《更新履歴》
◆2013/03/17
再公開
◆2012/04/30
pixivのTBアカウント閉鎖に伴い、英雄!用アカウントに『principium』を移動
『お得意様は裁判官!』のネタバレを含む為、一時非公開に
◆2012/04/03
pixivのTBアカウントにて『お得意様は裁判官!』連載開始
◆2011/12/10
pixivのTBアカウントにて『principium』連載開始
◆2011/11/25
※tinamiアカウント1にて『お得意様は裁判官!』の連載開始
※tinamiアカウント1は一度退会した為削除。現在登録し直した為アカウント2で連載中
【ūnus】
人々にファーザーと呼ばれ敬われ、恐れられている人物が居る。歴史の影に隠れ、しかし確かに存在し続けるその人物が初めて表舞台に現れたのは、1900年のことだった。
【1933年、不思議な力を持つ人間の存在がシュテルンビルトにて確認され始める。誰ともなくそんな人々を「NEXT」と呼ぶようになり、やがてNEXTはヒーローとしてメディアに進出。蔑視や差別を乗り越え市民に認められるまでになった。
しかしNEXT犯罪が凶悪化し、ヒーローだけで対処出来ぬ局面も多発。犠牲となる一般市民のNEXT反感が強まり対立し始める。時を経てそれは武力による争いへと変わり、周辺都市にも飛び火し全世界を巻き込んだ大戦へと発展。現在もNEXTと非NEXTによる争いは続いている】
時は2021年。戦火激しいその地区、あるビルの地下。NEXTと非NEXTとの争いを簡単に纏めた91年発行の古い雑誌から目を上げたのは、NEXTから〈ファーザー〉と呼ばれ敬われている人物だった。理由は二つ。一つはNEXTから成り立つ組織「ウロボロス」の長である為。そしてもう一つは。
「ファーザー、連れて参りました」
部屋を訪れた一人の女と少年。彼は躊躇いなくファーザーに歩み寄った。
「お願いします、ファーザー! オレをNEXTにして下さい!!」
ファーザーは頷いた。その身体が青に輝く。少年は感極まり瞳を閉じた。
人々にファーザーと呼ばれ敬われ、恐れられている人物が居る。変わらぬ姿のまま100年以上の時を生きるその人物が、“歴史上”初めて疑似NEXTを造り出したのは、1903年の冬だった。
【duo】
1900年、幾度もの水害と治安の悪さにより疲弊した地方の小さな町が一人の人物によって買収された。町の長に就任した買収者の指導の下で町は復興への道を歩み始め、人口が増え発展し、遂には一大都市へと変貌を遂げる。それを機に田舎町は「シュテルンビルト」と名前を変え、長であり町の再生者でもある買収者を、市民は敬意を込め〈ファーザー〉と呼んだ。1930年のことである。
しかし翌年ファーザーは行方を晦まし、更にはその2年後不可思議な力を持つ人間が確認されるに至り、次第に人々の記憶からも存在を消していった。77年現在、シュテルンビルトの祖たる人物の存在を知る者は極僅かである。
「司法局にて新たなるヒーローがこの程認可されました。実名、ヒーロー名共にバーナビー・ブルックスJr.といい、顔を出してヒーロー活動を行うとのことです」
ファーザーの右腕として仕える女性は淡々とそう報告する。ファーザーが「わたしの運命の女神だ」と発言したことから〈女神〉の二つ名で知られる彼女は、1900年ファーザーと共にこの地を訪れたメンバーの一人だ。
「そっ。ならここまでは予定通りだね」
「はい」
「コンビの件はどう?」
「ご指示通り、シーズン終了後にアポロンメディアにて伝達される手筈を」
「そっ。流石わたしの〈女神〉」
通称で呼ばれ彼女は目を細める。「神とは正確にはあなたのことです、ファーザー。わたしではありません」
「でもわたしにとっての女神はお前だもの」
