No.665215

夢喰い天使はさまよい歩く(S8c/2014d&2014C/D)

2/23ムーパラ用の新刊コピー冒頭です。S7で入院してたけど記憶戻って、ふらふら彷徨ってる逃走中キャスが2014にふらっと行って、ディーンの夢の中だけに現れる話。目が覚めると、2014C/D。シリアス。要は、お互いの相手に関してのコイバナ。

2014-02-22 13:20:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1188   閲覧ユーザー数:1187

 この日、ディーン・ウィンチェスターは酷く疲れていた。クロアトアン・ウィルスに犯された仲間を2人殺し、クリーチャーと化して襲いかかってきた、見知らぬ大勢も殺してきた。

 キャンプ・チタクワのメンバーである、カスティエルが天使でなくなってから随分と経つ。考えることを放棄した問題を、カスティエルの運転でキャンプ地に戻る際に顧みてしまうほどに、彼は疲弊した一日を過ごしたのだ。

 カスティエルは運転中、ディーンの様子のおかしさに気付いてはいたが、あえて尋ねることはしない。戦いの場に立つ数だけ、何よりディーンがコルト探しへの執着の度合いを深めるだけ、彼らの会話は減っている。

 移動中、ディーンはずっと目を閉じていた。寝ているのか、会話を拒絶した表れなのかは気にしない。それは、カスティエルが懐から取り出した、薬を摂取するのを黙殺するのと同じといえる。

 ガリッと、カスティエルが錠剤を噛む音が、砂利道を進むタイヤの音に混ざった。

 やがて薄暗かった日中は、キャンプ地に着く頃にはすっかり夜も更けていた。後続の車もブレーキをかければ、音を聞きつけたチャックとリサが近寄ってくる。

「着いたよ」

 運転者らしく義務的に言えば、ディーンはすぐに目を開けて「ああ」と、頷いた。

「物資報告をしておけ」

 車から降りる直前も、目線は合わないままに支持を受ける。カスティエルはおどけて肩をいさめるしかない。

 いつものカスティエルなら、「なんだ、僕らに仕事を全部押し付けるのかい」と皮肉の一つでも返すが、ディーンの背中を眺めて口を閉ざした。

 もし、カスティエルが天使であった頃の力を持っていれば、きっとあの背中には死神が付き纏っているのが見えた筈。ひと時の安穏という夜色に落ちていくディーンの背中を、カスティエルは彼がロッジに入るまで、車内から見守っていた。

「お休み、リーダー」

 力があった頃から、彼に安らぎある眠りを与えてやれなかった元天使は、密かに願っていた。

 サムがサムでなくなった日から、ディーンはディーンであるのを止め、カスティエルは地上を選んだ。だから、サムを器にして地上に君臨する、ルシファーを仕留めるために探しているコルトなんて見つからなければ良いと。

 車から降りる前に、カスティエルはフロントガラス越しに空を見上げる。あい変わらず雲が覆っている空では、星が見えない。

「あんな見えないところから眺めていたって、どうしようもない」

 ハンドルに両手を乗せ、顔を埋める。己に向けての自嘲の笑みは、誰にも見られたくなかった。

 一方のディーンは、部屋に入っても電気を付けず、重いながらも慣れた足取りでベッドにたどり着くや、倒れ込んだ。

 四肢を投げ出し、靴も履いたまま瞼を閉じる。この疲弊した精神なら、不眠症な体も眠れると期待して。朝になれば、また今日と同じ日が始まる。それまでは何も考えず、何も負う必要の無い眠りへと落ちたかった。

 きっと、夢すら見ない。

 ところが、瞼を閉じたものの数分後には、ディーンは目を開けていた。

「……ん?」

 キャンプ・チタクワ内のロッジにあるベッドで寝ていた筈が、今は、モーテルのソファに座って、冷えた瓶ビールを持っている。

 日常の延長と錯覚したが、すぐにこれは夢の中なのだと気づいた。

 モーテル生活を辞めて久しければ、何より視界に見える内装が整っている。治安も経済も政治も乱れたこの世の中で、それなりの壁紙があり、ソファも革が張られているモーテルなど皆無に等しい。

