No.649693

Tの辛さ/見透かす瞳

i-pod男さん

今回は一夏がハードボイルドを醸し出すかもです。ではどうぞ。

2013-12-29 22:24:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1630   閲覧ユーザー数:1585

「な、何・・・?」

 

煙の中から銀色のメタリックなマスクを身に付け、黒い特殊部隊らしき服装に身を包んだ集団が中から現れた。そしてその中心に立つ異形の人影は、ドーパントだった。そして、彼らの前にはISを纏った更識楯無の姿があった。

 

「妹のデートをぶち壊しにするなんて許せないわ!死んで償いなさい、ドーパント!」

 

先程の攻撃は楯無が纏ったISの攻撃だったのだ。だが、全く効いている様子がない。

 

(コマンダー・ドーパントとソルジャーか。確か竜さんが言っていた・・・・でも、見た所アップグレードアダプターは付けていないから大丈夫か。)

 

だが幾ら攻撃してもドーパントは疎か彼が指揮するコマンド部隊も傷すらつかない。寧ろ物量に押されて楯無のシールドエネルギーがどんどん削られて行くだけだ。

 

「くぅ・・・・ここまで苦戦するなんて・・・・!!」

 

『チッ・・・・ったくよぉ・・・・ISが使えるからってピーチクパーチク騒ぎやがって!そんなにISを使えて偉いのかよ!んなもんが無けりゃてめえらは只のメスだ!持ってても、今の俺には勝てねえがなあ!!』

 

「お姉ちゃん!!」

 

「選手交替だ、三下野郎。」

 

一夏は楯無を後ろに押しやって背なに庇いながら振り下ろされるコマンダー・ドーパントの拳を受け止め、蹴り返す。更に次々と津波の様に押し寄せるコマンド・ソルジャー達を薙ぎ倒して行った。

 

「やっぱり尾行してたんですね、まさかとは思いましたけど。下がってて下さい、アレは先輩が倒せる様な相手じゃありません。国家代表が操るISだろうと、通常兵器は効果が無い。逃げるのが得策です。」

 

「貴方それでも簪ちゃんの彼氏(仮)なの!?」

 

「(仮)は余計です。下がって下さい、マジで怪我しますよ。」

 

『ベラベラとうるっせえんだよ!!』

 

だが、一夏は再び襲って来るソルジャー達の攻撃を避けきり、逆手に構えたエターナルエッジで斬り捨てた。

 

「一々話に横槍入れやがって、もう!先輩!簪つれてここから離れて下さい。もうシールドエネルギーも少ないんでしょ?」

 

「え?」

 

「早く。ドーパントはISじゃ倒せない。実証済みです。あいつらの攻撃は余程メモリがしょぼくない限り絶対防御も貫けるだけの力を持っている。あれは違いますけど、中には精神的な効果を持つ物もあります。だから、 とりあえず今は逃げるが勝ちです。」

 

「じゃあ一夏君は!?IS無しでどうするの!?」

 

「とりあえず足止めしますよ。力だけならありますし、一番強いのは大将さんだ。残りは大した事無いです。(何より彼女の前で変身する訳には行かないからな)」

 

「・・・・・分かったわ。何か策があるみたいだし、信じてあげるわ。」

 

「お姉ちゃん!?」

 

自分を抱え上げて飛び去ろうとする楯無を簪は必死に止めようとした。

 

「簪、大丈夫だ。」

 

「でも!」

 

「あの程度で俺は殺されない。ほれ、指切り。」

 

簪は泣きそうになるのを必死に堪えて頷くと、一夏の差し出した小指に自分のを絡め、大人しく楯無に運ばれた。

 

(ごめんな。けど、この戦いは簪が見て良い物じゃない。)

 

二人がその場から離れた事を見届けると、全力で駆け出し、コマンド部隊をタックルでふっ飛ばした。

 

「うォい、コラ。テメー、人様のデートをぶち壊しにした代償分かってるんだろうな?」

 

『あぁ?知るかよ、バーカ。邪魔すんならテメーもぶち殺すぞガキが!ん〜?よく見りゃあ、お前織斑一夏じゃねえか。ま、良いや。とりあえず死ね、一人だけ女の園に入り込みやがってよお。どんな手を使ったか知らねえけど。」