ファーザーは組織幹部の一人であるトレースが差し出したファイルを受け取った。第十二幹部ドゥオデキムとその従者アンシラについての報告書だ。ドゥオデキムはレジェンドにより逮捕され現在はアッバスに収監されている。歴史上あの男の出番は本来なら皆無。だがコンビが上手くいくのなら、十二番目の部下をヒーローに宛がってみるのも良いだろう。
「さぁて、ここから過去がどう変わるのか楽しみだね」
「正確には未来です、ファーザー」
「でもわたしにとっては過去だもの」
微笑んだファーザーの存在を、未だヒーローは誰も知らない。
【trēs】
ファーザーの手により造り出された疑似NEXTには全て監視が付けられている。故に23年、疑似NEXTの子であるアルバート少年が力を発動させた時もすぐさまファーザーに連絡が入った。
報告を受けマーベリック家に赴いたファーザーはアルバートと対面。少年は両親の変わり様に困惑を隠せないでいた。
「初めまして、坊や」
「…誰?」
「君のご両親の知り合いだよ」
少年の後ろを見遣れば、虚ろな目で宙を見つめるマーベリック夫妻の姿があった。
「……本当に? ならどうしてパパとママがこんな風になっちゃったか分かる?」
「まずは確認しようか。一体何が起こったのかをね」
根気強く話を聞けば、自分が青く光った後両親に触れた途端にこうなってしまったのだという。彼是3日もこの状態で、どうすればいいのか分からず途方に暮れていたと。
「成程ね。じゃあアルバート、こうしたらどうかな」女神に目配せをする。「ご両親は病院に連れて行ってお医者さんに診て貰おう。君はその間わたしの家においで」
「で、でも……」
「病気が移ったら君のパパとママはとても悲しむよ。だから二人が元気になるまでの間、いい子だからわたしと一緒に待っていようね」
女神が屈んで少年の腕を取る。怯えて思わずアルバートは能力を発動させるが、女神に彼の力は通じない。少年は驚いた様子で女神を見た。
「大丈夫、君の力はわたしたちを傷付けない。勿論君自身もね。だから安心してついておいで」
「…………本当にパパとママを治せる?」
「約束するよ、アルバート」
混乱の最中であった為か、はたまた縋り付きたい存在が欲しかったのか。それ以上少年は手を煩わせることなくついて来ることを決めた。
彼の両親はファーザーの指示により隔離された。その後力を完全に制御したアルバートの手により偽の記憶を与えられ、再び家族として三人で生活を共にし始める。一家での暮らしは、青年アルバートの依頼でウロボロスが両親を殺害する35年まで続いた。
【quattuor】
組織を揺るぎなき体制に整え、ファーザーは31年に表舞台から退いた。自身を知る存在が少なければ少ない程後の活動が容易になる為だ。その2年後、ファーザーの知る歴史と違うことなく超能力者の存在が確認される。24年に疑似NEXTの子として生まれていた少年だ。事前の根回しもあり、この子供が人類史上初の「NEXT」として記録された。後の初代ヒーローでもあるMr.レジェンドである。同時に彼らの名称である「NEXT」も司法局に認知されることとなった。
レジェンドを皮切りに次々と、人々の言うところの“不思議な存在”“人と違う生き物”が確認され始めた。初期のNEXTというだけあって強大な能力を持つ者が多く、必然的に彼らは異端視されてしまう。定期的に会食の機会を持っていたアルバートからは、周囲が抱くNEXTへの反感について詳細に報告された。
未来と代り映えしない非NEXTたちの嫌悪。この時代から非NEXT全部をまた消し去ってしまいたくなる。彼らの感情がファーザーを生み出すこととなり、泥沼化した大戦を齎したのだ。
しかしNEXTだけの世界を作ってみても、アンドロイドだけはどうやっても消せなかった。NEXT、非NEXT、アンドロイドによる三つ巴の戦争が勃発した未来図は、NEXT対アンドロイドの戦いへと若干姿を変えただけ。どの道平和は訪れなかった。
