No.687539

紅と桜~光の花~

雨泉洋悠さん

再び孤独な闘いに挑まねばならない貴女に、どうかもう一度だけ幸せな記憶を。

僕らのラブライブ!4開催記念&氷砂糖とマシンガンを頒布して下さる皆様への勝手に大感謝を込めて

今日はラブライブ!4にお邪魔して、氷砂糖とマシンガン購入させて頂こうかなと考えています。

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2014-05-18 01:17:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:562   閲覧ユーザー数:558

   紅と桜~光の花~

              雨泉 洋悠

 

 貴女のとなり、私のとなり。

 私のとなり、貴女のとなり。

 

 夏の夜に、儚く消える、光の花。

 深みに残す、その面影を。

 確かに感じる、その暖かさ。

 

 夕ごはん、真姫ちゃんと二人で、メニューを決めて、真姫ちゃんと二人で、材料を選んで、真姫ちゃんがその拙い手つきで、頑張って手伝ってくれて、二人で一緒に作った晩ごはん。

 

 降り積もり、揺れ動く、そよそよと、流れるままに、風に舞う。

 

 真姫ちゃんが、凄く喜んでくれて、私にとって、とても嬉しすぎる時間で、そんな幸福に浸りながら、先ほどまで一点を見つめていた視線を上にあげて、私は放心したように、すっかり暗くなった天上を埋め尽くす、光を、ただ見上げている。

 耳に届く音の中では、少しばかり離れていても、三人のはしゃぐ声が一番大きい。

 その後ろで、静かに流れる、優しい音色。

 秋を待ち侘びる、夜の声。

「にこっち、どうしたん、ぼーっとして、花火やらへんの?」

 いつの間にやら、隣に座っている希、何よ相変わらず鋭いわね。

 私は、視線を先ほどまでの一点に戻して、そのまま答える。

「うん、なんかね、今ちょっとにこは言葉では言い表すのが少し難しい状態にいるの、アイドルは繊細なのよ」

 希が、何時もの顔をしているのが、解る。

「にこっち、いま、とても良い眼をしているね。アイドルらしくて、素敵やん」

 希の言うことには、私は何時も上手く切り返せない。

 理解られ過ぎていると言うのも、それはそれで、私の言葉を滞らせて、らしくない姿を露わにさせる。

「うん、皆に憧れられるアイドルだって、自分以上に輝いている者に、時に皆と同じ様に惹かれてしまうものなのよ」

 今日の私は、とてもらしくない。

「にこっち、それだけやないんよね?今のうちに、うちに吐き出しとき。多分そのうち……まあ、何話しても、今はうちにしか聞こえへんから、大丈夫よ」

 希の言葉は、らしくないだけではない、らしい姿すらも、包み込むようにして、表に引き出してしまう。

 むしろ、だから厄介だ、防ぎようがない。

 全く、私は本当は早く、今は穂乃果達と楽しんでる、貴女の大切な人の傍に、貴女を行かせてあげたいのに、まだまだ私にも、希が必要なのね。

 希に導き出されて、私は思いのままに言葉を紡ぐ。

「希、今私嬉しいの、解るわよね?でもね、嬉しい事が重なっていく度に、少しだけ、本当に少しだけ、心の、遠くの方において来たものが、ほんの少しだけ切なくなるの。今抱いている気持ちとは違う、遠くの方に置いて来てしまったような気がする何かが、少しだけ疼くの」

 私は多分、今日が今まで生きてきた中で、一番なくらいに嬉しくて、幸せで、なのに今の私の心は、少しだけ、憂いに至る前の、何かが、引っかかっている様な状態だ。

 その何かの正体を、私はまだ希に頼らないと、上手く引き出す事が出来ない。

「にこっち、それは多分、今ここに至るまでの間に、にこっちが、頑張って抱えてきた、色んな思いやね。うちは、にこっちが今ここに至るまでの間に、どんな事があったか、どんな思いを抱えてきたか、知っとる。ずっと見てきたから。そういう自分の、辛かった姿や切なかった思いを、にこっちは今もちゃんと忘れないで、ずっと抱えて生きてきてる。にこっちは強いから、そう言うの捨てたりせえへん。それに加えて、多分不安もあるんよね。今の幸せの大元、それを失った時の自分を、そんなかつての自分の姿に重ねると、少しだけ苦しくなるんよね、きっと」

