No.655245

赤城、来襲。

しぶからてんさい。艦これを書いたら数字がハネると聞いて。

2014-01-17 01:39:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1438   閲覧ユーザー数:1413

 

 1900――。

 それは恐怖の時間だ。

 なぜか?

 奴が来るからだ。

 

 赤城――。

 

 あの食欲の権化が、一気呵成に食堂へとやってくるからだ。

 

 艦載機をとばして、重々しく足音を鳴らして、奴が来るからだ。

 毎食毎食で暴虐の限りを尽くし、米びつを空にする悪魔が――。

 

 しかしだからといって、ただ食らいつくされるわけにはいかない。艦隊には育ちざかりの駆逐艦娘たちもいるので、奴ばかり満腹にさせてはいけない。

 ただ願うことは、お茶碗に大盛りのごはん。

 日本昔話のごとく、山のようになったごはん。

 

 それを、育ち盛りの彼女たちに――。

 そして願わくば、おかわりの機会を――。

 

 1900――。

 夕飯の時間。

 一番手に現れる赤城を阻止するのが、せめて駆逐艦娘たちの食事が終わるまで来襲をせき止めるのが、彼らの仕事。

 

「しみったれた顔ぶれだなあ、なあおい?」

 口をとがらせて言ったのは、胸部のタンクばかり世界水準を突破した眼帯娘、天龍である。彼女は偉そうに、食堂に居合わせるメンツを睥睨した。

 天龍。

 龍田。

 へたれ提督。

 そして――加賀。

「加賀がいるだけいつもよりましか。――だがまあ、今日も俺が作戦を引っ張るしかねーかな」

 ふふんと、天龍は鼻を鳴らす。

「――よく調子づいていられるな、なんちゃって世界水準め」

 ははんと、へたれ提督は吐き捨てる。

「そのおっぱいも本当は世界水準じゃないんじゃないの?偽物なんじゃないの?ちょっと確かめてもいい?」

 へたれ提督は天竜のマシュマロパイの感触を確かめるため、両手の人差し指を立てて接近していった。その様相は、さながらスペインの闘牛のようだった。ぐはぐはと声を漏らし、鼻息はあらかった。

「その手は何かしら?提督。真ん中の足を切っちゃってもいいのかなあ?」

 黒いオーラをまとって龍田は言った。へたれ提督は、あわてて屹立し始めた愚息を抑える。

「冗談っすよ、冗談。はははははは!」

 口笛を吹きすさび、適当に誤魔化して見せる。

「つまらないことをやっていないで。赤城さんは――強敵よ」

 わーぎゃーと騒がしいメンツに対し、加賀は至極平静としている。携えた武具を、和弓を整備して、赤城の来襲を待ち構える。

「いや、しかしあれだな。今日は加賀が来てくれてよかったな。戦力倍増じゃないか」

 おっぱい談義をすっ飛ばし、へたれ提督は会話を加賀との方向に引き込んでいく。

珍しいことだった。

 加賀が、赤城と仲の良い彼女が、「おひつ防衛作戦」に参加するなんて、誰も思っていなかった。加賀とはつまり、赤城の食欲のためならなんでもするので、まさに青天の霹靂ともいうべきだった。

「まあ任せておけよ、今日はこの俺が、ガキどものご飯を守るぜ!」

 まったく頼りにされてないくせに、天龍は胸をどんと打った。豊かな胸がぽよんと揺れて、プッチンプリンを皿に落としたみたいになった。

「――やっぱり確認が必要だな」

 へたれ提督はまた闘牛のポーズをとり、

「――死にたい提督はどこかしら?」

 目の笑わない龍田の笑みに、やはり彼は空とぼける。

 

 そして時刻はやってくる。

 1900は冷酷にもその時を告げ、食堂は開店し、赤城の足音が遠くに――。

 

『作戦を開始、第一防衛ライン、警戒に入ります』

 鋭く無線が入った。瞬間、緊張は高まっていく。

 今宵ばかりは、作戦を失敗させるわけにはいかない。

 連日連夜敗北して、おひつを空にされ、お茶碗の底に沈んだご飯に駆逐艦娘たちは涙を浮かべ――。

 それでも健気に「ごちそうさまでした」を笑顔で言う彼女たちに、「お腹いっぱい食べたい」と言うことさえ我慢する彼女たちに、今日こそは報いる――。

 

 

 しかし、赤城は強かった。

 食欲の権化は、半端でないのだった。

 

『第一防衛ライン、突破されました!』

『第二防衛ライン、放棄!』

『第三防衛ライン殲滅!』

 ものの数分で、幾重にも張り巡らされた防衛網は突破されていく。空腹のオーラをまとい、殺意をまき散らした赤城により、どんどこと艦娘たちはやられていく。

「な、なんてことだこれは――」

 へたれ提督は絶望していた。でき得る限りの手を打って、今度こそはと思っていて、しかし赤城の進撃は止まらないのだった。

 駆逐艦娘たちは集まりだしている。自分たちで食器を出して、夕飯に浮き浮きしている。

 ――まだ間に合う。

 防衛ラインは、まだ死んではいない。

 

 あと一つ、残っているのだ。

 耐えるんだ。最終防衛ラインを堅持して、食堂を守る天龍隊(天龍命名)で踏ん張って――。

 

 なんとか、駆逐艦娘たちがおかわりをするまでは!

