No.65313

ほわいとでー大乱戦! in 魏 後編

DTKさん

待っていたという方いましたら、お待たせしました!
と言っても、毎度のことながら、ホワイトデーからは10日以上過ぎてしまいましたが…^^;

遅筆に加え、文章をまとめきることが出来ず、過去最長さとなりました。
これでもまだ、その後で1ページほど書きたいので、折を見て書き足すかもしれません。

続きを表示

2009-03-26 02:30:08 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:13355   閲覧ユーザー数:9721

魏の都、許。

その城内のとある一室に、複数の将と軍師が集まっていた。

尋常でない様子から、叛乱の企てかとも思われるが、彼女らの主・華琳への忠誠を考えると、それは考えられない。

この場で、一体何が語られているのだろうか……

 

 

 

「なんだとーー!!それは本当か、桂花!!?」

 

広くはない一室に、春蘭の声が響く。

 

「えぇ…情報源は明かせないけど、確かな情報よ」

「ばれんたいんでーのお返しをする日、ほわいとでーがあったやなんて……」

「知らなかったのー!」

「ばれんたいんでーの、お返し……」

 

『ほわいとでー』についての話題らしい。

どうやら将の多くは、その存在について知らなかったようだ。

真桜・沙和・季衣などは動揺を隠せずにいる。

 

「…はい。それを皆さんに知らせることなく、一刀殿は華琳さまにのみ、ほわいとでーの存在を知らせた…」

「そして恐らく、お兄さんは華琳さまにだけ、お返しの贈り物を贈るつもりなのではないかと~」

「むむむ……おのれ北郷!」

「きっと兄ちゃんと華琳さまの二人だけで、美味しいもの食べちゃう気なんだー!」

「ウチらかて隊長に、ばれんたいんでーに贈り物したったんに…」

「許せないのーーー!!!」

 

いつもなら抑え役に回るはずの稟や風も、この日は何故か、幾人かの心に燻る炎に、油を注ぐような物言い。

そしてそれに倣い、激昂する春蘭・季衣・真桜・沙和。

それに対して……

 

 

「秋蘭さま…」

「なんだ、凪?」

「隊長に限って、そんなことってあるのでしょうか?」

「さぁな…何とも言えんが……」

「兄様はそんなことしませんよっ………多分」

「流琉…そんなことではダメだ。私たちだけでも隊長のことを信じなければ!」

「そうだな、凪。私たちだけでも一刀を信じよう………少しな」

「しゅ、秋蘭さままで…」

 

 

軍師たちの言には踊らされず、一刀を信じる(?)凪・流琉・秋蘭。

しかし彼女らに、桂花を中心とする熱狂を止めることは出来ない…

 

 

「えぇ、そうよ!あんなカス男、許しておくわけにはいかないのよ!!」

「そうだ!血祭りにあげてやる!!」

「あのおかしな服をひん剥いて、穴と言う穴に色々突っ込んでやるの!!」

「あぁ、せやったら隊長には、お菊ちゃん三号・改の実験台になってもらお♪」

「華琳さまにあげるお菓子を、ボクにも分けてもらうんだ!」

 

数名、動機がズレてきている者もいるが、一騎当千の将の士気は、今やピークに達しようとしていた。

 

「それでは、みなに『北郷一刀滅殺作戦』の策を授けるわよ……」

 

 

………………

…………

……

 

 

「……というわけよ」

「よしっ、これで北郷の命運も尽きたと言うわけだな!この私が手ずからあの首を…」

「春蘭さまの手は煩わせないの!凪ちゃん、真桜ちゃん、私たちで真っ先に隊長を捕まえるの!」

「分かっとるがな~。たらし盤があるウチらは、対隊長索敵に関しては無敵やで!」

「あ、あぁ……」

 

桂花の策に、一刀撃退を信じて疑わない春蘭たち。

それに対して秋蘭は…

 

「……妙だな」

「秋蘭さま?」

「今の桂花の策…穴がありすぎる」

「穴、ですか?」

「あぁ。…桂花のことだから、一刀のこととなると頭に血が上り、冷静に考えを巡らせる事が出来ないのだろうが……それにしても、だ」

「はぁ…」

「まぁ、私たちは私たちの出来ることをしよう、流琉。お互い、じゃじゃ馬の手綱を上手くさばくとしよう」

「は、はいっ!」

 

二人が二人、春蘭と季衣というパートナーがいる。

秋蘭と流琉はひとまず、彼女らを御すことに専念すると決めた。

 

「それじゃ、作戦通りに……ほわいとでーまでは、自然に振舞ってちょうだい。事前に怪しまれるとことだから」

「おうとも、分かっているさ!」

 

春蘭は、得たり、とばかりに胸を叩く。

 

「と・く・に!春蘭、あなたが一番不安だから、気をつけるように!」

「なんだとー!そんなことはない!!なぁ、秋蘭!」

「…………」

 

秋蘭は姉の問いかけに、そっと目を外し、沈黙する。

 

「季衣、流琉!?」

「「…………」」

「なぁ、みんな!!?」

「「「…………」」」

 

が、誰も桂花の言葉を否定できるものはいなかった。

 

「誰か何とか言えよっ!」

「……まぁ、桂花。なるべく私が姉者と一緒にいるようにしよう」

「…秋蘭が一緒なら、大丈夫でしょう。みんなも、なるべく北郷と春蘭を二人っきりにはさせないように、いいわね!?」

「「「応っ!!!」」」

 

 

 

こうして、反北郷連合は成った(?)

