No.652093

真恋姫無双~年老いてContinue~ 五章前編

回想編に入ると人気がなくなるって言われるのでビビッてます。

2014-01-05 22:09:15 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3534   閲覧ユーザー数:2775

時は少しだけ遡る。

それは、三国同盟成立記念祝典が開かれる少しばかり前のこと。

 

魏領内の、すみっこの、すこし寂れた村の近く。

轟音が轟いた。

その中心に、男がいた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

大きな衝撃が体を貫く。

腰はミシミシと音を立て、目は心なしか霞んでいる。

直前までどこにいたか定かではない。

しかし、前に意識があった時からしばらくたっているという確信が頭を支配している。

一瞬だったようで、何十年もたったような。

えらく長い時を一人で過ごした。

そのくらいの道のりを歩いて、あの眩しいほど暗い道を歩いて、やっとたどり着いた。

地面がある。

周りは?

やっと、本来一番最初にするべきことに思い当たり、あたりを見渡そうとしたそのとき、背後から声をかけられた。

 

「まぁ、その、なんだ。一応助けられているのだから礼をいうのが筋であろうが。

 それよりも先にこれを聞かざるを得ない。貴様、なぜ急に空から降ってきた?」

 

振り返るとそこにいたのは体ほどもある大きな斧を担いだ女だった。

同時に、尻の下に違和感を感じ、確認してみれば男どもが数人目を回して倒れている。

 

「いや、俺もよくわかんないんだけどさ…

 気が付いたらここにいたんだ。脅されようがすかされようがこれ以上わかんないからできれば聞かないでほしい。

 あと、できれば教えてほしんだけど、ここ…どこ?」

 

戦斧を片手にあきれた表情で、その女は教えてくれた。

 

「ここは三国同盟とやらの中でも一番質の悪い国のはずれだ。」

「そ、そうか…まぁ、詳しくはおいおいでいいか。そんで、じゃあ次の質問で、そんな辺境でなにしてたんだ?」

「…貴様、少しめんどくさいぞ。まぁいい。一応助けられている身分だから答えよう。

 しかし、立ち話というのもあれだからな。場所を変えようじゃないか。」

「お、おう…」

 

なんとなく悪い人ではないのかもしれないなと思い、俺こと北郷一刀は、その女の言葉に従うことにした。

この世界を懐かしい、と思う程度の時を、一人で過ごしたらしい。

目に入る景色が、色鮮やかに映る。

さながらモノクロだった映画がカラーへと変わっていくように。

帰ってきた。

そう感じた。

場所はうつってさびれた村の宿の部屋。

入るときに店主らしきおばちゃんにからかわれつつ、その女のねぐらと化している物置より少しましな程度の部屋に入り、先ほどの状況を説明してもらった。

 

聞けば、女が村を歩いていると、何やらこそこそと悪さをしようとしているそぶりだったらしい。

さびれた場所だが、女は野垂れ死にしそうなところを宿屋のおかみに助けられた恩を感じ、なにやらたくらんでいるのならば止めなければと思い立って声をかけたら男どもが剣を抜いたそうだ。

それに応戦しようとした瞬間、俺が降ってきたという。

 

「あれ、じゃああのままにしておいて大丈夫だったのか?」

 

結局、俺たちはその男どもをその場に放置して宿に戻ってきてしまった。

何か企んでいるのであれば縛り上げてでも連れ来た方がよかったのではないかと考えるのは不自然ではないはずだ。

 

「奴らはこの村に危害を加える気はなかったようだ。怪しさはあったがその場でぶちのめしてしまってはこちらが捕まってしまうからな。

 まったく、だからこの国は・・・本当に・・・」

 

そう、吐き捨てるようにつぶやく女の言葉が引っかかった。

 

「それならそれでいいんだが…さっきから気になってたけど、この国はいったいどこの国なんだ?

 胸糞悪いとかなんとか…そんなにひどいやつが納めている国なのか?」

 

記憶がそこまで違っておらず、あの筋肉ダルマが嘘をついていないのであれば、ここはあの世界のはずだ。

あのあとのあの世界を治めているであろう、あの三人がそうそうひどい統治をするとは考えづらい。

もしかして違う世界に飛ばされた可能性が、と考えると、そう聞かざるをえなかった。

 

「いや、個人的な話だ。忘れてくれ。ここの治世はいいものだ。昔、我が主が望んだ笑顔があるからな。」

「そっか。…そういえば、お互いまだ名を名乗っていなかったな。俺は北郷。良かったら、名前を教えてくれないか?」

 

ここまで話しておいて互いの名を知らぬことを思い出した。

しかし、その言葉への返答は、少し意外なものだった。

 

「名乗る名などない。一度死にかけ、志半ばで主を失った私には、名乗る名などないのだ。」

 

その顔は、少しさみしげだった。

大切な人を失う悲しみを知っている顔。

あの時、こちらに一度も顔を見せず別れたあの時の少女はこんな顔をしたのだろうか。

そう考えると、それ以上何かを聞くことはできなかった。

 

