日付も変わった早朝の時刻は午前三時。一夏の目は既に開いていた。
「眠れない・・・・・」
そう、ナノマシンで五感が鋭敏化されている為、微かな寝息や寝返りを打つ音、鼾すらも全て聞こえるのだ。そして、不思議と全く疲れない。
「あー、糞。考えるべきかな、あれ・・・・」
一夏はブレザーの中に入れてある隠しポケットからエターナルメモリとドライバーを取り出した。そのドライバーは翔太郎やフィリップが使っている物とほぼ同じ物だ。唯一の相違点はスロットが一つ欠損していると言うことだけだ。
「問題はこっちだよな。」
刀身が真っ直ぐの剣、エターナルエッジ(翔太郎命名)。通常は携帯性を重視しているらしく、全長はコンバットナイフより少し長め程度で、変身していなくても容易に持ち歩ける。状況に応じてダガーモードのエッジから剣のカリバーモードに伸縮出来るらしい。エンジンブレード同様、メモリを差し込んで能力を発動させる為のスロットもついている。そのメモリは銀色で、一度ウィスパーを鳴らした。
『Weather!』
「ウェザー・・・天気の記憶か・・・・ん?って事は・・・・?竜巻とか落雷が使えるのか?後は、こっちだよな。」
次に一夏はトランクの中から銃、メビュームマグナム(こちらも翔太郎命名)を引っ張りだした。銃と言っても、当然只の銃ではない。と言うのも、形状も普通の銃とは常軌を逸しているからだ。基本的な構造は大型の中折れ式リボルバー拳銃だが、余りにも近未来的なデザインであるのと、明らかにサイズが一回りは大きい上に銃身が二つもある。これにもBのイニシャルが入ったギジメモリが付属している
「これ絶対どっかのゲームで出て来た銃+αが参考になってるよ。まあ、形はカッコいいから良いんだけど。」
「一夏、どうした・・・・・?」
「あ、千冬姉。悪い、起こした?」
ベッドの方ではパジャマを着た寝起きの千冬が自分を見ていた。寝癖で髪の毛が物凄い事になっている。
「いや、最近はあまり眠れなくてな・・・・・特に、大会の後は。」
またそれか、とばかりに一夏は溜め息をついた。二度目の大会で、一夏は謎の組織に誘拐されかけた。それも全員ドーパントに変身して。幸いその時千冬の様子を見に来ていた翔太郎や竜が変身して一夏と共闘し、撃退・逮捕に成功した。千冬も大会二連覇を成し遂げる事は出来たのだが、何が起こったか事の顛末を翔太郎や竜から聞かされた千冬は表彰が終わって帰宅するなりメダルをゴミ箱に投げ捨て、表彰状を引き裂いたのだ。その時の千冬の哀愁漂う背中は、一夏の記憶にまだ新しい。
「千冬姉、何度も言ってるだろ?千冬姉は悪くないって。それに千冬姉が辞退したいって言っても、立ち場が立ち場だから無理だったのは仕方無いし。科学の進歩自体は、まあ兵器を除けば有益だ。でもその進歩が益となるか害となるかは使う人次第だよ。よく考えもせず、勝手に女が偉いなんて風に考えた奴らが悪いんだ。言ってしまえば、千冬姉の上司の大多数。」
それを聞いた千冬はクスリと小さく笑った。
「俺だって千冬姉にはまだ負けるかもしれないけど、これでも腕っ節は翔太郎さんとほぼ互角なんだぜ?照井さんのお陰で。」
彼らに会ってから、一夏は格段に良い体格になって行き、着衣の下からでもその筋肉の張り具合が見て取れる様になった。それに加え、格闘技で何度か表彰台に登った経験がある竜の扱きで一夏は更に力を付けて行った。更にブランクのあった剣道も我流の剣術に昇華している。
「銃の方は流石に無理だったけど、余程の事が無い限りそう簡単には負けないよ?」
「だろうな。今のお前は、私よりも強いだろう。ここも、ここも。」
そう言って、千冬は自分の胸と頭を指差した。
「まだ時間あるんだから、寝たいんだったら寝ていいよ?俺屋上で風に当たって来るから。朝飯は冷蔵庫の残り物をレンジでチンする事。間違っても料理しようとしないでくれ。」」
ドライバー、エターナルエッジ、メビュームマグナム、そしてメモリをトランクに詰めて屋上に出た。まだ少し冷たい空気を胸一杯に吸い込んで活を入れると、様々なポーズを取り始める。
(翔太郎さん達はあんまり気にするなって言うけど、仮面ライダーって言ったら変身ポーズでしょ?あれが無いと何と言うか、しっくり来ない。)
