第3話 encounter first part:邂逅 前編
12時02分07秒 御子島学園ローカルネット≪世紀末≫ステージ サラマンデル・ブレイブ
「…まさかキミらと同じ学校になるとはな…」
「ま~た辛気臭そうな声出して。ホントは嬉しいんだろ、このキャバレリー様と同級生になれて。もっと正直になれよ~」
「…別に嬉しくはない…」
気さくに話しかけながら肘打ちをしてくるキャバレリーの腕をブレイブは素っ気なく払う。
しかし、当の本人は「またまた~。ブレちゃんはホントに素直じゃないな~」とまるで気にしていない様子に接し続けてくるため、今現在のキャバレリーの存在はブレイブにとっては少々……いや大分にして鬱陶しいものに感じられていた。
「お久しぶりです!セントールさん」
「ご無沙汰です…といっても先週の"定期集会"以来ですからまだそれほど間が空いてはいませんがね」
「あ、そうでしたね。でも御二人と同じ学校でよかったです!」
「そう言って頂けると、大変恐縮です」
そんな二人の隣ではエーデルがセントールに元気良く挨拶し、セントールは照れた様に頭を掻きながらその勇
壮な見た目にそぐわない明るい声と礼儀正しい姿勢で対応している。
本来ならば激闘が繰り広げられる対戦ステージには似つかわしくない様相ではあったが―自分を除いて―みんなは本心からこの偶然の出会いを喜び合っているようであった。
「いや~、でも実際問題この学園に入学してくるのがブレイブ達でよかったわ~ホント」
「っ!知ってたのか!俺達がこの学園に入学する事を」
「知ってたも何も、前の集会の時に"バスター"さんから『ブレイブとエーデルをよろしくな』と言付けられていたのですが……御存じなかったのですか?」
「"先生"か…。二人がこの学園にいるならそう教えてくれればよかったものを……はぁ…」
「まぁまぁ。きっとおn、じゃなくてバスターさんもブレイブ君をワクワクさせようとして言わなかったんですよ」
―いや、俺の驚く反応が見たくてやったんだ。絶対にそうだ…間違いなく…―
ブレイブは自身の"師"とも言える人物に内心悪態をつきながら溜息をつくと、キャバレリーがその背中の甲冑型装甲をポンポンと叩く。
「まーいいじゃないの。結果良ければ全て良しってやつだよ」
「………………」
もう反応する気も失せて頭を振るい沈黙するブレイブの様子を見て、他の三人は明るい笑い声を響かせるのであった。
「よーーしッ!じゃあせっかくダッグ組んでるんだから対戦しようぜ、対戦」
その後、挨拶と他愛もない会話でひとしきり盛り上がった一同にキャバレリーうずうずした様子で話を切り出した。
「対戦…ですか?」
「そーよ、エーデルちゃ~ん。バーストリンカーたる者、やっぱり乱入したからには対戦しなくちゃつまらないっしょ!」
そう言うや否やキャバレリーは自身の右手に停めていた馬型強化外装≪エメラルド≫に飛び乗る。
「おい、俺はまだ戦うとは言ってないぞ」
「え~良いじゃん、やろうぜ対戦。た・い・せ・ん!」
「しかしな…」
「付き合って頂けませんか、ブレイブさん。私自身、まだバスターさんの『子』であるあなたとは戦ったことが無いので興味がありますし」
―同じレギオンメンバーの先輩に当たるセントールにそう言われては断れないな。
そう考えたブレイブは傍らに立つエーデルのほうを向いた。
「…いいかな?対戦しても」
「もちろんです!頑張りましょうね、ブレイブ君」
エーデルは口の無いフェイスマスクの目で笑みを浮かべ、気合を入れるようにガッツポーズをとりながら、ブ
レイブにそう答えた。
「よーーーーしゃ!そうと決まれば、このまま戦り合っても面白くないから、残り時間の表示が900になったらバトル開始。それまではお互い視界から消える事にしよーーぜ」
そう言うと、キャバレリーは騎乗しているエメラルドと共にブレイブとエーデルに背を向けて手綱を引くと、
猛烈な勢いで元来た道へと駆け出した。
セントールも困ったように頭を掻きながらブレイブ達にお辞儀をすると、「ヒャッ―ホ―ッ!!」という掛け声を上げながら爆走するキャバレリーの後を追うように走り出し、瞬く間に二つの影は校舎裏へと消えていった。
「……はぁ…」
「と、とてもパワフルな方々ですね…」
エーデルがそう評するキャバレリーの一連の言動を振り返り、ブレイブは現実のものも合わせると今日何度目
になるか分からない溜息をついていた。
12時02分07秒 御子島学園ローカルネット≪世紀末≫ステージ アドニス・セントール
「それでぼっちゃん、どういった作戦で御二人に挑むつもりですか?」
ブレイブ達の位置から校舎を挟んで200m北東の地点にキャバレリーに付いて移動したセントールは、能力の噂は聞いていても未だ対戦経験の無い二人のバーストリンカーとの戦い方を思案すべく、経験者である青緑色のデュエルアバター≪マラカイト・キャバレリー≫に問いかけていた。
「エーデルちゃんの“あの”アビリティは結構厄介だけど、あの娘自身のステータスはそれほど高くない。俺と“アドにぃ”で同時に掛れば確実に倒せる。だけど、ブレイブは……俺達とじゃあ相性が悪いな」
そう呟くキャバレリーの声色は、先程ブレイブを茶化していた明るく気さくなものでは無く、真剣そのものだった。
「だいぶ厄介な相手、ですか…」
「…………」
アドニスのその問いに答えずに、キャバレリーはエメラルドを歩かせ始めた。
