No.648969

ここでキスして。

さん

東方二次創作。
遊パル。
タイトルは椎名林檎。

2013-12-27 19:02:29 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1186   閲覧ユーザー数:1182

 仄暗く薄ら寒い地下世界。水の流れない川に架かる橋。

 欄干に手を掛けて佇んでいる少女、水橋パルスィ。

 その瞳は緑色で、髪の色は金、表情は憂いを帯びていて、体格は華奢。

 何をするでもなく、虚空を見つめ溜め息を吐いている。

 遠くには街道の灯りが見える。

 地上から飛んでくる人影。

「ちょっと、そこのあなた」

 話しかけられ、顔を上げるパルスィ。

 そこにいたのは、やたら目つきの悪い巫女、博麗霊夢。

「地上に地霊が流れ込んで来ているんだけれど、何か知らないかしら」

 声音は冷たく、敵意すら感じられる。

 霊夢を黙視するパルスィ、警戒している。

「何も知らないみたいね。ん? コイツは橋姫?」

 パルスィではない何者かと会話している霊夢。

 不審に思うパルスィ。

「ふうん、他人を妬む事が存在意義なんて厭な存在ね」

 その言葉が気に障り、パルスィは霊夢を睨む。

「ここには何も無いって事ね。奥に進ませてもらうわ」

 橋を通り過ぎようとする霊夢の前に立ちはだかるパルスィ。

「何よ、邪魔するの? まあいいわ、さっきのヤツらも手応え無かったし、退屈凌ぎぐらいにはなってよね」

 不敵に嗤う霊夢、懐から札を出し、弾幕を展開させる。

 臨戦態勢をとるパルスィ。

 展開させた弾幕は、緑色の嫉妬の化け物を象っていた。

 嫉妬の化け物は、不規則な軌道を描いて霊夢に襲いかかる。

 乱雑な弾幕の隙間を、縫う様に潜り抜けた霊夢は、反撃の陰陽玉を繰り出す。

 圧倒的弾幕量を躱しきれず、被弾しそうになるパルスィ。

 突如現れた鬼が、弾幕からパルスィを守る。

 現れた鬼の背中を見つめるパルスィ。

 

 それなりに立派でありながらも、物が散らかっていて小汚く見える屋敷。

 居間でだらしなく横になっている屋敷の主、星熊勇儀。

 ちゃぶ台を挟んで、座布団に正座しているパルスィ。

「こんなヤツに助けられるぐらいだったら負けた方がマシだった……」

「がー……がー……。むにゃむにゃ、よいではないかーよいではないかー」

「あー、もう、敷いてあげるから布団で寝なさいよ」

 溜め息をつき、呆れ顔で寝室に向かうパルスィ。

——一週間前。

 霊夢の弾幕を遮った勇儀は、あっさりと橋を通らせる。

 呆気にとられているパルスィの手を取る勇儀。

「こんな辛気臭いところにいるくらいなら、私の家で一緒に住まないか」

「いきなり何……?」

 突如現れた謎の人物の奇行についていけないパルスィ。

「え、えっと、知らない人についていっちゃいけないってお母さんに——」

「遠慮するなって」

 手を解こうとするパルスィよりも強い力で手を握り、街道の方へ引っ張って行く勇儀。

「ええー……」

——そして現在、パルスィは毎日酔っぱらって帰ってくる勇儀の介抱をする日々を送っている。

 星熊勇儀は雇われ用心棒の様な事をして生計を立てている。

 しかしそんな不穏な事は滅多に起きず、普段は街道で妖怪達とお酒を飲み明かしている。

(「飲んでないで働けよ」なんて自分の事を棚に上げては言えない。全く妬ましい。というか)

 布団で豪快に寝ている勇儀を横目で見る。

(というかなんで私律義に酔っ払いの世話してあげてるんだ)

 溜め息をつく。

「これ以上お邪魔になると迷惑になるので、私は帰らせていただきますね」

 上辺で言っている事を隠そうともしない口調で言い、部屋を出て行こうとしたパルスィの服を勇儀が掴む。

「まってくれよぅ」

 起き上がる勇儀、顔が赤い。

「わたひにはおまえがひつようなんだよぅ……、ひっく」

「……私といるときよりもお酒を飲んでいるときの方が楽しそうじゃないの」

 酒臭い息に顔を顰める。

「弱みを見せられるのはお前だけなんだ」

「っ!」

 勇儀を振り払い、部屋を出て行くパルスィ。

 息を荒げているパルスィ。橋まで戻ってきている。

(なんで酔っ払いのくせに……)

 あの時、勇儀の表情は酔っ払いのそれではなかった。

(なんで、なんであんなダメなヤツに……)

 勇儀の屋敷を走り去るときのパルスィの顔は赤くなっていた。

「なあそこの……うん? 大丈夫か?」

 通りがかる白黒の魔法使い、霧雨魔理沙。

「ちょっと聞きたい事があるんだ。霊夢の話聞いて来たんだけどさ、あ、霊夢ってのは目つきの悪い巫女で」

「くっ!」

 魔理沙から離れ、弾幕を展開するパルスィ。

「なんなのよ皆して! 私は静かに、一人で暮らせればそれで良かったのに!」

「うおっ? なんだはこっちのセリフだ!」

 持っていた箒に跨がり、浮き上がる魔理沙。

 降りかかってきた緑色の弾幕を、レーザー状の弾幕で相殺する。

 次々と弾幕を展開するパルスィだが、その瞳には涙が溜まっている。

 弾幕が消され、徐々に追いつめられるパルスィ。

 魔理沙の弾幕がパルスィに迫る。

 パルスィは泣き崩れ、抵抗する気力を失っている。

 弾幕が無抵抗のパルスィに降りかかりそうになるが、現れた勇儀が守る。

「私の女に手ぇ出してんじゃねーぞぉ!」

 鬼気迫る勢いで魔理沙に殴りかかる勇儀。

 殴られ吹っ飛ぶ魔理沙。パルスィはその光景を呆然と見ている。

「ええー……」

 理不尽な展開に納得のいかない表情をするが、その場をそそくさと立ち去っていく魔理沙。

 困惑しているパルスィの手を握る勇儀。

「私のエゴだが、ワガママだが、お前を守らせてくれ」

 呆れながらも、微笑むパルスィ。

「なによそれ……、ズルいわ」

「ねえ、今すぐにここでキスして」

 勇儀の服を掴み、体を密着させる。見つめあい、二人の影が重なる。

 数日後。自宅の居間で寛いでいる勇儀。

「あー、もう、暇なら掃除ぐらいしなさいよ」

 パルスィはエプロン姿で洗濯物を畳んでいる。

「うー、愛してるよパルスィ」

「はいはい」

 勇儀の戯言を軽くあしらうパルスィ。二人の左耳にはお揃いのピアスを付けている。

 

 


 
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