「そうか、わかった。この話はここでやめよう。

 次の話題っていえばあれだけど、本題というか一番聞きたいことなんだけどさ。」

 

そう、俺にとって一番聞きたかったこと。

それは。

 

「あんたがえらく邪険にするこの国の名を、教えてくれないか?」

 

ここが、あの世界なのか。

俺は本当に帰ってこれたのか。

ただそれだけが気になっていた。

 

「そういえば、そんなことを知りたがっていたな。

 教えてやろう。この国の名は魏。

 三国同盟盟主、曹孟徳が治め、先の大戦で天の使いを擁したという魏だ。」

 

体が震えた。

帰ってきた。

俺は帰ってきたのか。

帰ってこれたのか…

顔を下げ、思わず熱くなる目頭を押さえ。

 

「そうか。そうか…」

 

それしか言えなかった。

 

「ふむ、その様子だと、この国についてなにか知っているようだな。

 ここまで答えたのだ、少しくらいこちらが質問してもおかしくはあるまい?」

 

ここを魏だと知っての反応を見て、彼女は俺をこの国の関係者だと思ったのだろう。

それまでずっと警戒心を消さなかった彼女の表情は、何かを企むようなものへと変わった。

 

「確かに聞いたよな、こんな辺境で何をしているのか、と。

 私は許昌へ行きたいのだ。

 もうすぐある天下一品武道会、今回はすべての者に対し出場の権利が与えられる記念の大会だ。

 勝てばどんなことでもひとつ、願いを聞いてくれるそうだ。

 私は知りたいのだ。あの時、あの戦いで何があったのか。

 誰が我が主を手にかけたのかを。勝てばそれが知れるはずだ。

 だが、それには少々厄介なことがあってな…」

 

そこで女は、ニヤリと口を歪めた。

 

「貴様、私の復讐に手を貸せ。」

 

妙な確信を持って、女は言った。

 

「復讐ってのが、大会を、ひいては国を荒らすことだったら了承しかねるけど、狙いは優勝なんだろ?

 それだったら一向に構わないが…」

 

ここで一つ、疑問が出てくる。

 

「俺の記憶が正しければ、俺の手なんか借りずに許昌へ行って大会に出ること自体はできるはずだろう。

 何らかの理由でそれができないっていうんなら、あの中へ入れないってことだろ。

 だったら、なぜ突然空から降ってきたっていう、どこの誰とも知らない俺ごときが、あんたに力を貸せると思ったんだ?」

 

女の顔は、険しく、鋭いものへと変わる。

まるで決戦へ赴く彼女らのような眼光。

心の臓を射抜くようにまっすぐ敵に向けられるようなその表情。

久しく受けていなかったその顔に、しかし顔は背けてはならないと、直感していた。

 

「とぼけているようだが、抜けてはいないようだな。

 ここまでいって、隠し事もなにもないだろう。

 確かに貴様の言うとおりだ。

 私にはあの街に入れない理由がある。通行手形が手にはいらないのだ。

 何故か出回っている私の人相書のせいでな。

 何もしていない。誓ってだ。我が主に誓って、私は何もしていない。

 しかし、手に入らぬ以上はしかたなし。関を無理に突破しても目的は達成できないのでな。

 で、だ。心あたりがあるのだ。貴様のその格好にな。

 そんな格好を好んでする奴は多くない。きっと奴と、関係有るはずだ。

 貴様、張遼の知り合いなのだろう?だったらなにかできるはずだ。」

「あぁ、あんた、知ってるのか。通りで…

 うん、別にいいぞ、断る理由もない。暴れるつもりもないんだろ?

 だったら目的地は一緒だし、構わないぞ。

 できるだけ手をかそう。」

 

提案に対する肯定の返答を聞いて、女の表情が和らいだ。

先ほどまでの厳しい雰囲気は鳴りを潜め…。

 

「ふん、話のできる男だな。手短でいい。私は面倒事は嫌いなんだ。」

「まぁ目的地は一緒だし、それまで腕に覚えのない俺としてはあんたみたいな人と一緒だと心強いんだ。

 持ちつ持たれつってことで…あー…うん、呼び名がないと不便だな…真名…を聞くのも失礼だし…」

「好きに呼べばいい。」

「…ん~。そういわれてもなぁ。ぱっと思いつかない…。

 あ、いや、わかった。そうだな。

 じゃあ、ドロシーだ。こっちはカンザスに帰ってきたばかりだし。こっちはもう名乗ってるけど、おもしろいからトトって呼んでくれよ。

 俺は早く我が家に帰りたい。あんたは武道会に出たい。目的地は一緒。じゃあ善は急げだ。」

かかとを三回鳴らして、立ち上がり、早速旅の支度にとりかかる。

しかし、こんな冗談が、本当に嵐に乗って家路につくということを意味しているとは、この時俺は知る由もなかった。


 
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