運命の日は、刻一刻と迫っているのである……

 

 

「はぁ~~……」

 

私は今、執務室でうず高く積まれた竹簡と対峙している。

ほわいとでーは、昼前にはあがれるようにと、ここ数日は政務を頑張ってきたのだけど……

 

「はぁ~~……」

 

それは今朝のこと…

 

 

……

…………

 

 

「それでは、朝議を始めましょう」

 

ほぼ毎日行っている朝議。

朝議は、今日の仕事の割り振り、各部署からの報告や部署間の連絡などなど

責任者が十数人ほど集まる、小さな会だ。

 

重要な案件は、緊急性がなければ、定期的に開かれる軍議で報告が行われるし、緊急性が伴う場合は、即時の報告がなされる。

なので、この場で重要な案件が口にされることはほとんどない。

この日もつつがなく、朝議は終わろうとしていたのだが……

 

「何もなければ、これで終わりに……」

「あぁーっ」

「ど、どうしたの、風?」

 

突然、風が叫び(?)だした。

口調こそ変わらないものの、表情はやや慌ててるように見受けられる。

 

「いえ…誠に申し訳ないのですがー……」

「?」

 

風が口ごもる。

どうしたのかしら?

 

「華琳さま、申し訳ありません…これは私の落ち度なのですー……」

 

本当に申し訳無さそうに、頭をたれる風。

心なしか、ホウケイも元気なく萎れているように見える。

 

「どうしたの、風。構わないから、何でも言ってごらんなさい?」

「……本当ですかー?」

「えぇ、本当よ」

「…本当の本当ですかー?」

「えぇ、本当の本当よ」

「怒りませんかー?」

「えぇ……え?」

 

今、何かおかしなことを言ってたような…

それまでは、申し訳なさげに上目遣いで私を窺っていたのだが、急にぴょこんと背筋を伸ばした。

ついでにホウケイも復活していた。

 

「そですかー。実はですね、私のところで華琳さまにお目を通して頂かなくてはならないものが溜まってましてー」

「な、何ですって!?」

 

それは聞き捨てならないわよ!?

 

「しかも、今日までにお願いしたいものがほとんどでしてー……お願いできますか?」

「ふ、風、あなたねっ…!」

「怒らないって仰いましたよね、華琳さま?」

「くっ……」

 

自分が怒られないための、文言の誘導…絶妙の伏線。

流されて言ったこととはいえ、王として前言は撤回できない…

私にあまり余裕がなかったとはいえ、我が国の軍師は恐るべし、ね…

………今は喜べないけど。

 

「…それは、どのような内容のものなの?」

「そうですねー、例えば領内西部の土地開墾の結果報告ですとか、城下東区域開発の予算配分、そして北部国境における警備体制の改正案。それとですねー…」

「まだあるの!?」

「はいー。で、それとですねー……」

「…分かったわ。目を通すから、全て私の執務室まで運んでおいてちょうだい……」

「ありがとうございますー」

「…他にはないわね?それじゃ、今日も各人、己が務めを全うせよ!」

「「「はっ!」」」

 

「私は少し、外の空気を吸ってくるわ。風、私が戻ってくるまでに運んでおいて」

「分かりましたー」

 

 

…………

……

 

 

「はぁ~~……」

 

外から戻ってきた私を待っていたのは、先も述べたような山のような竹簡だった。

さすがに、ため息もつきたくなるわよ…

 

「嘆いていてもしょうがないわね……何とか夜までには終わらせて、一刀と会える時間を作らないと……」

 

私はパンッ、と両頬を一叩きし気合をいれ、腕をまくり、竹簡に向かった。

 

 

「よしっ、これで完成だな」

 

ホワイトデーのお返しを作るために、俺は街のある店の一角を使わせてもらっていた。

非番の日や仕事の合い間を縫って、コツコツと作ってきたのが、ホワイトデー当日になって、やっと完成した。

完成したものを、ショルダーバック的なものに入れる。

 

「…っと、それじゃ、どうしようかな……」

 

俺はとりあえず、城への道を歩く。

すると……

 

「あー、隊長発見なのーー!!」

「な、なんだ!?」

 

後ろの方から大きな声がしたかと思うと、通りの向こうの方から、二つの土煙がこちらへやってくる。

その土煙はみるみるうちに大きくなって、俺に迫り……

 

「…ってなんだ、沙和と真桜か」

「なんだとはなんなのーー!!?」

「沙和、沙和っ、落ち着きって!」

「はっ!ついついなの~…」

「ほら、深呼吸や。吸って~…吐いて~…」

「すぅ~~……おぇ~~……」

「って、ベタベタやんかっ!」

 

……こいつら、何しに来たんだ?

 

 

「ふっふっふ、ちょっと取り乱しちゃったから改めて……隊長、もう逃げられないの~!」

「…は?」

「隊長言うたやろ?これがある限り、ウチらからは逃げられへんって」

 

なるほど。確かに真桜の手には、俺発見器こと『たらし盤』がある。

しかし…

 

「逃げる?俺が?お前らから?」

 

何言ってるんだ、こいつら?

 

「とぼけてもムダなのー!」

「せやせや!華琳さまのところには行かせへんで~!」

「華琳?なんで華琳が出てく…」

「はぁ……はぁ……二人とも…ちょっと、待て……」

 

二人の後ろから、凪が息を切らせてやってきた。

…ここは話の通じる凪に、事情を説明してもらうしかないか。

 

「凪、これは一体何の騒ぎなんだ?」

「すいません、隊長…自分には、二人を、止められません…でした……」

「いや、だからこれは何の騒ぎなのかと…」

 

俺の問いにちゃんと答えられないほど、凪はまだ息が上がっている。

普段から鍛錬を重ねている凪が、これほど息を切らせるなんて…

こいつら、どんだけ飛ばして来たんだよ……

 

「…まぁ、何でもいいや。ちょうど三人揃ったことだし。あのな、み…」

「問答無用なの!」

「いくで、隊長っ」

 

と、それぞれの得物を構える沙和と真桜。

 

「お、おいっ待て沙和、真桜!それはやり過ぎだぞ!!」

「ちょ、たっ…待てって!二人とも、一体なんだってんだよ!?」

 

凪や俺の制止にも止まることなく、怪しげな笑みを浮かべながら、じりじりと俺に詰め寄る二人。

 

「心配しなくてもいいの~……ちょ~っと隊長には、眠ってもらうだけなの~」

「安心しぃ、隊長。ちゃんと峰打ちにしたるさかい…」

 

真桜……お前の武器、峰、ついてないよな?

