“ドラゴラム”で人間になると、“レムオル”を解除して
「ね、ねぇ? サイト。ワルド大丈夫よね?」
「わ、わかんねぇよ。と、とにかく剣を抜かな(ガシッ)え?」
「むやみに抜かない方がいい」
そして、ワルドに刺さる剣を抜こうとのばされた才人の手を掴んで止めた。
むやみに抜くと他の臓器や神経を傷つけて、最悪死を早めてしまうからな。
「だ、誰!?」
「君、宿屋の主人に医者を頼むように伝えてくれ。貴族さまがケガをされたと言えば、すっ飛んで呼びにいくだろう」
驚くルイズを無視した俺は、掴んだ手を離して才人に医者を呼ぶように指示する。
才人は突然現れた俺に驚きながらも、『う、うん』と言うと宿内へと戻っていった。
それを見送り、ルイズに向き直ると先程の問いかけに答える。
「俺はただの旅人、それ以上でもそれ以下でもない者だ。まぁ、俺が何者であろうと今のお前には関係がないだろう? この貴族さまのことだけを考えろ」
「・・・・・・ワルド・・・・・・、死ぬの・・・・・・?」
「このままではな。さて、お前は“治癒”魔法は使えるか?」
泣きそうな表情になるルイズに魔法が使えるかどうかを訊ねる。
今はまだルイズが魔法を使えないことはもちろん知っているが、ここでの俺はルイズとは面識がない。ここで訊ねないほうがおかしい。
「もちろ・・・・・・、いえ、使えないわ」
ルイズはプライドで反射的に使えると言おうとしたが、二,三秒間が空いたあと、使えないと言いなおした。
この状況だ。
もしもいつものように自分の魔法が失敗すれば、さらにワルドを危険にさらしてしまうと考えたのだろう。
「そうか。では、ほかに魔法が使える者はいるか? いるならば呼んできてくれ。その間になんとか剣を抜いておく」
「わ、分かったわ。ちょっと待ってて」
ルイズはちらっとワルドを見てから頷くと、急いでタバサたちを呼びにいった。
俺はルイズが見えなくなってから、ワルドに視線を落とした。
「・・・・・・・・・・・・」
苦悶の表情をしたまま動かないワルド。どうやら失神しているようだ。
俺はもう一度ワルドのステータスを確認するため、“ダモーレ”の呪文を唱えた。
【名前】 表示OFF
【最大HP】表示OFF
【最大MP】表示OFF
【攻撃力】 表示OFF
【守備力】 表示OFF
【素早さ】 表示OFF
【賢さ】 表示OFF
【状態】
失神(HP徐々に減少。絶命まで十分)
状況が悪化したことを確認し、剣を抜くため両手でしっかりと持つ。
〔リホイミ〕
俺は剣を抜く前に“リホイミ”の呪文を唱えた。
すると、ワルドの身体を一瞬光が包み込む。
(よし。これでワルドの身体の傷は徐々に治っていくはずだ)
抜くときに出来る傷は、その都度、“リホイミ”の効果で治っていくはずだ。
しかし、万が一のことがあるため、身体の変調を見逃さないように努めなければならない。
俺は剣をゆっくりと真上に持ち上げるように抜いていく。
「ふぅ・・・・・・」
幸い何事もなく剣を抜くことができた。
俺は剣を肩にかついで一息つき、額から浮き出た汗を拭った。
数十秒間の短い時間だったが、非常に神経を使った動作だった。
「つれてきたわよ!!」
その時、タバサたちを呼びにいったルイズが戻ってきた。
顔だけを向けると、はぁはぁと息を荒げているルイズと驚いた表情で俺を見つめるタバサがいた。
「もうどうしたのよ? ルイズ。何も言わずにタバサを連れていくなんて」
その後ろから寝間着姿のキュルケが現れた。
眠そうな顔をしながらルイズに訊ねたが、剣をかつぐ俺とそばで倒れているワルドに気付いたのか、目を見開いて驚いた。
しかし次の瞬間、胸元から杖を引き抜いて俺に向けた。
「待ってツェルプストー! あの人はワルドを助けようとしてくれてるの!」
「・・・・・・どういうこと? ちゃんと説明してちょうだい」
詠唱し始めたキュルケをルイズが必死に止めに入った。
キュルケは詠唱を止めると、視線を俺からルイズに移した。
「じ、実は――」
