~一刀視点~
孫呉の陣営
身体が焼ける様に熱い。命の刻限が徐々に磨り減らされているのがわかる。
今の俺は燃え尽きる前の蝋燭、でも、まだ燃え尽きる訳にはいかない。
このまま曹操との戦が始まったら敗れる可能性が高いから。
あの外史の戦は雪蓮が命を懸けて先導に立ち、将兵に決死の覚悟、勇気、
心の奥底に眠る熱き血潮を呼び覚まし、兵数で不利の孫呉を勝利に導いた。
けど、この外史で雪蓮が兵を鼓舞したとしても、あれ以上の成果は現れないだろう。
それは、兵が悪いんじゃない。命が燃え尽きる君を目の前にしたら、
普段の数倍、それ以上の力を発揮するもの。だから、今の外史で全身全霊の力を発揮したとしても、
あの外史には遠く及ばない。
…今、俺がやるべき事は二つある。一つは戦場で雪蓮に気付かれずに、
精鋭の護衛を就け暗殺を阻止させる事。
そして、もう一つは雪蓮が示してくれた…
「北郷、入るぞ」
冥琳が天幕を上げ、中に入ってきた、その足取りが思い様に窺える。
「…お前の為に野営を設置したんだ。時が来るまで横になっていろ。
そのほうが楽にだろう」
「ありがとう、冥琳。皆はどうしてる?」
「雪蓮を始め皆の者が最終調整に入っているが、何人かは頭ではわかっておろうが
心ここに在らず、そんな状態だ。…この戦、相当厳しくなるだろう」
「やっぱり、そうか。……ぐっ!!」
「北郷…!!」
「だ、大丈夫。まだ燃え尽きたりはしないさ。
…ごめんな、冥琳。俺に残された時間がもう僅かなのを皆に伏せてくれて」
「雪蓮や皆、孫呉の為…なのだろう」
「…雪蓮は強い様に見えて心が弱い一面がある。俺が毒に犯されていると聞けば、
戦に支障を来たすだろう。それだけは絶対に避けたい。
後、これ以上、皆に動揺を誘いたくないんだ」
「…私は黙っていると言う判断が正しいかどうか、わからない。
だが、北郷の気持ちは痛いほどわかる。…すまない」
「どうして、冥琳が謝るんだよ。全て俺の我が儘が悪いんだ。
気に病む必要はないよ」
「……………」
そう、気に病む必要がないんだ。雪蓮を救い、運命を変えた。
そして、その結果、外史の因果が俺に降りかかった。
只、それだけなんだ。
「…冥琳。頼みが二つある。一つは思春と明命を今直ぐ呼んでほしい。
それと、もう一つは、戦が始まる前の鼓舞、それを俺にやらせてくれ。
見ての通り死を賭す者が行えば、十二分に効果が現れるはずだ。
だから、頼む。冥琳」
「……成る程そういう事か、わかった。急いで思春と明命を連れてくる。それと鼓舞の件も
雪蓮に伝えておく。だから、二人が来るまで頭も休ませるんだ」
俺は無言で首を縦に振った。冥琳は俺の返答を確認した後、この場から出て行った。
二人が来るまでに身体を休ませておこう。
……………
………
…
「失礼致します、一刀様」
「……入るぞ」
一刻も経たないうちに、思春と明命が俺が休んでいる野営に来てくれた。
俺は横になっている身体を起こそうとするが、痛みと一度休憩した
気の緩みから力が入らなかった、それを見ていた。明命が身体を起こすのを
手伝ってくれて、何とか上半身を起こした。
「…ありがとう、明命」
「…いえ」
「思春もありがとう。急に呼びつけたのに来てくれて」
「………」
…明命の顔色が暗い。恐らく俺の心配によるものだろう。
また、思春も何時もより覇気がない様に窺える。
参ったな。どうにかして安心させてあげないと。
俺は明命の頭を撫でる。不意を突かれた明命は小さく驚き、こちらを見てきた。
身体に激痛が走る中、笑顔を差し向ける。心配しなくていい、大丈夫だ。
という思いを込めながら。だが、毒によるものとは違う別の痛みに心が歪む。
それは嘘を吐いているから。…俺は絶対に地獄行きだな。
「…冥琳様から話を聞いた。私らに何の様だ」
静寂が支配する中、思春が開口した。
俺は明命の頭を撫でている手を止め、二人に頼み事を伝える。
「実は思春と明命の部隊から精鋭を数名、雪蓮の護衛に就けて欲しいんだ。
それと、雪蓮に気付かれない様に派遣してほしい」
「…兵を出すのは構いませんが、どうして雪蓮様に護衛が必要なのでしょうか?