 

「隊長、覚悟なのーー!」

「歯ぁ食いしばりぃ!」

「うわぁ~~~~!!!」

 

沙和!立ってる!刃が立ってるよ!!

真桜も突いてくるわけっ!?峰打ちじゃないじゃん!!

 

「「てやぁ~~~!!!」」

 

沙和と真桜の凶刃が、容赦なく俺に迫る。

よく分からんが、ここで俺の人生は終わるっぽい?

命の終わりを覚悟した、その時…

 

「でぇりゃあああぁぁ~~~~!!!」

 

(キンッ!カンッ!)

 

「きゃっ」

「な、なんや!?」

 

俺の前に、蒼き風神が舞い降り、器用にも二人の攻撃を同時に弾き返した。

 

「全く……一刀に訪れる危機っちゅーんは、お前らのことやったんかい…」

 

そう、蒼のマントを翻し、悠然と佇むその人物は…

 

「あーー!」

「げげっ!姐さん!!」

 

霞だった。

 

「お前ら…一体何してんねんっ!!!」

「「うっ……」」

 

戦場を思わせる、霞の大音声。

さしもの二人も、ビビって声も出ないらしい。

 

「霞さま…助かりました」

「凪!お前もちゃんと止めなアカンやろ!」

「はっ!……言葉もありません…」

「ったく…」

 

三人に説教する霞。

沙和と真桜、ついでにとばっちりで凪も、霞の前で小さくなっている。

 

「いやぁ~助かったよ、霞」

「何言うてんねん、ウチと一刀の仲やんか~!助けるのは当たりま……」

「……霞?」

 

俺のお礼に、くるっとこちらを向き、笑顔で応えてくれる霞。

が、その霞が笑顔で固まった。

何かあったんだろうか……

 

 

 

 

……

…………

………………

 

 

それは、ほわいとでーから半月ほど前…

 

「でっ!?ウチはどないしたらえぇのん?」

 

ウチは、風に秘策を献じてもろていた。

いかにして、ウチの旗を立てるか、を…

 

 

「それはですね……危機に陥ったお兄さんを助け、一緒に逃げるのですよー」

「……それだけか?」

「はいー、それだけなのですー」

「それだけで一刀と、らぶらぶ萌え萌え道に入れるんか?」

「えぇ。実は『吊り橋効果』というものがありまして…」

「吊り橋効果?」

 

何やのん、それは…?

 

「はい~。吊り橋を渡ったことはありますか、霞ちゃん?」

「…まぁ、あるけど」

「怖くて胸がこう、ドキドキ~ってしませんでしたか?」

「いや、ウチはあんま、そういうの怖がらんからなぁ」

「いやまぁ、吊り橋を渡るときは、多くの人が怖くてドキドキするのですよ」

 

ふ~ん…そういうもんなんかなぁ?

 

「で、それが何やっちゅーのん?」

「吊り橋効果というのは、そのようなドキドキと、恋愛感情の胸の高鳴りとが錯覚を起こし、吊り橋の上のような危機的状況を共有した二人は、らぶらぶな関係に~~というわけなのです」

「な、何やて!?」

 

そ、そない裏技があるやなんて…

これを使えば、ウチも一刀と♪

……ん?せやけど…

 

「ちょい待ち、風。吊り橋効果っちゅーのはよく分かったけど、そないウチに都合よく、一刀に危機が訪れるもんやろか?」

「はいー。とある情報を小耳に挟みまして、ほわいとでーの日、お兄さんに危機が訪れるそうなんです」

「何やて!そりゃあ穏やかやないな……って言うか、それ一刀に知らせんでえぇんか?」

「いえ、まぁ命に関わるようなものでもなさそうですしー」

「そ、そうか…」

 

それで、ええんやろか…?

 

「ひとまずお兄さんを助けたら、お城の方に逃げてくださいー」

「城?なんで城なん?」

「まぁ、相手が誰かも分からないので、闇雲に外に逃げるよりは、城に逃げ込んだ方が安全かと~」

「なるほどな…」

 

一刀を助けたら、城に逃げ込む……

よしっ、覚えたで!

 

「そうそう、霞ちゃんに秘策をもう一つ~」

「お、おうっ…」

「もし、お兄さんの前にものすごい壁が立ちはだかった場合、霞ちゃんがその壁に立ち向かい、お兄さんを先に行かせてください」

「えっ、一刀だけでか?一緒に行かんと吊り橋効果が…」

「いえいえ、霞ちゃんに、ここはウチに任せて先に行け~、なんて背中で語られたら、お兄さんもきっとめろめろですよ~」

「め、めろめろか……」

 

そ、それもえぇなぁ♪

 

…………

 

「と言うわけで霞ちゃん。ほわいとでー当日までは、自然に振舞ってくださいー」

「あぁ、分かっとる。春蘭みたいなへまはせぇへんて」

「ですよねー」

「せやー」

「「あはははは……」」

 

 

………………

…………

……

 

 

 

って、助けきったアカンやん、ウチ!!

ついつい調子に乗って、終わらせてもうたっ!

 

「……霞?」

 

どないしよ…どないしよ……とりあえず逃げなっ!!

