No.679821

【F-ZERO小説】Final LAP Wicked ~奴らは“神”で武装する~

【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】
・と言う訳で、多分原作を知らなくても読むのに支障は無い、二次創作としてそれはどうなんだ?的なF-ZERO小説(笑)ちょっぴり長めですが、宜しかったらどうぞです。
・F-ZERO小説なのにレースやってる描写が全然ないので、本格的にレースしたい方は本家ゲームを遊ぶ事をお勧めします(笑)
・基本GX設定ですが、アニメ版の設定も一部流用しています。
・俺がフェニを書きたかっただけなのでフェニ出ずっぱりです(笑)

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2014-04-18 23:21:15 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:669   閲覧ユーザー数:669

【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】

Final LAP Wicked ~奴らは“神”で武装する~

 

「…随分ふざけた名前を名乗るじゃないか」

 俺はその名を聞いて、思わず口に出してそう言った。

 

 複数の者が同時に喋るような不安定な声色で、彼らは自らを「創世主」と名乗った。

 

「“あれ”は何だ…?」

 ファルコンがデスボーン…とかつて呼ばれていた者を見ながら俺に尋ねて来る。

 そう、かつてはそう呼ばれていた……

 過去形だ。

 今は違う。

 

 今のそいつは、見た目こそ変わっていないが中身は全然別物だ。

 

 それを説明しようとして、俺は少し考えてしまった。

 こう言った“肉体を持たずに意思を持つ存在”の定義が、この時代にはまだ無い。

 俺たちの時代には存在する“そう言ったものを指し示す単語”が、この時代には、まだ無い。

 

「何て言えばいいのか……

 そうだな、感覚的に一番近い所で言えば“雰囲気”と呼ぶべき者なんだろうが、それだと分かりにくいだろうから…“幽霊”だと思ってもらえばいい」

「幽霊……?」

 ファルコンは怪訝そうな表情を浮かべながら、フワフワと宙に浮いているデスボーンだった者を見遣る。

 

 俺は軽く舌なめずりをする。

 今まであまたの事件を片付けて来たが、そんな奴を直接相手にするのは…流石の俺も初めてだ。

 

 だが、過去に例が全く無かった訳ではない。

 

 QQQが大急ぎで時空警察のサーバーから情報を拾って来て、別のチームの報告書の内容を俺の方に流してくれているが……この時空軸では無い、別の時空軸で別のチームが対峙した記録が残っている。

 

 俺たちは縦と横と奥行きと言う物質が支配し、それにプラスして時の流れが支配する世界にいる。

 

 だが、世の中にはもっと次元の違う所に住まう者がいる。

 例えば、今、俺たちの目の前にいて創世主と名乗る“幽霊”が住まう世界。

 

 ここを真面目に説明すると物凄く話が長くなる上に29世紀でも完全に解明された訳ではなく、俺にも説明しきれないので割愛する。

 

 かい摘んで要点だけ言うと、俺たちがいる世界と違い、生命と言う概念すら無く肉体そのものが無い。にも関わらず意識だけがある……あらゆる物質と言う概念が無く、時の流れしか存在していない世界に、そいつは巣食っているんだ。

 

 そう、時の流れだけが、意識を持っているような状態だ。

 

 勿論、その存在自体は何も問題が無い。大半の“幽霊”はその空間に疑問を持たずに、ただ時の流れに従っているだけだ。

 

 そんな環境の中で最初に起こった事件……

 こればっかりはQQQが送ってくれた報告書からの推測で、本当にこんな出来事があったのかどうかは分からない。

 

 それに、正確には事件と言うより事故と言うべきだ。

 

 本来なら交わる事のない、異なる次元の存在……

 こちらの世界にいる人物の思考と、幽霊たちがいる時の流れ……

 それが絡み取られるようにねじれ、交わってしまったらしい。

 

 極めて稀なケースだ。

 だが、全く無いとは言えないケースだ。

 

 俺たちだって、働いている時とかに全然関係の無い思考が沸き上がって来る事があるだろう?

