No.653912 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第二十二話2014-01-12 07:39:17 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:9084 閲覧ユーザー数:6284 |
「桃香、しばらくぶりだな!」
「白蓮ちゃん…白蓮ちゃ~ん!」
此処は予州と青州の境目の辺り、黄巾党の城を攻撃する諸侯が集結している
陣地である。陣地といっても各諸侯がてんでバラバラに陣を構築しているだ
けの場所であるが。
そもそも何故各諸侯が来ているのかというと、新帝劉弁の勅命によるもので
ある。曰く『青州にて黄巾党の城を発見し、首領の張角らしき人物を確認せ
しむるも、青州州牧のみでは攻略不可能にて、各諸侯においては自領の賊徒
の討伐完了次第駆けつける事』である。その勅命に対し、自領に出た黄巾党
の討伐を終えた諸侯から続々と此処にやってきていたのであった。
それから約十日余り、幽州・北平太守の公孫賛は自領での討伐を終えてやっ
てきた所を旧知の劉備を見かけて挨拶しようと声をかけたら当の劉備が急に
抱きついてきたという状況なのであった。
「ど、どうしたんだ桃香?」
「ずっと、ずっと大変だったんだよーっ、ふぇ~~~ん!」
「だから、何が大変だったんだ?ただ泣いているだけじゃ何も分からな…ああ、
もう分かったから好きにしろ…」
ただ泣き続ける劉備に公孫賛はやれやれといった表情のままそっと彼女の頭
を撫でていた。
そして結局そのまま、半刻位劉備は泣き続けていたのであった。
「へぇ~、先生に会ったんだ。元気そうだったか?」
「…元気なんてもんじゃないよ。どうやったらあんなに力が有り余るのか聞き
たい位だよ」
そう言ってふくれている劉備に公孫賛はただ苦笑いで返すしか出来なかった。
「で、今は曹操殿の所にいるのか?」
「うん、先生が色々勉強になるからって。でも…」
「でも?」
「一体何がどう勉強になるのかよく分からないよ…愛紗ちゃんや朱里ちゃんは
何だか色々聞いてるみたいだけど」
劉備のその呟きに公孫賛の顔がひきつる。
(いや、そこは曹操の兵の統率の仕方とか上に立つ者の心得とかを学ぼうとか
する所じゃないのか?先生だってそれを期待してたはず。でも、こんな感じ
じゃ今更無理だよな…っていうか愛紗達もそれを桃香に教えないのか?)
心でそう思っていても口に出せない公孫賛であった。
「あら、此処にいたのね?諸葛亮が捜していたわよ、劉備」
「曹操さん!」
「ほら、早く行きなさい」
「はい、じゃあね、白蓮ちゃん」
劉備は手を振りながら去っていった。
劉備の姿が見えなくなった辺りで曹操は振り向いて話しかける。
「初めまして、曹操よ」
「公孫賛だ、よろしく。と…劉備が世話になっている」
「ふふ、それほどでもないけど?」
「そうか?私が言うのも何だけど…あいつってちょっと独特だし」
「それは間違いないわね…でもあの子、あまり話しかけてこないから」
「やっぱりそうなのか…はは、先生に何て言ったら良いやら」
曹操の言葉に公孫賛は苦笑いを浮かべる。
「盧植殿にも言われてたから私も気にかけていたんだけどね…少しでも難しい
話をしようとすると何だかんだ言って逃げてっちゃうし、あの子は人から学
ぶっていう事を知らないのかしら?彼女の部下の子は色々と聞いてくるのに
…皆、一体彼女の何に期待しているのかしら?」
「そう言っていただくな曹操殿、あいつは良い所もあるんだよ。それに何故か
放っておけない所もあってな」
「ああ、それは分かるわ」
公孫賛の言葉に曹操は頷きながら答える。
「だから彼女をただ愛でているだけならまったく問題無いのだけどね。むしろ