 

「…一刀」

「えっ?」

「逃げるで」

 

ウチはガシッと一刀の手を掴み、脱兎の如くその場から逃げ出した。

 

「って、ちょっと、おいっ霞!?」

「お前らも、ウチらの後を追ってくるんやないで~~!!」

「「「…は、はぁ……」」」

 

最後に、追ってくるようにフリも忘れない。

これでバッチシや!

 

 

…………

……

 

 

 

俺は霞に手を引かれながら、どうやら城の方へ向かっていた。

沙和たちから逃げているみたいだけど、連中には『たらし盤』があるからなぁ……

 

「なぁ、霞……」

「なぁなぁ一刀?何かこう、ドキドキしてきぃへんか!?」

「え?…いやまぁ、ドキドキはしてるけど…」

 

走ってるしな。

 

「そ、そうか…♪」

 

何か嬉しそうだけど…それが何だっていうんだろうか?

と、もうすぐ城門だ…と思った、その時

 

「やはり来たか、北郷!!!」

 

街中に響かんとする大音声。

それを発する主は…

 

「春蘭?」

 

春蘭は城内へ入るものを阻もうとするかのごとく、城門前に仁王立ち。

その後ろには、申し訳無さげに、秋蘭が立っている。

 

「退くと見せかけて華琳さまを狙うとは、桂花の読み通りだったな!!」

「はぁ!?華琳を狙う?桂花の読み通り?」

 

春蘭もおかしなことを言ってるな…

 

「ただ一つ、予想外だったのが……」

 

春蘭は俺から視線を移し…

 

「お前が北郷と一緒にいたことだ、霞!」

 

 

…………

 

 

 

「やはり来たか、北郷!!」

 

うわっ、やっばー春蘭やん!

なんや、ウチらを通してくれる雰囲気やないなぁ~……

どないしよ…う~ん……

 

「…かけて…琳さ……は、……花の読……な!!」

 

…――っ!これって、もしかして好機ちゃうか!!?

 

「お前が北郷と一緒にいたことだ、霞!」

「…一刀、先行きぃ」

「は?霞、なんだって?」

「ここはウチに任せて、先に行けゆうてんねん!春蘭は…ウチがここで食い止めたる!!」

 

……カ、カッコえぇな、ウチ♪

お~、見とる見とる!一刀がウチのこと見とるでー!

ウチの好感度、グイグイきとるんやないか~!?

 

 

…………

 

 

 

「あ、あの、霞さん?」

 

何か、メチャクチャ盛り上がってるんですけど…?

 

「一刀!早う……早う行くんやっ!!」

「はっはっは~!そうはさせるものかー!!」

 

なんか春蘭もノリノリだし…

俺はこの場で唯一冷静な、秋蘭に助けを求める。

 

「…………(フルフル、クイッ)」

 

『姉者たちを、どうこうしようとしてもムダだ。早くここを通ってしまえ』か……

じゃあ、そうさせてもらおうかなぁ……

 

「何してんねん一刀!ウチに構わず、早う!!」

「させるかっ!」

 

春蘭は地を蹴り、あっという間に俺との間合いを詰めると、俺に向け、愛刀を一閃…

 

「おっと!」

 

と、そのさらに刹那、霞が俺と春蘭の間に割り込み、春蘭の一撃を止める。

風神と雷神の鍔迫り合いが、俺の目の前で繰り広げられる。

 

「今や、一刀!この隙にっ」

「あ、あぁ、分かった霞。ここは任せたぞ!」

 

と、何となくノリつつダッシュ。

何か俺がいたら邪魔になりそうな空気なので、お言葉に甘えさせてもらうとしよう。

秋蘭の横を通り城内へ。

秋蘭とは「後はよろしく」「心得た」と、視線で交し合った。

 

 

…………

 

 

 

ウチは一刀が行ったんを確認し、春蘭の剣を弾き、間合いを取り直した。

 

「なんや春蘭。ずいぶんと簡単に一刀を行かせたな?」

「ふっ…あの状況で北郷を追ったとて、後ろにお前がいるのでは、私も無事では済むまい」

「…自分、分かっとるやないかい」

 

春蘭が一刀に気をとられて背を向けたら、春蘭を寝かそ思たんやけどなぁ…

 

「それに、北郷は私がここで止めずとも、今頃は籠の中の鳥だろうさ」

「なんやて?…どういうことや、それは!?」

「お前が知る必要はない…」

「ちぃっ!春蘭も罠やったんかい!」

 

迂闊やった!ウチとしたことが……

 

「それよりも、今はこの勝負を楽しもうではないか!」

「…勝負やて?」

「あぁ!戦がなくなってからというもの、どうにも体が鈍っていかん」

「せやなぁ……ウチも同感や」

「特に強者と真剣勝負で刃を交えることなど、最早皆無だからな……これは、またとない機会だ」

「へっへ…嬉しいこと言ってくれるやないか、春蘭…」

 

なんや……この、久々に血が凍るような緊張感…

武者震いが…止まらへんで…っ!

 

「さあ!いざ尋常に勝負だ、霞!!……秋蘭、手出しは無用だぞ!」

「あぁ…分かっているさ、姉者」

 

秋蘭を軽く制し、再びウチに向き直り、大剣を構える。

さっき一刀に切りかかったときとは、比べ物にならへん、闘気…

うぅ~~…ぞくぞくするなぁ!

 

「あぁ…来いや、春蘭!!前みたいに、おくれはとらへんで!」

「どうかな?今度も私の勝利に終わる気がするぞ!?」

「ほざき!そうそう簡単に負けてたまるかぃ!!」

 

ウチらは同時に

 

「「はっ!」」

 

地を蹴った。

 

 

 

 

 

この日、許の城門前では、風神と雷神がぶつかり合った。

この神々の戦いに近づこうものなら、例え手練れであっても、ただでは済むまい。

そのせいで、出入りの商人、報告を携えた伝令、その他その他

しばらく城内に入ることが出来なかったと言う……

 

 

「えっほ、えっほ、えっほ……」

 

俺はとりあえず、城内を走っていた。

何だかよく分からないが、誰かの陰謀が渦巻いてる気がする。

まぁ、誰かってのは何となく分かるんだけどね?

