第二章‐捌話 『 天は蒼く黄天は沈む Ⅲ 』
「嬢ちゃん達!気ぃ付けて行ってこいよ~!」
「また来いよ~!」
賊の邑で一泊して準備を整え眭固とその一団を加えて今度こそ黄巾党の本拠地を目指すことになったがその中で流琉は複雑な心境だった。賊に温かく見送られるというのもそうだが昨日の晩になぜ自分が太白達と共にいるのか、その経緯を牛角に話したところ(二章‐陸話 参照)なぜか、突然号泣し始めた牛角が
「ぞんなら、その邑ば失くしちゃなんでぇなぁ」
と泣きながら言い出し邑に手下を派遣するとまで言い出したのだ。なんというか今まで何度か賊を追い払うことはあったがそうした賊とは違う感じがする。今まで賊に対して抱いていた考えがひっくり返りそうだ、というかなんであの人達賊なんてやってるんだろ。
「流琉ちゃん、どうかした?」
「あ、稲葉さん。その何て言うか此処に来て賊に対する考えに疑問ばかり浮かんでしまって」
昨晩真名を交わしたばかりの眭固こと稲葉に話しかけられて答える。
「あ~、分かるよ。なんで牛角さん賊なんてしてるんだろうね」
そんなふうに私に共感してくれるが私の中ではその中にあなたも入ってるんですよ、と心のなかで言っておく。というのも彼女が育てた作物はどれも立派なものだった。その一部は黄巾党への貢物として輸送している。
「るーちゃん稲ばんと何話してるんさ?」
「なんでもないよ。ただ、早く着いたらいいねって話してただけだよ」
が、現実はそんなに甘くはなかった。黄巾党との合流を目指している彼女達にとって今一番の障害となるもの。官軍との遭遇だった。
「旗は『朱』…朱儁ですね」
「なんとか戦わずに抜けれないでしょうか?」
流石に官軍を敵に回すことに抵抗がありそんなことを聞いてみた。
「無理だと思うッス」
「どうして?」
「それは連中が官軍だからだよ流琉ちゃん。」
「どういうことですか?稲葉さん」
「連中にとって軍属でもない武装集団なんて全部同じだよ」
「でも、軍属じゃないのは義勇軍もですよ?」
「連中にとっては一緒よ。賊なら討つ、義勇軍なら利用する。自分達が偉くなるためならどっちでも構わないの」
「そんなこと…」
「分かってとは言わないけどね。それよりこっちも準備しましょう。皆!武器を構えな!流琉ちゃんは後ろの荷物の護衛をお願い。それ以外は突っ込むよ!」
「そんな私も戦えますよ!」
三人共前に出るというのに自分だけ後ろに下がるように言われ私は稲葉さんに抗議する。
「だめだよ。これは賊と官軍の戦い。流琉ちゃんは賊なんかじゃないでしょ?」
「それなら太白達だって」
「アタイ達は半分賊みたいなもんなんさ」
「そうッス。親分達に会わなかったら今頃は賊だったはずッスから」
「そんなッ―」
「お頭ー!動き出しましたぜ」
言い返そうとしたところを遮られてしまい結局それ以上抗議も出来なくて仕方なく私は後ろに下がった。
「ちょっと強引だったかなぁ」
でもあの子は純粋そうで素直そうな子だし、なにより賊でもなければ太白達のように何かしらの目的があるわけでもない。本当に成り行きで只の恩返しで付いて来てるだけだから官軍を相手にするような無茶はさせたくなかった。
「お頭!騎馬が突っ込んできますぜ」
「ならアタイが行くんさ!」
「あっ、白妙?!もう、じゃあ自分は援護するッス!」
部下の報告に白妙が飛び出し、その後を
「よっし。あんた等も遅れるんじゃないよ!」
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
太白達の後を部下を引き連れて攻め込む。先に突っ込んでいた白妙はその馬鹿でかい剣で馬上の敵を馬ごと叩き斬っていた。太白の方も旋棍を変わった持ち方をして氣を飛ばし馬上の敵を撃ち落としている。
「なら、あたしも!」
高く跳躍して騎馬兵を踏んづけて落馬させると同じようにどんどん跳んで踏んづけてを繰り返していく。そうして落馬した兵を部下が始末していく。
「きゃはははは」
あ、なんか楽しくなってきた。周りの部下は呆れているが何も言わないけど。