軍とは別に彼女は閨に置いて日々楽しみたい位だわ。そうすれば関羽や諸葛
亮を思う存分手足として使えるし…ふふ、ふふふふふっ、そうだわ、それは
良い考えだわ…」
「ははは…お手柔らかにな」
曹操のその言葉に公孫賛は引き気味ながらも苦笑いするしかなかった。
一方その頃。
「もうすぐ諸侯が集結している所に着くそうです」
「どうやら総攻撃が始まる前には間に合ったようだな」
俺達北郷組は、命より黄巾党討伐の軍に加わるよう命を受けて青州に入って
いた。とはいっても今回は俺達だけでなく…。
「くっくっく…久々に嗅ぐ血の臭い、まさしく戦場だな…はっはっは!」
何故か空様まで付いてきてしまっていた(ちなみに空様は頭部の上半分がす
っぽり隠れる兜を被っている)。
「此処まで来てこんな事を聞くのも何なのですけど…本当に俺達に付いてきて
良かったんですか?」
「問題無い。ならば私は李通という一武将だからだ。良いか、一刀?既に劉宏
などという腐れ皇帝は病でくたばって、新たな皇帝の御世になっているのだ
からな。そこは間違えるな」
自分で腐れ皇帝などと仰せになられるとは、何ともはや…ちなみに空様が言
った通り、命の即位に合わせて『劉宏陛下は看病の甲斐無く崩御され、霊帝
の名を諡号する。今は国家壊乱の危機の状況につき、喪に服するは無用との
遺言である』との声明が布告されていたのであった。しかし当然本人は俺の
横でこうしてぴんぴんしているわけで…真実を知っているのは命と夢を除け
ば王允・董卓・馬騰及び三将軍そして俺くらいだとはいえ、正直頭の痛い話
ではある。
(ちなみに北郷組の面々にも知らせてはいない。此処にいるのは、あくまでも
王允さんより派遣されてきた李通という人だという認識しかない。もっとも
輝里には半分見抜かれかけてはいるが)
「何を呆けておるか、さっさと進め。お前が大将ぞ?」
俺の思いなど何処吹く風とばかりに空様は俺をせかす。ちなみに空様は俺が
赴く事になった時に王允さんにごり押しして同行出来るようにしたのだった。
はぁ、今頃王允さんは夢辺りに怒られているに違いない…。
・・・・・・・
「おおっ、壮観な眺めだな」
俺達が着いた時には多くの諸侯が既に集結しており、色とりどりなその旗印
がたなびいている様は圧巻であった。その向こうに見える城には対抗するか
の如くに黄巾党の旗が翻ってはいるが、まったくといって良いほど迫力に欠
けていたのであった。
「では、とりあえず俺達は此処に陣を張る。輝里、準備を」
「何じゃ、このような一番遠くに陣を張るのか?」
「…空様の眼には近くの何処かに陣を張る場所があるように見えますので?」
「そんなもの、誰かの陣を何処かにどk…『おいこら、李通』…何じゃ?」
「俺達はあくまでも董卓軍の一部隊として来てるだけだってのは分かってます
よね?それなのに、ごり押ししたらどうなるかも」
「…そうじゃな、月に迷惑がかかるな」
はぁ、まったく…何だかんだいってもこの人もごり押しが通ると思っている
辺りが名家のお方な感じがするねぇ。一応分かってもらったから良かったけ
どね。
「ならば今度は一番乗りを目指さねばな…騎馬訓練を千倍に増やそうか。それ
こそ一日三千里を駆けれるようになれるように」
…兵と馬を殺す気ですか、あなたは。
場面は変わり、黄巾党の籠る城の中の最も奥まった所にある部屋の中で張三
姉妹はうなだれた様子で話をしていた。
「人和、どうするのよ~。この城の周りに色々な諸侯の軍勢が集まってきてる
し、逃げ場が無いじゃない!」
「幾ら新帝の勅命が下ったからといって、こんなに各諸侯が集結してくるなん
て…しかも大陸各地の会員のほとんどもやられちゃったみたいだし、此処ま
