季節は冬、そして12月。
この日には一体どんなイベントがあるか、それはもう誰もが分かり切っている事だろう。
そう、クリスマスである。
大半の人達は、クリスマスパーティーで思い切って楽しむ事だろう。
もちろん、それはOTAKU旅団だって例外ではない―――
OTAKU旅団アジト
「お~い、そっちに置いてある飾りをこっちに寄越してくれ~!」
「こっちのイルミネーション、まだ少し時間がかかりそうだ!」
「おい、こっちは明らかに人手が足りてねぇぞ!」
「誰か暇な奴を連れて来れば良いだろ……ていうか絶対誰かサボッてるだろ、何だこの忙しさは!?」
「おいそこ、サボッてないで働けバカ野郎!!」
「おい誰だ!! 作った料理を勝手につまみ食いしやがったのは!!」
現在、ここでもクリスマスパーティーの準備が行われようとしていた。何人かは巨大なクリスマスツリーの飾り付けを、別の何人かはイルミネーションを担当し、また別の何人かはパーティー用の料理作りで忙しそうに動き回っていた。
「今年もまた、大変そうにしていますね」
「疲れないんですかねぇ、あんなに動き回って…」
スタッフ一同が忙しそうにしている中、デルタと竜神丸はコーヒーを飲みながら、目の前の光景をノンビリと眺めている所だった。
「しかし、今年も後少しで終わりですか……今思えば、色々な事がありましたね」
「まぁ、そのほとんどは旅団の仕事尽くしでしたけどね…」
「「…はぁ」」
二人揃って溜め息をついたその時。
「デルタん、りゅーちゃん!」
「「!」」
二人の下に、咲良がトテトテ走ってやって来た。その頭に、パーティー用の可愛らしい帽子を被った状態で。
「おや、咲良さん。こんにちは」
「私達に何か御用で?」
「うん。えっとね……はい、これ!」
「「?」」
咲良は二人にそれぞれ紙切れを渡す。
「…クリスマスパーティー、招待状?」
どうやら、招待状のようだ。紙切れに「クリスマスパーティー招待状」と大きい字で書かれており、クリスマスツリーや雪だるまの可愛らしい絵も描かれている。
「うんっとね……デルタんも、りゅーちゃんも、クリスマスパーティー楽しんでほしいの! みんないっしょなら、もっと楽しくなるだろうなぁって思ったから!」
「皆一緒……では、他の皆さんにもこれを?」
「うん、ほかのみんなにも配ってるの! デルタんとりゅーちゃんも、参加してくれるよね?」
「私達も、ですか。しかし私達には仕事が―――」
「分かりました。私達も参加しますよ」
「ホントに? やったー!」
「ちょ、竜神丸さん何を…!?」
「じゃあ、今日の夜まで楽しみに待っててねー!」
「えぇ、後でまた会いましょうね」
デルタの意見を全面的に無視し、竜神丸が勝手に了承。二人も参加する事が決まったからか、咲良は嬉しそうにスキップしながら他のメンバーを探しに向かって行ってしまった。
「…竜神丸さん、何勝手に決めてくれてんですかねぇ? 私にはまだ仕事があったんですが?」
「そうは言いますがデルタさん……あそこ、見てみなさい」
「え?」
竜神丸の指差した方向に、デルタが視線を向け……すぐに逸らした。
何故なら…
「フフフフフフフフフフフフフフフフフ…♪」
黒い笑みを浮かべつつ、物陰から二人の様子を見ているアキの姿があったのだから。
「…あの状況で参加を断ってみなさい。その先には最早、地獄以外に何も待っていませんから」
「OK、把握しました」
もし先程、咲良のお願いを断っていたらどうなっていたか。その先に待ち構えているのは、自分にとって最悪の未来のみ。
その事が容易に思い浮かんだのか、デルタは僅かに身震いする。
「とにかくです。今回はほとんどのメンバーが参加するみたいですし、あなたも諦めたらどうです?」
「はぁ、どうしてこうなるのやら…」
いつもの予定も狂わされ、デルタは何度目なのかも分からない溜め息をつく羽目になるのだった。
場所は変わり、海鳴市…
「クリスマスパーティー?」
「そうなんだ。姉貴とルイにも、俺の方から渡しておこうと思って」
タカナシ家の玄関にて。ルカは家族である姉と妹にもクリスマスパーティーの招待状を渡しに来ているところだった。ちなみにタカナシ家の家族構成は長男、次男(ロキ)、長女、三男(ルカ)、次女の5兄妹である。現在ルカが話しているのは、その長女に当たる“ユウナ・タカナシ”である。