 まだ仕事中なのに「今晩何食べようかな?」とか「あの子は今頃どうしているかな?」とか。

 あれと同じような感覚で、その人物の頭にボンヤリと「創世主と名乗る“幽霊”」の事が思い浮かび、そして……

 

 そのまま思考を乗っ取られてしまった。

 

 恐らく乗っ取られた方は…乗っ取られたと言う感覚すら覚えなかったと思われる。

 ただ…いつも見慣れている筈の日常が、何故か初めて接するかのように物凄く光り輝いて見えただけで……理由すら考える事無く、新鮮な驚きが沸き上がって来た事を受け止めただけだろう。

 今まで目にしていたもの、普通にそこにあるもの…それら全ては、時の流れしか存在しなかった世界から来た者にとっては驚きの存在でしかなかった。

 

 そしてそれを、ただ驚きを持って接するだけなら、まだ良かった。

 取り込まれた俺たちの世界に馴染み、その男の身体のまま、違和感なく生活をすれば何の問題も無かった。

 

 だが、奴らは、この世界を、自分達の次元に持って行こうと企てた。

 美しく、光輝いて見えたこの世界を、全て自分だけのものにしてしまおうと考えた。

 

 例えるなら、俺たちの世界を丸ごと空想の世界に持って行こうとしたと言った所か。

 

『“全て”が欲しかっただけだ』

 デスボーンの身体を使って、創世主とやらが話かけて来る。

『我々の世界には無かった、ここの全てを我が手中に収めたかっただけなのだ!!』

 

「…だからって、その為に、この世界をぶっ壊す事を許す訳にはいかねぇんだよ」

 俺は静かにそう返す。

 

 “あの時”もそうだった。

 突然、時の流れごと消えてしまった領域があった…

 それが、時空警察とデスボーンとの最初の事件。

 

 時空警察が最初にこいつと絡んだのは、物凄く遠い未来の話。

 俺がいた時代よりも、もっと数千年単位で未来の話だ。

 

 “幽霊”達はそれから“創世主”と名乗り、文字通り自分達の理想の世界を作り出すために、その世界にあるものを自分達のいる次元……異次元に次々と送り込もうとしていた。

 

 だから、俺たちの大先輩が事の収拾をつけようとした。

 激しい戦闘の末、事を運んでいた一人の男…創世主とやらが乗っ取っていた男を射殺し、それで全てが片付くかに思えた。

 

 だが、別次元から来た相手は元々肉体と言う概念が無い相手……

 つまり、死ぬという概念も無い連中だった。

 

 創世主は乗っ取っていた肉体もとい死体を捨て、新たな肉体を求めて時空間を彷徨い始めた。

 「自意識を持った時の流れから、意思だけを消し去る」能力は、その時代の時空警察にも持ち合わせていなかった。

 創世主を殺す事は時の流れを止めるのと同意……だから時の流れを破壊する訳には行かず、かと言って、この意識を放置しておく事も出来なかった。

 

「そうして苦肉の策として、時の流れの中の“創世主”の部分を二つのカプセルに隔離して封印し、男の死体と共に別々の時空間に投げ捨てた…時の流れが断絶しかけてて本部の協力を得る事が出来なかった当時の対応はこれが手一杯だった」

「…二つのカプセル?」

「例の鉱石だ。中で渦巻いていたのは、この創世主の根幹であるエネルギー体さ」

 

 ファルコンは俺の話を聞いて、デスボーンが手にしている宝石と、己のマシンの中に置いて来た宝石を交互に見遣る。

 

 まあ話がぶっ飛んでるから、にわかには信じ難いのだろう。

 

 正直俺だってそうだ。QQQがこのデータを引っ張って来なかったら、そんな事があったなど、にわかには信じられない。

 

 だが、世界を先駆けすぎた技術は魔法のようにしか感じず、当時の人間には理解し難い事も俺は知っている。

 

 例えば、縄文時代のような太古の昔にライター一本持って行くような感じだ。

 ライターなんて俺たちには当たり前の道具でも、現地の人には信じられない魔法の道具にしか見えない。

 恐らく、この宝石はそれと同じようにファルコンの目には映るのだろう。

 

『お前達に何が分かる!!』

 突如、俺たちが思考する事を許さないような、周囲の空気が張り裂けんばかりの怒号が響き渡る。

 相変わらずフワフワと宙に浮きながら、創世主と名乗るモノは唸り続ける。

 

『貴様らに何が分かる!?

