No.687139

九番目の熾天使・外伝 ~短編その⑫~

竜神丸さん

幽霊騒動その7

2014-05-16 18:03:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3705   閲覧ユーザー数:1861

「「「……」」」

 

デルタ、ルカ、アキの三名は無言のまま立ち尽くしていた。

 

何故なら三人の目の前には…

 

「……」

 

kaitoが上半身を地面に突っ込ませたまま、ピクリとも動かないでいたのだから。

 

「…よし、先に進みましょうか」

 

「「賛成」」

 

「ちょっと待たんかぁい!!!」

 

そのままスルーしようとしたデルタ達だったが、いつの間に目覚めていたのかkaitoが即座に地面から抜け出し三人に突っ込みを入れる。

 

「ねぇ、流石にスルーはいかんでしょう? 仲間が地面に埋まってんのに、助けずにスルーしちゃうってどういう事なのよ?」

 

「え? 地面に埋まってるのがあなただと思ってましたよ私は」

 

「同じく」

 

「僕は敢えてノーコメントで」

 

「ちょっとちょっとちょっと? せめてルカ君は何かフォローして頂戴よ空しくなっちゃうから。せめて自分がここに埋まってた理由とか、それくらいはちゃんと聞いて欲しいところだな」

 

「あなたがここで馬鹿をやってる理由なんざ、本来私達の知った事じゃありませんがね」

 

「あぁ、やっぱりデルタさんが冷た過ぎる!?」

 

デルタの毒舌が刃物のように心に突き刺さり、kaitoはその場で体操座りになって落ち込み始めた。流石に見ていられなかったルカは溜め息をつく。

 

「分かりました、聞けば良いんでしょう? ここで何があったんですかkaitoさん」

 

「よくぞ聞いてくれた!!」

 

(うわ復活早ッ!?)

 

ルカに問いかけられた事でkaitoはすぐさま立ち上がり、こうなった事情を説明し始める。

 

「実はさっき、ここらを調べて回っていたらな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前…

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっへぇ、亡霊だらけで気持ち悪いなぁ」

 

亡霊が大量に漂っている森を彷徨い続けていたkaito。彼は自分に襲い掛かろうとした亡霊だけを次々と成仏させていき、咲良とユウナの捜索を続行する。

 

「本当にこんな場所にいるのかねぇ? こんな碌に成仏も出来てない亡霊だらけの空間に…」

 

周囲を見渡せば、そこら中に亡霊達は漂っている。常人ならば、こんな真っ暗で恐ろしい場所には訪れたいとはとても思わないだろう。しかし、kaitoが不安に思う理由は別にあった。

 

「…これ、絶対上に怒られるだろうなぁ」

 

かなり自由に行動しているとはいえ、仮にもkaitoは神の座についている者。転生者の件でも散々神々から叱りを受けたのに、死者の亡霊がこんなにも成仏出来てないとなれば、彼が再び怒られてしまう事はほぼ確実だろう。

 

「団長に頼んで、どうにか言い訳して貰おうかなぁ~? 上の連中、説教が無駄に長いし…」

 

その時。

 

 

 

 

-ヒュゥゥゥゥゥ…-

 

 

 

 

「…ほへ?」

 

真上から、何かが落ちてくる音が聞こえてきた。何かと思ったkaitoが真上を見上げた次の瞬間―――

 

「―――グルォォォォォォンッ!!!」

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」

 

巨大な怪物―――エラスモテリウムオルフェノクの太い足に押し潰され、kaitoはそのまま地面に埋まってしまったのだ。しかしそんな大声で断末魔を上げたにも関わらず、エラスモテリウムオルフェノクはkaitoに気付かないまま地面を走り何処かへ消えていく。

 

「ぐ、ぇぷ……な、何だ…!?」

 

一度は地面から顔を出したkaito。しかし、彼の不運は更に続く。

 

「ギシャァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「げぶぅっ!!?」

 