問題は、なんで他の娘まで、それに乗っかってるかなんだが…

 

「ま、それを解き明かそうとすると、俺の命がいくつあっても足りないわけで…」

 

とにかく、安全に身を置いておける場所を探さないと……

…………

……

 

「華琳のところへ行こう」

 

みんな、華琳が何ちゃらって言ってたけど…

まぁ、例え誰であっても、華琳の前で蛮行に及べる者はいないからな。

 

「…これくらいの時間なら、多分、執務室にいるかな?」

 

俺は執務室のある玉座の間へと、歩みを進める。

そこの角を曲がって、中庭を突っ切れば近道だから…

と、角を曲がると……

 

 

「ふふふっ…やはり来たわね、北郷一刀!」

 

中庭の中央に陣取り、1m四方くらいの木箱の上に乗っている人物。それは…

 

「やっぱりお前か、桂花」

 

俺をはめようとする人物なんて、こいつくらいのもんだもんな。

木箱の上に乗っかり、薄ら笑いを浮かべ、俺を見下す桂花。

 

「投降なさい、北郷一刀。大人しく投降すれば、一撃で楽に殺してあげるわ」

「…余裕ぶってるところ悪いけど、桂花一人だったら、どうとでも出来るんだけど……」

 

この状態の桂花相手なら、木箱から降りる前に逃げれるんだが…

 

「ふっ…愚かな男。私が何の策も弄さずに、こんな所に一人でいるとでも思う?」

「…どういうことだ?」

「いいわ。冥土の土産に説明してあげましょう」

 

桂花は自分の策を、滔々と述べ始めた……木箱の上で。

 

「最近、いつもあんたが街に出ていることは、調べがついていたわ。そこでまずは、そこに沙和や真桜を向かわせる」

「…確かに来たな」

「そこであんたを捕まえられればそれまで。仮に逃げられたとしても、街中や外を逃げ回る分には、華琳さまに近づくことは出来ない。そして…」

「いや、だから何でそこで華琳が…」

「お黙り!……そして華琳さまを狙い、城内へ入ろうとする場合を考え、門には春蘭を……門から入ろうとすれば、死。他から侵入したとしても、今度は容易には出られない…」

 

門から入ってきたんだけどな……霞のおかげだけど。

 

「ここに来たが、あんたの最期…あんたを取り逃がしたら、沙和たちはここへ来る手はずになっている。門は春蘭が封鎖。そしてここには……」

 

桂花がスッと手を上げる。

 

「えっ?」

 

すると、草陰から二つの影が現れた。

 

「これにて『虫篭の計』は成ったわ!さぁ、北郷一刀!覚悟なさい!!」

 

 

「ふ、二人まで……一体どうして!?」

「兄ちゃん…っ!」

「兄様……」

 

現れたのは、なんと季衣と流琉だった!

そんなバカなっ……

 

「さあ、二人とも!やっておしまい!!」

「兄様……」

「流琉…どうして?」

「ごめんなさい兄様…私には、止めることは出来ませんでした……」

 

俺の問いかけに、流琉は少し涙を浮かべ、悲しそうに目を伏せる。

俺は慌てて、もう一人にも問いかける。

 

「季衣!?」

「兄ちゃん……」

「なぁ季衣?季衣は何で桂花の策に……」

「ボクだって……ボクだって兄ちゃんに刃なんか向けたくないよっ!!」

 

季衣も涙目になり、手をギュッと握り、心からの叫びを口にした。

 

「季衣…」

 

良かった…季衣も、本当はこんなことしたくないんだよな……

ちょっとウルッときちゃったぜっ!

 

「だから兄ちゃん…お願いだから……ボクたちにもお菓子を分けてっ!!」

「…………はい?」

 

お菓子?

 

「とぼけないでっ!華琳さまと兄ちゃんだけで食べようとしてるお菓子……ボクだって食べたいんだもん!!」

「えー…っと、……?」

 

話が良く見えないんだけど…?

 

「早く季衣!そいつは、いつまでもとぼけるつもりよ!だから…殺っておしまいなさい!」

「兄ちゃん……兄ちゃん…うわぁぁ~~ん!!」

「どぅおっ!!」

 

(ズドーーーン…)

 

動物的反応で咄嗟に避けられたが、俺が数瞬前までいた所には、季衣の大鉄球によって大穴が開いていた。

おいおい……ある意味、春蘭の攻撃より洒落にならん…

 

「ちょ、ちょっと季衣、待って……って言うか桂花!洒落になってねぇぞ!!」

「当たり前じゃない。洒落や酔狂で、こんな事するわけないじゃない」

 

ヤベェ、こいつ目がマジだ…

 

「…兄ちゃ~ん……」

 

季衣さん?なんか、目が据わってるんですけど…?

ヤバイよこれは…早く逃げないとっ

そうこうしている間にも、季衣はジリジリと間合いを詰めてくる。

どこか……どこか逃げるところは……

と、後ろの方の垣根から、手がヒュッと出てきて

 

「こっちですよー」

 

と声がした。

 

「そこかっ!」

 

俺は脇目も振らず、垣根の向こう、謎の手を目指してひた走る!