「まぁ、渡すのは良いんだけど……キリヤ兄さんはいないの?」
「兄貴は…………うん。ミッドまで、彼女さんを招待しに行ってるよ…」
「…ふぅん、そうなの」
この時、『彼女』という単語を聞いたユウナの眉が一瞬だけピクッと反応したのを、ルカの目は見逃さなかった。
(姉貴、それなりにブラコンなのは変わってないっぽいね…)
「アキヤ、何か考えたかしら?」
「いえ、何も!!」
ユウナにジト目で見られ、ルカは思わずビシッと敬礼する。
「…まぁ良いわ。分かった、私とルイも参加する」
「OK、了解した……あれ、そういえばソラ兄さん達は何処に?」
「ソラ兄さんと咲さんは仕事が忙しいみたいだから、残念だけど今回は参加出来そうにないって。ルイは今―――」
その時だ。
「―――やっふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!!」
真上から、何者かの楽しそうな声が聞こえてきた。
そして…
「え……むぎゅあっ!!?」
「…ちょうど帰って来たみたい」
その何者かが着地する際、ルカが思い切りクッション代わりとして踏み付けられてしまった。
「ありがとうございます、ハルトさん。ここまで運んで貰っちゃって」
「なぁに、良いって事よルイちゃん。また何かあったら、いつでも俺を呼びな」
ルカを踏み付けた人物―――ハルトと呼ばれた男性は、背中におんぶしていた少女―――ルイ・タカナシを地面へと下ろしてあげた。
が、二人はここで違和感に気付く。
「ん? 足元に何か踏んでるような…」
「二人共、思いっきり踏んでるよ?」
「え……あ、アキヤ兄さん!?」
「へ? …あ、いけね。思いっきり踏んじまってらぁ」
「こ、腰が…!!」
ユウナの指摘で、ルカを踏んでしまっている事に気付いた二人はすぐにその場から離れた。しかし思い切り踏みつけられた所為か、ルカは腰に盛大なダメージを受けてしまったようだ。
「いやぁ~悪い悪い。まさかルカまで来てるとは思わなくってさぁ、メンゴ♪」
「痛タタタ……せめて着地する前に下を見て下さいよ、ハルトさん」
ルカが睨み付けるが、ハルトは特に悪びれもしない様子でハッハッハと高笑いしている。それでルカもいちいち激怒しない辺り、彼の性格は既に把握し切っているのだろう。
「あぁ~まだ痛い……それで、ハルトさんは何でここに?」
「あぁ、少し前からここで滞在させて貰ってたんだ。お前とロキ、兄弟揃って旅団の方まで向かって行っちまったと聞いてな。家事を手伝う代わりに、ここにしばらく泊めさせて貰ってた」
「あ、そうだったんですか……すいません。留守にしてる間、ありがとうございます」
「はっは、どういたしましてだ。ところで質問で返すようで悪いが、お前は何でここまで戻って来たんだ?」
「あぁ、それは…」
ルカは痛めた腰を押さえながらも立ち上がり、ルイとハルトに事情を説明する。するとルイは目をキラキラさせ、ハルトは面白そうにニヤリと笑みを浮かべた。
「クリスマスパーティーですか……面白そうです!」
「そりゃまた、旅団も良い企画を考えるじゃねぇか…!」
「あははは……一番最初に企画を立ち上げたのはディアラヴァーズですけどね。それに咲良ちゃんだけでなく他のメンバーも興味を持ち始めたもので、結果こういった状況に」
「良いじゃないの、それなら俺達だって参加してやらなきゃな!」
「そうですよ! そんな楽しそうなイベント、絶対に参加するべきです!!」
「(ルイの目がすごいキラキラしてる…)とにかく、これから
「まぁ待て待て、こういう時こそ俺の出番でしょ」
「へ?」
「えぇっと確かポケットに入れてた筈……お、あったあった!」
そう言って、ハルトは一つの指輪を取り出した。それを右手の中指にはめてから、黒い手形のようなバックルのついたベルトにかざす。
「んじゃ、行こっかね!」
「え、ちょ、まだ準備出来て―――」
≪テレポート・プリーズ≫
ルカの意見を聞く間も無く、ハルトは転移系魔法を発動。四人はその場からあっという間に転移してしまったのだった。
もちろん、家の玄関はちゃんと鍵をかけているので問題なしである。
そして場所は戻り、
