No.680295

26 お別れです。我が君………

秋宮のんさん

依然、魔力が戻らないカグヤ。
しかし、状況は進み、ついに『闇の諸事件』最後の戦いが始まる!

2014-04-20 22:31:00 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1500   閲覧ユーザー数:1469

●月村家の和メイド26

 

 月村宅地下、訓練場。

 カグヤはそこに千早と袴姿で、札を一枚床に置き、座禅を組んで瞑想しております。

 目的は精神集中による魔術行使のテスト。

「……っ!?」

 脳裏に伝わる痛みに負け、カグヤは魔術発動を断念します。

 リンカーコアを奪われてからそろそろ一月、やはり何をしてもカグヤの魔術は復活しないと見えます。

「はあ……、せめて集気法くらいは取り戻せればいいのですが……」

 身体の回復は何を持っても優先事項です。身体が治らなければ消耗戦でいつしか身を滅ぼすだけですから。

 身体は元々鍛えているのですが、魔力を使用できないと疲れるのが早くて困ります。その分を補うために栄養補給ドリンクを作ろうとしましたところ、ノエル義姉が嬉々として手伝ってくれました。おかげでこちらはなんとかなりそうです。しかし、肉弾戦だけでは心許無いですね。今までは霊鳥があったので避けてきましたが、銃の扱いを覚えた方が良いのでしょうか? 弓矢は持ち運びには不向きですし、魔力が無いのではむしろ劣化武装です。しかし銃って……苦手なんですよね~~~。

「如何(いかが)した物でしょうか……?」

 とりあえずは物量装備を持ち合わせた方がよさそうですね。拳銃、手榴弾、ワイヤー、ナイフ、……あらかじめ魔力を溜めておいた呪具なら、今のカグヤでも使えるでしょうか? 今度試してみるとしましょう。

 一通り考えをまとめて一階に上がると、ちょうどすずか様がいらっしゃいました。

「あ、カグヤちゃん。もう練習終わり?」

「はい、今日のノルマを超えてしまいました」

「そっか、それじゃあ汗掻いてるよね? 一緒にお風呂に入ろう?」

「すずか様の御求めのままに」

 カグヤがそう答えると、すずか様は「そう言うと思って、着替え持ってきてるよ♪」とカグヤの浴衣を取り出します。用意が良いですね、すずか様? 最初からそのつもりでしたか?

「それでは、期待してもらったと言う事で、御身体を御流しさせていただきますね」

「うん! いつもありがとうね」

 そう笑いかけてくださるすずか様。カグヤは全身全霊をもってすずか様の御肌を綺麗にさせていただきます! 確か、この前取り寄せたボディーソープが随分良かったですね? アレを使って差し上げましょう!

「最近、カグヤちゃんが抵抗なくすずかとお風呂入りだしたわね?」

「私達とも普通に入浴してくれるようになりましたよ?」

「カグヤちゃんが私達に馴染んでくれて嬉しいよ~~~♪」

 背後から聞こえる御三方の声に、カグヤ一言良いですか?

 もはや言うに尽きました(もう無理、逝きそうです)……。

 

 

 御風呂場にて、カグヤはすずか様の御身体を磨かせてもらっております。御身体を任されたからには、カグヤも全力で御奉仕させていただかなければなりません。

 片腕を取って、ソープを染み込ませたスポンジでゆっくりと指先に向かって流します。肌を傷つけないよう、力の加減に注意し、磨くと同時に血流を良くするためのマッサージを兼ねます。指の間から爪の間まで、綺麗にし、一点の汚れもなく拭いとります。

 浴室の温度にも気を配ります。サウナの様に熱すぎると、湯船に浸かる前に逆上せてしまいますし、低いと風邪を召してしまいます。適切な温度にして、美容と健康に最大限の効果を与えて差し上げませんと。

