「げふぅ…」
「ふむ。まぁ今回はこの辺にしておこう」
「いやはや、本当に容赦が無ぇな…」
「うわ、どうしたのよアレ!?」
「あっちゃあ、こりゃまた凄い光景だねぇ」
okakaがベンチに座って見物していたところに、アキ達ディアラヴァーズやハルト達もやって来た。しかしトレーニングルームのあちこちが壊れている上にロキがフルボッコにされているのを見て、okaka以外は驚きの表情を見せている。
「なぁオカちゃんや。こりゃまたどういう状況な訳よ?」
「オカちゃんって何だオイ!? …まぁ、見ての通りだよ。ソラさんがロキを鍛えるという名目で、あんな風にボッコボコにしちゃったって訳だ」
「うわぁ、それまた不運な…」
「ちなみに、ロキだけじゃない」
「「「「「え?」」」」」
okakaの指差した方向には…
「キュゥゥゥゥ~…」
うつ伏せに倒れたまま、撃沈してしまっているルカの姿があった。
「…どういう経緯さ?」
「ソラさんがロキさんをフルボッコ、そこにルカが差し入れを持って来る、それを見たソラさんが『ついでにお前の実力も見ておこう』と言ってルカを捕まえる、そして今に至る。お分かり?」
「OK、分かりやすい説明をどうもありがとう」
どうやらソラはロキだけでなく、ルカに対しても容赦が無いようだ。完全にノビてしまっているルカを見て、ハルトやディアラヴァーズ達は合掌する。
「そういえば、あの人がソラさんなんだよね? ロキとルカ、それにユウナちゃんやルイちゃんのお兄ちゃんの」
「あの人はどれくらい強いの? 私達は会った事が無いから、よく知らないんだけど」
「あぁ、そういえばそうだったな」
okakaは少し考えた後、ある考えに至る。
「…この際だ、口で説明するよりそっちの方が早い」
「え?」
ディアラヴァーズが首を傾げる中、okakaはロキをしごいてる真っ最中のソラに声をかける。
「ソラさん、少し良いですか?」
「む、何だい?」
「!!隙あり―――」
「甘い」
「ごぶぁっ!?」
余所見したソラを攻撃しようとしたロキは、ソラの蹴りで天井に頭を突っ込む羽目になった。
「…どういう状況な訳だ、こりゃ?」
最初にソラ達が使っていたのとは別のトレーニングルームにて…
「さぁ、始めよう」
ソラと複数の複数のメンバーが結成したチームによる、模擬戦が行われようとしていた。
これからソラと対決するチームのメンバーはハルト、アキ、こなた、アスナ、凛、みゆき、ユイ、フィアレス、そしてロキとルカ、ディアーリーズ。
「ちょ、待ってよ兄さん……回復した直後でこれって…」
「特別に回復させてやったんだ。まだ死なないだけ、ありがたいと思え」
「ルカ、諦めろ。今の兄さんは結構ガチだ」
「うへぇ…」
ルカが嫌そうな顔をする中、ディアーリーズは念入りに準備体操をしていた。
「ねぇウル、ソラさんと一度だけ模擬戦した事があるんだよね? その時はどうだったの?」
「その時は……うん、本当に地獄だったよ」
「…へ?」
「アキ、こなた、アスナ、凛、みゆきさん、それにハルト。僕達はこれから、全力であの人を殺す勢いで行かなきゃならないよ。そうしないと僕達は……生死の境を彷徨う羽目になる」
「「「「「…!?」」」」」
「まぁでも、良いチャンスじゃない? 自分の実力がどれくらいか、試すのにはさ」
「…たとえ模擬戦でも、手は抜いたらいけない」
フィアレスとユイがそう言っている中、ディアーリーズとロキは準備運動をしながら考えていた。
(今の僕じゃ、まだ力が足りない……この模擬戦はむしろ、自分の実力を測るチャンスだ…!!)
(兄さんには礼を言わないとな……俺が答えを見つける為には、ちょうど良い特訓だ……あの黒騎士に勝つ為にも…!!)
