これまでのあらすじ
後世世界U.C.0079年1月3日、地球から最も遠い宇宙都市、サイド3とサイド4は、ジオン公国、プラントを名乗り、地球連邦政府に対し独立戦争を挑んできた。開戦から1か月間の間に、両陣営は総人口の約半数を死に至らしめた。
人々は、自らの行為に恐怖した。
ジオン軍とザフトは、開戦当初から巨大人型兵器「モビルスーツ」を投入し、戦局を有利に進めてきた。
この状況の中、大日本帝国は独自の戦術理論に基づき、MS開発計画「V作戦」を発動した。
これとほぼ同時期に、連邦軍も「G計画」と宇宙軍再編計画である「ビンソン計画」を発動、反撃の狼煙を上げた。
戦況は、膠着状態に陥り、一年近くが経とうとしていた12月8日、サイド7「ヘリオポリス」で開発中の連邦軍新型MSがザフトに強奪される事件が発生、さらに、この時の戦闘により、ヘリオポリスは崩壊、オーブ代表ウズミ・ナラ・アスハは責任を取り、辞任を発表した。
これと同じ頃、プラントでも攻撃を行ったクルーゼ隊に対し査問委員会が開かれたが、審議の結果、クルーゼ隊は不問となったものの、アークエンジェル討伐は、シャア大佐率いるラグナレク文艦隊に引き継がれた。
一方、紺碧艦隊は、新旗艦「轟天号」の最終試験航行中に、ユニウスセブン宙域にてアークエンジェルと遭遇、追尾を行う事となった。
世界は、かつての第2次大戦同様の三極構造にあった。だが、その構造は、火薬庫の上の蝋燭のように、脆く、危険な状態であった。
そして、今まさに、この戦争において最も重要となるターニングポイントが、迫りつつあった。
第11話 赤い彗星
U.C.0079年12月26日グリニッジ標準時午前1時59分、シャア・アズナブル大佐率いるラグナレク分艦隊は、アークエンジェルをおびき出すため、連邦軍第17哨戒パトロール艦隊を襲撃した。
「MS隊は敵艦載機編隊を各個撃破しろ!砲雷撃船用意!主砲、メガ粒子砲、魚雷発射管開け!」
ドレンの号令と共に、艦隊の砲塔が連邦の艦隊に狙いを定めていった。
0200時、MS隊と戦闘機のドッグファイトが開始され、戦闘の火蓋が切って落とされた。
セイバーフィッシュの編隊がミサイルを同時発射するが、リックドムⅡはその巧みな機動性で悠々とかわしていった。やがて第1次大戦さながらのドッグファイトに発展していった。
0230時、両軍の艦隊による砲撃戦が幕を開ける。
勿論、先に射程距離の長い連邦のサラミスが先に火を噴くが、この時、ジオン艦隊はミサイルランチャーに装填していたビーム攪乱膜を散布、高エネルギー収束火線砲の威力を封じた後、メガ粒子砲による砲撃を開始した。
ここで、高エネルギー収束火線砲とメガ粒子砲の違いについて解説しておこう。
連邦軍が戦艦の主砲として使用している高エネルギー収束火線砲とは、通常のパルスレーザー砲を更に高出力にした、言わばレーザー砲の発展型である。
これに対しメガ粒子砲は、ミノフスキー物理学による研究成果の一つである。正と負の電荷を帯びたミノフスキー粒子を強力なIフィールドで圧縮し、縮退、融合する事で生成されるメガ粒子の生成時に起きる質量欠損の一部が運動エネルギーとなる。この運動エネルギーを一定まで蓄積させて打ち出す荷電粒子砲の一種で、通常のパルスレーザー砲の4倍近くの威力を持ち、大日本帝国、ジオン公国の主力兵器となったのである。
「よーし!砲撃始めぇ!」
ドレンの号令と共に、艦隊の砲門からメガ粒子砲の光が連邦艦隊に襲い掛かるが、攻撃はサラミスの脇にそれた。
小規模ながら、艦隊戦は熾烈を極めていたが、これこそシャアの策であった。つまり、この間にも、連邦艦隊は救援要請を流しており、それを木馬(アークエンジェル)が察知すれば、敵艦隊と共に木馬(アークエンジェル)を葬り去るのである。
そんな事も知らず、アークエンジェルは、B7R宙域に急行していた。
「前方に爆発光を確認!」
戦闘開始から31分後、アークエンジェルはB7R宙域まで20kmまで来ていた。
「間に合った!総員!第1戦闘配置!ストライクはエールパックで出撃!」
艦内にサイレンが気高く鳴り響き、格納庫では搭載機のメビウス・ゼロを初め、ストライク、ジム・コマンドのライセンス生産品である「GAT-00エンゼルキャット」が発進準備を整えていた。
連邦軍は、三菱重工からジムシリーズのライセンス生産を許可されていた。これは、連邦が日本の技術を手に入れる側面もあったが、実際は戦況の維持のための時間稼ぎとして量産されていたのである。
GAT-00エンゼルキャットもその一つである。このエンゼルキャットは、小隊長機として少数生産されたジムシリーズの一つであるジム・コマンドのライセンス生産機種の一つで、固定武装の79年式バルカン(ライセンス名「頭部60mmバルカン砲」)を始め、79年式光線銃(ライセンス名「ビームガン」)、79年式90mm機銃(ライセンス名「プルバックマシンガン」)、79式対艦砲(ライセンス名「ハイパーバズーカ」)、79式光線剣(ライセンス名「ビームサーベル」)など、武装、汎用性に優れていた。
これと同じ頃、アークエンジェルを追尾していた轟天号も、爆発の光跡を探知していた。
「ジオン艦隊の戦力は!」
「ザンジバル級1!ムサイ級改修型3!スカート付き(リックドムⅡ)12!かなりの戦力です!」
「アークエンジェルからストライク、ジム、メビウス・ゼロの発艦を確認!」
「総員!砲雷撃戦用意!指揮を戦闘艦橋に移行する!」
通信長の報告を聞いた前原は、直に乗員を戦闘配置に着かせ、戦闘艦橋へ移動した。
轟天号には、通常航行用の通常艦橋と、艦隊戦用の戦闘艦橋と、2つの艦橋が創られており、状況に応じて使い分けていた。戦闘艦橋は、前旗艦である富嶽号同様、潜水艦の司令室に近い形状になっていた。
「さて、問題は我々の存在が両軍に悟られない事だ…」
前原はそう呟いたが、轟天号が火を噴く瞬間が、着実に近づいていたのは確かであった。
*
ザンジバル級「ラグナレク」カタパルト
『大佐!木馬からMSが発艦しました』
ドレンの報告を聞いたシャアは、直ちに出撃の準備を整えた。
「了解した。直ちに出る。ハッチ開け!」
ザンジバルのハッチが開き、シャア専用高機動型ゲルググが発艦した。そして、その様子はアークエンジェルと轟天号のレーダーが捉えていた。
「艦長!ザンジバル級からMSが発艦!新型です!」
「何!ザクではないのか!」
「はい!しかし、こんな事がある筈がありません!新型機は、スカート付きの3倍の速度で接近しています!」
オペレーターの報告に艦橋が唖然とする。そんな馬鹿な。そんな速度で接近するなど、常識の範囲ではない。そう思ったその時だった。
「映像!出ます!」
轟天号の超望遠カメラの映像が、モニターに映し出された瞬間、艦橋に戦慄が走った。そう、映し出されたのは、紅く塗装された、彗星の如きスピードで迫るモビルスーツだったのである。
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