「カグヤちゃん? 今日は下の方もしてくれる?」

「はい、すずか様が御求めとあらば」

 カグヤはスポンジを腕から肩へ、肩から胸、腰、御腹、と手を下げて行き、正面から艶やかなすずか様の御肌に触れて行きます。

「ひゃっ!? カグヤちゃん!? そんなところまで……きゃぁっ!?」

「あ、逃げてはいけませんよ? すずか様。ほら……、ちゃんと割れ目も拭いませんと?」

「やっ!? だめ! そんなにしちゃダメェ!!」

「すずか様がして欲しいと頼んだのですよ?」

「そ、そうだけど……、耳元で呟かないで……っ!」

「すずか様は文句が多いですよ? さあ、さっきは浅い所までしかできませんでしたから、今度は奥の方を磨かせていただきますよ?」

「ええぇっ!? そんなんの我慢できないよ~~!」

「していただかなくては? さあ、もう少し開いてください? 此処が一番汚れが溜まるんですから。ね?」

「そ、そんなぁ!? そんなに! ひゃあっ!? 私、私、もう……っ!!」

「もう? ……なんですか?」

「もう……っ!」

「はい?」

「ダメェ~~~~! あはははははははは~~~~~っ!! くすぐったいぃ~~~~!!」

「ですから御辛抱を……、もうっ、すずか様? これでは足の裏が洗えませんよう~?」

「だ、だって、カグヤちゃん指の間まで念入りに洗うんだもん……っ!」

「うふふっ、すずか様の汚い所などないようにするのが、カグヤの務めです。さあ、観念してカグヤに洗わせてください? 続きをしますよ~~~?」

「カグヤちゃんなんか嬉しそうだよ?」

「嬉しいと言いますか、楽しいですよ? 遊んでいる気分です♪」

「もう~~~! カグヤちゃんたっら~~~~♪」

「逃げてはいけません、すずか様~~~♪」

 身体を磨き終わって御風呂から出た後、何故か忍御嬢様が恭也さんに「ねえ、今すぐ会えない? ちょっとまずいの……、妹達の所為で」と連絡していらっしゃいましたが、はて? 一体何があったのでしょう?

 

 

 何はともあれ、後はもう寝るだけです。

 カグヤのベットに一足先に入ってしまったすずか様は、自分の御部屋から連れて来た猫達と戯れながら携帯で皆と連絡を取っているようです。メンバーはアリサ、なのは、フェイト、龍斗、携帯連絡ではありませんが、この要件にはカグヤも入っているようです。

「明日は終業式でしたよね? 何か帰りにイベントを御考えで?」

「うん♪ はやてちゃんに、みんなでサプライズプレゼントを贈ろうと思ってるの♪」

「ああ、明日はクリスマス・イブでもありましたか。はやて様も御喜びになってくださるとよいですね。……しかしいきなりの事で、御都合は大丈夫なのでしょうか?」

「なのはちゃんも同じ心配してたけど、アリサちゃんが都合が悪いなら石田先生に渡してもらえば良いからって」

「そうですか、では、心おきなく……ですね。カグヤもシャマルとシグナムに会うのは楽しみです」

「カグヤちゃん、あの二人ととっても仲良くなってたもんね?」

「ええ、同じ従者として親近感があります。……そう言えば病室の気配はもうなくなったでしょうか? まだあるようなら御払いしてもらった方がいいかもしれませんね?」

「……カグヤちゃんこっち来て」

「どうしました?」

「怖くなったの。カグヤちゃんが変な事言うから……」

「くすっ、申し訳ありません」

 むくれてしまったすずか様と一緒にベットに入り、互いに額を押し当てて眠りへと入ります。

 明日が楽しみですね……。

 

 

クヨウ view

 

 シグナム達がこちらの世界に戻らなくなってから、管理局もこちらを追いきれていない状況に在る。一度、私のステルスを最大に利用して、管理局三名を追跡し、管理局内部に忍び込もうとも考えたが、行く先々で私の気配に無意識に気付いているあの女の子がいる所為で、それは断念せざる終えなかった。

 しかし、残りページも五十枚となり、一度戻って我が君を安心させようと言う話になった。これはに皆賛成し、唯一ザフィーラだけが普段から獣型を好んでいる所為か、ギリギリまで蒐集を続けるとの事だった。