 希の瞳に、いつもの光と少しだけ、憂いが混じってる。

 どうしてこうも希は、私のことを解るのかしらね、本当に、いつもいつも。

「にこっち、うちはにこっちに、この先何も辛いことなんて無いよ、何て気休めにもならない様な、温度のない言葉なんて、にこっちには絶対に言えへんよ。だから、にこっちのそんな不安を完全に取り除いてあげることは、うちには出来へん。でもな、一つだけ忘れて欲しくない事があるんよ。この先、にこっちにどんな辛い事があっても、今にこっちが抱いている思いだけは、信じてあげて。にこっちに、この先どんなにか辛い事があったとしても、必ずその気持がにこっちを救い出すと思うから。忘れないでいてな」

 希が真剣にこちらを見ながら言うものだから、しばしの間見つめ合って、少し切なくなった。

「と言った所でにこっち、やっと来たようやね」

 少し視線をずらしていた間に、いつの間にか眼の前で揺れる、赤髪の房。

 それを弄くる、しなやかな指先。

「何二人でこそこそ話してるのよ」

 な、何かちょっと怒ってる感じがする。

「ないしょやで、ほなうちえりちの所に言ってくるわ。にこっち、うちの言ったこと、忘れんといてな。真姫ちゃん、にこっちのことよろしくなー」

 ちょ、ちょっと希!いきなり真姫ちゃんと二人きりにして放置して行かないでよ!

 ま、真姫ちゃん何かちょっと不機嫌だし、今の私にはちょっと、何だか、こ、困る。

 仏頂面のまま、私のとなりの、希が座っていた位置に座り込んで、膝を抱える真姫ちゃん。

 ああもう、しばし訪れる無音空間、真姫ちゃん何か怒っている感じだし、怖い顔してるし。

 どうしたら良いのよー。

「……ねえ、にこ……先輩。希と何話してたのよ?」

 不機嫌そうな顔で、私に聞いてくる真姫ちゃん。

 うーん、まだ今日の所は私への先輩禁止はお預けみたいね、まあそれは気長に行くとしても、この場合は、どう答えたら良いのよー本当の事なんて死んでも言えないし!

 ええと、ここは無難に。

「い、いやあ。去年の夏休みにはこんな合宿なんて無かったなあ何て話をね。ほら、家の部はまだ私一人の時だったし、なんかね、楽しいわねーって話してたのよー」

 ど、どうだ、って、真姫ちゃん、こっち向いて、何か怒った感じが消えちゃった?

 ちょっとだけ、何か苦しそうな、切なそうな感じ、どうしたんだろ、私の話つまんなかったかな。

「ご、ごめんね、真姫ちゃん。つまんない話しちゃって、二人のとこに戻って花火やってきなよー」

 何だかもう、こういう時の自分の情けなさは、随分と板についてきた感じよね。

 あれ?怒った感じになっちゃった?

「つまんなくなんか無い!ほら、皆の所に行きますよ!」

 あ、本日三度目。

 そのまま、蝋燭の近くに連れて来られて、さっきからずっと持っていたらしい花火を渡された。

「私と一緒のタイミングで」

 真姫ちゃんに手を取られたまま、花火に火を着ける。

 真姫ちゃんと二人、並んで花火の先を見詰める。

 しばしの静けさから、徐々に弾け始める、夏の夜に咲く、光の花。

 皆の声が、程々に耳に届く中で、真姫ちゃんと、その生き様を見届けた。

「にこ……先輩。今は皆が居るから、私も居るから」

 光の花に照らされながら、真姫ちゃんが祈るように呟いた言葉が、いつもの香りと一緒に、耳に残った。

 

 で、今度はこれはどういう事態なの?

 ええと、先程までの私の意識の少し外で繰り広げられた会話を、再現すると。

「真姫ちゃん、今日はどこで寝る?」

「私、そこが良い。希、変わって」

「今日はどこでも良いじゃなかったね。ええよ、真姫ちゃんの成長に免じて変わってあげる」

 こんな感じ、つまりは私の全く知らない所で、取引とも呼べないような、友好的な交換が成立して、こう言う状況に陥っていると。

「にこ……先輩、今日は昨日のは禁止ね」

 さっきは私の至高のお肌ケアを禁止されるし、そんなことを禁止するよりも先に、真姫ちゃんこそ先輩禁止を徹底しなさいよね!

