No.649495

ALO~妖精郷の黄昏~ 第4話 主神オーディン

本郷 刃さん

第4話です。
予告通り、キリトさんがキレます・・・しかし戦闘にはならず。

とりあえず、どうぞ・・・。

2013-12-29 10:18:34 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:9333   閲覧ユーザー数:8648

 

 

 

 

第4話 主神オーディン

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

新エリアである天空世界エリア『アースガルズ』にやってきた俺たちは東に位置していた

巨大な門を潜ってアースガルズ内部に入り、少し離れた北西部にある主要都市へと訪れた。

 

「わぁ~、大きな街ですね~」

「うん、アルンくらいはあるかも」

「そうだな。さすがは主要都市ってところか………それにしても、だ…」

 

感嘆の言葉を漏らすユイに同意するアスナと俺。

新しいエリアとはいえ、主要都市であれば大きな街だったとしてもなんらおかしくはない。

だが最後に言葉が詰まった理由は別にある……それはこの『アルヴヘイム・オンライン』というゲームにおいて。

まず登場することはないだろうと思っていたNPC(人種)がいたからだ。

 

「……人間、だな…」

「人間ね…」

 

ハジメとシノンがそう呟く……そう、2人が言った通りこのアースガルズの主要都市『ユーダリル』には人間のNPC(・・・・・・)が居るのだ。

エルフやドワーフ、ワルキューレといった種族のNPCはヨツンヘイムの世界樹の根の街『ミズガルズ』で見てきたし、

北欧神話を中心に盛り込んだこのゲームでは違和感のない存在だからこれといって感じるものはなかったが、

ここにきて人間という種族が介入してくるとかなり違和感がある。

 

「でも、北欧神話には普通の人も出てくるから、別におかしいことじゃないよね?」

「そうですね。英雄や幾つかの国の王族ばかりが紹介されているだけで、実際は人の方が多いですよ」

「神話ですし、人よりも神様たちの方にスポットが当てられるのは当然ですから」

 

確かにリーファが言う通りで普通の人も出るし、ティアさんとヴァルの言もその通りと言える。

まぁこのエリア以外で人が出ることはないだろう。

 

「この街は山の間、谷に出来てるんだな」

「しかも同じ樹に囲まれてるっすね」

「あたし、この植物知ってますよ。確かイチイの樹だったと思います」

 

ハクヤが指摘したようにこの街は谷に出来ている。また、ルナリオの言葉にはシリカが応じている。

そういえば去年の夏ごろだったか、アスナとのデートで植物園を訪れた際に同じものを見た記憶があるな。

 

「ユーダリルとは北欧神話に登場する地名のことで、『イチイの谷』を意味しています。

 ですからイチイに囲まれているうえで、谷に作ったのではないでしょうか?」

「へぇ~、そう意味があるのか」

 

ティアさんの解説にシャインが納得したように頷いた。

 

「ま、ここで話していても埒が明かないし、取り敢えずは街の中を見て周ろう。各々行きたいところへ行こうか」

「「「「「「賛成(です)」」」」」」

 

そう提案すると女性陣(ユイ除く)が揃って同意してきた。

自由行動でデートをしたいと考えているのがひしひしと伝わってくるのだから、俺たち男性陣とユイは苦笑せざるをえない。

ともあれ、俺たちはそれぞれカップル(俺は家族)に別れて行動することになった。

 

 

というわけで、ユーダリルの街を家族サービスさながらに満喫している俺とアスナとユイ。

ちなみにユーダリルを周ってみて気付いた事があるとすれば、それは一般のNPCの家が少なく、

逆に武具店や商店、それに宿屋などが非常に多いことだ。

明らかにプレイヤーを召致することが目的に思える……その意図が現アルヴヘイムの管理側のものなのか、

カーディナル・システムからの情報を参考にしたものなのかは分からないがな。

 

「でも、なんだか良い所だよね。SAO時代のアインクラッドとか、GGOの人たちと違って、NPCにも笑顔があるし」

「確かにSAOのNPCは表面上無表情な人がほとんどでしたね。一部クエスト用のNPCはそうでもありませんでしたけど」

「そうだな…」

 

アスナとユイの言う通り、アルヴヘイムのNPC(妖精)と同じく笑顔がある。

それはもしかしたらここが神々の世界という設定だからなのかもしれない。

ま、大体がそんなものだと思うし、無表情のものよりかは遥かにマシだからな。

しかし、なにか違和感を覚えるのは気のせいだろうか…?