 今現在、ザフィーラを除く全員が、我が君のお傍に集まっていた。

「はやて、ごめんね? あんまり会いに来れなくて?」

 落ち込んだ表情で我が君を見上げるヴィータ。ですが、我が君は首を振るとヴィータの頭を撫でて元気づける。

「ううん、元気やったか?」

「メチャメチャ元気!」

 ヴィータと我が君の様子を見て、我が姉君達も一様に笑みを漏らす。久しぶりの安穏に、管理局との戦いづくめで疲れた心が癒えて行くのが解る。

 この調子なら、次の出動で全てが終わる。今年中に全てを終え、我が君をお助けする事が出来る。やっと見えた光明に、少し気が緩んでいたのかもしれない。

 途端にしたノックと、後から聞こえた声に、我が君を除く皆が表情を硬くした。

 

 

カグヤ view

 

 はやて様へのサプライズプレゼント。そのイベントだけは成功しているように思えます。しかし、どうもおかしい空気が病室内に漂っています。

 おそらくはやて様の従者と思われる赤い御下げの女の子が、ずっとなのはを睨んでいますし、フェイトはシャマル、シグナムと何か小声で会話しています。龍斗に至っては黒い女性とメンチの切り合い状態。っというか、龍斗? あなたが睨んでるその人? なんか妙な気配じゃないですか?

 正直、カグヤは混乱してしまい、久しぶりに会ったシャマル達と会話する事も出来ません。

 

 

「事実ですかそれは?」

「ああ」

 病室内での反応が不可解で、カグヤは龍斗を外に連れ出し、話を聞き出した所、それは少々面倒な話しでした。

「シャマル達がカグヤから魔力を奪った張本人。更には『人災』のおまけがついて、主のはやて様はすずか様の御友達。土地の影響は、以前の結界破りの一撃以来ありません。ですが、あれも龍斗の御姉様が密かに処理して下さったからこそです。土地内の無断魔法使用の事もありますし、土地守への攻撃も罪科。……到底見過ごすわけにはいかぬネタが揃ってしまいましたね」

「俺はこの後、なのは達と一緒にアイツらと話してくる。今は此処は通信妨害されていて管理局に連絡できないから」

「今回はカグヤも参加してよろしいですか?」

「は? 何言ってんだ!? 今のカグヤちゃんは!?」

「解っていますが……、シャマル達と会話させてください」

「……近くが戦場になったら、すずかちゃんも危ないかもしれないよ?」

「……そう、ですね。ですが、すずか様の御友人であり、カグヤにとっても友人とあるあの方達を、このまま見過ごすのは、カグヤ・K・エーアリヒカイトとして、できないのです」

 もし、今のカグヤに『東雲カグヤ』と『ただのカグヤ』しか居なければ、こんな選択肢はなかったでしょう。ですが、今ここには、すずか様がくれた新しいカグヤが、『カグヤ・K・エーアリヒカイト』が存在するのです。もはや見逃す事などできようはずがありません。

「……解った。だけど、無理はしないで?」

「ええ、あくまで話し合いをするだけです。なのは達の手前、『狐』を演じる事となりますが、それでもしないよりはずっと……」

 すずか様……、カグヤの勝手で一時その身から離れる事を、御許しください。

 

 

 

 すずか様に、病室に忘れ物をしたと下手な嘘を言って一度別れ、鞄に仕舞っておいた対魔力素材で出来た桜の着物と、認識阻害の狐の御面を付け、久しぶりの『狐』として話し合いの場に参加する。しかし、状況はあまりにも良いとは言えなかった。話し合いを始めようとするなのは達に対し、闇の書の完成を阻止されかねないという事実が、彼女達の行動を攻撃的に変えていた。

 闇の書の完成=はやての救済に繋がると信じるボルケンリッター。

 しかし、闇の書のシステムは過去に壊れていて使えない事を伝えようとするなのは達。

 それは、横合いから飛び出したヴィータがなのはに一撃を放った事が口火となった。

「なの―――っ!」

「何をしてる!? 躱しなさいっ!!」

 なのはに駆け寄ろうとした龍斗を後ろから突き飛ばし、横合いから出現した女性の攻撃を避けさせる。

「!? 私の気配を……っ!?」

「名前をクヨウと言うそうですね? あなたがこの土地の人災で在る以上。正党継承者から譲り受けた、僕の龍脈感知能力が、あなたを『歪み』として捉えます。気配遮断は僕には通じない」