「説明は後にしてくれ。今やらねばならないことは、この貴族さまを助けることだろ?」
説明しようとするルイズの言葉をさえぎった俺は、かついでいた剣を地面に深く突き刺した。
そしてしゃがみ込むと、マントと上着をめくり上げる。
医者ではないからよく分からないが、“リホイミ”の効果で傷は多少なりとも治っているようだ。
しかし、完全には治っていないのか、傷口から血は流れ続けている。
「ワ、ワルドは大丈夫!?」
「今はまだ危険な状態だ。止血しなければ確実に死ぬ」
「そんな!?」
ルイズは顔を真っ青にしながらワルドを見つめる。
俺はルイズの背後にいるキュルケとタバサに視線を向けた。
「少年が医者を呼びにいってるが、このままでは恐らく間に合わない。止血しなければならないが、残念ながら止血用の秘薬は持ち合わせていない。ここは“治療”魔法で止血するしかない。大変だが、やってくれないか?」
俺が“ベホマ”を唱えても良いが、今は人間の姿だ。
なるべくルイズたちの前では使いたくない。
「・・・・・・・・・・・・私がやる。代わって」
説明を訊いたタバサがボソッと呟いた。
俺が場所をゆずると、タバサはしゃがみ込んで杖をワルドに向け、呪文を詠唱し始めた。
<〔ダモーレ〕>
俺はタバサを後ろから小声で“ダモーレ”の呪文を唱えた。
ワルドのステータスが表示される。
このステータスは俺以外には見えないため、ルイズたちに気付かれる心配はない。
【名前】 表示OFF
【最大HP】表示OFF
【最大MP】表示OFF
【攻撃力】 表示OFF
【守備力】 表示OFF
【素早さ】 表示OFF
【賢さ】 表示OFF
【状態】
失神(HP減少停止傾向。絶命まで十分)
危険な状態なのは変わらない。
しかし、命は取りとめているようだ。
心の中で安堵しつつも、俺はワルドの傷の具合を確認するため、タバサとは反対側に回り込んだ。
そして脈をとりながら傷の具合を確かめると、徐々にだが血流が止まっていくのが分かった。
(よし。これぐらいなら布かなにかで傷口を軽くおさえれば、とりあえずは大丈夫だろう)
俺はルイズとキュルケに清潔な布がないか訊ねた。
するとルイズが懐から綺麗に折りたたまれた白い布を取り出した。
「こ、これでいい?」
「ああ。血で汚れるがかまわないか?」
「え、ええ」
それを受け取り、ワルドに傷口にあてがって軽くおさえていく。
そしてタバサに詠唱を止めてもいいと告げた。
タバサは詠唱を続けながら、チラッと顔を向けて視線で『大丈夫?』と訊いてきた。
「とりあえずは医者がくるまでは大丈夫だろう。君はゆっくりと休んでくれ」
「・・・・・・・・・・・・(コクリ)」
タバサは頷くと、詠唱を止めてゆっくりと立ち上がり、俺をジッと見つめてきた。
俺はそれに気付かないフリをしつつ、ワルドのステータスを注視する。
【名前】 表示OFF
【最大HP】表示OFF
【最大MP】表示OFF
【攻撃力】 表示OFF
【守備力】 表示OFF
【素早さ】 表示OFF
【賢さ】 表示OFF
【状態】
眠り(HP減少停止)
しばらくすると、HPの減少が停止して失神から眠りへと状態が変化した。
(ふぅ・・・・・・。どうやら危機は脱したようだ)
俺は“ダモーレ”を解除すると、ワルドの顔を覗き込んだ。
そして俺を見つめる三人に視線を向けて微笑んだ。
「顔色が良くなってきた。これならば大丈夫だ」
「よ、良かった・・・・・・」
「ちょ、ちょっと大丈夫なの? ルイズ」
「え、ええ。ありがとう」
相当、気を張っていたようで、安堵したルイズが少しよろめいてしまった。
しかし、それをキュルケが優しく支える。
ルイズは素直にお礼を言うと、しっかりと自分の足で身体を支えた。
「おーい! 先生を連れてきたぞ!」
その時、医者を引き連れて才人が戻ってきた。
俺は医者に場所をゆずると、少しルイズたちから遠ざかった。
