「No,04、No,8、こちらへ」
「PSI能力同士による、異能力戦闘訓練を開始する」
異能力研究機関にて行われた、実験体同士の戦闘訓練。赤髪で身長の高い少年、長い黒髪の少女は無表情のまま、正面から互いに向き合う。
「開始」
「「…ッ!!」」
合図が出されると同時に、実験体達による戦闘が開始される。少年は右手に纏った電撃エネルギーを少女に向けて放ち、少女は両手に出現した銃型エネルギーから何発もの銃弾を放ち始める。二人が戦闘する中、研究員達はその戦闘データを機械で収集し、それらの数値がパソコンに映し出されている。
「ッ…うぁっ!?」
「テスト、終了」
少女の放った銃弾が少年の右肩に命中し、少年は右肩を押さえて床に倒れる。それを見た研究員が終了の合図を出し、少女は銃型エネルギーを消滅させる。
「よくやったね、No.8。君は更なる強者の道へと進んだ、誇って良いよ……あぁ、No.4の事は気にしなくて良いんだよ? 彼は君が強者となる為の、糧でしかなかったという事だ」
一人の研究員が少女に対して下卑たような笑みで優しく語りかけるが、少女は無表情のまま何も答えようとしない。彼女とNo.4の少年はそのまま研究員達によって部屋から退室させられ、その次に他の実験体が連れて来られる。
「次、No.01、No.5、こちらへ」
短い金髪の少年―――No.1と、黒髪の目付きが鋭い少年―――No.05。部屋に入った二人は正面から向き合わされ、それを確認した研究員が合図を出す。
「開始」
その瞬間…
「―――え?」
一瞬にして、No.01は首を大きく刎ね飛ばした。
それも、
「「「「「!?」」」」」
これには他の研究員達も、流石に動揺を隠せない。
「な、何をするNo.01!? 育ての親に対して、礼儀がなってな―――」
言葉は続かない。
No.05が右手を翳した瞬間、部屋中の研究員達を一瞬で爆殺してみせたのだから。
「ぐ、おのれ…!!」
一人生き残った研究員がすかさずスイッチを取り出し、それを押す。直後、No.01とNo.05の身体から大爆発が起こった。
「はん、ざまぁ見やが…ッ!?」
煙が晴れた後、研究員は顔が蒼白した。
「「―――クハ、ハハハハハハ…!!」」
そこには、身体中から血を流しているにも関わらず、平然と立っているNo.01とNo.05の姿があったのだから。
「ば、馬鹿な!? 何故生きている!?」
「クハハ、簡単な話だ……ライズのPSIを、身体能力強化エネルギーに転換し、肉体を頑丈にしてやったまでの話だ…!!」
「ば、馬鹿な―――」
そして、生き残っていた研究員の眉間にナイフ状エネルギーが突き刺さり、そのまま彼も絶命する。
「ククククク……始めようかぁ、No.01?」
「うん、No.05……さぁ」
「「奴等に、血の報復を」」
彼等の暴走による影響は、実験体収監室まで響く事となる。
「―――!?」
部屋に収監されていた金髪の少女―――No.02は、突然起こった地響きでベッドにて目覚める。
(地震? 何で、いきなり…)
その時…
-ガシャァァァァァンッ!!-
「!?」
厳重にロックされていた部屋の扉が突然凍りついてから粉々に粉砕され、No.02はそれを見て思わず起き上がってから身構える。
「No.02、ここにいるか?」
「え…ッ!?」
扉を破壊した青髪の少年―――No.03は部屋に入り、No.02の首に付いた首輪を力ずくで破壊する。
「早くここから出よう……奴等に、血の報復を…!!」
「血の、報復…?」
驚きを隠せないNo.02に、No.03は優しく手を差し伸べる。
しかしその眼には、とてつもない狂気が映っていた。
「喰らい尽くせ」
「「「ギャァァァァァァァァァッ!?」」」
顔中に包帯を巻かれている少年―――No.09は自身の影を様々な形状に変化させ、研究員達を次々と喰い殺していく。そこへ駆けつけた施設の警備隊が駆けつける。
「実験体達が暴走している…撃てぇっ!!!」
警備隊の男達は防御盾を構えたまま一斉にライフルを構え、No.09に向かって一斉掃射を開始する。
しかし…
「「「「「ッ!?」」」」」
No.09と警備隊の間に割って入って来た茶髪ショートヘアの少女―――No.12は右手を翳し、飛んで来た銃弾を全て目の前で急停止させる。
「「「「「な…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」」」
「アハ、アハハ…アハハハハハハハハハハハハ!!」