「……さすがに本物の土地守まで誤魔化せる力はなかったようね」

 クヨウがこちらに黒い刃を向けます。しかし、カグヤとクヨウの間に龍斗が立ちはだかりました。

「お前の相手は俺だろう?」

「正気? あなたでは私を捉えられないのよ?」

「狐、半径十五メートル近づくな。それ以上は庇う余裕がない」

 カグヤは素直にそれに従います。今のカグヤには魔力が全く使えません。戦闘は任せるしかない。

「彼女をアンテナ代わりに―――と言うわけでもないのなら、どうやって私に捉えるつもりなのかしら?」

「ああ、俺も今までずっとそのことばっかり考えてたよ。俺らしくもなくな」

 龍斗が床に剣を突き立て、龍脈から霊力を供給します。

「俺は俺だ。なのはみたいに空間把握能力もなければ、フェイトみたいに速いわけでもない。まして狐の様にお前を感知できる力があるわけでもない」

 龍斗は言いながら魔術で変えた刀を肩の辺りで水平に構え、切っ先をクヨウへと向けました。

「俺に在るのは、取り込んだ霊力を使って、ともかく我武者羅に撃つ事だけだったんだっ!!」

「屁理屈に付き合う気はないわ」

 クヨウが消えた。カグヤには感知できますが、それでも視界からは消えました。龍斗には気配すら確認できないはず―――!

「先に言っておく? まだ未完成だから加減なんて出来ねえ!! クロス・ブラスター!!」

 龍斗を中心に十文字に切り裂かれた風の牙。切り裂かれているのは十文字だけだと言うのに、十字に切り裂かれた周囲が暴風の猛威によって吹き飛ばされ、あるもの全てが薙ぎ倒されていきます。

 無論、姿を隠していたクヨウも逃げ場のない状況で叩き込まれ、強制的に防御させられてしまう。その防御してしまったために衝撃で固まっているクヨウ目がけ、龍斗の技が更に叩き込まれる。

「バスターストーム!!」

 螺旋に渦巻く風の砲撃。渦巻く螺旋の風が周囲の物を吸い寄せるように流れるため、硬直状態にあるクヨウは、やはり防御を強要させられる。

 直撃を受けたクヨウは悲鳴も暴風の轟音にかき消され、別のビルの屋上まで吹き飛ばされる。

「何度でも来いよ。何度隠れても、その周囲目がけて全部攻撃してやる」

 どうやらこちらは大丈夫そうです。そう判断したカグヤは、戦闘に参加していないシャマルの元へと走ります。

 

 

龍斗 view

 

「く……っ! なるほど、そう言う手段で来るのね……」

 クヨウは空中に飛び上がり、『復讐者(アヴェンチャー)』を自分の周囲に配置する。

 まだ空中戦は慣れていないが、今回に限っては大丈夫だ。なんせともかく周囲に一撃放てばいいし、接近戦で来るなら空中戦でもやり易い。フェイトほど早く打てないが、彼女も正攻法は得意としていない。充分に勝てる。

「なら、こちらも……、切り札を使うしかないようね」

「切り札?」

 まだ何かあるのかよ!?

「暗殺極意は三つ。一つ、『陽炎』……その姿を晒すことなく、対象を殺める。二つ、『不知火』……己を偽り、死の間際まで認識を殺す。そして三つ―――」

 クヨウが言葉を切った瞬間、『復讐者(アヴェンチャー)』が彼女の背中に上下二対、腰に二対、足に一対装着される。そして両手に一本ずつ、魔力刃を創り出して握られた。

「暗殺殺法三の口伝。隠れずとも見えず……『宵の口』」

 次の瞬間、『復讐者(アヴェンチャー)』から魔力が噴出されたと思った時には、既に俺は切られていた。

「!?」

「スキルエフェクト・バージョンⅣ『我が君の翼駆る騎手(ライダー)』。攻撃に転用する魔力を全て瞬間速度に変更しスラスターとして使用。他者が認識できない速度で撃ち抜けば、隠れるまでもなく暗殺は成立する。殺しは効率、故にある一定を超えた暗殺術は、単純な手段へと辿り着く」

 確かに!