 

「あ、見てよキリトくん。これ、なんだか凄そうじゃない?」

「全部が黄金製の武器か、筋力値がそれなりに必要そうみたいだな。というか、金額(ユルド)が半端じゃない…」

「うっ、ほんとだ…」

 

一軒の武具店に並ぶ黄金製の武器類。

それらのステータスを閲覧してみれば、『聖剣エクスキャリバー』や『魔剣カラドボルグ』ほどではないものの、

それなりの筋力値を要求する重量である。

そのかわり武器類の性能自体はかなりのものであることはよくわかる。

古代級武器(エンシェントウェポン)には劣るものの、アルヴヘイムの武具店で売られている武器類よりも余程良い性能である。

 

「さすがはアースガルズ、と言えばいいんじゃないですか?」

 

我が娘ながら珍しく簡単に纏めたような言い方だが、確かにそんなものかもしれないな。

俺とアスナはその言葉に顔を見合わせて微笑んでから、改めて街の中を歩き出した。

 

 

 

 

そして街を探索すること約30分。

一度集合することを予め決めており、その時間も近づいたので集合場所である街の入り口に戻ろうとした時、ふと鋭い視線を感じた。

アスナとユイには気付かれないように視線を感じた方向を見てみると、

いくつも並んだイチイの樹の内の1本の頂上に2羽のカラスが留まっていた。

そのカラスたちの瞳は常に俺を捉えており、まるで監視されているように感じる。

これは、どうするべきか…。

 

「キリトくん、どうかしたの?」

「いや、なんでもないよ(――アスナ、何かに監視されているかもしれない)」

「っ……そっか、それならいいけど(――監視って、もしかしてカーディナル?)」

 

俺の変化に気付いたアスナが声を掛けてきたが、ユイに気遣われたり心配を掛けたくないため、

システム外スキルである《接続》を使用して彼女と会話を始める。

 

――カーディナルかそれ以外なのかは分からない。だが、少なくともプレイヤーの類ではないと思う。

――…というと?

――憧憬や羨望といった正の感情、嫉妬や憤怒といった負の感情……それらの感情がその視線からは感じられないんだ。

  本当にただ見ているだけに近い視線だ。

――それなら、何かのクエストに関係してるってことかな?

――その線が一番有りえるが、とにかく警戒しておくに越したことはないと思う。

――そうだね……ちなみにどんな人?

――人じゃない、カラスだ。しかも大型のが2羽。

――それはサーチャーとかテイムモンスターじゃないの?

――サーチャーではないし、テイムされたモンスターならすぐ傍にプレイヤーが居るはずだ。最低でも2人はな。

 

《接続》で会話をしながらも俺は警戒を解かず、アスナも周囲に気を配っている。

なるべくユイには感付かれたくないがっ、なんだ…?

視線に変化を感じ、そちらを見てみると1羽のカラスがこちらに向かって飛行してきていた……そう、1羽の(・・・)だ。

なら、もう1羽は……っ!?

 

「くっ、アスナ! 上だ!」

 

俺たちはすぐさま各々の剣を抜き放ち、迫ってくるカラスに対して剣を構えた。

俺は漆黒の弾丸の如く高速で迫ってくるカラスに、アスナは彗星の如く猛烈な加速で急降下してくるカラスに対応。

接近してくるカラスに向かって剣を振り抜いた……が、奴は俺の剣を体を捻ることで回避した。

さすがに驚いたものの、即座にもう1本の剣で確実に仕留めに掛かる……が、今度こそ俺は驚愕した。

不意打ちである2撃目も回避されたのだ。

 

「きゃっ!?」

 

さらにすぐ傍にいるアスナに視線を向けると、彼女の最速の剣撃でさえも回避している。

そして、俺たちの懐に潜り込んだ2羽のカラスは、アスナの肩目掛けて直進してから直後に離脱し、同時に俺は全てを悟った…。

 

「パパっ、ママっ!!」

「「ユイ(ちゃん)!?」

 

奴らの狙いは最初からユイだった。ピクシーの姿のユイは成す術も無くカラスの鉤爪によって拘束され、連れ去られた。

 

その瞬間、俺の中のなにかが弾けた…。

 

キリトSide Out

 

 

 

アスナSide

 

ユイちゃんが連れ去られた……その事実がわたしの思考を硬直させて、同時にパニックへと陥れられた。

攻撃の速さには自信があって、だけどその剣速でも捉えきれなくて、

それが動揺に繋がって、大事な愛娘のユイちゃんを危険にさらしてしまった。

あまりの出来事に涙が浮かんできて、声を上げそうになった時、それは起きた。

 

「―――――――っ!!!」

 

声にならない咆哮が隣に居るキリトくんから上げられた。

彼の瞳と表情、纏う空気が全て怒りに染まって、両手に持つ剣が大きく振るわれて、勢いよく翅を展開した。

 

「オレハユイヲオウ…。アスナハミンナニツタエロ」

 

―――ダァンッ!

