No.677787

IS~ワンサマーの親友~ep42

piguzam]さん

墜牙

2014-04-10 19:45:57 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5497   閲覧ユーザー数:4741

前書き

 

 

バトルマジで難しい(泣)

 

ついでに原作改変www

 

 

それと、ハーメルン様のユーザー様である生き物狂い様から元次君の絵を描いて頂けました!!

 

もう私感動で胸が張り裂けそうです!!

 

生き物狂い様、本当にありがとうございます!!

 

しかも私の描いた落書きとは比べ物にならないハイクォリティ!!

 

これが腕の差って奴ですねwww

 

カッコイイ元次君をありがとうございます!!

 

 

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=42523192

 

 

 

 

 

「『――があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!イライラすんなぁ!!チンタラしてんじゃねえよこの粘土カス!!とっとと起きろゴラァ!!』」

 

「ひぃ!?」

 

観客席に備え付けられた音声スピーカー。

そこから音声レベルを調整されながらも、正に怒号と呼ぶに相応しい言葉が流れる。

その声に続いて目の前で行われる蹴り、からの頭突き。

怒りに染まった元次の表情が、観客席に座る少女達に恐怖を植え付ける。

たった今悲鳴を挙げたセシリアがその良い例だ。

 

「あ、あいつ滅茶苦茶キレちゃってんじゃない……ッ!?っていうか、今までアタシ達と戦ってた時より格段に強いし……これがアイツの本気って……マジで勝てる気しないわよ……ッ!!」

 

「うぅ……ッ!?こ、声が重い……ッ!!直に相対していない私達ですら、こうさせるとは……ッ!!」

 

更にその悲鳴に続いて、元次と付き合いの長い箒と鈴が驚きの声をあげる。

セシリア程では無いが、二人も怒れる元次の姿を見て身体を強張らせていた。

尤も、二人がそれで済んでいるのは付き合いの長さと、育んできた友情があるからだ。

箒は幼少の頃に、鈴は中学の頃に、共に其々元次との友情を築いた。

何かと自分達の心配をしてくれて、怒る時は怒る。

鈴は中学の苛めから助けてもらい、箒は最悪だった姉妹仲の不和を解消してもらった過去がある。

一夏に向ける思慕の情では無いにしろ、二人にとっては大事な幼馴染みだ。

だからこそ、今アリーナで暴れる元次の怒りを浴びても言葉を発する余裕があるのだ。

他の女子に至っても、怖いとは思いつつも心の中では元次の事を応援している。

何より彼女達はクラス対抗戦の折に、元次が身体を張って自分達を助けてくれたのを理解している。

だからこそ、元次に対して感謝こそすれ、恐れる気持ちは湧いてこなかった。

ここで一番悲惨なのは、未だに元次に対して悪感情を向けていた女尊男卑主義の者達である。

実は前回のクラス対抗戦で元次に助けられようとも、まるで感謝すらせずに元次に行動が遅いと怒鳴り散らす者も居た。

そういった者達を元次があの緊急事態で一々相手にする筈も無く、「喋ってる暇があんならとっとと失せろ!!」と怒鳴って追い払った程度だ。

だから今回のトーナメントで当たったら目にもの見せてやろうと考えていた女子達だが――。

 

「あ、あぁ……ッ!?(ガチガチ)」

 

「ひ、ひっぐ……ッ!!い、嫌ぁ……ッ!!」

 

結果としては、元次の声を聞いただけで涙を流す程に恐怖している。

今まで見下していた相手の声に染み込んだ、純粋な怒気。

それが、彼女達の中にあった人間の本能に訴えかけるのだ。

自分達は生き物としての順位を超えて、喧嘩を売ってはならない相手なんだと。

 

「わぁ~……ゲンチ~、すっごく怒ってる~……ムカ着火ファイヤ~だよ~」

 

「……やっぱり、元次君にとって……織斑先生って、特別なんだね」

 

「お、お二人はあの声を聞いても平気なんですか?」

 

しかしそんな風に恐怖に戦く人間ばかりでは無いのも事実。

セシリア達と一緒に観戦していたさゆかと本音の二人は、鈴や箒よりもかなり楽な様子だった。

そんな二人に驚いた表情で声を掛けるセシリアだが、二人はその言葉に対しても普通に返す。

 

「う、うん。私にとって、元次君が怒ってるのは……私を守ってくれた時と重なるから……」

 

「私も~さゆりんと一緒だよ~。怒ってても~、ゲンチ~の優しい所を知ってるから、大丈夫なのさ~」

 

セシリアの問いに対し、さゆかは少し頬を染めつつ、本音は無邪気に笑いながら答える。

さゆかはクラス対抗戦で元次に助けられた事を思い出し、本音は少し前に自分を貶めた先輩に対して元次が怒ってくれた事を思い出している。

どちらも度合いは違うが、元次が他ならぬ『自分の為』に怒りを顕にしてくれた事だ。

自分という存在を守ってくれる存在に対して感謝すれど、恐怖を持つ事は無い。

とどのつまり、二人は元次が怒りを露わにする事が、『自分以外の誰かの為に怒る』事が多いと認識しているのだ。

誤解の無い様に言うなら、セシリア達が二人より怯えてる理由としては、模擬戦等で元次にボコボコにされてる事がウェイトを占めている。

要は元次の優しい所を知りつつ、あの威圧感をまともに浴びた事があるか無いかの違いなだけだ。

そこが、今の3人と2人の温度差となっている。

 

「ま、まあ確かに、ね……ッ!!でも、アタシはやっぱ慣れないわ、アイツのアレだけは……ッ!!」

 

「というかだな……ッ!!お、幼馴染みの私と鈴が慣れていないのに、夜竹と布仏が先に順応してるのはどうなんだろうか……ッ!!」

 

「アタシも今箒と同じ事思った……ッ!!……や、やっぱ、恋は人を変えるのかしらね?(ぼそっ)」

 

「……そういう事だろう(ぼそっ)」

 

「わたくしは、以前の事がフラッシュバックして……と、とても慣れるのは無理ですわ」

 

さゆか達の答えを聞いた鈴達は微妙な表情でアリーナへと目を向ける。

その先では、先程の攻撃から更に盾を叩きつけからラリアットのコンボ。

吹き飛んだ相手の肩を剣で貫き、肘打ちから流れる様に投げ飛ばすという、一種の暴挙が行われていた。

今のを見るだけで箒、セシリア、鈴の中では「相手が可哀想では?」という思いが渦巻き始める。

何せ普通の喧嘩では見る事の無い一方的な攻撃の嵐。

いやそもそも『喧嘩』というモノが成り立ってすらいない。

 

 

 

彼女達の目の前で行われているのは只々一方的な――。

 

 

 

「『フーッ!!フーッ!!……まだだ……ッ!!……こんなモンじゃあ……まだ『怒り足りねえ』んだよクソがぁああああああ!!!』」

 

 

 

――獣による蹂躙劇。

 

 

 

それは留まる所を知らず続けられるリンチの続行宣言となって、再び暴風が吹き荒れる。

圧倒的に膨張した筋肉から放たれる剛撃。

それを連続で叩き込み、腕の3倍と言われる蹴り、更に回転を加えた胴回し回転蹴りによる追加攻撃とくる。

初めに喧嘩を売ったのがラウラのISの異常な状態とはいえ、3人は同情を禁じ得なかった。

 

「……怒り足りないそうですわよ……確かに、わたくしの時よりはまだ、雀の涙くらいは『温厚』に感じますが……」

 

「あぁ、うん。聞こえた……まだ堪忍袋の尾が切れた訳じゃないらしいわね……」

 

「……セシリアに怒った時が、恐らくゲンの堪忍袋の尾が切れた時の怒りだろう……またあそこまで怒る可能性もあるという事だろうか」

 

「ひょっとしたら~、それも突破して、カム着火インフェルノォオオ~☆になるのかな~?」

 

「「「止めて(ください)(よ)(くれないか?)」」」

 

「あ、あはは……さすがにそこまで元次君が怒ったら……うん……ちょっとだけ怖い……かな?」

 

「アレより上をちょっとだけって言える辺り、夜竹も大概だ」

 

「っていうか本音。そんな不吉なフラグ建てるの本気で止めてよ。心臓に悪いったらありゃしないわ」

 

「……わたくし、本当に生きていられて良かったと、神に感謝を捧げています……ッ!!」

 

本音が建てた不吉且つ物騒極まり無いフラグに、箒達は真剣な表情で懇願する。

そんな3人に対して、まだ苦笑いしながら言葉を返せるだけ、さゆかと本音の胆力はかなりのものと言えるだろう。

 

「『HAアAァ……はYAく立てヨ、粘土カス……じゃねぇともう……キレ過ぎTE、バラバラにしちMAうゼ?』」

 

等々言葉の発音すら危うく聞こえ始め、箒達はいよいよ心穏やかではいられなかった。

このまま攻撃が続けば、最終的にはラウラの変化したISを迎える先は、ジャンクヤードと簡単に予想できる。

それでなくともあのISの変化の仕方は、この場に居る誰にも判らないモノであり、ラウラの安否も気になるところだ。

いや、あの変化の正体を知るドイツや各国の代表はまた別ではあるが、彼等も己の保身の為に知らなかったと言い張るであろう。

何せそのシステムは、IS界で禁忌とされた程に曰くつきの代物なのだから――。

 

