日誌』の内容に多少味付けをし、読みやすくアレンジした物である。

 

そして話は主人公である朝倉真央(あさくらまお)が蓬莱学園に入学し、旧図書館整頓隊に志願するところから始まる。

 

彼女がそこで最初に見たのは、『氷の眼』であった。

 

 

★真央、面接を受ける

 

「旧図書館整頓隊に参加したい?」

眼鏡越し、というよりすでに顔の一部のような眼鏡が真央の顔をじっと見つめている。眼鏡の持主は整頓隊への入隊志願者面接官で、三年の高城敬介(たかしろけいすけ)という。

(君がかね?)

という言葉がその眼鏡から聞こえてくる。なにしろこの新入生の少女は、どう見ても小学生ぐらいにしか見えず、とても整頓隊員が勤まるとは思えなかったからだ。

そんな敬介の眼鏡が放つ冷たい輝きの前で、真央は子猫のように身をすくめ、整頓隊に志願したことを少し後悔していた。

 

     ☆   ☆   ☆

 

蓬莱学園高等学校。それは日本の遥か南、亜熱帯の海に浮かぶ孤島・宇津帆島にある生徒数十万の巨大学園である。学園で生み出される特殊な技術、宇津帆島に残る特異な自然、学園の保有する摩訶不思議な品々、またそれ以外にも何か大きな秘密が隠されているという噂、それらを自分の物にしたいという各国諸勢力の思惑が重なり、蓬莱学園は日本の私立高校でありながら、ほぼ独立国並の力を持っている。

 

そのとんでもないことがなんでもありの蓬莱学園に、『三大秘境』という物がある。三つを選べないほど奇怪な物にはことかかない学園にあっては、この三つにも諸説あるが、その中で必ずあげられるのが『旧図書館』だ。もともとは島にあった南洋研究部と共同で使用されていた図書館だったが、世界各地から集められた蒐集物のせいで怪異が発生。それと前後して始まった増改築のおかげで迷宮と化し、死者や行方不明者が続出した。それ以後数十年、旧図書館は人を寄せつけぬ廃虚と化していた。

 

     ☆   ☆   ☆

「旧図書館整頓隊はその魔境化した館内に潜入し、埋れた書庫を見つけ出して図書の整頓と搬送を行う。最終的な目標は旧図書館を元の状態に戻すことだ。それは理解しているな?」

図書委員でもある敬介の言葉に、真央は大慌てで頷いた。

「館内は危険と隣り合わせだ。一般的に『四人に一人が入った時と同じ姿で出てくる』と言われている。他の三人の運命は神のみぞ知るだ。死んでいればまだいい方だが、その覚悟があるのか?」

「もちろんであります!」

思わず立ち上がって敬礼する真央。その背中で少女には不釣り合いな物が大きな音をたてた。それはなんと、黒い鞘におさまった大振りな日本刀であった。

「校内巡回班からの推薦状は見せてもらった」

敬介も自然と刀に目がいく。校内巡回班は学園の警備組織で、いずれもが剣術の達人で構成されており、真剣の携帯が許可されている。真央は入学早々巡回班に入り、その腕を認められ、推薦状を持参してきたのだ。これは彼女が師範クラスの腕前ということである。

(信じられんが)という言葉がまたしても眼鏡の奥から聞こえた。

一方の真央は(あの眼鏡は絶対氷でできている)と確信したが、同じ思いをした者が多数いるようで、後日彼女は『氷眼鏡』、『ドライeyeス』、『冷凍怪獣』などの綽名があることを知ることになる。

 

それはともかく、童顔、幼児体型で小学生にしか見えない少女と、凄みのある日本刀の組み合わせはいかにもアンバランスであり、剣術の達人と言われて信じられる方が不思議であった。

 

そんな敬介の視線は露骨な品定めのようでこそなかったが、機械でスキャンされているようで真央は逆に落ち着かない。あの眼鏡はスキャナーでもあったのだ。そのスキャナーが真央の髪の毛あたりでわずかに動いた。

思い当たることがありすぎる真央は慌てて弁明する。

 

「こ、これは染めてるんじゃありません! あたしクォーターなんです! お祖母ちゃんが外国の人だったので・・・」

 

光の加減で亜麻色に輝やく髪を、真央は恥ずかしそうに両手で隠した。ショートカットの彼女の髪は、その両手から僅かにはみだす程度だった。

一方の敬介は短めの黒髪に氷眼鏡、細身で端正な顔立ちはイケメンと言えなくはないが、無表情でまるで人形かロボットのようである。机の上で軽く手を組み、背筋をピンと伸ばした姿は高校三年生とは思えないほど大人びていた。

 

「で? なぜ旧図書館整頓隊を志願したんだ?」

 

予想された質問だったが、真央はそれに答えるのを少しためらった。

 

「言えないような理由か」

「いえ、そんなことはありませんが・・・笑わないでくれますか?」

「約束はしない」

即答である。

(イジワル!)と、今度は真央の表情が言っていた。

「いいです、言います。旧図書館で妖精を探すためです!」

 

「・・・・」

「あれ? 笑わないんですか?」

真央は首を傾げる。

「この理由のせいでクラスでも部活でも大笑いされて、おまけに『不思議ちゃん』とか『電波ちゃん』とかあだ名ついちゃって大変だったんですから!」

「笑ってほしいのか?」

真顔で聞き返す。

「いえ・・・別に・・・」

「妖精ぐらい旧図書館には大勢いる。その気になればオベロンやティターニアでも見つかるだろう。せいぜいジェントルアニーに騙されないようにすることだな」

「ヘェ〜、そうなんですか?」

普通に感心しているようだが、今の話に真央はそれほど興味がなさそうだった。敬介もそれは感じたようだ。

「・・・どうやら妖精マニアというわけでもなさそうだな。なぜ妖精なんだ?」

「えと、実はお母様との約束なんです。蓬莱学園に行ったら、旧図書館で囚われの妖精さんを助けてあげなさいって、そう言われたんです」

「母親に?」

敬介の眼鏡が微かに上がった。

「それは奥の深い言葉だ。お前の母上はどういう方なんだ?」

「どういうって・・・・ただの美人なお母様ですけど?」

「・・・・」

沈黙が流れた。

「え? なにか?」

「わかった。もういい黙れ。お前に聞いたわたしがバカだった」

黙れと言いつつ自分が黙り込む敬介。その時間が意外に長引き、真央はだんだん不安になってきた。

「・・・いいだろう」

「え?」

「旧図書館整頓隊員として採用する。明日の放課後、旧図書館一階ロビーの『整頓隊資料室』まで来たまえ。そこで正式な手続きをする。以上だ」

「ありがとうございます!」

半ば諦めかけていた真央は、嬉しさのあまり頭が机にぶつかりそうな勢いで頭を下げた。

「・・・これでお母様に怒られないですみます」

ホッとした真央は、思わず本音を漏らしたのだった。

 

 

 
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