 ここにあるのは我々の希望だ、未来だ!!暗闇に差した一筋の光だ!!』

『空気も光も大地も、我々が欲してきたモノだ!!今まで触れようと思っても触れられなかった、いや、存在すら知らなかった!!それを欲して何が悪い!?』

『お前らも、目の前に大金や権力が転がっていたら、相手を殺してでも欲しいだろう!?』

 

 一度に何人もの人間が言葉を吐いているようで物凄く聞き辛い。

 

 俺は話を聞きながら、身体の奥底から細く深く息を吐き出す。

「欲しくない…と言ったら嘘になるが、少なくても殺してまで奪おうとしないよ…俺はな」

 恫喝する相手に対し、俺は努めて冷静に振る舞う。

 

 こう言った場合、頭に血が上った方が負けだ……

 まあ相手には、恐らく既に血液と言う概念は無いだろうが。

 

 そうか、デスボーンと言うのは、こいつに意識を乗っ取られてしまっただけの可哀想な被害者か。

 どうりで何をやっても死なない訳だ。

 彼は遠い未来で既に死んでいて、その意識だけ、創世主と言う名の幽霊に支配され、動かされてきたんだ……

 

 デスボーン…死の骨か……

 命が無く、既にからっぽの、ただの創世主の“駒”……

 

 QQQの報告書を見ながら俺は考えていた。

 何故、創世主の力が宝石に封印されていたのにも関わらず、死んだ筈のデスボーンが動けたのか……

 

 恐らくコレは、当時の時空警察の方でも想定外だったと思うんだが……

 デスボーンの“命”は奪えたが、“意識”までは完全に奪えなかったのかもな……

 

 創世主の力は、二つではなく三つに分断されたんだ…大半は光の宝石と闇の宝石に。そして僅かながらデスボーンの中に…… 

 

『この世界が壊れても構わない…いや寧ろ、それが目的だ!!』

 創世主は俺の考え事を無視し、ケタケタと不気味に笑いながらは更に話を進める。

 

『我々は極めて当然の欲求を持っただけだ!!なのにこの身を、この力をバラバラにされた!!』

『我々は創世主だ!!この世界を破壊し、新たな世界を作るのだ!!我々は名実共に神になるのだ!!』

『これは復讐だ!!この力を取り戻すのに……気の遠くなる程の年月を……』

『僅かな共鳴だけが、互いを探す手がかりだった』

『当てずっぽうに近かった……唯一動ける“駒”に残った意識だけが頼りだった』

『既に死んだ男』

『この世の理から外れた男』

『時間にしか関与出来ない我々が、唯一この世にコンタクトを取れる鍵……』

『見つけるまでが長かった』

『長かった』

『恐ろしい程に長かった』

『何を言っても言い尽くせないくらいに長かった』

『やっとこの時代の』

『やっとこの場所に』

『投げ捨てられているのを知った』

『やっと取り戻せる』

『完全な形で、この世に関与出来る力を』

 

 いや、だから聞き取れないから、一度に喋るのをやめてくれないか?

 そう言いかけたが、言った所で相手は俺の話など聞かないだろう。

 

 だが、例え聞き取れなくてもこれだけはハッキリと分かっている。

 奴が言っている事はハッタリでは無い事を。

 この先の時空軸を破壊し、一切の時の流れが止まってしまった原因を生み出すのは、こいつらに間違いない。こいつならそれくらい、簡単にやり遂げてしまうだろう。

 

 俺は奥歯を噛み締め、拳を強く握る。

 その場しのぎだろうが何だろうが、こいつを何とかしないと大変な事になる。

 

 しかし…

 

 殺しても死なない相手をどうしろって言うんだ!?