 

 

――だが、彼等は知らなかった。

 

 

 

『……(ギュゥウン……)』

 

 

 

 

ラウラのISに積まれたシステムが、他者の悪意によって更なる悪魔のシステムに変貌しているなど――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「『DOしタ?……まさか、KOんNAモンでおWAりだとか言ウんジャねーだろーNA?……あぁ?』」

 

渦巻く怒り、殺意を凝縮した獰猛な笑みを浮かべながら、俺は目の前で膝を付く暮桜モドキに言葉を掛ける。

しかし奴は俺の言葉を理解してないらしく、只膝を付いた姿勢のままだ。

特に動こうともせずに、その場で静止してやがる。

……ちっ、どうやら此処らで限界らしいな……心底つまんねえ相手だったぜ――。

 

『……(ズグリ)』

 

「『……あ?』」

 

そう思った矢先、暮桜モドキに変化があった。

肩の辺りに浮かんでいたアンロックユニットが泥の様に溶けて、奴の肩に吸収されたのだ。

更に変化は起こり、腰の辺りのスカートアーマーが脚へと融合。

騎士甲冑の様な形だった暮桜モドキの脚の爪先部分に、針の様な造形が多数施されていく。

 

『……(キュイン)』

 

「『……のっぺらぼうが、いっちょ前なアクセント付けやがって……』」

 

最後には、今まで顔の造形が無かった奴の顔に、赤く光る目が開かれた。

切れ長の鋭い目は怪しい光を灯しながら、その双眼で俺を視界に捉えて雪片モドキを構える。

しかも、構えは千冬さんと一夏が使っていた八相の構え……野郎ぉ……ッ!!

凝りもせずに真似事ばかりを繰り返す暮桜モドキを見て、俺の顔に浮き上がる血管の数が増えていく。

どうやら奴は、怒らせて俺の血管を破裂させてぇらしい。

 

『……ッ!!(ギュオォオオン!!)』

 

そして、奴は雪片モドキを八相に構えたまま、俺へと突撃してきた。

 

「『性懲りもなく馬鹿の一つ覚えか!!この――猿真似野郎がぁああああ!!』」

 

何度も同じ事しか繰り返さない暮桜モドキに吠えながら、俺はエナジーソードを展開して迎え撃つ。

あぁもう良い!!もう嬲るのもコイツが動くのも見たくねえ!!兄弟が動ける様になるまで、大人しくさせてやる!!

手の甲に展開されているエナジーソードを取り出して手に握り、俺は自身を回転させて横薙ぎの斬撃を繰り出す。

奴の胴を狙った横薙ぎの一撃は、八相に構えて無防備を晒す暮桜モドキの胴へ向かい――。

 

 

 

『……ッ!!(ギィン!!)』

 

「『なっ!?』」

 

 

 

地面に垂直に立てられた雪片に防がれ、奴はその勢いを利用して『宙を回転した』

そのまま地面に刺さっていた雪片も回転し、俺の視界から完全に消える。

余りにも信じられない。

そんな思いが俺の心を駆け巡った瞬間――。

 

「『(ぞくぅ!!)ッ!?うぉおおおおおおおおおおおお!!!(ブゥン!!)』」

 

本能が鳴らす警報に、全身の毛穴が泡立ちながらも、俺は最速でエナジーソードを後ろに振るう。

しかし俺の渾身の一撃は奴よりアクションが一歩遅い。

振り返った先では、着地よりも先に雪片モドキを振るう奴の姿があり――。

 

『……ッ!!』

 

「『(バザァ!!)ぐあ!?』」

 

俺はエナジーソードごと切り払われ、ヤツの一撃に耐えかねた身体が後ろへと飛ばされる。

肩に奔る激痛に一瞬顔を顰めてしまうが、そのまま空中で一回転して、地面に膝と脚を付けて滑りながら後退していく。

 

「『う、ぐぅ!?(ズザザザザ!!)ッ!!はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!テメェ……ッ!?』」

 

『……』

 

「『『剛剣、猿返し』……ッ!!まさか、俺の技を使うとはな……』」

 

後退がストップした瞬間にエナジーソードを片手で構えつつ、俺は暮桜モドキを注意深く観察する。

既に奴は立ち上がっているものの、俺を見るだけで何もしてこない。

さっきとは立ち位置が入れ替わり、暮桜モドキの足元には、俺が『超・重量武器の極み』で叩き付けたラファール2機が転がっている。

更にそこから離れた場所でシャルルからエネルギーを譲渡してもらってる一夏達。

先生達も含めたその面子の表情は、斬られた俺に対して驚愕の表情を浮かべていた。

俺は表情を歪めながら奴から視線を外さず、ハイパーセンサーで視界を広げてオプティマスの損害状況を見る。

肩当てを深く斬られちゃいるが、俺の身体はそこまで深い傷にはなっていない。

……『猛熊の気位』を突破してダメージを貰う事になるとは……。

斬られた身体に関してもアーマーの隙間から血が滴るが、動かせないってレベルでは無いのが幸いだ。

 

『肩部アーマー損傷、残存エネルギー2860』

 

くそ、模倣とはいえさすが雪片ってトコか……今の一撃で結構なエネルギーを消耗しちまった。

奴との距離はそこまで離れていないが暮桜の戦闘法をトレースしてるってんなら、この程度の距離は開いた内に入らない筈だ。

それは俺に関しても言える事だが……。

 

「『変身した途端に動きが変わりやがって……お手軽にパワーアップってか?』」

 

『……』

 

「『ちっ、相変わらずだんまりかよ……そんな目付きより、お喋りな口を作って欲しかったぜ』」

 

悪態を吐きながらも、身体は警戒を止めない。

喰らって分かったが、今の『剛剣、猿返し』は俺の技とも、千冬さんの動きとも違う。

俺の特徴と千冬さんの特徴が混ざった様な剣筋だった。

今までの様に、過去の千冬さんのデータを弱くなぞっただけの劣化コピーとは違いすぎる。

――コイツは、もうトレース(模倣)の域を超えている……コイツは、闘いながら変化してるんだ。

千冬さんだけの動きじゃなくて、戦った相手の動きをミックスして強くなっていく。

俺とした事が何てザマだよ……異常な状態に変貌してるISに、油断しすぎた。

緩んだ心を引き締めながら、俺はエナジーソードを収納して構えを取る。

使い慣れていない剣を使うより、俺には拳の方がやりやすいからな……さぁ、来やがれ。

 

『……(ガシャ)』

 

「『ん?……何を――』」

 

相手を格下とは思わず、冴島さん並の強者だと認識を改めた俺だが、奴はそんな俺から視線を外して、突如地面に膝を付いた。

屈めた身体から伸ばされた腕は地面……では無く、地面に横たわるラファールへと添えられている。

……まさか、超・重量武器の極みまでもやるつもりなの――。

 

 

 

『……ッ!!(バチチチチチ!!!)』

 

「『ッ!?何だ!?』」

 

 

 

しかし目の前で行われている出来事は、俺の予想とは全く違う出来事だ。

ラファールに添えられていた奴の手から、眩いばかりの紫電が迸り――。

 

 

 

グニュグニュグニュ!!!

 

 

 

「『……おいおい……デザートは頼んで無えんだけどなぁ……』」

 

 

 

何と、触れられていたラファールまでもが、暮桜モドキと同じ様な泥へと変貌しやがった。

それを呆然と眺める俺だったが、目の前の事態は俺を置き去りに進み、やがて2つの泥は流動して混ざり合い、形を変えていく。

しかしそれも直ぐに分離して……大きさの違う2つの塊に分かれた。

……紫電が鳴り止み、泥が流れる光景が終わった頃には、その泥は暮桜モドキの両脇に『姿』を表す。

それぞれ別の形をしているが……目の部分だけは、暮桜モドキとそっくりだ。

 

『……』

 

『……』

 

新たに作り上げられた、2体のIS『らしきモノ』。

奴等は暮桜モドキと同じく何も語りはしない……だが、俺を見つめるその目を見れば分かる。

カンッペキに俺を敵と見なしてる目だ。

最早ラファールの面影を微塵も思わせないその2体の新たな敵の姿は、ハッキリ言って異常の一言に尽きる。

まず俺と同じでアンロックユニットが存在していない、ISらしからぬ見た目。

そして、千冬さんの姿を真似たあの暮桜モドキとも違って、残りの2機は人の……パイロットの形すら作られていない。

完全な全身装甲を模した形だが……見た目はあの無人機の方が全然人間っぽい。

一体はずんぐりとした身体に、細い手足を無理矢理生やした様な形をした、身軽な印象のISだったモノ。

逆三角形の形に手足と頭が付いたフォルムは、出来の悪い人形みたいだ。

もう一体はさっきの奴とは真逆で人間に近い形をしてるが、正に重装甲を地で行くフォルムを有してる。

身長で言えば俺とオプティマスよりも頭5つ分はデカイ。

あの無人機ですら俺と同じか、微妙にデカイぐらいだったってのに、コイツは横幅も俺以上だ。

 

『ラファール・リヴァイヴ2機、原因不明のシステムに感染。再構築されました。……機体名称『スタースクリーム』、及び『ブラックアウト』活動を開始』

 

……スタースクリームにブラックアウト、ね?