で計算が狂うなんて、想定外だわ」
張宝と張梁がそう言って眉間に皺を寄せて考えていたが、
「計算なんてどうでもいいから~、何時逃げ出せるのよ~」
張角のその言葉で中断される。
「天和姉さん、声大きいってば!」
「だってぇ~、ちぃちゃんも人和ちゃんもお姉ちゃんの事を無視して話してる
んだもん…」
「…私は一応『三人』で話し合っていたつもりなんだけど」
「ちぃ姉さん、天和姉さんがああいう話についてくるって本気で思ってたの?」
「いや全然。でも無視してたわけじゃない位は分かってるかと…そう思った私が
馬鹿でした」
張宝はそう言ってため息をついていた。
「それでどうするのよ~?」
「むしろ今の状況でどうやって逃げれるのか逆に聞きたい位なんだけどね…何処
かで大きな混乱でも起きればまだやりようは…」
張梁がそこまで言いかけたその時、
「張角様、緊急の用件が!」
一人の兵士が慌てた様子でやってくるが、部屋の手前で何故か止まる。という
のも…。
「では、入っても良いですよ」
黄巾党のルールで張三姉妹の私室に来た時は、どのような場合でも中にいる本
人達の許可が必要だからだ。
「はっ、失礼いたします!」
「それで?何があったのです!」
「はい!ただ今、徐州から逃げて来た会員達が到着して合流を願ってきているの
ですが、中へ入れてもよろしいでしょうか?」
「それは大変でしたでしょうし入っ『待って、姉さん』…人和ちゃん?」
「徐州から来たと言ってましたね?どうやって此処まで来たか聞いてますか?」
「えっ、いえ…ただ徐州から来たとだけですが?」
「ではその方々にはお引取りを」
「人和、何言ってるのよ!確かにこっちにも余裕なんか無いけど、大変な思いで
此処まで来た人達にそんな言い方は…」
張宝の非難の声を聞き流し、張梁は改めて兵に同じ指示を出す。
「どういう事よ、今のは!」
「そうだよ~、困っている会員さん達を見捨てるなんて~」
兵士が去った後、張角と張宝は張梁に詰め寄る。
「だって、おかしいでしょ?徐州にいた会員さんはもう皆此処に来ているはずな
のに。もし向こうに残っていた人達がいたとしても、此処は既に諸侯に囲まれ
ているわ。どうやったら此処まで来れるのか知りたい位ね」
しかし張梁にそう言われると、それ以上の反論は無かったのであった。
「…失敗だったそうよ」
「…良い作戦じゃったと思ったのがの~。なあ、七乃?」
「はい、何処からどう考えても相手が信じるはずなんかまったく無いような作戦
を考案されるなんて、さすがはお嬢様!よっ、この天然娘~!」
「ぬははーーーっ!もっと褒めるが良いぞ、七乃!!」
報告に来た孫策はあまりにも予想通りの袁術主従のバカさ加減に頭痛がしてく
るような感覚に襲われていた。
先程、張梁が追い返した『徐州から来た』という集団は、袁術の兵が変装した
ものであった。たまたま此処に来る途中で徐州から流れてきた黄巾党の一団と
ぶつかり客将である孫策がそれを撃退した後、その兵士に成りすましたら城内
に忍び込めるんじゃないかという袁術のあまり良く考えていない策に腹心であ
る張勲がのっかって、その立会いを孫策に依頼した…という話である。さらに
言えば、孫策はただの立会いだけであり、あくまでも実行は袁術軍の兵士が行
うという、袁術曰く『妾が手柄ガッポリ作戦!!』とかいうアホ丸出しの行動
だったので、本来成功するなど誰が考えても無理そうな話だったのだが(しか
し、張梁がいなかったら成功していたかもしれないのも事実だったりする)。
・・・・・・・
「今戻ったわ…」
「どうやら予想通り失敗だったようだな」
「ふん、あんなのが成功するわけが無いでしょ!」
「まあまあ、策殿。こんな作戦に我らの兵が使われなくて良かったという事じゃ