 

「ん…?」

 今まで黙って相手の出方を伺っていたファルコンが小さな声を上げる。

 その声につられるように、俺も思わずデスボーンだった者の方を見る。

「あ……」

 そして俺も、同じように小さな声を上げた。

 

 デスボーンの身体の方から、パキパキと、何かにヒビが入るような小さく嫌な音がする。音は徐々に大きくなり、それから胴体のパーツにヒビが入り、少しずつ、少しずつそれが広がって行く。

 いや、よく見ると胴体だけではなく……あちこちにヒビ割れが入り、そのまま今にも朽ちていきそうな勢いだ。

 

 長きに渡る放浪で、既に死んでいる肉体は限界なのだろう。

 そこに、力を取り戻しつつある創世主が入り込んで来たら……その身はもう持たないだろう。

 

「そうか、だから、か……」

 俺は思わず声に出す。

 

「だからお前は……この世界の人間を丸ごと異空間に飛ばすとかしなかったんだな……」

 

 使えない肉体は捨てるしか無い。

 だが、肉体が全く無い状態の創世主は、ただの“時間の流れ”でしか無い…

 俺たちの世界に関与する為には、あくまで俺たちと同じ次元にいないといけない……

 

「お前達は探していたんだな…自分が乗っ取るのに一番適切な相手を……

 誰でもいいって訳じゃない、お前達全てを乗り移らせてもビクともしない、精神的にも肉体的にも強い相手を……その為に、どんな末端の相手であろうと、殺さずに様子を見ていたんだな?」

 

 恐らく最初は、宝石を探す手段を得るのと同時にシャドーの肉体を乗っ取るつもりだったのだろう。だが、どうやらシャドーより強い相手がいるらしいと感づき……誰がそうなのか?誰の肉体を乗っ取るのが適切なのか……それを見極める為に、必要最低限の人間以外には手を出そうとしなかったんだな?これから自分が使うかも知れない商品を、わざわざ壊す奴がいないように。

 

 シャドーより強い相手……

 奴と何度も交戦し、勝ってきた相手……

 レースの腕も立ち、いかなる時も冷静沈着。

 だから援軍が呼べないような環境に置き、自らの力が復活した今……そう、今、ここで、そいつの身体を乗っ取って世界を手中に収める……

 

 と、言う事だよな???

 

「ファルコン……」

「ああ、話はさっぱり見えないが、私の置かれている状況があまり良くないと言うのはよく伝わってきた」

 

 普通の相手なら結界を張って何とかするのだが、あいつに結界が通じるとはとても思わない…今のように集合体のようになる前の、力を取り戻せてないデスボーンですら止められなかった。

 

「とにかく彼を…ファルコンを渡す為にはいかない。だから……取り敢えず逃げるぞ!!」

「エッ!?」

 ファルコンとQQQに地味に呆れられたが、取り敢えず急場をしのがないと話にならない!!格好悪いとか、今はそんな事を言ってられる状況じゃない!!

 俺はもうなり振り構わず、ダッシュしてその場を離れてマシンに乗り、大急ぎでエンジンをかけ、アクセルを吹かす!!

 とにかく奴の狙いがファルコンなら、彼に逃げ通してもらわないと話にならない。

 だからファルコンの青いマシンの後ろに、俺の赤いマシンが続く。

 

 だが、突如強い横風にマシンが煽られる。

「何…!?」

 台風か竜巻か…そう言わんばかりの激しい横風だ。

 俺は風下の方向を風防越しに覗き、その風の正体を知る事になる。

 

 そこにいたのは、例の闇のチャンピオンベルトをつけたデスボーンの姿。

 地上数十メートルの所に浮かびながら空に両手をかざし、その先につむじ風を起こしていた。

 それがどんどん強くなり、デスボーンを中心にした竜巻のようになっている。

 マシンの行く手を遮る程の強い風……

 あまりの強さに前に行く事が出来ず、逃げる所か、現状を維持するのが精一杯な状態になってしまっていた。

 このままでは、マシンごと竜巻に持ち上げられ、ファルコンの持っている宝石ごと奴に吸収されてしまうだろう。

 

