No.673868 欠陥異端者 by.IS 第一話(異端者の召喚)rzthooさん 2014-03-26 17:30:53 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:1408 閲覧ユーザー数:1362 |
何のために生きるのか・・・?
こんな難しい質問を自問自答して、もう10年が経つ。
悩み始めたのが5歳の時だから、もう15歳になるのか・・・。
私には親はいない。産湯で洗われた形跡はあったみたいだけど、産まれたての私は孤児院の前にバケット共に捨てられていた。
体が弱く貧血で倒れたり、食欲がなくて一日中何も食べなかった日もあった。
職員はそんな私を気にかけてくれたけど、心を開いて本心をさらけ出すことは無かった。
しかも、先手性視覚障害を持っていたらしく、左目は見えず眼帯をしている。
13歳になり、孤児院を出て仕事をした。
体調のせいで、仕事は続けることができず、でもお金は必要だから町工場や運搬業を転々としていた。
14歳になると、無理を覚えて何とかギリギリの生活が安定して、毎日が仕事のスケジュールで埋まっていた。
主に派遣社員だったから、日本全国を駆け回った。
15歳になったら、派遣会社から”海外の会社の求人情報”が入ってきた。
家なんて寝るためだけにある私にとっては、少しでもお金を稼げるならどこへだって行く。
そして、交通旅費代は会社持ちで、中国とロシアの貿易の仕事を1年契約で日本を離れた・・・。
生きるためにはお金がいる。
私にとって生きるということは、お金を手に入れることとイコール。
大した目標も夢なく、15年も生きてしまった・・・。
だから、1年契約が切れる直前、新たな仕事の依頼・・・”日本に住む『更識家』の従事者”の仕事を引き受けた時、今まで見てこなかった・・・いや、もしかしたら見ようとしてなかったもの・・・”落合 零”という存在を見つめ続ける事態になるとは、思ってもみなかった・・・。
1月××日。
更識家、門扉前。
桜「あなたが落合 零君ね。今日からお願いしますね」
浴衣姿で出迎えてくれた更識 桜。
大きな門扉の奥に広がる古風な屋敷と庭の当主と、資料に書いてあった。
ISというよく分からない機械が登場して、世界中に衝撃を与えた副作用で男卑女尊の世の中になった。
だから男性でなく、女性が家柄を継ぐことが普通になっている。
しかし、こんな物腰の柔らかい女性は珍しい。
桜「仕事内容は中で。長旅で疲れたでしょう?」
零「お世話になります」
門扉脇にある扉から更識家の敷地に入り、居間に通された。
そこに、おそらく更識 桜さんの夫・・・更識
どうやら、ご主人の方から仕事内容の説明があるらしい。
陵「はじめまして、陵です。さっそくだけど、君にはこの敷地全体を散歩してもらいたいんだ」
零「散歩・・・ですか?」
陵「本来は従事長からの説明を受けてもらうんだけど、君の仕事ぶりを聞いている限り何でもそつなくこなしてくれると思うから、今日一日で全体の把握をしてもらいたいんだ・・・実を言うと、従事長の佐々木さんがお休みで、何人かは学校とか色々あって抜けてて、このままだと僕が全部教えなくちゃいけなくてね」
つまり、面倒ってことなのだろうか・・・そんな不真面目そうに見えないけど。
陵「桜も他の従事さんも事情は知ってるから、不審者って疑われることないから。気晴らしついでにどうかな?」
零「僕は構いません」
というより、人に教えられるよりかは、自分で見て学んだ方がやりやすい・・・私はそういう人間だ。
陵「そうか。それなら良かった・・・もうすぐお昼ごはんだから、食べてから自由に見回って。今日は桜お手製の昼食だから楽しみにしてなさい」
よほど奥さんの手料理が楽しみなのか、まんべんな笑みを浮かべる。
・・・やはり、不真面目な人には見えない。
昼食を食べ終え、桜の木、イチョウの木が並ぶ庭を通り、ご主人の言われた通り散歩を始めた。
外からも広いと思ったが、それ以上の広さに今日中に全部回りきれるか不安になる・・・しかし、今の私は別のことを考えていた。
零(月給30万・・・寝る場所も食事も三食出される・・・そしてこうして自由に行動させてくれる・・・あまりにも優遇されていないだろうか)
先ほどの昼食も、おそらく今日限りだろうが、ご主人と奥様と一緒にご馳走になった。アットホームさを感じずにはいられなかった。
実際の仕事がどういうものかは常識を知らないから分からないが、少し異常じゃないか?