後方から昆虫型の巨大な怪物―――オトシブミヤミーまでもが出現し、再びkaitoは踏まれてしまう。しかも上半身を踏まれた事による反動からか、オトシブミヤミーが去った後にはkaitoの上半身が埋まり下半身だけが突き出ているという、実にシュールな光景が出来上がってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「何そのマヌケな理由」」」

 

「三人揃って酷ぇっ!?」

 

デルタ達から駄目出しを喰らい、再び落ち込んで地に沈むkaito。しかしそんな彼の事情説明に、アキがいくつかの疑問を抱く。

 

「にしても、その怪物共は何だってこんな場所を通ったのかしら? わざわざこんな木の多い森を」

 

「その理由は、この先を進めば分かるかも知れませんね」

 

「「!」」

 

デルタの見据える先には、怪物達が通ったと思われる足跡が残っていた。足跡の周囲に生えていた筈の木々は圧し折られており、巨大な何かが通り過ぎていった事がよく分かる。

 

「この先に、一体何が…?」

 

「進まなければ、分かる物も分からないでしょう。全く、ただでさえ二人の捜索も面倒だというのに…」

 

「ちょっと、咲良ちゃん達の事を面倒だとか言いやがったわねアンタ!!」

 

「えぇ面倒ですよ。そちらがちゃんと子守りをしてれば、こんな面倒な事態にはならなかった筈なんでしょうけどねぇ?」

 

「あぁもう、二人共喧嘩しないで下さいってば!!」

 

目線の間に火花を散らすデルタとアキをルカが諌めつつ、三人は怪物達の足跡を追って森の奥深くへと突き進んで行く。

 

「…ん、あり? ちょ、自分を置いてくなぁー!!」

 

数秒後、置いて行かれている事に気付いたkaitoも慌てて後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学校、とある廊下…

 

 

 

 

「……」

 

「…ぬぅ」

 

とある事故(ラッキースケベ)が原因で、ロキは刀奈から完全に敵視されてしまっていた。刀奈はユウナの後ろから覗き込みつつロキを鋭い目付きで睨んでおり、スノーズと雅也は目の前の光景に苦笑いせざるを得ない状況だった。

 

「はぁ……全く、キリヤ兄さんも気を付けて下さいよ? 普通だったらあんな事故が起こるなんてあり得ない事なんですから」

 

「ぬぐ……そ、それは分かってるんだ。だからさっきから何度も謝っているんだが…」

 

「…ふん!」

 

「…ご覧の通り、全く許してくれそうにないんだ」

 

やっぱり、簡単に仲直り出来る訳ではなさそうだな。刀奈の鋭く尖った視線に睨まれつつ、ロキは内心でそんな風に考える。

 

「信じられない……こんな変態が、タカナシ先生の兄だなんて」

 

「あぁ~……あのね湯島さん。こんなんだけど一応、私の兄さんなんだ。だからあんまり怖い目で睨みつけないであげてね? こんなんだけど」

 

「実の妹に二度もこんなんだけどって言われた!?」

 

そちらの方がダメージとして大きかったのか、ロキは血反吐を吐きながらその場に倒れ伏す。流石は自他共に認めるシスコン、妹からのさり気ない毒舌は効果が絶大のようだ。

 

「…話、進めても良いかな?」

 

このままでは話が纏まらないと判断したスノーズにより、一旦その場の空気は真剣な物に変わる。流石のロキもすぐに起き上がり、改めてスノーズと向き合う。

 

「君がユウナちゃんの兄さんだったね。僕はスノーズ・ウィンチェスターだ、よろしく」

 

「あぁ、よろしく……アンタ、確か竜神丸の知り合いだったよな?」

 

「! 君、No.01を知ってるのかい?」

 

楽園(エデン)で聞かせて貰ってたからな。あの時、アンタと竜神丸達が話してるところを」

 