「QQQ、本部に連…」

「モウヤッテマス!!犯人拘束用ノわーむほーるデスガ、コノ辺一帯ノ時空間ノ歪ミノ影響ヲ受ケルノデ、頑張ッテハミマスガ、早急ニ展開出来ルカハ怪シイトノ事デス」

「だろうな!!くそっ!!」

 こう言った状況なので救援の方は当てにならない。

 かと言って、このまま横風を食らっていたら、あっと言う間にマシンは流されてしまう。

 それはファルコンも思っているらしく、何とかこの強風を乗り越えようとしている。

 だが現状では、徐々にだが奴の元に流されてゆく……

 

 このままじゃ駄目だ!!

 俺はQQQに頼んで、強引にファルコンのマシンに通信を繋いでもらう。

「ファルコン!!駄目元で二台同時にブースト使って飛び出すしか無さそうだ!!」

「ああ、分かった」

 二人で声を掛け合い、一斉にブーストを使ってパワーを上げてみるが…案の定、マシンはビクともしない。それでも俺たちは走り続けるしか無い。俺たちが生きている限り、生きる事を諦める訳にはいかない!!

 

 だが、この状況…一体どうやればひっくり返す事が出来るんだ……!?

 

「あ……!?」

 流石の俺も、もう駄目かと思った瞬間……

 

 前方から、まばゆい光が走る……

 何事だと思って見ると、そこには光り輝くブルーファルコンの姿があった。

 何が、起こったと言うのだ……?

 彼のマシンに何が……

 はっ!!まさか……

 

「共鳴していると言うのか…!?」

 

 光の宝石はファルコンのマシンに乗せたままだ。

 それが闇の宝石とデスボーン本人に共鳴していると言うのか…?

 まだ創世主の力は完全に復活しておらず、それぞれの宝石の中に残っていると言うのか!?

 

 ブルーファルコンの光はどんどん強くなってゆく。

 このまま放置すれば、本当に創世主に吸収され、この世界が盗まれ無くなってしまう。

 だからとにかく、この竜巻の中から脱出しなければ……!!!

 

「ファルコン!!もう一度やってみるぞ!!」

「ああ」

 幸い、当のファルコンの方はまだ平静を保っているようだ。流石、色んな相手と対峙してきただけの事はある。

 

 俺のかけ声と共に再びブーストをかけ、瞬間的にマシンの速度を上げる!!

 

 …その、瞬間……

 

 ファルコンのマシンが…いっそう白く輝きながら超高速で走り始める!!

 引っ張られるように、真後ろにいた俺のマシンも……

「え!?」

 目がくらむ瞬間に計器を見ると、有り得ない速度だった。

 ブルーファルコンでは絶対に出せない領域の速度……

 もはや普通の物質の速度では無い!!

 

 …光の速度…

 

 ハンドルを握りながら、俺は思わず息を飲む。

 まばゆい光に包まれて周囲の事が何も確認出来ず、ハンドルも切れず、下手にブレーキもかけられず、ただ、俺たちは、その光につつまれて、恐らく同じ所をグルグル回っていたに違いない。

 

 上部の方から何者かの叫び声がする。それが何なのかはなんとなく分かってはいたが、どう言う状況なのか全く見えず分からない。ハンドルを保持するだけで手一杯で、どこに行こうとかどうしたらいいとか、そんな事すら思案出来なかった。

 

 そんな訳が分からない状況下でQQQが叫び声を上げる。

「わーむほーるノ展開ガ可能ニナリマシタ!!」

「じゃあ!!とっととやってくれ!!!」

 俺も負けじと大声で叫ぶ。

 