 現実との差異から結論を導いたが、ディーンは気にせず手に持っていたビールを口にする。

「ま、良いか」

 夢なら余計に都合がいい。せっかくだから、かつてそうしていたままに、テレビでも見ながらビールを好きなだけ飲み、パイでも食べて過ごしたい。

 早速、座っていたソファから立ち上がり、冷蔵庫に向かう。

「さすがは夢だな、パイにバーガーにって揃ってやがる。つか、バーガー冷やすってどうなんだ」

 独り言をこぼしながら、冷蔵庫にある物を持てるだけ両手に抱えた。6本セットのビール、クリームたっぷりのパイ、そしてお気に入りだった店のハンバーガー。ポップコーンも欲しいと願えば、顔を上げた先の棚に置かれてある。

 なんとか指だけでポップコーンのカップを持ち、テレビの前にイザやと振り返ると、望んでもいない先客が居た。

「な?!」

 ビクリとディーンの体が、驚愕のあまり心臓ごと跳ねた。何せ全く気配の無かったベッドに腰掛けて、テレビのチャンネルをザッピングしているのは、トレンチコートを着た

カスティエルだったからだ。

「このドクターセクシーの話は、私が知らないものだ。なるほど、ポルノビデオも、当事者の趣味が反映されるわけか。興味深い」

 無駄な独り言の多さから、現実世界のカスティエルが出てきたのかといかめしい顔を浮かべる。しかしザッピングの手を止めたカスティエルがディーン視線を向けたことで、己の想像とは異なる天使だと知る。

 彼は、彼を象徴とするトレンチコートを着ているが、中はどこかの病院で着るような入院服を身にまとっていた。襟の歪んだシャツでもなく、首元がだらしないネクタイも付けず、ましてやスーツの欠片もない格好。

 こんな彼は知らない。

「……てめえ、何者だ」

 ディーンは敵意を露わに見下ろすが、目の前の男の視線はディーン本体から、ディーンが持っている食料に移っていた。

「ひとまずそれらをここに置いて、一緒にドクターセクシーを見ないか、ディーン」

 微苦笑混じりに名前を呼ばれ、反射で眦に皺が寄り、肩が震えた。

 こんな、心ここにあらずな笑い方をする男なんて、俺の記憶にはない。ジャンキー崩れと化した男とも違う笑みに、ディーンの警戒心が深まる。とはいえ両手に持ちすぎた食料はいい加減降ろしたいし、食べたい飲みたいテレビも見たい。

 さすがは夢の中、思考が定まらない。

 ディーンは己に感心しながら、カスティエルらしき男と位置づけた天使に近寄った。

「君はここに座ると良い。さあ」

 カスティエルは、自身が座っている右隣のベッドをポンポンと叩き、ディーンを招き入れる。絶対座りたくないが、テレビを見るには、指定された場所がベストだった。

 溜息をわざとらしく付いて隣に座ると、カスティエルはあからさまに目を細めて、口角を上げた。

 また、ディーンの知らない笑顔。

「なんだよ」

防御反応に近い感情で尋ねれば、「なんだ、とは」と聞き返される。

「お前、なんか変だぞ」

 目前にいるのは、天使カスティエルに違いない。ただ、己の記憶の中にある、どの天使にも属さないのだ。

 ディーンは、隣にいるカスティエルのトレンチコートの襟を掴んだ。

「その格好なんだ。なんでコートの下が入院患者の服なんだ。あと、その胡散臭い笑顔だよ。俺の知ってる奴と似てるけど、てめえのはもっと、なんだ、ふわふわしてる」

 言い放った最後に、襟を掴んでいた手を、自ら乱暴に引き剥がす。言われるがままだったカスティエルは、乱れた服を正すこともせず、首を傾げた。

「ふわふわ、とはどんな意味だ」

「知らねえよっ」

 気にするところも違えば、質問の答えにもならない。叫んで当然と睨んでも、あくまでカスティエルのペースは変わらない。

 彼はリモコンを握り、またテレビのチャンネルをザッピングし始めた。

 

 


 
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