 

ヘラヘラした声や喋り方から大分メモリの毒素に蝕まれている様だ。合図と共にコマンド部隊が再び列を成し、警棒を構える。だが、ソルジャー部隊は銃撃によって動きを止められた。

 

『今度は何だよ、次から次へと鬱陶しい!!』

 

「無事か、織斑?」

 

足元にはエンジンブレードを突き刺し、グロックを構えた照井竜が一夏にそう訪ねた。

 

「一応は。」

 

「何故変身しない?」

 

「ちょっと一緒にいた人に見られたらマズいんで。特に俺の立ち場を鑑みると、ね。」

 

「それもそうか。だが、丁度良い、久々に暴れられる。階級が下の婦警でも威張り散らしている所為でストレスが溜まっていてな。あいつには悪いが、俺の憂さ晴らしに付き合ってもらおう。」

 

「うわ〜・・・・竜さんが八つ当たりなんて。珍しい。ていうか、それを聞いたら相手が可哀想になってきましたよ。」

 

二人はそれぞれのドライバーを腹に押し付けると、ベルトが腰回りに伸長された。メモリのスタートアップスイッチを押し、起動する。

 

『Eternal!』

 

『Accel!』

 

「変身。」

 

「変・・・身!」

 

『Eternal!』

 

青い衝撃波と共に、白き悪魔が降臨した。黒いマントを靡かせ、コマンダー・ドーパントを指差す。

 

『Accel!』

 

竜の前方に多数のピストンが円を描いて赤く光り、仮面ライダーアクセルに変身した。更にトライアルメモリをアクセルメモリと換装し、再び変身プロセスを繰り返した。すると、アクセルの体は黄色くなり、更に青くなる。それと同時に装甲が弾け飛んだ。青い体とオレンジ色のフェイスフラッシャーに変色したアクセルトライアルのスマートなボディーが陽光を受けて煌めく。

 

『か、仮面ライダーだと!?』

 

エターナルエッジの柄を軽く突くと、刃が伸長した剣に変わった。左手にはメビュームマグナムを構える。

 

「俺の名はエターナル。さあ、贖罪のプレリュードを奏でろ。」

 

「全て、振り切るぜ・・・・!」

 

アクセルも地面に突き刺したエンジンブレードを引き抜いて構えた。

 

『行け!』

 

コマンド部隊が突撃した。五十人以上のソルジャーが二人を取り囲むが、全く恐れる様子も逃げる様子も見せない。

 

「「叩き潰す!」」

 

エンジンメモリを剣に差し込み、ストップウォッチ型のトライアルメモリのスタートボタンを押した。

 

『Engine!』

 

『Trial!』

 

カウントダウンが始まる中、持ち前のスピードでコマンド・ソルジャーをエンジンブレードでT字型に斬り捨てて行く。エターナルはその間に大きく跳躍してローブを脱ぎ捨て、空に投げ上げた。メビュームマグナムの引き金を絞り、コマンダードーパントの額だけを狙い撃つ。最後にウェザーメモリをエターナルエッジのマキシマムスロットに叩き込んだ。

 

『Weather Maximum Drive!』

 

「消えろ。」

 

×字型にエターナルエッジを振るい、鎌鼬と雷撃を纏った斬撃がコマンダー・ドーパントを切り裂き、メモリを破壊した。

 

「さあ、地獄を楽しみな!」

 

コマンダー・ドーパントの爆発をバックに親指を下に向ける。

 

アクセルトライアルも全員を倒し終えたらしく、トライアルメモリのボタンを押した所だった。

 

「9.9秒。それがお前達の絶望までのタイムだ。」

 

アクセルトライアルは首を捻り、そう呟いた。メモリをドライバーに差し直すと、変身を解除した一夏に向き直る。

 

「良いストレス解消になった。」

 

「竜さん、怖いっす、そう言うトコ。あのチーマーの逮捕、お願いしますね。」

 

「無論そのつもりだ。」

 

「じゃ、俺はまだやり残した用事があるからこれで。」

 

「ああ。ご苦労だったな。」

 