「うぉぉぉぉぉぉい!! まだチキンは揚がってないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「もうじきだ!! だが、あまりに人手が足りない所為で、既に何人か過労で倒れてる!!」
「だぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 明らかに人手が足りなさ過ぎるだろこの状況はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
調理場にて、パーティー用の料理作りに追われている支配人とokaka、そして調理スタッフ一同。しかし今回はクリスマスであるが故にその忙しさは普段の倍以上であり、既に何名かの調理スタッフは倒れて医務室まで運ばれているとの事。このままでは、料理が揃う前に全員が倒れてしまう。
「くそ!! こうなったら、ザビーに変身してからクロックアップを使うしか…!!」
「おい待て支配人!! そんな事にまでいちいちライダーシステムを使うのかよ!?」
「そうでもしなきゃ明らかに夜まで間に合わんだろうがぁっ!! 今のこの状況、もはや一分も無駄に出来ない戦いだってのがお前は分からんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! こっちだって必死なんだよ!! これが深刻な戦いだってのはこっちも充分把握してんだよ!!」
「だったら躊躇なんぞしてんじゃねぇ!! 良いかお前等ぁっ!! 調理とは己との戦いでもある事、忘れんじゃねぇぞぉっ!!!」
「「「「「ハッ、すみませんでしたシェフッ!!」」」」」
「謝罪する前に手を動かせや手をぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
とうとう、支配人がマスクドライダーシステムまで使おうとし始める始末。
一同が調理で疲労し切っていたその時…
「うぉぉぉぉぉぉぉいテメェ等ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
何故か、ロキが猛スピードで調理場まで突っ込んで来た。しかも急ブレーキに失敗したのか、食器棚に思いっきり激突してしまっている。
「あぁ!? 何だ、こっち今忙しいんだ!!」
「喜べ!! 助っ人呼んできたぞ!!」
「「「「「へ?」」」」」
「すいません、お待たせしました!」
「一生懸命、頑張っちゃいま~す♪」
「私だって手伝ってやるわよ!!」
「やれやれ、こっちも飾り付けで忙しかったが仕方ない…!」
「ふん、俺の実力ならどうって事はない!!」
「「「「「助っ人、キターーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」」」
助っ人として駆け付けてくれた、リリィ、早苗、アスナ、Unknown、そして二百式(?)の五名。支配人達調理スタッフ一同は、突然の助っ人参戦によってテンションがMAXに到達する。
「よっしゃあ!! 残る料理も全部完成させるぞぉっ!!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
全員が元気を取り戻し、一同は再び調理に取り掛かる―――
「…って、ちょっと待てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぬぉうっ!?」
―――前に、ある事に気付いたokakaが思いっきり突っ込みチョップを炸裂させた。その突っ込んだ対象は他でもない、二百式(?)である。
「な、何だ!? いきなり何をする!!」
「待ちぃや、何かおかしいやろ!! 二百式が自分から調理を手伝うなんて有り得んやろうが!!」
「「「「「はっ!? そういえば確かに!?」」」」」
「うぉい!? 俺が手伝うのがそんなに悪いか!?」
「その前に二百式、いつの間に緑のメッシュなんか入れたんだ? さっきまでそんなのは入れてなかった気がするんだが」
「…メッシュ?」
ロキの発言を聞いて、支配人が気付いた。
よく見ると、二百式の見た目がいつもと若干違う。髪はオールバックで緑のメッシュ、着ているジャケットも緑。そして何よりも……鋭い爪の伸びた緑色の右腕が、彼の異常過ぎる雰囲気を分かりやすく表していた。