 俺が叫んだ後の数十秒、状況は変わらなかった。

 それは異様に長い時間にも感じられた。

 マシンが高速で走っているのも関わらず、あまりの眩しさに目も開けられない異常な事態。

 俺は冷静に振る舞おうとするが、心臓の鼓動と手の震えは誤摩化せなかった。

 

 そして……

 上にいた何者かの声が、段々遠くなっていくのが分かった。

 遥か上空に穴が空き、そこにゆっくりと奴が吸い込まれて行くのを、この目で見る事は出来なかったが何となく感覚で分かった。

 ブルーファルコンの光も徐々に収まり、速度も徐々に落ちていく。

 俺はアクセルから足を放し、自然にマシンが止まるのを待った。

 

 まばゆい光が去った後……

 

 赤茶色のファイアフィールドの大地に何事も無かったかのように、静かな空気の中で二台のマシンが佇んでいた。

 

「一体何があったんだ?」

 例のベルトを持って下りて来たファルコンの問いに対して、俺は上手く説明が出来なかった。

 何故なら俺だって、何が起こったのかさっぱり分からなかったのだから。

「恐らく…その宝石とマシンの駆動部が何らかの反応をして……それであんな超高速が可能になったんじゃないかと……」

 説明出来ると言ったら、こんな事くらいだ……しかも全て俺の感覚的な話であり、合っているかも全然分からない。

 

 俺がそう話している間、QQQは本部と連絡を取り合い……それで“創世主”が確保された事を知る。

 取り敢えず奴は、どの世界にも関与出来ない、影響されない、時空の狭間を利用した「監獄」に送り込まれるだろうと言う所だった。

 

 ……まぁ、取り敢えず、俺が追いかけていた相手は捕まえたって事でいいんだろうな……

 

 後は証拠品&悪用防止の為に、あの光の宝石を抑えたい所なんだが……

 と思いながらファルコンの方を眺めていたら、ほらよっと言わんばかりにベルトを投げ渡す。

「え!?」

 俺は間の抜けた声を上げながら、危うい所でそれをキャッチする。

「そんなに物欲しそうに見ているのならくれてやるさ」

「いいのか?これ一応レースの景品だった訳だし……」

「別にそんなモノはオマケにしかすぎないからな」

 俺はベルトを胸に抱きしめ、軽くため息をつく。

 良かった……それに見合うだけの金を持って来いと言われたらどうしようかと思った……

 

 それにしても…

「ファルコン」

「何だ?」

「さっきの状況を踏まえれば……この宝石を使えば……使い方によってはレースで無敵になれるかも知れないのに…いいのか?」

「別に構わないさ。

 確かに力ある者が勝つ世界だし、その力は誰だって欲しいだろう。

 だが、自分の手に余り、制御出来ない力は、例え持っていたとしても、相手に打ち勝つ以前に自分が負けてしまう。本末転倒になるような力は私には不要だ」

「…そうか…」

 俺は改めてため息をつきながら、輝きを失ったベルトの宝石を見る。

 

 確かに、ある意味創世主達も、自分たちの持つ力で破滅したも同意だもんな……

 

 俺はQQQにベルトごと宝石を渡す。

 恐らく本部に送られ、今度は時空の狭間にて厳重な管理下に置かれるのだろう。極限状況で投げ捨てる事しか出来なかった当時とは状況が違うんだ。

 

 そう思いながら見上げた空は、まるで何事も無かったかのように、俺が来た時と同じように広がっていた。

 

 

 その後ファルコンとは別れを告げ、俺は……2日ばかし、この場に留まっていた。

 今後、俺はどうすればいいのか……それを決めるのは俺じゃなくて本部の方だ。

 確かに奴は捕まえた。

 本部から、時の流れが止まると言う最悪の事態は避けられた…と言う報告も聞いた。

 

 ただ問題は、デスボーンがあらゆる時代に痕跡を残して時の流れを不安定にしてくれた事で、俺が帰れるかがとても微妙だ…と言う所なのだ。

 

