No.666912

贈り物

ザインさん

バレンタイン企画
悠からのプレゼント
友達→鶯花くん・トカゲさん・飾くん
哀れみ→熊染さん・寧子ちゃん・鬼月さん・秋津さん

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2014-02-28 22:33:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:311   閲覧ユーザー数:300

 

今日は茶屋でバレンタインデーの催し物をしていると聞いて、茶屋に足を運ぶ。

漂う甘い匂いに顔をしかめながらも部屋へ入り、目的の人を探す。

すると、目を輝かせながらチョコを見つめる鶯花の姿が目に入った。

 

「こんにちは黄詠さん」

「悠くんこんにちは!」

 

挨拶もそこそこに、かごから緑色の包みを取り出す。

包みの中身は手作りのシフォンケーキとトリュフ。

 

「これ、作ったのでよければどうぞ」

「いいんですか!?ありがとうございます!」

 

甘いものが苦手な悠は美味しいの基準が分からず、本当に渡しても大丈夫だろうかと内心心配していた。

だが、盛大に喜ぶ鶯花を見ているとその不安はなくなり、自然と笑みがうかんだ。

 

「料理の話をしあえる人はそういませんので、これからもよろしくお願いします」

「もちろん、こちらこそよろしくお願いします!」

 

友達チョコだと明言するのが気恥ずかしくて遠まわしに伝えたが、届いていないだろうと思いつつも訂正せずに立ち去る。

 

「いつか料理を教えてもらいたいです」そう呟きつつ次に渡す人を探していると、狢が悠の元へ駆け寄ってきた。

何の用かを察した悠は狢とともに次の人へと足を運ぶ。

 

 

 

「飾殿!ちょこではないでござるが友達の証として受け取ってほしいでござる」

 

その言葉を合図に鳥を模したビーズストラップが入った小さな袋を、狢の隣に立つ悠が飾に手渡す。

その不思議な光景に飾は数秒の間固まっていた。

 

「ありがとう。えっと……なんで鴉目さんが?」

「その、とある御仁に告白をしようと決意し家族ちょこを渡そうとしたら点数が足りなくなったので、代わりに渡せないか鴉目殿にお願いしたのでござる」

「えっ……ええ!?誰に告白するの!?」

 

猜疑心から驚き、驚きから好奇心へと気持ちが瞬時に移り変わった飾は相手を聞き出さんと策略を練り始める。

対する狢も言うつもりはないようでそれとなくかわし、そして壮絶な言葉の攻防戦が始まった。

肩身の狭くなった悠は逃げるようにしてその場を去った。

自分も青春したいなと柄にもない妙なことを考えながら。

 

 

 

 

「さて次は…」辺りを見渡すと見慣れない小柄な人物が目に入ってきた。

もしかしてと近づき声をかける。

 

「トカゲさんですか?」

「誰ですか、人違いでは……?」

「あ、そういうのいいです。トカゲさんだと確信しましたので」

「つれないなーこういうのはノってくださいませんと。じゃなきゃ見破られてばっかでつまんねぇんですよ」

 

臆病そうな怯えた表情とか弱い声は一転して、いつものように人をおちょくるような声で話し薄笑いを浮かべるトカゲ。

大仰に肩を落とし落ち込んでいるように見えるが、それは嘘だと知っているので無視して本題に入る。

 

「これ、どうぞ。友達チョコ扱いですが……」

「りょーかい、ありがたく頂いときますわ」

 

言葉尻を濁し、数種類の薬草が入った薬袋をトカゲに渡す。

最後に続く言葉の意味をなんとなく感じ取ったトカゲは、素直に薬袋を受け取った。

そして二人はこれ以上特に話すこともせず、自身の用事をすませるために歩き出した。

 

 

 

かごに入った余ってしまったお菓子を見つめてどうしようかと考えていたそのとき、前方に何かが現れ急に視界が暗くなる。

その何かを避けて通ろうとするとその方向に何かも移動し、通せんぼをする形になる。

いったい何が通行を妨げているのか、上を見上げ確認すると鶸と談笑する鬼月の後ろ姿が見えた。

 

「すみません、そこ通してくれませんか?」

「おっと見えてなかった、すまない」

「ありがとう……ございます」

 

鬼月は申し訳なさそうに急いで道をあけた。

小さな声でお礼を言い鬼月から遠ざかった悠は冷ややかな視線を鬼月に送る。

低身長がコンプレックスな悠にとって、高身長の鬼月がはなった見えてなかったという発言は嘲りに思える。

悪気はないと分かってはいるものの渦巻く負の感情を抑えきれず、悠はかごにあったお菓子の包みを鬼月に思いっきり投げつけた。

目にもとまらぬ速さで飛んでいったお菓子は、見事みぞおちに命中した。

 

「いってえええええええ誰だこれ投げたの!!!!!」

 

もともと力が強いのに怒りが相まって、本来柔らかく人に危害を与えることのできないはずのブラウニーは凶器となって鬼月を襲った。

あまりの痛みに悶絶する姿を見て悠は人知れず嗤い、心配して駆け寄る人に混じって声かけをする。

 

「蒼海さん大丈夫ですか?」

「ああ……大丈夫だ。投げたやつ、みてねぇか……?」

「すみません、私は見てません」

「くっそ……ぜってぇ見つけ出してやる」

 

これで疑われる可能性は低くなったと安堵しつつ「お大事に」と一言残してその場から逃げ出した。

 

 

 

 

疲れた悠は人気の少ない部屋の隅に向かい腰をおろそうとしたそのとき、不意に背後から肩を叩かれ振り返る。

するとそこにはにやにやと笑う秋津の姿があった。

 

「見てたぜ、悠が剛速球投げるとこ」

「周りを気にしてなかったので誰かしらに見られていたとは思ってましたが、まさか秋津さんだったとは」

「そのかごに残ってるチョコくれるってんなら、黙っててもいいが……どうする?」

「どうすると言われましても、ひとつしか選択肢はないじゃないですか」

 

貰い手がいなかった最後の包み、鬼月に投げたものと同じでブラウニーが入った赤色の小さな包みを秋津に渡す。

甘いものを手放すことができる上に口止めもできるなんて、自分に都合が良すぎると思い至った悠。

裏がないかと警戒するも、包みを受け取った秋津は「ありがとな」と礼を述べて早々に立ち去った。

 

「……なんか、疲れましたね。渡せるものはすべて渡しましたし……帰りますか」

 

そうぼやいた後、悠は人知れず茶屋をあとにした。

 

 
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