リニアでの戦闘から翌日…
「黒騎士、か…」
「ロキが瞬殺された上に、okakaやガルムの攻撃でも無傷……なるほど。なかなかに厄介そうだ」
「あの野郎、嘗めた口を聞いてくれやがって……次ニアッタラ潰シテヤロウカナ…?」
「落ち着けガルム。お前のそれは部屋の気温を下げてるから」
ガルムの機嫌が悪くなっている影響からか、彼の向かい側に座っているawsが突っ込みを入れる。
「ロキさんは傷が完治するまで、しばらく任務には出ずに安静ですね。ひとまずは私達の方で、黒騎士に関す情報を得ていくしかないでしょう」
「完治するまで? ロキのあの傷くらいなら、別に俺達でも一日で治せるんだが?」
「敢えて傷は完治させず、ちょっとばかりリハビリさせる傾向で決まりました。ちなみにこれは、ある人による考えです」
「ある人……誰だ?」
「後で分かりますよ。フフフフフ…」
「「「「「?」」」」」
竜神丸が可笑しそうに笑うのを見て、事情を知らないメンバー達は顔を見合わせて首を傾げる。
「何にせよ、こういった不安分子は徹底的に取り除くのが我々旅団の方針だ。次にまた任務の妨害をしてくるようであれば…」
「捻り潰せ。如何なる慈悲も、奴に与えてくれるな」
「「「「「ッ…!!!」」」」」
クライシスが告げる言葉に、一同は気圧されて思わず無言になる。
「…んじゃま、やる事は決まったって訳ね」
「そうですね。元から敵に慈悲を与える意味など、微塵もありませんしね」
「よし、ロキの方に何か見舞いの品でも持ってってやろうか」
「あぁそうそう、忘れてました」
メンバー達が席から立ち上がろうとした時、竜神丸が一旦制止する。
「デルタさんとガルムさんはここに残って下さい」
「ん、俺達?」
「…私達が何かしましたか?」
「あなた方には話しておきたい事があります……とてもとても、大事な話をね」
「「?」」
二百式達が退室する中、クライシス、竜神丸、デルタ、ガルムの四名だけがこの場に残る。
「さて、ようやく話せるな」
クライシスが杖を振るうと、会議室全体に強力な結界が張られる。
「…結界を張る必要がある程の情報ですか?」
「あぁ。この旅団における、最高機密情報だからな」
「「!?」」
これから聞かされる話が旅団の最高機密情報だと分かり、デルタとガルムは思わず顔を見合わせる。
「これまでは、この情報を有しているのは団長と私、そしてソラさんの三人のみでした。ですがあなた達にこれから知らせる事により、この情報を知る者は五人に増えるでしょう」
「ソラさんも…!?」
「それで、一体何を話すというのですか? クライシス」
デルタとガルムが視線を向ける中、クライシスが席から立ち上がる。
「…お前達にも話しておかなければならない」
「OTAKU旅団を誕生させるキッカケとなった、“アレ”についてな」
一方、医務室では…
「―――ん」
意識を失っていたロキが、ようやく目を覚ました。身体をゆっくりと起こし、自分が今いる場所が何処なのかを確認する。
(ここは……
『その程度の力で、よくこれまで生きてこられたものだな。これでは守りたい物を守れなくなってしまうのも時間の問題か…』
「…クソッ!!」
黒騎士の台詞が脳裏に浮かび、ロキは悔しさのあまり拳を叩きつけてから再びベッドに倒れ込む。