ろうて」
自分の陣に帰ってきた孫策を出迎えたのは、軍師にして親友たる周瑜と先代で
ある孫堅の代から仕える宿将の黄蓋であった。
「それはそうと…あっちからは何か返答があったの?」
「それについてだがな…何でも夜明け前に『十』の旗印の軍の所へ向かえとだけ
言われたそうだ」
「…どういう事よ、それ?そもそもその軍って何処の誰よ?」
「調べた所によると、涼州・天水郡太守の董卓殿の客将である北郷とかいう者の
軍らしいのだが…」
周瑜からそう説明を受けても孫策はただ首をかしげるだけであった。
「北郷…聞いた事も無いわね」
「ああ、だが必ず雪蓮が来るようにとの事だ」
「分かったわ」
「おや?策殿の事だから『そんな面倒くさいの冥琳がやればいい』とか言うかと
思っておったのじゃが」
「此処は自ら行かなくてはダメだと思ったのよ」
「ほう…それは勘か?」
「勘ね」
孫策と周瑜はそう言うと笑い合っていた。
・・・・・・・
そして次の日の明け方。
「何者だ!」
「文台の娘が来た…って言えば通してくれるって聞いたけど?」
「…失礼しました、どうぞ中へ!」
言われた通りに一刀の陣にやってきた孫策が中に入ると、そこにいたのは…。
「久しぶりだな、雪蓮。すっかり大きくなったな。やはり面影は氷蓮(ひょうれ
ん・孫堅の真名)に似てきたようだ」
「え…えええっ!?…まさか、まさかまさかまさか!!」
「ああ、空お姉さんだぞ」
あまりの衝撃に孫策は膝から崩れ落ちていた。
「落ち着いたか?」
「は、はぁ…しかし、何故?確か…」
「死んだのは劉宏とかいう腐れ皇帝だ。お前が敬愛してやまない空お姉さんはこ
の通り元気一杯だ」
空のその言葉にさすがの孫策も顔をひきつらせていた。
ちなみに何故二人が知り合いなのかというと、空がまだ皇帝となる前に孫堅は
彼女の部下であったからだ。その為、皇帝となった後でも孫堅は何度か孫策を
連れて洛陽へ来ており、その際に顔を合わせていたのであったからだ。
(ちなみに董卓の母親と馬騰も同じく空の部下であった)
「まあ、それはともかく…よく来てくれた。今は袁術の客将だそうだな?袁術は
良い主か?」
空の問いに孫策の顔がまたひきつる。
「…ほう、どうやら話に聞いた通り、袁術は愚か者のようだな。そのような者に
仕えなくてはならんとは…氷蓮の奴め、あれほど一人で突っ込むのと一人の膂
力のみに頼った政はやめろと言っておいたのに結局それが命取りになりおった
ようだ」
「ところで、へい…『私は今は李通と名乗っている。李通か空かどっちかで呼べ』
…は、はあ、それでは空…様?私を呼んだのは一体どういう用件…ですか?ま
さか、わざわざ旧交を温めようなんて話じゃ…ないですよね?」
「ああ、実はな…もう少し先の事になるのだが、もしこちらの言う通りにしてく
れたのならお前達の願いの手助けをしようと思ってな」
空のその言葉を聞いた孫策の眼は驚きで見開かれていた。
…続く?
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回は今まで出て来なかった人達も
登場してきました。
そして最後の空と雪蓮の密談は…一応
後々の布石という事で。
次回は空と雪蓮の密談のその後と黄巾
党との最終決戦への流れをお送りする
予定です。
それでは次回、第二十三話にてお会いいたしましょう。
追伸 西涼勢も次回辺りに到着の予定です。
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長かった黄巾党討伐の戦いも遂に佳境へと入り、
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