「2人とも、よく来てくれたな」
ACE学園高等部クラブハウス内の自室にてルルーシュは士樹やアインハルトと向き合っていた。その雰囲気は、黒の騎士団総帥として振る舞う時と遜色ないものだ。
「どうしたんだい、ルルーシュ?」
「実は、大切な物を失くしてしまってな。それを探す手伝いをしてほしい」
「大切な物って何ですか?」
「それはな……」
ルルーシュは大仰にポーズを取りながら、説明する。
「緑葉に勧めてもらった妹物のエロゲーが入ってる金庫の鍵を失くしてしまったんだ」
シリアスだった空気がガラガラと音を立てて崩れていくのを2人は感じ取った。
「帰ろうか、アインハルト」
「そうですね……こんなことに付き合う必要はありません」
「待ってくれ、2人とも!!」
「何ですか?」
必死に手を伸ばすルルーシュにアインハルトが普段は絶対に他人へ向けないだろう冷たい視線を向ける。ガラス細工のような美しさと冷たさを持っていたが、彼には関係なかった。
「あれは、俺にとって本当に大切な物なんだ!! 頼む、力を貸してくれ!!」
「仕方ないですね」
鬼気迫るルルーシュの説得に押された士樹たちはしぶしぶ協力することにする。
「まずは、情報の整理から始めようか。その金庫ってどんな形式なの?」
「そうだな。こっちに来てくれ」
ルルーシュは自室内の金庫へと2人を案内する。
「この金庫は、鍵とパスワードの二重構造でな。特殊な鍵を差し込んだ上で数秒の間にパスワードを全て入力しなければ開かない仕組みになっている」
「その鍵を無くしたわけか」
「ちなみに、鍵は他人に勘づかれないようキーホルダーに偽装してある」
「部屋の中で探してない場所は有りますか?」
「鍵入れも小物入れも探したさ。後は、無さそうな場所だけさ」
「なら、そこを探しましょう。私はクローゼットの方へ行きます」
「僕は靴箱を探すよ」
士樹とアインハルトはそれぞれ別の方向へ向かって歩く。
「……ダメもとで冷蔵庫を探してみるか」
冷蔵庫を開け放ち、ルルーシュは手を突っ込んで荒々しく探す。上の層から1つ1つ探していき、冷凍庫ではあるものが出土した。
「こ、これは……!?」
「ルルーシュ、何かあったの?」
近くに居た士樹がルルーシュの方へ近寄り、出土品を目の当たりにする。
「何でピカチュウのぬいぐるみが冷凍庫の中に?」
「避暑が目的で誰かが入れたものの忘れ去られたのかもしれない。でないと、こんなところに有る意味が分からない」
士樹とルルーシュはタオルでピカチュウを包み、ひざ掛け電気毛布の上に置くと、捜索を続けた。探せど探せど出てくるのは何の関係もなさそうな代物ばかりで、目的の物は一向に見つかりそうになかった。
「全く見つからないね」
靴箱に隠してあったハンドガン(弾は入ってない)を弄びながら士樹は口を開ける。その隣では、黒い長髪のカツラを持ったアインハルトが居た。成果が上がらない事実にルルーシュは頭を抱えていた。
「靴箱、クローゼットから冷蔵庫まで全て探した……いや、待てよ」
自嘲気味だったルルーシュが考え込み出した。
「部屋に無い……捨てた覚えもない……だったら……」
ルルーシュは携帯電話を取り出し、電話番号を入力しようとする。
「ルルーシュ、何か分かったのか?」
「この間、スザクがユフィへ送るキーホルダーを探していてな。それを手伝っていたんだ。ひょっとしたら、その時に奴の部屋に紛れ込んだのかもしれない」
発信ボタンを押し、コール音だけが鳴り響く。息をすることさえ忘れる雰囲気の中、コール音は途切れた。
『もしもし、枢木スザクです』
「ルルーシュだ。お前に聞きたいことがある」
『ルルーシュか。何の用だい?』
「先日、お前の部屋にキーホルダーを忘れたかもしれないんだ。少し探してくれないか」
『少し待ってて』
通話口からガサゴソと物を探る音が聞こえてくる。そうして数分「これの事かな?」という声が聞こえたすぐ後にスザクが再び電話口に戻ってきた。
『見つかったよ、ルルーシュ。ナナリーと同じ髪色のキーホルダーだろ』
「あぁ、それだ」
(そこまでしているのか……)
士樹はルルーシュのシスコン具合に呆れきっていた。隣を見ると、アインハルトの表情も固まっていた(最も、ごく小さな変化)ので、彼女も同様の心情を抱いているのだろう。
『しかし、これがそんなに大切な物だと知らなかったよ。いったい、何に--』
スザクの言葉を遮るようにドアが開かれた。
「ルルーシュ、この間貸した妹物のエロ漫画を返してほしいからあのキーホルダーを少し使わせてくれないか」
乱入者……緑葉樹の言葉によって部屋の空気は一気に氷点下まで冷え込み……スザクとの電話は切られた。
「スザク! スザク! 返事をしろ!! 」
「えっ? 俺、何かまずいことしちゃった!?」
「実は、かくかくしかじか」
「なるほど、それはまずいことになったね」
右往左往する緑葉に士樹たちはこれまでの経緯を説明する。3人の傍では、ルルーシュが何度もスザクに電話をかけ直していた。10回ほど動作を繰り返し、再び電話はつながった。
『……何だい? 今、“俺”は忙しいんだ』
先ほどとは正反対の非友好的な態度でスザクは接する。
「待つんだ、スザク! 待ってくれ!! 俺の話を聞いてくれ!!」
『……すまない、ルルーシュ。今、ある物を爆破処理しなければいけないから手が離せないんだ』
電話口からは、彼の愛機が起動する音とその保有火器が展開する音が作為的に死刑宣告の如く響く。
「それでは遅い!! 今、聞いてくれ!!」
『ルルーシュ、君がナナリーのことを深く愛しているのはよく分かるよ。だけど、さすがにそれはダメだと思うよ』
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
スザクからの電話は切られた。次にスザクの声を聞く時には、キーホルダーが粉々に砕け散っているであろうことは容易に想像がつく。
「どうするの、ルルーシュ? ここに居る戦力じゃ本気のスザクを止めるのはそうとう骨が折れる」
「俺が悪かった。だから、もうこれ以上苦しまないでくれ」
学園でも指折りのエースであるスザクが本気を出したとあれば、止められる人間は少ない。それは、ライダーであっても例外ではない。
「まだだ!! まだ俺はあきらめない!!」
ルルーシュは今度は別の番号を素早く入力した。
「カレンか。今すぐ零番隊を率いてスザクの部屋へ突っ込め!! 理由を説明している時間は無い!! すぐに行ってくれ」
この戦闘は熾烈を極め、男子寮の一部が崩壊するレベルとなった。例のキーホルダーがどうなったか、士樹たちは聞いていない。ただ、数日間ルルーシュとは会うことが出来なかったことは事実だ。
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少年は鍵を失くした……。
その鍵は己が人生の詰まった空間へ足を踏み入れるための物だった。
本来なら、他人を関わらせたくないことだが、背に腹は代えられない。
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