「負けたのか、俺は…………あんな……あんな、碌に知らないような奴に、俺は…」
そこへ…」
「ん、起きてたのか?」
カーテンを開き、okakaが覗き込んできた。
「okaka…」
「何か食べるか? 見舞いの品で、果物がいっぱいあるぜ」
「なぁokaka」
見舞いの品として持ってきた果物を取り出そうとしたokakaを、ロキが小さい声で呼び止める。
「お前はさ………何の為に、戦うんだ?」
「……」
「あんな奴に負けてさ…………自分の為に、戦う事すら出来ないって分かって……俺、もう分かんなくなっちまったよ…」
「…何の為に戦うか、ねぇ」
ロキの寝ているベッドに、okakaが座り込む。
「シンプルに言えば、自己満足の為なんだろうな」
「自己、満足…」
「別に食っていく為だけなら命をかけて戦う必要なんて無いし、本来なら知らない他人の為に無理して戦う事も無い……けど俺達には、普通じゃない力がある。それを存分に振るえる場所がある。それで何かを変えられるかも知れない可能性がある」
「可能、性…」
「力は正しいことのために、少なくとも自分が正しいと思うことのために使え……ってな。まぁ俺の場合だと、単に管理局が気に入らない。これに尽きるな」
見舞いの品の中から林檎を取り出し、包丁で皮を剥き始める。
「まぁ正直、その辺に関しては俺一人で教えられるほど簡単なもんじゃねぇな。何がお前にとって一番の答えになるのか、何がお前の戦う理由に繋がっていくのか…」
一通り皮を剥いてから、今度はいくつかに切り分けていく。
「その答えばっかりは……ロキ、お前自身で見つけなきゃいけない」
「俺が…」
「ま、大いに悩め。時間はたっぷりあるんだしな……ほら、これでも食っとけ」
「あぁ、悪い…」
切り分けて貰った林檎の乗った皿をokakaから受け取り、ロキは林檎を一口ずつ食べ始める。
「…あぁそうだ、言い忘れてた」
「?」
「お前の傷なんだが、今回は完治だけは絶対にさせないように、あの人から言われたんだ」
「あの人?」
「あぁ。それが…」
「ありがとうokaka君、後は俺の方から話すとしよう」
「…ゑ?」
聞こえてきた声に、ロキは言葉を失い食べかけていた林檎を皿に落とした。
「さて……俺の知らない間に、随分と怠けてしまっていたようだな。キリヤ」
「ソ、ソノ声ハ、マサカ…」
ロキは油の通していないブリキのように首を動かし、声が聞こえてきた方角を振り向く。そこにはベッドの上で胡坐をかいたまま、缶コーヒーを手に持っているソラの姿があった。
「ソ、ソラ兄さん!!?」
「竜神丸から聞いたぞ……お前、黒騎士とやらに負けたそうじゃないか。それも、手も足も出なかったという状況で」
「ア、アハハハ、ソ、ソレハ…」
「その様子だと、まだまだ鍛え方が足りないんじゃないのか? 戦士として戦う以上、鍛錬を怠る事だけは絶対に許さんと言っている筈なんだがな?」
「ス、スミマセン…」
「お前が重傷を負う事で、ユウナやルイの二人にまで心配させるのは関心出来ないな。お前はそこまで頭が回らない程、馬鹿だった訳じゃあるまいに?」
「オ、オッシャル通リデゴザイマス…」
(すげぇ、ロキがどんどん小さくなっていく…!!)