謎のシステムって……いよいよもって何やらかしてくれたんだ、ドイツのお偉いさん達はよぉ?

ここにきて新手追加とか、イージーモードと思って安心してたら実は修羅でした並の詐欺感だぜ。

最早異常事態を軽くぶっ千切ってヤバイ領域に入ってるんだが……千冬さんに連絡入れるか?

 

 

 

未だに動こうともしない3体の未確認機体を前に、プライベートチャネルを開こうとし――。

 

 

 

『『『……ッ!!!(バァアアアア!!)』』』

 

「『――ッ!?おぉおおおおおおおおおおおおおお!!!(ドォオオオオ!!)』」

 

 

 

刹那、突如として行動を開始した3体の行く先を見て、俺は即座に瞬時加速を使った。

エネルギーの消費が激しいが、そんな事を言ってられる状況でも無い。

冗談じゃねえぞ!!何で、何でアイツ等――。

 

「な!?何故こっちに!?」

 

「ッ!?シャルル!!」

 

「ッ!?間に合わな――」

 

俺じゃなくて、ISに乗って無え一夏達を狙いやがる!?

奴等が行動を開始して向かった先は、エネルギーを渡していて動けないシャルル達の元だ。

幸いにして、全員の速度はそんなに速くなく、俺の瞬時加速の方が速い。

直ぐ様現れた2体を抜かして先頭を走る暮桜モドキに追い付いたが、既に一夏達は目の前だ。

二人の前には武器が無くても二人を守るという意志を体現して先生達が立ち塞がっているが、それも全く意味は成さないだろう。

一夏達に的を絞ったコイツ等は、4人を守らなきゃならねえ俺と違い、そのまま速度を乗せて突撃するだけで事は済む。

横合いに並ぶ事は出来ても、このデカイ図体のISを止めるには殴るだけじゃ足りねえ!!

 

 

 

――くそ!!……できればやりたくなかったけどよぉ……こうなったら俺が――。

 

「『――うっおぉおおおおおお!!(ギュァアン!!)』」

 

『(ドゴォオオオオ!!)ッ!?』

 

俺自身が『砲弾になる』しか無え!!

 

 

 

俺は瞬時加速中にも関わらず、自分のメインスラスターを思いっ切り稼働させ、瞬時加速中に『軌道を無理やり変えた』

音速に迫る速度の中で、膨大な自然の力に固定されていた身体を無理矢理横に捻るという愚行。

俺は瞬時加速中に無理をして軌道を変えてはいけないというタブーを破ったのだ。

 

「『(ギチギチ!!)ぐっ!?……うぅうぅうううぁああああ!!!』」

 

ギチギチと身体がブッ千切れそうな音が鳴り、体中の骨や肉が軋む。

歯を食い縛ってその痛みに耐え、そのまま伸ばした腕で暮桜モドキの腰を掴んで引き摺り倒す。

圧倒的な速力を乗せた大型の砲弾の勢いに押され、暮桜モドキと俺は地面へと突撃する。

しかしこのままだと奴は直ぐにでも行動を開始してしまうと考えた俺は、転がりながら体勢を整えて一夏達の方へと向きを変えた。

案の定、暮桜モドキは既に引き倒された体勢から起き上がっている。

ならもう一度引き倒してやるまでだと接近すると、奴は起き上がった体勢から左足で蹴りを放ってきた。

 

「『フン!!(ガシィ!!)』」

 

俺はその蹴りを左手で脇に抱え込む様に捕らえ、空いた右手で垂直エルボーを繰り出す。

狙う先は、奴の膝関節部分だ。

 

「『でりゃあ!!(グシィイ!!)』」

 

『ッ!?』

 

金属がひしゃげる様な鈍い音が奴の膝から鳴り、少量の火花を散らせる。

叩き付けた肘打ちの威力で脚が地面に着くが、駆動系がイカれちまったらしく、暮桜モドキは膝を着く。

チャンス到来ぃいい!!

 

「『だらぁ!!(バゴォ!!)』」

 

良い位置に降りた顔面へと、今日何発目か分からない膝蹴りを叩き込んで、奴を一夏達から引き離す。

 

『ッ!!(ボォオオオ!!)』

 

「『テメェはコソコソ何処行こうってんだよぉ!!(ガシィ!!)』」

 

『ッ!?ッッッ!!』

 

そして今しがた蹴り飛ばした暮桜モドキの影に隠れて俺を抜かそうとした逆三角形のIS……スタースクリーム。

俺はソイツに向かって、暮桜モドキを蹴り飛ばした体勢から半円を描き、遠心力を乗せたラリアットを首に当てる。

但しソレは吹き飛ばす為の技では無くて、奴の動きを一旦止める為のモノだ。

右のラリアットで動きが止まったソイツの横を回る様に動いて背後に陣取り、返す左手で後頭部を殴りつける。

その勢いでつんのめったスタースクリームの首に、後ろから右手を巻き付けて体勢を下向きに抑えこむ。

と、今度は先の膝蹴りから回復した暮桜モドキが後ろから襲い掛かってきた。

 

「『テメェも大人しくしてろっ、ボケェ!!(ズドン!!)』」

 

『ッ!?』

 

危うく後ろから斬られそうだったが、寸での所で俺の後ろ蹴りが当たり、奴は後ろへ転がっていく。

良し!!後はコイツも一夏達から引き離して距離を取らねえとな!!

 

『ッ!!(ガチャ、キュイィ!!)ッッッ!!(ババババババ!!)』

 

「『うお!?このヤロォ!!皆下がれ!!』」

 

「ッ!?二人共屈んで!!」

 

「うわぁあああ!?」

 

「あ、危ねえ!?」

 

「『ッ!?この――狙う相手が違うだろうがぁあ!!』」

 

しかし安心したのも束の間だった。

俺に首根っ子を抑えられたスタースクリームが右手からマシンガンを出して乱射し始めやがった。

それがもう半歩前に居たら当たっていたという場所に着弾し、一夏とシャルルの悲鳴が聞こえてくる。

さすがにマシンガンはどうしようも無く、今の状態の俺には銃撃を止める術が無い。

唯一この場で有効なのは、一夏達との距離を引き離す事だが――。

 

『……(ズシンズシン!!)』

 

後ろからは重厚な足音を響かせて、あの馬鹿デカイIS……ブラックアウトとか言うのが迫ってきていた。

しかも右手に丸ノコの様な物騒なモンを装備して回転させながら。

くそ!!向こうに対応したらコイツが行くし、コイツに対応したら向こうが迫ってくる。

なら、コイツ等を両方引き離すには――こうするしかねぇ!!

 

「『うぉおおおお!!』」

 

気合の雄叫びを挙げながら、俺は両手で抑えていた逆三角形のISを持ち上げて眼前に持ってくる。

そのまま身体を後ろに反転させると、あのブラックアウトを目前に捉えた。

俺はスタースクリームを掴んでいた手を離し、渾身の力で前足を突き出す。

 

「『じぃえりゃぁああああああ!!!(ドゴォオオオオ!!!)』」

 

『ッ!?』

 

力いっぱい突き出した前蹴りが逆さ向きに宙に浮いていたスタースクリームの顔にブチ当たると、奴は前向きに飛び――。

 

『『(バゴォオオ!!)ッ!?』』

 

ブラックアウトを巻き込んで、アリーナの地面をゴロゴロと転がっていく。

アイツ等が何で一夏達を狙ったかは分からねえが、ISの無えあいつ等に攻撃が当たったら一巻の終わりだ。

兎に角、奴等を皆から引き離さねえと危険さ!!

 

「『ハァ、ハァ!!皆もっと下がれ!!俺も出来るだけ奴等を引き離しておくから――』」

 

「元次!!後ろぉ!!」

 

「『ッ!?ぬおぉおおおおおおおお!!』」

 

『(ガシィ!!)ッ!!ッ!!』

 

「『ぐぅ!?(ギギギ!!)パワーまで跳ね上がってやがるのかよ……ッ!!厄介な事この上ねえなぁ……ッ!!』」

 

息も絶え絶えに一夏達の方を向いて忠告を飛ばす俺だったが、シャルルの切迫した声で直ぐに振り返る。

最初に吹き飛ばした暮桜モドキが俺に向かって雪片モドキを振り上げていたのでギリギリそれをエナジーソードで受け止める。

それでも暮桜モドキは力を込めて強引に俺を押さえ込もうとしてきやがった。

予想外の力に苦悶の表情を浮かべるが、更に悪いのは暮桜モドキの後ろからさっき吹き飛ばした2体が迫ってる事だ。

どうやら標的を俺に絞ったらしい。

それ自体は好都合だが、このまま3体纏めて突撃されちゃ、ここを突破されちまう。

そんな事をさせて堪るかってんだよ!!