数分後に全員の準備運動が終わり、改めてソラと正面から向き合う。
「準備運動は終わったようだね。それじゃ、始めようか」
ソラも両手拳をパキポキ鳴らしてから、ロキ達の方に振り向く。
「ではokaka君、開始の合図を頼んで良いかな?」
「はいはい、お任せあれ!」
ソラとメンバーチームの間に境界線があるかのような状態が出来る中、okakaは一枚のコインを取り出す。
「俺の弾くコインが床に落ちた時、それが模擬戦開始の合図とする。双方、よろしいか?」
「「「「「おう(はい)(えぇ)!!」」」」」
「あぁ、俺も構わない」
「よし……それじゃ、行くぞ!」
コインがokakaの指で弾かれ、真上に大きく飛ぶ。
≪≪シャバドゥビタッチ・ヘンシーン! シャバドゥビタッチ・ヘンシーン!≫≫
≪Standing by≫
そして天井に届きそうな所で止まり、そこから一気に床へ落ちて行き…
-チャリィィィィィン…-
コインが、床に触れた。
「「「「変身!!」」」」
≪チェンジ・ナウ!≫
≪フレイム・プリーズ! ヒーヒー・ヒーヒーヒー!≫
≪Complete≫
「グルァァァァァァァァァァァァッ!!」
ディアーリーズはウォーロック、ハルトはウィザード、ユイはサイガ、フィアレスはギルスに変身。更にギルスはそのまま、一気にエクシードギルスへと進化する。
「先手必勝!!」
≪ビッグ・プリーズ≫
「あ、待てハルト!!」
ロキの制止も聞かず、ウィザードは魔法陣を通じて右手を巨大化。そのままソラを直接押し潰そうとしたが…
「なるほど、良いパワーだ」
「なっ!?」
その攻撃は、ソラの右手で簡単に受け止められた。ピタリと止まったまま、ウィザードの巨大化した右手はビクともしない。
「だが……まだ弱い!!」
-ドゴォォォォォォンッ!!!-
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
受け止めた右手を離すと同時に左手で強烈な一撃を加え、ウィザードの右手を押し返した。攻撃を押し返されたウィザードは倒れ、負傷した右手を押さえる。
「そんな、一撃でハルトの攻撃を…!?」
「喋る余裕があるのかな?」
「がっ!?」
驚いていたアスナの背後にソラが一瞬で回り込み、彼女の背中に手刀を炸裂させる。
「…!!」
「む?」
今度はソラの背後からサイガがブースタイライフルで射撃を繰り出すも、ソラは一瞬でサイガの頭上に飛ぶ。
「!?」
「空の帝王、サイガ……飛べないければ意味が無い!!」
「ッ…うぁ、がはっ!?」
サイガのブースターライフルにチョップを炸裂させ、一撃で破壊。飛行能力を失ったサイガはそのまま床に突き落とされ、そこへ更にソラが踏みつける形で追い討ちをかける。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」
「掛け声が大きい」
「「!? キャアッ!!」」
みゆきと凛がそれぞれ剣を振るうも、ソラは振るわれてきた剣をそれぞれ両手で白刃取り。そのまま左右に高速で投げ飛ばし壁に激突させる。
「グルァッ!!」
「む…」
エクシードギルスが赤い触手“ギルススティンガー”を伸ばし、ソラの右手に巻きつける。しかしソラはすぐに左手でギルススティンガーを掴み…
「フンッ!!」
「な…がぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
力ずくでエクシードギルスを引き寄せ、そのまま左足で蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたエクシードギルスは変身が解除されてフィアレスの姿に戻り、そのまま気絶してしまった。
「まず一人」
「…おうおう、何て状況だ」
okakaがそんな感想を述べる中、ソラは首を軽く捻りつつウォーロック達を見据える。
「次は君の番だ、ディアーリーズ君」
「ッ…おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ウォーロックは覚悟を決めて、ソラに向かってウォーロックソードを振り下ろした。
一方、某次元世界…
「―――ッ!?」
とあるビルの屋上。気絶していた金髪の女性はすぐさまベンチから起き上がり、周囲を見回す。
「お、気付いたか?」
「…!」
目覚めた女性に、支配人が駆け寄る。彼の後ろでは、二百式が太刀の手入れをしており、げんぶは缶コーヒーを飲んで寛いでいる。
「ここ、は…」
「アンタはさっきまで、地下駐車場で倒れてたんだぜ。あそこでアンタの毒を治療するのも何だから、場所を変えたって訳だ」