アドニスも返事が無いのを気にする事無く、キャバレリーの愛馬に歩幅を合わせてその後に続く。
そして残り時間が9700を表示した頃、ブレイブ達からは死角となっている新校舎端の小道で不意にキャバレリーは立ち止まった。
「……あーッ、もう考えるのめんどくせぇーー!」
「!!」
両手を振りながらそう叫ぶとキャバレリーはセントールの方へ向き直った。
「アドにぃ、やっぱり俺にはチマチマと細かく作戦を練って戦うってのは性に合わねぇ。さっき、ガイドカーソルが少し動いたきりなんの反応もない以上、ブレイブは何か企んでるのは間違いねぇ。そうだよな」
「確かに。殆ど動きが無いのは不自然です。ステータスの低いエーデルさんを連れて真っ向から私達を相手に肉弾戦を挑むとは考えられないですね。」
そう、先程この小道に移動するまでの1分程の間に対戦相手を示すカーソルがほんの僅かに動いた以外にブレイブ君達に動きが無いのは不自然すぎる。
ブレイン・バーストでの対戦の基本から、青と緑系統のアバターである私達が近接戦闘を挑もうと接近してくる事は初心者でも予想できるはずだ。
ましてや“あの”バスターさんの『子』であるブレイブ君がそれを予測して対応策を打って来ないはずが無い。
そう考えたセントールも、この状況にどう対応すれば良いか判断を迷わせざるを得なかった。
「アドにぃでも迷うだろ、この状況」
そうセントールに話しかけるキャバレリーの声はさっきとは打って変わって不敵に、まるでイタズラを思いついた子供の様であった。
「だったら、もう考えるのはやめて行動あるのみよッ!ブレイブが何を企もうがそれごと粉砕してやるぜ!」
―ぼっちゃんらしい―
セントールは斧槍型強化外装≪ブル・ハルベルト≫を両手に構え、彼特有の四本足を動かしてキャバレリーの前方へと立ち位置を変える。
「それでは“例の手”で行きましよう。良いですね、ぼっちゃん」
「おう!!」
キャバレリーの返事とほぼ同時に残り時間が899を表示したのを確認したセントールは、後ろ足で勢いよく地面を蹴り上げ、校庭方面へと走り出た。
12時02分08秒 御子島学園ローカルネット≪世紀末≫ステージ サラマンデル・ブレイブ
―…きたッ!―
目を向けていた新校舎の端からセントールがその巨体を振るわせて飛び出すと、その後方からセントールよりも小柄なエメラルドに騎乗したキャバレリーがそれに追走してこちらに向かって駆けてくる。
その様は、以前香苗がテレビで見てはしゃいでいた闘牛の牛を思わせる迫力を帯びていた。
「エーデル…うまくやってくれよ…」
そう呟いたブレイブは、先行するセントールがハルベルトを振り上げるのを確認すると、両手剣型強化外装
≪フレイム・ブリンガー≫を背中から抜き放ち、右脇に水平に構えた。
「ふんッ」
一気にブレイブとの距離を詰めたセントールは、速度を保った状態で振り上げた武器を渾身の力で振り降ろした。
自身の頭部へと当たるであろう軌道でハルベルトの斧が迫るにも関わらず、ブレイブは左肘から炎を噴射して生じた加速でブリンガーをセントールの脇腹へ向けて薙いだ。
両者の体へと互いの武器が接触すると思われた瞬間、ブレイブの頭部と迫る斧の間に光が走った。
その刹那―
「ぐッ!」
炎を帯びたブリンガーの一撃がセントールの胴体左側を鮮やかに切り裂く。
ブレイブを追い抜き、その後ろへと走り抜けたセントールの脇腹の装甲には深い斬撃の痕が刻まれたが、ブレイブは頭どころか体のどこにも損傷した痕が見られない。
矢継ぎ早に、キャバレリーの駆るエメラルドの美しい剣角を突き出した突進が、セントールへの攻撃のタイムラグから生じた隙を突いてブレイブを襲うも、またもやその間に光が走り、キイィンッ!!という音と共に突進が弾き返された。
「ふッ!」
「ちぃッ!」
その衝撃でスピードを殺されて前足を浮かばせて嘶くエメラルドの腹部に、ブレイブは返す刃を逆袈裟切りで叩き込んだ。
しかし、キャバレリーは咄嗟にエメラルドの手綱を右へと取って後ろ足で跳躍し、ブリンガーの斬撃が致命傷となる事を避けた。
エメラルドが着地して走ることの出来ない僅かな隙を突き、ブレイブは右足で地面を蹴ると同時に踵から炎を噴射して、飛びながら加速。
空中でブリンガーを構え、今度はキャバレリー自身へと炎刃を振り降ろそうとする。
寸前―
ガギィン!!
Uターンで移動してきたセントールが、パートナーの危機を救うべく、猛烈な勢いでハルベルトの突きを空中にいるブレイブへと繰り出し、ブレイブも右手からのこの奇襲攻撃を剣の腹で受けて防御した。
そして突きの衝撃で飛ばされるも、瞬時に両足と右手を地面と接触させてブレーキをたてる。
擦過音をたてて後退しながらもどうにか着地を成功させると、ブレイブはすぐさまブリンガーを両手で中段に構えて対戦相手達を見据えた。
「ぼっちゃん、今のが…」
「あぁ、そうだ。カナリー・エーデルのアビリティ≪
≪
encounter first part:邂逅 前編 END
いかがでしたでしょうか?
4人のアバターの能力については登場人物No1に記載しておきますのでよかったらどうぞ
ではまた次回で会いましょうノシノシ
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お待たせしました!
第三話になります。
戦闘描写が上手く書けていると良いのですが…
それではどうぞ!