俺は暮桜モドキと鍔迫り合いをしたままの状態で、スラスターを稼働させて暮桜モドキと共に前に進む。

最初は地面に脚を着いて踏ん張っていた暮桜モドキだが直ぐに耐え切れなくなり、後ろへと体勢を崩した。

更に後ろから迫っていた2体のISを巻き込む。

さすがに3体の反対する力ともなれば、オプティマスの前進は止められてしまうが……。

 

「『――うらぁああああああ!!!』」

 

『『『ッ!?』』』

 

その状態で瞬時加速を使うと、かなりのスピードで奴等を纏めて押し出す事に成功。

奴等と揉み合った状態で、アリーナの壁に激突する。

 

ドゴォオオオオ!!

 

「『が!?……捨て身の一撃なんて、やるモンじゃねえぜ……ッ!!』」

 

奴等と揉み合いながらぶつかった俺だが、直ぐに身体を起こして奴等の手を振り払う。

俺は激突した衝撃に意識を持っていかれない様に踏ん張りながら、斜めに転がって奴等から離れて体勢を整える。

よし、何とか皆から引き離す事には成功し――。

 

『ッ!!(ギャリィ!!)』

 

「『おわ!?』」

 

しかし、起き上がった俺の目の前では、既にスタースクリームが起き上がっていて、俺に攻撃を仕掛けてきやがった。

さっきのマシンガンと同じ様に手の辺りから生やされたブレッドスライサーの一撃を胸に受けて後退してしまう。

そうこうしてる内に、アリーナの壁にぶつけた残りの2体も起き上がってくる。

くそ、殆ど堪えてねえのかよ……まぁ、あの2体は操縦者が居ないってのに稼動してる時点でおかしいか。

この間の無人機といいアイツ等といい、一体どうやって動いてんだ?ISってのは人が居なきゃ動かねえんじゃ無かったのかよ。

かなりの速度を出して、しかも壁と俺の間にサンドしてやったのに、奴等は余りダメージを感じさせない動きだった。

 

『シールドエネルギー残量、2110』

 

ちっ、シールドエネルギーも等々半分切ったか……こりゃちっと不味いな。

一方で俺の方は段々と苦しくなってきてるのが現状だ。

4500あったシールドエネルギーも半分を下回り、奴等はまだ動いてる。

しかし俺が加えた攻撃はしっかり届いてるのは間違いない。

殴った箇所とかの造型が崩れて、ちょっとだけボロくなってるからだ。

つまり俺の攻撃は通用してるって事だ……ダメージを感じて無い様に動くが、実際はダメージを負ってる。

……兄弟が倒したがってる相手の暮桜モドキ以外は、俺がグチャグチャにするしかねぇか。

 

『ッ!!(ブォオオオオン!!)』

 

「『っと!!(ヒョイ)危ねえっな!!(ドゴォ!!)』」

 

目の前に立つ逆三角形のISに意識を集中させていた俺に、右横から奇襲が掛けられる。

敵の中で一番デカイブラックアウトが、手の電丸ノコを振り回して突撃してきたのだ。

俺はスウェイを使って身を屈めて回避しつつ、右足でブラックアウトの背中を蹴り飛ばして反対方向に押しやる。

そうやって別の個体に対応している俺に対して、奴等は手を抜かなかった。

 

『ッ!!(ブォン!!)』

 

「『ンのやろぉ!!』(ギャイン!!)」

 

半身の体勢で横を向く俺に対して奇襲を仕掛けてきた暮桜モドキ。

奴の雪片モドキから発せられる偽物の零落白夜は、直撃したら洒落にならない。

よって俺は素早く対応して、右手の甲に展開したままのエナジーソードで逆に斬りつけるが――。

 

『ッ!!(ガン!!)』

 

「『ぶっ!?』」

 

『……(ガシィ!!)』

 

暮桜モドキと同時に襲い掛かってきたスタースクリームには対処しきれず、顔を殴られて体勢を崩してしまう。

しかも体勢を立て直す前に、さっき蹴り飛ばしたブラックアウトに頭を鷲掴みにされた、身体を持ち上げられてしまった。

 

「『テメ!!離しやがれ!!』(バゴォ!!)」

 

オプティマスよりもデカい手で首を固定されてしまうが、俺はブラックアウトの顔面に肘鉄を叩き込む。

これで離してくれれば――。

 

『ッ!!(ギュイィイイイイン!!)』

 

「(ガガガガガガ!!)『がぁああ!?』」

 

しかし現実はそう上手くはいかない。

俺の肘鉄を喰らったブラックアウトは手を離すどころか、逆手の電ノコを俺の脇腹に押し当ててきた。

高速回転する電ノコの勢いに押されて奴の手から逃れる事には成功したが、目の前にはスタースクリームが陣取っている。

俺に対する攻撃の手を緩めるつもりは無いらしく、ブラックアウトの手から逃れた俺の体勢が整う前に、ブレッドスライサーで斬り付けてきた。

ガリガリと嫌な音を立てて、オプティマスの装甲が削られていく。

俺は再びブラックアウトに倒れ込むが、そんな俺の腕を掴んでスタースクリームが俺を引き起こす。

そのまま俺の腕を掴んで固定し、再びオプティマスの装甲を切り刻む。

くそが!!やりたい放題やりやがって!!

 

「『ぐ!?チョーシぶっこくんじゃねぇ!!』(ギャリィ!!)」

 

『ッ!?』

 

『ッ!!』

 

放り出された身体に喝を入れてスタースクリームを斬り返すが、後ろから既に暮桜モドキが復活して襲い掛かってきた。

 

「『うらぁあ!!』(ブォン!!)」

 

『ッ!!』

 

「(バゴォ!!)『ぐは!?』」

 

俺は苦し紛れに振り返りながら斬撃を放つが、それはあっさりと防御され、防御した右腕の肘鉄を後ろ首に叩き込まれてしまう。

肘の鋭利な打突が後頭部にブチ込まれて一瞬意識が飛ぶ。

そんな多大な隙を逃す筈も無く、暮桜モドキは俺の頭を後ろから掴んで――。

 

『ッ!!(ブォオオン!!)』

 

「『うぉおおお!?』」

 

そのまま後ろ向きに担ぐ要領で投げ飛ばされる。

一瞬で反転する景色と、身体を襲う浮遊感、重力。

 

「(ガシャァアアン!!)『あぐ!?』」

 

全身を叩き付けられた衝撃にくぐもった声が出るが、直ぐに立ち上がろうと動く。

あぁ畜生!!人数がたった二人増えただけでこうも苦戦しちまうなんて……情けねえ!!

心の中で自分に対する不甲斐無さに怒りを覚えつつも立ち上がった俺だが――。

 

 

 

『ッ!!』

 

「『――くそ』」

 

 

 

視界いっぱいに、悠々と俺の顔面に回し蹴りを繰り出す暮桜モドキの姿が写った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「(バゴォオオオオ!!)『ぐがぁ!!?』」

 

「「「「「オプティマーーーース!!!?」」」」」

 

「ッ!?」

 

「「「「「若ぁ!!!?」」」」」

 

「……」

 

強烈、痛烈。

 

 

 

画面の向こうで受けた痛みがこっちにまで伝わってきそうな音が、テレビから鳴り響く。

暮桜モドキの繰り出した回し蹴りを顔面に受けて、オプティマス・プライムのヘッドギアであるサングラスが吹き飛んだ。

その奥に浮かぶ苦悶の表情を見て、この場に居る人間から悲痛な悲鳴が木霊する。

ここは兵庫県の豊岡市、元次の実家が経営する自動車工場。

普段はボディを板金したり、パーツを取り付けたりする金属の演奏も聞こえない。

代わりに聞こえているのは、幼い子供達と、若い男女の悲鳴だった。

その中でも一番辛そうな表情を浮かべるのは、この場でも少ない還暦を終えた女性だ。

彼女は両手を膝の上で組んだまま、今にも泣きそうな表情を浮かべて、眼前の試合……いや、戦いに目を向けている。

最早老婆と呼んで差し支えないこの女性の名は『鍋島景子』。

元次が尊敬し、愛して止まない元次の祖母だ。

 

「元次……」

 

「……」

 

画面の向こうで暴威に曝される孫を、彼女は痛ましい目で見ながらも、心の中では応援する事を止めない。

彼女の周りには近所の友人であろう老婆が同じ様に座り、彼女の肩を握って励ましている。

その隣では、元次の祖父である『鍋島仁』が腕を組んでテレビを真剣な表情で見つめていた。

しかし組まれた腕が震えるほどに握りしめられている所を見れば、彼もまた元次を心配している事がハッキリと分かる。

 

 

 

今日、この自動車工場では元次の事を知る人間達が集まって、学年別トーナメントを鑑賞していたのだ。

 

 

 

兵庫の地から現れた、世界で二人だけの男性IS操縦者の片割れ。

元々人口が少ない田舎の人達というのは、地域や隣近所の結び付きがとても強い。

ここに居る年配の人達は、元次がこの地へ越してから、若しくは盆休み等でこの地に来た時に知り合った人達だ。

昔から孫の様に接してきた元次が、世界的に有名になった初の試合。

只の知り合いならこんな風に集まったりはしなかっただろうが、ここに居る人間達は違う。

誰も彼もが、元次の人と成りに触れて、元次と少なくない友好を持っている。

困っていれば率先して助けてくれるさっぱりとした性格の元次の事を、皆自分の孫の様に可愛がってきた。

そんな男の晴れ舞台を見に来てみれば、良く分からない内にこんな事になっているのだ。

本当の家族である景子と仁の心情を知るには、余りある光景だった。

 

