No.663862

決戦3時間前 テキーラVSピエロ 【よその子交流】

楓かえるさん

※ご注意
乱雑花の助さんの創作キャラクター、テキーラさんとうちの子赤髪ピエロのIF交流短編小説続きです。花の助さんの作品・キャラクターさんとは一切関係ありません。楓かえるの作品とも同様に関係ありません。
細かな設定等も解釈の間違い、誤りが含まれる可能性があります。
あくまでもフィクションです。
IF交流の中での交友関係が反映されておりますので、本編の設定とは多少分岐しています。

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2014-02-16 16:41:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:973   閲覧ユーザー数:970

経緯:戦闘大好きなテキーラが「戦いの為なら性交渉も厭わない」と聞いたピエロが、性交渉はいらない、僕のモノになってくれるなら本気で戦ってあげるのにと零す。

→本気で戦うというピエロに大喜びするテキーラ。

→決戦の約束。

→めいめい準備(ここまで)

 

テキーラ視点の反転、ピエロから見た舞台裏。

 

 

 

 

決戦から、3時間程前。

 

 僕は石柱や梁、石畳にワイヤーを張り巡らせていた。決戦なんて言っても、元より勝ち目の薄い勝負だ。ただの力比べになればテキーラにはまるで敵わない。こういう地道な下準備があって、はじめて僕は自由に飛び回ることが出来る。手品のタネなんて実際は滑稽なモノさ。

 ―――あと必要なのは、僕自身の心構えだけ。出来るだろうか?僕に、人殺しが。…テキーラは殺し合いを望んでる。ゼロに相談してから、一度だけ彼に会った。日時や場所、ルールの確認をするためだ。一応、勝負の勝ち負けは、生死よりどちらか一方が負けを認めた時点で決めないか、という希望も伝えた。が、…テキーラの性格から言って、それは難しいだろう。

 やっぱり、殺すつもりじゃないと。吹き抜けの天井からは、まんまるの月がよく見えた。

 

「Wind in the Well. …か」

 

 自嘲の笑みが溢れた。この場所を選んだ理由は二つある。ひとつは、ワイヤーアクションの設置に便利だから。そして、二つ目の理由。僕にとってはこっちの方が大事。

「ワインド・ザ・ワールドを思い出すから」。

 満月の夜という時点でもう十分だったけれど、念には念を。

 イメージする。此処は僕の世界。これから、いらない者が、やって来る。…凡人だ。スペードを持った凡人。…いや、足りない。それだけじゃ、追い出せばいい事になってしまう。ここで殺す。スペードをハートにする。

 死ぬのは怖くない。例え死んでも僕の世界が残ればいい。世界を完成させるためには、僕は命を捨てる。何度もやってきたことだ。『僕』は、いない。テキーラが欲しいという、記憶と感情を塗り替えよう。…テキーラを嫌おう。

 彼は、殺人狂だ。生も死も、同じことなのに、わざわざ人を殺す。それが楽しいと思っている。愚かな事だ。彼は永遠を知ることはないだろう。芸術を知ることもないだろう。結局は凡人。結局は、僕の敵だ。そんなに死にたいなら、手加減は無用。そんなに死にたいなら、殺してしまえ。

 冷たい月はただ、一人ぼっちの僕を照らしていた。

 

 

 テキーラは定刻の少し前にやってきた。ノコノコと。嬉しそうに。

 二、三言葉を交わす。彼の一挙手一投足が気に障る。ハサミ。あんな大きなハサミで、僕のぬいぐるみを断裁するつもりなのか。ああ、危険だ。危険な生ゴミだ。早く、早く、排除しなくては。僕の仕事は、この世界を守る事なんだから。歯車の位置は?ワイヤーの張りは十分か?ピエロはパーツに。全ては自動的に行われる。首を落とせ。手首を、足首を落とせ。断罪を。断罪を。断罪を。断罪を。

 石柱から離れ、隠し持っていた大鎌を取り出す。まずは首だ。首から落とそう。

 

 …パキリ。石畳が軋む。クライムの糸が切れた。

 

 まっすぐに飛びかかる。振り下ろした鎌が下段から振り上げてくるハサミの片刃と噛み合う。凄まじい力で弾き上げられるが、その勢いで鎌を反転し、柄で横っ面を殴りつける。テキーラの返す刃が狙いを逸れ、

 

ざく。

 

 脇腹に引っかかる。痛いじゃないか。ワタが出てしまう。姿勢が崩れたね。力いっぱい、何度も鎌を振り下ろす。

 

ギャリィッ!