「「「「「…お前、さてはウヴァだなっ!!?」」」」」
「今気付いたのか!?」
事は、数分前まで遡る…
「みんな、出ておいで~!」
部屋の中央にて大量に集められた、銀色のメダル。その大量にあるメダルの前に立っていた咲良が色付きのメダルを複数同時に投げ入れると、大量のメダルが一斉に動き出し、それぞれが腕や足などの形に変化していく。
「んぁぁぁ~よくねたぁぁぁ…!」
「ふぅ、やれやれ……この姿になったのも、久しぶりな気がするよ」
「ん~! 腕だけの状態も、新鮮で良いわねぇ~」
「ふん、なかなかの気分だな」
「…チッ!」
砲台のような指のついた白い左腕。
チーターと似たような形状をした右足。
青いマントのついた女性らしい左腕。
鋭い爪の生えた緑色の右腕。
鳥らしい羽の生えた赤い右腕。
ガメル、カザリ、メズール、ウヴァ、そしてアンク。
メダルから誕生した怪人“グリード”がここに復活したのである。
「みんな、お願いがあるんだけど……聞いてくれる?」
「お願い~? うん、ガメル聞いてあげる~」
「咲良ちゃんのお願いなら、いつでも聞いてあげるわよ。ねぇ、あなた達?」
「うん、良いよ。断る理由も無いしね」
「俺も構わんぞ、咲良!」
「…ま、聞くだけ聞いてやる」
咲良のお願い事に関しては、グリード達も素直に聞いてくれるようだ。約一名だけ、返事が若干捻くれてはいるが。
「えぇっと、今日はね…」
その後、咲良が何とかグリード達に事情を説明。クリスマスパーティーの仕事を手伝って欲しいと頼むのだった。
「わかった~、おやすいごよう~」
「それぐらいなら私達も手伝うわよ。色々楽しそうだもの」
「でも、一つだけ問題があるんだよねぇ……僕達、今はこんな状態だし」
カザリの言う通り、問題が一つ。
彼等グリードは、本来なら人型に実体化する事が可能。しかし彼等の存在を保つのに必要な色付きのメダル―――“コアメダル”が足りない場合、彼等は完全な形では復活出来ず、身体の一部分しか実体化出来ないという欠点があるのだ。
「…ハルトの奴だ。俺達のメダル、一枚ずつ持って行ってやがるんだからな」
「となると、また誰かに憑依する必要があるな…」
という訳で…
「俺に憑依したい? まぁ、少しだけなら良いけど…」
ガメルはBlazに…
「ん、俺は別に構わんぞ」
カザリはガルムに…
「仕方ないね。今回だけ特別だよ?」
メズールはこなたに…
「あぁ、うちのバカ弟なら後で使ってくれても構わんぞ」
(((まぁ何て黒い笑顔)))
アンクは料理を食べる時だけ、ルカの身体を使う事が決定した。
さて残るはウヴァのみだったのだが…
「あ、しきくんだ!」
「む?」
咲良とウヴァ(右腕)が一緒に行動していたところで、ちょうど二百式と出くわした。
「咲良ちゃんか。どうしたんだ?」
「はいこれ、しきくんの分!」
「…招待状?」
「しきくんもいっしょに、クリスマス楽しもう?」
咲良はものすごくキラキラした目を向けつつ、二百式にも頼み込んだ。
が、しかし…
「悪いが、俺は遠慮しておく」
「え…?」
なんと、二百式は咲良のお願いを断ってしまったのだ。
「咲良ちゃんには悪いけど、俺は読書でもして静かにしていたいんだ。あまり騒がしいのは好きじゃないからな」
それだけ言って、二百式はその場を去ろうとした。
だが、それで諦め切れる咲良でもなく…
「パーティー、嫌なの…?」
「む…」
二百式の服の袖を掴み、咲良はウルウルした目を彼に向けた。これには流石に罪悪感が沸いた二百式だったが、それでも何とか彼女の手を離そうとする。
その時…
「…ッ!!?」
突如、二百式の背筋に大きな寒気が走った。何かと思い、二百式が後ろを振り向くと…
「あ~らあ~ら♪ 何で咲良ちゃんを涙目にさせているのかしら、あなたは…?」
棘の鞭を構えつつ、ドス黒いオーラを放っているアキが立ち塞がっていた。
「…つまり、アキちゃんの制裁を受けた二百式の身体を、ウヴァがひとまず借りる事になったと?」
「あ、あぁ……そういう事になる」
「「「「「まぁ何て命知らずな」」」」」
支配人、okaka、ロキ、調理スタッフ一同の声がシンクロする。