「ね、ねえ!?大丈夫やんね!?オプティマス……元次お兄ちゃん、怪我したりせえへんよね!?」

 

「せ、せえへんって!!元次お兄ちゃんが、あんなにかっこいいオプティマスが負けたりする筈無いやん!!ぜ、絶対勝つもん゛!!」

 

元次の事を兄と呼ぶのは、まだ小学生ぐらいの少年少女達だ。

テレビの向こうで寄って集って叩きのめされる場面を見せつけられた少女は震える声で友達に縋る。

縋られた少年は少女を励ます様に、そして自分を励ます様に声を張り上げる。

言葉の端々がくぐもっているのは少年もまた不安に耐え、涙を堪えているからだ。

彼等も又、元次と交流を持って彼を慕う子供達である。

子供達の通学路に面した部分に建つ自動車工場だったので、元次は自然に彼等と触れ合う事があった。

ここに居る子供達は一度、元次と冴島に救われた過去を持つ。

冴島には車の衝突から守られ、元次には不審者から助けられ、その姿をカッコイイと思った少年少女達が集まっている。

子供達の親からもお礼を言われたが、元次の飾らない姿勢を感心した親達も、今日の事を知って子供達を連れてきたのだ。

 

「だ、大丈夫やって。元次君は絶対に勝つわな」

 

「ほ、ほんまに?お父さん?」

 

「あ、あぁ。せやから皆もちゃんと、元次君を応援してあげんとあかんで。な?」

 

「ぐす……う゛ん゛」

 

泣きそうになっていた子供達を、親達が必死に励ました事が功を奏し、子供達は涙と鼻水を堪えてテレビを見る。

本音を言えば大人達も今の状況が良く判っていないのだが、子供の前でそんな事を言って不安にさせる訳にもいかない。

だからこそ、テレビの向こうの元次には勝って欲しい。

何より、この女尊男卑の時代において、強い男というのは本当に少なくなっている。

正確にはテレビやスポーツの場面でも、男は殆ど出番を奪われて力を知ってもらう事が出来ないのだ。

だからこそ、元次には全世界で生中継されているこの試合に勝って欲しかった。

まだこの時代でも、男達は生きているのだという証を刻んで欲しかった。

 

 

 

そう思っていた矢先、画面の向こうの状況は更に悪くなってしまう。

 

 

 

「『ぐぅ……ッ!?』」

 

『ッ!!(ドヒュン!!)』

 

「(ドォン!!)『がはぁ!?』」

 

暮桜モドキの蹴りで膝を着いてしまっていた元次に対して、再び攻撃が開始されたのだ。

膝立ちの体勢から立ち上がろうとした元次に、スタースクリームが小型のキャノンを手首から展開して撃ち出す。

この場に居る人間は知らない事だが、そのキャノンはラファールの武装ラインナップの一つである。

どういう原理かは『開発した人間しか分からない』が、あの正体不明機はラファールの武装の形を作り替えて使用しているのである。

その一撃を、元次はモロに喰らってしまう。

膝を着いていた所為でキャノンの砲撃は元次の顔面に炸裂し、またも隙を付く形で暮桜モドキが後ろから強襲を掛けた。

顔に衝撃を受けて俯く元次の顔を上げるかの様に裏拳を繰り出し、元次の顔を強かに打ちのめす。

強烈な衝撃を受けても相手に向き直ろうとする元次だが――。

 

「ッ!?あかん!!逃げるんや若ぁ!!」

 

テレビという、全体を見渡せる状態にあった、仁の会社の従業員が悲鳴を挙げる。

従業員が見た先には、ブラックアウトが一つの武装を展開して、暮桜モドキに投げ渡す光景が写っていた。

暮桜モドキはその武装を受け取ると、フラつきながらも体勢を整えようとする元次の顔面に構える。

 

 

 

6連装グレネードランチャー……リュシエールの砲口を。

 

『ッ!!(ズドォオオオン!!!)』

 

「『ーーーーーッ!!!?(ガシャァアアン!!)…………ペッ!!(ビシャァ!!)』」

 

 

 

ゼロ距離で炸裂した爆発の衝撃を顔面に受けて、元次は悲鳴すら発さずに吹き飛ばされた。

オプティマスのパーツを空中にバラ撒きながら宙を漂い、先ほど引き離した一夏やシャルル達の側に轟音を立てて着地する。

最早不時着と言えるその勢いを右手に展開したエナジーソードを地面に刺す事で和らげて止まったのだ。

口の中を切ったらしく、カメラにアップで写った元次は表情を歪めながら、血の塊を地面に吐き捨てる。

その後ろでは、敵である3体のISがゆっくりと歩み寄っていた。

この攻撃は恐らく、元次がISを停止させられるまで続けられるであろう。

いや、その前にもISが無い一夏達を襲った事から、最悪の場合は……。

その考えが全員の脳裏を過った時、部屋の空気が一気に重くなった。

そして、それは大人達に限った話では無い。

 

「……ひっぐ……う、うぇぇ……げ、げんじ、にぃぢゃん……ッ!!に゛いぢゃぁあ゛あん……ッ!!」

 

「ずずっ……も゛、も゛う止めてよぉ……に、にいちゃんを……苛めないでよぉ……」

 

先ほどから強烈に人を殴打する場面……親しい者が殴られるという場面を見せられた子供達は、等々涙を零し始めた。

だが、それは無理も無い事である。

自分達の身近な人達……その中でも強くて、誰にも負けないと信じていた者の劣勢。

何時も悪者を倒して、絶対に勝ってきた男を上回る力。

それを信じたくなくて、そして自分達の大切な人を苛めて欲しくなくて、子供達は涙を流す。

親達はそんな子供達を見て、なんと声を掛けたモノかと唇を噛む。

大事な子供に、自分達の言葉は届かない事を嘆きながら――。

 

「――大丈夫やで」

 

しかし、そんな子供達に言葉を掛ける人が居た。

彼女は子供達に優しく語りかけながら膝を付いて、子供達の頭をゆっくりと撫でる。

その暖かくも優しい感触に、子供達は泣きながらも自分達の頭を撫でてくれる存在を見上げる。

そこには、見る者を安心させる暖かさに満ちた微笑みを浮かべる、元次の祖母の姿があった。

 

「元次は……あん子は、絶対に負けへんよ」

 

「……えぐ……ぐずっ。ほ、ほんまに?おばあちゃん?」

 

「に、兄ちゃんは、勝づん゛?」

 

少ししわがれていても、心に染み渡る暖かい声を聞いて、子供達は涙を拭う。

まだ涙は出てくるが、元次の祖母の言葉を聞き逃すまいと。

 

「うん。嘘なんて言ったりせえへん……あん子は、大事な人ん為に、何処までも頑張る子やから……そういう時のあん子は、と~っても強いんや……せやから、皆も涙拭かなあかんで。ほら」

 

景子は微笑みを浮かべながらハンカチを取り出し、子供達の涙を拭う。

それを擽ったそうに受ける子供達だが、依然として不安な表情は晴れない。

そんな子供達を見ながら、景子は言葉を続ける。

 

「それに元次はな?皆が泣いてるより、応援してくれる方が嬉しいって言うと思うんや……せやから皆、元次の事……応援したってくれへんか?」

 

「……ずじゅっ……ッ!!(ゴシゴシ)……が、頑張れ!!元次兄ちゃーん!!」

 

「た、立ってお兄ちゃん!!立って、あの悪者を倒しちゃえー!!」

 

「何時もみたいに、ドーンってブッ飛ばせー!!いけー!!オプティマスー!!」

 

やいのやいのといった具合で、景子に励まされた子供達が画面に精一杯声を張り上げて声援を送り始めた。

皆口々に声を張り、手を振って、小さな身体で一生懸命な応援を送る。

 

「……そうやな……景子さんの言う通りや……この程度で若がヘコたれる訳無いわ!!」

 

「やっちまえ若!!そんな泥人形なんかに負けるなよ!!チョーシに乗ってる奴ぁ畳んじまえ!!」

 

「夏休みに帰ってきて、アタシに塗装を教わる約束しただろ!!男が約束破ったら、承知しないからな!!」

 

そして、子供達に触発された大人達も、同じ様に声援を飛ばす。

ガキの頃から面倒を見てきた元次の祖父の会社の従業員にとって、元次は可愛い弟分だ。

その弟分が身を張って戦う姿を応援せずに、何が大事な弟分か。

彼や彼女達は、それぞれ思いは違えども、口を止める事はしなかった。

正に会社の従業員全員が一つの『家族』の様な想いを掲げて、元次を応援する。

そんな、血を超えた絆を目の当たりにして、景子は柔らかい微笑みを浮かべて仁に視線を送った。

景子の視線に気付いた仁は、普段滅多に浮かべない安心させる様な微笑みを浮かべて景子を見やる。

しかし直ぐにその微笑みを引っ込めると、ニヤリと口角を吊り上げてテレビに映る我が孫を見つめた。

その笑みは元次を彷彿させる……いやそれ以上に、寄る年波を感じさせない覇気に満ちた笑みだ。

仁が見つめる孫は膝を着きながらも、仁と似た笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「『へっ……やってくれるぜ……だが、テメエ等の攻撃なんざ爺ちゃんの足元にも及ばねえよ……そろそろ兄弟の準備も整うだろうし……(ジャキンッ)カタを付けてやる!!』」