一夏は小さくお辞儀をすると、現場を後にした。

 

 

 

 

 

 

更識姉妹は少し離れた建物の屋上に身を潜めていたらしく、楯無も一夏の助言で退散したお陰で擦り傷や軽い打撲の軽傷で済んだ。

 

「お〜い、簪〜。無事かー?」

 

一夏の声に、簪は夢中で彼に抱きついた。

 

「ちゃんと帰って来たぞ?」

 

「ん・・・・・」

 

簪は一夏の顔に胸を埋めたまま頷いた。

 

「ンンッ!そろそろ帰りましょうか。」

 

二人を遮る様にわざとらしい咳払いをしながら楯無はそう言った。

 

「ですね、アレの所為でデートがぶち壊しになったし。あーあ。」

 

三人は並んで歩き、学園まで帰って行った。一夏は簪を部屋まで送り届けた後、楯無に生徒会室に呼び出された。

 

「単刀直入に聞くわ、一夏君。貴方、ガイアメモリを持っているわよね?」

 

以前の様な人を食った態度は欠片程も見えない。ひやりと背筋が凍る、

 

「はい。確かに俺はガイアメモリを持っています。もっとも、コレはあんな悪製品よりは確実に安全ですけどね。詳しい話は言えませんけど。」

 

「どう言う事?何で貴方がメモリを持ってる訳?後、あの青い人は誰?」

 

「言えません。色々事情が込み入ってるんですよ、この事に関しては特に。失礼は承知ですけど、俺を信用していない様な相手に話せる事じゃないんで。いずれ話します。」

 

「それもそうね。まあ良いわ。確かに、妹をデートに連れて行く為にあそこまで遠出する様な人を百パー信用するなんて無理な話よね。」

 

(このシスコンが・・・・俺は何もいかがわしい事はしてねえっての)

 

一夏は心の中で毒突いた。

 

「じゃあ、次の質問。私がガイアメモリの存在を知ったのは二年ちょっと前の事。でも、貴方はそれより前から私以上にガイアメモリの事を知っている節があるのは何故?」

 

「知ってる事を洗い浚い吐けと?」

 

「身も蓋も無い言い方しちゃうと、そうなるわね。」

 

楯無は苦笑しながら扇子を開き、『説明要求』の四文字を見せた。

 

「お断りします。」

 

「え?」

 

「二年ちょっと前にメモリの事を知ったなら、十分に理解出来た筈です。あれを使った人間はIS如きで倒せる様な物じゃないと。対処出来る人物は俺を含めて他にもいます。ま、どうしても教えて欲しかったら簪との交際を認めて欲しいですけど。切実に。」

 

「絶対駄目!!」

 

「どうして?」

 

「どうしても!簪ちゃんは私が・・・・私が・・・・」

 

「私が、守らなければならない?」

 

図星を見事に突かれて楯無は体を引き攣らせた。

 

「俺は数年前から探偵の助手やポーカー、手品をやっていました。だから、人の考えている事が表情から大体分かるんですよ。以前、簪から聞きました。中学で、既に代表候補にまで登り詰めた貴方の事を。でも、特殊な環境の家柄で育った中学生がそこまでの事をやり遂げるのは、並の努力じゃ出来っこない。俺も別の意味で特殊な環境で育ったから、同じだったから分かるんです。感じていた筈ですよ?多大なストレスと、恐怖を。」

 

楯無は黙ったまま俯く。一夏は更に話を続けた。

 

「細かく言えば、努力と向上を常日頃から心掛けなければならないストレス、周囲の期待とは裏腹に結果が出ないかもしれないと言う恐怖、そしてその努力と向上によって簪と疎遠になってしまうかもしれない恐怖です。三つ目は既に解消しましたけど、未だにその恐怖を払拭出来ずにいる。俺も優秀な姉がいるから分かるんです。簪と同じ様に。」

 

「うるさい・・・・」

 

だが一夏は構わず更に続ける。

 

「そんな環境の中、貴方は感情を押し殺して笑顔を振り撒く。生徒会長、ロシアの代表、家の当主、そして簪の姉。全てを切り盛りすると言う事は自分よりも大きい四つの重いボールをジャグリングしているに等しい。今の貴方は只痩せ我慢をしているだけだ!そんな事ではいずれどこかでどれかのボールを取り落とし、やがて他のボールも全て取り落としてしまう!」