 

「あっ、こら!待ちなさいっ!!」

「待てと言われて待つバカはいない!」

「待ちなさいっ…て、あぁもう!」

 

桂花は、木箱から降りるのに難儀しているようだ。

 

「あ゛ぁぁ~~!季衣、早く追って!!」

「……お菓子、どこ~~…」

 

お腹を空かせ過ぎたのか、季衣はバーサクモードに入ってしまった。

 

「季衣、何してるの!早く北郷をっ…」

「………おにぎり?」

「ちょ、なによ…ちょっと季衣やめっ…きゃあぁぁぁ~~!!」

「おにぎりぃーーっ!!」

「季衣!?季衣、ねぇちょっと止めなってば!」

 

 

後ろで何が起こっているのか、俺には知る由も無かったが、恐らく季衣のおかげで、何とかその場を逃げおおせた…

 

 

桂花たちがいた中庭から少し離れた廊下で、俺たちは立ち止まった。

 

「いやぁ~…毎度毎度助かったよ、風」

 

俺を助けてくれたのは、バレンタインデーのときと同様、風だった。

 

「いえいえ~、相変わらずお兄さんの周りは揉め事だらけですね~」

「まぁ、俺が招いているわけじゃないと思うんだけどな……」

「それはどうですかねぇ~?お兄さんは隅に置けない種馬さんですし~」

「……まぁ、それはいいや。ちょうどいい機会だし、風にわ…」

「…一刀殿」

「ん?」

 

振り返るといつの間にか、少し離れたところに、稟が立っていた。

 

「稟か、こんなところでどうし、たん…だ……?」

 

稟の姿を捉えるにつれ、ゆっくりとその異常さに気が付いた。

そう、彼女がその手に持っているものは……

 

「……一刀殿」

「り、りり、稟?そ、そそそ、それをどうするのかな?」

 

キラリと光るその銀閃は、刃渡り10cmを少し超えるかと言うくらいの刀子だった。

恐らく工芸用だとは思うのだが、今日の騒ぎの末に切っ先を向けられると、何か良からぬことを想像してしまう…

 

「そんなことないよな?稟は、そんな娘じゃないもんな、なっ!?」

「一刀殿……その華琳さまに仇なす数々の所業…最早耐えられません…っ」

 

稟は片手で構えていた刀子の柄頭に、手のひらを押し付け、グッと俺に向けて構えなおす。

 

「ちょ、ちょっと待てって稟!俺が華琳に何をっ…」

「一刀殿……御免っ!」

 

そのまま稟が突進してくる。

例え稟に力がなくとも、突進の勢いで急所を刺されれば、命の保障はない…

この日、数度目の命の終わりを覚悟した……その時!

 

「お兄さん!」

 

俺を守るように手を広げ、風が俺と稟の間に入ってきた!

 

「風!!おい待て、り……」

 

(ドッ……ス)

 

何かを裂くような嫌な音がした。

 

ゆっくりと、風の体が、地に、落ちた……

 

風が倒れたところからは、赤いものが、じわっと、広がって……

 

「……風?……おい、嘘だろ?風?」

 

俺はフラフラと風に近づき、うつぶせに倒れていた彼女を抱き起こす。

稟は刀子を握ったまま、その場に立ち尽くしていた。

稟に刺されたと思われる胸の辺りは、赤く、赤く、染まっていた…

 

「風!風っ!!おい、目を開けろよ!風!!」

「う……っん…」

 

目蓋が少し震え、わずかながらうめき声も聞こえた。

 

「風……?風っ!?」

「ん…お、ぉっ……お兄さん、ですか…」

 

目蓋がゆっくりと開き、小さな瞳がハッキリと俺を捉える。

 

「あぁ…あぁ、俺だよっ風!」

「良かった……無事、だったんですねぇ…」

「あぁ、無事だよっ…風のおかげで……でも、なんで?何でこんな、バカな真似を!?」

 

俺なんかをかばって、風が、こんな……

 

「何でって…それは……お兄さんは、風の大切な人ですからー…」

「ふ…っ、風……」

 

俺は、溢れる涙を抑えきれず、雫が風の顔に零れ落ちる。

 

「お兄さん…風のために、泣いてくれているのですか…?」

「当たり前だろ!?俺だって…俺にだって、風は大切な人なんだからっ」

「お兄さん……お兄さんは、風のこと好き、ですか?」

「あぁ、好きだよ!風のこと、大好きだよっ!!だから…ずっと一緒にいよう!こんなところで…死んじゃダメだっ!!」

「お兄さん……」

 

そう言うと、風は少し目を細めて…

 

「その言葉が聞けただけで、風は大満足、なのですよ~……」

 

微笑みながら、目を、閉じた……

 

 

「ん…っんーーー……疲れた~…」

 

私は書類整理を一段落させ、昼の休みをとることにした。

 

「今日の昼食はどうしようかしら?」

 

厨房で何か作らせましょうか?それとも誰かに外の屋台にでも使いを出そうかしら?

久しぶりに、流琉の手料理と言うのもいいかもしれないわね。

などと考えながら廊下を歩いていると…

 

「………っ!……!!」

「あら?」

 

どこからか声が聞こえる。

 

「これは……一刀の声かしら?」

 

私は声の出所を探しながら、そちらへ向かった。

 

…………

……

 

少し歩き、一刀たちを見つけた。

が、その様子は尋常ではない。

立ち尽くす稟。風を抱きかかえる一刀に、赤く染まった廊下。

 

「ちょっ…ちょっと稟!これは一体どうしたっていうの!?」

「か、華琳さまっ!?」

「華琳っ?華琳!風が……風が!!」

「えっ?」

 

一刀が何か言おうとした、その時…

 

 

「こっちや!春蘭さま、姐さん!隊長はこっちやでー」

「北郷ーー!!」

「一刀ーー!!」

「隊長ーー!!」

「みなさん、はやっ…はぁ、はぁ…早いですって…!」

「ふぅ……」

 

「こっち!こっちだよー!!」

「こらっ、季衣!待ちなさいって!」

「ひぃー…ひぃー…二人とも、ちょっと待って……」

 

 