 

雄叫びと共に左腕にもエナジーソードを展開して、両手構えで振り返りながら突撃する孫を見て、仁はフンと鼻息を鳴らす。

 

「へっ。ハナッたれの小僧が粋がりやがって……あんな木偶の坊に負けたら承知しねえぞ、アホンダラァ」

 

孫の言葉に嬉しい気持ちを抱きながらも、口では悪態を吐き、仁は手に持った酒を煽る。

自分の孫は、あんな泥人形なんかには絶対に負けないという確固たる信頼を胸に抱いて。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

『残存エネルギー1190。機体小破状態です。左サブスラスター破損、機動力低下』

 

あぁ分かった、分かったからよ……もう少しだけ、俺に付き合ってくれ、オプティマス。

せめて目の前の訳分からねえ泥人形2体を排除して、兄弟がエネルギーを手に入れるまで、全員を守れる様に。

そん時までは、嫌が応でも動いてもらうぜ。

オプティマスが掲示する警告ウィンドウを無視して、俺は身体を動かす。

やる事は何も変わっちゃいねえ……俺は、兄弟の為に舞台を整えるだけだ!!

 

「『おぉおおおおおおおおおお!!!』」

 

気合の雄叫びを挙げながら、俺は3体の泥人形が集結した場所へと突貫する。

よくもまぁここまでズタボロにしてくれやがって……舐めてんじゃねえってんだ!!

奴等は突撃を繰り出した俺に対してそれぞれ武器を構えて待ち受ける。

布陣としては、ブラックアウトとスタースクリームが前で、3メートル程離れた後ろで暮桜モドキが立ってリュシエールを構えている。

その真ん中へと、俺は真っ直ぐに突撃した。

 

『ッ!!(ブン!!)』

 

すると俺の前に立っていたスタースクリームがブレッドスライサーを振るって攻撃を仕掛ける。

しかしその攻撃を身体を屈めて回避し、スタースクリームの後ろ、即ちブラックアウトの前へと躍り出た。

 

「『フッ!!そらぁ(バゴォ!!)』」

 

『ッ!?』

 

屈めた身体を伸ばす反動を利用して前蹴りを繰り出し、ブラックアウトの胸元を蹴り飛ばす。

そのまま後ろに居るスタースクリームに対して右手のエナジーソードを振り返り様に突く。

暮桜モドキがグレネードで俺を狙っているが、密集したこの位置では撃ってこない筈だ。

だからこそ自分の行動を止められる事は無かったので、俺は遠慮せずにエナジーソードを振るう。

 

『(ザクッ!!)ッ!?』

 

「『うりぃやあああああ!!』(ブシュ!!)」

 

右手のエナジーソードはスタースクリームの肘部分に刺さったが、奴が少しもがいただけで抜けそうなくらい浅い。

それを確認した俺はすかさず左手のエナジーソードを振るって、奴の肩を深く貫く。

更にさっき蹴り飛ばしたブラックアウトはもう復活していて、左手の電ノコを振り上げていた。

その手の奇襲にはもう慣れてんだよボケ!!

 

「『おら!!』(ギャリン!!)」

 

俺はオプティマスの警告を見て直ぐに身体を回転させ、電ノコの攻撃を回避する為の行動に出る。

そのまま左手のソードで刺していたスタースクリームを引き摺りながら回転しつつ、右手のソードで電ノコを振るう手を斬り弾く。

俺が移動した事によって刺された身体も一緒に引っ張られていたスタースクリームだが、俺が力任せに左手のソードを振るうと、スッポ抜けて暮桜モドキの方へと転がっていく。

これで俺の戦闘範囲には、俺に電ノコを弾かれて体勢を崩し背中を向けた無防備なブラックアウトがいるだけになった。

俺は力任せに振るってスタースクリームを引っこ抜いた左手のソードでその勢いを利用し、ブラックアウトを斬りつける。

斜め向きに背中を斬り、その左手を返して膝裏を斬って体勢を崩し――。

 

「『そらぁ!!』」

 

『(バギィイイン!!)ッッッッ!?』

 

最後に電ノコの付いた左手の肘辺りを思いっ切り叩き斬る。

力任せに振るったエナジーソードに強度が負けたらしく、奴の左手を肘から切り落としてやった。

 

『警告!!後方からロックされています!!至急回避行動を!!』

 

しかし喜ぶのも束の間、ハイパーセンサーから送られた光景を見て、俺は舌打ちをしてしまう。

俺の背後から暮桜モドキが膝立ちの構えでリュシエールの砲口を向けてやがった。

さすがにもうエネルギーが底を尽き掛けてるこの状況でアレを喰らうのは非常にマズイ。

急いで暮桜モドキの方に振り返りながら回避行動を取ろうとするが、既に暮桜モドキはトリガーに指を掛け――。

 

『ッ!!(ガチャ!!)』

 

――ヒュルルルルルル!!

 

『ッ!?(ギャリィン!!)ッッ!?(ドォオオン!!)』

 

「『は?……マジ?』」

 

しかし、その暴虐を込められた弾丸が俺を襲う事は無かった。

信じ難いが、さっき俺が斬り落としたブラックアウトの電ノコの部分が俺の横から飛んでいき、偶然にも暮桜モドキの腕にヒット。

正に発射される寸前、突如暮桜モドキの腕が弾かれ、グレネードは明後日の方向に撃ち出されたのだ。

……どうやら幸運の女神は俺に微笑んでくれたらしいな。

危うく吹き飛ばされるのを回避する事は出来たが、まだ戦いは終わっていない。

目の前からさっき投げ飛ばしたスタースクリームが襲って来てるからだ。

しかもハイパーセンサーで見えた後ろでは、ブラックアウトが動き出そうとしてる。

上等だ、クソ野郎共!!

俺は目の前のスタースクリームが繰り出した攻撃をバックステップで避け、反撃に転じた。

 

「『うらぁ!!(ザリィイ!!)』」

 

まずはスタースクリームに右手のソードで横薙ぎの斬撃を食らわせ、その勢いのまま回転。

 

「『でいぃ!!(ザブ!!)』」

 

『ッ!?』

 

更にその勢いを乗せた左手のソードで繰り出した袈裟斬りを、回転して正面に捉えたブラックアウトへと叩き込む。

勢いを乗せて斬った事で、俺の身体は再び反対方向、つまりスタースクリームへと向き直る。

斬撃一閃程度ではそこまで堪えなかったらしく、奴は既に俺に向かって左手に展開したキャノンを構えんとする。

そんなモン喰らって堪るかってんだ!!

 

「『むん!!』(ザグ!!)」

 

俺に向けようとしてた左腕に右手のエナジーソードを振り下ろし、肘の近くを貫く。

この固定した状態から更に俺は動いた。

 

「『ちょっと邪魔するっぜ!!』」

 

『ッ!?』

 

固定した腕を支点に、俺は身体を回転させる。

そうする事で、俺はスタースクリームの背中に乗り、背中合わせの状態になった。

そのまま奴の肘に繋がった右腕を振って持ち上げる。

向ける先は、斬られて無い右手からマシンガンを出して射撃してくるブラックアウトだ。

 

ドヒュン!!

 

『(ドォン!!)ッ!?』

 

俺を狙っていた筈だったスタースクリームが撃ち出したキャノンの砲撃は、ブラックアウトの腹部に着弾。

図らずもフレンドリーファイヤになってしまった訳だが、ブラックアウトは直ぐに体勢を整えてしまう。

なら、もういっちょ喰らわしてやるよ!!

俺はスタースクリームの背中を転がって反対方向に着地して直ぐ、地面に左足を付いて回転する。

その勢いでスタースクリームの肘からソードが抜けるが、奴は勢いに逆らわずにされるがままだ。

俺は奴から抜けて掲げる様な構えになってる右腕のエナジーソードを、手の甲から外して右手に持ち――。

 

「『――だらぁ!!』(ブォン!!)」

 

俺にマシンガンを向けるブラックアウトに向かって投擲した。

オーバースローで投げたエナジーソードはブンブンブンと風切り音を鳴らして飛翔し――。

 

『(ギィイイイン!!)ッッッ!!?(ズズゥン!!)』

 

見事に右膝に深々と突き刺さり、遂にブラックアウトが膝を地面に着いた。

普通ならここで追撃を掛けて沈めたいトコだが、まだ元気に動く相手が残ってる。

エナジーソードを投擲した体勢から反転して、俺は襲い掛かる暮桜モドキとスタースクリームに視線を向ける。

 

『ッ!!(ブォン!!)』

 

「『ッ!!(ヒョイ)らぁ!!』(ボゴォ!!)」

 

『ッ!?』

 

まずは雪片を振るって襲い掛かってきた暮桜モドキにカウンターでアッパーをお見舞いして距離を離す。

この隙に俺を挟んだ位置に居るスタースクリームへと向かう。

 

『ッ!!(ゴゥ!!)』

 

「『おっと!!』(ギィイン!!)」

 

それに反応して、奴も俺に向かって右腕でパンチを出すが、それを左手に残ったエナジーソードで外へ受け流す。

そのまま空いた右手で奴の顔を殴って後ろへブッ飛ばす。

と、今度は暮桜モドキが距離を詰めてくるではないか。

ったく、次から次へと面倒な!!