「何だ、あの場にいたのか。という事はつまり…」

 

「あぁ。俺も旅団の一員だ」

 

「…なるほど、そういう事か。シグマの言っていた通りだ」

 

「シグマ? それって、支配人の仲間の…」

 

「彼も今、この小学校の何処かにいる筈なんだ。後で合流するつもりでいたんだけど…」

 

「色々あって、私はスノーズさんに助けて貰ったんです」

 

「そうだったのか……ありがとな、妹を助けてくれて」

 

「気にしなくて良いさ。僕も偶然、彼女を見つけただけだからね……ッ!」

 

ロキと話していたスノーズは何かに気付き、両手に氷の拳銃を出現させてから廊下の先を見据える。

 

「? どうし…ッ!!」

 

「兄さん?」

 

「ユウナ、二人を連れて下がってろ」

 

ロキはユウナ達を後退させてから、すぐさま拳銃を構えてスノーズの横に並び立つ。

 

『『『グルルルルル…』』』

 

『『『キシャァァァァァァァ…!!』』』

 

『『『ケケケケケ…♪』』』

 

廊下の先から、複数の怪人達が姿を現した。その中には人間の姿をした亡霊も紛れており、全員が身体中から紫色のオーラを放っている。

 

「な、何よアイツ等!?」

 

「ヒィ…!?」

 

「二人共、行きましょう!」

 

初めて見る怪人達に刀奈はユウナの後ろに隠れ、雅也は思わず腰を抜かし床に尻餅をつく。そんな二人を連れて下がるべく、ユウナが二人の手を掴み後方へと下がる。

 

「さてさて、スノーズさんや……戦れるか?」

 

「似たような化け物なら、散々狩ってきたさ」

 

「OK、行くぞ!!」

 

『『『『『グルァァァァァァァァァァァァッ!!!』』』

 

『『『オォォォォォォォォ…!!』』』

 

ロキがそう言い出すと同時に怪人や亡霊達が一斉に駆け出し、二人に襲い掛かる。ロキは怪人達と、スノーズは亡霊達と相対し、一体ずつ確実に退治していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育館前の通路では…

 

 

 

 

 

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁもう!! しつけぇんだよ雑魚幽霊共がぁっ!!!」

 

『『『ウォォォォォォォ…!?』』』

 

こちらでもシグマが斧を振るって大暴れしており、亡霊達を相手に無双状態だった。向かって来る亡霊は次々と退治され、流れ作業のように数が減っていく。

 

「「……」」

 

そんな光景を、学生二人は唖然としたまま眺めていた。自分達を散々追いつめていた筈の亡霊達が、こんなアッサリ退治されていっているのだから、開いた口が塞がらないのも無理は無いだろう。

 

「幽霊共をあんな簡単に……何か俺、自信なくなってきたな…」

 

「だ、大丈夫だよ優馬君! 私はカッコいいと思ってるから…!」

 

男子学生―――市崎優馬(いちざきゆうま)は落ち込んだ様子で項垂れ、女子学生―――三川静香(みかわしずか)が何とか慰めようとする。そんな二人の会話にも気付かず、シグマは迫り来る亡霊達を次々と退治していく。

 

しかし、そんな彼の進撃もここでストップする。

 

 

 

 

-ドゴォォォォォォォンッ!!-

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

彼等の近くに、何かが落下してきた。土煙が少しずつ晴れていき、落ちてきた人物の正体を見た途端にシグマはウゲッと嫌そうな表情になる。

 

「テメェ、何でここにいやがんだ……ZERO!!」

 

「ククククク…!!」

 

落ちてきた人物―――ZEROは小さく舌舐め摺りをしてから、ゆっくりと立ち上がる。

 

「よぉ、亡霊共……俺とも遊べよ」

 

ZEROが右手を翳すと魔法陣が出現し、そこにドス黒い魔力が集中し始める。

 

「!? やべぇぞ、伏せろ!!」

 