 

 また鎌を弾かれる。受け流すように後退。血飛沫が舞う。テキーラがハサミを分解し構え直した。…ここは様子見。

 飛びかかってくるテキーラの一刃を見極め、避ける。

 

バキンッ!

 

 仮面が爆ぜ吹き飛ぶ。もう一方の手で殴られたらしい。すごい力だ。顔くらい見せやがれ、と叫ぶ彼。何故?僕の顔を君なんかに見せて僕に何の益が?喋る余裕があるなんて羨ましいね。…死ね。

 鎌を振り抜く。テキーラは目にも止まらない動きで飛び上がってそれを避け、側転し、その勢いのまま、斜め上段から二刃同時に斬りつけてくる。

 ああ、もう。死ねよ。死にたいんだろ。この、凡人(ごみ)が。僕は君が大嫌いだ。価値が無い癖に、僕の世界を汚すな。

 一瞬、目が合う。途端テキーラの動きが鈍った。

 鎌を置いて空中へ。彼は振り切った刃をまだ使えない。丸腰の僕を追って、注意は上へ。そこに隙ができる。残念だったね、これで詰み(罪)だ。

 ワイヤーを手繰る。ぐるん、と大鎌が回る。防ぐか、逃げるか?影へ逃げるのが早ければ、首。少し遅ければ、胴。逃げなければ足首が落ちる。君はどちらを選ぶだろう?テキーラは、…逃げなかった。

 

ぶちん。

 

 半分しか切れなかった。こんな事は初めてだ。でももう動き回ることはできない。神話の英雄、アキレウスの急所だもの。これで彼の戦意は喪失する。どんな殺人狂だって、痛いのは嫌いだし、死ぬのは怖いだろ?僕は、怖くないよ。それがクラウンとクライムとの違い。

 急速回転しながら体重を乗せた肘鉄を顔面へ。彼は。

 ―――笑っていた。本当に嬉しそうに、まるで僕を抱擁しようとしているかのように、両手を広げて待っていた。『もっと戦おう、本気でかかってきてくれて嬉しい』と。

 

あれ?

 

 彼は戦いが好きなんだ。僕には分からないが、死を賭した殺し合いに、何かの価値を見出している。おかしいな、そんなクライム(歪み)は見たことがない。一方的に殺すのが楽しいんじゃないのかい。虐殺ではなく、全力での死闘?何それ、馬鹿じゃないのかい。

 …面白すぎるよ。

 嫌悪感が、シャボン玉のように弾けて消えた。敵わないなぁ、困ったな。僕はもう戦えない。

鼻梁にめり込む肘。グシャ、と嫌な感覚。そのまま石畳に叩きつける。既に戦意は喪失していた。テキーラは相変わらず嬉しそうだ。好きにすればいい。もみ合うように、地面を転がる。あちこち、全身痛かった。

 影に引っ張り込まれて停止。テキーラは鼻血を出したみっともない顔で勝ち誇るが、僕は色々限界だった。組み敷かれたまま、堪えきれずに吹き出す。

 

「なんだ、何がおかしい」

「君って、本当に戦いが好きなんだね」

「は?」

 

 彼は間抜けな声を出してハサミを取り落とす。困ったことだよ。テキーラがまた欲しくなってしまった。すると僕は死ぬわけにいかない。でも、負けましたなんて言っても、君は許してくれないんだろ?