(これでワルドは助かるだろう。しかし、物語の大筋から大幅にズレてしまったな。この後の展開が読めないのは、ちょっと恐いな。まぁ、なるようになると思って臨機応変にやるしかないか・・・・・・。はてさてワルドはこの後、どうするのかねぇ)
起きたあとのワルドの行動をアレコレと考えながら、医者の治療を受けるワルドを見つめた。
ちなみにその間もタバサは俺をずっと見続けていたのは言うまでもない。
*****
あれから俺たちは、治療を終えたワルドを二階の客室のベットまで運んだあと、しきりに事情を訊いてくるキュルケのため、一階の酒場に集まってワルドの件を話していた。
「えぇ? 子爵とダーリンが決闘? ヴィリエ・ド・ロレーヌが子爵を刺した? 嘘でしょ?」
「嘘じゃないわよ」
ルイズは不機嫌そうにキュルケの問いかけに答える。
ちなみにルイズが不機嫌なのは別の原因がある。
最初、ルイズは二階でワルドを看ているつもりでいた。
しかし、キュルケがむりやりに連れてきてしまったのだ。
そのため、ワルドを看る人がいないという状況が出来てしまった。
それだと具合が悪いので、今は叩き起こしたギーシュにワルドのことを看させている。
「ダーリン、本当?」
「ああ、そうだよ。決闘したのも、俺が負けたのも、ヴィリエとかいう奴が戻ろうとしたワルド、さんの背中を刺したのも、全部本当のことだよ」
キュルケは右隣の才人に訊ねる。
才人は不貞腐れながら答える。
ちなみに才人が不貞腐れているのは想像の通りだ。
「ふ~ん。で、ロレーヌが子爵を刺した理由はなに?」
「確か、ワルド、さんに貶められたからと言ってたな。なぁ、ルイズ」
「ええ」
「貶められた? 何のこと?」
「知らないわよ」
「う~ん。なんだか分からないわ。まぁ、それはそれとして、ヴィリエはどうしたのよ? あ、この素敵な御方がヴィリエをやっつけてくれたのかしら?」
キュルケは左隣の俺にしな
俺はキュルケの行動を意に介さず、じっと目を瞑って三人の会話を訊く。
ここで話に混ざったところで何も変わらないからな。
「違うわよ。急に苦しみだしたかと思ったら、宙に浮かんでどっかに飛んでったわ」
「・・・・・・・・・・・・ルイズ・フランソワーズ。あなた、頭大丈夫?」
キュルケは俺が興味を示さないため、しな垂れかかるのを止めると、心配そうな声色で訊ねた。
「いたって正常よ、うっさいわね。わ、私だってよく分からないのよ」
「・・・・・・・・・・・・見えざる身体で我を助けてくれたのは竜、いや竜神であった」
ルイズの声がより一層、不機嫌になった。
その時、今まで黙っていたタバサが、なにかの一文を口にした。
俺は薄目でタバサを見つめる。
「な、なによ急に・・・・・・」
「タバサ?」
「・・・・・・この本に書いてあった」
「これってタバサが昨日から読み始めた、始祖ブリミルの三人の子と弟子が記したと言われている四つの書のうちの“トリステインの書”じゃない」
タバサがテーブルに置いた本を見て、キュルケが目を丸くする。
ルイズは怪訝そうに本とタバサを見つめた。
「それって実は創作されたものっていう噂の書よね。も、もしかしてだけど、ヴィリエは独りでに飛んでいったわけじゃなくって、その本に書かれてある竜神が助けてくれたって言うの?」
「そ、そんなばかな・・・・・・」
「・・・・・・それは分からない。でも、この本に書かれてある竜神の姿は私たちが知ってる竜に似ている」
タバサはそう答えると、本を開いて見せた。
そこにはある挿絵が描かれてあった。
「「「あ!!」」」
その挿絵を見たルイズ、キュルケ、そして才人は驚いて声を上げた。
俺も内心、驚きを隠せないでいた。
なぜなら、そこに描かれてあったのは・・・・・・、まさしく俺(神竜)だったからだ。
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死神のうっかりミスによって死亡した主人公。
その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。
第二十一話、始まります。