「「!?」」

 

「ハッハァッ!!!!!」

 

ZEROの動きを見たシグマはこれから起こる事態を察知し、優馬と静香を強引に地面に伏せさせる。それと同時に三人の頭上を強大な砲撃魔法が飛び、亡霊達を一瞬で消し去ってしまった。

 

「クハハハハハハハハハハハハハハハ!! もっとだぁ…もっとぉ!! こんなんじゃ足りねぇんだよ……この俺を、満足させれる奴はいねぇのかぁ!!!」

 

ZEROが振るった左手からは斬撃が飛来し、運動場や体育館、校舎をも次々と破壊し始めた。シグマ達には目も暮れておらず、もはや見境なしだ。

 

「チッ!! テメェ等、逃げるぞ!!」

 

「はぁっ!? おいアンタ、いきなり何言って…ッ!?」

 

「キャアッ!?」

 

優馬と静香を抱えたシグマはすぐにその場を飛び立ち、小学校から離脱。その後もZEROはあちこちを破壊し続けていく。

 

「ハァァァァァ……ん?」

 

その時、崩れた瓦礫の中で何かが光り出した。それに気付いたZEROは瓦礫を退かし、その光っている何かを拾い上げ……大きく口元をニヤけさせる。

 

「なるほど……良いもん見つけたぜ…!!」

 

ZEROが拾い上げた物、それは金色のパスケースだった。そのパスケースに差し込まれているカードには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『INFINITY』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝無限”を意味する英単語が刻み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――ッ!?」」

 

当然、その後もZEROの暴走は続き、体育館や校舎はどんどん破壊されていく。それによる地震は校舎内で戦っていたロキとスノーズも感じ取っていた。

 

「おいおい、何だってんだ…!!」

 

「校舎の外で、何かが派手に暴れているみたいだね」

 

地震の原因を察知したいところだが、今は怪人や亡霊の対処が先だ。ロキは手に持った二本のデュランダルで怪人達を回転斬りの要領で纏めて斬り裂き、スノーズは氷のランスで亡霊達を貫き氷漬けにしていく。

 

『邪魔ヲシテクレルナ…』

 

「「!」」

 

声が聞こえてきた。ロキとスノーズは立ち止まり、声の聞こえた方向を睨みつける。

 

「何だ…?」

 

二人の視線の先に紫色のオーラが集い、人間のような姿に変化。そして〝それ”は言い放つ。

 

『我々ハ地上ニ降リ立ツノダ……我々ヲコノヨウナ場所ニ閉ジ込メタ〝奴等”ニ、復讐スル為ニ…!!』

 

「「…!?」」

 

〝それ”が告げると同時にまた更に複数の怪人や亡霊が出現し、ロキとスノーズは再び武器を構えてから迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動物園跡地…

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!」」」」

 

ソラと竜神丸、そして目覚めたげんぶと凛の前にも複数の怪人達が出現する。

 

「何これ、怪人…!?」

 

「ふむ? このような場所にも現れるとは…」

 

「何だって構わん。敵なら倒すだけだ」

 

げんぶの腰にはベルトが出現。彼は腰に持っていった両腕を素早く真上に突き上げ、『X』の字を描くように大きく広げていく。

 

「大、変身…!!」

 

右手を斜めに突き上げてから、げんぶはその場から大きくジャンプ。飛び上がった瞬間に彼の身体はスーツにマスク、そしてパーフェクターが装着され、げんぶは改造人間―――仮面ライダーXへと姿を変える。

 

「仮面ライダー…X!!」

 

「なら私も、ハルトから借りたこれで…変身!!」

 

『カポーン!』

 

凛はハルトから借りていたバースドライバーを装着、セルメダルを投入して仮面ライダーバースに変身。すぐさまバースバスターを取り出し怪人達に向かって乱れ撃ちを繰り出す。

 

「ライドルホイップ!!」

 