と言う事でかなりの間試行錯誤して来たのだが、遂に使える物が見えて来た。一通りやって満足すると、再び寮長室に取って返す。
食堂にて一夏は朝から視線と言う視線をこれでもかと言う位浴びせられていた。やはり先日のマジックが予想以上のインパクトがあったのだろうか。不思議と悪い気はしなかった。
「人気者だな、一夏。」
「勘弁してくれ。まあ、女子と話すのは楽しいけど、流石に何時もって訳には行かない。こっちも疲れるんだ。男一人だけなんだぞ?俺の身にもなってみろ。」
「それはそうと・・・・お前は朝からその量を本気で食べるつもりなのか?」
「俺の体は結構燃費が悪くてな。高カロリーの物を摂取してないと一遍に腹が減る。」
一夏は朝食セットAを二つ、Bも二つ、そしてCを一つ、合計五つの盆でテーブル一つを占領していた。これもまた視線を集めている原因の一つである。 両手を合わせると、早速食べ始めた。 一セット、また一セットと食べ終わった食器を重ねて行く。
「お、織斑君、隣良いかな?」
「どうぞ。食器あるから気を付けて。」
「凄い量・・・・お、男の子だね・・・」
唖然として積まれて行く食器の山を見るクラスメイトを他所に清々しい程のペースで平らげて行く。
「てか、女子そんだけで良いの?実習の後とか、腹減るぞ?」
「あ、私達は、まあ平気かな?」
「お菓子一杯食べるし!」
「そっか。まあ、間食は程々にな。」
喋っていても一夏の食事のペースは落ちなかった。そして箒が食べ終わる頃には一夏も食べ終わっていた。
「・・・・・そんな体のどこにどれだけの圧縮率でその膨大な量の食料が入るのだ?見ていて胸焼けがしたぞ。」
「俺は消化が早いんだよ。胸焼けがしたなら、後で胃薬買ってやろうか?」
そう茶化しながら最後に大きなブラックのアイスコーヒーのグラスを一気に空けると、プロのウェイターの如く盆を全て返却口に持って行った。
(あーあ、実際エネルギーの消費量半端無いんだよなー、自制してはいるんだけど。変身して戦う時も更に減るし。)
口臭用にミントのガムを放り込んで噛み始めた。
「一夏、ところでお前の部屋はどこにあるのだ?ま、まさか他の女子と相部屋と言う事は・・・・」
「心配ご無用、俺の部屋は寮長室だ。何でも女子に(色んな意味で)襲われない様にする為の処置だとさ。」
「そ、そうか・・・・」
どこかほっとしている箒の様子を不思議そうに見ながら一夏は大股で教室を目指した。
「教室行くぞ、遅刻はゴメンだ。にしても、ここの設備かなり金かけてるよな?」
「ああ。今ではそれが当たり前だからな。」
「税金の無駄遣いとしか思えない。」
一夏は自分の席に深く腰掛け、足を組むと、目を閉じた。
(幸いここではドーパントは出現していない。EXEとのいたちごっこもピリオドを打った。翔太郎さん達も俺にそこまで用は無いと思うんだけど・・・・・でもなあ。)
そんな考えに耽っていると、ポンと千冬に出席簿で頭を叩かれた。
「織斑、授業開始早々から居眠りか。」
「すいません。考え事をしてました。」
「まあ、良い。授業を始める前に連絡事項がある。再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めたい。他にも生徒会の会議や委員会の出席などもする事となる。自薦・他薦は問わないが、一度決まれば一年間変更は無いからそのつもりで。誰かいないか?」
「はい!私は織斑君を推薦します!」
その第一声に便乗して次々に一夏を指示する声が増えて行く。
「ちょいちょいちょい、ストップストップ!俺はやめといた方が良いって。ISに乗ったのは入試が初めてだし、操縦も正直自信が無い。そんな奴をいきなり本番に放り出したら、相手もこっちも迷惑しか掛からないぞ?どうせなら、あそこにいる彼女なんかどう?専用機も持ってるし、経験も豊富だ。適材適所、彼女の方が向いているのは明らかだ。」
「あら、自分の立ち場を良くお分かりですわね。男がクラス代表など良い恥曝しですもの。」
「自薦他薦は問わないと言った筈だぞ、オルコット。文句があるのならばお前が立候補すれば良いだけの話だ。だが、」