ドス黒いオーラを放っているソラに対し、ロキは正座のままどんどん小さくなっていくのがokakaにもバッチリ見えていた。
「だが安心しろ。そんなお前の為に、俺が直接リハビリに付き合ってやる事にした」
「え……という事、は…」
「あぁ。朝、昼、晩……休まず身体を動かさせてやるからな。覚悟しろよ?」
「に、兄さん、流石にそれは―――」
「ほう、口答えする気か?」
ソラが右手をゴキンと鳴らすのを見て、ロキはとうとう言葉すらも失う。
(…あ、死んだなこれ)
-ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!-
「「「「「!?」」」」」
数秒後、医務室の壁が盛大にぶち抜かれた。何事かと思い、近くを通りかかっていたスタッフ達は破壊された壁の周辺に集まり出す。
砂煙が晴れると、そこには…
「げふぅ…」
「む、いかん。また壊してしまった」
後頭部に巨大なタンコブが出来たロキと、壁を壊してしまった事に若干の後悔をしているソラの姿があった。
「…どんまい、ロキ」
ちなみにロキが食べていた林檎や見舞いの品が、okakaによって無事に確保されていたのは言うまでもない話だろう。
場所は変わり、地球の海鳴市…
「え、ソラさんが!?」
「あぁ。何だか分かんないけど、そういう事らしいよ」
不正転生者の討伐を終えたディアーリーズは、同じような任務を完了したFalSigからソラが
「長い遠征任務を終えて、昨日に帰って来たばっかりなんだってさ。今は多分、ロキのところに向かってるんじゃないかな?」
「ロキさんの所に? 何で……あ」
「うん……今頃、ロキがソラさんの鉄拳を喰らってる事だろうよ」
ディアーリーズとFalSigも過去に喰らった事があるからか、冷や汗が止まらない。しかもロキの現状が実際にその通りなのだから余計に性質が悪い。
「それにしても、ソラさんは今までどんな任務に向かっていたんでしょうか? 長期に渡って遂行するとなれば、任務内容も相当なものだと思いますけど…」
「さぁね。団長もその辺に関しては何にも説明してくれないし、本当に謎だらけだよ……まぁそんなよく分からん話は一旦終わり。とにかく今は飯を食おうぜ」
「そうですね……あ、あそこの店なんてどうでしょう?」
「お! ここって確か、デルタさんが気に入ってると言ってた店じゃん。良いね、ここにしよう」
任務完了後の昼食として、レストランで食事を取る事にした二人。相当空腹だったのか、ディアーリーズが入り口まで早く移動する。
「おいおい、そんな急がなくても飯は逃げないって」
「こっちはもう腹が減ってるペコペコなんです! 朝から任務で忙しくて、今日はパンの耳を数本しか食べられませんでしたから!」
「お、おう、そりゃご苦労な事だな…」
FalSigが苦笑する中、ディアーリーズはレストランの入り口の扉を開けようとする。
その時…
-ポフッ-
「んむ…!?」
同じタイミングで扉を開けてきたサングラスの女性と、うっかりぶつかってしまった。しかも、女性のその豊満な双丘に顔を突っ込んでしまう形で。
「ッ…す、すみません!!」
「あ、あぁ…私は大丈夫だ。君は、怪我してないか…?」
「え? い、いえ。何処も…」
「…そうか、良かった」
「え…」
女性はディアーリーズの頭を優しく撫でてから、レストランを後にして行った。彼女に頭を撫でられたディアーリーズは、数秒間その場に硬直していた。
「ほうほうほう~♪ これまた大胆な事をするねぇ~♪」
「!? な、FalSigさん!?」
「女性の胸に正面から突っ込むとは、普通なら到底あり得ない事さね。いやはや、流石はラッキースケベと言ったところか♪」
「ッ~…!! お願いします、アキ達には言わないで下さい!! こんな事をアキ達に知られでもしたら、僕は…」
「はいはい、分かってますよっと……ん?」
ディアーリーズの着ている服を見て、FalSigはある事に気付く。
「ディア、これ何だ?」
「え?」
FalSigはディアーリーズの着ている服の襟についている物を取り、それをディアーリーズに見せる。
「!! こ、これは…」
「ディア、何か分かるのか?」
「…盗聴器です。それも、アスナが取り扱ってるのと同じ」
「あぁ、アスナちゃんの盗聴器か。なるほ……え?」
二人は言葉を失う。
「…ディア」
「はい……今の会話、間違いなく聞かれてるでしょう…」
「…どんまい、ディア」
その場に崩れ落ちるディアの肩に、FalSigは優しく手を置く。そんな珍妙な光景を、周囲の人達は不思議そうに見ているのだった。
そんな二人が食事を取るレストランから、少し離れた位置にて…
「……」
先程のサングラスをかけた女性が、街中を歩きながら一枚の写真を眺めていた。
「お前は一体、何処にいるのだ…………アル」
写真には、金髪の少年の姿が写っていた。
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その男、ソラ・タカナシ