 

「うるさい!!」

 

一夏は繰り出される拳を掌で受け止めた。バシッと言う鋭い音がした。

 

「私は・・・・ずっと・・・・・」

 

楯無は力なく崩れ落ちて顔を両手に埋めた。一夏はしゃがんで彼女と同じ目線に入り、ハンカチを差し出した。

 

「その四つのボールは、貴方を縛る『肩書き』です。けど、代表でも、当主でも、生徒会長でも、簪の姉でもある以前に、貴方は人間です。俺より一歳だけ歳が違う、只の女の子です。」

 

「一夏、君・・・・」

 

簪にしてやる様にポンと軽く頭に手を置いて、優しく撫でる。

 

「Nobody’s Perfect。誰一人として完璧な者はいない。単純なフレーズで意味も当たり前ですけど、びっくりする位誰もが忘れてしまうんです。俺も含めて。人間は涙を流す者、楯無さんも例外じゃない。だから泣いて下さい。見ませんし、誰にも言いませんから。」

 

「うぐぅ・・・ぅっく・・・・うわああああああ〜〜〜!!!」

 

遂に堪え切れなくなり、楯無の涙腺と言うダムが決壊した。一夏は約束通り彼女に背中を向けて窓の方へと視線を移し、彼女が泣き終わるまでずっと空を眺めていた。

 

小一時間は泣き続けた楯無は目が赤く腫れたままだが、どこか安心した様な吹っ切れた様な顔付きをしていた。

 

「ハンカチ、ありがとね。洗っておくから。」

 

「あげますよ、ハンカチの一枚や二枚。女の子に似合う涙は二種類。欠伸の時と、嬉し涙だけだと、俺はそう考えています。」

 

一夏はポットで湯を沸かしてコーヒーを二杯入れると、マグを楯無に差し出した。

 

「・・・・私ね、簪ちゃんが家出してから一日経って戻って来た時に何かが変わったって事に気付いた。姉の勘って言えば良いのかな?兎に角、本能的に感じ取った。いつもより積極的に話す様になった。表情も明るくなって、もっと笑う様になった。でも、私は疎遠になった妹にどの面下げて話せば良いんだと思って・・・・」

 

一夏は何も言わずにコーヒーを啜った。

 

「でも、今思えば私が勝手に怖じ気づいてただけなのよね。馬鹿みたい・・・・」

 

だが、いい加減に沈黙を貫き通す一夏に苛立ちを見せた。

 

「何か言ってよ。そんなに黙っちゃって。」

 

「簪。聞いての通りだ。」

 

「え?」

 

そう言った直後、生徒会室のドアが開いて簪が半泣き顔でそこに立っていた。耳には無線式のイヤホンが入っている。

 

「え?え?!な、何!?どう言う事!?」

 

「上、見て下さい。」

 

「上?あ!」

 

天井には、逆さまに張り付いたフライレコーダーが二人の会話を拾って録音していたのだ。その会話は外にいる簪に全て筒抜けになっているのだ。

 

「いつの間に・・・」

 

「部屋に入る直前です。(俺が仮面ライダーだと言う所は省いてるけど)気付かせると思いました?手品師/探偵/ギャンブラーは刑事と同じく芝居が出来てナンボですから。」

 

したり顔で一夏はそう告げ、再びコーヒーに口をつけた。

 

「お姉ぢゃん・・・ごめんなざい!気付がなぐてぇ・・・・・ひぐっ・・・ごベんなさい!!」

 

「簪ちゃん・・・・・!私も、ごめんね!こんなお姉ちゃんで、ごめんね!!」

 

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら何度も謝る簪を抱きしめ、楯無の目からも涙が流れ出した。一夏は残ったコーヒーを静かに飲み干し、そっと出て行った。

 

そんな時、ワイバーフォンがメールを受信する。

 

「ん?」

 

メールを確認すると、目を見開いた。

 

「ジーザス、嘘だろ・・・・・まじで帰って来るのか、あいつが!?」


 
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