 途中まで戦ったんだから、もう十分。棄権しよう。

 

「ふ、…っざけんな!!!!!!」

 

 案の定激昂するテキーラ。顔面を鷲掴みにされ、肩をぐらぐら揺さぶられる。痛い。どこか折れているような疼痛。負担を考えずにリミッターを外した筋肉や体内組織も悲鳴をあげている。乱暴しないで欲しいな。

 戦う、戦わないの不毛なやり取りをした後、戦意が無いのをようやく理解してくれたらしく、テキーラが僕の手をぐいと引っ張り起こす。激痛が走る。たまらず倒れる僕を不思議そうな顔をして見る彼。あのね、僕は君みたいに馬鹿頑丈にできていないんだ。

 

「お前、一体何なんだ…」

 

 鼻血を手の甲で拭い、テキーラが問う。僕はただの※※※※だよ。そんな事見れば分かるだろ。

 

「当てられたら、教えてあげるよ」

「言う気はねーってか」

 

 言えたらきっと僕は楽になるんだろうな。例えばあの少女のように、全てを受け入れ、諦める事ができたならば。ぱっくりと割れた傷口からは、血がどくどくと出ていく。そういえば、ピエロとして怪我を負わされたのはこれが初めてだった。テキーラ、君は強いね。仮面(うそ)なんて必要ないんだから。僕は本当に、君が羨ましい。

 だんだんと世界が灰色になっていく。

 遠くで、ゼロの声が聞こえた気がした。エヴィルを貰いたいとか、何とか。彼も彼で、難儀なモノだね。アドヴァイス、役に立ったよ。情報が無ければ、僕は今頃死んでいたかもしれない。今度お礼を言わなくちゃ。…

 あぁ、何だかとても眠い。戦ったのも全部夢だったような気がする。楽しい夢だったな。遊んでくれる人がいるのは、嬉しい事だ。そして僕の意識は体ごと、微睡みに、沈んでいく。

 

――――

 

 ガタリ、大きな揺れで目が覚める。

 僕はいつの間にか、馬車に寝そべっていた。戦いでついた傷は魔法のように消えていた。しかし体がとても、怠い。横に座っていたエヴィルが、僕をモノスゴイ形相で睨む。

 

「…てめぇ、コレは何のつもりだ」

 

 言って、封筒を取り出す。僕の手紙だ。

 

「うん?ああ、それは保険だよ」

「死ぬのは勝手だけどよ、面倒ごとをあたしに押し付けるな」

「君くらいしか頼めるヒトがいないからね」

「あたしはあたしのやる事があんだよ。テメェがやりたい事は、テメェでやれ」

「あはは」

「遺書なんて、ガラにもねー事すんな。あたしの睡眠時間を返せ」

「あれ、僕を心配してくれたのかな?」

「は?ちげーよ、リンフェイにムリヤリ連れてこられたんだ」

 

 どうやら、テキーラとの個人的な逢瀬は回り回ってエヴィルの睡眠時間を奪うという結果を招いていたらしい。いつもの三白眼に、隈まで加わって、凄まじい顔になっている。それは悪かったね、と笑う僕にエヴィルは舌打ちをもって返事とした。

 この後僕らは揃ってリンフェイの家まで連行された訳だが、テキーラはエヴィルと折り合いが悪いらしく(というかエヴィルが一方的に敵視している)、ちょっとしたイザコザの末にとっとと帰ってしまった。

 また、戦ったらテキーラは僕のモノになってくれるだろうか?彼にとって敵が必要なら、僕は何度でも喜んで付き合おう。彼の歪みは僕の琴線に触れた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

  エヴィルへ

 

  君がこれを読んでいる時、僕はテキーラと殺し合いをしている事だろう。

  結果は大体予想がつく。僕が死ぬ。それは構わないんだけど、

  君に言っておきたい事と、気がかりなことがあったので、お手紙を書く事にした。

  エヴィル、今まで友達でいてくれてありがとう。フレイルにはよろしく言っておいて。

  言い出せずに死ぬことになってしまったけれど

  僕が吐いた嘘の最後のひとつを此処に記す。君は笑ってしまうかもね。実は、―――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「それで、手紙は全部読んでくれたのかな?」

「くだらねー。途中で破いて捨てた。言いたいことは、自分で言え」

「オーゥ!?黒エヴィさんたら読まずに捨てた!…死ななくて良かった」

「そもそも、お前を友達と認めた覚えはないぞ」

「そこは認めておくれよ」

「イヤだ」

 

 

 あの日と同じ月が、現世を照らしていた。

 ―――また遊ぼうよ、テキーラ。君の抱える歪みは、とても面白そうだ。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ピエロ側から見た、決戦当日。

 


 
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