Xはベルトから取り出した専用ツール〝ライドル”を短鞭と剣を合わせたような鞭形態〝ライドルホイップ”へと変化させ、怪人達を迎え撃つ。

 

「…どうする? 竜神丸」

 

「私は今回の騒動の原因について、捜索に当たるとしましょう。あなたもあなたで、早く見つけなければならない人物がいるのではないですか?」

 

『DEATH』

 

「ではソラさん、また後で」

 

「…あぁ」

 

竜神丸はデス・ドーパントに変身した後、すぐに姿を消してしまった。それを見届けたソラは何とも言えないような雰囲気のまま、この場をXとバースに任せる形でその場から立ち去るように姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大屋敷では…

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SLASH≫

 

≪MAGNET≫

 

「ウェアッ!!」

 

『グギャァァァァァァァッ!?』

 

怪人達と戦闘中だったブレイド。磁力で引き寄せたラットファンガイアをブレイラウザーで一閃し、腹部を貫きそのまま爆散させる。

 

「ふぅ……ま、こんなところか?」

 

今のファンガイアで最後だったのか、怪人達は全滅していた。ブレイドは変身を解除して支配人の姿に戻ってから、たった今撃破したファンガイアの残骸を手で拾い上げる。

 

(思ってた以上に弱かったな。死んでる所為で、生前程の力を引き出せてないのか…?)

 

彼が戦った怪人達はあまりに弱過ぎた。いや、既に死んだ存在であるが故に弱いのか。まだまだ調べる余地はありそうである。

 

「ま、無駄に長く考えても仕方ないか。まずはガルムや蒼崎と合流しねぇと…」

 

-ピシィッ-

 

「!?」

 

そんな支配人の足元に、紫色の裂け目が発生。すぐに避難しようとした支配人だったが、裂け目が支配人を飲み込んでいくスピードの方が速かった。

 

「く、何だ…!?」

 

そして支配人はそのまま、裂け目の中へと引き摺り込まれてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、病院では…

 

「―――ん」

 

気絶していたディアーリーズが少しずつ意識を取り戻し、閉じていた目がゆっくりと開いた。

 

「ッ…ここ、は…?」

 

そこは病院の屋上だった。青い筈の空は紫色に染まっており、今いる空間が普通じゃない事を表している。

 

(確か……あの時、雲雀さんに刺されて…)

 

 

 

 

 

 

『許サナイ……アノ娘ヲ不幸ニシタ、アナタ自身ガ許セナイ…!!!』

 

 

 

 

 

 

「…ッ!!」

 

ディアーリーズは拳を叩きつける。かつての雲雀との約束も守れないまま、美空は全てを失うという不幸な目に遭ってしまった。その事で、雲雀にまで悲しい思いをさせてしまった。それらの気持ちが一片に重なり、ディアーリーズの心を締めつけていた。

 

(僕は美空さんを守れなかった……本当なら、雲雀さんに殺されたって当然だ…………なのに、僕は何故こうして生きてるんだ…)

 

拳を握る力が強くなり、爪が食い込み僅かに血が流れる。しかし今のディアーリーズからすれば、そんな傷などこれっぽっちも重要ではない。今の彼にとっては、雲雀から吐き捨てられた言葉の方が心に強く圧し掛かっているのだから。

 

「僕は、どうすれば…」

 

そんな時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お、目覚めたみたいだな!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディアーリーズの前に、青年の亡霊が姿を現したのは。

 

「ッ!? 亡霊か!!」

 

『のわっ!? ちょ、待て、落ち着け!! 俺は敵じゃないって!!』

 

ディアーリーズからレオーネを向けられ、青年の亡霊は慌てて自分は敵じゃないと告げる。ディアーリーズは警戒したものの、目の前の亡霊から敵意を感じられなかった事からレオーネを待機状態に戻す。

 