方々から人が集まり、広くない廊下を、魏の主立った将が埋めた。

集まってくるなり、この異常な風景に、みな閉口する。

その沈黙を、一刀が破る。

 

「みんなっ……風が、風がっ!」

 

みなも封印が解かれたかのように動き出す。

が、その動きはひどく緩慢だ。

 

「華琳!医者を…早く、医者を!!」

「え、えぇっ!早く手配を」

「しかし……この出血量では、最早手遅れなのでは…」

「秋蘭!」

 

動揺しながらも冷静な判断を下す秋蘭に、春蘭が食いかかる。

が、この場合は秋蘭の方が……

 

「な、なしてこないな事に…た、隊長?」

「そうなの!こんなところで、風ちゃんが血まみれになるなんて…」

 

当然の疑問を、沙和が口にする。

再びの沈黙…

この沈黙を破ったのは…

 

「違うよー?」

「「「えっ?」」」

 

季衣ののんきな声だった。

 

「季衣、違うって、一体何がや?」

「みんな、この赤いやつのことを言ってるんだよね?」

「あ、あぁ…風さまの服などを見ても、これは明らかに血…」

「ううん、これは血じゃないよ~。ほらっ」

「「「あっ…」」」

 

季衣は廊下を染めている赤い液体を指で一掬いし、それを舐めた。

 

「んーーやっぱり甘いや♪でも、苺をこんな風にすりつぶすなんて、ちょっと勿体無いよ~」

「「「苺ーー!!?」」」

 

我も我もと、皆が掬っては舐め、掬っては舐める。

確かに、甘い…

 

「じゃあ、風はっ!」

 

一刀が風の手首を手に取る。

 

…………

……

 

「………風?」

「……ぐぅ」

「「「寝るなっ!!」」」

「おぉっ!!?」

 

 

結局、あれは風の悪質ないたずらだった。

稟が持っていた刀子は、刀が引っ込む絡繰刀。

まさかこれが、こんな時代からあるとはな……

で、タイミング良く、ペースト状にした苺を入れた袋を破る、と

全く……冗談にしたって限度があるだろうよ

…………

 

「あてっ」

 

俺は戒めの意味を込めて、風にデコピンをかます。

 

「うぅう~…痛いですよ、お兄さんー」

「ったく、本気で心配したんだからな!」

「お兄さん……」

「もうこんなこと、絶対にするなよ?」

「はい……ごめんなさいです…」

 

風はしょぼんと肩を落とす。どうやら反省しているようだ。

心なしか頭のホウケイも、少し萎れて見える。

…余談だが、風が先ほど倒れたとき、ホウケイが頭から転げ落ちてしまい、彼は苺のプールへ。

今やホウケイは、真っ赤でベタベタになっている。

 

「で、何でまた稟も風のいたずらに協力してたんだ?」

「そ、それは……」

「それはですねぇ~」

 

と、風が復活して話しに入り込む。

 

「稟ちゃんがですねぇ…」

「風っ!その話はっ…!」

「訓練のために華琳さまの写真がほしいということで、私に例のかめらで華琳さまの隠し撮…むぐぐ~っ」

「あはっ、あははっ~!私の話など、どうでも良いではないですかっ!」

 

風の口を一生懸命押さえる稟。

……ま、いいけどさ。

 

 

「で、今日のこの騒動の首謀者は?」

「それは……」

 

みんなの視線が一人に集中する。

 

「な、何よっ」

「いや、私たちは桂花に言われたとおりに動いただけで…なぁ、みんな?」

「なのー」

「せやで」

「はい」

 

春蘭の問いかけに、全員が同意する。

 

「確かに私が立案したけど、元はと言えば風が私に…ぎゃ!」

「まぁまぁ、そんな細かいことは、どうでもいいじゃ~ないですかー」

 

今、風が桂花の足を思いっきり踏んだように見えたんだが……

と、深く突っ込ませる前に、稟がすかさず喋りだす。

 

「事の発端は、一刀殿が華琳さまにだけ、ほわいとでーの存在を教えたことにあります」

「はっ?」

「えっ?」

 

目が点になる俺と華琳。

 

「そうなの…そう言えばそうなのー!」

「おぉ、そう言えばそうだったな」

 

おい待て。今「そう言えば」って言ったよな?

 

「そうだよ!それで兄ちゃんが華琳さまと二人で美味しいものを食べるんじゃないかって…」

「暴動に発展したわけや」

 

わけや、って言われてもな……

そうか、そういうことだったのか。

 

あれ?っていうか……

 

「俺、みんなにホワイトデーのこと言ってなかったっけ?」

「「「……えっ!?」」」

「……あれ、そうか。俺、華琳にしか言ってなかったんだなぁ~」

「言ってなかったんだなぁ~…って!どういうことなのっ!?」

「ん?いや俺、ちゃんとみんなに、プレゼント用意してるよ?」

「「「な、なんですと~~~!!?」」」

 

 

…………

……

 

 

「ちょっと不恰好で悪いんだけどさ…」

 

俺は少し恥ずかしがりながら、バックからプレゼントを一つ取り出し、側にいた秋蘭に見せる。

 

「一刀、これは…?」

「あぁ、手袋だよ」

 

華琳からもらったマフラーをして街を歩いていると、気付いたことがあった。

街の人は防寒対策で襟巻きをしたりしているけど、手に関しては擦り合わせるとか、服の中に手を入れるとか、それくらいしかしていなかった。

まぁ、稟がしているようなお洒落手袋(?)や、流琉のしているようなハーフフィンガータイプ、あるいは篭手などの下につけ、手を保護するような手袋はある。

手袋自体を作る技術はあるのだが、防寒目的の手袋はまだ普及はしていなかった。

 

「手袋?……これが?」

 