そのまま全ての銃弾が反射され、防御盾すらも貫き警備隊を全滅させる。No.12は狂気の笑い声を上げながら通路の壁を次々とテレキネシスで破壊し始める。
『グルァァァァァァァァァッ!!!』
「ひっ!?く、来るな…ギャァァァァァァァァァァァッ!?」
坊主頭の少年―――No.15は巨大な獅子のようなPSIエネルギーを出現させ、逃げようとする研究員を容赦なく喰い殺していく。
「ウフ、ウフフフフ…♪」
「「「がぼぼぼぼ…!?」」」
緑髪の少女―――No.10は出現させた水流に研究員や警備員達を飲み込み、そのまま窒息させていく。
「これ、は…!?」
「始まったんだよ、血の報復が」
実験体達が施設内で破壊と殺戮を繰り返している中、No.02はその光景に無表情ながらも驚きを隠せないでいた。
「No.01による作戦だよ。奴等に気付かれないところで、僕や他の皆にテレパシーで連絡を取り合っていたのさ。今も他の実験体達を解放して、こうして暴れているという事さ」
「し、しかし、どうやってPSIを…!?」
「戦闘訓練の間だけ、首元のPSI抑制用装置は一時的に取り外される……No.01はこの瞬間をずっと待っていたのさ。ここの実験で与えられた力が少しずつ強化し、実験に耐えながら……奴等に血の報復を行う為にね…!!」
「ッ…!?」
楽しそうに説明するNo.03の眼からは、既にハイライトが失われていた。そんな彼の眼を見て、No.02は若干だが足が竦んでしまう。
「彼は今、地上の1階で暴れているだろう……君は彼の姉だろう? そこまで連れて行ってあげるよ」
No.03はニコリと笑顔を見せてから、No.02に優しく手を差し伸べる。No.02はその対応に戸惑いを感じつつも…
(弟が、上の階にいる…)
弟に会いたい。
そういった思いから、彼女はNo.03の手を握り返す事しか出来なかった。
「ヒャッハァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
施設内のあちこちを次々と爆破していくNo.05。そんな彼の近くの階段から、No.03とNo.02が駆け上がって来た。
「お、No.03か……ん? そいつは…」
「No.02。彼女はNo.01の姉だよ、君も覚えているだろう?」
「あぁ、そういやそうだったな。悪い悪い」
「…あ、あの」
「あ?」
No.02は勇気を振り絞って、No.05に問いかける。
「No.01は……アルは何処に…?」
「No.01なら、この通路の先だ。今頃この機関のゴミ共を使って、色々と遊んでるんじゃねぇのか?」
「遊んでる…?」
「とにかくまぁ、行ってみりゃ分かんだろうよ」
No.05の言葉を聞いて、No.02は恐る恐る通路を進んで行き、No.01がいるという部屋まで辿り着く。
「…ッ!?」
そこには…
「あ、姉さん♪」
研究員や警備員による死体の山が築かれている中、その頂上に立っているNo.01の姿があった。白かった筈の服は自身の血や返り血などによって赤く染まっており、両手には二本の
「ッ……ア、アル…!?」
「良かった姉さん、無事だったんだね♪」
No.01は無邪気な笑みを浮かべながら、死体の山から床に降り立つ。その時の彼の笑顔は、No.02からは化け物のように映っていた。
「アル……お、お前は…!!」
「大丈夫だよ、姉さん♪ 僕が姉さんを守ってみせるんだ。今日だって、これからだって」
No.01はNo.02に対して手を差し伸べる。
「一緒に逃げよう、姉さん」
「ッ!!?」
「僕達は、ずっと一緒だよ♪ これからもずっと―――」
「来るな…」
「…え?」
No.02の答えは、No.01が望んでいたものとは違っていた。
「来るな……お前は……今のお前は…アル、じゃない…!!」
「え……何、で…?」
姉の口から告げられた明確な拒絶。それには流石のNo.01も、これには動揺を隠せない。
「何で……何で、そんな事を言うの…? 僕はただ姉さんを―――」
「来るな!!」
「ッ…!?」
「…あ」
No.02は声を荒げ、No.01の差し出そうとした手を無理やり払い除ける。しかしそこで我に返ったのか、No.02はしまったと言いたげな表情になる。
「あ……す、すまない…私は…」
「姉さん、が……僕を、拒んだ…? 僕は……姉さんに、嫌われ…て…?」
「ま、待ってアル……違う、違うんだ…!! 私は…」
「おい、危ねぇぞ!!」
「「!?」」
No.05が叫んだ直後、二人の間に巨大な瓦礫が落ちて来た。二人は何とか回避したものの、この瓦礫の所為でNo.01とNo.02の間に障害物が出来てしまう。
「ここはもうじき崩れる!! No.01、脱出するぞ!!」