奴は手に持った雪片を振るわず、さっき俺の顔面を襲ったハイキックを再び繰り出してきた。

――同じ技なら当てられるだろうってか?

 

「『甘えんだよ――ボゲェ!!』(ガァアアン!!)」

 

俺は振り上げられそうだったハイキックへ先手を打ち、暮桜モドキの膝をエナジーソードで刺し止めた。

更に身体を移動させて蹴り足の外側へ周り込んで、エナジーソードを引っこ抜く。

 

「『おおら!!(ギャリィ!!)そう何度も同じ技を喰らうわけねえだろう、がぁ!!(ズバ!!)』」

 

『ッ!?』

 

怒鳴りながらエナジーソードを奴の脇腹に刺してまた引っこ抜き、右手で肩を抑えて強制的に土下座させながら、抜いたソードで肩も貫く。

 

ギュウゥン……!!

 

『エナジーソードへのエネルギーバイパスに異常発生。バイパス回復まで使用不可。回復作業に移行します』

 

と、ダメージを貰い過ぎたのか、エネルギーバイパスに異常をきたして、エナジーソードが勝手に収納される。

だが構うこっちゃねえ!!剣が使えねえのなら拳!!まだ銃も残ってるんだからなぁ!!

ソードが無くなって戒めから解放された暮桜モドキが顔を上げるが、既に俺は拳を振り上げている。

 

「『ぬうぅ!!(バゴォ!!)』」

 

『ッ!?』

 

「『どらぁ!!(ズドォオオ!!)』」

 

見上げる様に上げられた暮桜モドキの顔に右ストレートを叩き込み、左アッパーで逆向きに殴り倒す。

フルスイングで打ち込まれた打撃に耐えかね、暮桜モドキは後ろ向きに吹っ飛んでいった。

 

『ッ!!』

 

「『しつけえ奴等だなテメェ等はぁ!!!』」

 

そして今度は隙を突いて攻撃を繰り出してきたスタースクリームだ。

奴は再び背後から俺に右腕の攻撃を繰り出すが、早々何度も喰らってやる俺じゃない。

右腕での殴りつけを振り返りざまに同じ右腕で受け止め、すかさず左腕で持ち直す。

態々掴む手を入れ替えたのは、攻撃の為だ。

 

「『こんのぉ!!!』」

 

入れ替えた右腕を振り上げて、スタースクリームの腕の付け根に力いっぱい叩き落とす。

 

『(バキョ!!)ッッッ!!?』

 

鉄が捩れる様な歪すぎる音と共に、奴の腕が付け根から取れる。

衝撃によろめいてたたらを踏むスタースクリームだが、俺は追撃の手を緩めない。

折角、俺の手に『もぎたての武器』があるんだし、使わねえ手は無えよなぁ!!

 

「フン!!フン!!だりゃぁあああ!!」

 

『(バギャ!!)ッ!?(グシャ!!)ッ!?(ドゴォ!!)ッ!?』

 

俺はスタースクリームの引き千切った腕を振り回して、それでスタースクリームを叩きのめす。

しかし関節の付いた腕なんだから、そんなモンで何発も殴ってたら直ぐに関節部分から駄目になり始めた。

ブランブランと揺れて打撃力の無くなった腕を捨てて、俺は右腕を思いっ切り下から振りかぶる。

まだ1発も使ってなかったし、ついでに今まで使ってなかったこの武装も追加してやるぜ。

俺のコールに応じて、右手の握りしめた拳に、腕の部分からあるパーツがせり出して被さる。

メタル合金製の巨大スパイクが3本と、やや刃物に近いスパイクが2本取り付けられた、『GRIZZLY KNUCKLE』だ。

只でさえ強烈な『IMPACT』を併用した『ストロング・ハンマー』に、凶悪なグリズリーナックルを取り付けたこの一撃。

 

 

 

名を付けるなら――。

 

 

 

「『グリズリィイイイイ!!マグナァアアアアアアアム!!!』」

 

『(ボグシャァアアアアアア!!!)ッ――』

 

 

 

獰猛な熊の一撃ってトコだろう。

 

『――(ガシャァアアン!!)』

 

進化させた拳……グリスリーマグナムを喰らったスタースクリームは、モノ言わぬ鉄屑に成り果てた。

いや、今までも喋る事も悲鳴を挙げる事すらも無かったが、さっきの言い方は正しくない。

正しくは、『顔面が吹き飛んで動かなくなった』って事だ。

掬い上げる軌道を取ったグリズリーマグナムの一撃が炸裂した頭部は、そりゃもう綺麗に消し飛んだ。

そのままスタースクリームは身体の活動の一切を止めて、ゆっくりと地面に倒れ込む。

そこから再びドロドロと機体が溶けたかと思えば、見慣れたラファールの……残骸に早変わり。

無事なのは辛うじてコアの部分だけなのが分かる。

 

…………良し、まずは一体目、殲滅完了だ、後はブラックアウトを潰すだけ――。

 

残るはブラックアウトだけだが、そちらに視線を向けた俺はギョッとしてしまう。

腕を斬られ、膝を壊されて動けなくなった筈のブラックアウトは、普通に歩いて俺の投げたエナジーソードを膝から引き抜こうとしていた。

……まだ戦ろうってのか?……いい加減に……ッ!!

 

「『大人しくくたばっとけってんだよ、クソ野郎!!!』」

 

何とも諦めの悪い正体不明機に吠えながら、俺はエナジーフックを展開して急接近する。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「うわぁ……一夏、さっきの見た?」

 

「あぁ見た。何かもう色んな物が飛び散って吹っ飛ぶのを……なんてパンチ出してんだよ兄弟……ッ!!」

 

「あ、あはは……只でさえ凶悪な元次の拳を、あんな凶悪なモノで強化して、火薬まで使って撃ち込むなんて……あれ?シールドピアースが霞んでるや」

 

「気にするなシャルル。アレは別格過ぎるって……オプティマス・プライムで強化した兄弟の拳は、第一級危険物指定だな」

 

一方、此方の居残り組では、シャルルと一夏が元次の繰り出した『グリズリーナックル』の破壊力に慄いていた。

最早カスぐらいしか残らない程に相手を粉砕する一撃必殺の拳。

腕をもがれた上にアレでトドメを刺されたスタースクリームが、二人にはとても不憫に見えて仕方無い。

 

「ああやって暴れまわる兄弟を見てたら、大分頭が冷えたよ……でも、その分冷静にあの偽物野郎をブッ潰してやれる」

 

「うん。怒りも大事だけど、それで前後不覚になってたら駄目だからね。そういう意味では、元次の暴れてる所を見れて良かったんじゃないかな?」

 

二人はそんな話をしながらも、一夏の視線は地面に沈む暮桜モドキを真剣に見つめ、シャルルは真剣な表情でラファールのエネルギー受け渡しを行なっている。

ちなみに一緒になって元次の戦う姿を目撃している先生二人は、開いた口が塞がらなかった。

集団を1人で倒す事の困難さは、現役時代にISを乗っていた経緯から嫌というほど身に沁みている。

しかも本来、ISの戦闘ではそうそう多対一という状況は生まれたりはしない。

公にはスポーツという枠に収まるISでは、両者が公平になる様に、今回の様なタッグマッチが殆どだ。

多くても二対一、若しくは国の演習訓練でやる大掛かりなチーム戦ぐらいなものだけである。

勿論IS学園は世界で一番多くのISを管理しているだけあって、そのぐらいの集団戦をやろうと思えば出来る。

しかしそれでは訓練や授業ではなく只のリンチになってしまうので、そういった授業は行われていない。

故に先生二人は、集団を相手にド派手な大立ち回りを披露する元次の力量に驚愕していた。

勿論、元次の垂れ流す気迫が、先ほどやられていた時に大分薄れたからこそ、見る事が出来たのだが。

それは観客席に座る者達にも言える事であり、未だ恐怖に震えながらも元次の力量に目を剥く者達が大勢居る。

 

『……ッ!!』

 

と、ここで元次に膝を壊された筈のブラックアウトが起き上がり、膝に刺さっていたエナジーソードを引っこ抜いていた。

それを見てハッとした先生達が声を掛けようとするが――。

 

「『大人しくくたばっとけってんだよ、クソ野郎!!!』」

 

同じ様に気付いていた元次が行動に移る方が速かった。

元次は両手に燃える鉤爪の『エナジーフック』を展開すると、そのままブラックアウトに飛び掛かり――。

 

「『うぬらぁああああ!!』(ザグシュッ!!)」

 

『ッ!?』

 

「「「ひ!?」」」

 

その鉤爪のギザギザの刃を、ブラックアウトの顔面に突き刺した。

その凄惨たる光景にシャルルと先生達は悲鳴を挙げるが、一夏はせめてもの男の意地で声を挙げなかった。

普通の人間ならこの時点で死んでるが、相手は人の乗っていない無人機状態。

ならば、あの男が手加減をする道理は無い。

元次は突き刺したエナジーフックを支点に、腕の無い方から背中に周って肩へとよじ登り――。

 