まぁ、毛糸の手編みということで、五本指の手袋は、残念ながら技術的にも時間的にも不可能だった。

というわけで、鍋つかみのような、いわゆるミトンの手袋にした。

確かにこの時代に、こんな形の手袋はないわな。

 

「あぁ、つけると暖かいぞ!ほら、ちゃんと全員分あるからさ」

 

バレンタインデーに何か貰ったり、してくれた娘は勿論、日頃の感謝も込めてバレンタインデーにいなかった霞や、何もしてくれなかった(?)稟や桂花の分も、ちゃんと作った。

俺は一人一人、感謝の言葉と手袋を渡していく。

 

 

そして…

 

「はい、霞。いつもありがとうな」

 

霞は手にした手袋を、まじまじと眺める。

 

「ウチも…ウチも、貰ってえぇの?これは、ばれんたいんでーのお返しじゃ…」

「ま、日頃の感謝ってことで。霞には色々と世話になってるしね。今日も助けてもらったし…今日の霞、カッコ良かったよ」

「そ、そうかぁ~♪」

 

そう言うと霞は、手袋を掲げて、陽気にクルクルと回りだした。

良かった。喜んでくれたみたいだ…

 

 

 

「はい、これ稟にね。まぁ、普段から手袋してるから、いらないかもしれないけど…」

「そんなことはありません…ありがとうございます、一刀殿」

 

受け取ってもらえて良かった。

ついでに、そっと稟の耳元に近づいて…

 

「まぁ、あまり多くは言わないけど、盗み撮りだけは止めといた方が…」

「よ、余計なお世話です!!」

 

 

 

「…………」

「…………」

「え、っと…」

「いらないわよっ!」

 

にべもないお言葉。

さすがに、桂花は受け取ってくれないか…?

 

「まぁ、そう言わず、一応作ったから受け取ってくれないか?いらなかったら、薪の代わりにでも使ってくれりゃいいから」

「だからいらないって――」

「見たところ、ちょっと霜焼け気味だからさ、桂花の手は」

「なっ!?」

「だから使ってくれないかなぁ~って思って作ったんだけどね……いらないなら、しょうがないや…」

 

と、踵を返そうとすると

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!誰がいらないって…」

「いや、桂花が自分で言ったんじゃ…」

「うるさいわねっ!…くれるんなら、貰ってやるわよ」

「そうか?じゃあ…はい」

 

桂花の小さな手に、ポンと手袋を乗せる。

 

「ふ、ふんっ!礼は言わないからね。あんたが勝手にくれたんだから!」

「はいはい、分かったよ」

 

プリプリしながら、俺から離れていく桂花。

その姿なんかが、ちょっと可愛く感じてしまう俺だった。

 

 

で、最後に…

 

「はい、華琳。マフラーありがとね。それと、いつもありがとうっていうことで」

「あ、ありがとう」

 

華琳の手袋は、ちょっと冒険して、ピンクの毛糸で編んだ。

ちなみに、他の娘のは羊毛の毛糸そのまま。色的には薄いクリーム色といったところか。

 

「華琳って、この色好きだろ?」

「えぇ…まぁ、嫌いじゃないわよ」

 

初めて見た華琳のパンツの色が、ピンクだったしな。

何より、華琳に貰ったマフラーとお揃い、って感じで…

さすがにハートマークは入れられなかったけどね?

 

「それでさ、今度華琳がくれたマフラーとその手袋して、一緒に街にでも行かないか?」

「ちょ、ばっ…そんな恥ずかしいこと、出来るわけないでしょ!」

 

と、照れる華琳も可愛いわけで。

こんな華琳が見られるだけで、苦労して作った甲斐があったってもんだ。

 

 

「さて、と。これで全員に渡したな。後は天和たちに郵送して……」

「……一刀。そんなことより、後ろに気を付けたほうがいいわよ?」

「え、後ろ?」

 

俺が振り返ると、その場にいた娘の多くが、覗き込むように集まっていた。

 

「ほぅ~……華琳さまのだけ、色が違いますねぇ~……」

「なんか、特別って感じがするの~……」

「なんや心なしか、手も込んでるように見えるなぁ~……」

「…隊長」

「…兄ちゃん」

「…兄様」

 

どうやら彼女らは、華琳の手袋だけ色が違うのが、引っかかるらしい。

女の子が何よりも嫌うものの一つが『えこひいき』だ。

そして女の子は、自分を特別扱いされたるが、他の娘が特別扱いされるは気に食わないようだ。

例えそれが、華琳であっても……

 

「いや、別に華琳を特別扱いした気はないんだよ?……ただ、結果的にそうなっちゃったって言うか?うん」

「「「…………」」」

 

痛寒い!みんなの視線が痛寒いよっ!?

参ったな…まさかいっぺんに渡すことになるとは思ってもみなかったからなぁ……

 

「あら…一刀は私のこと、特別だとは思っていないのね?」

「What!?」

 

華琳の発言に、思わず久々の英語が飛び出してしまった。

 

「………(クスッ)」

 

わざとだ……この人、俺が困るのを分かってて、わざと言いやがった!

 

 

「お兄さん……」

「「「隊長……」」」

「兄ちゃん……」

「兄様……」

「…………」

 

ヤバイね…今日何度目か分からない、大ピンチ…

……こういうときの解決方法といえば、もうお分かりですね、ただ一つ!

 

「逃げろ!!」

「あー!逃げたのー!」

「相変わらず卑怯者ですね~…」

「追うで、みんな!」

「「「おーーっ!!!」」」

 

 

 

 

 

まだまだ寒い、三月の大陸。

その中の三国の一つ、魏の都・許では、街中を走り回る少年少女の声が、一日中絶えないという…

 

「「「待てーーー!!!」」」

「待てるかーーっ!!」

 

もうすぐ四月。

春ももうそこまで、来ているかもね?


 
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