「姉さ、ん……何、で…? 僕は、ただ…」
「急げ馬鹿、ここで死ぬ気かぁ!!」
No.03とNo.05に無理やり引っ張られる形で、、No.01は崩れる通路の先へと姿を消して行く。
「待ってアル、行かないで!! アル!! アルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
No.02はNo.01の名を、弟の名を必死に叫ぶ。しかしその声は施設が崩壊していく音によって、あえなく掻き消されてしまうのだった。
「―――これが、機関に連行された後の真実だ」
キーラの話を最後まで聞いたメンバー達は、無言のまま何も言葉を発せられない空気となっていた。支配人やげんぶ、朱音、そして陰で見守っていたロキ達ですら何も言えない状態だった。
「…なるほどね」
静かな空気の中で、朱音がようやく口を開く。
「研究員共を虐殺していた弟が、まるで化け物のように見えちゃって、それがかえって怖く感じて拒絶してしまった……という訳ね」
「あぁ……奴等の実験でPSIの力を引き出された事で、アルの中の化け物が目覚めてしまったような気がしたんだ……あの時のアルはアルじゃない、別の何かに見えてしまったんだ…」
「…それで、その後は今まで何を?」
「…機関が壊滅した後、私は初めて異世界の存在を知った。世界から世界に渡ってアルを探し続けたが、それでもアルは一向に見つからなかった……そして長い年月が経って、私はアルが無事に生きている事を知った」
「え、それってどうやって…?」
「…アルが次元犯罪者として、指名手配された時だ」
「「「「「!!」」」」」
次元犯罪者として指名手配。つまりその時点で竜神丸はアンブレラに接触し、そしてTウイルスという存在に魅入られてしまっていたのだ。
「全て私の所為だ。アルは私の事を必死に助けようとしてくれていた……なのに私は、アルの伸ばしてきた手を掴もうとしなかった……アルが伸ばしてきた手を払い除けて、彼を拒絶してしまった……アルの心を、私がこの手で壊してしまった…!!」
キーラの膝に置かれていた両手が、少しずつ握り締める力を強めていく。
「その所為で、アルは完全に心を閉ざしてしまった……私の知らないところで、アルの中の化け物はより強くなってしまった……私の手が届かない領域まで、アルは堕ちてしまっていたんだ…!!」
「キーラさん…」
「なるほど、そういう事だった訳か」
「!! ガルム…!?」
キーラ達の前に、ガルムがコーヒーを飲みながらやって来た。
「キーラさん……アンタの弟さんからも、話は聞いてきたぜ」
「「「「「!?」」」」」
キーラ達は一斉にガルムの方を向く。
「アイツは言ってたぜ。自分はアンタによって捨てられたんだってな」
数十分前…
「人間って、醜いですよねぇ」
「…は?」
竜神丸の発言に、ガルムは思わず呆気に取られる。
「自分のやりたい事をやる為なら、人間は何処までも汚くなれる……自分の命を守る為なら、実の弟すらも平然と拒絶してしまう」
「ッ…それは…」
「けど、もうどうでも良いんですよね」
「え?」
「あの一件から、私はもう何もかもがどうでも良くなっちゃいましてね。異世界の存在を知って以降は色々な世界に渡って行きましたが、私が興味を持てるような代物は今まで何も無かった……そんな時、私は出会ったんです」
「…それが、Tウイルスか?」
「その通り」
竜神丸が椅子から立ち上がる。
「今思えば、Tウイルスの存在を知ったのがキッカケだったんでしょう。Tウイルスの研究を続けていく内に、こう思うようになったんですよ……いっそ開き直ってしまおう、とね」
「…開き直ってしまおう、だと?」
「人間はなろうと思えば、何処までも汚くなれる。だからもう、私も汚くなっちゃおうと思うようになっちゃいましてね? 所詮、どいつもこいつも穢れてる事に変わりは無いのだから」
「竜神丸…」
「…さて、話す事は話しました。用が済んだなら邪魔なので出て行って下さい」
竜神丸はガルムに背を向けてから、研究室の奥まで向かおうとする。
「…一つ良いか?」
「?」
「お前は……キーラさんの事、どう思ってんだ?」
「……」
竜神丸は立ち止まってから、ガルムの方に振り返る。
「…さぁ?」
「さぁって、お前…」
「今更私の前に現れたところで、私があの女にどう興味を持てば良いと言うのですか……私には、到底理解不能ですよ」
「…!」
竜神丸はそれだけ言って、研究室の奥へ向かって行ってしまった。ガルムは何も言えないまま、ただその場にしばらく留まっている事しか出来ないのだった。