咲良はディアーリーズやディアラヴァーズだけでなく、このOTAKU旅団に所属する同志達にとっても癒しと言える存在。そんな可愛らしい少女の頼み事を断るなど、もはや命知らずな行為でしかないのだ。あのクライシスでさえも、咲良の頼み事を断ったりはしないというのに。
「…まぁ、二百式のは自業自得として。支配人達は早く料理を作った方が良いんじゃないのか?」
「「「「「ハッ、そうだった!?」」」」」
「よし、今回は俺も手伝うぞ!!」
「せっかくだ、俺も協力するぜ」
二百式(緑)、ロキも調理を手伝う事になり、一同は今度こそ調理を再開するのだった。
「…はん、勝手にやってろ」
残っていたアンク(右腕)は、飾り付けをしているメンバー達の方に向かうのだった。
そして、時間帯は夜…
「「「「「メリィィィィィィ…クリスマァァァァァァァァァァァァスッ!!!」」」」」
大広間にて、ついにクリスマスパーティーは開始された。
部屋中がクリスマス風に飾り付けされ、テーブルにはたくさんの料理、そして広場の中央には巨大なクリスマスツリーが聳え立っていた。
「うっへぇ、よくもまぁここまでやったな」
「うん、ツリーの飾り付けが物凄い苦労したぜ…」
miriはワインを飲みながらクリスマスツリーを見上げ、ツリーの飾り付けを担当したFalSigは疲れ切った様子で椅子に座っている。しかし普段から遊び好きであるFalSigからすれば、こういった行事はなるべく手は抜きたくなかったのだろう。
「ガツガツガツガツガツガツガツガツ!!」
「うぉぉぉぉぉい!? お前一人で全部喰おうとしてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
ZEROの場合、やはり食事にしか興味は無かったようだ。物凄い勢いで料理を喰らい尽くしていき、支配人の投げつけるフライパンも左手で軽々と跳ね返している。
「ちょ、おまコラァッ!! 俺にもいくつか喰わせ―――」
「邪魔だ」
「ごふぁっ!?」
「あぁっと、kaitoが瞬殺されたぁーっ!! 全然頼りにならねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「…ロキ、君もヤケに楽しそうだねぇ」
「メズ~ル~。これ、あげる~!」
「あら。ありがとね、ガメル♪」
「ア~ン娘ちゃ~ん♪」
「だからこんな時までドレスは嫌だと言うにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
「い、いかん……突っ込み役が全然足りん…」
「…どんまい」
「んん、これもイケるな…」
「へぇ~…じゃあ、リリィさんも料理得意なんですか?」
「はい。最近だと、トッピングとかにも色々と拘りがあって…」
「羨ましいです……私も料理上手になりたいです…」
「大丈夫ですルイさん。また今度、私が料理の練習に付き合いますから…」
ZEROの食事を止めようとしたkaitoが返り討ちにされたり、何やらスポーツ試合の実況みたいに盛り上がっているロキもいたり、そんな彼をガルム(黄)が呆れた様子で見ていたり、Blaz(白)がこなた(青)にお菓子をあげていたり、Unknownが朱音に追いかけられていたり、突っ込み役が足りない所為で胃を痛めているawsを二百式(緑)が励ましていたり、ルカ(赤)が何本もの棒アイスを食べていたり、リリィとユウナが会話で普通に盛り上がっていたり、料理上手になりたいと嘆いているルイを早苗が励ましたりと、とてもクリスマスパーティーとは思えないような壮絶なカオスとなってしまっていた。
「…いつもの宴会と、ほとんど変わらないじゃないですか」
「まぁ、盛り上がっているのは良い事なんでしょうけども」
部屋の端に立っていたデルタと竜神丸は、目の前に広がっているカオスな情況に呆れざるを得なかった。
「ヤッホー、お二方!」
「む?」
二人の下に、ハルトがチキンを片手にやって来た。
「おやおや……随分とお久しぶりですね、ハルトさん」
「そっちこそ元気そうじゃないの、ドクター」
ハルトから『ドクター』と呼ばれ、竜神丸は溜め息を付きつつも互いに握手を交わす。
「…まさか、また顔を合わせる事になるとは思ってませんでしたよ」