騎馬による先制は潰した。後は本陣を攻めて指揮官を叩くだけそう思った時、
「あー!あいつ等逃げるんさ!」
見れば確かに反転して逃げようとしている、まだ騎馬隊がやられただけで戦えるはずなのにどうして。
「なんかスッキリしないんさ。太ちゃんやっちゃえさ」
「またッスか?!」
そう言いながらも太白は氣を練り始める。そして、
バンッ
という破裂音がして朱儁の部隊の旗が折れるのが見えた。
「朱儁様!」
「放っておけ!それより皇甫嵩からの報告は本当なんだろうな?」
「はい。確かなようです」
「そうか。くくく、黄巾の蛆虫め今に見ていろよ」
朱儁が皇甫嵩から受けた知らせはこの場での勝敗などどうでもいいと言えるものでそれ故に手柄を逃すまいと賊との戦もそこそこに引き上げたのだった。
そうとは知らず、太白達はその後無事に黄巾党が本拠地としている砦に辿り着いていた。その間、というか官軍との戦いの間からずっと私は考えていた。
「さて、ようやく着いたけど、流琉ちゃんこれからどうする?」
「え?」
ずっと考え込んでいたから不意に稲葉さんに呼ばれて素っ頓狂な返事をしてしまう。
「え?じゃないよ。此処から先は賊の巣窟。賊だって牛角さんみたいなのばっかじゃないから。あたしとしては流琉ちゃんは此処で外れた方がいいと思ってる。もちろん邑に帰り着くまであたしの部下を護衛に着けるし。それで、どうする?」
それは多分稲葉さんからすれば親切心からくるものなんだろう、むしろそれ以外のなんでもない。
「私も一緒に行きます。皆さんにはお世話になりっぱなしですし。それに…」
「それに?」
「皆を見てて賊とか悪党とか何なんだろうって思って。だからもう少しだけ一緒にいさせて下さい」
頭を下げる。今までは賊は悪い人ばかりだと思っていた。でも何かそうじゃないと思えてきた。賊とか悪党とかそれがなんなのか一緒にいれば分かる気がする。
「戻れなくなるかもよ?」
「うっ。で、でも、お願いします」
「しょうがないっか。でもあたしの言う事は聞いてね。じゃないと流琉ちゃんの邑を守ってる牛角さんにあたしが怒られちゃうから」
「はい!」
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というのがこの一週間の主な出来事、それから数日を待たずしてこの砦とその周辺は黄巾討伐軍に包囲されてしまった。今思えばあの時官軍が退いたのはすでにこの場所を探り当てていたのかもしれない。
「ただいま。あ、ご飯!」
「おかえりなさい。って稲葉さん一人で人参ばっかり食べないで下さい」
「それで眭固さん偵察はどうだったんですか?」
張梁が訪ねる。
「討伐軍はこの場所から誰一人逃がすつもりは無いみたい。そんな感じの戦い方だったよ」
「そうですか。食料も少なくなってきましたし補給路も押さえられているみたいですね」
「そうだね。しかもこの包囲網は簡単には抜けれない。多分、今夜あたり攻めて来ると思うよ」
「その根拠は?」
「賊としての経験則かな。此処は山の中に建ってるし焼き討ちかな」
ごくりと誰かの喉が鳴った。
「なら、今の内に三人に話しがあるッス」
切り出したのは太白だった。
「張角達には自分達と一緒に逃げて欲しいッス」
「逃げるって一体どこへ?」
「天水ッス。そこに張角達を案内するのが親分から任された自分達のお務めッス」
太白と白妙が此処まできた目的である。
「ちょっとだけ考えさせてね」
そう言って張角は席を立った。その後を追うように彼女の妹達も席を立つ。
日は既に傾き空を赤くも黄色くも染めて沈もうとしていた。
あとがき
流琉視点が多いな…なんて思ってますが書いててやっぱり賊の中に一人違うのが混じってるとそっちで書きたくなってしまうわけですよ。そして稲葉は軽く壊れましたが、仕様です。(オイ そんなこんなで次回で黄巾編ラストになります。
では、また次回!!
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もうすぐ二章も終わる
『Re:道』と書いて『リロード』ということで
注:オリキャラでます。リメイク作品です