「―――という訳なんだとよ」
「…そうか」
ガルムの話を聞いて、キーラは悲しげな表情を浮かべる。
「当然だろうな。ずっと一緒にいてやると約束したのに……私の方から、それを破ってしまったんだ。姉として失格だな」
「…キーラさんは、どうしたいですか?」
「え…?」
先程まで目を閉じていたげんぶが、キーラに問いかける。
「貴女の本心を聞かせて下さい……貴女は、これからどうしたいですか?」
げんぶの問いかけで、支配人や朱音、ロキ達の視線が一斉にキーラへと集中する。キーラは数秒間だけ目を瞑り、そして目を開く。
「…出来る事なら、私はアルに謝罪したい。あの時、アルに恐怖してしまった事を……あの時、アルの手を掴まなかった事を」
「…そうですか」
「とは言っても、今の状況で竜神丸と話そうとしたら、かえってキーラさんの命が危ない。しばらく竜神丸の様子を見てから考えた方が良いかも知れん」
「となると、キーラさんはここに滞在する必要があるな。何とか団長に許可を取らないと」
「それなら解決済みだ」
「「「「「アン娘さん何時の間にそこに!?」」」」」
ロキ達の真後ろからUnknownがヌッと現れ、ロキ達は思わず彼から大きく飛び退く。
「キーラさんがここに滞在出来るよう、団長からも許可は頂いた。ひとまず姉の部屋かディアラヴァーズの部屋、どっちかを借りなければならないが…」
「それなら、私の部屋を使いましょう。ちょうどベッドも空いてるわ」
「よし決定! ひとまず、対策の方から考えていくとしよう」
「それじゃキーラさん、こちらへ」
「…すまない。わざわざこんな事まで」
「良いのよ。同じ女性として、放っておけないもの」
「だったら私の事は放っておいてくれても―――」
「何か言ったかしらアン娘?」
「いえ、何でもありません軍曹!!」
(((((軍曹…?)))))
そんなやり取りが行われていた中で…
「……」
ガルムだけは席に座ったまま、考え事をしていた。
(あの時の、竜神丸の表情…)
『私には、到底理解不能ですよ』
(…一か八か、賭けてみようかね)
ここからガルムは、ある行動に出始めた。
その夜。
朱音が既にベッドにて就寝しているのを他所に、キーラは上手く寝付けずにいた。彼女はベッドから起き上がってから部屋を出て行き、屋外に来てから風に当たろうとする。
(キーラさん)
「!」
そんな彼女の前に、ガルムが緑色の和服姿で現れる。
「君は…」
「まだ名前を言ってませんでしたね。ここではガルムと言います、以後よろしく」
「あぁ。よろしく頼む……しかし、どうして私の前に?」
「キーラさん」
ガルムは人差し指を立ててから、キーラにある提案をする。
「一つ、俺に考えがあるのですが」
「え?」
翌日…
「ふぁぁぁぁ…」
朝早くから起きていた支配人は、朝食の準備をするべく先に早起きしていた。眠たそうにしつつも、彼はそのまま食堂まで到着する。
「相変わらず早いな、支配人」
「げんぶ…」
食堂では既に、げんぶが目覚めのコーヒーを飲んでいるところだった。ちなみに食堂には他に数名の調理スタッフしかおらず、他のメンバーはまだ眠っている最中だ。
「なぁ支配人」
「んむ?」
「どうしたものかな……キーラさんの事」
「…さぁな」
支配人も口を濁す。
「竜神丸があんな状態だとなぁ……すぐに仲直りするのは、正直に言えば難しいところだろう」
「やっぱりそうか……いかん、どうしても気になってしょうがない」
「何だかんだ言って、俺達も人が困ってんのは放って置けない性質なんだろうよ」
「…イマイチ否定出来ない自分がいる」
二人がそんな話をしていたその時…
-ピリリリリリ-
「「?」」
支配人の通信機が鳴り響き、支配人はすぐに応答に出る。
「こちら支配人、どうかし…」
『支配人さん、聞こえる!? 大変な事になったわ!!』
「え、朱音さん? どうしたんですか?」
『朝起きたら、キーラさんがいなくなってたのよ!! 多分、一人で竜神丸さんの所に向かっちゃったのかも知れない!!』
「「!?」」
朱音からの連絡に、二人はすぐに食堂を出て行く。
屋外、ヘリポート広場…
「ッ……はぁ、はぁ…!!」
いつもの黒いタンクトップに、青いジーンズを履いた姿のキーラ。そんな彼女は今、右腕から僅かに血を流していた。
「…全く。あなたもいい加減、しつこいですよ」
そんな彼女と対峙する竜神丸。
彼が右手に持っている
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拒絶・生じる姉弟の亀裂