第五話 獅子の格闘大会
「位置について!よーい!」
パン!と乾いた音がここ、麻帆良学園のスタジアムに響く
音と共に走り出す女生徒たち
その中に一人だけ混じっている、少年の姿
もちろんそれは麻帆良学園女子中等部3-A出席番号32番、ウルティムス・F・L・マクダウェルその人だ
「ふぅ…」
人造人間ゆえの脚力に物を言わせて、ゴールテープを切る
今は麻帆良学園全体で行われる体育祭の最中である
その中でウルは今、もっともスタンダードな競技、短距離走に出場していた
結果は貫禄の1位である、ブッチギリだ
パァン、とまたも乾いた音が鳴る
ふとウルがその方向に目を向けると走っているのは明日菜と美空だった
二人はデッドヒートを繰り広げるが、美空は一歩及ばず明日菜に負けてしまう
「こらアスナ、陸上部抜くなっつーの」
「いや~中学最後の体育祭でとうとう美空ちゃんに勝てたわよ~」
「くっそー高校行ったらまた勝負だかんね」
「ま、いいじゃん二人ともクラスの得点になるし。あ、ウル~!」
と、ここで明日菜がウルを見つけ、手をブンブンと大きく振りながらウルを呼ぶ
「ウルも凄かったじゃない。1位よ1位!これでまたうちに得点が入ったわね」
「そうそう、あのブッチギリ!200mなのにゴールした時点で二着の子が半分行ってなかったからね~」
「あはは…でも明日菜姉さんと美空さんも凄かったですよ。僕は一緒に走る人が女性だったからアレだけ差を付けられたんですから」
「お~?言ったねウル君…じゃあ次の機会には私と勝負してもらおうか~?」
「良いですよ。僕も負ける気はないですよ?」
美空とウルが約束をしているのを、明日菜は悲しげな目で見ている
自分は100年の眠りに付かなければならないからだ
来年どころか卒業式も迎えられない
クラスのみんなと一緒に卒業できないのが、何より辛かった
「…ま、どうにかなるわよね」
「ん?明日菜なんか言った?」
「なんでもなーい!ほら、次は全体イベントでしょ。早く移動移動!」
「えっちょっ、明日菜姉さん力強ッ!?」
「明日菜ッ引きずってる、私の靴が磨り減る!?」
明日菜は自分の発言を誤魔化しながらウルと美空を両腕で引きずっていく
「あ、明日菜姉さん!その前に僕は格闘大会が…!」
「え?あ、そうだったわね。ウルティマホラに出るんだっけ。じゃあ先にそっち行かないとね」
「あれっ、結局引きずるのは継続!?」
こうして目立つ三人組はスタジアムから出て行くのだった
★
ぶっちゃけ予選やらなんやらにそこまで時間をかけてらんないので、時を飛ばして準決勝
ちなみに会場はまほら武道会と同様に龍宮神社である
対戦カードは…
ウルティムス・F・L・マクダウェル VS 高音・D・グッドマン
「それではもう一度、ルールを説明させていただきます!司会は私、まほら武道会でも司会を務めさせていただきました3-A朝倉和美が勤めさせていただきます!」
そして和美が説明したルールは次のとおり
・舞台の大きさは15m×15mの能舞台の上
・刃の付いた武器、銃などの火薬を使う飛び道具の使用禁止(木刀や棒、投擲武器は使用可)
・試合時間は15分
・気絶、ギブアップ、リングアウト10秒、ダウン10秒で負け
・時間切れの場合は観客の投票で勝敗が決定
と言うことだった
「それでは選手の入場です!まずはこの人!まほら武道会でも謎のスタンド(?)を出してネットでヤラセ疑惑を加速させたグッドマン選手の入場でーっす!」
「紹介のしかたが酷すぎませんこと!?」
滝のような涙を流しながら高音が入場する
既に自身の防御力を上げる影を装着する魔法『
「そして対戦相手は!まほら武道会で健闘し惜しくも敗れたエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル選手の義弟!ウルティムス・F・L・マクダウェル選手、Come on!!」
「…普通の紹介で良かった…」
そして名前を呼ばれたウルも舞台に上る
こちらは黒い着物の上に藍色のローブを纏っている
「それではウルティマホラ準決勝第一試合…Fight!!」
「油断はしませんわ!最初からクライマックスで行かせて貰います!『
高音が魔法を発動すると、高音の背後からズズズ…と浮き出るように黒衣の仮面をつけた使い魔が現れる
「おおっと!これは高音選手、まほら武道会に引き続きまたもスタンド(?)を出したー!正直この戦いもヤラセ呼ばわりされないか心配な自分がいます!!」
「だから酷すぎでは!?それはともかく先手必勝です!」
ズギャーンと涙を流す高音
しかし気を取り直して使い魔を従えながらウルへと向かってくる
「受けなさい!正義の鉄槌!」
「うわっ!?」
高音がウルに影を纏ったパンチを放つが、ウルはそれを瞬動術で移動し避ける
高音とウルの身長差ではパンチは打ち下ろすように放たなければ当たらない
それを避けられたため、必然パンチは床に向かいズギャァン!!という音と共に床材が粉砕される
「おお!?高音選手女子ながら凄まじいパゥワー!これがまほら武道会で二度も脱がされた恨みの力なのかー!?」
「だぁぁかぁぁらぁぁ!?」
もう高音は弄られるのを諦めてはいかがだろうか?