「『いい加減にその不細工な面ぁッ!!』(ガギン!!)」

 

もう片手のエナジーフックを、刺した側とは反対から、顔を☓の字に交差する様に引っ掻け――。

 

「『見飽きたんだよ俺はぁああああああ!!』(メキメキメキ!!!)」

 

『ッ!?(ベキキ!!)ッ!?(バギィイイイイ!!)――』

 

「「「ひぃいいいい!?」」」

 

「うわ……ッ!?えげつねぇ……ッ!!」

 

両側から力を掛け、ブラックアウトの顔を毟り取った。

しかも両方同時に引いたモノだから、顔が斜めに引き裂かれ、二分割されてしまう。

耳に残る嫌な音が鳴り止んだ時には――。

 

「『ガラクタがぁ……ッ!!』」

 

半分に裂かれ無残に潰れたブラックアウトの顔が、両手のエナジーフックに垂れ下がっていた。

それを適当に放り投げた元次はブラックアウトの背中から飛び降り、その際に背中の首の付根にフックを引っ掻けて地面に引き倒した。

これで2体撃破、残るは暮桜を真似たラウラの機体だけ――。

 

「……ッ!?アイツは何処に……ッ!?」

 

しかし最後の機体、即ちラウラが居た筈の方へと視線を向けた一夏だが、その姿が無い事に目を見開く。

さっきまで倒れていた筈のラウラの機体が、忽然と姿を消していたのだ。

慌てて辺りを見渡すも、視界で動いているのは、ブラックアウトを引き倒して地面に着地しそうな体勢の元次だけだ。

自分の為の戦いを行う相手が居なくなった事に焦る一夏だが、その時、視界に写る元次に影が差し掛かった。

太陽が雲に隠れた影では無く、まるで元次に近い大きさの何かが元次の上空に居るかの様に――。

 

「ッ!?ゲンンンン!!!上だぁああああああああああッ!!!?」

 

「『ッ!?』」

 

元次に掛かる影の正体――上空から元次に急降下する暮桜を見た瞬間、一夏が声を張り上げる。

一夏の悲鳴に近い叫びを聞いた元次は表情をハッとさせ、直ぐ様上空へと身体を向け――。

 

 

 

ザブシュッ!!!

 

 

 

「『――がっ……ッ!?』」

 

 

 

上空から飛来した雪片が、オプティマスの右胸のアーマーを貫通し、刺し穿たれた。

突然起きた目の前の信じ難い光景。

それを見て、この場の人間達――特に一夏は、呆然としてしまった。

 

 

 

何だ?何が起こった?何で――――兄弟の身体にユキヒラガ刺サッテルンダ?

 

 

 

まるでスローモーションの様に地面へと向かって身体を倒す元次の姿。

その姿が信じられなくて、目の前の光景を理解しようとするのを、一夏の脳が拒否する。

苦しそうな表情で口から血を吐き、アーマーと身体の隙間から血が流れる光景の全てを拒絶した。

シャルルや先生達が叫ぶ声も、一夏の耳には入っていかない。

しかし一夏が理解する事を放棄しようとも、それで事態が止まる筈も無い。

上空から地に降りた暮桜モドキは、地面に倒れそうになっていた元次の胸に刺さる雪片を握る。

そうする事で、雪片に穿たれた状態の元次は地に倒れる事無く、無理矢理起こされた体勢になってしまう。

 

「『がはっ……ッ!!……テメェ……ッ!!』」

 

不本意な形で止められた元次は口から少量の血を吐きながらも、鋭い眼光で暮桜モドキを睨みつける。

不幸中の幸いといった所か、雪片は元次の背中には貫通しておらず、刺さった部分も浅い。

重症には違いないが、致命傷には至っていない様だ。

元次の獣の様な眼光に対して暮桜モドキは何のリアクションも見せない……が、暮桜モドキが元次を支えたのは何故か?

助ける為?――否。

 

『……(ジャキッ)』

 

「『……確実にってか?……用心深えこった』」

 

確実なトドメを刺す為だ。

 

ズドォオオオン!!!

 

無防備な元次の胸元にかざされたリュシエールから放たれたグレネードが、元次の胸元に爆炎の華を咲かせる。

衝撃は確実なダメージとなり、オプティマスの胸部装甲の殆どを吹き飛ばした。

暮桜モドキはその際に抜け落ちた雪片を回収し、感情の無い目で元次に視線を向ける。

爆発の余波で身体を宙に浮かせて吹き飛ぶ元次の顔には苦悶の表情は……出ていない。

顔に表情を浮かべる事が出来ない程のダメージを受けたからだ。

吹き飛ぶ元次の身体を包むオプティマスの胸部装甲は焼け落ち、胸の辺りが晒される。

鍛えに鍛えた逞しい胸筋を包むISスーツは破けて、素肌が顕になっていた。

3メートル程の距離を飛んでいた元次が地面に着地したと同時に、暮桜モドキは容赦の無い追撃を掛けた。

 

『……(ドォン!!ドォン!!ドォオオン!!)』

 

地面に倒れた元次に対して、弾倉に残ったグレネードの全てを浴びせたのだ。

3発もの大火力砲をモロに喰らった元次は再び宙を舞い、同じ様に地面へとその巨体を落とす。

爆発で生じた煙が晴れた先に倒れる元次の姿は……悲惨の一言に尽きる。

胸部装甲だけで無く、ウイングは圧し折れ、メインスラスターも片方やられていた。

中ほどに大きな穴の開いたメインスラスターから火花が上がるが、うつ伏せに倒れた元次はピクリとも動かない。

 

『『『『『――きゃぁああああああああああああああッ!!?』』』』』

 

『い、嫌ぁああああああ!?元次君!!元次君!!』

 

『ゲンチーーーーー!?お、起きて!!起きてよぉおおおおおお!!!?』

 

『ふ、二人共落ち着いて下さい!!』

 

『布仏!!夜竹!!お、落ち着くんだ!!』

 

その光景が認識された瞬間、アリーナ全体を悲鳴が包み込む。

ある者は腰を抜かし、またある者はその凄惨たる光景に目を背け、気の弱い者は気絶した。

その中でもさゆかと本音の取り乱し様は酷く、涙を零しながらも元次の名を叫んでいた。

誰もが騒然とする中、一夏は顔を俯けたままゆっくりと立ち上がる。

 

「…………何なんだよ……」

 

『エネルギー受け渡し終了。待機状態に移行します』

 

「い、一夏?(パァアア!!)ッ……あっ」

 

と、ここで一夏の様子がおかしい事に気付いたシャルルだが、丁度その時に全エネルギーの受け渡しが済み、リヴァイヴが消える。

つまり、自分の役割が終わった事をシャルルは理解した。

しかしこれから戦いに向かおうとする一夏の様子がおかしいので、シャルルは一夏を止めようとしたのだが……。

 

「突然現れて……試合を滅茶苦茶にして……(ビジュン!!)」

 

しかし、一夏の発するオーラに気圧されて、シャルルは声を掛ける事が出来なかった。

俯いたままで足取りも不確か。

だが、右腕の装甲と、展開された青白い刀身の零落白夜を見れば、前後不覚になっている訳では無い。

何時もの雰囲気を逸脱した一夏の状態に、シャルルは声を掛ける事をためらったのだ。

 

「千冬姉の剣を穢してた上に……兄弟に――」

 

段々と声に力強さを乗せて、俯けていた顔を上げた一夏の表情は――これ以上無い『憤怒』に染まっている。

その視線が見据える先は、リュシエールを捨てて、一夏を興味深そうに見やる暮桜モドキにのみ注がれている。

暮桜モドキの視線が自分に向いたと認識した瞬間、雪片を脇構えに構えて、一夏は走る。

その行動を敵対意識と取った暮桜モドキも、一夏と同じ様に構えてその場に佇んだ。

一夏は走りながらも暮桜モドキの剣をしっかりと見据えて、噛みしめていた口を大きく開く。

 

 

 

「――兄弟に何してくれやがってんだよぉ!!テメェはぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

『零落白夜、起動』

 

 

 

大切な家族の誇りを踏み躙られ、兄弟を傷つけられた騎士は、その怒りを刻まんと、剣を振り上げる。

一方で堕ちた戦乙女の虚像はその騎士の全てを否定せんと、紛い物の剣を構える。

 

 

 

 

 

かくして野獣は地に伏せ、怒れる騎士と戦乙女による舞踏が幕を開ける。

 

 

 

全てを終わらせるのは騎士の正統な剣か?

 

 

 

借り物の力で己を塗り固める戦乙女の剣か?

 

 

 

 

 

……それとも、地を舐めさせられた野獣の顎が、全てを飲み込むのか?

 

 

 

 

 

 

…………ピクッ。

 

 

 

 

終焉は、近い。

 

 

 

 

 

 

 

はい。

 

という事で、作者なりに頑張って映画の再現をしました。

 

 

再現したのは映画トランスフォーマーリベンジの森のバトルです。

 

 

楽しんで頂けたら幸いです。

 

 


 
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