雪蓮様には優秀な近衛兵が就いております。わざわざ、私達の部隊から
派遣する意味がないのでは…」
明命の質問に思春も無言で同意する。確かに何時もの戦なら派遣する必要はないだろう。
だが、この戦は今までとは違った別の顔が出る可能性が高い。
それに慎重に慎重を重ねておきたい。
「…知っての通り、この傷は雪蓮の暗殺に由るものだ。俺はそれを何とか防ぎ、
雪蓮と冥琳が刺客を斬り倒した。けど、敵は…っ!!……まだ、
雪蓮の暗殺の機会を窺っていると思うんだ…」
…また、痛みが…二人に悟られない様にしなくては…!!
「……更に刺客の送り主は許貢と判明した。許貢は最近、曹操に帰順し、
信頼を勝ち取りたいと言う思いから、手柄が欲しいと睨んでいるだろう。
だから、また、雪蓮の暗殺を画策している筈だ。
…そこで、思春と明命の兵の出番って訳だ。二人の自慢の兵は、
密偵、斥候をこなしている為、近衛兵よりも格段に目が良いし危機察知能力に長けている。
必ずや、いち早く暗殺の芽を摘んでくれる」
「…わかった。そういう事なら喜んで派遣しよう。
だが、もう一つ疑問がある。何故、雪蓮様にお伝えしないのだ」
「…ああ。それは、雪蓮が頑なに断ると思うから。
私の為に兵を裂くのなら、自分の身を守らせなさいってね」
「…違いないな」
「…そうですね」
思春と明命は苦笑を漏らした。…苦笑でも笑みは笑みだ。
これで何時もの雰囲気に多少でもいいから、戻ってくれればいいんだけど。
ジャーン!ジャーン!ジャーン!!
突然、銅鑼の音が鳴り響いた。この音は敵の軍勢が直ぐそこに迫っている合図。
急いで雪蓮の下へ向かわなくては。
「明命。…悪いけど肩を貸してくれないか?」
「…は『私が貸そう』い?」
「…え?」
「…私では不服か」
「い、いや。そんな事はない。そ、それじゃあお願いするよ」
思春は矢が刺された方とは逆の腕を首に回し肩を貸してくれた。
正直、驚きを隠せない。この時期の思春が俺の為にここまでしてくれるなんて。
これも、雪蓮の運命を変えた影響なのか
「…北郷。私はお前が嫌いだった。軟弱で何時もナヨナヨして、
それでいて乱世に不釣合いの甘い考えを持ち合わせていていけ好かなかった。
だが、先程の言、雪蓮様への忠義を見せ付けられたら、
私の考えが間違っていたと思い知らされた。
それ所か初めて尊敬できる男に出会えたと思った」
「……………」
「曹操との戦、必ず勝ってみせる。北郷も成す事を遂げ次第、
ゆっくりと休息をとるんだ。孫呉にはお前の様な男が
これからも必要だ」
「そうです、一刀様。約束して欲しいです。また、元気なお姿を見せてくれるって」
「……わかった。約束――する」
……辛いな。破るとわかっていながら約束を交わして、嘘を貫くのは。
でも、俺は使命を果たさなければならない。
たとえ、その結果、皆に恨まれようとしても、
雪蓮を――孫呉を守ってみせる……!!
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こちらは真・恋姫†無双の二次創作でございます。
サクッと書けましたので神速投稿です♪
とは言え、この早さは実に稀なので次回は遅くなりそう。
目標は月2回のペースで投稿したいですね~
最後に、稚拙な文章、口調がおかしい所があるかもしれません。
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