「ええい、司会には構ってなどいられません!『
高音は次々を影で形作られた槍を繰り出す
その百はあろうかと言う影槍はウルをつけ狙う
「手数で攻めるんですね!でもこんなの、簡単に避けられます!」
ウルは瞬動術を駆使して次々と襲い掛かる影槍の弾幕を避ける
しかし全てを避けられるわけでもなく、ウルの服や体には小さい切り傷が付けられていく
「そこです!」
影槍をかわしながらウルは高音にスピードが乗ったパンチを叩き込む
まともに入ればダウンは必死のはずの威力のそれを、高音は若干顔を顰めるだけで耐える
「ッふふ…ま、まさか『影の鎧』を通してダメージを与えてくるとは…感服しましたわ。しかし!」
黒衣仮面の使い魔が腕を振るってウルを殴り飛ばす
リング外に飛ばされるウル、下は地面ではなく水面だ
「ウルティムス選手、このままでは水に落ちてしまうぞー!落ちてしまえばリングに戻るのに時間がかかる!それをどう回避するのかー!?」
「リングアウトなんかで負けたら、師匠にどやされます!」
ウルは何とか空中で体勢を立て直し、空中での瞬動『虚空瞬動』でリングへ戻る
「その年で虚空瞬動を習得しているとは…流石ですね、侮れません。ですので…本気で、行かせて貰います」
高音は目を閉じて静かに魔力を高める
ウルもそうはさせまいと高音に格闘戦を仕掛けるが、全て黒衣仮面の使い魔に防がれてしまう
「―行きます!『
今度は先ほどの影槍よりさらに数を増した、槍の弾幕がウルを襲う
弾幕の密度も上がりもはや全てを避けるなど至難の業だ
「っく…『
ウルは避けることではなく、その場に立ち止まって防ぐ選択肢をとった
魔法を発動させるとウルの眼前に水で形作られた半球状の盾が現れる
「そんな水の盾など!」
高音は水の盾ごとウルを貫こうと槍を操作する
しかし向かわせた槍は悉く盾にそらされてしまう
「何ですって!?」
「この盾は外側に向かって常に水が流れているんです。飛び道具相手には相性ばっちりですよ!」
全ての槍をそらし終えたウルは今度こそ!と言う気概で高音に格闘戦を仕掛ける
しかし高音は余裕の表情でウルを迎え撃つ
「格闘は無駄ですわ!」
「やってみなきゃわかんないでしょう!」
ウルはここで中級の雷系魔法『白き雷』を自身の右脚に纏う
高音は予想外の攻撃に身を竦ませた
「白雷蹴撃!!」
「っそんな方法で!?」
ウル命名オリジナル攻撃『白雷蹴撃』は見事高音の腹部に直撃
高音は蹴りの衝撃には耐えたものの、感電によって意識を失ってしまった
「高音選手KOー!ウルティムス選手の雷を纏った飛び蹴りに耐え切れなかったようです!勝者はウルティムス選手!…おっと、あれは何でしょうか?高音選手の服からなにやら煙が…」
高音の纏っていた『影の鎧』の魔法が解除されてしまう
実はこの魔法、体に『直接』纏う魔法なのだ
つまり、解除されてしまうと…
「高音選手脱げたー!!靴と帽子以外全てが脱げてしまいました!とりあえず男性諸君は目を瞑れ!」
「あ、はわわわわわ…」
そう、脱げてしまうのである
すっぽんぽんである
高校生らしからぬスタイルの肢体を惜しげもなく観衆に披露してしまっている
目の前で目撃してしまったウルなど、顔を真っ赤にして頭から煙を噴出している
「…ん、む…あら?…ああ、私は負けてしまったのですね。ウル君に負けてしまうとは…私もまだまだ修行が足りないようですわ」
「あ、あああああのぅ…」
「しかし!もっと修行を積んで、再戦した暁には必ずやあなたを倒して見せます!」
「とととととりあえずこれを羽織ってください!!」
「え?………ッ!」
ウルは自分のローブを高音に羽織らせる
ようやっと自身が裸を晒している事に気付く高音
顔が瞬く間に赤く染まっていき、最終的には頭からポーッ!っと汽車のように蒸気を噴出して倒れてしまった
「えっと…もう退場しても良いですか?」
「どうぞー!さて、健闘した小さき少年に大きな拍手をお願いします!」
ウルは高音を抱き上げながら和美に問う
抱き上げ方は膝裏と背中に手を回すお姫様抱っこといわれる物だ
そしてウルは万雷の拍手を背に受けながら舞台から退場していった
選手控え室で、この後体育祭を一緒に回る約束を高音としていたのは完全なる余談である
次回は古菲との決勝戦!
はしないよ!中国拳法を良く知らないから!
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