「治療…ッ!?」
女性が自身のタンクトップを捲ると、臍周りの紋様は綺麗サッパリ消えていた。
「体内に毒を残していたにも関わらず、こうして生きていられる……これもアンタの能力か?」
「…どうして分かる?」
支配人は不正転生者に関するデータファイルを取り出し、その中から一枚の写真を取り出して女性に見せる。
「ウインタ・マーチェス……この男の死体から、アンタの体内にあった毒と同じ反応があった。アンタがこの男を殺したって事が分かったのさ」
「…殺してはマズかったか?」
「いや、むしろ好都合だ。こっちの手で始末する手間も省けたし……まぁそれはともかく」
写真を収めてから、彼女にペンダントを投げ渡す。
「中身を見させて貰った。勝手な事をして申し訳ない」
「…いや。これが無事なら、それで良い」
女性が無表情ながらも大事そうにペンダントを握っているのを見て、支配人はゴホンと咳き込んでから改めて彼女に問いかける。
「ちょっとばかり聞きたい事があるんだが……アンタ、こんな世界で何をやってたんだ?」
「…人探しをしている」
女性はペンダントの蓋を開き、中身の写真を眺める。
「アルファ・リバインズを探してるってか?」
「…あぁ。私の、たった一人の弟だ」
「「「!!」」」
女性の言葉を聞いて、支配人達は確信したような表情で顔を見合わせる。
「私はこれまで、色々な世界を巡ってきた。だが何処を探しても、弟の行方は全く分からない…」
「その弟さんの事なんだが」
支配人が口を挟む。
「その弟さんの行方を俺達は知っている……と言ったら、アンタはどうする?」
「…え?」
女性は目を見開き、支配人達の方を見据えるのだった。
場所は戻り、
「…うっはぁ」
okakaは圧巻していた。
何故なら…
「ぐ、がは…!!」
「う、く…」
「ゲホ、ゴホ…」
「……」
「ぐ…!!」
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ…!!」
「…ふむ、まずはこんなところかな?」
ソラが元気そうに身体を動かしている中、彼と戦っていたチームのメンバー達は窮地に追い込まれている状態だった。現時点でまだ立てているのはロキ、ウォーロック、ウィザードの三人だけで、他のメンバーは全員が戦闘不能となってしまっている。
「相変わらず……容赦、無ぇよな…兄さん…!!」
「何を言っている。これでもまだ、手加減はしている方だぞ?」
「ッ…手を抜いてんのにこれかよ…!!」
ウィザードは周囲に倒れているアキ達を見て、本能的な恐怖を感じていた。自分達は本気で殺しにかかる程の本気を出したというのに、ソラは全く本気を出さずにこの戦況を作り上げたのだから。
「強くて当然だろうよ」
okakaが語り出す。
「ソラさんは、旅団に関係するメンバーの中でもトップクラスの強さを誇る。我等が団長と、双璧を為すくらいにな」
「!? あの団長さんと、だと…!!」
「そう。お前達は今、その戦闘力No.2の人物とチャンバラごっこをしてるって訳だ」
それを聞いて、ウィザードは仮面の下で汗が止まらなかった。
そして理解した。
現在目の前に立っているのは、あのクライシスに並ぶ程の戦闘力を持つ男。今の戦闘も、この男にとってはチャンバラごっこでしかないのだという事を…
正真正銘、本物の“化け物”なのだという事を。
「…そろそろ、終わらせようかな」
「ッ…来い、ドラゴンッ!!」
≪フレイム・ドラゴン!≫
ウィザードは指輪を取り替え、スタイルチェンジを行おうとする。
しかし…
「させると思うかい?」
「な…ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
それすらも、ソラによって妨害される。一瞬でウィザードの前まで移動したソラの蹴りがウィザードの胸部アーマーに炸裂し、そのまま吹っ飛ばされたウィザードは変身を解除。ハルトの姿に戻って床を転がる。
「これでまた一人。残るはディアーリーズ君と……ロキ、お前の二人だけだ」
「「ッ…!!」」
≪イエス・キックストライク! アンダースタン?≫
ウォーロックはすぐに指輪をベルトに翳し、必殺技の構えに入る。ロキは自身のスキルを全開にし、身体中に魔力オーラが纏われる。
「ほう…?」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」
二人は同時に飛び掛かり、ソラに向かって蹴りを放つ。
そして…
「良い攻撃だ。だが甘い」
「「ッ…がぁっ!?」」
ソラの蹴りで、二人纏めて吹っ飛ばされるのだった。
(―――ん)
暗闇の中。