 もう、今日は昔みたいに、希が隣と安心していたのに、とんだサプライズよ!

 そうして、横になって、電気を消してみれば、真姫ちゃんがずっとこっちを見ている気がするし、ね、眠れない。

 何とも、今日は夕方からこっち驚きと動揺と緊張で私の心が限界寸前よ!全く。

 ああもう、ドキドキしすぎるから真姫ちゃん止めてー、いや、それはそれでちょっともやもやするわね。

「……寝ちゃった?」

 そんな事をぐるぐる考えていると、不意に真姫ちゃんが、ひそひそ声を出してきた。

「ね、寝てないわよ。真姫ちゃんも寝れないの?」

 答えながら、意を決して真姫ちゃんの方を向く。

 窓の外から、自然の灯が差し込んでいるので、暗がりだけど、少しだけ真姫ちゃんの顔が見える。

 綺麗な顔立ち、自然な灯の中で、良く映える。

 真姫ちゃんの、歳相応の幼さが垣間見えるちょっとだけ物憂げな表情、この真姫ちゃんの表情が、私の心には何時だって強く届き、響く。

「私はまあ、寝るまではちょっと……」

 うん?何だか歯切れの悪い良く解り難い回答だけど、まあ良いかな、もうちょっとお話したいかな。

「真姫ちゃん、さっきはありがと。皆でわいわい言いながらやる花火は楽しいね」

 家ではたまにあるけれど、学校の皆と何ていうはじめてで、はしゃいでる二人や穂乃果達、それを落ち着いて見ている希や絵里が居て、今みたいにとなりに真姫ちゃんが居た。

 とても、幸せな時間。

 真姫ちゃんは、その憂う気な表情を横にしたまま、俯いた。

「にこ……先輩。さっきも言ったように、今は皆が私が、居るからね。一人なんかじゃないよ」

 真姫ちゃんの瞳が揺れる、ああそんなにも貴女は、私の事を心配してくれていたのね。

「ありがとう、真姫ちゃん。ミューズの皆が、今この部に居てくれて、私は、とても嬉しいよ」

 私は、もぞもぞと、布団の中で手を差し出す。

 あ、真姫ちゃん解ってくれたみたい、今日四度目。

「私も、穂乃果のお陰で、ミューズに、この部に入れて良かったかなって思ってる」

 そうだね、真姫ちゃんと穂乃果が、あの日出会っていなかったら、私は真姫ちゃんと会えなかったかも知れない。

 あの日の、部室に居た自分を思い出すと、少しだけ切ないけれど、その時間を乗り越えた先に、今この瞬間が、真姫ちゃんのとなりに、当たり前のように居られる瞬間が、存在してくれて良かった。

 私と真姫ちゃんが出会えたのは、やっぱり穂乃果のお陰だね。

 その事は、ずっと忘れないようにしないといけないね。

「寝ようか、真姫ちゃん。このままで」

 私はついつい、ニヤニヤ顔で、言ってしまう。

 おお、暗がりでも赤くなっていくのって、解るんだなあ。

 

 そして降り積もって、揺れ動き、心散らせる、ひとひらひとひら、ひとひら。

 

「べ、別に、にこ……先輩がそうしたいなら、そうしてあげてもいいけど?」

 そうして横向きながら、ぷいっと横を向く、何時もの真姫ちゃん。

 そう、真姫ちゃんの素直じゃない時の可愛さも、ずっと忘れずにいたい。

「うん、にこのおねがい。おやすみ、真姫ちゃん」

 そう言って、私は先に眼を閉じた、このままいじらしい真姫ちゃんを見ていると、全てが溢れかえりそうで、危ないので。

「おやすみなさい……にこちゃん」

 小声でそんな返答が聞こえたけれども、今日の所はノーカウントね、これもそのうちでいいから、当たり前に呼んでくれるようになってくれたら、嬉しいな。

 

 真姫ちゃん、忘れないでね、今日の事。

 貴女の心が、過去の私も今の私も全て、優しく包み込んでくれたこと。

 それが私にとって、どれだけ嬉しくて、どれだけ幸せだったか、ということを。

 

次回

 

ひとり

 


 
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