「そりゃこっちの台詞だな。ていうか、まだウイルスの研究は続けてんの?」
「当たり前でしょう。この私が、そんな簡単にTウイルスに飽きるとでも思いますか」
「懲りないねぇドクターも……あ、そういえばさ。今日は俺、こんなの持って来ちゃったんだけど」
「持って来た? 何を……え、鼻メガネ?」
「いや何、どうせ今回も色々と盛り上がっちゃうだろうからさぁ。ここは一つ、ドクターが盛り上げてくれると嬉しいんだけどなぁ~」
「お断りします。何で私がそんなマネをしなきゃならないんですか」
「ありゃ、連れないねぇ。そこを何とかさぁ、頼むよドクター」
「嫌です。私ではなく他の人に頼んで下さ……ちょ、離しなさい。それは私のメガネです、離しなさい!!」
「ほ~ら遠慮しないでさ~、思い切ってやっちゃおうよ~?」
「やめなさい!! 誰がそんな……やめなさい!! YA・ME・RO!! HA・NA・SE!!」
「…そこの二人は放っておきましょう、はい」
竜神丸とハルトの漫才を放置する事に決めたデルタは、一人静かにワインを飲むのだった。
「メリークリスマースッ!」
「ははは、可愛いよ咲良」
「あら、ウルだってドレス着ちゃえば良いのに」
「そこ、小声で文句言っても無駄だからね?」
「「「チッ」」」
「盛大に舌打ちされた!?」
ディアーリーズや咲良達も、それぞれがタキシードや綺麗なドレスを着て楽しそうに盛り上がっていた。最も、ディアーリーズがドレスを着ないと言った途端にアキ、アスナ、こなた(青)の三人から盛大に舌打ちされたが。
「はん、何やってんだかアイツ等は…」
ルカ(赤)はそんな彼等の事を気にする事も無く、行儀悪くテーブルに座りながらアイスケーキをひたすら食していた。恐らく、翌日にはルカ本人がかなりの腹痛で苦しんでいる事だろう。
「…さて」
しかしそんな中、ルカ(赤)は既に気付いていた……青いドレスを着ている美空が、何処か落ち着きの無い様子でその場に立ち尽くしていた事に。
「おい」
「ッ!?」
ルカ(赤)に呼び掛けられ、美空はビクッとしつつも彼の方に振り向く。
「あ、えっと…」
「お前、さっき妙に落ち着きが無いが。何やってんだ?」
「…分から、ないんです」
「あ?」
「その……クリスマスの事……私、よく知らなくて……どう、楽しんだら……良い、のか…」
そう。実は彼女、クリスマスの文化については何も知らないのだ。というのも、元々彼女はクリスマスの文化が存在しない次元世界で生まれ育っていた為、クリスマスの事をよく知らなくても無理は無いだろう。
「…なるほどな」
ルカ(赤)はアイスケーキの欠片を一口食し、テーブルから降りて床に立つ。
「おいウルッ!!」
「アンク? 急にどうし…」
「ちょっと来い」
「な、ちょ…アンクッ!?」
「良いから来い!!」
「痛い痛い痛い!? いきなり何を……あだっ!?」
ルカ(赤)に首元を掴まれたディアーリーズはそのまま引っ張られ、美空の下まで来た後は彼によって背中を思い切り蹴られ、美空の前まで立たされた。
「「…あ」」
ディアーリーズが体勢を立て直した時、ちょうど美空との目線が合った。
「美空さん…」
「あぅ……あ、あの…」
美空は何か言おうとするが、言葉が詰まって上手く話せない。
-スッ-
「…あ」
そんな彼女に対し、ディアーリーズが優しく手を差し伸べる。
「…一緒に、クリスマスを楽しみましょう。美空さん」
「…はい」
最初は戸惑っていたものの、美空はディアーリーズの差し伸べた手をゆっくりと掴んで見せた。
「全く……あなたも器用じゃないわね、アンク」
「…フン」
そんな二人の様子を、こなた(青)とルカ(赤)はしっかり見届けているのだった。
その後も、皆の前でルイが綺麗な歌声を披露したり、ガルム(黄)やFalSig達がブレイクダンスを繰り広げて盛り上げたりと、皆でクリスマスパーティーを楽しみ続ける。
こうして残り少ない年を、一同は楽しく過ごしていくのだった…
しかし、そんな平和な形で終わる程、OTAKU旅団のクリスマスは甘くはなかった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉい!! だから喰い過ぎなんだよテメェはよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「はん、良いぜ。たらふく喰ったんだ、今度は食後の運動でもしようじゃねぇかぁっ!!!」