 時の流れだけの空間…

 普段いる次元と違う次元を通ると言う事…

 これがマシンにも肉体にも大きな負担になる。

 疲弊する程度ならいいが、極端に歳を取ったり、明らかにこの世の者でない何かに変質したり、タイムクラックに落ちて、時代も場所も全然違う所に落ちてしまったり……

 時間移動の技術が確立され、その運用が始まって間がない頃……要するに実験段階の時、あまりにそう言うケースが多くて社会問題になってしまった。

 だから俺たちは、時間の異変が始まる前の時代に降り立ち、異変が終わり、時間が安定してから帰るようになっているのだ。

 

「…ト言ウ訳デ、下手シタラ年単位デ待機シテテクレト言ウ感ジデ宜シク頼ムトノ事デス」

「うんうん…………って、オイ、ちょっと待て!?」

 マシンから降りてQQQ経由の報告をつらつらと聞いていたのだが、途中から思わず声が裏返る。

 

 おいおい、年単位って何だよ、年単位って!!

 

「時場ガ安定シナイト言ウノモアルノデスガ、ツイウッカリF-ZEROれーすニ参加シテシマッテイルノデ、途中デイキナリイナクナルト歴史ガオカシクナルノデ、適当ニふぇーどあうとシテカラ帰ッテ来テ下サイ。トノ事デス。

 因ミニ今回ハ相手ノたちガ悪カッタノデ、参加シタ事自体ハ不問ニシテクレルソウデス。良カッタデスネ」

「いやまあそこは良かったんだろうが……フェードアウトして来いって言われても、F-ZEROは俺、もう参加する気は無いんだが……」

「本部…イヤ、時空管理局ノ言ウ事デスカラ、恐ラク、ソノ一言デハ片付カナインデショウ」

「…………」

 

 時空管理局って言うのは、あらゆる時代の流れに干渉されないように敢えて時空の狭間にある機関で、時の流れと言うか歴史を監視している場所なのだが…そこが「帰って来るな」と言っているという事は、俺の存在がこの時代にある程度定着する事が想定内なのだろう。

 

 そもそもタイムトラベラーが足を踏み入れた所で、どう足掻いても歴史は多少変わってしまう。一国が滅ぶとか、そこまで大事になると彼らが干渉して「その出来事が根本から無かった事」にしてしまう事があるのだが、そこまで行かず、ちょっと歴史の行方が曲がったかなぁ程度だと、適当にフェードアウトして帰って来いと言われるんだが……

 

 その出来事が無かった事にする……つまり歴史の再編成って、ぶっちゃけた話、予算も人手もかかる訳で…それこそ国家予算級に。

 そこまでして改修する必要がないと、今回は判断されたのだろう。

 

 確かにそんな予算を組むなら、俺一人に全部丸投げした方が早いって判断になるよなぁ…

 俺は軽く頭を抱えながら、今後どうすれば良いのかを考え……ていると、急に背中をポンポンと叩く感触が……

 

 こんな時に一体誰だよ!?と言いかけたが、俺は振り向いてその言葉を飲み込む。

 

 そこにいたのはファルコンだった。

「あれ?ファルコン……何でここに?」

「何故も何も、次のレースの開催地はここなんだが?」

「あ?そうなのか??いや全然チェックしてなかったから……」

 誰かと抗争中でテンパっている間はともかく、一旦気が抜けると駄目だなぁ俺……

 次のレースがどうとか、全く気にしていなかった…

 

「あれからずっとここにいたのか?」

「まぁな…報告上げたり上の指示を仰いだりで、結構ワタワタしてたケド」

「そうか」

 ファルコンの問いにそう答えたものの、彼がわざわざ世間話をする為に俺の所に来たとは思えない。

 なら、俺の方から尋ねるまでだ。

 

「何か話があるんじゃないのか?」

 

 ファルコンは軽く息を吐いた後、俺に向かってこう告げた。

「デスボーンとやらに消されてたブラックシャドーだが、どう言う訳かミュートシティのコースに復活したらしい」

 

