No.648663

クリスマス企画 口づけ(猪狩十助→音澄寧子)

小紋さん

クリスマスリアルタイムイベントにての一幕。

登場するここのつ者
猪狩十助/音澄寧子

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2013-12-26 20:10:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:341   閲覧ユーザー数:335

「さぁて!そろそろ日付の変わる時間にゃー♪ 」

 

ベベンと弦をかき鳴らし、調子外れな明るい音を奏でる。是が非でも意中のあの人と…と思っている者も少なからずいるようで、会場には様子をうかがって上手く踏み出せないような甘酸っぱい空気と気にせず料理やお喋りに興じる空気が入り交じり始めた。

 

「気になるあの人のところに急ぎすぎて転ばないようににゃー♪」

 

誰にとはいわなくとも伝わったのか、視線が寧子を掠めた。余計なお世話とでも言いたげだ。

 

ざわざわと騒がしさを増す会場。酒を酌み交わす者、見慣れぬ異国の料理を楽しむ者。はじめて会うものもいるのだろうに、そんな風には露ほども感じない。そして、

 

 

「日付が変わったでやんすー!」

 

 

茶助の声が響く。

 

 

ざわめきが別の物に変わり、相手を確認し合って驚きや、何かを諦めたような声、楽しそうな声や嬉しそうな声があちこちから上がった。日頃の感謝を込めるものもいれば、半ば罰ゲームのような組み合わせの所もあり、なかなかの盛り上がりを見せている。

 

そんな中、十助は頭を抱えて机に突っ伏していた。

 

(まてまてまて!!どう言うことだよこりゃあ!!)

 

茶助の声でイベントの事を思いだし、十助が隣を何の気なしに見やった時。そこには三味線を仕舞い、何やら楽しそうにメモを取る寧子がいたのだ。

 

(冗談だろ!?ちょっと頬っぺたとかにしてはい、終わりだと思ってたのに、なんでよりによって一番面白がりそうな奴に当たるんだ!)

 

ついに冷や汗まで出始めた。絶体ネタ帳に書くだろうという謎の信頼を集める寧子に当たる自分の運を恨むしかない。

 

(だいたい、寧子だって男にホイホイ口付けられんの嫌がるだろ!ここは日本だっての!そうだ、嫌がる事はやっちゃいけないよな!俺ここのつものだし!!)

 

一抹の望みをもってがば、と顔をあげた。が、しかし十助は先程考えていたことを丸っと失念している。寧子はこういったイベントを心底楽しむ性質なのだ。

 

十助の視線の先では寧子が余所を見ていた鴬花の頬にあっという間に口付けている。しかもキョトンとする鴬花に「頬じゃない方が良かったかにゃ?」等とおどける余裕まで見せていた。

 

(あ、だめだ)

 

ふたたび頭を抱える。しかし今度の葛藤は短かった。

 

「っ~~~~~くそっ、男は度胸男は度胸男は度胸 男は度胸……男は度胸! 寧子!頭出せ!」

 

言うが早いか、向こうを向いている寧子の頭巾を掴む。そのままぐいと力任せに引っ張ると、不意を突かれた寧子は十助の方によろめいた。

頭巾が勢い余って外れたが勢いはそのままで、十助の思惑通りに頭が前に出る。

 

にゃ?と言う寧子の抜けた声の後、ゴチ、と硬い音がした。

 

「……ってえ!?俺なんか間違えたのか!?すっげえ口痛てぇぞこれ!?」

 

「こっちの台詞にゃ!十助君は口づけの仕方を学ぶべきなのにゃ!」

 

歯が当たったらしい。

 

何故かキスの時は目を閉じるという事は知っていた十助は当然衝撃のタイミングは掴めず、よろめいた寧子は避けようがないから当然と言えば当然だが。

 

「ま、額への口づけは祝福とか友情の意味らしいか ら、ありがたく受け取っておくのにゃ」

 

若干赤くなった額を抑え、寧子はため息を一つ。

 

「じゃあ、これはお返しにゃ♪」

 

頬に手を添えられる。なにかと思う間もなく、かわいい音を立てて額に口づけられた。

 

「は?」

「にゃ♪」

 

一瞬何をされたかわからず、パチパチと瞬きを繰り返す。

 

飛んでいた思考回路が帰還し、ようやく寧子を引き剥がすという選択肢が選ばれた。

 

「おっ…お前がするってルールはねーだろ がーーー!!!!何やってんだ!!!!」

 

「何って、祝福のお返し?十助君が先にしてくれたけども、額への口付けは祝福の意味にゃ♪」

 

「しょうがねぇだろこういうのよくわかんねぇんだから!…って意味?場所によって意味とかあんのか?」

 

「あるにゃ。それも沢山」

 

床に落ちてしまった頭巾をかぶり直し、寧子はペラペラと帳面を捲る。あるページで手が止まり、一本指が立った。

 

「額はさっきもいったけども友情とか。 半ば勢いで漢を見せた鬼月のおにーさんみたいに 唇にすると愛情、今は酔っぱらってるけど熊さんみたいに手の甲なら敬意・敬愛にゃ。 秋津のおねーさんがしてた耳は…………十助君には多分早いにゃ」

 

スラスラと読み上げた言葉を最後で濁し、寧子はパタリと帳面を閉じてしまう。

「何だよそれ」唇を尖らせつつと会場をくるりと見回すと、漢を見せたらしい鬼月が秋津に対して何か言っているのが見えた。鬼月が耳を押さえているから口づけした場所が関係しているのだろう。

 

「まぁいいか。猫にゃーこ、何か食おーぜ?」

 

「賛成にゃ♪全力疾走で贈り物を取りに行ったからお腹ペコペコにゃ」

 

テーブルに駆け寄り、そろって真っ白な皿を手に取った。少し目を離していただけなのに、また見たことの無い料理が増えている。

 

見慣れぬ料理。聞きなれない音楽。やりなれない『口づけ』のイベント。

 

こんな非日常もたまには悪くないだろう。

 

まぁ、……とある人へのシュプレヒコールが聞こえてきそうな予感はするが。

それもこの聖夜のデコレーションの一つなのだろう。

 


 
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