 今までは見えないから戦えない。それでも見えれば戦えると言う物だった。

 だが、今の相手はそもそも見る事が出来ても対応できない状況だ。

 広範囲攻撃などしても意味がない。その時には既に、相手は逃げてしまっているのだから。

「これで再び、形勢は逆転―――!?」

 言いかけたクヨウが自分の左脇腹を押さえる。そこには俺が切りつけた刃の傷痕が残っていた。

「いつの間に!?」

「『切り札』、そう言われた時から嫌な予感はしていた。だからこっちも『切り札』を使わせてもらった」

「なっ!?」

「技の名は『サクヤ』。お前にこれがどんな技か解るか?」

「東雲……龍斗!」

「いい加減、決着付けようぜっ!!」

 

 

カグヤ view

 

「シャマル」

「!? 私を攻撃して通信妨害を消すつもり? そう簡単に―――!」

「『大切な人との約束より、本人の方が大切だ』」

「!?」

 カグヤは以前、シャマル本人から聞いた言葉を告げる事で、『狐』が誰なのかを暗に教えます。シャマルも意図に気づいたらしく、目を見開きます。

 さて、話し合いに持ち込むためには主導権を握らせてはいけません。一気にまくしたて、こちらの意思を素早く認識させることが重要です。

「安心してください。っと、立場上言ってはいけないのでしょうが……、幸い、今この身は戦う力を失ってしまいましたから」

「失ったって? だって、あなたは―――!?」

「褐色の男はザフィーラと言うそうですね? 彼に奪われて以来です、僕の力が……亡くなった義姉が唯一僕に残してくれた物が、失われたのは……」

「え? ……!?」

「シャマルは気にする必要ありません。正直恨みもしていますし、許す気などありません。ですが贖罪も求める気はない。対価となる物など、僕が魔法を取り戻したところで並ぶ事はないのですから」

「……、何が言いたいの?」

 シャマルの表情は少し硬くなっていました。追いつめられてしまった事で、精神的に不安定にあるようです。しかし、カグヤも此処で引くわけにはいきません。

「僕ならあなた達と同じ事をしました。そして個人的に八神はやてに消えられるのも困る。闇の書が完成して彼女が救われるのなら、この土地に居る間は土地守の権限において庇っても良かった」

「だったら―――!」

「それで八神はやてが救われるのなら―――っと言ったはずですよ?」

「……? どう言う事?」

 良かった。シャマルは冷静だ。やはりカグヤが来て良かった。彼女はカグヤの言葉をちゃんと聞こうとしてくれている。これなら説得が出来る。説得できれば、何らかの解決方法が見つけられるかもしれない。

「闇の書には、元々あった機能に、先代のマスターの誰かが余計なプログラムを混ぜた。それによってイレギュラーが発生しています。そのイレギュラ-と言うのは、闇の書の完成と同時に、マスターを利用して際限なく魔力を使わせる事らしいのです」

「!? そんな!? そんな事……!?」

「僕は、あなたに嘘はつかない!」

「で、でも……っ!?」

「まだ絶望しないで! 僕も彼女を助けるために協力します。そのために、彼女が救われるまで、あなた達を管理局からだって守ります。この命を証として立てても良い!」

「……カグヤさん」

「今は、狐にございます」

 カグヤは声の度合いを緩め、優しく語りかけるように締めますと、シャマルの表情から強張りが抜けて行きました。

「本当に……守ってくれますか?」

「主を思う気持ちは僕も―――俺も同じだ。俺の主が悲しむ姿を見るくらいなら、黄泉比良坂さえも乗り越えて見せる」

「………解りました。あなたは、信用できるから」

 緊張の解けた声に、カグヤもホッと安心が胸を浸します。まだ終わりではありませんが、これで争いは避けられそうです。

「では、すぐに教えてください。現状、八神はやてはどの程度まで危険域に入っているのです? それと、できるだけ闇の書による主への負担についての仕組みを。僕は術式についてだけは良く仕込まれていますので、仕組みさえ解れば、そこから割り込みができると思われます」