 ああ、そう言えば……

 QQQ経由で報告は受けている。

 デスボーンの被害者で、無事な連中は戻しておいてくれたと言う事を……飲み込まれてから1日も経過していないブラックシャドーは、幸いにも特に酷い影響を受けていなかったのだろう。

 

「何であのおっさんが戻って来るんだ!!と、ブラッドがお冠なんだが」

「俺が知るかそんな事……」

「まあな。あいつは年中うるさいから、放っておけばいいだろう」

 

 と、ここで話が終われば良かったんだが……

 

「それともう一つ……

 F-ZEROの実行委員会がお前の事を探している」

 

「…………は!?何で!?!?!?」

 

 ファルコンの淡々とした口調そっちのけで、再び声が裏返る。

 何か飲み物を口に含んでいたら確実に吹き出したであろう……それくらい、不意打ちと言うか、予期していない話だった。

 

「デスボーンが表彰式の中継中に、私との一騎打ちを提案していただろ?何でそれが中継されないんだと実行委員会に苦情が殺到したらしくてな」

 

 ……やっぱりデスボーンのアレは、観客は演出だと思っていたんだな……そこは良かったんだが、確かにあの流れで次の日放送が無かったら苦情も来るよな……そう思いながら俺は軽く頭を抱える。

 

「それで実行委員たちは、最初は私を探していたと言うんだ。だが、私を見つけたのが全て終わった後だったものでね…既にこの世にいない相手に一騎打ちは当然出来ないから、その埋め合わせで白羽の矢が当たったのがお前と言う訳だ」

「いや、あの、ちょっと待って、あの、すいません全然意味が分からないんだが…何でそこで俺に白羽の矢が当たる訳!?」

「君はブラッドのマシンをクラッシュさせてリタイアに追い込んだだろう?BS団相手に逃げるのは普通なのだが、露骨に喧嘩を売る奴はそうそういないからな。恐らくお前は骨のある奴だと思われているんだろう」

「あのな…俺のマシンは本来はそう言ったラフファイトに向いていな……」

「後は予選の時のタイムだ。あんな事をしなければ十分に優勝圏内に入るタイムだった。

 お前の図体は妙にデカいし、真っ赤なマシンはあの中ではかなり目立つ。腕もそこそこに立つ上に度胸もある。実行委員会が求めているものを、全部お前が持ってるんだよ」

 

 …………マジで?

 ファルコンの話を聞きながら、俺は目を白黒させる。

 

 にわかに信じ難い話だが、確かにF-ZEROの人気を保つには、新しいパイロットは喉から手が出る程に欲しいんだろう……

 QQQ、どうしようか…と声を掛けようとしたら、関わりたくない雰囲気MAXで明後日の方向を見つめている……おいQQQ……

 

「まあ君の真意は私には分からんし、どうするかは私が決める事ではない。ただ、君がどこに引っ込もうが、実行委員の連中は総力を上げて意地でも君を探し出すだろう。相手はそれだけの情報網を持っているし、レースを盛り上げる為なら意外と手段を選ばないから気をつけるんだな」

 

 最後にそれを“忠告”として置いて行き、ファルコンはその場から立ち去った。

 

 そうして取り残されたのは、明後日の方向を向いているQQQと、妙な汗をかきながら唖然としている俺の姿……

 

 数十秒後、はぁ…と、一気に大きなため息が漏れる。

 

「ダカラ始末書ダケデハ済マナイト、私ハ事前ニ忠告シマシタカラネ。知リマセンヨ」

「何か今日のお前、ヤケに冷たいな……」

「自業自得デス」

 

 はぁ…

 今日何度目のため息なのだろう。

 ともかく俺は近いうちに、身の振り方を考えなければならない。

 

「こうなったら、もういっそヤケでも起こしてやるか!!」

「モウ本当ニ知リマセンカラネ」

 QQQにも投げられてしまったが、そもそも俺は、考え事をするのが得手な性格じゃない。

 俺は決意を新たに、マシンに乗り込んでその場を立ち去った。

 

 また、おかしな事が起こらないように…

 それだけを祈りながら。

 

【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】

 

~END~


 
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