 

怒りのままにそう言った直後、凄まじい音とともに彼は最速で飛び立った。

わたしは呆然としたけれど、弾かれるようにすぐに集合場所の街入り口へと飛びながら駆け抜ける。

でも、わたしの心の中になにか不安が残ってる。

怒ってるキリトくんは何度か見たことがあるけど、あんな風に我を忘れかけるまで怒ったキリトくんは初めてだから…。

 

大丈夫……大丈夫だよね? キリトくん、ユイちゃん…。

 

アスナSide Out

 

 

 

 

キリトSide

 

「オイツイタゾッ!」

 

ユイを連れ去った2羽のカラスにまだ5mほどの距離を離されてはいるが、追いすがる事は出来た。

目を凝らして様子を見ると、どうやらユイは意識を失っているらしく、

どうやら恐怖心からAIに負荷掛かり、強制的に睡眠モードに落ちたようだ。

 

あのカラス共ブチ殺す…!

 

だが、問題はどうやってユイを取り戻すかだ…。

しかし、俺の考えとは裏腹に奴らは急降下し、木々が生い茂る森へと向かっていった。

俺もすぐさま急降下し、2羽の後を追う。

そして森の中で木々を躱しながら追い続けていると、突如として左右から獣の方向が聞こえてきた。

それは2匹の狼だった……2匹は俺に向かって飛び掛かり、

それに対処するべく『イノセントホープ』と『アビスディザイア』を振るい、奴らを叩き落とす。

けれど2匹は綺麗に着地し、再び俺を追い始めた。

 

「クソッ、テマガカカリソウダナ……ンッ?」

 

斜め後方から俺を追いかける狼たちに苛立っていると、前方を飛行していたカラスたちが進路を変更した。

その先には洞窟があり、その中へと入っていた。

俺もすぐさまその後を追いかけるも、後方から一定の距離を開けて追いかけてくる2匹の狼を訝しむ。

何故速度を上げて距離を詰めず、攻撃を仕掛けてこないのか?

そしてユイを捕えているカラスたちもまた、大きく距離を開けることなく一定の距離を開けて俺から逃げている。

徐々に冷静になる頭で考えることで罠に嵌められているのではなく、何処かに導かれていることが分かる。

そして、コイツらの目的がユイではなく……俺であるということも…。

 

「どのみちユイを取り戻すには乗るしかないということか……上等だ」

 

いままでの黒い怒りは払拭され、冷えた思考を持って追いかける事に集中した。

 

 

ほんの2,3分間で洞窟を抜け、その先には小さな泉があり、カラスたちはゆっくりとユイの体を草の上に置き、そこから離れた。

 

「ユイ!大丈夫か!?」

「うっ…」

 

小さな声を出したものの意識は戻らないことから、いますぐ目を覚ますことはないだろうが、

彼女の命に関わることはないだろうとホッと一安心する。

これ以上彼女に負担を掛けないようにするために胸ポケットの中にそっと横たわらせながらおさめる。

そして改めて周囲を確認すると洞窟からは2匹の狼が、泉の対岸の樹の枝には2羽のカラスが居り、俺を囲む。

さらに、茂みの奥から巨体を持つ1頭の馬が姿を現した…その脚はなんと8本であり、

この5体の生き物を見ることで俺は此処まで導いた者の正体を掴むことが出来た。

 

「よくぞ此処まで来てくれた、黒き妖精よ」

 

馬の奥からそう声が聞こえ、警戒しつつもその先に目を凝らすと、1人の男性が現れた。

 

男には右眼が無いようでその部分には眼帯を付けており、逆に存在している左眼は黄金色で強い意思の表れなのか輝いてみえる。

顔の下部には白く長い髭を蓄えているものの、皺が1つもなく若々しい雰囲気を感じ取れる。

つばの広い帽子を被っており、体が黒いローブで覆い、右手には非常に長い杖を持っている。

同時に俺は悟った……今の俺ではコイツに勝てない、と…。

 

「主神、オーディン…」

「如何にも。私こそアース神族を纏める神、オーディンだ」

 