そこにはディアーリーズだけが存在していた。
(ここ、は…)
『全く、だらしないよなぁ。お前も』
(おま、え…は…)
『まぁ良い、今はまだ俺の番じゃねぇ。とっとと目覚めやがれ』
(ッ…待て、レ―――)
「―――ッ!!」
ディアーリーズは目覚め、すぐにベッドから起き上がった。
「…今の、は…?」
「おや、目覚めましたか」
周囲のカーテンが開かれ、竜神丸が覗き込んで来た。
「竜神丸さん…」
「okakaさんから聞きましたよ。ソラさんと模擬戦をしたんですって? よくもまぁそんな自虐行為が出来たものですね」
「ッ…他の、皆さんは…?」
「全員、この医務室に運ばれて来ましたよ。ソラさんもいくらか手加減はしてくれていたようで、重傷者は誰もいません」
「…良かった」
ディアーリーズは安心した様子で、ベッドに倒れ込む。
「とにかく、あなた方は大人しく寝ていて下さい。ソラさんと模擬戦をしてこうなるなんて、いちいち面倒な事態を引き起こされてはこちらも迷惑です」
「…すいません」
「悪いと思っているのなら、それを行動で表して欲しいものですね」
「あ、起きてたんだな」
okakaもディアーリーズの下にやって来た。その手には、律儀にも果物の入った籠がある。
「あなたもあなたですよ、okakaさん。ソラさんが戦ったらトレーニングルームが壊れる事くらい、あなたも承知の上だったでしょうに」
「いやぁ、すまんすまん。けど修理費に関してはソラさんが一人で全額支払ったみたいだし、まぁ良いじゃないか」
「よくありません。技術班の仕事を増やすような事はしないで頂きたい」
竜神丸とokakaが話している中で、ディアーリーズはベッドに頭を寝かせたまま考え事をしていた。
(ソラさんに、何の攻撃も当てられなかった……まだまだ力が弱いって証拠だ…)
ディアーリーズは無言のまま、包帯の巻かれている右手を見つめる。
(“アイツ”にも呆れられるくらいだ……こんなんじゃ、守れる物も守れない……もっと僕が、強くならなければ…!!)
傷がまだ痛むにも関わらず、ディアーリーズはその右手を強く握り締める。
その時…
「ヤッホー」
「「「…!」」」
医務室に、支配人とげんぶがやって来た。
「お、帰って来たのか。不正転生者の任務はどうだった?」
「無事に完了したぜ。二百式は今、その報告をしに団長の下まで向かってる」
「そうですか。それは良い事です」
「あぁそれと……俺達がここに来たのには、ちょいと理由がある」
「「「?」」」
支配人が話題を切り替える。
「竜神丸」
「? 何でしょうか」
「…お前に会いたがっている人物がいる」
「?」
「「…?」」
支配人の言葉を聞いて、竜神丸だけでなくokakaやディアーリーズも首を傾げる。
「私に会いたがってる、ですか……ククク」
竜神丸は背を向けたまま、可笑しそうに笑う。
「おかしな話ですね。こんな悪人である私に、一体誰が会いたがるというのですか―――」
「ア、ル…?」
支配人とげんぶの間から、サングラスの女性が姿を現した。
「…え、誰だ?」
「げんぶさん、その人は…」
「キーラ・リバインズ」
「「!?」」
「竜神丸……いや。アルファ・リバインズの、実の姉だ」
「「な…!?」」
「……」
げんぶの言葉を聞いて、okakaとディアーリーズは驚愕の表情を見せる。そんな中でも、竜神丸は無言のまま背を向けている。
「あ、姉って…!? でも、髪の色が全然違って…」
「そりゃそうだ。アイツはTウイルスの影響で銀髪になっただけなんだからな」
「…あ、そうか」
げんぶの説明を受けて納得するディアーリーズを他所に、金髪の女性―――キーラ・リバインズはかけていたサングラスを外し、青色の瞳を露わにする。
「アル……お前、なのか…?」
「……」
「…アル!」
ほんの僅かに笑みを浮かべてから、キーラは背を向けている竜神丸に近付いて行き―――
「やりなさい、イワン」
「ッ…がっ!?」
「「「「!?」」」」
―――イワンによって、その行く手を阻まれる。イワンの右手がキーラの首元を素早く掴み、高く持ち上げてから思い切り投げ飛ばされる。
「危ない!!」
投げ飛ばされたキーラを支配人が受け止め、優しく床に下ろす。
「ッ…ア、ル―――」
「今更、何しにここまでやって来たんですかねぇ? あなたのような人間が…」
ようやく、竜神丸がキーラの方へと振り向く。
「…ッ!?」
その赤い目は、キーラを捉えたまま冷たく見据えていた。
常に感動の再会となる程、世の中は甘くない。
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蹂躙する兄・再会する姉弟