No.662277

相棒チョコ!

小紋さん

家族とはちょっと違う。でも友達ともちょっとちがう。
それでも特別な関係にあこがれたが故に、チョコを贈らせていただきました!

登場するここのつ者
猪狩十助/音澄寧子

続きを表示

2014-02-10 22:52:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:467   閲覧ユーザー数:450

霜月の中旬。「お二人とも!忍社を壊すおつもりですか!!」という言う魚住涼の一括の下忍社を追い出された音澄寧子と猪狩十助は、社の裏手に来ていた。

 

 カン、ガン、パシィ、と何度も音を立てた末、「まいった」を口にしたのは寧子だった。

通算で通せば寧子の圧勝だろうが、ここ最近の勝率で言えば十助の勝率も上がってきている。寧子の眼前でピタリとこぶしを止めた十助の口元が緩むのも、当然といえば当然だ。

 

「うーん、十助君は成長期かにゃ?あの蹴りを躱されるとは思わなかったのにゃ」

 

「伊達に何度も回数重ねてると思ってんじゃねーよ!もうあの動きは見きったっての!」

 

はいはい、と生返事を返しながら、寧子は手合せ前に安全な木の根元に置いておいた荷をごそごそと引っ張り出す。

 

「そうそう、おねーさんから一本とった十助君には特別なご褒美があるのにゃ」

「特別?ごほうび?」

 

「ほら、皆誰かに茶色くて甘い甘味をあげたりもらったりしてるのは知ってるにゃ?それを十助君にもあげようって言ってるのにゃ♪」

 

そういえば、と十助は少し前ら張り出された張り紙を思い出す。確か‘ちょこれいと’と言っただろうか。友人に配ろうかと十助自身もいくつか用意したが、実は内容はあまりわかっていない。それでも甘味を交換する、楽しいイベントごとだというのはわかっていた。

差し出されたのは藍色の紐が蝶々に結ばれた、十助君の両手にちょうと収まる程度の四角い化粧箱だった。よくよく見れば紐は寧子の頭巾と同じ布地であり、どうやら残り布から繕ったらしい。

 

「この中にあの‘ちょこれいと’が入ってんのか?へえ、……どれどれ?」

 

「あ、コラ!振っちゃダメにゃ!せっかくきれいにできたのに!!」

 

音を確かめようと十助が箱を振った瞬間、寧子の素早い制止が入る。普段の制止であれば軽くたしなめるようなものだが、今回は何故か本気で慌てていた。

 

「へ?‘ちょこれいと’だろ?固いやつなんだし、何慌てて…」

 

「その‘ちょこれいと’は柔らかいのにゃ!!」

 

寧子の話を要約するとこうだ。ただ‘ちょこれいと’を溶かして固めるのでは芸がない。なら柔らかいチョコを作ろう!と思い立ったのが始まりらしい。

茶助に頼んで牛乳の濃いものを分けてもらって混ぜ合わせ、むにゅむにゅと柔らかくなった‘ちょこれいと’を普通に溶かした‘ちょこれいと’で覆ったもの。異国ではキノコの名前をとって『トリュフ』というらしい。ちなみに作り方は異国文化に明るい研草鶸に聞いたのだとか。

 

「………というわけにゃ。この完成品に至るまでにはこの聞くも涙語るも涙の話なしでは語れない!(ベベン)のにゃ♪」

 

いつのまにか手にしていた三味線による語りが小気味良く切られ、寧子の人差し指がビシッと突きつけられた。

 

「話長げえよ!!っつかたかが憐れみチョコだろ!どんだけ労力かけてんだ!?」

 

「だってそれ家族チョコにゃ?それくらいの労力はかけて然るべきにゃ♪」

 

「あ、そっか。家族チョコなら仕方ないよな。まぁ、貰えるもんはもらっといてや、る…………家族チョコォ!?」

 

十助の大声に、すっかり葉の落ちた木から雪の塊が落ちる。

 

「……流石十助君。いい反応をありがとうなのにゃ…」

 

耳をふさぎ、その場にうずくまりながらも寧子は十助の鳩が豆鉄砲を喰ったようなポカンとした表情に満足したようだ。軽く土を払って立ち上がる。

 

「だって!アレだろ!!家族チョコって特別な奴用だろ!?」

 

「だから特別な十助にあげてるのにゃ?」

 

「オレ家族!?」

 

「なら私がお姉さんにゃ?」

 

「オレが兄貴だ!!でも賑やかすぎだろ!!」

 

「私もそう思うのにゃ♪」

 

「あとお互い普通に家族いるぞ!?」

 

「確かに♪」

 

「おい!田舎の母ちゃんが泣くぞ!?」

 

「なら『家族』でなく『相棒』というのはどうにゃ?」

 

「…………………………『相棒』?」

 

そう、相棒。と寧子が繰り返す。その表情はいつもと変わらぬ笑顔のはずなのに、妙に真剣みを帯びていた。

 

「何回も十助とは手合わせしてるけども、十助君も随分強くなったのにゃ。……芦原の民の私にも勝てるくらいに。だから、相棒。相棒として、一緒に背中合わせで戦えると思ったのにゃ♪」

 

「お、……おう」

 

首を引くように頷くと、寧子に頭を撫でられる。いつもなら子供扱いするなと怒るところだが、何故か今はそんな気分ではない。

 

「また何かの依頼があったらよろしく頼むのにゃ?」

 

「ま……任せろ!バッチリお前の背中任せられてやろうじゃねえか!!」

 

パシン、と小気味いい音をたてて手が打ち合わせられる。

 

 

 

……と、寧子の目が意地悪く細められる。

 

 

「……とはいっても私に勝ったのはまだまだ片手で足りるくらいだし、背中を任せっきりにするには‘おつむ’がちょっと不安かにゃ♪」

 

「は!?ちょ、なんだと!?」

 

「だからこれからも手合わせよろしくにゃ♪」

 

「ったりめーだ!…………だったらお前ももっと強くなりやがれ…あ、相棒…」

 

最後はそっぽを向いて。少しだけ照れが混ざった最後の一言に、寧子は夕日よりも眩しく笑った。

 

 

 

「勿論にゃ!相棒♪」

 

 

 

~ハッピー バレンタイン~

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択