『更識家』・・・詳しい資料は無かったが、資産家あたりだろうと思ったけど、従者の人数も少ない。普通はもっといるんじゃないのか?
思考がさらに深いところまで詮索しようとするが、私は無意味だと思い止めた。
零(別に私には関係ない。第一、こういう家柄が部外者を雇う自体からおかしい。何か家の問題もあるんだろう・・・)
今、やるべき事は自分から仕事内容を把握して、明日に備えることだ。
余計な詮索を停止し、私は早歩きで屋敷、敷地内を脳に叩き込み、だいたいのやる事は他の従者の動きも見て、シミュレーションをたてる。
屋敷の二階は、ご主人と奥様・・・娘二人の部屋があるらしく、そこには足を運んではいないが、そこ以外の場所はすべて把握した。
?「・・・えっ?」
零「?」
とりあえず、居間に戻ろうと庭を歩いていたら、玄関から門扉までの道筋に差し掛かった時、水色の髪をし、眼鏡をかけたセーラー服の女子学生と遭遇した。
おそらく、娘二人の内の一人なのだろう・・・母親に似ている。
しかし、その娘さん・・・お嬢様って呼んだ方がいいのかな・・・は、私を見るなり固まって、すぐに屋敷まで走り去ってしまった。
零(あれ? 事情は知っているはずじゃ───────)
首を傾げた瞬間、いきなり背後から腕を極められ、地面に叩き付けられた。
零「うぅ!?」
今まで味わったことのない痛み。
現場仕事を体の不調にこらえながら続けていなければ、もしかしたら一発で失神していたかもしれない。
首を曲げ、黒目も横に動かして相手を見ると、スーツ姿のサングラスをかけた男・・・ボディーガードマンって風貌・・・というか、もろボディーガードじゃないか!
零「ちょ、ちょっと待っ──────いっ!!」
どうやら、話させてくれないらしい・・・。
おいしい話には裏があるとよく言うが、やっぱり普通の仕事場じゃないぞ、ここは。
桜「ごめんなさい。腕は大丈夫? ほら、簪。謝りなさい」
簪「・・・ごめんなさい」
零「い、いや、もう大丈夫ですから」
あの後、奥様達が駆け付けてくれて私は解放された。
今も肩に痛みがあるが、上げ下げに異常はなく、居間で奥様とご主人、娘の簪お嬢様が机を間に置き正座して、頭を下げている。
バイトの身分で主から頭を下げるとは・・・やっぱりおかしい。
簪「・・・」
三人が頭を上げると、お嬢様は上げると同時に居間を出ていった。
桜「簪・・・! ごめんなさいね、あの子の年代は気難しいから
更識 簪・・・私と同年代の15歳らしい。
見た目からもう”暗い”印象を与える少女だった。シャイなのか、そもそも人付き合いが嫌なのか・・・
陵「私もすまなかった。簪には一応、君のことは伝えたんだが、出歩くことまで話していなかった。すまない」
こうずっと謝られると、こっちが気を遣ってしまう。
初日から気疲れる・・・。
と、夕食は従者の人達と同じように単独でいただき、勤務時間が終了して今日から寝る部屋に着いている。
部屋は更識家の隣にある古いアパート・・・といっても、清掃が行き届いていて居心地が良かった。
他の従者も室に入って寝入っていることだろう。
私も寝ることにして、畳の上にひかれた敷布団に私服のまま横たわる。
明日からまた違う仕事が始まる・・・。行く先は不安だが、1週間も経てば慣れるだろう。
しかし、その考えは3か月後にあたかたもなく、破壊された。
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落合 零は親の顔を知らず、誰にも心を開くことなく、お金を稼ぐためだけに生きてきた。体が弱いため、身を削った生活を送り、目標も夢も持たない少年の零。
そんな生活が、『ISを扱える男』の存在が広まって彼の人生が一変する。
今まで見てこなかった落合 零という人間の過去・・・果たして自分は何者なのかと模索し、挫折し、また模索し続ける物語である。