暴食っぷりを発揮するZEROと、ついにブチ切れてしまった支配人が乱闘を開始してしまったり…
「えへへへ……キリヤさぁ~ん…♪」
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉっ!? 誰だリリィに酒を飲ませた馬鹿は……ちょ、リリィ!? 待って、お気を確かにっ!? おい、やめ…アァァァァァァァァッ!!?」
「「う~ん、むにゃむにゃ…」」
誤って酒を飲んだ所為で酔っ払ってしまったリリィにロキが絡まれ続けている中、ユウナとルイは既に熟睡してしまっていたり…
「フフフフフフ…早苗ぇ~…♪」
「エヘヘヘヘヘ…裕也さぁ~ん…♪」
「…はぁ、やれやれ」
ガルムと早苗がイチャラブしている光景を、カザリ(右足)が呆れた様子で見ていたり…
「「一気飲みだぜヒャッハァァァァァァァァァッ!!!」」
「一気、一気、一気、一気!!」
「いいぞ~、ふたりとも~がんばれ~」
「ウ、ウグ……気持ち悪い…うっぷ…」
酔っ払ったmiriとokakaが一気飲み勝負を開始してしまい、FalSigとBlaz(白)がそんな二人を楽しそうに応援する中で二百式(緑)が酒の飲み過ぎで見事に酔い潰れていたり…
「結局、私はクリスマスでもこうなのか……フフ、フフフ、フフフフフフフフフ…」
「ア~ン娘ちゃ~ん…♪」
朱音に捕まったUnknownが、結局ドレスを着せられて涙目になっていたり…
「は~い、お嬢さん? 俺と一緒に、楽しい夜を過ごさ…グヘッ!?」
「やめんかアホッ!!」
女性スタッフにナンパしようとする蒼崎の頭に、awsの踵落としが炸裂したり…
「あらぁ~可愛い子ねぇ?」
「坊や、私達と一緒に……あつ~い夜を、過ごさな~い?」
「いや、あの、すいません、遠慮しま……アーッ!?」
いつの間にか、kaitoがオネェ集団に取り囲まれていたり…
「だから、いい加減これかけてやりなってドクター…!!」
「絶対に嫌です…!! だから離しなさい、ていうか離せ、HA・NA・SE!! YA・ME・RO!!」
ハルトと竜神丸が、未だに鼻メガネを懸けて掴み合い勝負を続けていたり…
「う~ん、むにゃむにゃ……もう食べられないや…」
「「「大変、酒を飲んじゃったっぽい」」」
ディアーリーズまでもが間違えて酒を飲んでしまい、酔っ払った状態になってしまっていた(ちなみにこの時点で咲良は就寝中であり、アンクとメズールが腕だけの状態で一緒に寝てあげている)。
「ありゃりゃ、せっかくメズールが離れてくれたのにこうなっちゃうとは…」
「あの……ウル、さん…大丈夫、です、か…?」
美空が心配そうに、大の字で寝転がっているディアーリーズを揺さぶっていたその時………………ついに、事故は起こった。
「う~ん……みしょらしゃ~ん…」
「え、あ…!?」
酔っ払っているディアーリーズが、自身を揺さぶっていた美空の腕を掴んで自分の方へと引き寄せ…
-CHU☆-
「…ッ!?」
ディアーリーズの唇と美空の唇が、ぴったり合わさってしまった。つまり、美空のファーストキッスを一瞬で奪ってしまったのだ。
「「「…エ?」」」
それを見たディアラヴァーズが唖然とする中、美空は突然の事態に顔が真っ赤になっていく。
「…はぁうっ!?」
そしてとうとうオーバーヒートを起こした美空は頭から煙を吹き、ノックアウトされてしまった。
「…ウ~ル~? な~にをやっているのかしら~?」
テンションが一気に下がっていったアキは再びドス黒いオーラを放ちつつ、棘の鞭を持ってディアーリーズに接近していく。
しかし、事態はまだ終わってはいなかった。
「えへへへ……ア~キ~…」
「え…?」
ディアーリーズが突然、ムクッと起き上がり…
-CHU☆-
「「んなぁっ!?」」
「ッ!? ッ!? ッ!?」
なんと、アキにまでキスをしてしまったのだ。それも普通のキスではない。
「ン、チュ、レロ…」
「!? ウ、ル……ンァ、ン……クチュ…」
予想外な事に、そのキスはより深い方だった。あまりのテクニックにアキは顔を赤くしたまま、少しずつ骨抜きにされていく。
「ん、ぷはぁ…」