呟いた言葉を聞きとられたようで、彼は微笑を浮かべながら答えてきた。

まさかいきなりトップと邂逅することになるとは…。

 

「まずは貴公の大切なものに手を出した非礼を詫びよう。申し訳ないことをした」

「…分かった。その謝罪、受け入れよう」

 

ユイを連れ去った事を詫びてきたオーディンに少しばかり驚きながらも、それを受け入れる。

おそらくは彼もNPCであるが、言語モジュールを搭載されたAIであることは間違いないと予測できる。

そこで彼は詫びの代わりにと、自身の眷属を紹介してきた。

2羽のワタリガラスの名はフギンとムニン、2匹の狼の名はゲリとフレキ、

そして愛馬であるスレイプニル……どれも聞いた事のある名前で、特にスレイプニルは有名どころだ。

なお、フギンは“思考”、ムニンは“記憶”、ゲリとフレキにはそれぞれ“貪欲なもの”、

スレイプニルは“滑走するもの”という意味がある。

 

「此度、貴公を此処に導いた事には理由がある」

 

俺が予てより考えていた事、当然理由がなければユイに無用な危害を加えたとして、

相手が神であっても全力で潰しに掛かっていただろう。

 

「『神々の黄昏(ラグナロク)』……貴公はどう考えている?」

「確実に起きるだろうな。だが、被害を抑える事は出来るはずだ……いや、抑えてみせる」

「どのような手で?」

「どんな手を使っても、だ…」

 

オーディンの2度の問いかけに俺自身の考えで答える。

俺たちの間には沈黙が流れるが、オーディンは微笑を浮かべて言葉を発した。

 

「その答えを聞く事が出来て僥倖だ。貴公ならば、黄昏が起きてもあるべき道を築けるだろう」

 

どうやらさっきの質問が俺を誘った理由らしい。

俺自身にはどうでもいいような問いかけだったが、彼にとっては大きな意味があったようだ。

 

「礼を言おう……それと、これは非礼の詫びとして貴公に与えよう」

 

そう言うと俺の目の前に液体の入ったビンが出現した。

 

「これは?」

「それは『ミーミルの泉水』。いずれ貴公の役に立つはずだ」

 

ふむ、『ウルズの泉水』の類似品かな? どちらも世界樹であるイグドラシルの根元にある泉の水らしいし。

 

「では、いずれまた会おう…」

「お、おい……って、消えやがった…」

 

スレイプニルに跨るとそう言って姿を消したオーディンと眷属たち。

聞きたい事があったのだが、引きとめる前に行ってしまった。

まったく、詫びてきたとはいえ迷惑ばかり掛けやがって……それに掴み所がなくて意図が読み難いところなど、

何処かで会った奴に似ているような気がするが、いまは考えないでおこう。

そう思った時、胸ポケットが動いた。

 

「ん、パパ…?」

「良かった、目を覚ましたか…」

 

眠っていたユイがもぞもぞとしながらポケットから顔を出した。

いつもと変わらない様子に改めて安心する。

 

「わたし、気を失って……あ、あのカラスさんたちは!?」

「大丈夫、もう追い払ったから。だけど、すまないユイ……守ってやれなくて…」

 

状況を把握しようとするユイの言葉に俺は申し訳なく思う。

普段守ると言っておきながら、守ることが出来なかったからだ。

今回は無事で済んだが、もしかしたら無事では済まなかったかもしれない。

そう考えて自分が不甲斐なく思う。

 

「そんなことないです、パパはわたしを助けてくれました! だから、ありがとうございます!」

「ユイ…」

 

それでも、助けてくれたからと言う愛娘には感謝してもしきれないくらいに思う。

俺は事情を説明せず、まずはみんなの元に戻ることにした。

 

キリトSide Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

というわけで、キリトさんがキレた理由は我らがマスコットヒロインであるユイちゃんが攫われたからです!

 

あ~、お怒りは御尤もですが、キリトさんが勝てない相手ですからね・・・みなさんは無理をしないように。

 

といっても、“1人で”や“現在のシステム的に”という意味ですのでw

 

今回登場したオーディンは第1の勢力である神々のトップという立場です。

 

ステータスは事実上の最強、戦闘ではないので鎧ではなくローブ姿でしたが・・・。

 

今後も神々に加え、第2勢力のロキや巨人との邂逅もありますのでそちらもお楽しみに。

 

第3勢力も現れますけどね・・・(黒笑)

 

なお、自分事ですが21歳を迎えました・・・伝説の魔の称号『名前(21)』を得てしまった!?

 

それでは~・・・。

 

 

 

 


 
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