『あぁ~いきなり過ぎてビックリした……まぁでも、無事みたいで良かったよ。その傷、結構酷かったし』

 

「え? …あ」

 

この時、ディアーリーズはようやく自分の上半身が裸で、腹部に包帯が巻かれている事に気付く。

 

「これ、あなたが…?」

 

『あぁいや、治療はあんま得意じゃなかったから、他の子達がやってくれたんだ』

 

『『『あ、お兄ちゃん起きたー?』』』

 

「!?」

 

亡霊の真後ろから、子供の亡霊達が何人か飛び出してきた。いきなりの出現でディアーリーズは驚くも、彼等からも敵意は感じなかったので警戒はしなかった。

 

そして…

 

「あ、ウル兄ちゃん!」

 

『『ウル!!』』

 

「え、咲良!? アンクにメズールまで!!」

 

咲良がディアーリーズに飛びつき、アンクやメズールも腕だけの状態で飛来して来た。探していた人物が見つかった事や、その探していた人物が子供の亡霊達と仲良くしていた事もあって、ディアーリーズは状況の整理が上手くつかない。

 

「え、何で咲良がこの子達と…? それにアンクやメズールまで……てか、その前に今何時…あれ、何か色々と訳が分かんなくなって……ありゃりゃ?」

 

『落ち着け馬鹿ウル』

 

『あら大変、状況の整理が上手く出来てないっぽいわ』

 

『そ、そうなのか…?』

 

アンクの突っ込みとメズールの説明に、青年の亡霊は思わず苦笑いする。

 

『でも良かったな、咲良ちゃん。お兄ちゃんと無事に再会出来て』

 

「うん!」

 

「え、あ、え……どういう事?」

 

『…理解が追い付いてないな』

 

『簡単にでも、説明した方が良さそうね』

 

ここで、アンクとメズールが事情説明を開始する。

 

『お前が部屋から出ていった後、咲良がいきなり変な空間に引き摺り込まれそうになってな。俺とメズールで引き止めようとはしたんだが、結局この病院まで転移させられたんだ』

 

『そこで、この子達と会ったの』

 

『『『えへへー♪』』』

 

メズールに順番に撫でられ、子供の亡霊達は楽しそうに笑う。

 

『そして、コイツ等の案内でこの馬鹿に会い、咲良とこのガキ共の面倒を見てたって訳だ』

 

『あぁそうそう、そういう事……って誰が馬鹿だ誰が!?』

 

『はん、お前以外に誰がいる?』

 

『言ったなコイツ!? あんま人の事を馬鹿馬鹿言うな!!』

 

『ならどう呼べば良い? お前なんか馬鹿で充分だ』

 

『あ、また馬鹿って言ったな!! 馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞバーカ!!』

 

『なら、お前も馬鹿って事になるなぁ?』

 

『ぬぐ……お前のそういう所、本当にアイツとそっくりだな!!』

 

『二人共、面白~い!』

 

『『『アハハハハハッ!』』』

 

『悪口のレベルが低いわね、二人共…』

 

「あはは…」

 

アンクに馬鹿呼ばわりされた青年の亡霊は突っ込みを入れ、何やら漫才染みた罵り合いがスタート。それを見ていた咲良や子供の亡霊達は大笑いしており、メズールは呆れた様子で呟き、それらの光景を見ていたディアーリーズも自然と笑みが零れる。

 

『と、とにかく! 俺やこの子達で一緒に、咲良ちゃんやメズールちゃん……それとアンク。皆で一緒に君をここまで運んだんだ』

 

「そうだったんですか……咲良の面倒を見て頂いて、ありがとうございました。僕はウルティムス。呼び方はウルで構いません。えぇっと…」

 

『あぁ、まだ自己紹介してなかったっけ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺、城戸真司って言うんだ。よろしくな、ウル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青年の亡霊―――城戸真司(きどしんじ)はそう名乗ってから、ニカッと明るく笑ってみせるのだった。

 


 
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