セシリアを射抜かんばかりの鋭い眼光は、正に蛇を睨む蛙の様だった。一夏も部屋の温度が全体的に二、三度下がるのを感じた。殆どの生徒がその視線に晒されて息を飲む。
「今のお前の言葉は聞き捨てならん。男が恥曝しだと?馬鹿馬鹿しい。皆も、良く覚えておけ。女尊男卑は私が知る中でも歴史上最も愚かな風潮の一つだ。男がいなければお前達は勿論、私でさえこの世に存在する事は無い。女だけの世界では子孫は生まれん。その逆もまた然りだ。ISを使えるから女が偉いと言う間違った考えは今後一切捨てろ。ISが無ければお前達は只の無力なガキだと言う事を努々忘れるな。」
「ありがとう先生、俺が言いたかった事をそっくりそのまま代弁してくれた。今の君をトランプに例えるなら、これだね。スペードのクイーン。占いに於いての意味は、自己正当化、嫌みな女、等々だ。」
いつの間にか手に現れたカードを弾くと、それは狙い通りセシリアの席に落ちた。
「貴方・・・・私を馬鹿にしますの?!」
「君は今この場にいる全員の男性である家族構成員を馬鹿にした。自分の父親も。謝るなら今の内だよ?取り返しがつかなくなれば、君は家族所か国にすら迷惑をかける事になる。」
「お黙りなさい!大体、文化としても後進的な国に暮らさなくてはいけない事自体堪え難い苦痛で」
その時、風の唸る音と共に一夏のトランプが右頬を、千冬が持っていたシャーペンが左頬を掠めた。どちらも後ろの壁に深々と突き刺さっている。セシリアは恐怖で開いた口が塞がらないままだ。
「言葉に気をつけろ、小娘。代表候補ともあろう者が他の国を貶すとは言語道断だ。国際問題に発展すれば、お前が取るべき責任は計り知れないぞ。お前の身一つでは到底足りんだろうしな。」
千冬の形相は更に恐ろしい物になり、
「それに、その文化としても後進的な国はISを君の国にも恵んでいる。更に言えば、その発言は日本列島に住む全住民に喧嘩を売った事になる。織斑先生にも、だ。」
温厚だった一夏の目も、一変して冷たい物に豹変した。伊達眼鏡を外すと、その恐ろしさは更に跳ね上がる。二人の睨みで、教室の温度が一気に下がった。
「では、オルコットは自薦と言う事にする。他にいないか?いなければこの二人でもう一度票を取るが。」
そして再投票の結果、勝敗は圧倒的な差で一夏の勝ちだった。セシリアは終始恨めしそうに一夏をずっと睨んでいた。
そして放課後、一夏はセシリアに呼び出されて屋上を訪れた。
「納得がいきませんわ!何故貴方が代表などに・・・・!」
「 負け惜しみを言う為にワザワザ俺を呼び出したのか?こっちだって、別にやりたくてやってる訳じゃないんだぞ。推薦された以上は腹を括るしか無い。」
「負け惜しみですって?!私は貴方に決闘を申し込みに来ましたのよ!」
決闘と聞いて一夏は思わず吹き出しそうになったが、なんとか堪え、笑いの発作が収まると、改めて口を開いた。
「悪いけど受ける気は無い。投票での勝負は充分フェアーだった筈だ。対抗戦に関しては素人だけど、素人なりの努力は見せるさ。武術なら覚えがあるし、今でもやっている。それなりの結果は出せる。」
「・・・・・逃げるんですの?」
一夏はその使い古された安い挑発を聞いて嘆息した。そもそも、今時決闘などと言う言葉すら聞かない。もう死語に指定されても良いんではなかろうかとすら思っている。
「逃げる勇気も時には必要なんだよ。俺だってプロ相手に勝てるとつけあがる程の馬鹿じゃ無い。人間を生かすのは、勇気、度胸、覚悟、希望、臆病、そして運。更に言えば、売られた喧嘩を一々買っていたらキリが無い。Goodbye。」
一夏はそのままセシリアに背を向けて寮長室に帰って行った。
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セシリアとの邂逅です。一夏が変身したエターナルですが、オリジナル要素が一部入ります(主にライダーの武器が)。変身時のメモリラインナップはT2なんですけど、どうやって手に入れさせようかな〜・・・?
後、一夏が事件に巻き込まれる(あるいは首を突っ込む)時、原作の様に二話完結に出来るかどうか定かではありませんので、それだけご了承下さい。