 

『最終防衛ライン、もうだめです。ああもう、新しい武装試したかったのにぃ』

 しかし無情の通達は届く。

 すべての防衛ラインを、赤城は突破せしめる。

 

「な、なな、なんということだ!まだいただきますも言ってないんだぞ!」

 へたれ提督はがたがたと震えていた。内またになって、おもらしをガマするように脅えきっていた。もしかしたらちょっとちびっていた。

「おい提督!ビビってんじゃねえぞ!」

 天龍はへたれ提督を奮い立たせるが、しかし威勢のいいのは声だけだった。彼女の手もまた、へたれ提督の胸ぐらをつかむ手もまた、小さく震えているのだった。

「死にたい艦はわたしかしら?」

 龍田も脅えている。武器を持ち、ガタガタと震えている。意味の分からないことをほざいている。

「てめえら、ぶるってんじゃねえ!しっかりしろよ!」

 虚勢を張る元気のあるのは、部隊の中で天龍だけだった。入り口近くにバリケードを張り、その中で待機して、彼女だけがんばっているのだった。

 

 ――と、そこにふいに、プロペラの音がする。

 

「か、艦載機だっ!」

 へたれ提督は指を指した。廊下の先から、一機の艦載機が、ぷるるるとプロペラを回し、食堂へと飛んできていた。

 赤城だ。

 赤城がとうとう、食堂までやってきた。

 

 まだ膳立ても終わっていないというのに、敵は迫ってきた。

 

 また敗北するのだろうか。

 赤城に食料はすべて奪われ、駆逐艦娘はまた涙を我慢するのだろうか。

 

「も、もうだめだ――」

 へたれ提督は言って、がくりと肩を落として――。

 

「ふざけてんじゃねえぞ!俺が何とかしてやる!俺のこの、ドメスティックブレード(今命名)で!」

 震える体に鞭を打ち、天龍は刀を取って立ち上がる。艦載機を打ち落とし、赤城を食い止めるために立ち上がる。

 そこに、びょうと風が起こった。

 天龍の顔をかすめて、それはすっ飛んで行った。

 

 一陣の矢だった。

 

 矢は鋭く飛んで、艦載機を一撃のもとに葬り去った。

 

「哨戒機よ、落ち着いて。あと、ドメスティックは家庭的という意味よ」

 颯爽と立ち上がったのは加賀だ。

「マジかよ、家庭的刀ってなんだよ、くそダセー!」

 天龍は叫び声をあげる。なんだ家庭的刀って。包丁か。

 

「私に任せておいて。赤城さんの扱いなら、慣れているんだから」

 そして加賀は、バリケードを抜けていく。

「お、おい!?」

 天龍は止めるが、

「そのために私はいるでしょう?」

 ――と、加賀は平然と言って、赤城の来たる廊下を進む。

「――五航戦の子なんかと一緒にしないで」

 弓をとり、矢をつがえ、加賀は赤城を敵対する。

「か、かっこいい――」

 頼もしい背中を、天龍は見送った。あんな背中の持ち主に、自分もなりたいと思った。

 

 でも最後のセリフは、なんで今言うのかな?と思った。

 

 

 

 

 やがて――戦いは終わる。

 加賀は赤城を食い止めて、食堂までは到達させないで、戦いは終わる。

 

「おひつ防衛作戦」は初めて成功を収めて――。

 

 

 だが、勝利ではなかった。

 駆逐艦娘の宿願、「おかわり」はなされないままだった。

 

 おひつは既に、空になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まあ、最初から変だと思ったんだけどね、加賀が赤城を裏切るなんて」

「……気づいてたんなら先に言えよくそ提督」

 

 

 へたれ提督は考える。

 どうすれば駆逐艦娘に、おなか一杯ご飯を食べさせられるかを考える。

 

 そして思い至る。

 

 そろそろ米農家と、直接契約するべきかなあ――と。

 

 

 田んぼごと買い取れば、赤城だってきっと、その米は食いきれない。

 

 

 

 

 ――つーかあの人、なんであんな食うのよ。

 

 

 
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