「本当ですか!?」

「事実、この土地の歪み、『人災』である彼女が闇の書のプログラムに取り込まれたと言うのであれば、割り込みその物は可能です。過去のマスターもそれをしていたようですし、……べるか式? でしたか? その式さえ解れば―――」

 会話の最中、異変に気付いたカグヤは空を見ると、なのはがバインドにかかっているのが見えました。そのバインドをかけた相手、仮面の男は、フェイトがすぐに見つけ出したのですが、横から出てきたもう一人の仮面の男に蹴り飛ばされ、あえなくバインドにかかってしまいました。

「二人!?」

「―――そう言う事かよ!?」

 こちらに向かって龍斗が飛び出そうとしますが、動きが単調だったため、設置型の強力なバインドに引っかかってしまいました。らしくない突貫、恐らく自由自在に飛び回るには、まだ至っていなかったようです。

 仮面の男の一人が懐からカードを何枚も取り出すと、それによって術式を発動します。札を使用していたカグヤはそれに逸早く気付き、横合いに跳びました。

 次の瞬間にはこの場に居た全員がバインドに捕縛され、身動きが取れなくなってしまいます。

「シャマル!」

「だめ! 後ろ!」

 今まで話していたシャマルに気を取られてしまい、背後から接近する男への反応が一つ遅れました。なんとか袖振りから取り出した匕首で受けましたが、その蹴りの威力にあっさり折れてしまい、衝撃で屋上のフェンスに叩きつけられてしまいます。

「くあっ!?」

 全身へと響く衝撃。まともに受け止める力一つないカグヤは、バインドさえ使われる事無く、鎮圧されてしまいました。

 

 

クヨウ view

 

 訳の解らない事態になっていた。

 ただ解るのは、私の姉君達が闇の書に蒐集され消えて行くと言う事だ。

 闇に潜む事で私だけが周囲から忘れられる事に成功していて、周囲の状況を確認する事が出来た。

 最初にシャマルが、次にシグナムが取り込まれ、消えてしまう。そしてヴィータが、その存在を奪われていく。

 助けなければ! 悪意の塊であるはずのこの身が、本能的にそう叫んだ。

 しかし、

「―――っ!?」

 途端に私のステルスが解除され、闇色の甲冑服が泥の様に溶けだした。

 刹那に理解してしまう。私は元々番外、ヴォルケンリッターに存在しない、最初からなかったおまけ。闇の書のプログラムによってのみ生かされた偽りの人形。私は騎士達に逆らえぬよう、騎士が消えるとともにその身を削り、闇の書へと返す仕掛けになっている。二人の騎士が消えた事により、この身の力と甲冑を奪われ、三人目が消え去ろうとする中、肉体の動きまでもが制御されていた。

「姉君!」

 叫んだところでどうしようもない……。この身は再び、ただの歪みに戻ろうとしていた。

「ぐおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!!」

 刹那に、駆け付けてくれた兄君が拳を男に叩きつける。だが、それは障壁によって阻まれ、兄君の拳が逆に血に染まった。

 そして、兄君のコアも、闇の書に蒐集されていく。

「兄君……っ!?」

「あっ! があああぁぁぁぁっ! がぐうぅぅぅ~~~……っ!」

 命を奪われる恐怖の中、それでも兄君は赤く染まった拳を握り、文字通り命を削る拳を叩き込んだ。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ―――それでも世界は理不尽に救いを許さない。

 爆発と共にこの身が崩れ、泥の塊になって行く。

 私が、私がただの『悪意』に戻ってしまう……。

 我が将、我が姉君、我が兄君、我が君、はやて……。

「さようなら……」

 私は、初めて出来た大切な人達に『別れ』を告げた

 

 


 
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