「ンァ……ハァ、ン…♪」
そしてディアーリーズが離れ、散々蹂躙されたアキは恍惚な笑みを浮かべたままその場にパタリと倒れてしまった。
「ね、ねぇ…」
「うん……これはヤバいね」
ディアーリーズの異変を察知したこなたとアスナが、その場からコッソリ逃げようとしたが…
「…あ♪」
「「ヒィッ!?」」
そんな二人に、ディアーリーズが気付いてしまった。
「えへへへへへ……こ~なた~…ア~スナ~…♪」
「「ヒッ……ヒャァァァァァァァァァァァァァッ!!?」」
その後、こなたとアスナも同じ目に遭ったのは言うまでもないだろう。
「結局、いつもの状態に戻っちゃいましたか…」
パーティーを抜け出して来たデルタは椅子に座り、一人静かにワインを飲み続けていた。
「はぁ……今日は色々な意味で疲れましたね。全く」
「随分と盛り上がっていたそうだな、デルタ」
「…クライシス」
デルタの下に、クライシスが姿を現した。こんなクリスマスの時期であっても、彼の黒いコートにシルクハットは相変わらず顕在のようだ。
「盛り上がったも何も、結局いつもの宴会と変わりないでしょうね。何の為にツリーを飾ったのやら」
「ははは……まぁ、普段の息抜きとしてはちょうど良いだろう?」
「…まぁ確かに、息抜きにはちょうど良いでしょうよ」
デルタの隣にクライシスが座る。
その時…
「…む?」
デルタは手の甲に冷たさを感じ取った。
「! これは…」
「…雪か」
ちょうど、雪も降り始めたようだ。月夜に照らされる中、綺麗な雪が静かに舞い落ちていく。
「全く、今年はもう雪は降らないだろうと思っていたんですがねぇ…」
「だが、雪の降る中で飲むのも悪くはない……だろう?」
「…確かに」
二人はグラスに注がれたワインを手に取る。
「…来年もまた、こうして飲もうではないか」
「…来年も、生きていたらの話ですがね」
二人は小さく笑ってから、互いのグラスを当てて乾杯したのだった。
「…あ、そういえばクライシス。げんぶさんを見ませんでしたか? 今日一日、何処にも姿が見当たりませんでしたが」
「あぁ、彼には休暇を与えてやったよ。この日くらい、休みをあげても罰は当たるまい」
海鳴市、とある民家…
「さて、やっと着いたか…」
今ここに、げんぶが到着していた。彼はとある事情から
「…よし、準備完了」
彼は今、サンタクロースの格好をしていた。白くて立派な付けヒゲを上手く装着した後、彼は家の窓をこっそり覗き込む。
(…やっぱり、
げんぶは自身の娘―――
(プレゼントは……うん、ここに置いておくか)
プレゼントをベッドの傍に置いた後、げんぶは蓮の頭を優しく撫でてから静かに部屋を出る。
(娘へのプレゼントは、これでよし。今度は…)
げんぶはまた別の部屋へと静かに入って行ったが……部屋のベッドには、本来いる筈の人物が何処にもいなかった。
(? 何処に―――)
「遅かったじゃないか、耕也」
「…!」
突然、後ろから一人の女性が抱きついて来た。本当に突然だった為にげんぶは危うく倒れかけるが、どうにか踏み止まる。
「私をこんなに待たせるなんて……夫として、それは失格なんじゃないか?」
「…せっかくこんな姿をしてるんだ、その辺は察してくれても良いだろう? 白蓮」
げんぶは溜め息をついてから、自身に抱きついて来た愛する妻―――
「仕方が無いだろう? お前と会えるこの日を楽しみに待っていたんだ。私とて、何時までも耐えられるほど我慢強い訳じゃない」
「はぁ……本当に変わりないな、お前という奴は」
「それは、お前も同じだろう…?」
白蓮がげんぶの帽子と付けヒゲを取り、二人は一緒にベッドに倒れ込む。
「おいおい、いきなり過ぎないか」
「何を言う。お前こそ、これを待ち望んでいたんじゃないのか?」
「…蓮が起きないように頼む」
「ふふふ…♪」
げんぶの上に白蓮が跨る形となってから、白蓮は身に着けている寝巻きを脱ぎ捨て、その綺麗な素肌を晒していく。
「耕也…」
「…あぁ」
「「メリークリスマス」」
互いの唇を押し付けるのを合図に、二人はとことん愛し合うのだった。
まだしばらく、雪は降り止みそうにない。
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聖夜:壮絶なるクリスマス