もう幾度目となるこの時代は流石に見飽きた。早く自らの時代へと戻りたい。こんなことをしているぐらいなら、いっそ未来に帰って同志と共に戦いたかった。だがファーザーがやり遂げると信じて逝った者を思い出せば、そんな稚拙な感情で全てを投げ出すわけにもいかない。ファーザーと同じく未来から過去へとついて来てくれた者も居る。彼らの前で不安を見せることは出来ない。
ファーザーは運命を変えることは出来ない。過去を変えても、どう足掻いても、生き抜いて欲しい人であればある程、原因は違えど必ず同じ日に命を落とす。故に未来に戻っても死んだ人間と生き続けることは叶わない。その事実もまたファーザーを過去――即ち大戦の分岐点――に留まらせる理由であった。
「爆弾騒動?」
77年の秋。ウロボロス第七幹部セプテスの言葉にファーザーは顔を上げる。すぐ傍には女神が控えていた。
「はい。来る10月16日、フォートレスタワービルにてC9を使用した爆弾を設置します。新たに我が至上派に加わった男のテストも兼ねて行う予定です」
「フォートレスタワービルって何だったかな」
問われて女神が答える。「シュテルンメダイユ地区に建設されたビルです。エントランスには“平和の象徴”としてMr.レジェンドの像が設置されます」
「“平和の象徴”にレジェンド? 何の冗談それ」渡されたファイルに軽く目を通す。「ふーん。ま、いいよ。好きにして。あ、そうだ! セプテス、マーベリックに連絡して。アポロンのコンビを当日フォートレスタワーに送り込むようにって」
「あの二人を…ですか」
「テレビで見てるとどうにもね、役に立ちそうにないんだあのコンビ。せっかく組ませたのに全然パッとしないでしょ? ここらで試してみるのもいいかと思って」
「しかしもし万が一にも爆死した場合は……」
「たかが爆弾で死ぬ程度なら必要ないよ。わたしが欲しいのは役立たずじゃない。マーベリックにそう伝えて」
「かしこまりました」
「テレビ見たよ、アルバート。良くやってくれたね、ありがとう」
8日後、音声のみの通話で会話をやり取りをしつつ、ファーザーは繰り返しテレビで流されるコンビの活躍を眺めていた。
「いや、当分はこちらからの指示はないよ。好きに動いてくれて構わない――あぁ、爆弾犯はヒーローたちに探させなくて平気。始末するにせよ今後も使うにせよ、至上派内で片を付けるから問題ない」不意にその視線が手元に落とされる。「そうだね、それじゃあまた」
通話を切り上げ、テーブルに載せられた二枚のヒーローカードを取り上げる。先程自身で購入した物だ。店員からファンなのかと問われたことからするに、ワイルドタイガーのカードを買う人間はあまりいないようだった。
「片や翌年には能力がなくなって、片や5年後には死んで。コンビを組ませたことでこれからどう転ぶか興味があるよ。ね?」
「現状歴史に変化は見られません。確率も依然20%を下回ったままです」
「このまま88年を迎えたら面倒だなぁ。またやり直しとか気が遠くなりそう」
「気付け薬がご入り用ですか?」
「比喩的表現だから要らないよ、女神ちゃん」
「人間の言葉の理解力は依然として70%のままです、ファーザー。比喩についての詳細を求めます」
女神の手を自身の頬に当てながらファーザーは答える。「いいよ、そのままで。人間同士だって碌に会話が成り立たないんだ、お前はそのままで構わない」
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
ウロボロスのボスは何の目的で組織を作ったのか等を妄想してみました。
「ウロボロスは終わらない」=「ボスのNEXT能力でタイムループ」、
「部下は自我を持つに至ったアンドロイド」というありがち設定。
続きを表示